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あなただけじゃないーーOnly You
しおりを挟む人と会えないなんてディストピアみたいな世界だ。
お祭りモードで華々しさを演出するテレビの中のオリンピックとは対照的に、現実世界では人と会うことさえも難しい。そしてこの世で一番難しいことの一つとなりつつある恋について。世間一般でも難しいのにも関わらず、求職中で定職についていないわたしはもうかなり絶望的な状況だ。恋愛さえもままならぬ。
誰かにぽっかり空いてしまった穴を埋めてもらおうとすれば、相手に迷惑がかかる。わがままなんてできない。なら、物語に自分のわがままさを埋めてもらおう。
そんな時は思いっきりわがままな曲を聞こう。わたしは三浦大知の『Only You』を再生する。アルバムの『D.M.』の中の一曲だ。
ドラムの重厚感のある音と光の粒を持ったようなシンセサイザーの音が耳から流れ込む。目の前にこの曲の世界が構築されていく。すると星も見えない夜に雪がふわふわと降ってきて、肺が痛くなるほど空気が張り詰めてきてくる。
この曲のメロディはとても美しい。音だけで真夏の今からスノードームのような凍てつく真空世界へ引き込まれる。そこに三浦大知の繊細ながらも伸びやかな歌声が曲を包み込んでいく。
けれど、この音とは異なり、この歌詞は「きれい」というわけじゃない。
寒い雪の夜。主人公に電話がかかる。ふるえた声が携帯から聞こえる。まだ痛い傷は消えていないのだけれど、“傷つくことを恐れたら二度と会えない“から彼女を迎えに行く。この時点で彼と彼女の関係は謎だが、サビの部分で様相が一変する。
♪気付けば僕は君の目の前に立っていて
凍える体を抱き寄せていた
例え誰か違う
温もりと重ねられても構わない
彼女には本命がいて、主人公は確実にキープされているのだ。前に傷つけたことがあった上で主人公と会っているのなら、きっとその彼女は確実に主人公が自分に惚れていることを知っている。知らないふりして。
主人公もまた自分ではない誰かを求めている彼女を知らないふりして二人はキスする。
主人公にとっては過去も未来もただ真っ白で、この瞬間だけが色づいているように感じている。そして、
♪あの日の苦しみが流れ星みたいに願い事を叶えて消えていく
彼女にとってはただ寒い日に、本命と会えずに寂しくて埋め合わせで主人公に合っているのだろう。
しかし主人公の気持ちはどうだろうか。目の前が色づくほど、全てを流してしまうほど、浮き足立っている。最後には春の予感を感じてこの歌は終わる。
Only Youーーあなただけ、タイトルは痛々しいほど誠実なのに、その彼女はあなただけではないのだ。
すっごいわがままだ。人間味溢れる歌詞。三浦大知の美しい歌声と生々しい人間模様が見え隠れする歌詞が混じって、何度もその世界を覗きたくなる。
今回の物語:三浦大知『Only You』作詞:CHIHARU 作曲:Daichi Miura
https://www.uta-net.com/song/122688/
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