【R18完結】おとなになれない私-I can't be an adult.-

石塚環

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最後まで……?

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寝室は、むせぶような官能の空気に支配されている。火照るほどの熱気とめまいがするほどの甘さがあった。
これが抱き合うことなんだ。
相手の動きに応えてあげられない。加賀谷さんにしたいことはいろいろあったのに、彼がしてくれることを受け入れるだけで精いっぱいだ。
指先で感触を確かめるように、腰を撫でられた。触られる度に私は身を捩った。すっかり感じやすくなっている。
加賀谷さんの手が下腹部へと降りていく。
「ん、ん……あ、あ」
「晴之は濡れやすいんだな。軽く扱くだけで蕩けてくる」
「言わないで、ん、ん――」
皺の寄ったシーツに指を絡ませた。欲望の中心に熱がたまっていく。
「いや、あ、ああ」
震え立つ昂ぶりの根元にあるふたつの膨らみを、指で揉まれた。
じゅく、じゅく、と粘る蜜が先端からあふれた。
零れた先走りが欲望を伝い、股を濡らしていく。
「感じまくっているな。おまえのを触っているだけで俺もいきそうだよ」
「……見ないでください」
顔を覗き込まれた。腕で自分の顔を隠そうとしたら、手首を掴まれた。抵抗したけど、弄られて、追い詰められていく。
「かわいいな。腰振っておねだりしている」
「違います、お願いだから……ん」
痺れるような射精感を堪えたくて、彼から逃れたかった。
荒い息遣いが聞こえる。自分のものか加賀谷さんのものかわからない。
「いけよ。最高にエロい顔をしろ」
「いや、あ……加賀谷さん、ん、うっ――」
身震いして達した。私が白い蜜を零しても、加賀谷さんは手を離さなかった。
「全部、出せよ」
「ああ、あ……あ」
搾り出すように扱かれ、声が漏れた。
幾度か躯を跳ね、迸る精液を吐き出した。
長い射精だった。秘めていた淫らな心が、全て暴かれた。
「たっぷり出しやがって。晴之は本当にいやらしいな」
精液を塗り込めるように、下腹部を撫でられた。
薄い下生えと精を放ったばかりの私自身が、明かりに照らされ鈍く光った。
首を振った。息をするのがやっとだった。声が出せない。
唇を舐めながら、加賀谷さんは私を見下ろした。
「俺が怖いか、晴之」
頬を撫でられ、自分が泣いていたことに気づいた。
「やめてくださいって顔している」
何度も頷いた。
もう、こんな加賀谷さんは見たくない。キスをするだけで頬を赤くするやさしい加賀谷さんに戻ってほしい。
「やめないよ。もっと泣かせてやる」
いや、と声を出そうとした。できなかった。
どうしてうれしそうな顔をしているんだろう。
腰を擦っていた手が、再び私自身を触った。
また、弄られる。抗ったが、彼の手に阻まれ動けなかった。
しかし、指は中心を軽く撫でたあと、更に下へと降りていった。片方の膝を胸に押しつけられた。
「ん、何するんですか。加賀谷さん、加賀谷さん!」
加賀谷さんは何も答えてくれなかった。
腰が浮き上がり、彼に差し出すような形になった。
深くて暗い奥、自分でも見たことのないところを、彼の目の前に晒している。
窄まりに熱い吐息がかかる。躯が震えた。
「ここも薄桃色だな」
「触らないで……痛い、ん、ん――」
くちゅ、と音を立て細いものが奥を入っていった。数を増やされて指だと気づいた。
「あ、抜いて、お願い……あ」
硬い指先が私を蹂躙する。
胃がせり上がるような苦しさが起こった。
声が出せなくなっていく。涙で、天井が滲んで見えた。
暴れる私を加賀谷さんは上から押さえつけた。
「晴之。すぐによくしてやるから」
吐き出した粘りを絡ませた指は、深く、深く沈んでいく。狭い奥の道を押し広げ、私の中を征服しようとする。
内側の皮膚は私の意に反して、彼の指にまとわりついた。
乱暴な彼の動きを喜んでいるみたいだった。
声が聞こえた。
加賀谷さんが笑っている。
「ああ、なんでだろう。すごい興奮してきた」
心の底から楽しんでいる声だった。
自分の指先が冷たくなっていくのがわかる。呼吸が徐々に荒くなってきた。
締まる私の中を、加賀谷さんは更に拡張しようとしている。
抱かれる。抱くのではない。
私が抱かれる。
躯の上にいる彼を見上げた。笑みを浮かべながら、私の体内に指を埋めている。
「あ……いや……」
自分の声が途切れがちになっていく。
目の前が暗くなった。息が喉を通っていく音がする。
「晴之。苦しいのか、晴之――」
遠くで、声が聞こえた。

―――

空の中を漂っているような感覚だった。
加賀谷さんに抱きしめられている。私たちの躯は白く光っていた。天井もベッドも輝いていて眩しかった。
私たちはいっしょになれたのか。きっとそうだ。もう終わったんだ。
躯をつなげるのは簡単なことだった。わからないことばかりだったけど、今は重苦しいものが消え去った感じがする。
加賀谷さんは笑っていなかった。
悲しそうな顔で私を呼んでいる。そんな顔しないでくれ。
互いに望んで思いを遂げるのだから、悔やまないでほしい。
加賀谷さんだって言っていたじゃないか。
初めてはそんなにいいものじゃないって。

「晴之、晴之……」
「ん、ん……」
目を開けると、加賀谷さんの顔が間近にあった。私が見上げると笑った。
「よかった、息できるか」
深呼吸して頷くと、加賀谷さんが起こしてくれた。
ふたりともベッドにいて、裸だった。さっきまで私は毛布をかけられていたようだ。
「晴之は気を失ったんだよ。だめかと思って救急車を呼ぶところだった」
すみません、と言ったあと、気絶する直前のことを思い出した。
加賀谷さんと抱き合っていた。いろんなところを触られて、何度も彼の名を呼んでいた。
結局、どこまでしたんだろう。
「あの……終わったんですか」
「何が」
「私たちは最後までしたんですか」
しばし黙って、加賀谷さんは私の目を見ていた。
「いや、途中までだよ」
息を吐いた。力が抜けていく。
「ああ、途中までですか……あんなにしたのに」
思わず自分の肌を撫でた。ところどころに赤い痣のようなものができている。内腿は粘りのある液体で濡れている。
未遂とはいえ、愛された証ははっきりと私の躯に刻み込まれていた。
「……すごかった、終わらないのかと思った」
おとなしい加賀谷さんが、別人に見えた。ずっと笑っていたけれど、穏やかな笑みではなかった。
心の奥が見えない笑みだった。
眉を寄せて加賀谷さんは私の顔を覗き込んでいる。見つめ返しているだけで躯が火照ってきた。
いや、と叫んでいた自分の声が頭の中に響いてくる。甘ったるい声ばかり上げていた。
抱かれるのが、こんなに恥ずかしいものだと思わなかった。知らずにいた快楽のつぼを、彼に刺激された。
加賀谷さんは背中をさすってくれた。撫でられたところが熱くなってくる。
「覚えているか。おまえ、泣いちゃったんだよ」
「そんな恥ずかしいことをしたんですか。すみません」
加賀谷さんは真剣なまなざしだった。
「晴之は、俺を抱きたいと思っていたんじゃないのか」
「……はい」
頬にキスされた。くちづけはやさしくて、さっきまでの荒々しい彼の名残はなかった。
「ごめんな。気づかなくて乱暴するところだった……恋人なのに」
「そんなこと言わないでください。私も同意していました。無理矢理ではないです」
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