【R18完結】おとなになれない私-I can't be an adult.-

石塚環

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男の色気

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加賀谷さんは私の目を見て返事を待ってくれた。
「……怖いというより不安です。頭の中で何度も予行演習してきました。でも、わからないことだらけなんです。想像以下の最低の体験になったら、立ち直れないかもしれない」
「そんなに構えるな。相手は俺なんだぞ。いやな思いはさせない。絶対させないからな」
ついばむようなキスを何度もしてくれた。緊張が和らいでくる。
「俺が責任とるから。おまえの初めてを俺にくれ」
責任という言葉が胸に広がり全身に染み渡った。
加賀谷さんは、キスどころか手をつなぐのだって人前ではしようとしない。でも、私がどうしてもしたいとおねだりすると、必ず応えてくれる。
固いところだけではない、やわらかさもある人だ。けじめはつけるけど、惜しみなく愛情を与えてくれる。
甘い雰囲気に流されそうな今だって、私のことを思ってくれる。
いざことに及ぼうというときになって戸惑っている自分は、情けないくらい幼い。そんな私を、加賀谷さんは呆れたりからかったりなんて決してしない。それどころか、私が心を決めるまで待ってくれる。
飛び込もう。彼なら受け止めてくれる。
私を、大人の世界に連れて行ってくれる。
「私の初めてをもらってください」
「俺が男にしてやるよ」
いつもと違う、少し掠れた甘い声だった。
とうとう、彼と躯をつなげることができる。
想像での出来事が今夜、現実になる。
加賀谷さんを見つめ返していると躯の奥底に温もりが沸き起こった。私は火照りをやり過ごそうと息を吐いた。
これから、私たちは極上の関係を築くんだ。夏の太陽よりも、冬の暖炉よりも、燃え盛る夜が待っている。こんな微熱はかわいいものだ。今ときめいていたら、躯が持たない。
「晴之、鼻息が荒いぞ」
「なんか、いろいろ考えたら気合が入ってきました。加賀谷さん、全力でがんばります」
「ちょっと落ち着こうか。ほら、深呼吸して。無理な力が入ったら怪我しちゃうから。吸って、吐いて――」
息を整えながら、私は加賀谷さんに尋ねた。
「抱き合うだけなのに、怪我することってあるんですか」
「ああ、血が出たり、痛くて泣いたりするかもしれない。だから、俺としている間、晴之は深く息をするんだ。あとは流れに乗っていけば大丈夫だ」
「はい、息をすることだけは忘れません」
初めてのときって、力んでいたらあそこが出血するのか。男性も女性と変わらないんだな。先に教えてもらってよかった。傷ができたらしばらく生活しづらくなる。
加賀谷さんは私の両手を強く握り、頬を赤らめて言った。
「俺も男は初めてだから、多少、意思の疎通ができないかもしれない」
「私も努力します」
「最高の夜にしよう」
「はい」
「なるべく痛くないようにしてやる」
「はい……え、うわっ」
押し倒された。ベッドのスプリングが跳ね、息が詰まった。
「壊れたら危ないから、眼鏡は外そうな」
返事を待たずに加賀谷さんは私の眼鏡を取ってベッドサイドに置いた。視界がくっきりしないので心配になってきた。でも加賀谷さんは目の前にいるから表情はなんとなくわかる。
私は、加賀谷さんの大きな瞳に見とれていた。
気づけば、私たちの唇は重なっていた。
「ん、加賀谷さん……ん――」
敏感な口腔の粘膜を舌でくすぐられた。
加賀谷さんから深いくちづけをしてくるのは、久しぶりだった。上手くて翻弄される。
「……ん、晴之……」
加賀谷さんは私の髪を梳いてくれた。
頭を撫でる仕草はやさしいのに、舌の動きは情熱的だった。無意識に躯が跳ねた。
腰が疼いてくる。ベッドの上で悶える私を彼は押さえつけた。
加賀谷さんが顔を上げた。笑っているが、いつもの穏やかな顔ではなかった。
男の色気を漂わせる笑みだった。興奮で潤んだ目で私を見下ろしている。
上体を起こして、加賀谷さんはTシャツを脱いだ。
引き締まった筋肉に沿って、汗が輝いていた。
眺めるだけで、胸の奥が締めつけられてきた。加賀谷さんが風呂から上がったときに、上半身を見た。あのときはこんな気持ちは起こらなかった。
この躯が官能的なことをしていくのか。
どうやって抱き合うかは、私だって知っている。キスで始まって最後にはふたりがひとつになる。でも、キスから挿れるまでの間の動きはよくわからなかった。
「あの……加賀谷さん。こういうときって、どうするのか教えてください」
「それは言えないな」
「そんな、意地悪しないでください」
「これは意地悪じゃないよ。エッチなことは口で説明できないんだ。肌で覚えることなんだよ」
ジャージを脱ぎ下着は履いたまま、加賀谷さんは覆い被さってきた。
「それに、好きな人のまっさらな躯が汚れていくのは見ていて楽しい。だから、言葉では教えない」
「あ……あ」
不意に腰を撫でられ、私は声を上げた。くすぐったいのと似ているけど違う。加賀谷さんの手が動く度に躯の芯が痺れてくる。
「ほら、今はちょっと触るだけでびっくりしちゃうだろ。こういう初心な肉体がどんどんいやらしくなって、やがてセックスが好きでたまらなくなるんだ」
躯をつなげることって人の性格まで変えてしまうのか。
加賀谷さんと躯を重ねていくうちに、私はどんな男になってしまうのだろう。一日中、淫らなことを考える人間になるのかもしれない。
今でさえ妖しい想像が頭を離れないのに、これ以上、危なくなっても大丈夫なんだろうか。
「もし……するのがすごく好きになっても、加賀谷さんは私に付き合ってくれますか」
「もちろん。責任とってかわいがるよ」
「よかった」
でも、不安は完全には拭えなかった。
「あの、加賀谷さん。本当に私が変わっても、ずっといっしょにいてくれますか」
加賀谷さんは手を止めて、私を見下ろした。
「ずっと、いっしょにか?」
「加賀谷さんがいなくなったら、どうしようっていつも思っているんです。加賀谷さんに似ている人が、昔、突然いなくなったから……」
「晴之は、その人のことが大好きだったのか」
頷くと、背がきしむほど、強く抱きしめられた。
熱い唇で口を塞がれた。入ってきた舌に応えようとしたのに、唇はすぐに離れていった。加賀谷さんは私の頬を、両手で包むように抱えた。
泣いてしまうんじゃないかと思うくらい、加賀谷さんの瞳は潤んでいた。
「ごめんな、晴之。そういう約束は、できないよ」
「どうして……いつかは別れるからですか」
「えっと、なんて言えばいいかな」
加賀谷さんは私の横に寝そべった。背が高い私と顔が同じ位置になるように、枕元までずり上がった。
「晴之は、俺がいなくなったらどう思う?」
「いなくなるって死んじゃうってことですか」
「ああ、まあ……そういうことだ」
加賀谷さんは目を伏せた。
「さみしくなって寝られなくなります」
「眠れないのは困るなあ」
静かな声で呟いて、加賀谷さんは私の髪を梳いた。私は頭をすり寄せて彼の手に頭を押しつけた。
頭を撫でられるのは好きだ。あの人もこうして私を慰めてくれた。
加賀谷さんは私が触れてほしいと思ったときに、必ず手を伸ばしてくれる。口では言わないのにしっかりと伝わる。
この手が遠くにいったら、もう誰も私を癒してくれない。
「晴之は甘えん坊さんだな。大人びているかと思ったら全然すれてないな」
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