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あなたを俺にください
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しかし激しく突かれ、すぐさま恍惚に満ちた現に引き戻される。
「賢……ん、くっ――」
擦れた声で、中島が自分を呼んでいる。眉を寄せているから、苦しいのかと思った。
中島の負担がかからないように力を抜こうとしても、擦られるとよすぎて締めつけてしまう。うまくいかなくて何度も腰を捩った。
ぐちゅぐちゅと、ふたりが動く度に淫らな音が部屋に響く。濡れた感触と音に煽られる。でも、感じるのはそのせいだけではない。
中島に抱かれているから、感じている。
愛しい人に愛されているから、感じている。
嬉しくて、涙が溢れた。
「ああ……い、いい」
「……そう。そうやって……感じるままに、ん……言ってください」
言わなかったから伝えられなかったことはたくさんある。そのために、ここまで遠回りをした。
伝えていこう。幸せも悲しみも分かち合っていきたい。
「ん、ん、く……」
深いキスのあと、中島が唸った。
蕩けるような声だった。中島も感じている。もっと、感じてほしい。
自分の躯を貪って、食らい尽くしてほしい。彼になら何もかも与えられる。
「あ、ああ……あ」
喘いで、腰を揺らして、絶えず求めて、与えた。
「ん、もういく……くっ」
「……ん、ああ……」
激しく欲望を弄られ、逢坂は達した。腰を押しつけるように、中島が逢坂の奥を突いて果てた。
濃い精液を体内に注ぎ込まれ、逢坂の躯が跳ねた。貫いたまま、中島が覆い被さってくる。まだ、ふたりは荒い呼吸をしていた。
「んっ……」
中島が腰を動かして雄刀を引き抜いた。逢坂は小さく声を漏らした。
悦楽の証が秘所から零れていく。中島の視線を感じて目を伏せた。中島が赤い顔をして息を吐いた。
「ああ、もっと気づかうつもりだったのになあ。また、俺が好き勝手やった」
「そんなことないよ。すごく優しかった」
「本当の俺はもっと優しいんです。でも、あなたの前だとどんなことをしても許してもらえると思って、何でもやってしまう」
「その素直さがいいんだろ。俺はおまえの素直なところが好きなんだ」
「本当ですか」
中島が嬉しそうに聞き返してくる。逢坂は頬を撫でた。
「それと、この笑顔だな。かわいくて子供みたいだ」
「俺は大人ですよ。大人だからこんなことできるんです」
拗ねたような顔をしても、怒っていないことはわかっている。
「素直な俺が好きなんですよね。それじゃあ、もう一回しましょう」
「ああ」
頷いてキスをした。
「もっと欲しいんです。あなたを俺にください」
中島の腕の中は、柔らかくて、大きくて、心地よかった。
ラジオからは、さっきからクリスマスソングが流れている。
「俺、この賛美歌、知っています。子供の頃、幼稚園で歌わされたなあ」
ラジオから聴こえてくる子供たちの合唱とともに、中島が歌い出した。少し音がずれているような気がした。合唱だから主旋律とは違うメロディーを歌っているのだろうと、逢坂は思った。
資料部には、逢坂と中島しかいない。他の社員は、外へ食べに行っている。近頃新しい喫茶店ができたので、周辺の飲食店は料金を下げた。食べる場所に迷うと同じ資料部の社員が言っていた。
「嬉しいなあ。クリスマスに好きな人のご飯が食べられるなんて。これがあるから今日の仕事も頑張れるんですよ」
自分の弁当を見ながら、中島が呟いた。緑の若葉がプリントされた弁当箱には、逢坂が作ったおかずとご飯が入っている。
ご飯には、黒ごまがまぶさっている。おかずは、ひじきと大豆の煮物に野菜炒め、茹でた鶏肉、中島が好きなほうれん草入りの卵焼きだった。逢坂も同じものを食べている。
「味、少し薄くないか。量が足りなかったら、ちゃんと言えよ」
「大丈夫です。もう美味しくて、美味しくて」
ときどき箸を止めて、中島は弁当を眺めている。どれから食べようか迷っているようだ。
人の弁当を作るのは初めてのことだった。目の前で食べているのを見ていると、気になって尋ねてしまう。
自分の作ったものを食べてもらうのは、嬉しくてくすぐったい。一緒に同じものを味わっているから、更にくすぐったい。
今までも一緒に昼食を取っていたけれど、前よりも時間を共有していると感じた。
「梶から手紙が来たんだ」
中島が顔を上げた。
「何て書いてあったんですか」
「ちゃんとお詫びが書いてあったよ。あと、しばらく別荘で暮らすらしい」
ずっと護ってきたものを自分の手で壊してしまった。怒りに任せた自分の行動を恥じていると、書かれてあった。
書評を書いてもらったことへのお礼もあった。一緒に酒を飲んだときに聞きそびれた感想が聞けたと書かれてあった。
『僕にとって、あなたは最高の読者です。初めて会ったときから変わりません』
手紙はそこで終わっていた。いつ東京へ帰るかは書いていなかった。
逢坂の手に中島が自分の手を重ねた。
「まだ、返事は書かなくていいんですよ。無理しないで、つらいと思ったことから逃げてもいいんです」
「ありがとう。でも、いつか書きたくなるときが来ると思う」
梶に抱かれた日に書いた手紙は、出すことはなかった。今も状差しに入っている。手紙を捨てる日も書き直す日も、いつ来るかはまだわからなかった。
ノックがした。ドアが開く。
「賢……ん、くっ――」
擦れた声で、中島が自分を呼んでいる。眉を寄せているから、苦しいのかと思った。
中島の負担がかからないように力を抜こうとしても、擦られるとよすぎて締めつけてしまう。うまくいかなくて何度も腰を捩った。
ぐちゅぐちゅと、ふたりが動く度に淫らな音が部屋に響く。濡れた感触と音に煽られる。でも、感じるのはそのせいだけではない。
中島に抱かれているから、感じている。
愛しい人に愛されているから、感じている。
嬉しくて、涙が溢れた。
「ああ……い、いい」
「……そう。そうやって……感じるままに、ん……言ってください」
言わなかったから伝えられなかったことはたくさんある。そのために、ここまで遠回りをした。
伝えていこう。幸せも悲しみも分かち合っていきたい。
「ん、ん、く……」
深いキスのあと、中島が唸った。
蕩けるような声だった。中島も感じている。もっと、感じてほしい。
自分の躯を貪って、食らい尽くしてほしい。彼になら何もかも与えられる。
「あ、ああ……あ」
喘いで、腰を揺らして、絶えず求めて、与えた。
「ん、もういく……くっ」
「……ん、ああ……」
激しく欲望を弄られ、逢坂は達した。腰を押しつけるように、中島が逢坂の奥を突いて果てた。
濃い精液を体内に注ぎ込まれ、逢坂の躯が跳ねた。貫いたまま、中島が覆い被さってくる。まだ、ふたりは荒い呼吸をしていた。
「んっ……」
中島が腰を動かして雄刀を引き抜いた。逢坂は小さく声を漏らした。
悦楽の証が秘所から零れていく。中島の視線を感じて目を伏せた。中島が赤い顔をして息を吐いた。
「ああ、もっと気づかうつもりだったのになあ。また、俺が好き勝手やった」
「そんなことないよ。すごく優しかった」
「本当の俺はもっと優しいんです。でも、あなたの前だとどんなことをしても許してもらえると思って、何でもやってしまう」
「その素直さがいいんだろ。俺はおまえの素直なところが好きなんだ」
「本当ですか」
中島が嬉しそうに聞き返してくる。逢坂は頬を撫でた。
「それと、この笑顔だな。かわいくて子供みたいだ」
「俺は大人ですよ。大人だからこんなことできるんです」
拗ねたような顔をしても、怒っていないことはわかっている。
「素直な俺が好きなんですよね。それじゃあ、もう一回しましょう」
「ああ」
頷いてキスをした。
「もっと欲しいんです。あなたを俺にください」
中島の腕の中は、柔らかくて、大きくて、心地よかった。
ラジオからは、さっきからクリスマスソングが流れている。
「俺、この賛美歌、知っています。子供の頃、幼稚園で歌わされたなあ」
ラジオから聴こえてくる子供たちの合唱とともに、中島が歌い出した。少し音がずれているような気がした。合唱だから主旋律とは違うメロディーを歌っているのだろうと、逢坂は思った。
資料部には、逢坂と中島しかいない。他の社員は、外へ食べに行っている。近頃新しい喫茶店ができたので、周辺の飲食店は料金を下げた。食べる場所に迷うと同じ資料部の社員が言っていた。
「嬉しいなあ。クリスマスに好きな人のご飯が食べられるなんて。これがあるから今日の仕事も頑張れるんですよ」
自分の弁当を見ながら、中島が呟いた。緑の若葉がプリントされた弁当箱には、逢坂が作ったおかずとご飯が入っている。
ご飯には、黒ごまがまぶさっている。おかずは、ひじきと大豆の煮物に野菜炒め、茹でた鶏肉、中島が好きなほうれん草入りの卵焼きだった。逢坂も同じものを食べている。
「味、少し薄くないか。量が足りなかったら、ちゃんと言えよ」
「大丈夫です。もう美味しくて、美味しくて」
ときどき箸を止めて、中島は弁当を眺めている。どれから食べようか迷っているようだ。
人の弁当を作るのは初めてのことだった。目の前で食べているのを見ていると、気になって尋ねてしまう。
自分の作ったものを食べてもらうのは、嬉しくてくすぐったい。一緒に同じものを味わっているから、更にくすぐったい。
今までも一緒に昼食を取っていたけれど、前よりも時間を共有していると感じた。
「梶から手紙が来たんだ」
中島が顔を上げた。
「何て書いてあったんですか」
「ちゃんとお詫びが書いてあったよ。あと、しばらく別荘で暮らすらしい」
ずっと護ってきたものを自分の手で壊してしまった。怒りに任せた自分の行動を恥じていると、書かれてあった。
書評を書いてもらったことへのお礼もあった。一緒に酒を飲んだときに聞きそびれた感想が聞けたと書かれてあった。
『僕にとって、あなたは最高の読者です。初めて会ったときから変わりません』
手紙はそこで終わっていた。いつ東京へ帰るかは書いていなかった。
逢坂の手に中島が自分の手を重ねた。
「まだ、返事は書かなくていいんですよ。無理しないで、つらいと思ったことから逃げてもいいんです」
「ありがとう。でも、いつか書きたくなるときが来ると思う」
梶に抱かれた日に書いた手紙は、出すことはなかった。今も状差しに入っている。手紙を捨てる日も書き直す日も、いつ来るかはまだわからなかった。
ノックがした。ドアが開く。
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