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いじめっ子から逃れられないいじめられっ子の話
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セックスばかりしていたら成績を落としてしまった。
そんな、まるで性行為を覚えたばかりの高校生のようなことが僕の身の上でも起こった。けれどそれは僕のせいではない。僕は無理矢理セックスさせられているからだ。その、そう、……同じクラスの人気者である屋敷昴という男子生徒に。
僕の身長は百六十五センチで、彼は……確か、百八十三センチあると言っていた。春に測った身長だから、それから僕は余り伸びていないのだけれど、恐らく彼の身長は更に伸びているのだろう。隣に並ばされて見上げたとき、顔を傾ける角度が大きくなった自覚がある。
体格についても全然違う。僕は痩せていて体も薄っぺらい。体を鍛えようとしたこともあったけれど、ほぼ毎日屋敷の部屋に連れ込まれてセックスされるので、その疲労のために諦めてしまった。対して彼は週三日のバスケ部の活動を真面目にこなしているからか、筋肉のついた逞しい体をしている。彼が僕を犯したりしない人間だったならば、僕はきっと彼のようになりたいと憧れを抱いたんじゃないだろうか。それくらい彼は格好良く、成績も運動神経も優れた人間だった。
そんな彼が何故僕を犯すのか全く分からない。けれどその行為はこの春からずっと続いていた。
体格差のある僕では、一度彼に押さえ込まれて仕舞えば抵抗もできない。上からのし掛かられて、足を広げられ、無理矢理……。……でも抵抗できなかったのは力の差のせいだけではなかった。僕は彼が怖いのだ。何を考えているか分からない、あの目。あの笑顔。皆の前では爽やかな笑顔を見せているのに、僕の前では全く異なる面を見せる。僕は彼が恐ろしくて抵抗も、逃げることすらできないでいるのだ。
中間考査が終わった次の週、返却されたテスト用紙を見て僕はショックを受けた。これまで悪くても九十点台をキープしていた点数は、八十点前半にまで落ちていた。苦手な文系の科目に至っては七十点台のものもある。
屋敷に犯されるようになってから、僕の体と時間は自分のものではなくなってしまった。放課後になれば、部活のある日は部活が終わるのを待たされ、部活がない日はそのまま屋敷の部屋へと連れ込まれて二時間ほど毎日セックスをさせられている。射精させられるのも疲れるけれど、最近覚えさせられたメスイキというやつは、それより更に体力を奪われるものだった。そのあと帰宅して勉強なんて出来るわけもなく、だからこそ、この中間考査の結果になってしまったということになる。
成績が下がれば、僕が入学時から貰っている奨学金が貰えなくなる。それは、あまり裕福じゃない家庭の僕がこの高校に通えている理由を失うのと同じ意味だった。奨学金が無くなれば、到底学費を払えない。そうなれば学校を辞めるしかなくなる。
以前の僕ならば、そこまで考えたところで屋敷から逃れられるかもしれない、と期待を持ったことだろう。けれど今の僕は……屋敷なら、そんなことくらい把握しているに違いない、としか思えなかった。期待も何もない。僕の中にあるのはただ、諦めの気持ちだけだった。
◆
「成績。落ちたんだってな」
中をペニスで擦りながら屋敷が言った。誰から聞いたんだろう、と思ったけれど、深くは考えられない。何故なら僕は軽くイキながらそれを聞いているからだ。うん、と言おうとした口を開いて出たのは喘ぎ声だけだった。
「メスイキも出来るようになったし、セックスの時間減らして一緒に勉強するか?」
ゆっくりと焦らすように動きながら屋敷が告げた。それは疑問形のかたちをとっていても、既に決定事項であり、僕に拒否権はない。
「それともセックスしながら勉強する? 膝の上に座って、俺のをケツに挿れながらやんの。ハハ」
どこかにありそうなアダルト動画のようなことを屋敷は言った。本気かどうかは分からない。でも彼は馬鹿げたようなことでも実際にしてみせることもあるから、返事をするのが怖かった。
「まぁそれじゃ、お前がイキまくって勉強にならねーか」
ふ、と笑って彼はその提案を冗談にした。僕のせいにされたけれど、それでも良い。ペニスを中に挿れられながら勉強するなんて馬鹿なことはしたくない。
僕が黙ったままでいると、彼は少し強めに奥を突いてきた。
「あっ」
「このまま俺とヤリまくってたらさ、奨学金貰えなくなるけど、どうする? 学校辞めて、……俺の家に住み込みで働くって名目でお前のこと囲ってやんのもアリだけど。お前の親には上手く言っといてやるよ」
熱を帯びた目と共に告げられた言葉に、僕は慌てて首を横に振った。僕はまだ人生を棒に振りたくない。強くそう思った。ここまで好きにされて、今のところ屋敷の思い通りにしか進んでいない状況なのに、何故かそう思ったのだ。どう考えてももう、僕の人生は彼のものなのに。
反射的に拒否を示してしまった僕を、屋敷は目を細めて見下ろした。唇が歪み、嫌な形に笑んでいる。
「嫌なのかよ」
「あ……ち、違う……っ」
「何が違うって?」
怖い。けれど、このまま先程の提案が嫌なのだと思われることのほうがもっと怖かった。僕は彼が嫌いで憎くて離れたいけれど、そう思っていることを悟られることほど恐ろしいことはない。僕は彼が好きで、セックスするのも嬉しくて、いつも一緒にいたいと思っている……彼にはそう思っていて欲しかった。そうすれば優しくして貰えるからだ。
「聡司は俺のことが好きなんだろ? じゃあ俺と一緒に暮らせんのは嬉しいんじゃねーの?」
冷たい目で見下ろされると心臓が痛くなる。ドクドクとセックスの興奮とは違う理由で早鐘を打ち始めた胸を左手で押さえながら、必死に言葉を紡いだ。
「あ、あの、……い、一緒に学校行きたくてっ。こ、高校生活、昴くんと、その……一緒に……過ごせるの、今だけ、だから……っ」
「……ふーん。それはさ、学校で俺とセックスしたいってこと?」
飛躍した結論に言葉を失う。どこをどう解釈すれば、そんなふうに思えるんだ。やっぱり屋敷は頭がおかしい。
そう思いながらも僕は首を縦に振る。そうするしかなかった。
「ハハッ、なにお前、学校でセックスするの、そんなに良かったのかよ?」
「う、うん」
「……俺も好きだぜ、お前と学校ですんの。廊下で足音してさ、見つかりそうになったとき、お前の中すげー締まって気持ち良いし」
明け透けな物言いに、僕の顔は赤くなる。嫌だった。けれど何も言い返せない。こんな恥ずかしいことを言われても反論ひとつさえできない僕など、屋敷とっては馬鹿にできるうえ、いつでも抱ける都合の良いセックスの相手としか映っていないのだろう。中に出しても妊娠しないし、便利なオナホだと思っているに違いない。それならそれで構わないから、早く飽きてくれないだろうか。
「ああっ、あっ」
ペニスを奥まで挿れた状態でグリグリと回すように押し付けられる。思わず僕は上へ逃れようとシーツを握った。
「こら、逃げんな」
「ご、めんなさい……っ」
自分は悪くないのに謝ってしまう。謝罪の言葉を言えば屋敷の機嫌が良くなるから、彼の声に少しでも苛つきが混じれば僕は、反射的に謝るようになってしまった。
「悪いと思ってんならさ、お前からキスしろよ」
屋敷は僕の体を折り曲げ、顔を近づけて僕の唇を舐めた。無理な体勢のまま上から体重をかけられると、ペニスが奥に当たって結腸まで挿入されそうで怖い。直腸を犯されるのさえ普通ではないのに、それ以上内側の内臓までペニスを挿れられるのは、何回やられても恐ろしかった。
ちゅ、と音を立てて自分からキスをする。キスを早く終わらせて、それで満足して貰って、普通のセックスで終わらせて欲しかった。なのに屋敷は僕の必死の行為を鼻で笑う。
「ハハ。子供かよ」
膝の裏に腕を通され、腿を腹に押し付けられた。
「俺たち、もっとすげーエロいことしてんのにさ……かわいすぎんだろ」
「ん、ん……っ」
「ん、おい、口開けろよ。そんで舌出せ」
屋敷は一旦僕の口に唇を重ねたあと、不機嫌そうに命令する。今日は何度も苛つかせてしまった、と怯える僕は、震えながら彼の命令に従った。口を開いて舌を前に突き出す。屋敷はそれをパクリと口に含むと強く吸い上げた。僕の舌は彼の口の中に引き込まれて、そこでねっとりと彼の舌に絡めとられる。唾液をまぶされ、甘噛みされ、根元までジュルジュルと吸われた。
屋敷とのキスはいつも僕を絶望の底へと叩き落とす。好きでもない、むしろ嫌いな、しかも同じ男にそんなことをされても気持ち悪いはずなのに、僕の体は違う反応を示すのだ。
「ん、んぅ」
塞がれた僕の口からは甘い声が漏れ、ペニスは緩く芯を持つ。直腸は勝手に、奥深く挿れられたままの彼のモノをキュウキュウと締めつけた。それから逃れるかのように、屋敷は再び腰を動かし始め、僕の唇を解放した。
「ホント、さぁ……キスハメ好きだよな、聡司は」
両手を絡めとられ、ベッドの上に押さえつけられる。
「もっとしてやるから、ケツだけでイケよッ」
再び僕は唇を塞がれ、腰を打ちつけられた。パンパンと肉の当たる音と、ズチュズチュというローションの押し出される音が響く。口で息ができない僕は、酸欠になりそうな頭でそれを聞いていた。体は勝手に反応し、触ってもらえないペニスからはカウパーが垂れ落ちる。
気持ち良い、と思った。射精したい、とも。加えて、屋敷との行為でそうされるのは嫌だと思う気持ちもあった。でもそれはとても弱く、快楽の波に攫われて消えてしまう程度のものだった。ゴリゴリと奥に当てられる感覚は恐ろしい。結腸に挿れられるのは怖い。けれど、訳が分からなくなるほどの気持ち良さも知っている。
「んぅっ、んんっ、んっ、んぅっ」
屋敷の動きに合わせて、塞がれたままの僕の口から声が漏れた。押さえつけられたままの両手にはじっとりと汗が滲む。前立腺をペニスで何度もきつく擦られ、奥までズップリと挿れられたあとギリギリまで抜かれる感覚に、僕の頭は徐々に白く染まっていく。この感覚は良く知ったものだった。
イキそう。
腹の奥が切なくなり、閉じた瞼の裏に星が散る。軽くイッているような感覚が連続して僕を襲う。自分の直腸が誘うようにうねるのを感じた。
「ぷはっ、ハッ、ハッ、ハッ」
唇を離した屋敷は、腰の動きを大きく、そして激しくする。
「んぁ、あっ、あ、あ、あっ、い、イクッ、イクッ、ああっ」
勝手に締まる直腸から強引にペニスを引き抜かれる感覚が最高に堪らない。気持ち良い。
「い、イクッ」
「おら、イケよっ」
ヒダがめくれてしまいそうなほど抜かれたあと、奥まで一気に貫かれた瞬間、僕はイッた。体を折り曲げられたせいで目の前にあるペニスからは何も出ていない。あれだけカウパーを漏らしていたのに。脱力感に包まれながら、僕はそんなどうでも良いことを考えていた。
屋敷は力を失った僕の体をキツく抱きしめ、奥に挿入したまま腰を小刻みに動かしている。奥を刺激されて僕はまたイッた。
「あ、あ、ひっ、んっ」
イッたせいで中が更に締まったのか、屋敷のペニスから精液がビュルビュルと吐き出される。僕の直腸はそれを余さず受け止めながらもなお、締め付けを緩めなかった。自分の体なのに思い通りにならない。中になんか出されたくないのに。急速に力を失った屋敷のペニスからもっと搾り取ろうとするかのような動きをする自分の体を持て余し、僕は何度目かの無力感に打ちひしがれた。
◆
意外なことに、屋敷はセックスの時間を減らすことにしたらしい。その日から屋敷の部屋にいる時間の半分は一緒に勉強することになった。そして期末考査の二週間前からセックス自体をしなくなった。
僕には決定権が無いので、屋敷が決めたことに従うしか無いのだけれど、これは純粋に嬉しいことだった。何しろ体が楽だ。毎日させられていた行為が、如何に体力を奪うものだったのか、改めて自覚する。二週間のうち、一度だけ我慢ができなくなったらしい屋敷に抱かれたけれど、体力が回復していたからなのか、そのときのセックスではそれほど疲れを感じなかった。
一緒に勉強するようになり、改めて僕は屋敷の頭の良さに感嘆することとなった。理解するのが早く、要領もいい。時間をかけて勉強し、成績を保っていた僕とはそもそも出来が全く違うのだということを思い知らされた。
そして彼は教えるのも上手かった。僕の苦手な箇所を的確に見抜き、簡潔に説明してくれる。要点を抑えたそれは分かりやすく、短期間で僕の理解は進んだ。これならば期末考査で挽回できるかもしれない。そう思うと勉強すること自体が楽しく思えた。
図書館の自習室のテーブルで僕と向かい合わせに座り、下を向いて問題集をこなしている屋敷の姿は確かに絵になるほど格好良かった。これほど見た目が良いうえに背も高く、運動もできて勉強も出来るのだから、屋敷がモテるのも納得できる。僕がもし女の子だったらきっと黄色い声援をあげていた側だっただろう。しかし現実は違う。彼は僕をいじめ、犯し、支配しているのだから。
試験の二週間前に加えて試験期間である一週間、合計三週間の間、屋敷がセックスをしたのは、あの一度きりだった。
放課後、一緒に帰って家や図書館で勉強する。分からない箇所を教えてもらい、ありがとう、なんて礼を言う。そして、滅多にないことだったけれど、屋敷が苦手で僕が得意な教科を教えることもあった。あー、なるほどなー、と言って僕の頭に手をやる彼の様子は、普段の屋敷とはまるで違うものだった。彼の友人たちには、こういう面しか見せていないのだろうか。もし僕が彼の友人という立場だったなら……。
そう思いかけて首を横に振る。そんなことはあり得ない。女の子だったらとか、友人だったら、なんて妄想は馬鹿げている。くだらない妄想をしたところで現実は変わらない。期末考査が終われば屋敷はまた僕を犯し、元の生活に戻るのだ。
そして予想通り、期末考査が終了した週の金曜日、僕は屋敷の家に泊まる約束をさせられ、激しく抱かれた。固くて太いペニスで中を擦られ、その刺激で僕は射精し、それから射精しない絶頂を何度も経験させられた。最後には屋敷に突かれるたび体が痙攣し、情けなさからじゃなくあまりの気持ちよさから、僕の体は涙を流して喜んだ。屋敷はそんな僕を見下ろし、嬉しそうに笑っていた。
家に帰れたのは日曜日の夕方で、二日間あまり眠れなかった僕は帰るなり自室のベッドへと倒れ込んで月曜の朝まで眠り続けることになった。
◆
屋敷との勉強会の効果は、期末考査の結果へ如実に現れた。
成績は中間考査どころか、それ以前よりも上がり、奨学金への不安は解消された。親も喜び、担任には、この調子なら変更した志望校に合格できるかもな、と無責任なことを言われる。僕はその大学には行きたくないというのに、担任も両親も、悪気なく応援の言葉を僕によこした。
「このまま勉強は続けるか」
そう言った屋敷は言葉通り、これまで毎日していたセックスの頻度を半分に下げた。それが一日おきになったおかげで僕の体はずいぶん楽になる。セックスをしない日は帰り際にキスをするだけで、この日もそうだった。
「んっ……」
僕の口の中を掻き回していた舌が出ていき、唇を離す。背中に回った腕が僕を抱きしめて、しつこかったキスのせいで熱くなった僕の頬が彼の肩口に押しつけられる。
「……あー、ヤリてぇな」
呟くように屋敷が言った。その言葉を聞くと、僕の体は一瞬にして強張る。昨日したから今日はしないのだと安心しきっていたから余計だ。握りしめた手のひらが汗に濡れ、背中にも冷たいそれが流れる。
「冬休みさ、予備校の冬季講習に通えって親が言ってきてんだよ。大丈夫だって言ってんのに」
僕の首筋に唇を触れさせながら屋敷が言った。以前から屋敷が両親から受験に向けて予備校へ通うように言われていることは聞いていた。進学校の定期考査で毎回トップかそれに近い成績を取っているから必要ないと親に主張していたらしいが、高校二年生の冬ともなれば、いよいよそうもいかなくなってきたらしい。
「朝から夕方まで、電車乗ってわざわざ市のど真ん中のさぁ……お前との時間が減るから行きたくねぇんだけど」
ため息をついた彼は、唇をつけたその場所をチュッと吸う。
「んっ」
「折角の冬休みなのにさ、……俺と会えなくて、お前は平気?」
熱い吐息がかかり、僕の意志とは関係なく体が反応した。ズボンにしまいこんだシャツを引っ張られ、裾から手を入れられる。熱くなった素肌に冷たい彼の手が這い回り、僕は喘いでしまった。
「あっ、あっ」
「この……乳首とかさ、ケツとか」
言いながら屋敷は僕のアナルへと指先を挿れる。ローションも何も付けていないから、皮膚が引きつれて痛かった。
「俺に触って欲しくて寂しくなるだろ?」
「う……うん、さび、し……っ」
「毎日会いたいよな?」
「あ、あい、たいっ」
屋敷にしがみ付きながら必死に返すと、彼は満足そうに笑って指を抜いてくれた。
「冬休みの初日から通うことになったから、それまで寂しくないように毎日抱いてやるからな?」
「……えっ、あ、あの、でも、勉強……」
「だからさ、勉強のあとセックスすんだよ。お前も我慢できねぇだろ?」
言いながら屋敷は僕の脇の下に腕を入れ、抱き上げるようにしてベッドへと乗せてしまった。そのまま押し倒され、ネクタイとシャツのボタンを外される。シャツも、アンダーシャツも脱がされ、手際良くベルトもスルリと抜かれ、スラックスまで脱がされてしまうと、僕の身につけているものは下着と靴下だけになってしまった。
いつものようにサイドチェストからローションを取り出し、屋敷は手のひらに中身をとる。
「足広げろ」
逆らえない僕が言われるがまま足を広げると、屋敷は僕の下着の裾から手を入れてきた。ローションに塗れた手が裾を引っ張り、そのままアナルへと侵入する。ツプッと中指が入り、僕の背筋に悪寒が走った。
「閉じんなって」
「あ、ご、ごめんな、さいっ」
無意識のうちに閉じかけていた膝を開く。屋敷は満足げに笑うと、唇を歪めたまま僕のアナルへ二本目となる薬指を突っ込んだ。
「ひ、あっ」
「痛く無いだろ。何回もヤッて、こんなのより太いの突っ込んでよがってんだし」
馬鹿にしたような物言いに、僕は顔を上げられなかった。いくら僕が彼に逆らえない立場だからと言って、こんな言いかたは酷い。けれど、言い返せない。顔を背け、唇を噛むことくらいが僕にできる精一杯だった。
「あ? なんだよ、その態度」
屋敷が僕の態度を見咎め、顎をグイッと掴まれる。反対の指はアナルに入ったままで、僕の感じるところをグリッと押された。当然、声が出てしまう。
「ひっ、いっ」
「俺にこうされて感じてんだろ?」
高圧的な物言いの屋敷に、僕はすぐに後悔して白旗をあげた。
「ごめんな、さい……」
「か、ん、じ、て、ん、だ、ろ?」
謝罪の言葉は受け入れられず、屋敷は僕の顎を掴む手に力を入れた。痛い。けれど、それよりも、怖い。恐ろしい。
だから僕は頷き、彼の望む答えを口にする。
「気持ちいい、ですっ、か、感じて、あっ、僕、感じてっ……んんっ」
「…ハハッ。分かってるって、チンポ勃ってるし。……お前、ホントすぐ濡れるよな」
屋敷は僕の顎を離し、アナルに挿入した指二本をバラバラの方向へ動かした。前立腺を捏ねるように動かされ、僕のペニスはトロトロとカウパーを流す。怖いのに、なのに、気持ちがいい。こんな場所に指を突っ込まれて好きに蹂躙されているろいうのに、僕の体は喜んでいる。嫌だ、嫌だ。
こんなことはやめて欲しい。けれど屋敷は僕の中へ人差し指をも突っ込んできた。
「すっげートロトロ。三本目もすぐ入ったな♡」
嬉しそうに言う屋敷は、快楽に悶えることしかできない僕を満足げに見下ろしている。
前立腺を内側から押され、それから指で挟むようにして捏ねられた。ローションを足され、ジュプジュプと音を立てながら中を擦られる。
「あ、ああっ」
「気持ちよさそーな顔してる。……俺にこうされるの好きだろ?」
「ん、うん、……好き、……もっと…し、して、ほしい」
やめて欲しいのに、ねだるような言葉を僕は発した。そうしないと屋敷が怒るからだ。僕は屋敷が好きで、屋敷にアナルをいじられるのが好きで、いつだって彼のペニスを中に入れて欲しいと思っている。僕は屋敷の恋人で、そういう関係になれたのが嬉しくて、彼とセックスをするのが大好きなのだ。……屋敷の中では、僕はそうあるべき存在だった。だからそういう風に振る舞わないと何をされるか分からない。
彼に嫌われるのは怖いし、何より報復が恐ろしかった。無関心になってくれるのが一番なのだけれど、今のところ、そんな素振りは全くない。早く僕に飽きて他の人間にターゲットを移して欲しいと思っているが、それも上手くいっていない。従順にしていればつまらなくなって、そのうち飽きるだろうと思っているのだけれど、屋敷の僕への執着は止むことがなかった。
だから僕は彼の機嫌を取るしか無い。望む言葉を吐き、反抗せず、逃げることもしない。逆らわずに彼を受け入れて、セックスをして、……ひたすら耐えながら彼が僕への興味を失う日を待つしかないのだ。
「……指だけで満足できんの、聡司?」
僕のアナルが充分に広がったころ、彼が聞いた。その声は欲望に塗れ、僕を犯したいという意志が感じられる。だから僕は自分から足を開き、これまで何度も言わされてきた言葉を今回も口にした。
「昴くんのおちんちん、ここに……ぼ、僕の中に、挿れてください」
諦め、という感情をその言葉に乗せてしまったのかも知れない。投げやりに言ったつもりはなかったけれど、屋敷は僕に、その先のことを問うてきた。
「……挿れて、どうしてほしい?」
「えっ」
屋敷の問いに対して僕は返答に詰まる。いつもなら挿れてくださいと言えば挿入され、奥をガツガツと突かれているうちに訳が分からなくなって射精し、中に射精されてセックスが終わっていた。
急にそんなことを聞かれても、答えなんて分からない。屋敷のようなおかしな人間がどういう返答を望んでいるかなんて僕には分からなかった。
「えっと、あの、……」
額から汗が流れ落ち、僕は答えを求めて屋敷の顔を見上げる。
「あの? 何だよ? 早く言えよ。お前がして欲しいようにしてやるからさ」
屋敷は僕を見下ろし、ニヤニヤと笑いながらそう言った。僕は何度か口を開き、閉じたあと、何とか言葉を絞り出す。
「僕に挿れて、あの、……す、昴くんに、気持ち良くなって欲し……です」
「ハハッ」
懸命に考えた言葉は不正解だったらしい。屋敷は笑い声を上げただけで僕に挿入してくれなかった。自分から足を開いた体勢のまま、僕は情けなさで泣きそうになる。嫌いでたまらない相手にこんな屈辱的なポーズを取って、自分の体で気持ち良くなって欲しい、なんてことまで言ったのに挿れてもらえない。とても惨めで恥ずかしくて、だから僕は口を開き、小さな声で謝罪した。
「ご、めんな、さい……ま、間違え……て、ぼ、僕……」
「いいよ。好きだから許してやる」
許すも何も、僕は悪いことなんてしていないはずなのに、屋敷はそんな風に言葉を返す。そして僕はその言葉を聞いて、締めつけられるように苦しかった胸が楽になるのを感じた。こんなのはおかしいと思うのに、安心した僕は更に媚びた笑顔まで返してしまう。屋敷は僕の反応を見ると、柔らかな笑顔を見せた。
「好きだぜ、聡司」
「……ぼ、僕も、好き……」
答えると屋敷の顔が近づいたから、僕は目を閉じて彼の唇を受け入れた。口を開け、入ってきた舌に自分からそれを絡める。唾液を送り込まれて飲み込むと同時に、屋敷のペニスが僕の体内にググッと挿入された。
「ん、んむっ」
「ハハ、かーわいー」
唇を離した屋敷が呟く。こんな痩せた薄っぺらい体しか持たない僕のどこが可愛いというのか。別に顔がいいわけでも無い。背も低いし、勉強以外の何かが良く出来るわけでもない。可愛いなんて言葉は小さなころ、両親と祖父母にしか言われたことのない言葉だ。
膝の裏を手で押さえられ、僕の両足は左右に大きく開かれたままベッドに押し付けられた。尻が上を向き、ペニスがアナルへと差し込まれる様子が見えてしまう。そして、僕のペニスが勃起している様子もだ。
キスをされて挿入されるだけで前を勃たせるなんて、おかしい。おかしいのに、気持ちが良かった。その証拠に、屋敷のペニスが根本まで挿れられたと同時に、僕のペニスから精液がダラダラと垂れ落ちる。押し出されるように漏れたそれは、僕の意志では止められなかった。
「あああっ、あっ」
腹に落ちたそれは、腰を持ち上げられた姿勢のせいで、胸までゆっくりと流れた。
「……ほら、気持ち良いんだろ? すげー出てる」
「あ、あ……」
「だからさっきの正解はさ、昴くんのおちんちんで僕のことを気持ち良くしてください、だ」
屋敷が僕の奥を突いてくる。そのたび、僕のペニスから先ほどの挿入で出き切らなかった精液がピュルピュルと押し出された。恥ずかしい、いやだ、止めてほしい、と思っても口に出せない。さっきの問題に不正解だったから、そんな間違った言葉を言うわけにいかない。
「う、うう、あ、あっ」
「んー? ……エロすぎんだろ、お前。またイクって? どうせならメスイキしろよ」
「あ、あ、あっ、あっ」
卑猥な言葉を投げかけながら屋敷は僕の体を蹂躙する。折り曲げられ、苦しい姿勢で僕は屋敷のペニスを受け入れ、喘いだ。前立腺を潰すように擦られ、直腸の奥に亀頭をゴリゴリと押し付けられるのが気持ち良い。さっき射精したばかりなのに、また陰嚢が迫り上がってくるのを感じる。
「ま、またっ、で、出る、出るからっ、あっ、あっ」
「出さずにイケってんだろ」
「あ、そ、んな、あっ、あっ、あ、無理、で、でちゃ……っ」
情けない声をあげ、僕は二回目の射精をした。今度は屋敷に揺さぶられているせいか、勢いのついたそれは僕の顔までビュルッと飛び散る。その状況に呆然とする僕を見つめ、屋敷は目を細めて笑った。そして親指で僕の頬についた精液を拭い、ペロリと舐めてしまった。
「え、あ、……」
「うぇ、まっず。……好きな奴のなら少しはマシなのかと思ったら、やっぱ不味いのな」
当たり前だ。分かりきっているのに、何故そんなものを舐めてしまったのか分からない。僕より頭が良いくせに、この男は本当に何を考えているのかさっぱり分からなかった。
「……聡司。今度、俺の全部飲もうな?」
「……え?」
「メスイキできなかった罰。俺の命令、聞けなかっただろ? だから、な♡」
あまりにも滅茶苦茶な論理を振りかざされたせいか、僕は反論すら忘れて、ただ屋敷を見上げることしかできなかった。
そのあとも屋敷は僕の体を解放せず、好きなように突っ込み、中に何度も射精した。
僕の口は開いたままで、喉が痛い。けれど奥を突かれて気持ちが良いから、喘ぐことを止められなかった。
「あっ、あっ、ああっ、あっ、あああっ」
奥まで挿れられ、ズルズルと抜かれる。僕の体はその抜かれるときが好きだった。ゾワゾワとした感覚が背筋を辿り、腰の辺りまで突き抜ける。ついさっきも射精したはずの屋敷のペニスはまだ固さを保っていて、僕の中のイイところを擦っていた。
「気持ち良いな?」
荒い息の合間に屋敷が問いかける。
「ん、ん、きもち、い……っ」
「ハハ。……お前のココ、俺のが溢れてきてる」
「う、ぁっ」
指でアナルの縁に触れられた僕は、思わず体をビクつかせた。プックリと腫れたような感覚がするそこは、恐らく赤く染まっているに違いない。
「……チッ、締めんなって。また……出んだろ」
「ご、ごめんなさい……っ」
眉根を寄せて屋敷が言ったから、僕は慌てて謝った。中に出されるのは僕で、それでお腹を壊すのも僕なのに。
「つかさ、何回もヤッてんのにさ、なんでこんなに締まり良いんだよ? 俺のことが好きすぎて腹ん中キュンキュンしちゃうとか?」
ニヤけた顔でそう言ったあと、屋敷は僕の前立腺を意図的に潰すような動きで腰を動かし始める。好きか、と聞かれれば、好き、と答えなければならない。だから僕はいつものように口を開いた。
「す、好き……、昴くん」
もう壊れた機械のように同じ言葉を繰り返すだけなのに、屋敷は満足そうな顔をする。セックスのたびにこんな不毛なことを繰り返すなんて、どうかしている。僕と彼の関係はいつまで経っても平行線で、交わることはおろか、近づくことさえないのに。
「俺も好きだ。嬉しいだろ?」
「……ん、う、嬉しい」
こんな体にされて、進路さえ決められてしまい、望みなんて消えてしまって、もう僕なんてどうでも良いと思ってはいるけれど、だからといって僕が屋敷を好きになることは一生無い。
「ほら、ここ、お前の好きなトコ」
「あっ、き、きもち、いいっ、んっ」
酷い目に遭いたくないから好きだと言ったり自分から挿れてほしいと言っていても、それは勿論本心じゃない。僕の本心は……屋敷が目の前からいなくなってくれないか、という叶わない望みがひとつ、それだけだ。自分から何かをする勇気なんてない。だから、どこかの誰かが屋敷を別の場所へ連れ去ってくれるか、それとも僕を連れ去ってくれるか、もしくは屋敷が僕以外にターゲットを移してくれるか……。
「だから締めんなって」
「ご、めん、なさいっ、あっ、あっ」
屋敷は僕の進路を勝手に決め、一緒に東京の大学に進学することに決めてしまった。わざと試験に落ちることも考えてはみたけれど、そんな浅はかな考えはとっくに見透かされていた。屋敷は、たとえ僕が試験に落ちても連れて行くという。一緒に暮らして屋敷の世話をしながら浪人しろ、と、生活費なら出すから、と言われている。恐ろしいことに、そのための根回しを既にし始めているらしい。僕の両親も、また説得されてしまうのだろう。そうなれば僕に断る術はない。
「すげ、きつっ……あー、出る出る出るっ」
「な、中はっ、んんんっ」
東京に行けば変わるだろうか?
こんな地方都市だから彼は、たまたま身近にいた僕にしか目を向けないだけで、東京のような人の多い都会に行けば、僕よりももっと屋敷の好みに合う人間がいるかもしれない。そんな人間と出会えば、きっと屋敷はそっちに目を移す。そうすれば僕の役目は終わり、解放されるに違いない。
「中、出すぞっ」
「あ、ああっ、あああっ」
思考の中に一筋の光が見えた気がして、それに縋るつもりで僕は屋敷の体に腕を回した。一瞬驚いた反応を見せた屋敷は、しかしすぐに僕を抱きしめ、ペニスをグイッと奥に押し付け射精する。
生暖かい液体が中に出されるのを気持ち良いと感じてしまう自分の体が嫌だった。中に出されればほぼ確実に体調を崩してしまうというのに、そんなものを出されて喜んで、更に搾り取るような動きをしてしまう体が気持ち悪い。
でもそれが、大学生になって東京で屋敷が僕以外に目移りするまでの我慢だとしたら、何とか耐えられるかもしれない。
進路を勝手に決められたことで僕の人生まで屋敷の思い通りにしかならないのだと諦めていた真っ暗な僕の未来が、急に開けたような気になった。
「……どうした? 聡司。ん? 急にしがみついて……んなに気持ち良かった?」
「っ……う、うん……すごく、よ、よかった」
考え込んでいたせいで少し反応が遅れる。けれど屋敷は怒らず、それどころか、僕に対して少し微笑んで見せた。
「なら、ちゃんと感謝を言葉で表さねぇとな?」
「え、あ……」
音を立てて僕の唇にキスを落とした屋敷は、笑顔のまま僕に強要する。最初に間違えた言葉を、今度は間違えずに言えと、彼はそう言っているのだ。だから僕は口を開き、彼の望む言葉を告げる。
「す、昴くんの、お、おちんちんで……僕のこと、き、気持ち良く……し……してくれて、……あ、あの、……あ、りがとうござ……」
「ハハッ。……やっぱお前以上のヤツなんていねーよ。最高。……ちゃんと言えて偉い偉い。頑張ったな、聡司♡」
僕の言葉を途中で遮り、屋敷は上機嫌で僕の頭を撫でた。その手はそのまま頬を滑り、唇を無理矢理開けさせ、中の舌と上顎をくすぐり始める。そうされると僕のペニスはすぐに反応し、それを見た屋敷もまた、僕の中に挿入したままのそれを固くした。またするのか、と身を固くした僕を、しかし屋敷はゆっくりと抱きしめる。腰を密着させたまま動かさず、彼は指で開けさせた僕の口にキスをした。
チュプ、と音をさせて唇を離しても屋敷は腰を動かさず、僕はただ抱きしめられるだけだった。いつもとは異なる態度に僕の心はざわつき始める。気づかないうちに何かしてしまったのだろうか。怒らせて、これから酷いことが起こるんじゃないだろうか、これは嵐の前の静けさというやつじゃないのか、と。
「……聡司」
名前を呼ばれ、恐る恐る顔を向けると、再び唇を重ねられた。頭の後ろに手を添えられ、逃げないように押さえられてはいるけれど、それ以外は優しく扱われる。舌を絡められたせいで僕のペニスが震えると、屋敷はいつもとは違った丁寧な手つきでそれを擦った。
「ん、んっ」
「……はぁっ、……お前は信じてねーと思うけどさ、……俺はお前のこと、……本気で……その、……好きなんだぜ?」
唇を離して息をついた屋敷がいつものように好きだと言ってくる。ペニスを擦られて快感に溶けそうになっていても、僕はこれにすぐ返事をしないといけない。気持ちが良くて、判断力が鈍っていても関係ない。僕は屋敷にそうしろと強要され、そう返すように躾けられたからだ。
「ぼ、僕も、好きッ……す、昴くんのこと、好き」
ペニスを擦られる快感を堪えながら必死に返す。酷い目に遭いたくない一心で答えた僕を、屋敷は無言のまましばらく見つめた。
「……ハハッ、知ってるって」
沈黙のあと、そう言うと屋敷は僕のペニスから手を離し、ゆっくりと腰を動かし始めた。奥をグリグリと押され、抜かれ、その動きが段々激しくなる。
「あ、あっ、あっ、あっ」
それはいつものやり取りだったから、正解の言葉を返せたことに安堵した僕は、更に激しくなる動きから生まれる快感に身を任せて目を閉じた。
そんな、まるで性行為を覚えたばかりの高校生のようなことが僕の身の上でも起こった。けれどそれは僕のせいではない。僕は無理矢理セックスさせられているからだ。その、そう、……同じクラスの人気者である屋敷昴という男子生徒に。
僕の身長は百六十五センチで、彼は……確か、百八十三センチあると言っていた。春に測った身長だから、それから僕は余り伸びていないのだけれど、恐らく彼の身長は更に伸びているのだろう。隣に並ばされて見上げたとき、顔を傾ける角度が大きくなった自覚がある。
体格についても全然違う。僕は痩せていて体も薄っぺらい。体を鍛えようとしたこともあったけれど、ほぼ毎日屋敷の部屋に連れ込まれてセックスされるので、その疲労のために諦めてしまった。対して彼は週三日のバスケ部の活動を真面目にこなしているからか、筋肉のついた逞しい体をしている。彼が僕を犯したりしない人間だったならば、僕はきっと彼のようになりたいと憧れを抱いたんじゃないだろうか。それくらい彼は格好良く、成績も運動神経も優れた人間だった。
そんな彼が何故僕を犯すのか全く分からない。けれどその行為はこの春からずっと続いていた。
体格差のある僕では、一度彼に押さえ込まれて仕舞えば抵抗もできない。上からのし掛かられて、足を広げられ、無理矢理……。……でも抵抗できなかったのは力の差のせいだけではなかった。僕は彼が怖いのだ。何を考えているか分からない、あの目。あの笑顔。皆の前では爽やかな笑顔を見せているのに、僕の前では全く異なる面を見せる。僕は彼が恐ろしくて抵抗も、逃げることすらできないでいるのだ。
中間考査が終わった次の週、返却されたテスト用紙を見て僕はショックを受けた。これまで悪くても九十点台をキープしていた点数は、八十点前半にまで落ちていた。苦手な文系の科目に至っては七十点台のものもある。
屋敷に犯されるようになってから、僕の体と時間は自分のものではなくなってしまった。放課後になれば、部活のある日は部活が終わるのを待たされ、部活がない日はそのまま屋敷の部屋へと連れ込まれて二時間ほど毎日セックスをさせられている。射精させられるのも疲れるけれど、最近覚えさせられたメスイキというやつは、それより更に体力を奪われるものだった。そのあと帰宅して勉強なんて出来るわけもなく、だからこそ、この中間考査の結果になってしまったということになる。
成績が下がれば、僕が入学時から貰っている奨学金が貰えなくなる。それは、あまり裕福じゃない家庭の僕がこの高校に通えている理由を失うのと同じ意味だった。奨学金が無くなれば、到底学費を払えない。そうなれば学校を辞めるしかなくなる。
以前の僕ならば、そこまで考えたところで屋敷から逃れられるかもしれない、と期待を持ったことだろう。けれど今の僕は……屋敷なら、そんなことくらい把握しているに違いない、としか思えなかった。期待も何もない。僕の中にあるのはただ、諦めの気持ちだけだった。
◆
「成績。落ちたんだってな」
中をペニスで擦りながら屋敷が言った。誰から聞いたんだろう、と思ったけれど、深くは考えられない。何故なら僕は軽くイキながらそれを聞いているからだ。うん、と言おうとした口を開いて出たのは喘ぎ声だけだった。
「メスイキも出来るようになったし、セックスの時間減らして一緒に勉強するか?」
ゆっくりと焦らすように動きながら屋敷が告げた。それは疑問形のかたちをとっていても、既に決定事項であり、僕に拒否権はない。
「それともセックスしながら勉強する? 膝の上に座って、俺のをケツに挿れながらやんの。ハハ」
どこかにありそうなアダルト動画のようなことを屋敷は言った。本気かどうかは分からない。でも彼は馬鹿げたようなことでも実際にしてみせることもあるから、返事をするのが怖かった。
「まぁそれじゃ、お前がイキまくって勉強にならねーか」
ふ、と笑って彼はその提案を冗談にした。僕のせいにされたけれど、それでも良い。ペニスを中に挿れられながら勉強するなんて馬鹿なことはしたくない。
僕が黙ったままでいると、彼は少し強めに奥を突いてきた。
「あっ」
「このまま俺とヤリまくってたらさ、奨学金貰えなくなるけど、どうする? 学校辞めて、……俺の家に住み込みで働くって名目でお前のこと囲ってやんのもアリだけど。お前の親には上手く言っといてやるよ」
熱を帯びた目と共に告げられた言葉に、僕は慌てて首を横に振った。僕はまだ人生を棒に振りたくない。強くそう思った。ここまで好きにされて、今のところ屋敷の思い通りにしか進んでいない状況なのに、何故かそう思ったのだ。どう考えてももう、僕の人生は彼のものなのに。
反射的に拒否を示してしまった僕を、屋敷は目を細めて見下ろした。唇が歪み、嫌な形に笑んでいる。
「嫌なのかよ」
「あ……ち、違う……っ」
「何が違うって?」
怖い。けれど、このまま先程の提案が嫌なのだと思われることのほうがもっと怖かった。僕は彼が嫌いで憎くて離れたいけれど、そう思っていることを悟られることほど恐ろしいことはない。僕は彼が好きで、セックスするのも嬉しくて、いつも一緒にいたいと思っている……彼にはそう思っていて欲しかった。そうすれば優しくして貰えるからだ。
「聡司は俺のことが好きなんだろ? じゃあ俺と一緒に暮らせんのは嬉しいんじゃねーの?」
冷たい目で見下ろされると心臓が痛くなる。ドクドクとセックスの興奮とは違う理由で早鐘を打ち始めた胸を左手で押さえながら、必死に言葉を紡いだ。
「あ、あの、……い、一緒に学校行きたくてっ。こ、高校生活、昴くんと、その……一緒に……過ごせるの、今だけ、だから……っ」
「……ふーん。それはさ、学校で俺とセックスしたいってこと?」
飛躍した結論に言葉を失う。どこをどう解釈すれば、そんなふうに思えるんだ。やっぱり屋敷は頭がおかしい。
そう思いながらも僕は首を縦に振る。そうするしかなかった。
「ハハッ、なにお前、学校でセックスするの、そんなに良かったのかよ?」
「う、うん」
「……俺も好きだぜ、お前と学校ですんの。廊下で足音してさ、見つかりそうになったとき、お前の中すげー締まって気持ち良いし」
明け透けな物言いに、僕の顔は赤くなる。嫌だった。けれど何も言い返せない。こんな恥ずかしいことを言われても反論ひとつさえできない僕など、屋敷とっては馬鹿にできるうえ、いつでも抱ける都合の良いセックスの相手としか映っていないのだろう。中に出しても妊娠しないし、便利なオナホだと思っているに違いない。それならそれで構わないから、早く飽きてくれないだろうか。
「ああっ、あっ」
ペニスを奥まで挿れた状態でグリグリと回すように押し付けられる。思わず僕は上へ逃れようとシーツを握った。
「こら、逃げんな」
「ご、めんなさい……っ」
自分は悪くないのに謝ってしまう。謝罪の言葉を言えば屋敷の機嫌が良くなるから、彼の声に少しでも苛つきが混じれば僕は、反射的に謝るようになってしまった。
「悪いと思ってんならさ、お前からキスしろよ」
屋敷は僕の体を折り曲げ、顔を近づけて僕の唇を舐めた。無理な体勢のまま上から体重をかけられると、ペニスが奥に当たって結腸まで挿入されそうで怖い。直腸を犯されるのさえ普通ではないのに、それ以上内側の内臓までペニスを挿れられるのは、何回やられても恐ろしかった。
ちゅ、と音を立てて自分からキスをする。キスを早く終わらせて、それで満足して貰って、普通のセックスで終わらせて欲しかった。なのに屋敷は僕の必死の行為を鼻で笑う。
「ハハ。子供かよ」
膝の裏に腕を通され、腿を腹に押し付けられた。
「俺たち、もっとすげーエロいことしてんのにさ……かわいすぎんだろ」
「ん、ん……っ」
「ん、おい、口開けろよ。そんで舌出せ」
屋敷は一旦僕の口に唇を重ねたあと、不機嫌そうに命令する。今日は何度も苛つかせてしまった、と怯える僕は、震えながら彼の命令に従った。口を開いて舌を前に突き出す。屋敷はそれをパクリと口に含むと強く吸い上げた。僕の舌は彼の口の中に引き込まれて、そこでねっとりと彼の舌に絡めとられる。唾液をまぶされ、甘噛みされ、根元までジュルジュルと吸われた。
屋敷とのキスはいつも僕を絶望の底へと叩き落とす。好きでもない、むしろ嫌いな、しかも同じ男にそんなことをされても気持ち悪いはずなのに、僕の体は違う反応を示すのだ。
「ん、んぅ」
塞がれた僕の口からは甘い声が漏れ、ペニスは緩く芯を持つ。直腸は勝手に、奥深く挿れられたままの彼のモノをキュウキュウと締めつけた。それから逃れるかのように、屋敷は再び腰を動かし始め、僕の唇を解放した。
「ホント、さぁ……キスハメ好きだよな、聡司は」
両手を絡めとられ、ベッドの上に押さえつけられる。
「もっとしてやるから、ケツだけでイケよッ」
再び僕は唇を塞がれ、腰を打ちつけられた。パンパンと肉の当たる音と、ズチュズチュというローションの押し出される音が響く。口で息ができない僕は、酸欠になりそうな頭でそれを聞いていた。体は勝手に反応し、触ってもらえないペニスからはカウパーが垂れ落ちる。
気持ち良い、と思った。射精したい、とも。加えて、屋敷との行為でそうされるのは嫌だと思う気持ちもあった。でもそれはとても弱く、快楽の波に攫われて消えてしまう程度のものだった。ゴリゴリと奥に当てられる感覚は恐ろしい。結腸に挿れられるのは怖い。けれど、訳が分からなくなるほどの気持ち良さも知っている。
「んぅっ、んんっ、んっ、んぅっ」
屋敷の動きに合わせて、塞がれたままの僕の口から声が漏れた。押さえつけられたままの両手にはじっとりと汗が滲む。前立腺をペニスで何度もきつく擦られ、奥までズップリと挿れられたあとギリギリまで抜かれる感覚に、僕の頭は徐々に白く染まっていく。この感覚は良く知ったものだった。
イキそう。
腹の奥が切なくなり、閉じた瞼の裏に星が散る。軽くイッているような感覚が連続して僕を襲う。自分の直腸が誘うようにうねるのを感じた。
「ぷはっ、ハッ、ハッ、ハッ」
唇を離した屋敷は、腰の動きを大きく、そして激しくする。
「んぁ、あっ、あ、あ、あっ、い、イクッ、イクッ、ああっ」
勝手に締まる直腸から強引にペニスを引き抜かれる感覚が最高に堪らない。気持ち良い。
「い、イクッ」
「おら、イケよっ」
ヒダがめくれてしまいそうなほど抜かれたあと、奥まで一気に貫かれた瞬間、僕はイッた。体を折り曲げられたせいで目の前にあるペニスからは何も出ていない。あれだけカウパーを漏らしていたのに。脱力感に包まれながら、僕はそんなどうでも良いことを考えていた。
屋敷は力を失った僕の体をキツく抱きしめ、奥に挿入したまま腰を小刻みに動かしている。奥を刺激されて僕はまたイッた。
「あ、あ、ひっ、んっ」
イッたせいで中が更に締まったのか、屋敷のペニスから精液がビュルビュルと吐き出される。僕の直腸はそれを余さず受け止めながらもなお、締め付けを緩めなかった。自分の体なのに思い通りにならない。中になんか出されたくないのに。急速に力を失った屋敷のペニスからもっと搾り取ろうとするかのような動きをする自分の体を持て余し、僕は何度目かの無力感に打ちひしがれた。
◆
意外なことに、屋敷はセックスの時間を減らすことにしたらしい。その日から屋敷の部屋にいる時間の半分は一緒に勉強することになった。そして期末考査の二週間前からセックス自体をしなくなった。
僕には決定権が無いので、屋敷が決めたことに従うしか無いのだけれど、これは純粋に嬉しいことだった。何しろ体が楽だ。毎日させられていた行為が、如何に体力を奪うものだったのか、改めて自覚する。二週間のうち、一度だけ我慢ができなくなったらしい屋敷に抱かれたけれど、体力が回復していたからなのか、そのときのセックスではそれほど疲れを感じなかった。
一緒に勉強するようになり、改めて僕は屋敷の頭の良さに感嘆することとなった。理解するのが早く、要領もいい。時間をかけて勉強し、成績を保っていた僕とはそもそも出来が全く違うのだということを思い知らされた。
そして彼は教えるのも上手かった。僕の苦手な箇所を的確に見抜き、簡潔に説明してくれる。要点を抑えたそれは分かりやすく、短期間で僕の理解は進んだ。これならば期末考査で挽回できるかもしれない。そう思うと勉強すること自体が楽しく思えた。
図書館の自習室のテーブルで僕と向かい合わせに座り、下を向いて問題集をこなしている屋敷の姿は確かに絵になるほど格好良かった。これほど見た目が良いうえに背も高く、運動もできて勉強も出来るのだから、屋敷がモテるのも納得できる。僕がもし女の子だったらきっと黄色い声援をあげていた側だっただろう。しかし現実は違う。彼は僕をいじめ、犯し、支配しているのだから。
試験の二週間前に加えて試験期間である一週間、合計三週間の間、屋敷がセックスをしたのは、あの一度きりだった。
放課後、一緒に帰って家や図書館で勉強する。分からない箇所を教えてもらい、ありがとう、なんて礼を言う。そして、滅多にないことだったけれど、屋敷が苦手で僕が得意な教科を教えることもあった。あー、なるほどなー、と言って僕の頭に手をやる彼の様子は、普段の屋敷とはまるで違うものだった。彼の友人たちには、こういう面しか見せていないのだろうか。もし僕が彼の友人という立場だったなら……。
そう思いかけて首を横に振る。そんなことはあり得ない。女の子だったらとか、友人だったら、なんて妄想は馬鹿げている。くだらない妄想をしたところで現実は変わらない。期末考査が終われば屋敷はまた僕を犯し、元の生活に戻るのだ。
そして予想通り、期末考査が終了した週の金曜日、僕は屋敷の家に泊まる約束をさせられ、激しく抱かれた。固くて太いペニスで中を擦られ、その刺激で僕は射精し、それから射精しない絶頂を何度も経験させられた。最後には屋敷に突かれるたび体が痙攣し、情けなさからじゃなくあまりの気持ちよさから、僕の体は涙を流して喜んだ。屋敷はそんな僕を見下ろし、嬉しそうに笑っていた。
家に帰れたのは日曜日の夕方で、二日間あまり眠れなかった僕は帰るなり自室のベッドへと倒れ込んで月曜の朝まで眠り続けることになった。
◆
屋敷との勉強会の効果は、期末考査の結果へ如実に現れた。
成績は中間考査どころか、それ以前よりも上がり、奨学金への不安は解消された。親も喜び、担任には、この調子なら変更した志望校に合格できるかもな、と無責任なことを言われる。僕はその大学には行きたくないというのに、担任も両親も、悪気なく応援の言葉を僕によこした。
「このまま勉強は続けるか」
そう言った屋敷は言葉通り、これまで毎日していたセックスの頻度を半分に下げた。それが一日おきになったおかげで僕の体はずいぶん楽になる。セックスをしない日は帰り際にキスをするだけで、この日もそうだった。
「んっ……」
僕の口の中を掻き回していた舌が出ていき、唇を離す。背中に回った腕が僕を抱きしめて、しつこかったキスのせいで熱くなった僕の頬が彼の肩口に押しつけられる。
「……あー、ヤリてぇな」
呟くように屋敷が言った。その言葉を聞くと、僕の体は一瞬にして強張る。昨日したから今日はしないのだと安心しきっていたから余計だ。握りしめた手のひらが汗に濡れ、背中にも冷たいそれが流れる。
「冬休みさ、予備校の冬季講習に通えって親が言ってきてんだよ。大丈夫だって言ってんのに」
僕の首筋に唇を触れさせながら屋敷が言った。以前から屋敷が両親から受験に向けて予備校へ通うように言われていることは聞いていた。進学校の定期考査で毎回トップかそれに近い成績を取っているから必要ないと親に主張していたらしいが、高校二年生の冬ともなれば、いよいよそうもいかなくなってきたらしい。
「朝から夕方まで、電車乗ってわざわざ市のど真ん中のさぁ……お前との時間が減るから行きたくねぇんだけど」
ため息をついた彼は、唇をつけたその場所をチュッと吸う。
「んっ」
「折角の冬休みなのにさ、……俺と会えなくて、お前は平気?」
熱い吐息がかかり、僕の意志とは関係なく体が反応した。ズボンにしまいこんだシャツを引っ張られ、裾から手を入れられる。熱くなった素肌に冷たい彼の手が這い回り、僕は喘いでしまった。
「あっ、あっ」
「この……乳首とかさ、ケツとか」
言いながら屋敷は僕のアナルへと指先を挿れる。ローションも何も付けていないから、皮膚が引きつれて痛かった。
「俺に触って欲しくて寂しくなるだろ?」
「う……うん、さび、し……っ」
「毎日会いたいよな?」
「あ、あい、たいっ」
屋敷にしがみ付きながら必死に返すと、彼は満足そうに笑って指を抜いてくれた。
「冬休みの初日から通うことになったから、それまで寂しくないように毎日抱いてやるからな?」
「……えっ、あ、あの、でも、勉強……」
「だからさ、勉強のあとセックスすんだよ。お前も我慢できねぇだろ?」
言いながら屋敷は僕の脇の下に腕を入れ、抱き上げるようにしてベッドへと乗せてしまった。そのまま押し倒され、ネクタイとシャツのボタンを外される。シャツも、アンダーシャツも脱がされ、手際良くベルトもスルリと抜かれ、スラックスまで脱がされてしまうと、僕の身につけているものは下着と靴下だけになってしまった。
いつものようにサイドチェストからローションを取り出し、屋敷は手のひらに中身をとる。
「足広げろ」
逆らえない僕が言われるがまま足を広げると、屋敷は僕の下着の裾から手を入れてきた。ローションに塗れた手が裾を引っ張り、そのままアナルへと侵入する。ツプッと中指が入り、僕の背筋に悪寒が走った。
「閉じんなって」
「あ、ご、ごめんな、さいっ」
無意識のうちに閉じかけていた膝を開く。屋敷は満足げに笑うと、唇を歪めたまま僕のアナルへ二本目となる薬指を突っ込んだ。
「ひ、あっ」
「痛く無いだろ。何回もヤッて、こんなのより太いの突っ込んでよがってんだし」
馬鹿にしたような物言いに、僕は顔を上げられなかった。いくら僕が彼に逆らえない立場だからと言って、こんな言いかたは酷い。けれど、言い返せない。顔を背け、唇を噛むことくらいが僕にできる精一杯だった。
「あ? なんだよ、その態度」
屋敷が僕の態度を見咎め、顎をグイッと掴まれる。反対の指はアナルに入ったままで、僕の感じるところをグリッと押された。当然、声が出てしまう。
「ひっ、いっ」
「俺にこうされて感じてんだろ?」
高圧的な物言いの屋敷に、僕はすぐに後悔して白旗をあげた。
「ごめんな、さい……」
「か、ん、じ、て、ん、だ、ろ?」
謝罪の言葉は受け入れられず、屋敷は僕の顎を掴む手に力を入れた。痛い。けれど、それよりも、怖い。恐ろしい。
だから僕は頷き、彼の望む答えを口にする。
「気持ちいい、ですっ、か、感じて、あっ、僕、感じてっ……んんっ」
「…ハハッ。分かってるって、チンポ勃ってるし。……お前、ホントすぐ濡れるよな」
屋敷は僕の顎を離し、アナルに挿入した指二本をバラバラの方向へ動かした。前立腺を捏ねるように動かされ、僕のペニスはトロトロとカウパーを流す。怖いのに、なのに、気持ちがいい。こんな場所に指を突っ込まれて好きに蹂躙されているろいうのに、僕の体は喜んでいる。嫌だ、嫌だ。
こんなことはやめて欲しい。けれど屋敷は僕の中へ人差し指をも突っ込んできた。
「すっげートロトロ。三本目もすぐ入ったな♡」
嬉しそうに言う屋敷は、快楽に悶えることしかできない僕を満足げに見下ろしている。
前立腺を内側から押され、それから指で挟むようにして捏ねられた。ローションを足され、ジュプジュプと音を立てながら中を擦られる。
「あ、ああっ」
「気持ちよさそーな顔してる。……俺にこうされるの好きだろ?」
「ん、うん、……好き、……もっと…し、して、ほしい」
やめて欲しいのに、ねだるような言葉を僕は発した。そうしないと屋敷が怒るからだ。僕は屋敷が好きで、屋敷にアナルをいじられるのが好きで、いつだって彼のペニスを中に入れて欲しいと思っている。僕は屋敷の恋人で、そういう関係になれたのが嬉しくて、彼とセックスをするのが大好きなのだ。……屋敷の中では、僕はそうあるべき存在だった。だからそういう風に振る舞わないと何をされるか分からない。
彼に嫌われるのは怖いし、何より報復が恐ろしかった。無関心になってくれるのが一番なのだけれど、今のところ、そんな素振りは全くない。早く僕に飽きて他の人間にターゲットを移して欲しいと思っているが、それも上手くいっていない。従順にしていればつまらなくなって、そのうち飽きるだろうと思っているのだけれど、屋敷の僕への執着は止むことがなかった。
だから僕は彼の機嫌を取るしか無い。望む言葉を吐き、反抗せず、逃げることもしない。逆らわずに彼を受け入れて、セックスをして、……ひたすら耐えながら彼が僕への興味を失う日を待つしかないのだ。
「……指だけで満足できんの、聡司?」
僕のアナルが充分に広がったころ、彼が聞いた。その声は欲望に塗れ、僕を犯したいという意志が感じられる。だから僕は自分から足を開き、これまで何度も言わされてきた言葉を今回も口にした。
「昴くんのおちんちん、ここに……ぼ、僕の中に、挿れてください」
諦め、という感情をその言葉に乗せてしまったのかも知れない。投げやりに言ったつもりはなかったけれど、屋敷は僕に、その先のことを問うてきた。
「……挿れて、どうしてほしい?」
「えっ」
屋敷の問いに対して僕は返答に詰まる。いつもなら挿れてくださいと言えば挿入され、奥をガツガツと突かれているうちに訳が分からなくなって射精し、中に射精されてセックスが終わっていた。
急にそんなことを聞かれても、答えなんて分からない。屋敷のようなおかしな人間がどういう返答を望んでいるかなんて僕には分からなかった。
「えっと、あの、……」
額から汗が流れ落ち、僕は答えを求めて屋敷の顔を見上げる。
「あの? 何だよ? 早く言えよ。お前がして欲しいようにしてやるからさ」
屋敷は僕を見下ろし、ニヤニヤと笑いながらそう言った。僕は何度か口を開き、閉じたあと、何とか言葉を絞り出す。
「僕に挿れて、あの、……す、昴くんに、気持ち良くなって欲し……です」
「ハハッ」
懸命に考えた言葉は不正解だったらしい。屋敷は笑い声を上げただけで僕に挿入してくれなかった。自分から足を開いた体勢のまま、僕は情けなさで泣きそうになる。嫌いでたまらない相手にこんな屈辱的なポーズを取って、自分の体で気持ち良くなって欲しい、なんてことまで言ったのに挿れてもらえない。とても惨めで恥ずかしくて、だから僕は口を開き、小さな声で謝罪した。
「ご、めんな、さい……ま、間違え……て、ぼ、僕……」
「いいよ。好きだから許してやる」
許すも何も、僕は悪いことなんてしていないはずなのに、屋敷はそんな風に言葉を返す。そして僕はその言葉を聞いて、締めつけられるように苦しかった胸が楽になるのを感じた。こんなのはおかしいと思うのに、安心した僕は更に媚びた笑顔まで返してしまう。屋敷は僕の反応を見ると、柔らかな笑顔を見せた。
「好きだぜ、聡司」
「……ぼ、僕も、好き……」
答えると屋敷の顔が近づいたから、僕は目を閉じて彼の唇を受け入れた。口を開け、入ってきた舌に自分からそれを絡める。唾液を送り込まれて飲み込むと同時に、屋敷のペニスが僕の体内にググッと挿入された。
「ん、んむっ」
「ハハ、かーわいー」
唇を離した屋敷が呟く。こんな痩せた薄っぺらい体しか持たない僕のどこが可愛いというのか。別に顔がいいわけでも無い。背も低いし、勉強以外の何かが良く出来るわけでもない。可愛いなんて言葉は小さなころ、両親と祖父母にしか言われたことのない言葉だ。
膝の裏を手で押さえられ、僕の両足は左右に大きく開かれたままベッドに押し付けられた。尻が上を向き、ペニスがアナルへと差し込まれる様子が見えてしまう。そして、僕のペニスが勃起している様子もだ。
キスをされて挿入されるだけで前を勃たせるなんて、おかしい。おかしいのに、気持ちが良かった。その証拠に、屋敷のペニスが根本まで挿れられたと同時に、僕のペニスから精液がダラダラと垂れ落ちる。押し出されるように漏れたそれは、僕の意志では止められなかった。
「あああっ、あっ」
腹に落ちたそれは、腰を持ち上げられた姿勢のせいで、胸までゆっくりと流れた。
「……ほら、気持ち良いんだろ? すげー出てる」
「あ、あ……」
「だからさっきの正解はさ、昴くんのおちんちんで僕のことを気持ち良くしてください、だ」
屋敷が僕の奥を突いてくる。そのたび、僕のペニスから先ほどの挿入で出き切らなかった精液がピュルピュルと押し出された。恥ずかしい、いやだ、止めてほしい、と思っても口に出せない。さっきの問題に不正解だったから、そんな間違った言葉を言うわけにいかない。
「う、うう、あ、あっ」
「んー? ……エロすぎんだろ、お前。またイクって? どうせならメスイキしろよ」
「あ、あ、あっ、あっ」
卑猥な言葉を投げかけながら屋敷は僕の体を蹂躙する。折り曲げられ、苦しい姿勢で僕は屋敷のペニスを受け入れ、喘いだ。前立腺を潰すように擦られ、直腸の奥に亀頭をゴリゴリと押し付けられるのが気持ち良い。さっき射精したばかりなのに、また陰嚢が迫り上がってくるのを感じる。
「ま、またっ、で、出る、出るからっ、あっ、あっ」
「出さずにイケってんだろ」
「あ、そ、んな、あっ、あっ、あ、無理、で、でちゃ……っ」
情けない声をあげ、僕は二回目の射精をした。今度は屋敷に揺さぶられているせいか、勢いのついたそれは僕の顔までビュルッと飛び散る。その状況に呆然とする僕を見つめ、屋敷は目を細めて笑った。そして親指で僕の頬についた精液を拭い、ペロリと舐めてしまった。
「え、あ、……」
「うぇ、まっず。……好きな奴のなら少しはマシなのかと思ったら、やっぱ不味いのな」
当たり前だ。分かりきっているのに、何故そんなものを舐めてしまったのか分からない。僕より頭が良いくせに、この男は本当に何を考えているのかさっぱり分からなかった。
「……聡司。今度、俺の全部飲もうな?」
「……え?」
「メスイキできなかった罰。俺の命令、聞けなかっただろ? だから、な♡」
あまりにも滅茶苦茶な論理を振りかざされたせいか、僕は反論すら忘れて、ただ屋敷を見上げることしかできなかった。
そのあとも屋敷は僕の体を解放せず、好きなように突っ込み、中に何度も射精した。
僕の口は開いたままで、喉が痛い。けれど奥を突かれて気持ちが良いから、喘ぐことを止められなかった。
「あっ、あっ、ああっ、あっ、あああっ」
奥まで挿れられ、ズルズルと抜かれる。僕の体はその抜かれるときが好きだった。ゾワゾワとした感覚が背筋を辿り、腰の辺りまで突き抜ける。ついさっきも射精したはずの屋敷のペニスはまだ固さを保っていて、僕の中のイイところを擦っていた。
「気持ち良いな?」
荒い息の合間に屋敷が問いかける。
「ん、ん、きもち、い……っ」
「ハハ。……お前のココ、俺のが溢れてきてる」
「う、ぁっ」
指でアナルの縁に触れられた僕は、思わず体をビクつかせた。プックリと腫れたような感覚がするそこは、恐らく赤く染まっているに違いない。
「……チッ、締めんなって。また……出んだろ」
「ご、ごめんなさい……っ」
眉根を寄せて屋敷が言ったから、僕は慌てて謝った。中に出されるのは僕で、それでお腹を壊すのも僕なのに。
「つかさ、何回もヤッてんのにさ、なんでこんなに締まり良いんだよ? 俺のことが好きすぎて腹ん中キュンキュンしちゃうとか?」
ニヤけた顔でそう言ったあと、屋敷は僕の前立腺を意図的に潰すような動きで腰を動かし始める。好きか、と聞かれれば、好き、と答えなければならない。だから僕はいつものように口を開いた。
「す、好き……、昴くん」
もう壊れた機械のように同じ言葉を繰り返すだけなのに、屋敷は満足そうな顔をする。セックスのたびにこんな不毛なことを繰り返すなんて、どうかしている。僕と彼の関係はいつまで経っても平行線で、交わることはおろか、近づくことさえないのに。
「俺も好きだ。嬉しいだろ?」
「……ん、う、嬉しい」
こんな体にされて、進路さえ決められてしまい、望みなんて消えてしまって、もう僕なんてどうでも良いと思ってはいるけれど、だからといって僕が屋敷を好きになることは一生無い。
「ほら、ここ、お前の好きなトコ」
「あっ、き、きもち、いいっ、んっ」
酷い目に遭いたくないから好きだと言ったり自分から挿れてほしいと言っていても、それは勿論本心じゃない。僕の本心は……屋敷が目の前からいなくなってくれないか、という叶わない望みがひとつ、それだけだ。自分から何かをする勇気なんてない。だから、どこかの誰かが屋敷を別の場所へ連れ去ってくれるか、それとも僕を連れ去ってくれるか、もしくは屋敷が僕以外にターゲットを移してくれるか……。
「だから締めんなって」
「ご、めん、なさいっ、あっ、あっ」
屋敷は僕の進路を勝手に決め、一緒に東京の大学に進学することに決めてしまった。わざと試験に落ちることも考えてはみたけれど、そんな浅はかな考えはとっくに見透かされていた。屋敷は、たとえ僕が試験に落ちても連れて行くという。一緒に暮らして屋敷の世話をしながら浪人しろ、と、生活費なら出すから、と言われている。恐ろしいことに、そのための根回しを既にし始めているらしい。僕の両親も、また説得されてしまうのだろう。そうなれば僕に断る術はない。
「すげ、きつっ……あー、出る出る出るっ」
「な、中はっ、んんんっ」
東京に行けば変わるだろうか?
こんな地方都市だから彼は、たまたま身近にいた僕にしか目を向けないだけで、東京のような人の多い都会に行けば、僕よりももっと屋敷の好みに合う人間がいるかもしれない。そんな人間と出会えば、きっと屋敷はそっちに目を移す。そうすれば僕の役目は終わり、解放されるに違いない。
「中、出すぞっ」
「あ、ああっ、あああっ」
思考の中に一筋の光が見えた気がして、それに縋るつもりで僕は屋敷の体に腕を回した。一瞬驚いた反応を見せた屋敷は、しかしすぐに僕を抱きしめ、ペニスをグイッと奥に押し付け射精する。
生暖かい液体が中に出されるのを気持ち良いと感じてしまう自分の体が嫌だった。中に出されればほぼ確実に体調を崩してしまうというのに、そんなものを出されて喜んで、更に搾り取るような動きをしてしまう体が気持ち悪い。
でもそれが、大学生になって東京で屋敷が僕以外に目移りするまでの我慢だとしたら、何とか耐えられるかもしれない。
進路を勝手に決められたことで僕の人生まで屋敷の思い通りにしかならないのだと諦めていた真っ暗な僕の未来が、急に開けたような気になった。
「……どうした? 聡司。ん? 急にしがみついて……んなに気持ち良かった?」
「っ……う、うん……すごく、よ、よかった」
考え込んでいたせいで少し反応が遅れる。けれど屋敷は怒らず、それどころか、僕に対して少し微笑んで見せた。
「なら、ちゃんと感謝を言葉で表さねぇとな?」
「え、あ……」
音を立てて僕の唇にキスを落とした屋敷は、笑顔のまま僕に強要する。最初に間違えた言葉を、今度は間違えずに言えと、彼はそう言っているのだ。だから僕は口を開き、彼の望む言葉を告げる。
「す、昴くんの、お、おちんちんで……僕のこと、き、気持ち良く……し……してくれて、……あ、あの、……あ、りがとうござ……」
「ハハッ。……やっぱお前以上のヤツなんていねーよ。最高。……ちゃんと言えて偉い偉い。頑張ったな、聡司♡」
僕の言葉を途中で遮り、屋敷は上機嫌で僕の頭を撫でた。その手はそのまま頬を滑り、唇を無理矢理開けさせ、中の舌と上顎をくすぐり始める。そうされると僕のペニスはすぐに反応し、それを見た屋敷もまた、僕の中に挿入したままのそれを固くした。またするのか、と身を固くした僕を、しかし屋敷はゆっくりと抱きしめる。腰を密着させたまま動かさず、彼は指で開けさせた僕の口にキスをした。
チュプ、と音をさせて唇を離しても屋敷は腰を動かさず、僕はただ抱きしめられるだけだった。いつもとは異なる態度に僕の心はざわつき始める。気づかないうちに何かしてしまったのだろうか。怒らせて、これから酷いことが起こるんじゃないだろうか、これは嵐の前の静けさというやつじゃないのか、と。
「……聡司」
名前を呼ばれ、恐る恐る顔を向けると、再び唇を重ねられた。頭の後ろに手を添えられ、逃げないように押さえられてはいるけれど、それ以外は優しく扱われる。舌を絡められたせいで僕のペニスが震えると、屋敷はいつもとは違った丁寧な手つきでそれを擦った。
「ん、んっ」
「……はぁっ、……お前は信じてねーと思うけどさ、……俺はお前のこと、……本気で……その、……好きなんだぜ?」
唇を離して息をついた屋敷がいつものように好きだと言ってくる。ペニスを擦られて快感に溶けそうになっていても、僕はこれにすぐ返事をしないといけない。気持ちが良くて、判断力が鈍っていても関係ない。僕は屋敷にそうしろと強要され、そう返すように躾けられたからだ。
「ぼ、僕も、好きッ……す、昴くんのこと、好き」
ペニスを擦られる快感を堪えながら必死に返す。酷い目に遭いたくない一心で答えた僕を、屋敷は無言のまましばらく見つめた。
「……ハハッ、知ってるって」
沈黙のあと、そう言うと屋敷は僕のペニスから手を離し、ゆっくりと腰を動かし始めた。奥をグリグリと押され、抜かれ、その動きが段々激しくなる。
「あ、あっ、あっ、あっ」
それはいつものやり取りだったから、正解の言葉を返せたことに安堵した僕は、更に激しくなる動きから生まれる快感に身を任せて目を閉じた。
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最後に本気で告白したけど条件反射で返されただけのとこ好きだなぁ。
残念ながら当然の反応。
これから気持ちが重ならない好きに苦しくなっていくのか、果たして。
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