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いじめっ子に犯されたいじめられっ子の話
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「……もう昼休み、終わるから…」
直腸に射精されたあと、とにかく彼から早く離れたい一心で僕は彼の胸に手をつき、軽く押してみた。
昼休みが終わるにはまだ十五分ほどあるけれど、それまでに精液を掻き出して体を拭き、脱がされて床に丸められたままの制服を着なければならない。十五分でも足りないくらいだ。ベルトを外して前をくつろげただけの彼とは、身なりを整えるのにかかる時間が違う。
「も、戻らないと…」
滅多に人が来ない、と彼が言った空き教室には昼休みの間、確かに誰も来なかった。廊下を歩く足音さえしなかった。それは多分、ここが彼の属するグループが使っている、『ヤリ部屋』だと皆が知っているからだ。
僕は今年の春までの一年間、そのグループにいじめられていた。
無視されたり、少し揶揄われたりするだけなら良かったのだけれど、行為はすぐにエスカレートして、物を隠す、捨てられる、落書きされる、破かれる、なんてシャレにならない段階に進んだ。それでも耐えて反応しなかった僕はトイレや空き教室に連れ込まれ、制服を脱がされて自慰を強要されるようになった。
反抗すれば、もっと酷い目に遭う。だから黙って耐えていたのに、そうしていたら行為は更にエスカレートしてしまった。
男とヤったことないから、僕で試してみたい。
二ヶ月前、僕の自慰をスマホで撮影しながら彼が僕に言ったのだ。周りには彼の友人二人もいた。
「……え、マジで言ってんの?」
「アハハ、女抱きすぎて飽きたって?」
半笑いの彼らの反応に、てっきり冗談として終わらせるのだろうと思った彼の反応は、しかし違った。
「すっげー締まるらしいし。お前らもヤってみたいだろ?」
グループのリーダー格。地元の代々続く名家の三男で、顔も頭も体格もいい。裏ではこんなことをしているくせに、周囲の大人やグループ外の生徒たちには優秀だと思われている彼に逆らえる奴なんていない。
友人二人は曖昧な笑いを顔に張り付けて、ああ、と頷いた。
それから僕はいじめられなくなった。
代わりに彼らとセックスするようになった。僕の意思じゃない。僕は男と、それも彼らとセックスなんてしたくない。
今だって、射精が終わったのだからペニスを早く抜いて欲しくて仕方がない。今日の相手はリーダー格の彼一人だけだったからまだ良かったけれど、それはただ、三人を相手にするよりもマシだというだけで、決して僕の望むものではなかった。
「…早くしないと昼休みが……」
終わってしまう、と続けようとした僕の唇は塞がれた。
「ん、んっ、うぅ……」
胸を押そうとした手は掴まれ、指を絡められて床の上で拘束される。抵抗できなかったのは、彼の舌が僕の口の中でヌチュヌチュと動いていたせいだ。気持ちが悪い。昼休みに入って早々、この部屋に連れ込まれたせいで昼ご飯を食べ損ね、お腹には何も無いはずなのに吐き気がする。
チュプッ。
キスに満足したのか、彼はようやく口を離した。僕の唇と口の中は彼の唾液でベチャベチャに汚れている。早くトイレに行って口をゆすぎたい。綺麗なタオルで口を拭いたい。
そう思いながら彼を見上げると、彼はじっと僕を見下ろしていた。
「……なぁ。名前、呼べよ」
「……え?」
意味が分からなくて聞き返してしまう。聞き返してしまってから僕はハッとし、目をかたく瞑って首をすくめた。
「名前。ほら。目、閉じてないで」
彼をイラつかせたから罰を受ける。僕はそう思っていた。けれど代わりに与えられたのは優しげな声と、頬を撫でる大きな手だ。
そろっと目を開けると、先ほどと変わらず彼は僕を見つめていた。その目には僕の反応を面白がる残酷な光が見え隠れしている。僕はそれが怖かった。
「や、屋敷…くん?」
「違うって。下の名前」
不正解の答えを言ってしまったせいなのか、彼が腰をグイ、と動かした。
ブヂュッ。
「ああっ」
幾分柔らかくなったとは言え、まだ質量のあるペニスを奥に突き入れられたせいで、奥から溢れてきた精液とローションの混合物が僕の尻で派手な音を立てる。
内臓が押されて苦しいのに、彼はペニスをその位置に留めたまま、もう一度聞いてきた。
「ほら、呼んでみ?」
「…す、昴く、あっ、あっ」
名前を呼んだ途端、固さを取り戻していた彼のペニスがさらに奥を鋭く抉る。
「あ、あぅっ、はっ、や、やめ、て、も…じ、時間っ」
ヌチュッ、ヌチュッ。
ローションがぬめる音がして彼のペニスが僕のアナルに抜き差しされる。仰向けで床に転がっている僕の、まだ挿れられたことのない場所をこじ開けたいのだとでも言うように、彼は僕を貪る。
「名前っ、呼べっ、て、言って、るだ、ろッ」
「あ、や、すば、る、くっ、あ、あっ」
痛みをこらえて名前を呼んだ。捕えられ、絡められたままの指に力が込められる。
「ん、気持ちい、って…、言えっ」
最近、彼は僕にそう言わせたがるようになった。キスをされても、体を触られても、そして…セックスをしても僕はそんな風に感じたことはない。それを証明するように、彼らとこんな行為をしている間、僕のペニスは一度も勃ったことがなかった。今だってそうだ。体の奥を突かれながら、僕のペニスは力を失ったまま腹の上でユラユラと緩慢に揺れている。
以前、彼が僕のモノを勃たせようと尻の中の前立腺を探ってくるのが嫌で、『勃ってないけど気持ちいい』と言ってしまったのを間に受けているのかどうかは分からないけれど、たびたび彼は僕にそう言わせたがるようになった。
「ん…きもち、いっ……昴くんっ、気持ちいいよっ、あ、ああっ、いい……っ」
僕の中の彼のペニスが固くなる。彼の口から漏れる声も余裕がなくなってきているように思えた。
何でもいい。何だって言ってやるから、嫌でたまらないこのセックスを早く終わらせてほしい。
ヌチュッ、ヌチュッ、ヌチュッ、ヌチュッ。
「あ、あっ、きもち、いっ……すば…るく、んっ」
「…ふっ、く……っ、ん……、も……イキそっ」
呟くように言った彼の言葉に合わせて、僕は自分の尻に力を入れた。締まりが良いという理由で僕を使い、性欲処理をしているのだから、早くこれでイケばいい。
思い切り力を込めるため、ギュッと目を閉じて体全体に力を入れる。絡められたままの指にも力が入り、指先が白くなった。体がフルッと震え、彼のペニスを締め付ける。
「ん、……聡司っ」
彼が僕の名前を呼んだ。サトシ。中野、という名字じゃなく下の名前で呼ばれ、寒気がした。見えない何かで縛られたような、そんな気がする。
そんな僕の気も知らず、震える僕の中に彼は二回目の射精をした。
◆
結局五限目には遅刻した。彼はサボれば良い、なんて言ったけれど、そういうわけにもいかない。自分ですると言ったのに、トイレの個室に押し込められて彼に精液を掻き出されたあと、僕と彼は教室に戻って授業を受けた。
「聡司」
そして六限目が終わり、帰る用意をしていると、さっさと部活に行って空いた前の席に彼が腰を下ろした。
今までずっと中野、と呼ばれていたのに、昼休みのセックス以降、彼は僕を名前で呼ぶようになってしまった。
「や、屋敷く…」
「名前」
冷たい声に、ビクッと体が震えてしまう。
「なになに~。屋敷さぁ、中野が怖がってんじゃん」
後ろから馴れ馴れしい声がして肩をガシッと抱かれた。軽そうな物言いと声だけで、振り返らなくても分かる。彼の友人で僕を犯す三人のうちの一人、箱崎だ。
「てか、聡司って。いつから名前で呼ぶようになったの」
「……箱崎」
屋敷が箱崎を睨みつけた。低く地を這うような声と相まって、それはとても恐ろしいもののように感じられる。
友人とは言え、屋敷と箱崎の間には明確な上下関係があった。だからなのか、箱崎は慌てて僕の肩から手を離すと、誤魔化すような笑みを顔に貼り付ける。
「あ~…アレだ。今日はどうすんの?」
「今日はナシだ」
「……えぇ? 昨日も一昨日も俺、ヤってね~んだけど!」
箱崎の顔から笑みが消え、不満げな表情が現れた。あまり頭の良く無い彼は、屋敷を恐れているはずなのに、こういった感情をすぐに表に出してしまう。屋敷はそこが分かりやすくて良いなんて言っていた気がするけれど、それが本心なのかどうか、僕には分からないし、興味もなかった。せいぜい仲間内で揉めればいいのに、というのが正直な感想だ。
「箱崎」
大きくなった声を嗜めるように、背後から手が伸びて箱崎の口が塞がれた。
「声、抑えなよ」
僕を犯す最後の一人、伊藤が僕の横に立った。丁度三人に囲まれるようになり、僕は逃げることができなくなる。
「……昴。昼休み、シてたんだろ?」
「……ああ」
伊藤の問いかけに、屋敷はきまりが悪そうに頷き答えた。箱崎に対してとは態度が違う。偉そうに接することは接するのだけど、二人の間には、どこか気心の知れた風なところがあった。
そう言えば、と僕は思い出す。
伊藤は屋敷の親戚で、幼馴染だと聞いたことがあった。生まれた時からの付き合いらしく、伊藤は彼の扱いかたを良く知っているようだった。それなら彼を、もっとマトモな道に導いてくれれば良かったのに。恨めしく、そんな風に僕は思う。学校でいじめていた相手を、それも男を、無理矢理犯すような……
「聡司。部活行くからついて来い」
三人に囲まれ、俯きながら心の中で悪態をついていた僕は、屋敷の声に弾かれたように顔を上げた。
「あ、ぁ…う、うん」
肯定の返事をしながらも、なぜ僕が、と思う。僕はどの部活にも入っていない帰宅部だ。なのに屋敷は自分の部活に付き合わせ、終わるまで待たせる。早く帰って疲れた体を休めたいのに、意味が分からない。いじめられていた時は、こんなことなんて無かった。
「コイツ、待たせとくんだったらさぁ」
先に席を立った屋敷を追いかけるため、すぐに立ち上がった僕の腕を箱崎が掴む。教室を出ようと歩き始め、背中を向けていた屋敷がゆっくりと振り返った。
「何?」
「その間、ヤっとくわ。どうせコイツも暇なんだし」
箱崎も屋敷と同じバスケ部だったはずだけれど、サボりを決め込んで僕とセックスするらしい。その宣言に寒気がする。
帰宅や部活への移動のため、教室はザワザワとしていた。誰も僕を取り囲む三人がそんな話をしているなんて思わないだろう。
「……は?」
屋敷の低い声が僕の後ろに立つ箱崎に向けられた。
「…箱崎。冗談も大概にしな。部活だろ、お前も」
サッカー部に入っている伊藤が僕の腕から箱崎の手を離す。見上げると、伊藤は屋敷の傍に行けと言わんばかりに顎で彼を指し示した。
「冗談、って…」
小さく呟く箱崎を背に、僕は屋敷の傍へと走り寄る。すると彼は人目も憚らず、僕の肩を抱き寄せて歩き始めた。これじゃあまるで友達みたいだ。それも、仲の良い。
「や、やしき……ぁ、昴くん…肩、離して…」
「黙れよ」
控えめにしてみた抗議は敢えなく却下される。僕はそのままバスケ部の活動が行われる体育館へと連れて行かれた。
◆
「なんだ、ここ柔らかいままじゃん」
部活動はまだ終わっていない。屋敷は体育館で、伊藤はグラウンドでそれぞれ部活動をしているはずだ。
なのに僕は箱崎と部室棟の使われていない部屋にいた。廃部になったバトミントン部の部室だったそこは、鍵がかけられていたはずなのに、どうやって手に入れたのか、彼はその部屋の鍵を持っていた。
内側から鍵を閉められた狭い部屋の中、僕は中央の折畳式のテーブルの上にうつ伏せのまま上体を乗せた格好で尻を彼に向けて突き出すような姿勢をとらされる。箱崎はそんな僕の足を広げ、用意していたローションのパウチを切ると、中身を僕のアナルにトロリと垂らして指を突っ込んできた。
「昼休みヤッてたってマジだったんだ」
箱崎の指が僕の中でグニグニと動かされる。
「く、るしっ、…やめて、箱崎くんっ」
悲しくないのに生理的な涙が目からあふれてきた。僕はただ、言われた通り体育館の近くで屋敷を待っていただけなのに、何故こんな目にあっているのか。
「屋敷にはヤラせたんだろ? な~に嫌がっちゃってんの?」
グチュ、グチュッ。
アナルに指を抜き差しされ、ローションが音を立てる。恥ずかしさと情けなさで、新たな涙が僕の頬を濡らした。
屋敷を待っていた僕は、練習中に怪我をしたとかで部活を抜けた箱崎に連れられ、こんなことをされている。怪我をしたから保健室についてきて、なんて分かりやすい嘘をつかれた時点で分かってはいたけれど、自慰の動画を撮られている僕には拒否という選択権は最初から無かった。彼らがヤリたいならヤラセるしかない。
「すぐ挿れられそ~」
背後から能天気な声がする。
屋敷もそうだけれど、箱崎もバスケ部だけあって付き合う女子には困っていないはずだった。確か彼女だっていたはずだ。なのに彼らは僕のアナルに突っ込みたがる。痛いのに。こんなに気持ち悪いのに。
セックスを毎日したがって彼女に嫌がられないため、その分の性欲を僕の体で処理しているんだろうか。疑問に対する答えは少し前に自分で考えた。自分で考えたはずのその答えに、己が道具か何かになったような気がして傷ついてしまう。現実のほうがもっと傷付けられているのに、道具扱いなのだ、という自覚は僕の心を痛くした。
「じゃあ挿れるね~、中野クン♡」
ふざけた言いかたで箱崎が僕にペニスを挿入してくる。屋敷よりは細く、圧迫感は少なかった。けれどやっぱり体に無理なモノを挿れられている感覚がする。抜いてほしい、とそれだけを僕は願った。
「あっ、あ…っ、…いたい、痛いっ」
「も~ちょっと我慢な。…ん、も、ちょいっ」
ズプッ。ニュプッ。
ローションの滑りに助けられ、箱崎のペニスは僕の直腸を押し広げながら奥へと突き進む。昼休みに一度広げられたとは言え、異物は異物だ。それに箱崎は僕の体の負担も考えず、ただ自分の思うまま、好きなように突っ込んでくるので痛くてたまらなかった。
少しでも痛みを和らげようと体を動かし、何とか挿入の角度を変えようと試みる。そうして足を広げ、腰を少し下ろしてみた時だった。
ニチュ、ニチュ、ジュプッ。
ヒクッと体が反応する。
「ん、…奥まで入った」
「あ、あ……」
「ここまで挿れたの初めてじゃん? 気持ち良い?」
屋敷でさえまだ挿れたことのない奥まで挿れられてしまった感覚があった。行き止まりの手前の肉が押され、腹の奥に切ない感覚が生まれる。
「あ~…なんか、奥がキュンキュンしてる。…屋敷がさぁ、まだ全部挿れんなってうるさかったから挿れらんなかったんだよな~。んなに気持ちい~のに」
「……ん、ぁ、ぁ……」
ペラペラと軽薄に話す箱崎の下で、僕は目を見開き、口を大きく開けて息をする。得体の知れないものが生まれ、ジワリと沈んでゆく初めての感覚に、僕は拳を握りしめて必死に耐えた。何なんだ、これ。痛いのに、何か分からない別の感覚が僕の中に確かに存在する。
「じゃ、しよっか。セックス」
宣言と共に箱崎は腰を動かし始めた。
パンッ、パンッ、パンッ。
僕の都合など全く関係ない腰つきで箱崎は自分の快楽のみを追い求める。
「ひ、ひぅっ、痛い、やめっ、抜いて、箱崎くんっ、お、おねがっ」
脳天を突き抜けるような激痛が僕の体を貫いた。こすられた部分が熱を持ったように、すごく痛い。痛くてたまらない。けれどその痛みに安心感を覚える。さっきのような得体の知れない感覚に襲われるより、慣れたこの痛みのほうが、僕はまだ大丈夫なのだと落ち着けた。
「ヤッベ、めちゃくちゃ締まるしっ。抜くとき絡みついてくんのサイコー。……そりゃ屋敷も独り占めしたくなるって、なっ」
「嫌だ、いやだっ、あ、箱崎く、おねが、ああっ、ン、やめて、痛いっ」
ローションの音をさせながら抜き差しを繰り返し、箱崎は軽そうな口調で僕のアナルの感想をベラベラと喋っている。僕はその間、セックスの衝撃でガタガタと音を立てるテーブルにしがみつき、必死に痛みをこらえていた。
パンッ、パンッ、パンッ。
「う、あ、痛い、抜いて、抜いてっ」
「あー、も、イクわ、イクイクッ」
箱崎が小刻みに腰を動かす。コンドームを付けていないから、彼もまた僕の中に射精するんだろう。涙を流して痛いと訴えながら、それでも終わりが近いことを知って安心した時だった。
バンッ!
僕と箱崎の背後の扉がいきなり開け放たれた。射精の寸前だった箱崎は振り返り、言葉を失ったようだった。彼に覆い被さられていた僕には何が起こったのか分からない。ただ、彼のペニスが唐突に引き抜かれ、彼が殴り飛ばされたことは分かった。
ガシャガシャン!
箱崎の体は積まれていた折畳式の椅子の山にぶつかり、止まった。山は崩れ、倒れた箱崎は入り口を見つめたまま動きを止めている。
「聡司っ!」
テーブルに突っ伏したまま尻からローションを垂れ流している僕の体に、バスケ部のジャージがかけられた。僕のサイズよりも大きなそれは、裸の尻までを覆ってくれる。
「ぁ……」
僕が体を起こすよりも先に、僕の体はたくましい腕に抱きしめられた。
「やし……き、くん……」
屋敷に抱き起こされた僕の視界に、鍵の壊れたドアの向こうに佇む人影が見えた。バスケ部の顧問や保健室担当の教師、それに伊藤も。
「あ、あ……なんで、見られ……っ」
屋敷と伊藤だけなら問題は無かった。どうして先生たちまでいるんだ。混乱した僕は、股間を露出したまま呆然としている箱崎を見、それから僕を固く抱きしめている屋敷を見上げた。
「なんでっ……!」
「聡司。もう大丈夫だから、俺が来たから、聡司、聡司っ」
僕にはそれが芝居がかった演技だと分かる。けれど屋敷の本当の姿を知らない教師たちには友人を心配する優しい生徒のように見えるだろう。
「は…離し、て、や、屋敷く…ん……」
ズボンとパンツを膝まで下ろされ、ついさっきまで箱崎にペニスを突っ込まれていた僕は、涙に濡れたままの顔で、僕を離そうとしない屋敷から離れようとした。彼がどういうつもりでこんな救出劇を繰り広げたのか分からない。
大体、学校には教室も部室もたくさんあるのに、箱崎がこの部屋に僕を連れ込んだなんて、どうして分かったんだ。箱崎が僕を抱きたがっていたのにそれを止めて、なのに僕を独りで待たせたのも何か思惑があったのかと思う。
もしかしたら箱崎が持っていたこの部屋の鍵は、屋敷が渡したものなのかも知れない。
そこへと考えが至ると同時に、僕は自分を抱きしめる男が恐ろしくてたまらなくなった。
「は、離し、…やし……ん、ぅっ」
けれど屋敷は、ドアに背を向けたまま僕の頭を抱き込んだ。そして、離すように言い続ける僕の唇を唇で塞ぐ。まだ部屋の外で呆然と立ち尽くしている教師たちからは見えないように触れ合わせたそれは、すぐに離れた。
「お前は俺の、だから」
妙に優しく呟いた屋敷の腕にもう一度力が入り、抱きしめられる。呼吸が苦しくなるほど強く抱きしめられ、僕は目の前が暗くなるのを感じた。
◆
僕が学校を休んだ二週間のうちに、箱崎は退学処分になっていた。
その原因が僕を強姦したからだ、という事実を知っているのは数人の教職員と屋敷、それに伊藤だけだ。けれど屋敷が所属し、箱崎が所属していたバスケ部の連中から噂は広がっていた。
いわく、箱崎は学校で僕を何度も犯していて、最近僕と仲良くなった屋敷は僕から相談を受け、箱崎をなんとか止めようとしていた、のだそうだ。
笑ってしまう。屋敷は用意周到で、僕をいじめていた時から一切証拠を残さないようにしていた。目撃もされないよう、いじめもセックスも、行為は常に人目につかない場所で行われていた。
けれど、学校関係者に事情を聞かれた際、『屋敷くんの言った通りです』と真実を話さなかった僕にも責任はあると思う。本当のことなんて誰にも言えない。箱崎は真実を言ったのだろうか。仮に言ったとしても、あんな場面を見られた以上、信用なんてしてもらえなかったと思うけれど。
警察沙汰にしたくなかった僕の意向を汲んだ両親は、『頼りになる屋敷くん』の家に間に入ってもらい、箱崎の親と話をつけたらしい。気がつけば箱崎の家は空き家になり、行方は誰にも分からなくなっていた。もう箱崎に、どうしてあの部屋で僕を犯したのかを聞くことすらできなくなった。
教師連中にも生徒たちにも、屋敷は地元の名家の三男の優等生としか映っていない。
僕にだって真実は分からない。僕が知っているのは屋敷のある一面だけだ。伊藤も箱崎も、きっとカケラほどの真実しか知らないのだろう。全てを知っているのは屋敷だけだ。けれどそれも、単なる僕の憶測にしか過ぎない。
◆
「聡司、屋敷くんが迎えに来てくれたから早くしなさい」
朝の七時四十五分。母親に言われ、僕はカバンを片手に玄関へと向かった。靴を履き、ドアを開けるとそこには屋敷が笑顔で立っている。
「おはよう、聡司」
「………お、おはよう」
あれから屋敷はこうして毎日、僕の登下校に付き添うようになった。僕の両親は、強姦された息子を救ってくれただけでなく、アフターケアまで担ってくれる、友達思いの素晴らしい友人、と屋敷のことを評価している。反論はできないし、本当のことなんて言えなかった。いじめられていた頃の自慰の動画はまだ屋敷と伊藤の手の中にあるからだ。
再び僕が学校に行き始めて一ヶ月が経っていた。事件から一ヶ月と半月経っていても噂はまだ消えていない。それどころか新たな噂が流れている始末だ。
噂では、元々男が好きな僕は自分を助けてくれた屋敷に惚れていて、抱いてほしいと常々思っているらしい。
それもこれも、付き合っていた彼女と別れて僕の世話を焼くというポーズと取っている屋敷のせいだった。
「あ、あの…や、屋敷くん…」
「聡司。名前で呼ぶって約束だろ?」
駅に着いて電車を待っている間、僕は屋敷に話しかけたけれど、爽やかな笑顔でそう返され、出鼻を挫かれた形になってしまう。おかしな噂を否定したくて、屋敷と距離を取りたい僕の試みはことごとく失敗していた。この名前呼びを名字呼びに戻す、という試みもその一つだ。
「……昴くん」
「何? 聡司」
「あ、あの、…もう迎えに来なくて」
「先輩、おはようございます!」
意を決し、うつむいていた顔を上げて口を開いた僕の言葉に、体育会系の挨拶が見事に被る。屋敷はそちらを見、片手を上げて笑顔で挨拶をした。
「おはよう、三宅に須藤」
「先輩、今日も中野さんのお迎えですか?」
「…ああ、聡司がまだ…少し、不安だって言うから。…な?」
屋敷に逆らえない僕は、せめてもの抵抗で返事をしないことにし、再びうつむいた。すると屋敷は少し離れて立っていた僕の肩を抱き込み、自分のほうへと引き寄せる。
「…ごめんな。まだ俺と伊藤以外の男は怖いみたいで」
屋敷は挨拶もしない僕の態度を後輩たちに謝罪した。
まるで茶番だ。僕が箱崎に犯されたことは公然の秘密になっていた。生徒は誰も知らないはずなのに、誰もが知っている。屋敷はこうして噂を定着させていく。
「中野サン、自分の面倒見させるために屋敷先輩と彼女、別れさせたって」
「あ、それ、俺も聞いた」
挨拶を終え、屋敷が告げた僕の、『男嫌い』に気を使って離れていった後輩たちの話し声が聞こえた。聞こえないように言ったのが聞こえてしまったのか、聞こえるように言われたのが思惑通りに聞こえたのか分からない。
「気にするなよ」
屋敷が後輩たちから見えるように、僕の頭を撫でる。
セックスをするときに見せる顔とは全く違う爽やかな笑顔と態度が恐ろしい。僕を犯している、あの時に見せる顔のほうがまだ安心できる、と僕は思った。
◆
授業が終わると僕は屋敷と共に体育館へと向かう。屋敷と一緒に下校するため、部活が終わるまで体育館のすみでバスケ部の練習を見学するのだ。
本当なら部員以外が体育館に入るのは許されない。けれど僕は、『あんなこと』があったのだから、と部のエースである屋敷が顧問に直談判したため、特例として認められることになった。
屋敷に大切にされている。特別扱いされている。それは僕を針の筵に置く行為だった。やめてほしい、ひとりで帰れる、そう言っても屋敷は聞いてくれない。それでも強行しようとすると、僕の親に連絡が行き、一緒に帰ってくるようにと逆に僕が親から叱られ、説得される始末だった。
今日はバスケ部の部活が早めに終わり、僕は屋敷に連れられて、まだサッカー部が練習を続けているグラウンドへと向かった。数人の女子がフェンス越しに彼らの練習を眺めている。やっぱりサッカー部も人気があるんだな、と僕は思った。
そのサッカー部の人気者の一人である伊藤が屋敷を見つけ、こちらへ走り寄ってくる。
「屋敷。もう帰り?」
「ああ」
「今日も?」
「ああ。…お前は?」
「…俺はいい。屋敷だけで、どうぞ」
簡単な会話が終わり、伊藤は練習へと戻っていった。最低限の言葉数で今日のこれからの予定が決められていく。僕はこれから屋敷の家に連れて行かれ、そこで彼とセックスするのだ。
◆
屋敷の家は名家らしく豪華で大きい。敷地もかなり広くて、屋敷の部屋は離れにあった。トイレもバスルームも併設されていて、母屋にいるお手伝いさんたちはインターホンで呼び出さない限り、こちらに来ることはない。
トイレとバスルームで準備を済ませた僕は、裸のままベッドに腰をかけた。
「なんだ、聡司。ヤる気満々? 服、着ないの?」
学校とは違い、砕けた口調で屋敷が言った。言いながら僕の隣に座り、僕のむき出しの胸を撫でてくる。
「ど、どうせ…すぐ脱ぐし……」
それに、早く始めて早く終わらせたい。心の内は秘めたまま言わなかった。
「…舌出せよ」
言われたまま舌を出すと彼のそれに絡められ、深く長いキスをされた。
「ん、ぅ…」
口の中を舌で弄られながら柔らかいベッドに押し倒される。上顎の裏を舐められながら胸を撫でられ、乳首をつままれた。指先で弾かれ、こねられる。寒気がしそうなその行為を、僕は感じているフリをしながら必死に耐えた。
「ここ、少しは感じるようになった?」
「ん……うん……」
「…の割には反応、イマイチなんだけど。…相変わらず勃ってないし」
屋敷が僕の股間をチラリと見る。快楽を感じているか、女じゃないから騙せない。フニャッとしたままの僕のペニスはいつまで経ってもそのままだった。キスをされても、体を触られても、感じるのは吐き気だけなのだから仕方ない。
「た、…勃ってなくても、その…気持ち、い……から」
「…ふーん。……ま、時間はたっぷりあるから……急いでないし、良いんだけど」
無理矢理な僕の言い訳を全く信用していない態度で聞いた屋敷は乳首から手を離し、体を起こして片手で僕のペニスを、反対の手でアナルを弄り始めた。
「ひ、…ぃ、あ……そ、んな、急にっ」
つぷんっ。
まだ濡らしてもいない指がアナルに入り込む。洗浄したから濡れてはいるけれど、摩擦が大きくて指先の少しの部分しか入らない。引きつれた皮膚が痛くて、僕は懇願した。
「ぬ、濡らして、…い、痛いからっ」
「……何回もしてるし、大丈夫じゃね?」
そんなわけない。屋敷だって分かっているはずなのに、僕の必死の言葉を笑いながら聞いている。
「おね、お願いしますっ、ぬ、濡らして…くださ、い」
「……なんで?」
屋敷の目に、あの嫌な光が浮かぶ。僕の反応を面白がる残酷な光だ。
「な…んで、って……挿れるのに、痛いから…」
「挿れてほしいの?」
どうしてそんな展開になるのか分からない。挿れてほしいなんて、そんなわけがない。
返事を戸惑っていると、ペニスをこする手とアナルに添えられた指に力が込められた。ググッと押された指は引きつれた皮膚を引っ張り、そのままさらに中へ入ろうとする。
「い、いた、痛いっ」
「なぁ、してほしいことがあるんだろ? なら、お願いしろよ」
残酷な光はますます強くなった。お願いならさっきしたのに。そう思いながら、屋敷がいつもローションを取り出すベッドサイドのチェストに目をやる。
「ほら。自分でさ、穴広げて、俺の顔見ながら言って?」
答えを与えられた僕は言われた通り、仰向けのまま足を曲げ、自分のアナルに指をかけてゆっくりと開いた。そして羞恥に赤くなった顔のまま屋敷の顔を見上げる。
「こ、ここ…、濡らし…て、ください……お願い、し、ますっ」
「ハハ。…だから、なんで? なんで濡らしてほしいわけ?」
やっぱり同じ問いを返された。そんなことを言うのは恥ずかしいし嫌だった。でも言わなければ痛くて苦しい目に遭ってしまう。僕の指は震え、力を失い、広げた穴が閉じてしまいそうになった。慌てて指に力を入れ、さっきよりも少し大きく開かせる。
「中まで丸見え。…セックスしまくってるのに、すごく綺麗な色してる」
「い、挿れ……てほ、ほしい…からっ」
屋敷がフッと笑い、唇を歪ませた。
「誰に?」
「す、…昴くん…に。昴くんの…お、…おちんちん、こ、ここに…挿れてほしいっ。だ、から、…濡らして……濡らして、く、ださっ……ぅ、ヒック」
言いながら僕は泣いてしまった。どうして僕がこんな目に遭うのか。何故こんなに恥ずかしいことを言わなければならないのか。挿れたければ挿れればいい。勝手に挿れて、腰を振って射精すれば良いのに。
痛かったけれど、まだ箱崎に犯された時のほうがマシだったと感じる。箱崎は自分勝手でセックスの間もベラベラとよく喋る奴だったけれど、こんなに僕の心を折ろうとしてくることはなかった。
「……聡司。泣き顔、めちゃくちゃカワイイ」
アナルを広げて泣きじゃくる僕の顔に、屋敷は何度も唇を寄せた。
「ホントはお前のこと、気持ちよさで泣かしてやりたいんだけど……聡司は俺とのセックスだと全然感じてくれないから」
あの爽やかな笑顔で僕を見つめ、屋敷はそう言った。それは、僕が…セックスで気持ちいいと感じて泣けば、もうこんなことを言わされることは無いということなんだろうか。けれどこれも、僕を操ろうとする彼の言葉の一つなのかもしれない。
それについて深く考える前に屋敷はチェストからいつものボトルを取り、中身のローションを僕のアナルへと垂らした。
「あ、つ、つめたっ」
「今日は奥まで挿れてあげる」
僕の指で広げた穴に、屋敷が自分の中指と薬指を入れてきた。
ズチュッ。
「あ、うぅっ…!」
一気に奥まで挿れられて、僕は思わずうめき声を上げた。目に溜まっていた涙が目尻からこぼれ落ちる。昨日も一昨日もしたから、別に痛いわけじゃない。単に衝撃を与えられた反射で声が出てしまっただけだ。彼の指の形もペニスの形も、僕のアナルはもう覚えてしまっている。それを分かっているのか、彼も激しく指を抜き差しさせ、そこを指の太さに馴れさせた。
三本目の人差し指も難なく入り、さらにローションを継ぎ足される。グチュグチュという音だけは慣れなくて恥ずかしさが募るけれど、僕のアナルは数分もしないうちに彼の指の太さに拡がった。
「…こんなもんかな。じゃあ挿れるよ?」
彼のペニスが僕のアナルに触れる。息を詰めそうになった僕は、慌てて息を吐いた。前屈みの姿勢になった彼が僕の頭を撫でてくる。
「そうそう。息、ちゃんとして。な?」
ズプッ。
亀頭が僕の中に入り込む。
「今日は俺の、全部挿れるから。形、しっかり覚えて」
その言葉に僕は、箱崎の言葉を思い出した。
『屋敷がさぁ、まだ全部挿れんなってうるさかったから挿れらんなかったんだよな~』
耳に残る声とともに、腹の奥に感じた切ない感覚が蘇ってくる。思わずブルッと震えた僕を見て、屋敷は面白そうに笑った。
「…箱崎の奴さぁ」
笑いながら彼はズブズブとペニスを僕の体に埋め込んでくる。
「ぅ、ぁ、ぁあ…、んっ…」
「聡司の中にチンポ、根本まで全部挿れたんだって?」
「ひ、あ、あっ…!」
いつも彼が挿入を止める場所を過ぎた。屋敷が挿入するのはいつも、彼の指で解される深さまでだった。そこから先は箱崎にしか挿れられたことがない。
屋敷が小刻みに腰を揺すり、指で解されていないそこを亀頭にこじ開けられる。内臓が上へ押し上げられる感覚がして苦しかった。
「アイツもさ、めちゃくちゃするよな……せっかく聡司のこと、大事に抱いてたのに」
「う、ぁ、あぁっ、く、るしっ……おなか、押されっ」
「まぁアイツのは短かいから結腸までは多分届いてないし…そこは安心っ…してた、…んだけどっ」
奥に行くにつれ、僕の直腸は屋敷の侵入を拒み始めた。狭くてまだ柔らかくない場所が屋敷の亀頭を締め付け、奥へ進もうとするのを引き止めるようだった。けれど自分で望んでそうしているわけじゃない。僕の体が勝手に、彼に開かれるのを拒絶しているのだ。
「く、るしっ……す、昴くんっ、や、やめて、あ、ああっ」
「一ヶ月半も経ったしさ…流石に、も……奥は、処女みたいにキツく戻って、…って、キツすぎるけどな、これっ」
グイッと彼が強制的に腰を進めた。
「い、あ、ああっ……!!」
体の中に痛みが走る。無理矢理開かされたそこは、箱崎に挿れられた時におかしな感覚を覚えた場所だった。
「い、やだ、嫌だ、そこっ……! あ、昴く…やめっ」
直腸が押され、そこよりも奥に切ない感覚が蘇る。
「あ、だめ、だめっ、怖いっ」
「……はぁっ、すごくカワイイ。…聡司、その顔、もっと見せろよ」
屋敷は上体を乗り出すようにして僕の唇に自分のそれを被せてきた。上から押さえつけられるような姿勢は、彼のペニスを僕の中により深く埋め込ませる。
「んんんっ、んぅー…っ!」
嫌だと言ったのに、彼は僕のさらに奥までギチギチと亀頭を進ませた。僕は首を振り、彼の唇から何とか逃れ出る。
唇から唾液を垂らし、肩で息をして涙が滲んだ目で見上げた僕を、彼は嬉しそうに見下ろした。
「……やっぱりお前、俺の思った通りだ」
自分の下唇をペロリと舌で舐め、彼は再び上体を起こした。挿入の角度が変わり、僕の体が悲鳴をあげる。
「い、痛いっ……!」
「痛いだけじゃないだろ?」
言いながら彼は腰を揺すり、僕の中の本当の奥底までペニスを突き入れてきた。箱崎に挿れられた場所のもっと奥、切なさが生まれ、沈んでいった場所だ。彼はそこを亀頭で優しく何度も突いてきた。
トンッ、トンッ、トンッ、トンッ。
「ヒッ、ヒァッ、あっ、あっ、ひ、いっ、あああっ」
腰を揺らされ、一定の間隔で突かれたそこが、僕の中の行き止まりだということが自分でも分かる。何度も何度も突かれ、痛みは鈍くなって、痺れに似た感覚が僕の全身に広がっていった。喉をのけぞらせ、手は抵抗もせずにただシーツを握りしめ、僕は口を開けて足を開き、喘ぐことしかできない。
「ここ、抜けたら結腸なんだけど……ここ突くだけでも、聡司、すごく気持ちよさそ。……んなに良いんだ、ここ?」
「ん、んぁっ♡、ああっ、あっ♡、あっ♡」
「……聡司。気持ちい、って言ってみ?」
「あ、あっ、ん、い、いいっ♡、気持ち、いっ♡」
痺れに似た感覚は既に変質していた。その正体が快感だったということを彼が教えてくれる。
僕は教えられるがまま、ただ、気持ちいいという言葉を繰り返した。
「じゃあさ、昴くん好きって。ほら。言えたらもっと気持ちよくしてやるから」
笑いながら彼が言うように仕向けた言葉を、何も考えられなくなっていた僕はそのまま繰り返した。
「あ、す、ばる、く……、す、すきっ♡、…すき♡、すばる…くんっ♡、あ、すき♡、すきっ♡」
「……ヤバい。そんなに俺のこと好きなんだ。ハハッ」
うわごとのように繰り返す僕の背中に腕を回し、屋敷は僕の体を持ち上げた。そしてそのまま自分の膝の上に僕の体を乗せてしまう。
「はっ、はぁっ♡、す、ばる、くっ…♡」
「約束だしな、もっと気持ちよくなろうな」
屋敷は僕の腕を自分の首に回したあと、僕の膝を曲げ、その下に自分の腕を通した。それから膝立ちになって僕の尻たぶを両手で掴む。
「落ちないように、ちゃんとしがみついてろよ?」
ちょうど駅弁と呼ばれる体位になった僕の体は自重で下へと下がり、彼のペニスを体のより深くまで受け入れる形になった。
「ひ、ぃ、あっ……!」
さっきまでトントンと突かれていた行き止まりの場所が、彼の亀頭によってジワジワと開かれていくのが分かる。
「あ、あ、い、嫌だ、こ、こわっ、あ、あああっ」
「怖くないって。ほら、ここ抜けたらすごく気持ちいいから。気持ちいいの、好きだろ、聡司」
小さな子供のようにしがみついた僕の耳元で、彼が優しく囁いた。
「ん、んぁっ、あ、は、入って、く……っ、あっ♡、ん♡、っく、ああっ♡」
「……ほら。気持ちいい。だろ?」
「あ、ああ♡、んっ♡、は♡、あ♡、んぁ♡ ♡、あっ♡」
喘ぎ声しか出せない僕の頬に屋敷はそっとキスをした。それから僕の体をしっかりと抱え込み、上下にゆるゆると揺すり始める。動きに合わせて僕の結腸には彼の亀頭がグポグポと出入りを繰り返した。
「気持ちいいな……ほら、見てみ? お前のチンポ、勃ってる」
「ん♡、んっ♡、はぁっ、あ♡、…た、たって、ぅ♡、ん♡、きもちいっ♡ ♡、きもち、いっ♡ ♡ ♡」
今までセックスで一度も勃ったことのない僕のペニスは勃起し、ダラダラと透明な液体を流していた。
「俺もすっごく気持ち良いよ。ん、お前の中、奥まで、はぁっ、熱くて良く締まるっ」
僕を揺すりながら彼がそう言い、喘いで開いたままの僕の口に口付けた。舌を絡められ、優しく吸われる。チュッ、チュッと音をさせて唇も吸われ、僕はそこからも与えられる快感に耐えるために彼の首に回した腕に力を込めた。
キスが気持ちいいなんて感じたこと無かったのに。
白くモヤがかかったような頭でぼんやりとそう思う。彼の言う、結腸という場所にペニスを挿れられ、僕の体はいやらしいものに変わってしまったんだろうか。屋敷の熱い手のひらが、唇が、触れてくる場所が全て気持ちいい。
「すばるく、んっ……、ぁ、気持ちい♡、ん…い、いいっ♡」
彼にしがみついたまま肩に頭を擦り付けて喘ぐ。もう一度彼の唇が重なり、そうしている間に僕の中の彼のペニスがさらに固く大きくなったのが分かった。
「はぁっ、ん……ナカ、出すから、聡司の結腸の、俺しか知らない場所ッ、ん、くっ……うっ!」
僕の腰が限界まで落とされ、彼のペニスがグッポリと結腸に入り込む。そこで僕の体は固定され、彼は奥に向かって長い射精をした。
ビュルッ、ビュルルルッ。
射精をされている間、僕は自分の体内にドクドクと脈打つペニスを感じていた。こんなに奥で射精をされたことなんてない。熱い精液を腹の奥に感じながら僕は強烈な眠気に襲われ、そのまま意識を失った。
◆
目が覚めると、窓の外は暗くなっていた。慌てて起きあがろうとした僕は、しかし、横から伸びてきた手に押さえ込まれて再びベッドの上に押し倒された。
「……ぁ」
「おはよ」
屋敷がそう言いながら僕の頭を撫でる。
「ぁ…あの、今、時間……」
「もう八時。流石にその体じゃ家まで帰れないだろ? …今日は泊まらせるってお前の家に連絡してあるから」
そう言いながら彼は僕に軽くキスをした。
ヒクンッ。
唇が触れ合っただけなのに僕の体は敏感に反応する。そんな僕の様子を見て、彼は嬉しそうに舌を入れるキスをしてきた。
「ん、ぁ、ふっ……」
ヌチュ、ピチャッ、ジュルッ。
舌を吸われながら、唇の端から僕は甘い声を上げた。こんな風になってしまうなんて自分の体が信じられない。
「……まだセックスの余韻、残ってるな。体、敏感なままだし」
喉の奥で笑う彼の手が僕の尻に触れた。かけられたシーツの中の体は裸のままで、アナルはまだローションに濡れていた。
チュプッ。
彼の指が柔らかいままのアナルに入り込む。
「ん……ぁ、はぁっ」
「俺が出したの、だいぶ掻き出したんだけど、まだ奥に残ってるかも」
長い指が直腸を進み、根本まで入れられたあと、そこでグニグニと動かされた。
「ん、んっ……や、やめ、て……」
「聡司、中だけでイケそうだったけどイケなかったな」
もう一度キスをされる。そのまま指を引き抜かれた。
「ひ、ぁ……」
「明日また頑張ろうな」
彼はそう言うとベッドの上に起き上がり、僕の背中に腕を回して同じように起こさせた。体の節々が痛くて悲鳴をあげてしまいそうな僕は、大人しく彼に従う。
「腹減っただろ。風呂入ったあと、一緒に食べよう。用意させておくから」
まるで愛し合っている恋人のような態度で彼は僕の体を抱き込み、立ち上がらせた。フラつく僕は、そんなことをされて嫌だと感じる心があるのに、彼にすがりつくしかバスルームまで歩く術がない。
「……聡司、カワイイ。…愛してる」
彼の腕に抱えられてヨロヨロと歩く僕を見つめた彼は、あの爽やかな、けれど、どこか信じられない雰囲気を纏う笑顔で僕に愛の言葉を囁いた。
直腸に射精されたあと、とにかく彼から早く離れたい一心で僕は彼の胸に手をつき、軽く押してみた。
昼休みが終わるにはまだ十五分ほどあるけれど、それまでに精液を掻き出して体を拭き、脱がされて床に丸められたままの制服を着なければならない。十五分でも足りないくらいだ。ベルトを外して前をくつろげただけの彼とは、身なりを整えるのにかかる時間が違う。
「も、戻らないと…」
滅多に人が来ない、と彼が言った空き教室には昼休みの間、確かに誰も来なかった。廊下を歩く足音さえしなかった。それは多分、ここが彼の属するグループが使っている、『ヤリ部屋』だと皆が知っているからだ。
僕は今年の春までの一年間、そのグループにいじめられていた。
無視されたり、少し揶揄われたりするだけなら良かったのだけれど、行為はすぐにエスカレートして、物を隠す、捨てられる、落書きされる、破かれる、なんてシャレにならない段階に進んだ。それでも耐えて反応しなかった僕はトイレや空き教室に連れ込まれ、制服を脱がされて自慰を強要されるようになった。
反抗すれば、もっと酷い目に遭う。だから黙って耐えていたのに、そうしていたら行為は更にエスカレートしてしまった。
男とヤったことないから、僕で試してみたい。
二ヶ月前、僕の自慰をスマホで撮影しながら彼が僕に言ったのだ。周りには彼の友人二人もいた。
「……え、マジで言ってんの?」
「アハハ、女抱きすぎて飽きたって?」
半笑いの彼らの反応に、てっきり冗談として終わらせるのだろうと思った彼の反応は、しかし違った。
「すっげー締まるらしいし。お前らもヤってみたいだろ?」
グループのリーダー格。地元の代々続く名家の三男で、顔も頭も体格もいい。裏ではこんなことをしているくせに、周囲の大人やグループ外の生徒たちには優秀だと思われている彼に逆らえる奴なんていない。
友人二人は曖昧な笑いを顔に張り付けて、ああ、と頷いた。
それから僕はいじめられなくなった。
代わりに彼らとセックスするようになった。僕の意思じゃない。僕は男と、それも彼らとセックスなんてしたくない。
今だって、射精が終わったのだからペニスを早く抜いて欲しくて仕方がない。今日の相手はリーダー格の彼一人だけだったからまだ良かったけれど、それはただ、三人を相手にするよりもマシだというだけで、決して僕の望むものではなかった。
「…早くしないと昼休みが……」
終わってしまう、と続けようとした僕の唇は塞がれた。
「ん、んっ、うぅ……」
胸を押そうとした手は掴まれ、指を絡められて床の上で拘束される。抵抗できなかったのは、彼の舌が僕の口の中でヌチュヌチュと動いていたせいだ。気持ちが悪い。昼休みに入って早々、この部屋に連れ込まれたせいで昼ご飯を食べ損ね、お腹には何も無いはずなのに吐き気がする。
チュプッ。
キスに満足したのか、彼はようやく口を離した。僕の唇と口の中は彼の唾液でベチャベチャに汚れている。早くトイレに行って口をゆすぎたい。綺麗なタオルで口を拭いたい。
そう思いながら彼を見上げると、彼はじっと僕を見下ろしていた。
「……なぁ。名前、呼べよ」
「……え?」
意味が分からなくて聞き返してしまう。聞き返してしまってから僕はハッとし、目をかたく瞑って首をすくめた。
「名前。ほら。目、閉じてないで」
彼をイラつかせたから罰を受ける。僕はそう思っていた。けれど代わりに与えられたのは優しげな声と、頬を撫でる大きな手だ。
そろっと目を開けると、先ほどと変わらず彼は僕を見つめていた。その目には僕の反応を面白がる残酷な光が見え隠れしている。僕はそれが怖かった。
「や、屋敷…くん?」
「違うって。下の名前」
不正解の答えを言ってしまったせいなのか、彼が腰をグイ、と動かした。
ブヂュッ。
「ああっ」
幾分柔らかくなったとは言え、まだ質量のあるペニスを奥に突き入れられたせいで、奥から溢れてきた精液とローションの混合物が僕の尻で派手な音を立てる。
内臓が押されて苦しいのに、彼はペニスをその位置に留めたまま、もう一度聞いてきた。
「ほら、呼んでみ?」
「…す、昴く、あっ、あっ」
名前を呼んだ途端、固さを取り戻していた彼のペニスがさらに奥を鋭く抉る。
「あ、あぅっ、はっ、や、やめ、て、も…じ、時間っ」
ヌチュッ、ヌチュッ。
ローションがぬめる音がして彼のペニスが僕のアナルに抜き差しされる。仰向けで床に転がっている僕の、まだ挿れられたことのない場所をこじ開けたいのだとでも言うように、彼は僕を貪る。
「名前っ、呼べっ、て、言って、るだ、ろッ」
「あ、や、すば、る、くっ、あ、あっ」
痛みをこらえて名前を呼んだ。捕えられ、絡められたままの指に力が込められる。
「ん、気持ちい、って…、言えっ」
最近、彼は僕にそう言わせたがるようになった。キスをされても、体を触られても、そして…セックスをしても僕はそんな風に感じたことはない。それを証明するように、彼らとこんな行為をしている間、僕のペニスは一度も勃ったことがなかった。今だってそうだ。体の奥を突かれながら、僕のペニスは力を失ったまま腹の上でユラユラと緩慢に揺れている。
以前、彼が僕のモノを勃たせようと尻の中の前立腺を探ってくるのが嫌で、『勃ってないけど気持ちいい』と言ってしまったのを間に受けているのかどうかは分からないけれど、たびたび彼は僕にそう言わせたがるようになった。
「ん…きもち、いっ……昴くんっ、気持ちいいよっ、あ、ああっ、いい……っ」
僕の中の彼のペニスが固くなる。彼の口から漏れる声も余裕がなくなってきているように思えた。
何でもいい。何だって言ってやるから、嫌でたまらないこのセックスを早く終わらせてほしい。
ヌチュッ、ヌチュッ、ヌチュッ、ヌチュッ。
「あ、あっ、きもち、いっ……すば…るく、んっ」
「…ふっ、く……っ、ん……、も……イキそっ」
呟くように言った彼の言葉に合わせて、僕は自分の尻に力を入れた。締まりが良いという理由で僕を使い、性欲処理をしているのだから、早くこれでイケばいい。
思い切り力を込めるため、ギュッと目を閉じて体全体に力を入れる。絡められたままの指にも力が入り、指先が白くなった。体がフルッと震え、彼のペニスを締め付ける。
「ん、……聡司っ」
彼が僕の名前を呼んだ。サトシ。中野、という名字じゃなく下の名前で呼ばれ、寒気がした。見えない何かで縛られたような、そんな気がする。
そんな僕の気も知らず、震える僕の中に彼は二回目の射精をした。
◆
結局五限目には遅刻した。彼はサボれば良い、なんて言ったけれど、そういうわけにもいかない。自分ですると言ったのに、トイレの個室に押し込められて彼に精液を掻き出されたあと、僕と彼は教室に戻って授業を受けた。
「聡司」
そして六限目が終わり、帰る用意をしていると、さっさと部活に行って空いた前の席に彼が腰を下ろした。
今までずっと中野、と呼ばれていたのに、昼休みのセックス以降、彼は僕を名前で呼ぶようになってしまった。
「や、屋敷く…」
「名前」
冷たい声に、ビクッと体が震えてしまう。
「なになに~。屋敷さぁ、中野が怖がってんじゃん」
後ろから馴れ馴れしい声がして肩をガシッと抱かれた。軽そうな物言いと声だけで、振り返らなくても分かる。彼の友人で僕を犯す三人のうちの一人、箱崎だ。
「てか、聡司って。いつから名前で呼ぶようになったの」
「……箱崎」
屋敷が箱崎を睨みつけた。低く地を這うような声と相まって、それはとても恐ろしいもののように感じられる。
友人とは言え、屋敷と箱崎の間には明確な上下関係があった。だからなのか、箱崎は慌てて僕の肩から手を離すと、誤魔化すような笑みを顔に貼り付ける。
「あ~…アレだ。今日はどうすんの?」
「今日はナシだ」
「……えぇ? 昨日も一昨日も俺、ヤってね~んだけど!」
箱崎の顔から笑みが消え、不満げな表情が現れた。あまり頭の良く無い彼は、屋敷を恐れているはずなのに、こういった感情をすぐに表に出してしまう。屋敷はそこが分かりやすくて良いなんて言っていた気がするけれど、それが本心なのかどうか、僕には分からないし、興味もなかった。せいぜい仲間内で揉めればいいのに、というのが正直な感想だ。
「箱崎」
大きくなった声を嗜めるように、背後から手が伸びて箱崎の口が塞がれた。
「声、抑えなよ」
僕を犯す最後の一人、伊藤が僕の横に立った。丁度三人に囲まれるようになり、僕は逃げることができなくなる。
「……昴。昼休み、シてたんだろ?」
「……ああ」
伊藤の問いかけに、屋敷はきまりが悪そうに頷き答えた。箱崎に対してとは態度が違う。偉そうに接することは接するのだけど、二人の間には、どこか気心の知れた風なところがあった。
そう言えば、と僕は思い出す。
伊藤は屋敷の親戚で、幼馴染だと聞いたことがあった。生まれた時からの付き合いらしく、伊藤は彼の扱いかたを良く知っているようだった。それなら彼を、もっとマトモな道に導いてくれれば良かったのに。恨めしく、そんな風に僕は思う。学校でいじめていた相手を、それも男を、無理矢理犯すような……
「聡司。部活行くからついて来い」
三人に囲まれ、俯きながら心の中で悪態をついていた僕は、屋敷の声に弾かれたように顔を上げた。
「あ、ぁ…う、うん」
肯定の返事をしながらも、なぜ僕が、と思う。僕はどの部活にも入っていない帰宅部だ。なのに屋敷は自分の部活に付き合わせ、終わるまで待たせる。早く帰って疲れた体を休めたいのに、意味が分からない。いじめられていた時は、こんなことなんて無かった。
「コイツ、待たせとくんだったらさぁ」
先に席を立った屋敷を追いかけるため、すぐに立ち上がった僕の腕を箱崎が掴む。教室を出ようと歩き始め、背中を向けていた屋敷がゆっくりと振り返った。
「何?」
「その間、ヤっとくわ。どうせコイツも暇なんだし」
箱崎も屋敷と同じバスケ部だったはずだけれど、サボりを決め込んで僕とセックスするらしい。その宣言に寒気がする。
帰宅や部活への移動のため、教室はザワザワとしていた。誰も僕を取り囲む三人がそんな話をしているなんて思わないだろう。
「……は?」
屋敷の低い声が僕の後ろに立つ箱崎に向けられた。
「…箱崎。冗談も大概にしな。部活だろ、お前も」
サッカー部に入っている伊藤が僕の腕から箱崎の手を離す。見上げると、伊藤は屋敷の傍に行けと言わんばかりに顎で彼を指し示した。
「冗談、って…」
小さく呟く箱崎を背に、僕は屋敷の傍へと走り寄る。すると彼は人目も憚らず、僕の肩を抱き寄せて歩き始めた。これじゃあまるで友達みたいだ。それも、仲の良い。
「や、やしき……ぁ、昴くん…肩、離して…」
「黙れよ」
控えめにしてみた抗議は敢えなく却下される。僕はそのままバスケ部の活動が行われる体育館へと連れて行かれた。
◆
「なんだ、ここ柔らかいままじゃん」
部活動はまだ終わっていない。屋敷は体育館で、伊藤はグラウンドでそれぞれ部活動をしているはずだ。
なのに僕は箱崎と部室棟の使われていない部屋にいた。廃部になったバトミントン部の部室だったそこは、鍵がかけられていたはずなのに、どうやって手に入れたのか、彼はその部屋の鍵を持っていた。
内側から鍵を閉められた狭い部屋の中、僕は中央の折畳式のテーブルの上にうつ伏せのまま上体を乗せた格好で尻を彼に向けて突き出すような姿勢をとらされる。箱崎はそんな僕の足を広げ、用意していたローションのパウチを切ると、中身を僕のアナルにトロリと垂らして指を突っ込んできた。
「昼休みヤッてたってマジだったんだ」
箱崎の指が僕の中でグニグニと動かされる。
「く、るしっ、…やめて、箱崎くんっ」
悲しくないのに生理的な涙が目からあふれてきた。僕はただ、言われた通り体育館の近くで屋敷を待っていただけなのに、何故こんな目にあっているのか。
「屋敷にはヤラせたんだろ? な~に嫌がっちゃってんの?」
グチュ、グチュッ。
アナルに指を抜き差しされ、ローションが音を立てる。恥ずかしさと情けなさで、新たな涙が僕の頬を濡らした。
屋敷を待っていた僕は、練習中に怪我をしたとかで部活を抜けた箱崎に連れられ、こんなことをされている。怪我をしたから保健室についてきて、なんて分かりやすい嘘をつかれた時点で分かってはいたけれど、自慰の動画を撮られている僕には拒否という選択権は最初から無かった。彼らがヤリたいならヤラセるしかない。
「すぐ挿れられそ~」
背後から能天気な声がする。
屋敷もそうだけれど、箱崎もバスケ部だけあって付き合う女子には困っていないはずだった。確か彼女だっていたはずだ。なのに彼らは僕のアナルに突っ込みたがる。痛いのに。こんなに気持ち悪いのに。
セックスを毎日したがって彼女に嫌がられないため、その分の性欲を僕の体で処理しているんだろうか。疑問に対する答えは少し前に自分で考えた。自分で考えたはずのその答えに、己が道具か何かになったような気がして傷ついてしまう。現実のほうがもっと傷付けられているのに、道具扱いなのだ、という自覚は僕の心を痛くした。
「じゃあ挿れるね~、中野クン♡」
ふざけた言いかたで箱崎が僕にペニスを挿入してくる。屋敷よりは細く、圧迫感は少なかった。けれどやっぱり体に無理なモノを挿れられている感覚がする。抜いてほしい、とそれだけを僕は願った。
「あっ、あ…っ、…いたい、痛いっ」
「も~ちょっと我慢な。…ん、も、ちょいっ」
ズプッ。ニュプッ。
ローションの滑りに助けられ、箱崎のペニスは僕の直腸を押し広げながら奥へと突き進む。昼休みに一度広げられたとは言え、異物は異物だ。それに箱崎は僕の体の負担も考えず、ただ自分の思うまま、好きなように突っ込んでくるので痛くてたまらなかった。
少しでも痛みを和らげようと体を動かし、何とか挿入の角度を変えようと試みる。そうして足を広げ、腰を少し下ろしてみた時だった。
ニチュ、ニチュ、ジュプッ。
ヒクッと体が反応する。
「ん、…奥まで入った」
「あ、あ……」
「ここまで挿れたの初めてじゃん? 気持ち良い?」
屋敷でさえまだ挿れたことのない奥まで挿れられてしまった感覚があった。行き止まりの手前の肉が押され、腹の奥に切ない感覚が生まれる。
「あ~…なんか、奥がキュンキュンしてる。…屋敷がさぁ、まだ全部挿れんなってうるさかったから挿れらんなかったんだよな~。んなに気持ちい~のに」
「……ん、ぁ、ぁ……」
ペラペラと軽薄に話す箱崎の下で、僕は目を見開き、口を大きく開けて息をする。得体の知れないものが生まれ、ジワリと沈んでゆく初めての感覚に、僕は拳を握りしめて必死に耐えた。何なんだ、これ。痛いのに、何か分からない別の感覚が僕の中に確かに存在する。
「じゃ、しよっか。セックス」
宣言と共に箱崎は腰を動かし始めた。
パンッ、パンッ、パンッ。
僕の都合など全く関係ない腰つきで箱崎は自分の快楽のみを追い求める。
「ひ、ひぅっ、痛い、やめっ、抜いて、箱崎くんっ、お、おねがっ」
脳天を突き抜けるような激痛が僕の体を貫いた。こすられた部分が熱を持ったように、すごく痛い。痛くてたまらない。けれどその痛みに安心感を覚える。さっきのような得体の知れない感覚に襲われるより、慣れたこの痛みのほうが、僕はまだ大丈夫なのだと落ち着けた。
「ヤッベ、めちゃくちゃ締まるしっ。抜くとき絡みついてくんのサイコー。……そりゃ屋敷も独り占めしたくなるって、なっ」
「嫌だ、いやだっ、あ、箱崎く、おねが、ああっ、ン、やめて、痛いっ」
ローションの音をさせながら抜き差しを繰り返し、箱崎は軽そうな口調で僕のアナルの感想をベラベラと喋っている。僕はその間、セックスの衝撃でガタガタと音を立てるテーブルにしがみつき、必死に痛みをこらえていた。
パンッ、パンッ、パンッ。
「う、あ、痛い、抜いて、抜いてっ」
「あー、も、イクわ、イクイクッ」
箱崎が小刻みに腰を動かす。コンドームを付けていないから、彼もまた僕の中に射精するんだろう。涙を流して痛いと訴えながら、それでも終わりが近いことを知って安心した時だった。
バンッ!
僕と箱崎の背後の扉がいきなり開け放たれた。射精の寸前だった箱崎は振り返り、言葉を失ったようだった。彼に覆い被さられていた僕には何が起こったのか分からない。ただ、彼のペニスが唐突に引き抜かれ、彼が殴り飛ばされたことは分かった。
ガシャガシャン!
箱崎の体は積まれていた折畳式の椅子の山にぶつかり、止まった。山は崩れ、倒れた箱崎は入り口を見つめたまま動きを止めている。
「聡司っ!」
テーブルに突っ伏したまま尻からローションを垂れ流している僕の体に、バスケ部のジャージがかけられた。僕のサイズよりも大きなそれは、裸の尻までを覆ってくれる。
「ぁ……」
僕が体を起こすよりも先に、僕の体はたくましい腕に抱きしめられた。
「やし……き、くん……」
屋敷に抱き起こされた僕の視界に、鍵の壊れたドアの向こうに佇む人影が見えた。バスケ部の顧問や保健室担当の教師、それに伊藤も。
「あ、あ……なんで、見られ……っ」
屋敷と伊藤だけなら問題は無かった。どうして先生たちまでいるんだ。混乱した僕は、股間を露出したまま呆然としている箱崎を見、それから僕を固く抱きしめている屋敷を見上げた。
「なんでっ……!」
「聡司。もう大丈夫だから、俺が来たから、聡司、聡司っ」
僕にはそれが芝居がかった演技だと分かる。けれど屋敷の本当の姿を知らない教師たちには友人を心配する優しい生徒のように見えるだろう。
「は…離し、て、や、屋敷く…ん……」
ズボンとパンツを膝まで下ろされ、ついさっきまで箱崎にペニスを突っ込まれていた僕は、涙に濡れたままの顔で、僕を離そうとしない屋敷から離れようとした。彼がどういうつもりでこんな救出劇を繰り広げたのか分からない。
大体、学校には教室も部室もたくさんあるのに、箱崎がこの部屋に僕を連れ込んだなんて、どうして分かったんだ。箱崎が僕を抱きたがっていたのにそれを止めて、なのに僕を独りで待たせたのも何か思惑があったのかと思う。
もしかしたら箱崎が持っていたこの部屋の鍵は、屋敷が渡したものなのかも知れない。
そこへと考えが至ると同時に、僕は自分を抱きしめる男が恐ろしくてたまらなくなった。
「は、離し、…やし……ん、ぅっ」
けれど屋敷は、ドアに背を向けたまま僕の頭を抱き込んだ。そして、離すように言い続ける僕の唇を唇で塞ぐ。まだ部屋の外で呆然と立ち尽くしている教師たちからは見えないように触れ合わせたそれは、すぐに離れた。
「お前は俺の、だから」
妙に優しく呟いた屋敷の腕にもう一度力が入り、抱きしめられる。呼吸が苦しくなるほど強く抱きしめられ、僕は目の前が暗くなるのを感じた。
◆
僕が学校を休んだ二週間のうちに、箱崎は退学処分になっていた。
その原因が僕を強姦したからだ、という事実を知っているのは数人の教職員と屋敷、それに伊藤だけだ。けれど屋敷が所属し、箱崎が所属していたバスケ部の連中から噂は広がっていた。
いわく、箱崎は学校で僕を何度も犯していて、最近僕と仲良くなった屋敷は僕から相談を受け、箱崎をなんとか止めようとしていた、のだそうだ。
笑ってしまう。屋敷は用意周到で、僕をいじめていた時から一切証拠を残さないようにしていた。目撃もされないよう、いじめもセックスも、行為は常に人目につかない場所で行われていた。
けれど、学校関係者に事情を聞かれた際、『屋敷くんの言った通りです』と真実を話さなかった僕にも責任はあると思う。本当のことなんて誰にも言えない。箱崎は真実を言ったのだろうか。仮に言ったとしても、あんな場面を見られた以上、信用なんてしてもらえなかったと思うけれど。
警察沙汰にしたくなかった僕の意向を汲んだ両親は、『頼りになる屋敷くん』の家に間に入ってもらい、箱崎の親と話をつけたらしい。気がつけば箱崎の家は空き家になり、行方は誰にも分からなくなっていた。もう箱崎に、どうしてあの部屋で僕を犯したのかを聞くことすらできなくなった。
教師連中にも生徒たちにも、屋敷は地元の名家の三男の優等生としか映っていない。
僕にだって真実は分からない。僕が知っているのは屋敷のある一面だけだ。伊藤も箱崎も、きっとカケラほどの真実しか知らないのだろう。全てを知っているのは屋敷だけだ。けれどそれも、単なる僕の憶測にしか過ぎない。
◆
「聡司、屋敷くんが迎えに来てくれたから早くしなさい」
朝の七時四十五分。母親に言われ、僕はカバンを片手に玄関へと向かった。靴を履き、ドアを開けるとそこには屋敷が笑顔で立っている。
「おはよう、聡司」
「………お、おはよう」
あれから屋敷はこうして毎日、僕の登下校に付き添うようになった。僕の両親は、強姦された息子を救ってくれただけでなく、アフターケアまで担ってくれる、友達思いの素晴らしい友人、と屋敷のことを評価している。反論はできないし、本当のことなんて言えなかった。いじめられていた頃の自慰の動画はまだ屋敷と伊藤の手の中にあるからだ。
再び僕が学校に行き始めて一ヶ月が経っていた。事件から一ヶ月と半月経っていても噂はまだ消えていない。それどころか新たな噂が流れている始末だ。
噂では、元々男が好きな僕は自分を助けてくれた屋敷に惚れていて、抱いてほしいと常々思っているらしい。
それもこれも、付き合っていた彼女と別れて僕の世話を焼くというポーズと取っている屋敷のせいだった。
「あ、あの…や、屋敷くん…」
「聡司。名前で呼ぶって約束だろ?」
駅に着いて電車を待っている間、僕は屋敷に話しかけたけれど、爽やかな笑顔でそう返され、出鼻を挫かれた形になってしまう。おかしな噂を否定したくて、屋敷と距離を取りたい僕の試みはことごとく失敗していた。この名前呼びを名字呼びに戻す、という試みもその一つだ。
「……昴くん」
「何? 聡司」
「あ、あの、…もう迎えに来なくて」
「先輩、おはようございます!」
意を決し、うつむいていた顔を上げて口を開いた僕の言葉に、体育会系の挨拶が見事に被る。屋敷はそちらを見、片手を上げて笑顔で挨拶をした。
「おはよう、三宅に須藤」
「先輩、今日も中野さんのお迎えですか?」
「…ああ、聡司がまだ…少し、不安だって言うから。…な?」
屋敷に逆らえない僕は、せめてもの抵抗で返事をしないことにし、再びうつむいた。すると屋敷は少し離れて立っていた僕の肩を抱き込み、自分のほうへと引き寄せる。
「…ごめんな。まだ俺と伊藤以外の男は怖いみたいで」
屋敷は挨拶もしない僕の態度を後輩たちに謝罪した。
まるで茶番だ。僕が箱崎に犯されたことは公然の秘密になっていた。生徒は誰も知らないはずなのに、誰もが知っている。屋敷はこうして噂を定着させていく。
「中野サン、自分の面倒見させるために屋敷先輩と彼女、別れさせたって」
「あ、それ、俺も聞いた」
挨拶を終え、屋敷が告げた僕の、『男嫌い』に気を使って離れていった後輩たちの話し声が聞こえた。聞こえないように言ったのが聞こえてしまったのか、聞こえるように言われたのが思惑通りに聞こえたのか分からない。
「気にするなよ」
屋敷が後輩たちから見えるように、僕の頭を撫でる。
セックスをするときに見せる顔とは全く違う爽やかな笑顔と態度が恐ろしい。僕を犯している、あの時に見せる顔のほうがまだ安心できる、と僕は思った。
◆
授業が終わると僕は屋敷と共に体育館へと向かう。屋敷と一緒に下校するため、部活が終わるまで体育館のすみでバスケ部の練習を見学するのだ。
本当なら部員以外が体育館に入るのは許されない。けれど僕は、『あんなこと』があったのだから、と部のエースである屋敷が顧問に直談判したため、特例として認められることになった。
屋敷に大切にされている。特別扱いされている。それは僕を針の筵に置く行為だった。やめてほしい、ひとりで帰れる、そう言っても屋敷は聞いてくれない。それでも強行しようとすると、僕の親に連絡が行き、一緒に帰ってくるようにと逆に僕が親から叱られ、説得される始末だった。
今日はバスケ部の部活が早めに終わり、僕は屋敷に連れられて、まだサッカー部が練習を続けているグラウンドへと向かった。数人の女子がフェンス越しに彼らの練習を眺めている。やっぱりサッカー部も人気があるんだな、と僕は思った。
そのサッカー部の人気者の一人である伊藤が屋敷を見つけ、こちらへ走り寄ってくる。
「屋敷。もう帰り?」
「ああ」
「今日も?」
「ああ。…お前は?」
「…俺はいい。屋敷だけで、どうぞ」
簡単な会話が終わり、伊藤は練習へと戻っていった。最低限の言葉数で今日のこれからの予定が決められていく。僕はこれから屋敷の家に連れて行かれ、そこで彼とセックスするのだ。
◆
屋敷の家は名家らしく豪華で大きい。敷地もかなり広くて、屋敷の部屋は離れにあった。トイレもバスルームも併設されていて、母屋にいるお手伝いさんたちはインターホンで呼び出さない限り、こちらに来ることはない。
トイレとバスルームで準備を済ませた僕は、裸のままベッドに腰をかけた。
「なんだ、聡司。ヤる気満々? 服、着ないの?」
学校とは違い、砕けた口調で屋敷が言った。言いながら僕の隣に座り、僕のむき出しの胸を撫でてくる。
「ど、どうせ…すぐ脱ぐし……」
それに、早く始めて早く終わらせたい。心の内は秘めたまま言わなかった。
「…舌出せよ」
言われたまま舌を出すと彼のそれに絡められ、深く長いキスをされた。
「ん、ぅ…」
口の中を舌で弄られながら柔らかいベッドに押し倒される。上顎の裏を舐められながら胸を撫でられ、乳首をつままれた。指先で弾かれ、こねられる。寒気がしそうなその行為を、僕は感じているフリをしながら必死に耐えた。
「ここ、少しは感じるようになった?」
「ん……うん……」
「…の割には反応、イマイチなんだけど。…相変わらず勃ってないし」
屋敷が僕の股間をチラリと見る。快楽を感じているか、女じゃないから騙せない。フニャッとしたままの僕のペニスはいつまで経ってもそのままだった。キスをされても、体を触られても、感じるのは吐き気だけなのだから仕方ない。
「た、…勃ってなくても、その…気持ち、い……から」
「…ふーん。……ま、時間はたっぷりあるから……急いでないし、良いんだけど」
無理矢理な僕の言い訳を全く信用していない態度で聞いた屋敷は乳首から手を離し、体を起こして片手で僕のペニスを、反対の手でアナルを弄り始めた。
「ひ、…ぃ、あ……そ、んな、急にっ」
つぷんっ。
まだ濡らしてもいない指がアナルに入り込む。洗浄したから濡れてはいるけれど、摩擦が大きくて指先の少しの部分しか入らない。引きつれた皮膚が痛くて、僕は懇願した。
「ぬ、濡らして、…い、痛いからっ」
「……何回もしてるし、大丈夫じゃね?」
そんなわけない。屋敷だって分かっているはずなのに、僕の必死の言葉を笑いながら聞いている。
「おね、お願いしますっ、ぬ、濡らして…くださ、い」
「……なんで?」
屋敷の目に、あの嫌な光が浮かぶ。僕の反応を面白がる残酷な光だ。
「な…んで、って……挿れるのに、痛いから…」
「挿れてほしいの?」
どうしてそんな展開になるのか分からない。挿れてほしいなんて、そんなわけがない。
返事を戸惑っていると、ペニスをこする手とアナルに添えられた指に力が込められた。ググッと押された指は引きつれた皮膚を引っ張り、そのままさらに中へ入ろうとする。
「い、いた、痛いっ」
「なぁ、してほしいことがあるんだろ? なら、お願いしろよ」
残酷な光はますます強くなった。お願いならさっきしたのに。そう思いながら、屋敷がいつもローションを取り出すベッドサイドのチェストに目をやる。
「ほら。自分でさ、穴広げて、俺の顔見ながら言って?」
答えを与えられた僕は言われた通り、仰向けのまま足を曲げ、自分のアナルに指をかけてゆっくりと開いた。そして羞恥に赤くなった顔のまま屋敷の顔を見上げる。
「こ、ここ…、濡らし…て、ください……お願い、し、ますっ」
「ハハ。…だから、なんで? なんで濡らしてほしいわけ?」
やっぱり同じ問いを返された。そんなことを言うのは恥ずかしいし嫌だった。でも言わなければ痛くて苦しい目に遭ってしまう。僕の指は震え、力を失い、広げた穴が閉じてしまいそうになった。慌てて指に力を入れ、さっきよりも少し大きく開かせる。
「中まで丸見え。…セックスしまくってるのに、すごく綺麗な色してる」
「い、挿れ……てほ、ほしい…からっ」
屋敷がフッと笑い、唇を歪ませた。
「誰に?」
「す、…昴くん…に。昴くんの…お、…おちんちん、こ、ここに…挿れてほしいっ。だ、から、…濡らして……濡らして、く、ださっ……ぅ、ヒック」
言いながら僕は泣いてしまった。どうして僕がこんな目に遭うのか。何故こんなに恥ずかしいことを言わなければならないのか。挿れたければ挿れればいい。勝手に挿れて、腰を振って射精すれば良いのに。
痛かったけれど、まだ箱崎に犯された時のほうがマシだったと感じる。箱崎は自分勝手でセックスの間もベラベラとよく喋る奴だったけれど、こんなに僕の心を折ろうとしてくることはなかった。
「……聡司。泣き顔、めちゃくちゃカワイイ」
アナルを広げて泣きじゃくる僕の顔に、屋敷は何度も唇を寄せた。
「ホントはお前のこと、気持ちよさで泣かしてやりたいんだけど……聡司は俺とのセックスだと全然感じてくれないから」
あの爽やかな笑顔で僕を見つめ、屋敷はそう言った。それは、僕が…セックスで気持ちいいと感じて泣けば、もうこんなことを言わされることは無いということなんだろうか。けれどこれも、僕を操ろうとする彼の言葉の一つなのかもしれない。
それについて深く考える前に屋敷はチェストからいつものボトルを取り、中身のローションを僕のアナルへと垂らした。
「あ、つ、つめたっ」
「今日は奥まで挿れてあげる」
僕の指で広げた穴に、屋敷が自分の中指と薬指を入れてきた。
ズチュッ。
「あ、うぅっ…!」
一気に奥まで挿れられて、僕は思わずうめき声を上げた。目に溜まっていた涙が目尻からこぼれ落ちる。昨日も一昨日もしたから、別に痛いわけじゃない。単に衝撃を与えられた反射で声が出てしまっただけだ。彼の指の形もペニスの形も、僕のアナルはもう覚えてしまっている。それを分かっているのか、彼も激しく指を抜き差しさせ、そこを指の太さに馴れさせた。
三本目の人差し指も難なく入り、さらにローションを継ぎ足される。グチュグチュという音だけは慣れなくて恥ずかしさが募るけれど、僕のアナルは数分もしないうちに彼の指の太さに拡がった。
「…こんなもんかな。じゃあ挿れるよ?」
彼のペニスが僕のアナルに触れる。息を詰めそうになった僕は、慌てて息を吐いた。前屈みの姿勢になった彼が僕の頭を撫でてくる。
「そうそう。息、ちゃんとして。な?」
ズプッ。
亀頭が僕の中に入り込む。
「今日は俺の、全部挿れるから。形、しっかり覚えて」
その言葉に僕は、箱崎の言葉を思い出した。
『屋敷がさぁ、まだ全部挿れんなってうるさかったから挿れらんなかったんだよな~』
耳に残る声とともに、腹の奥に感じた切ない感覚が蘇ってくる。思わずブルッと震えた僕を見て、屋敷は面白そうに笑った。
「…箱崎の奴さぁ」
笑いながら彼はズブズブとペニスを僕の体に埋め込んでくる。
「ぅ、ぁ、ぁあ…、んっ…」
「聡司の中にチンポ、根本まで全部挿れたんだって?」
「ひ、あ、あっ…!」
いつも彼が挿入を止める場所を過ぎた。屋敷が挿入するのはいつも、彼の指で解される深さまでだった。そこから先は箱崎にしか挿れられたことがない。
屋敷が小刻みに腰を揺すり、指で解されていないそこを亀頭にこじ開けられる。内臓が上へ押し上げられる感覚がして苦しかった。
「アイツもさ、めちゃくちゃするよな……せっかく聡司のこと、大事に抱いてたのに」
「う、ぁ、あぁっ、く、るしっ……おなか、押されっ」
「まぁアイツのは短かいから結腸までは多分届いてないし…そこは安心っ…してた、…んだけどっ」
奥に行くにつれ、僕の直腸は屋敷の侵入を拒み始めた。狭くてまだ柔らかくない場所が屋敷の亀頭を締め付け、奥へ進もうとするのを引き止めるようだった。けれど自分で望んでそうしているわけじゃない。僕の体が勝手に、彼に開かれるのを拒絶しているのだ。
「く、るしっ……す、昴くんっ、や、やめて、あ、ああっ」
「一ヶ月半も経ったしさ…流石に、も……奥は、処女みたいにキツく戻って、…って、キツすぎるけどな、これっ」
グイッと彼が強制的に腰を進めた。
「い、あ、ああっ……!!」
体の中に痛みが走る。無理矢理開かされたそこは、箱崎に挿れられた時におかしな感覚を覚えた場所だった。
「い、やだ、嫌だ、そこっ……! あ、昴く…やめっ」
直腸が押され、そこよりも奥に切ない感覚が蘇る。
「あ、だめ、だめっ、怖いっ」
「……はぁっ、すごくカワイイ。…聡司、その顔、もっと見せろよ」
屋敷は上体を乗り出すようにして僕の唇に自分のそれを被せてきた。上から押さえつけられるような姿勢は、彼のペニスを僕の中により深く埋め込ませる。
「んんんっ、んぅー…っ!」
嫌だと言ったのに、彼は僕のさらに奥までギチギチと亀頭を進ませた。僕は首を振り、彼の唇から何とか逃れ出る。
唇から唾液を垂らし、肩で息をして涙が滲んだ目で見上げた僕を、彼は嬉しそうに見下ろした。
「……やっぱりお前、俺の思った通りだ」
自分の下唇をペロリと舌で舐め、彼は再び上体を起こした。挿入の角度が変わり、僕の体が悲鳴をあげる。
「い、痛いっ……!」
「痛いだけじゃないだろ?」
言いながら彼は腰を揺すり、僕の中の本当の奥底までペニスを突き入れてきた。箱崎に挿れられた場所のもっと奥、切なさが生まれ、沈んでいった場所だ。彼はそこを亀頭で優しく何度も突いてきた。
トンッ、トンッ、トンッ、トンッ。
「ヒッ、ヒァッ、あっ、あっ、ひ、いっ、あああっ」
腰を揺らされ、一定の間隔で突かれたそこが、僕の中の行き止まりだということが自分でも分かる。何度も何度も突かれ、痛みは鈍くなって、痺れに似た感覚が僕の全身に広がっていった。喉をのけぞらせ、手は抵抗もせずにただシーツを握りしめ、僕は口を開けて足を開き、喘ぐことしかできない。
「ここ、抜けたら結腸なんだけど……ここ突くだけでも、聡司、すごく気持ちよさそ。……んなに良いんだ、ここ?」
「ん、んぁっ♡、ああっ、あっ♡、あっ♡」
「……聡司。気持ちい、って言ってみ?」
「あ、あっ、ん、い、いいっ♡、気持ち、いっ♡」
痺れに似た感覚は既に変質していた。その正体が快感だったということを彼が教えてくれる。
僕は教えられるがまま、ただ、気持ちいいという言葉を繰り返した。
「じゃあさ、昴くん好きって。ほら。言えたらもっと気持ちよくしてやるから」
笑いながら彼が言うように仕向けた言葉を、何も考えられなくなっていた僕はそのまま繰り返した。
「あ、す、ばる、く……、す、すきっ♡、…すき♡、すばる…くんっ♡、あ、すき♡、すきっ♡」
「……ヤバい。そんなに俺のこと好きなんだ。ハハッ」
うわごとのように繰り返す僕の背中に腕を回し、屋敷は僕の体を持ち上げた。そしてそのまま自分の膝の上に僕の体を乗せてしまう。
「はっ、はぁっ♡、す、ばる、くっ…♡」
「約束だしな、もっと気持ちよくなろうな」
屋敷は僕の腕を自分の首に回したあと、僕の膝を曲げ、その下に自分の腕を通した。それから膝立ちになって僕の尻たぶを両手で掴む。
「落ちないように、ちゃんとしがみついてろよ?」
ちょうど駅弁と呼ばれる体位になった僕の体は自重で下へと下がり、彼のペニスを体のより深くまで受け入れる形になった。
「ひ、ぃ、あっ……!」
さっきまでトントンと突かれていた行き止まりの場所が、彼の亀頭によってジワジワと開かれていくのが分かる。
「あ、あ、い、嫌だ、こ、こわっ、あ、あああっ」
「怖くないって。ほら、ここ抜けたらすごく気持ちいいから。気持ちいいの、好きだろ、聡司」
小さな子供のようにしがみついた僕の耳元で、彼が優しく囁いた。
「ん、んぁっ、あ、は、入って、く……っ、あっ♡、ん♡、っく、ああっ♡」
「……ほら。気持ちいい。だろ?」
「あ、ああ♡、んっ♡、は♡、あ♡、んぁ♡ ♡、あっ♡」
喘ぎ声しか出せない僕の頬に屋敷はそっとキスをした。それから僕の体をしっかりと抱え込み、上下にゆるゆると揺すり始める。動きに合わせて僕の結腸には彼の亀頭がグポグポと出入りを繰り返した。
「気持ちいいな……ほら、見てみ? お前のチンポ、勃ってる」
「ん♡、んっ♡、はぁっ、あ♡、…た、たって、ぅ♡、ん♡、きもちいっ♡ ♡、きもち、いっ♡ ♡ ♡」
今までセックスで一度も勃ったことのない僕のペニスは勃起し、ダラダラと透明な液体を流していた。
「俺もすっごく気持ち良いよ。ん、お前の中、奥まで、はぁっ、熱くて良く締まるっ」
僕を揺すりながら彼がそう言い、喘いで開いたままの僕の口に口付けた。舌を絡められ、優しく吸われる。チュッ、チュッと音をさせて唇も吸われ、僕はそこからも与えられる快感に耐えるために彼の首に回した腕に力を込めた。
キスが気持ちいいなんて感じたこと無かったのに。
白くモヤがかかったような頭でぼんやりとそう思う。彼の言う、結腸という場所にペニスを挿れられ、僕の体はいやらしいものに変わってしまったんだろうか。屋敷の熱い手のひらが、唇が、触れてくる場所が全て気持ちいい。
「すばるく、んっ……、ぁ、気持ちい♡、ん…い、いいっ♡」
彼にしがみついたまま肩に頭を擦り付けて喘ぐ。もう一度彼の唇が重なり、そうしている間に僕の中の彼のペニスがさらに固く大きくなったのが分かった。
「はぁっ、ん……ナカ、出すから、聡司の結腸の、俺しか知らない場所ッ、ん、くっ……うっ!」
僕の腰が限界まで落とされ、彼のペニスがグッポリと結腸に入り込む。そこで僕の体は固定され、彼は奥に向かって長い射精をした。
ビュルッ、ビュルルルッ。
射精をされている間、僕は自分の体内にドクドクと脈打つペニスを感じていた。こんなに奥で射精をされたことなんてない。熱い精液を腹の奥に感じながら僕は強烈な眠気に襲われ、そのまま意識を失った。
◆
目が覚めると、窓の外は暗くなっていた。慌てて起きあがろうとした僕は、しかし、横から伸びてきた手に押さえ込まれて再びベッドの上に押し倒された。
「……ぁ」
「おはよ」
屋敷がそう言いながら僕の頭を撫でる。
「ぁ…あの、今、時間……」
「もう八時。流石にその体じゃ家まで帰れないだろ? …今日は泊まらせるってお前の家に連絡してあるから」
そう言いながら彼は僕に軽くキスをした。
ヒクンッ。
唇が触れ合っただけなのに僕の体は敏感に反応する。そんな僕の様子を見て、彼は嬉しそうに舌を入れるキスをしてきた。
「ん、ぁ、ふっ……」
ヌチュ、ピチャッ、ジュルッ。
舌を吸われながら、唇の端から僕は甘い声を上げた。こんな風になってしまうなんて自分の体が信じられない。
「……まだセックスの余韻、残ってるな。体、敏感なままだし」
喉の奥で笑う彼の手が僕の尻に触れた。かけられたシーツの中の体は裸のままで、アナルはまだローションに濡れていた。
チュプッ。
彼の指が柔らかいままのアナルに入り込む。
「ん……ぁ、はぁっ」
「俺が出したの、だいぶ掻き出したんだけど、まだ奥に残ってるかも」
長い指が直腸を進み、根本まで入れられたあと、そこでグニグニと動かされた。
「ん、んっ……や、やめ、て……」
「聡司、中だけでイケそうだったけどイケなかったな」
もう一度キスをされる。そのまま指を引き抜かれた。
「ひ、ぁ……」
「明日また頑張ろうな」
彼はそう言うとベッドの上に起き上がり、僕の背中に腕を回して同じように起こさせた。体の節々が痛くて悲鳴をあげてしまいそうな僕は、大人しく彼に従う。
「腹減っただろ。風呂入ったあと、一緒に食べよう。用意させておくから」
まるで愛し合っている恋人のような態度で彼は僕の体を抱き込み、立ち上がらせた。フラつく僕は、そんなことをされて嫌だと感じる心があるのに、彼にすがりつくしかバスルームまで歩く術がない。
「……聡司、カワイイ。…愛してる」
彼の腕に抱えられてヨロヨロと歩く僕を見つめた彼は、あの爽やかな、けれど、どこか信じられない雰囲気を纏う笑顔で僕に愛の言葉を囁いた。
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