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βからΩになって三ヶ月経った高校生が全てを諦めるまでの話
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高校二年生でβからΩへと変異した中野聡司は既に番を持っている。
相手は同じクラスのα、屋敷昴だ。初めてのヒートの事故で番ってしまった彼らだったが、今は同じマンションの一室で暮らしている。クラスメイトたちはそれを知っていて、屋敷は度々Ωとの暮らしについて友人から聞かれることもあるようだった。
「聡司」
二限目と三限目の間にある長めの休み時間、窓際の席に着いたままボンヤリと外を眺めていた聡司に声がかかる。目線をそちらへ向けると、そこには数名のクラスメイトに囲まれた番がいた。片手を軽く上げている。
こちらへ来いということなのだろう、と聡司は席を立ち、屋敷のほうへと向かった。用があるならば向こうから来るべきだろうと思ったが、相手はαなのだから仕方がない。自分はΩで、彼に縋るしか生きていく術はないのだから。
屋敷のいる集団に近づくと、その中から屋敷が一歩こちらへ踏み出し、聡司の手を取った。そしてそのまま引っ張られ、分厚い胸に抱き込まれる。
「あっ」
「な? 可愛いだろ?」
聡司よりも頭ひとつ高いクラスメイト達は、屋敷のその言葉に笑い声を漏らした。βそのものの容姿である自分のような男に対してその形容はおかしいだろうと思っているのかもしれない。恥ずかしさといたたまれなさで聡司は頬を赤く染めたが、抱き込んでくる腕は緩まない。仕方なく屋敷の胸の顔を埋め、俯くことしか出来なかった。
「これか、噛み痕」
クラスメイトの一人が俯いた聡司の首筋へと目をやった。そこには三ヶ月前、屋敷が付けた傷痕が残っている。何気なく伸ばされたクラスメイトの指先の気配に、聡司は寒気を感じて身をこわばらせた。
「や、やめてっ」
「おい」
両手で首筋をかばい、ギュッと目を閉じた聡司の上から威圧的な声がする。
屋敷だ。
屋敷は聡司の肩を抱いたまま、不用意に傷痕に触ろうとしたクラスメイトへ向けて威嚇の様相を呈していた。フェロモンのように発されたそれは周囲の空気を凍らせ、関係のないクラスメイトにまで影響を与える。
しかし聡司にとってそれは、自分を守ってくれる心地の良いものとして感じられた。安心し、ここに存在していられることを確約してくれるような好ましいものだった。
だが周囲に悪影響を及ぼしているモノをいつまでも出させるわけにはいかない。聡司は意を決して首を覆っていた手を離し、その手を屋敷の腕へと添えた。
「昴くん、もう……大丈夫」
ぎこちなく微笑んでみせると、鋭さを増していた屋敷の視線が少し和らぐ。屋敷は腕の中の聡司を見つめ、そろりと首筋に触れた。
「ん……」
番に触れられる行為は心地が良い。先ほどの、クラスメイトのαに触られそうになったときとはまるで異なる気持ちを抱える。それは屋敷も同じだったのか、そうしたことで周囲の張り詰めた空気は呆気なく解けてしまった。
「屋敷、ご、ごめん」
「ああ」
原因となったクラスメイトが我に帰ったように屋敷へと謝罪の言葉を告げる。屋敷はそれに対して鷹揚に頷くと、彼の肩を強めに叩いて再び鋭い目を向けた。
次は無い。
言外にそう示した屋敷を見て、聡司は形容のし難い安堵を覚える。そうしたところでようやく三限目のチャイムが鳴った。
◆
番になって三ヶ月が経ち、一緒に暮らし始めてから初めて迎えた発情期も終えた。もう聡司の体は隅々まで屋敷のものだというのに、彼はそれでもまだ満足していないようだった。発情期が終わっても毎日のように聡司を求め、体内で射精しないと気が済まないらしい。βから変異した聡司は子宮が未発達なため妊娠することはないが、やはり孕ませたいという欲求がそうさせるのだろうか。
聡司がクラスメイトのαに頸を触られそうになったその日も、屋敷は家へと帰るなり聡司を抱いた。玄関で一度、そして居間で一度。ソファに上半身を乗せて床に膝をつき、後ろから挿入されて何度もイカされた聡司は、二度目の射精のあと、ようやく屋敷が体を離してくれたことに安堵する。陰茎を抜かれると、そこからは白い粘液がタラリと一筋垂れ落ちた。屋敷はそれを人差し指で拭うと、聡司の尻の穴へと押し込む。
「垂れてきてんぞ? しっかり締めておけよ♡」
命令口調の言葉に対して語調は甘い。聡司はうんと頷き、ソファからのろのろと立ち上がった。風呂に入って体を清めたいと思い、許可を取るために屋敷を見上げる。彼は珍しく欠伸をしていた。
「……あー……なんか、すっげぇ疲れた。ちょっと寝てくる」
「あ、う、うん。おやすみ」
「おお」
たった二度のセックスで疲れるなど、これまで無いことだった。今日の午前中、威圧的な空気を発したことで体力を使ったのだろうか、と聡司は思う。βとΩとしてしか生きてこなかった聡司にはαの体質はよく分からない。
自室へと向かう番を見送った聡司はそれ以上考えることを止め、風呂に入るための準備を始めた。
風呂から上がってキッチンで水を飲み、居間に置かれた大きなソファに腰掛ける。地元の名家だけあって、屋敷家が用意したマンションのこの部屋に置かれている家具はどれも高そうなものばかりだった。見た目も座り心地も良いこのソファもそうだし、ソファの前に置かれているローテーブルもそうだ。窓際に置かれた観葉植物など、月に一度業者が取り替えに来るのだから意味が分からない。会社ならともかく、ここは単なる住居だというのに。
と、そのローテーブルの上に無造作に置かれた分厚い紙の束に聡司の目が止まった。高級そうな厚紙が二つ折りになったものが数冊。白地に金の縁取りが施されたそれは、ドラマや映画でしか見たことのないものだったが確かに覚えがあった。
「お見合い写真、とか……」
誰との、と言えばそれは屋敷しかいない。しかし彼はまだ高校二年生だ。そして自分という番がいる。
ドクドクと鳴り始めた胸を押さえ、聡司は一番上に置かれていた一冊を開いた。
「…………」
中の薄紙をめくると、そこには振袖を着て椅子に座り、にこやかに微笑む若い女性がいた。恐らく彼女も自分達と同い年か、そう変わらない年齢だろう。挟まれていた手書きのメモには、α、○○会社社長令嬢、と書かれていた。
他の見合い写真も見てみる。中の写真はどれも正装したもので、中にはΩの男性のものもあった。しかし共通して言えることは、彼女ら彼らのいずれもが良家の子女子息だということだ。
まだ十代なのに、と思ったが、自分も十七歳で番ったのだ。しかも屋敷は地方とは言え名家の三男だった。親は東京で会社を経営していて、手広く事業を行っていると聞いている。こんな地方都市でも上流階級の婚姻は早い段階から決めるものなのかもしれない、と聡司は認識を改めた。
そう言えば、屋敷と番ったあと、家族の顔合わせとして一度会ったきりだったが、彼の一番上の兄も次の兄も既婚だった。長兄は二十九歳の会社員だが次兄は確かまだ医大生で、二十三歳だったはずだ。
聡司は開けたままの一冊に目を落とす。そこには可愛らしい男性のΩが写っていた。
「生まれたときからΩなら、こんなに……」
αの気を惹くためなのか、Ωは男女問わず庇護欲を抱かせる容姿のものが多い。背も低く、華奢だ。その容姿を生かして、Ωでは生きにくいと言われているこの世の中、芸能界に身を置くものもいるほどだ。
聡司はふと顔を上げてカーテンのかかった窓を見た。立ち上がり、窓際へ行ってカーテンを開ける。よく磨かれたそれに映るのは、Ωに変異して多少細くなったとは言え、やはりβにしか見えない自分の姿だった。
βだった頃から聡司は平凡な容姿をしていた。良くもなく、悪くもない。これと言って特徴が無く、人の記憶に残りにくい存在だった。出来るのは勉強だけで、運動などはからきしだ。だから女性と付き合った経験など持てないままここまで来てしまった。Ωに変異してしまった今となってはもう、聡司が女性を抱くことは無い。この先もずっとだ。
そんな自分を、屋敷は何故番にしたままなのか聡司には理解できなかった。事故で番ってしまったのは仕方がない。けれど彼は聡司と番ったことを家族に認めさせ、こうして同じ家で暮らすことにしてしまった。
それは自分が後天性Ωだからだろうか、と聡司は思う。後天性で男性のΩは優秀なαを産む可能性が高いと言われている。それが本当かどうかは分からないが、有名な経営者や世界的な賞を獲った学者の親が後天性の男性Ωだというのは度々聞く話だった。後天性の男性Ωなど、そうそういる存在ではない。なのにそういう話を聞く機会が多いのは、やはりそれが事実であるということなのだろう。
「…………」
窓に映ったもう一人の自分を見つめる。βの頃とさほど変わらない外見だが、中身は随分と変わってしまった。性的なことには疎いほうだったのに、今では毎日屋敷に抱かれ、射精せずに絶頂することも覚えてしまった。そしてこの腹の中には子宮という孕むための臓器が育ちつつある。
自分に求められているのは優秀なαを産むことだと聡司は理解していた。けれど屋敷は自分に好きだと伝えてくる。言葉遣いは乱暴だが、声は甘く心地良い。
βばかりの家族や親族は、Ωに変異してしまった自分のことを気遣いつつも持て余していた。数少なかった友人達からも、扱いかたが分からないといった理由で遠巻きにされ、そのまま疎遠になってしまった。だから周囲にとっても、聡司にとっても、聡司が屋敷と番えたことは良いことでしかなかった。
屋敷の言う好きだという言葉は、聡司の心に空いた穴を埋めてくれる。傲慢でこちらを見下してくる彼が聡司は嫌いだったが、彼無しでの生活は最早考えられなくなっていた。
◆
次の日の朝、聡司が制服に着替えてから居間へ行くと、屋敷は既に起きていた。週に何度か来ている家政婦が作り置きしておいてくれた食事を用意している。
「ごめんなさい、僕がやるから」
「いや、もうこれで終わりだから良いよ。食おうぜ」
ここでの生活の全ては屋敷家が払っているため、聡司は食事や洗濯などは自分がすることに決めていた。だから慌ててそう言ったのだが、屋敷は聡司に席へ着くように促す。
「う、うん……ありがとう」
テーブルにつく前に、聡司はチラリとローテーブルへと目をやった。しかしそこに見合い写真の束は無く、綺麗に片付いている。
目線を戻して席に着くと、向かい側の椅子へと屋敷が座った。
「あれ、見たのか」
「えっ?」
「昨日、あのテーブルの上に置いてただろ?」
「あ、ああ、うん……」
うつむいたが誤魔化せそうもなく、仕方がなく頷いてみせると屋敷はため息をついた。
「やっぱな。……まあいいや、お前には言っておくか。だいぶ先の話だけどな、大学卒業したら結婚すんだよ、俺。あのうちの一人と」
「……っ!」
朝食の席で軽く話すような内容ではないのに、屋敷は軽くそう言ってのけた。テーブルに乗せた手が震えるのを見せたくなくて、聡司は膝の上に両手を戻す。
「相手はもう決めてある。高校卒業で婚約、大学卒業で結婚、って流れだな」
「…………」
「話はつけてあるから……聡司?」
心臓の音が大きくなり、聡司は屋敷の言葉を聞くことができなかった。そんな聡司の様子を不思議に思ったのか、屋敷は聡司の名を呼んだ。
「あ、う、うん、分かった」
弾かれたように顔を上げた聡司は曖昧に笑い、承諾の答えを返す。自分の役目は大学卒業までの期間限定なのだ、と必死に理解しようとした。それまでに屋敷の子供を産み、その後の生活の目処をつけなければならない。けれど、具体的にどうすれば良いのかなど聡司には全く分からなかった。
「そ、そのときが来たら出ていくから、心配しな……」
「はぁ?」
分からないなりに必死に出した返答を、しかし屋敷は大きな声で遮った。驚き、呆れたような声を出した屋敷だったが、驚愕したのは聡司のほうだ。まさか、結婚したあとも聡司を囲うつもりなのだろうか。
「出て行くとか何言ってんの、お前。お前は俺のもんだって言ってるだろが」
「で、でも」
「うるせぇ、黙れよ」
屋敷は不機嫌を隠すこともなくそう言うと、無言で朝食を摂り始めた。どういうつもりでいるのか聞きたかったが、とても聞けるような雰囲気ではない。αの威圧を感じ、Ωの聡司は涙をこぼしそうになりながらも、それを必死に耐えることに集中した。
◆
結局その日、屋敷は聡司に何も説明をすることはなかった。聡司はモヤモヤとしたものを心に抱えながら登校して授業を受け、昼休みになった。
いつもならば一緒に昼食を摂るため屋敷に呼ばれるが、今日は声がかからない。彼とは朝に話したきり、登校時も休み時間も、一度も話すことはなかった。番の男にそんな態度を取られ、聡司の心はキリキリと痛む。口を聞いてもらえなくなってから数時間。たった数時間のことだ。しかしそれは、βならば全く気にならないことだったが、今の聡司にはひどく負担だった。
Ωが番のαに見捨てられれば生きていけない。
それが世間での共通の認識だ。経済的にもそうだし、実質的にもそうだ。頸を噛まれたΩは一生番以外のフェロモンを感じることがないうえ、番以外とのセックスに嫌悪を覚える。しかし発情期は関係なく訪れるので、αに捨てられたΩは一生地獄のような発情期を送るしかない。
その不安に加え、聡司は自分の胸にポッカリと空いた寂しさのようなものを感じていた。
聡司は屋敷が好きではない。しかし、好きだと言ってくれるその言葉の温かさをどうしようもなく必要としていた。
「……僕が……」
もっと物分かり良く頷けば良かったのだろうか。そうすれば今日もまた昨日と変わらない一日を過ごせたのだろうか。
しかし、結婚をするのに自分とも関係を続けるつもりらしい屋敷の認識にはついていけない。関係は自分が先だが、結婚をしてしまえば、こちらが浮気相手ということになってしまう。自分達はまだ十代だと言うのに、それを許容するような常識が金持ち界隈では罷り通るということなのだろうか。
疑問と憤りが心の中に渦巻く。けれど聡司には屋敷しかいなかった。いくら納得できない状況でも受け入れるしかない。
「我慢するしか……」
昼休みは始まったばかりだったが、屋敷の席へ目を向けると、彼は友人たちと連れ立って食堂へと向かうところだった。少しは気にしていたのか、こちらをチラリと見はしたものの、すぐに目を逸らしてしまう。それは聡司の心を酷く傷付けた。
「す、昴くんっ」
居ても立ってもいられず、とうとう聡司は席を立ち、屋敷のほうへと走り寄った。友人の輪の中心にいた屋敷は聡司の声を聞き、ゆっくりと振り返る。無視をされなかった、ただそれだけのことで聡司の胸は喜びに打ち震えた。
屋敷のことを名前で呼ぶことなど、クラスメイトの誰一人許されていない。親しさを強調しようと冗談めかして呼ぶものが現れても屋敷にやんわりと咎められ、バツが悪そうに名字呼びへと戻すのが常だった。それが番とは言え、Ωなどに名前を呼ばれても訂正せず、なに? と返事を返す屋敷に、彼の周囲を取り囲むクラスメイトたちは驚いた。
「あ、あのっ、僕……」
「俺に用事?」
「うんっ、……えっと、話、話したいことが、あって」
正面から顔を見ることができず、聡司はうつむいてモジモジと組んだ自分の両手を見つめながら必死に言葉を紡ぐ。その様子に、朝から剣呑だった屋敷の周りの空気は和らいだ。気を遣い、原因が分からないながらも機嫌を損ねないように屋敷と接していたクラスメイト達は一様に胸を撫で下ろす。
「分かった。場所変えよう。……悪いな、昼、先行っといて」
「あ、ああ、俺らのことは気にしなくて良いから」
屋敷が聡司の肩を抱いてそう言うと、クラスメイトの一人がそう言い、周囲の友人達も揃って頷いた。悪い、と屋敷はもう一度言ってそのまま聡司を連れ、教室を出る。屋敷は無言のままだったが、肩を掴んだままの手から温かさを感じた聡司は不安が少し薄れるのを感じていた。
一階まで降り、人気の無い中庭の外れまで来て屋敷はようやく聡司の肩から手を離した。そしてゆっくりと口を開く。
「朝のことだろ? お前、まだ何か文句あんのかよ」
クラスメイトたちの前ではしない口調で屋敷は言う。上から見下ろされ、聡司はビクリと肩を震わせたが、拳を握って何とか耐えた。たった数時間しか経験していないが、あの孤独や寂しさに比べれば、これくらいの威圧など何でもない、と自分を奮い立たせる。
「も、文句じゃなくて、その、あ、謝ろうと……」
「は?」
「か、勝手に出て行くなんて言って、ご、ごめんなさい」
つっかえながらも言うべきことは言えた。結婚しても聡司を手放さないと宣言したことは理解出来ないが、考えに考えた末、了承も得ずに出ていくつもりだと言ってしまったのは自分が悪いと思ったのだ。Ωはαのものだという認識が上流階級にはある。その思い込みを覆されて屋敷は怒ったのかもしれない。聡司はそう考え、その点について屋敷に謝罪した。
おずおずと屋敷を見上げると、彼は唖然とした表情で聡司を見下ろしていた。そして数秒の後、ハハッと笑い声を上げる。
「自分が悪いって思ったのかよ、聡司。……ハハッ。お前、ほんと良いよ。最高」
そう言って屋敷は聡司を抱きしめた。
「俺も悪かったよ。説明が足りなかったよな」
「…………」
「俺から離れるって言われて頭に血が上った」
軽く謝罪した屋敷に聡司は大層驚いた。αが、それもこの傲慢な屋敷がΩの聡司に謝るだなんて。
屋敷の腕は聡司の背に回り、愛おしそうに撫でている。学校で抱きしめるなんて誰かに見られたら、と聡司の頭は拒否を示していたが、心は既に温かさに溶け、屋敷に許されたことを至上の喜びだと感じていた。
「お前は俺のもんだろ?」
「うん」
「一生離すつもりねぇけど良いよな?」
「う……」
馬鹿にしたような半笑いで囁かれた問いかけに返事をしようとしたが、甘さに溶けきれなかった理性が聡司を止める。大学を卒業すれば結婚するという屋敷の言葉が耳に蘇る。それを聞いたのは今朝のことだったが、とても前の出来事のように感じた。
Ωがαの結婚を阻止できるはずもない。
Ωになって三ヶ月しか生きていない聡司でも、Ωの社会的な地位の低さを嫌と言うほど実感していた。番になってしまった今となっては、独身のΩよりも決定権は無い。αから与えられる経済力と引き換えに自己決定権を番のαへ明け渡す、というのがこの世間の常識だった。
だから屋敷のような将来有望なαが番を幾人も持ったところで、珍しがられることはあっても批判されるようなことはない。αはαで優秀な子孫を出来るだけ多く残す義務があるからだ。
聡司は意を決して屋敷の問いかけに答える。
「……う、うん、良いよ。ぼ、僕は二番目でも三番目でも、もっと下でも、す、昴くんの番だから」
心を痛めながら告げた必死の誓いの言葉を、しかし屋敷は一笑にふした。
「何言ってんだよお前。自分のこと卑下しすぎだろ」
「で、でも」
「好きだって言ってんじゃん」
屋敷は聡司の頬に手を添え、上を向かせた。聡司よりも二十センチ近く高い屋敷の顔を見上げるには首が痛くなる。
見上げた屋敷は嬉しそうに笑っていた。その笑顔を見て、格好良いと聡司は素直に思う。αで、こんなに見た目が良くて、体格も優れている。そんな彼が結婚相手として聡司以外を選ぶなど当たり前だ。自分では到底屋敷とは釣り合わない。
「昴くん」
呟いた唇は屋敷に塞がれた。
いつものように薄く唇を開けると、当然のように屋敷の舌が入ってくる。これを拒んではいけない。聡司はおずおずと自分の舌をそれに絡め、優しく撫でた。すると屋敷の腕が聡司をきつく抱きしめ、奥深くまで舌を差し込まれる。咳き込みそうになるのを堪えながら、聡司は必死に屋敷の舌をねぶり続けた。
「…………っ」
唇が離れると、垂れ落ちそうな唾液を聡司は右手の甲で拭う。そんな聡司の様子を屋敷は愛おしそうな目で見つめ、再び強く抱きしめた。聡司は屋敷の胸に頬を押しつけられる形になり、アッと戸惑いの声を上げる。
「俺ら、性格も体の相性も最高じゃん? だからずっと傍に置いてやるっつってんだよ。嬉しいだろ?」
「う……うん」
「なに? 不満?」
「ち、違うよ。で、でも……昴くんが、その、け、結婚したら、僕……僕は浮気相手、になるのかな、って」
「ハハハッ」
倫理的な疑問を投げかけた聡司に対し、屋敷は思わず、と言った風に大きく笑った。意図しない番の様子に聡司は戸惑うが、彼に抱きしめられたままの姿勢では何もできない。
屋敷は大人しく自分の胸に収まる番の髪を優しく撫でた。
「その辺も含めて相手を選んであるから、お前は心配すんな」
「心配なんて……」
「じゃあ嫉妬か? ハハ、お前、俺と結婚したいの?」
話はおかしな方向へ転がり始める。
聡司が屋敷と結婚したいはずがない。聡司は彼が好きではないからだ。しかし現実として聡司は屋敷と番になってしまい、離れられない関係になってしまった。
番を解消出来たなら、迷わずそうしただろう。そうして、金輪際屋敷とは関わらない生活を選んだだろう。
この学校にはαが大勢いるというのに、何故、よりにもよって彼と番になってしまったのか。あの日、初めて発情を迎えた日、付き添いなど頼んでしまったのだろう。あのとき選択を間違えなければ、もっと違う道があったはずなのに。
「ちが……」
「俺もお前と結婚してやりたいんだけどさ」
もう一度軽くキスをされる。
「俺の家のこととか、まあ色々あんだよ」
「…………」
「でも俺が好きなのは聡司だからさ、そこは安心しとけ」
屋敷の言葉は聡司に平穏をもたらさなかった。人気の無い中庭の外れで抱きしめられながら、聡司の心は重く、底のない沼にズブズブと沈んでいくような錯覚に陥っていた。
◆
その日、学校からマンションへと帰った聡司は自室で屋敷に押し倒され、そのままセックスをした。
「仲直りエッチって燃えるよな」
大きく広げた聡司の両足の間で腰を振り、屋敷はそんな風に言う。聡司にとっては倫理観の問題だったものが、屋敷にとっては単なる番の小さな喧嘩でしかないようだった。
「あ……あっ」
「今日はお前の好きなトコロに当ててやるよ」
「んん、んぁっ、あ、あっ」
屋敷が聡司を見下ろす目は熱を帯びていた。事前の意思確認もなく番になったΩが、自分の結婚に対して嫉妬していたのだと知った屋敷にしてみれば、それは当然のことかもしれない。気に入っている自分のΩが、嫉妬するほど自分に好意を抱いていたのだから。
「好きだ、好きだぜ、聡司。かわいい俺だけのΩ」
「あ、あ、昴くんっ、んっ」
屋敷に体の内側を擦られながら、聡司は前を勃たせていた。突かれるたびに精液がトプトプと出て腹を汚している。自分のことを唯一好きだと言ってくれるこの番を離したくなくて、聡司の両腕は甘えるように屋敷の背中へと回っていた。
αやΩにとってβの持つ倫理観など馬鹿馬鹿しいものなのかもしれない。ほとんどのβはβと婚姻し、それは一対一が常だ。しかしαは複数のΩに対しての番契約を認められている。それは他者と婚姻関係を結んでいても変わらず認められ、何ら問題のないことらしい、と聡司はこのとき初めて知ったのだった。
認められているからこそ当然の権利であり、罪悪感を持つことなど無い。上流になればなるほど家同士の繋がりが重要となるため、αはα同士で結婚し、互いにΩの番を持つことも珍しくはないのだと、屋敷は聡司を抱きながら言った。番のαに精液を注がれながら、フワフワと浮わついた思考でそれを聞く。普段ならば、「でも」と控えめながら言葉を返しそうな内容だったが、熱くなった体を屋敷に愛されているいま、聡司にとってそれはさほど重要なことではない。それどころか、このセックスに水を差したくないとまで感じて肯定の言葉を返した。
「今度、婚約者に会わせてやるよ」
「ん、んっ、ん、あ、あっ」
「向こうも一度見ておきたいって言ってるしな」
「あ、んぁっ、きもち、いっ」
番のαのフェロモンに溺れて甘い声をあげ続ける聡司を組み敷いたまま、屋敷は勝手なことを決定事項として告げた。しかし快楽に翻弄されている聡司には、その内容など断片的にしか理解できない。ただ、婚約者という明らかに自分とは異なる存在の単語が心を痛くした。
番の口から他の相手のことなど聞きたくない。
「キス、キスしたい、昴くん……」
聡司はそう言って番の唇を塞いだ。こうすれば要らぬ言葉を聞くことはないし、番を独り占めできる。
自分から舌を絡めて唾液を飲みながら、聡司は己の中に再び芽生えた寂しさの芽を無理矢理摘み取ろうとした。
◆
数週間後の土曜日、高級ホテルのティーラウンジで聡司は初めて屋敷の婚約者と顔を合わせた。
「初めまして。鎧塚です」
長い黒髪が似合う凛としたαの美少女が、Ωの聡司に頭を下げて挨拶をする。αなのにΩに頭を下げるなんてと、この数ヶ月屋敷と過ごしたことで歪められた聡司の認知に衝撃が走った。
先に店へ入り、彼女の到着を屋敷と共に待っていた聡司は慌てて椅子から立ち上がり、頭を下げる。
「は、初めまして、中野ですっ」
「短い間ですけど、よろしくお願いします」
上品な笑顔を見せた鎧塚の隣には、派手な格好をした女性が立っていた。髪色はアッシュグレーで短くまとめられており、耳にはピアスが幾つか付けられている。服装は流石に場に合わせて落ち着いた色合いのパンツスーツだが、物怖じしない両の瞳が屋敷を見つめていた。Ωなのにαが怖くないのだろうか。聡司はその眼差しに興味を惹かれ、思わず彼女をじっと見つめてしまった。
「聡司」
席に着いたままの屋敷が聡司を咎める。それは、番が自分以外に対して興味を持っていることを咎める声だった。
「あ、ご、ごめんなさい……」
鎧塚ともう一人の女性が席に着いたので、聡司も屋敷の隣へと腰を下ろす。
町屋風のカフェはテーブルごとに格子で区切られ、周囲からは少し見づらくなっている。窓にも同様の格子がはめられていて、日差しは遮らないが人目は遮るという配慮がなされていた。
二人は紅茶を頼み、それが届いたころ、屋敷がおもむろに口を開く。
「こいつが俺の番。かわいいだろ」
鎧塚はそれを聞いて微笑み、頷いた。
「まさか屋敷くんを夢中にさせる相手が出来るだなんて思わなかった」
「鎧塚だってそうだろ」
「まあね」
砕けた様子の会話で、鎧塚の隣にいる女性が彼女のΩであることを何となく察する。番っているかどうかまでは分からないが、屋敷の婚約者にも既に相手がいるのだ。見合い相手の中から選んだ、と言っていたが、こういう意味だったのかと聡司は思う。
互いに番や番候補がいるから、結婚はするけれども実態は仮面夫婦ということか。
立場の弱いΩからしてみれば、それは十分に配慮された最高に近い待遇なのだろう。表向きは昔で言う妾のような隠れた立場だが、実際には番に愛され生活を共にするのは自分なのだから。
「こちらは明石さん。まだ番っていないけれど、私の交際相手です」
「よろしく」
短く発した声は外見からのイメージ通り、ハスキーなものだった。しかし彼女はそれきり黙ってしまう。それどころかテーブルの上でスマホを弄り始めてしまった。
その様子に聡司はハラハラしてしまったが、αである二人はまるで気にしていないかのように話を続ける。
「この通り、私は屋敷くんとは結婚するつもりはないので安心してください」
相変わらずΩに対するものではない丁寧な言葉遣いで鎧塚は聡司へそう告げた。
「え……?」
「……? まさか何も言っていないってこと……? 呆れた」
「婚約相手で結婚相手だってことは言ってある」
「それは全てが上手くいかなかったときの最終手段でしょうが……」
屋敷の言葉に心底呆れたとでも言うように、鎧塚は深いため息をつく。そして聡司へと向き直り、ひとつひとつ説明をしてくれた。
いわく、鎧塚と屋敷は家の思惑もあって婚約はするけれど結婚をするつもりはないこと。二人は大学生の間に共同して起業し、その会社で一定の成果をあげることをもって家同士の繋がりとすること。それを親や親族に認めさせ、それぞれ自分の番と結婚すること。
聡司には初めて聞くことばかりで、鎧塚に対してまともな返事も出来なかった。彼女はそんな聡司を見て屋敷を軽く睨みつけながら言う。
「番をこんなに不安にさせるなんて、神経を疑う」
「コイツは想定外のことに弱いから一番悪いパターンを話しておくのが良いんだよ」
「相変わらず最低……」
軽口はそこで終わり、そのあと二人は今後の予定や現在の状況について話し始めた。二人の家のことなど分からない聡司は、テーブルに目を落として先ほどの鎧塚の言葉を反芻する。
屋敷は聡司と結婚をするつもりがある。それだけで聡司の胸はじんわりと暖かくなった。番が自分以外の相手と結ばれると聞いてポッカリと空いてしまった心の穴は、嘘のようにあっさりと埋まってしまう。Ωである自分の体も心も、全てはαの彼次第なのだと聡司は実感した。
◆
話が終わり、二人と別れたあと、屋敷はホテルのフロントで受け取ったカードキーを手に、聡司を連れて上階へと移動した。このまま自宅へ戻るものだと思っていた聡司は戸惑ったが、無言で手首を掴み、有無を言わせない態度でエレベーターへと乗り込んだ屋敷に何も言うことができなかった。
エレベーターの扉が開いた先には扉がひとつしかない。カードキーでロックを外し、扉を開けた屋敷に促され、聡司は部屋へと入った。背後で扉が閉まるとすぐに抱きしめられる。後ろから強引に顎を掴まれて上向かされた。唇が重なり、嗅ぎ慣れたはずの番のフェロモンが一気に広がったことで聡司は体に変調をきたす。
「んんっ、んん」
口には唾液が溢れ、尻からは早くも愛液が垂れ落ちる。体温が急激に上がり、息が荒くなった。それは全て屋敷が仕掛けたことだった。聡司に対してΩを強制的に発情させるフェロモンを発したのだ。
何度も嗅ぎ、いつもなら安心を覚える屋敷のフェロモンが聡司の体を襲う。得体の知れない性的な感覚に恐ろしさを感じて聡司は涙を流した。
「い、いやだ、こわ…い……っ」
「鎧塚に色目つかってんじゃねーよ」
威圧を感じさせる声で屋敷が言った。言いながら聡司のシャツの前ボタンを引きちぎる勢いで外していく。前をはだけられ乳首を強くひねられた聡司は自分の行動を思い返し、別れ際に彼女たちと挨拶をしたときのことか、と思い当たった。
「違う、僕は色目なんて」
鎧塚から握手を求められたから応じただけだ。その際、屋敷への誤解を解いてくれたことに対する礼を言った。すると彼女がフワリと微笑んだから、思わずその笑みに見惚れてしまっただけなのだ。惹かれる、とかそういう類のものではない。容姿の整った人を思わず二度見してしまうような、そんな感覚だった。
「お前はもう俺に噛まれてるから、他の奴に色目使おうが何しようが無駄だけどな」
ベッドルームまで引き摺られ、上体だけベッドへ押し倒される。うつ伏せの格好でスラックスと下着を脱がされ、陰茎を無理矢理ねじ込まれた。
「あああっ」
乱暴な行為に聡司は悲鳴を上げたが、その声はひどく甘い。フェロモンのせいで発情した尻の内部は愛液に濡れ、柔らかくなっていたからだ。直腸は陰茎を誘うようにうねり、早速精液を搾り取ろうと蠢いている。そんな聡司の体内を楽しむかのように、屋敷はズポズポと抜き差しを繰り返しつつ最奥まで入り込んできた。
奥まで突かれ、聡司の目の前は白と黒に明滅する。挿入されてからさほど時間は経っていないというのに、頭から足の先まで痺れるような感覚が駆け抜けた。
「ん……ッ」
ベッドにしがみつき、腹を丸めて必死に耐える。声も出せないほどの快感に、ただ歯を食いしばって涙を流した。
「す…っげ、締め付けっ」
屋敷の手に力が入る。
「……ハハ、早速メスイキかよ」
荒く息をつきながら彼はそう言った。言ったあとも容赦なく聡司の体を蹂躙する。奥まで犯し、番の不実を責めるように何度も突いた。
フェロモンで無理矢理発情させるなど、酷い暴力でしかないのに、聡司は嫌悪と同時に不思議な嬉しさを感じていた。Ωにとってただ一人しか番えないαの男が自分に嫉妬している。Ωはαに支配されるしか生きる術が無いと思っていた聡司にとって、それは意外とも言える発見だった。発情させられ意思を無視されて犯されているのに、屋敷の独占欲は自分だけに向いている。そのことが聡司に昏い喜びを感じさせた。
「あ、あっ、ごめんなさい、ごめんなさいっ、昴くんっ」
「お前は俺のモンだろッ」
「ん、あ、あ、ああっ」
「突っ込んでくれんなら誰でも良いのかよっ」
自分を責める数々の言葉が告白のことばに聞こえる。正常ではない思考だからそう感じてしまうのだろうか。
「いやだ、昴くん以外はいや……ぼく、僕は、す、昴くんのモノ、です……っ」
奥を突かれるたびに甘イキを繰り返し、喘いで番に許しを請う。
屋敷は陰茎をギリギリまで引き抜くと、一気に奥まで貫いた。何度も突かれて柔らかくなったその場所は屋敷の亀頭を受け入れ、ツプリと飲み込む。αででもなければ入り込めないその場所を犯したことで更に昂ったのか、屋敷は聡司の体へ覆いかぶさると、首筋に歯を立てた。
「うぁっ、あああっ」
ブルブルと震える体を押さえつけられ、それでも本能的に逃げようとする聡司は、屋敷の腕に掻き抱かれる。
「そうだ、お前は俺のだッ」
頸に唇をつけたまま呟いた番の声を聞くと、それまで必死にもがいていた聡司の体は急速に弛緩した。それでも震えは止まらない。俯いたままの顎を掴まれ、強引に横を向けさせられて、聡司は屋敷の口付けを受けた。
陰茎は結腸へ挿入されたままグリグリと押しつけられている。その状態で口内を舌で愛撫され、聡司はΩとしての幸福を感じた。
その日は強制的に発情させられたせいか、体内に射精されても体の熱は収まらず、聡司からもセックスをねだった。中に何度も精を放たれ、身体中に痕を残され、それでも足りなかった。そのあと頸を噛まれながら長い射精を受けたことでようやく互いに満足し、抱き合いながら眠りについた。
◆
その日から聡司は、かつて自分がβだった頃に持っていた意識を捨てた。
屋敷昴という番のαを愛おしく思うようにと、Ωらしく認識を改めた。
別だった寝室をひとつにし、毎晩抱き合って眠る。そうすることで、翌朝、番の腕の中で目覚める喜びを知った。
求められれば何処ででも体を開き、番を受け入れる。リビングや廊下、玄関は言わずもがな、時には学校や出先のトイレなどでも事に及んだ。そうしたことを繰り返すうち、聡司は自分が、少々乱暴な扱いをされることを好む性質だということを知った。
しかしそれは番である屋敷の加虐的な性質と相性の良いものだったので、特に問題にはならなかった。
「聡司。自分で穴、広げろよ」
昼休み、学校の空き教室で全裸になった聡司は番の命令に従う。
教卓の上へうつ伏せとなり、上体を乗せた姿勢で尻たぶを左右に広げた。首を捻って屋敷を見上げるその顔は羞恥に染まっている。番の命令に逆らおうとは思わないが、やはり恥ずかしい。
しかし自分を見下ろす屋敷の嬉しそうな表情を見れば耐えようと思える。聡司が彼を受け入れる限り、彼は自分をを見、自分だけを愛してくれると、聡司は既に理解していた。彼が愛してくれれば胸の中に寂しさは生まれない。常に彼の愛で満たされ、聡司は幸福に生きられるのだ。
体内に陰茎を挿入された途端イッてしまったが、屋敷は聡司を抱きしめ、好きだと囁いてくれた。聡司も同じ言葉を返し、口付けを交わす。そのまま腰を揺さぶられ、聡司は控え目な喘ぎ声をあげた。
聡司が掴めるのは、最早屋敷の手しかなかった。それは二人が番になった瞬間から決められていたことだったが、聡司はようやくそれを本当の意味で受け入れた。聡司が愛せるのは彼だけで、心を満たしてくれるのも彼だけなのだ。
「昴くん……好き、愛してる」
快楽に頬を赤く染めながら告げた言葉に番が傲慢な笑みを浮かべるのを、聡司はうっとりとした表情で見上げた。
相手は同じクラスのα、屋敷昴だ。初めてのヒートの事故で番ってしまった彼らだったが、今は同じマンションの一室で暮らしている。クラスメイトたちはそれを知っていて、屋敷は度々Ωとの暮らしについて友人から聞かれることもあるようだった。
「聡司」
二限目と三限目の間にある長めの休み時間、窓際の席に着いたままボンヤリと外を眺めていた聡司に声がかかる。目線をそちらへ向けると、そこには数名のクラスメイトに囲まれた番がいた。片手を軽く上げている。
こちらへ来いということなのだろう、と聡司は席を立ち、屋敷のほうへと向かった。用があるならば向こうから来るべきだろうと思ったが、相手はαなのだから仕方がない。自分はΩで、彼に縋るしか生きていく術はないのだから。
屋敷のいる集団に近づくと、その中から屋敷が一歩こちらへ踏み出し、聡司の手を取った。そしてそのまま引っ張られ、分厚い胸に抱き込まれる。
「あっ」
「な? 可愛いだろ?」
聡司よりも頭ひとつ高いクラスメイト達は、屋敷のその言葉に笑い声を漏らした。βそのものの容姿である自分のような男に対してその形容はおかしいだろうと思っているのかもしれない。恥ずかしさといたたまれなさで聡司は頬を赤く染めたが、抱き込んでくる腕は緩まない。仕方なく屋敷の胸の顔を埋め、俯くことしか出来なかった。
「これか、噛み痕」
クラスメイトの一人が俯いた聡司の首筋へと目をやった。そこには三ヶ月前、屋敷が付けた傷痕が残っている。何気なく伸ばされたクラスメイトの指先の気配に、聡司は寒気を感じて身をこわばらせた。
「や、やめてっ」
「おい」
両手で首筋をかばい、ギュッと目を閉じた聡司の上から威圧的な声がする。
屋敷だ。
屋敷は聡司の肩を抱いたまま、不用意に傷痕に触ろうとしたクラスメイトへ向けて威嚇の様相を呈していた。フェロモンのように発されたそれは周囲の空気を凍らせ、関係のないクラスメイトにまで影響を与える。
しかし聡司にとってそれは、自分を守ってくれる心地の良いものとして感じられた。安心し、ここに存在していられることを確約してくれるような好ましいものだった。
だが周囲に悪影響を及ぼしているモノをいつまでも出させるわけにはいかない。聡司は意を決して首を覆っていた手を離し、その手を屋敷の腕へと添えた。
「昴くん、もう……大丈夫」
ぎこちなく微笑んでみせると、鋭さを増していた屋敷の視線が少し和らぐ。屋敷は腕の中の聡司を見つめ、そろりと首筋に触れた。
「ん……」
番に触れられる行為は心地が良い。先ほどの、クラスメイトのαに触られそうになったときとはまるで異なる気持ちを抱える。それは屋敷も同じだったのか、そうしたことで周囲の張り詰めた空気は呆気なく解けてしまった。
「屋敷、ご、ごめん」
「ああ」
原因となったクラスメイトが我に帰ったように屋敷へと謝罪の言葉を告げる。屋敷はそれに対して鷹揚に頷くと、彼の肩を強めに叩いて再び鋭い目を向けた。
次は無い。
言外にそう示した屋敷を見て、聡司は形容のし難い安堵を覚える。そうしたところでようやく三限目のチャイムが鳴った。
◆
番になって三ヶ月が経ち、一緒に暮らし始めてから初めて迎えた発情期も終えた。もう聡司の体は隅々まで屋敷のものだというのに、彼はそれでもまだ満足していないようだった。発情期が終わっても毎日のように聡司を求め、体内で射精しないと気が済まないらしい。βから変異した聡司は子宮が未発達なため妊娠することはないが、やはり孕ませたいという欲求がそうさせるのだろうか。
聡司がクラスメイトのαに頸を触られそうになったその日も、屋敷は家へと帰るなり聡司を抱いた。玄関で一度、そして居間で一度。ソファに上半身を乗せて床に膝をつき、後ろから挿入されて何度もイカされた聡司は、二度目の射精のあと、ようやく屋敷が体を離してくれたことに安堵する。陰茎を抜かれると、そこからは白い粘液がタラリと一筋垂れ落ちた。屋敷はそれを人差し指で拭うと、聡司の尻の穴へと押し込む。
「垂れてきてんぞ? しっかり締めておけよ♡」
命令口調の言葉に対して語調は甘い。聡司はうんと頷き、ソファからのろのろと立ち上がった。風呂に入って体を清めたいと思い、許可を取るために屋敷を見上げる。彼は珍しく欠伸をしていた。
「……あー……なんか、すっげぇ疲れた。ちょっと寝てくる」
「あ、う、うん。おやすみ」
「おお」
たった二度のセックスで疲れるなど、これまで無いことだった。今日の午前中、威圧的な空気を発したことで体力を使ったのだろうか、と聡司は思う。βとΩとしてしか生きてこなかった聡司にはαの体質はよく分からない。
自室へと向かう番を見送った聡司はそれ以上考えることを止め、風呂に入るための準備を始めた。
風呂から上がってキッチンで水を飲み、居間に置かれた大きなソファに腰掛ける。地元の名家だけあって、屋敷家が用意したマンションのこの部屋に置かれている家具はどれも高そうなものばかりだった。見た目も座り心地も良いこのソファもそうだし、ソファの前に置かれているローテーブルもそうだ。窓際に置かれた観葉植物など、月に一度業者が取り替えに来るのだから意味が分からない。会社ならともかく、ここは単なる住居だというのに。
と、そのローテーブルの上に無造作に置かれた分厚い紙の束に聡司の目が止まった。高級そうな厚紙が二つ折りになったものが数冊。白地に金の縁取りが施されたそれは、ドラマや映画でしか見たことのないものだったが確かに覚えがあった。
「お見合い写真、とか……」
誰との、と言えばそれは屋敷しかいない。しかし彼はまだ高校二年生だ。そして自分という番がいる。
ドクドクと鳴り始めた胸を押さえ、聡司は一番上に置かれていた一冊を開いた。
「…………」
中の薄紙をめくると、そこには振袖を着て椅子に座り、にこやかに微笑む若い女性がいた。恐らく彼女も自分達と同い年か、そう変わらない年齢だろう。挟まれていた手書きのメモには、α、○○会社社長令嬢、と書かれていた。
他の見合い写真も見てみる。中の写真はどれも正装したもので、中にはΩの男性のものもあった。しかし共通して言えることは、彼女ら彼らのいずれもが良家の子女子息だということだ。
まだ十代なのに、と思ったが、自分も十七歳で番ったのだ。しかも屋敷は地方とは言え名家の三男だった。親は東京で会社を経営していて、手広く事業を行っていると聞いている。こんな地方都市でも上流階級の婚姻は早い段階から決めるものなのかもしれない、と聡司は認識を改めた。
そう言えば、屋敷と番ったあと、家族の顔合わせとして一度会ったきりだったが、彼の一番上の兄も次の兄も既婚だった。長兄は二十九歳の会社員だが次兄は確かまだ医大生で、二十三歳だったはずだ。
聡司は開けたままの一冊に目を落とす。そこには可愛らしい男性のΩが写っていた。
「生まれたときからΩなら、こんなに……」
αの気を惹くためなのか、Ωは男女問わず庇護欲を抱かせる容姿のものが多い。背も低く、華奢だ。その容姿を生かして、Ωでは生きにくいと言われているこの世の中、芸能界に身を置くものもいるほどだ。
聡司はふと顔を上げてカーテンのかかった窓を見た。立ち上がり、窓際へ行ってカーテンを開ける。よく磨かれたそれに映るのは、Ωに変異して多少細くなったとは言え、やはりβにしか見えない自分の姿だった。
βだった頃から聡司は平凡な容姿をしていた。良くもなく、悪くもない。これと言って特徴が無く、人の記憶に残りにくい存在だった。出来るのは勉強だけで、運動などはからきしだ。だから女性と付き合った経験など持てないままここまで来てしまった。Ωに変異してしまった今となってはもう、聡司が女性を抱くことは無い。この先もずっとだ。
そんな自分を、屋敷は何故番にしたままなのか聡司には理解できなかった。事故で番ってしまったのは仕方がない。けれど彼は聡司と番ったことを家族に認めさせ、こうして同じ家で暮らすことにしてしまった。
それは自分が後天性Ωだからだろうか、と聡司は思う。後天性で男性のΩは優秀なαを産む可能性が高いと言われている。それが本当かどうかは分からないが、有名な経営者や世界的な賞を獲った学者の親が後天性の男性Ωだというのは度々聞く話だった。後天性の男性Ωなど、そうそういる存在ではない。なのにそういう話を聞く機会が多いのは、やはりそれが事実であるということなのだろう。
「…………」
窓に映ったもう一人の自分を見つめる。βの頃とさほど変わらない外見だが、中身は随分と変わってしまった。性的なことには疎いほうだったのに、今では毎日屋敷に抱かれ、射精せずに絶頂することも覚えてしまった。そしてこの腹の中には子宮という孕むための臓器が育ちつつある。
自分に求められているのは優秀なαを産むことだと聡司は理解していた。けれど屋敷は自分に好きだと伝えてくる。言葉遣いは乱暴だが、声は甘く心地良い。
βばかりの家族や親族は、Ωに変異してしまった自分のことを気遣いつつも持て余していた。数少なかった友人達からも、扱いかたが分からないといった理由で遠巻きにされ、そのまま疎遠になってしまった。だから周囲にとっても、聡司にとっても、聡司が屋敷と番えたことは良いことでしかなかった。
屋敷の言う好きだという言葉は、聡司の心に空いた穴を埋めてくれる。傲慢でこちらを見下してくる彼が聡司は嫌いだったが、彼無しでの生活は最早考えられなくなっていた。
◆
次の日の朝、聡司が制服に着替えてから居間へ行くと、屋敷は既に起きていた。週に何度か来ている家政婦が作り置きしておいてくれた食事を用意している。
「ごめんなさい、僕がやるから」
「いや、もうこれで終わりだから良いよ。食おうぜ」
ここでの生活の全ては屋敷家が払っているため、聡司は食事や洗濯などは自分がすることに決めていた。だから慌ててそう言ったのだが、屋敷は聡司に席へ着くように促す。
「う、うん……ありがとう」
テーブルにつく前に、聡司はチラリとローテーブルへと目をやった。しかしそこに見合い写真の束は無く、綺麗に片付いている。
目線を戻して席に着くと、向かい側の椅子へと屋敷が座った。
「あれ、見たのか」
「えっ?」
「昨日、あのテーブルの上に置いてただろ?」
「あ、ああ、うん……」
うつむいたが誤魔化せそうもなく、仕方がなく頷いてみせると屋敷はため息をついた。
「やっぱな。……まあいいや、お前には言っておくか。だいぶ先の話だけどな、大学卒業したら結婚すんだよ、俺。あのうちの一人と」
「……っ!」
朝食の席で軽く話すような内容ではないのに、屋敷は軽くそう言ってのけた。テーブルに乗せた手が震えるのを見せたくなくて、聡司は膝の上に両手を戻す。
「相手はもう決めてある。高校卒業で婚約、大学卒業で結婚、って流れだな」
「…………」
「話はつけてあるから……聡司?」
心臓の音が大きくなり、聡司は屋敷の言葉を聞くことができなかった。そんな聡司の様子を不思議に思ったのか、屋敷は聡司の名を呼んだ。
「あ、う、うん、分かった」
弾かれたように顔を上げた聡司は曖昧に笑い、承諾の答えを返す。自分の役目は大学卒業までの期間限定なのだ、と必死に理解しようとした。それまでに屋敷の子供を産み、その後の生活の目処をつけなければならない。けれど、具体的にどうすれば良いのかなど聡司には全く分からなかった。
「そ、そのときが来たら出ていくから、心配しな……」
「はぁ?」
分からないなりに必死に出した返答を、しかし屋敷は大きな声で遮った。驚き、呆れたような声を出した屋敷だったが、驚愕したのは聡司のほうだ。まさか、結婚したあとも聡司を囲うつもりなのだろうか。
「出て行くとか何言ってんの、お前。お前は俺のもんだって言ってるだろが」
「で、でも」
「うるせぇ、黙れよ」
屋敷は不機嫌を隠すこともなくそう言うと、無言で朝食を摂り始めた。どういうつもりでいるのか聞きたかったが、とても聞けるような雰囲気ではない。αの威圧を感じ、Ωの聡司は涙をこぼしそうになりながらも、それを必死に耐えることに集中した。
◆
結局その日、屋敷は聡司に何も説明をすることはなかった。聡司はモヤモヤとしたものを心に抱えながら登校して授業を受け、昼休みになった。
いつもならば一緒に昼食を摂るため屋敷に呼ばれるが、今日は声がかからない。彼とは朝に話したきり、登校時も休み時間も、一度も話すことはなかった。番の男にそんな態度を取られ、聡司の心はキリキリと痛む。口を聞いてもらえなくなってから数時間。たった数時間のことだ。しかしそれは、βならば全く気にならないことだったが、今の聡司にはひどく負担だった。
Ωが番のαに見捨てられれば生きていけない。
それが世間での共通の認識だ。経済的にもそうだし、実質的にもそうだ。頸を噛まれたΩは一生番以外のフェロモンを感じることがないうえ、番以外とのセックスに嫌悪を覚える。しかし発情期は関係なく訪れるので、αに捨てられたΩは一生地獄のような発情期を送るしかない。
その不安に加え、聡司は自分の胸にポッカリと空いた寂しさのようなものを感じていた。
聡司は屋敷が好きではない。しかし、好きだと言ってくれるその言葉の温かさをどうしようもなく必要としていた。
「……僕が……」
もっと物分かり良く頷けば良かったのだろうか。そうすれば今日もまた昨日と変わらない一日を過ごせたのだろうか。
しかし、結婚をするのに自分とも関係を続けるつもりらしい屋敷の認識にはついていけない。関係は自分が先だが、結婚をしてしまえば、こちらが浮気相手ということになってしまう。自分達はまだ十代だと言うのに、それを許容するような常識が金持ち界隈では罷り通るということなのだろうか。
疑問と憤りが心の中に渦巻く。けれど聡司には屋敷しかいなかった。いくら納得できない状況でも受け入れるしかない。
「我慢するしか……」
昼休みは始まったばかりだったが、屋敷の席へ目を向けると、彼は友人たちと連れ立って食堂へと向かうところだった。少しは気にしていたのか、こちらをチラリと見はしたものの、すぐに目を逸らしてしまう。それは聡司の心を酷く傷付けた。
「す、昴くんっ」
居ても立ってもいられず、とうとう聡司は席を立ち、屋敷のほうへと走り寄った。友人の輪の中心にいた屋敷は聡司の声を聞き、ゆっくりと振り返る。無視をされなかった、ただそれだけのことで聡司の胸は喜びに打ち震えた。
屋敷のことを名前で呼ぶことなど、クラスメイトの誰一人許されていない。親しさを強調しようと冗談めかして呼ぶものが現れても屋敷にやんわりと咎められ、バツが悪そうに名字呼びへと戻すのが常だった。それが番とは言え、Ωなどに名前を呼ばれても訂正せず、なに? と返事を返す屋敷に、彼の周囲を取り囲むクラスメイトたちは驚いた。
「あ、あのっ、僕……」
「俺に用事?」
「うんっ、……えっと、話、話したいことが、あって」
正面から顔を見ることができず、聡司はうつむいてモジモジと組んだ自分の両手を見つめながら必死に言葉を紡ぐ。その様子に、朝から剣呑だった屋敷の周りの空気は和らいだ。気を遣い、原因が分からないながらも機嫌を損ねないように屋敷と接していたクラスメイト達は一様に胸を撫で下ろす。
「分かった。場所変えよう。……悪いな、昼、先行っといて」
「あ、ああ、俺らのことは気にしなくて良いから」
屋敷が聡司の肩を抱いてそう言うと、クラスメイトの一人がそう言い、周囲の友人達も揃って頷いた。悪い、と屋敷はもう一度言ってそのまま聡司を連れ、教室を出る。屋敷は無言のままだったが、肩を掴んだままの手から温かさを感じた聡司は不安が少し薄れるのを感じていた。
一階まで降り、人気の無い中庭の外れまで来て屋敷はようやく聡司の肩から手を離した。そしてゆっくりと口を開く。
「朝のことだろ? お前、まだ何か文句あんのかよ」
クラスメイトたちの前ではしない口調で屋敷は言う。上から見下ろされ、聡司はビクリと肩を震わせたが、拳を握って何とか耐えた。たった数時間しか経験していないが、あの孤独や寂しさに比べれば、これくらいの威圧など何でもない、と自分を奮い立たせる。
「も、文句じゃなくて、その、あ、謝ろうと……」
「は?」
「か、勝手に出て行くなんて言って、ご、ごめんなさい」
つっかえながらも言うべきことは言えた。結婚しても聡司を手放さないと宣言したことは理解出来ないが、考えに考えた末、了承も得ずに出ていくつもりだと言ってしまったのは自分が悪いと思ったのだ。Ωはαのものだという認識が上流階級にはある。その思い込みを覆されて屋敷は怒ったのかもしれない。聡司はそう考え、その点について屋敷に謝罪した。
おずおずと屋敷を見上げると、彼は唖然とした表情で聡司を見下ろしていた。そして数秒の後、ハハッと笑い声を上げる。
「自分が悪いって思ったのかよ、聡司。……ハハッ。お前、ほんと良いよ。最高」
そう言って屋敷は聡司を抱きしめた。
「俺も悪かったよ。説明が足りなかったよな」
「…………」
「俺から離れるって言われて頭に血が上った」
軽く謝罪した屋敷に聡司は大層驚いた。αが、それもこの傲慢な屋敷がΩの聡司に謝るだなんて。
屋敷の腕は聡司の背に回り、愛おしそうに撫でている。学校で抱きしめるなんて誰かに見られたら、と聡司の頭は拒否を示していたが、心は既に温かさに溶け、屋敷に許されたことを至上の喜びだと感じていた。
「お前は俺のもんだろ?」
「うん」
「一生離すつもりねぇけど良いよな?」
「う……」
馬鹿にしたような半笑いで囁かれた問いかけに返事をしようとしたが、甘さに溶けきれなかった理性が聡司を止める。大学を卒業すれば結婚するという屋敷の言葉が耳に蘇る。それを聞いたのは今朝のことだったが、とても前の出来事のように感じた。
Ωがαの結婚を阻止できるはずもない。
Ωになって三ヶ月しか生きていない聡司でも、Ωの社会的な地位の低さを嫌と言うほど実感していた。番になってしまった今となっては、独身のΩよりも決定権は無い。αから与えられる経済力と引き換えに自己決定権を番のαへ明け渡す、というのがこの世間の常識だった。
だから屋敷のような将来有望なαが番を幾人も持ったところで、珍しがられることはあっても批判されるようなことはない。αはαで優秀な子孫を出来るだけ多く残す義務があるからだ。
聡司は意を決して屋敷の問いかけに答える。
「……う、うん、良いよ。ぼ、僕は二番目でも三番目でも、もっと下でも、す、昴くんの番だから」
心を痛めながら告げた必死の誓いの言葉を、しかし屋敷は一笑にふした。
「何言ってんだよお前。自分のこと卑下しすぎだろ」
「で、でも」
「好きだって言ってんじゃん」
屋敷は聡司の頬に手を添え、上を向かせた。聡司よりも二十センチ近く高い屋敷の顔を見上げるには首が痛くなる。
見上げた屋敷は嬉しそうに笑っていた。その笑顔を見て、格好良いと聡司は素直に思う。αで、こんなに見た目が良くて、体格も優れている。そんな彼が結婚相手として聡司以外を選ぶなど当たり前だ。自分では到底屋敷とは釣り合わない。
「昴くん」
呟いた唇は屋敷に塞がれた。
いつものように薄く唇を開けると、当然のように屋敷の舌が入ってくる。これを拒んではいけない。聡司はおずおずと自分の舌をそれに絡め、優しく撫でた。すると屋敷の腕が聡司をきつく抱きしめ、奥深くまで舌を差し込まれる。咳き込みそうになるのを堪えながら、聡司は必死に屋敷の舌をねぶり続けた。
「…………っ」
唇が離れると、垂れ落ちそうな唾液を聡司は右手の甲で拭う。そんな聡司の様子を屋敷は愛おしそうな目で見つめ、再び強く抱きしめた。聡司は屋敷の胸に頬を押しつけられる形になり、アッと戸惑いの声を上げる。
「俺ら、性格も体の相性も最高じゃん? だからずっと傍に置いてやるっつってんだよ。嬉しいだろ?」
「う……うん」
「なに? 不満?」
「ち、違うよ。で、でも……昴くんが、その、け、結婚したら、僕……僕は浮気相手、になるのかな、って」
「ハハハッ」
倫理的な疑問を投げかけた聡司に対し、屋敷は思わず、と言った風に大きく笑った。意図しない番の様子に聡司は戸惑うが、彼に抱きしめられたままの姿勢では何もできない。
屋敷は大人しく自分の胸に収まる番の髪を優しく撫でた。
「その辺も含めて相手を選んであるから、お前は心配すんな」
「心配なんて……」
「じゃあ嫉妬か? ハハ、お前、俺と結婚したいの?」
話はおかしな方向へ転がり始める。
聡司が屋敷と結婚したいはずがない。聡司は彼が好きではないからだ。しかし現実として聡司は屋敷と番になってしまい、離れられない関係になってしまった。
番を解消出来たなら、迷わずそうしただろう。そうして、金輪際屋敷とは関わらない生活を選んだだろう。
この学校にはαが大勢いるというのに、何故、よりにもよって彼と番になってしまったのか。あの日、初めて発情を迎えた日、付き添いなど頼んでしまったのだろう。あのとき選択を間違えなければ、もっと違う道があったはずなのに。
「ちが……」
「俺もお前と結婚してやりたいんだけどさ」
もう一度軽くキスをされる。
「俺の家のこととか、まあ色々あんだよ」
「…………」
「でも俺が好きなのは聡司だからさ、そこは安心しとけ」
屋敷の言葉は聡司に平穏をもたらさなかった。人気の無い中庭の外れで抱きしめられながら、聡司の心は重く、底のない沼にズブズブと沈んでいくような錯覚に陥っていた。
◆
その日、学校からマンションへと帰った聡司は自室で屋敷に押し倒され、そのままセックスをした。
「仲直りエッチって燃えるよな」
大きく広げた聡司の両足の間で腰を振り、屋敷はそんな風に言う。聡司にとっては倫理観の問題だったものが、屋敷にとっては単なる番の小さな喧嘩でしかないようだった。
「あ……あっ」
「今日はお前の好きなトコロに当ててやるよ」
「んん、んぁっ、あ、あっ」
屋敷が聡司を見下ろす目は熱を帯びていた。事前の意思確認もなく番になったΩが、自分の結婚に対して嫉妬していたのだと知った屋敷にしてみれば、それは当然のことかもしれない。気に入っている自分のΩが、嫉妬するほど自分に好意を抱いていたのだから。
「好きだ、好きだぜ、聡司。かわいい俺だけのΩ」
「あ、あ、昴くんっ、んっ」
屋敷に体の内側を擦られながら、聡司は前を勃たせていた。突かれるたびに精液がトプトプと出て腹を汚している。自分のことを唯一好きだと言ってくれるこの番を離したくなくて、聡司の両腕は甘えるように屋敷の背中へと回っていた。
αやΩにとってβの持つ倫理観など馬鹿馬鹿しいものなのかもしれない。ほとんどのβはβと婚姻し、それは一対一が常だ。しかしαは複数のΩに対しての番契約を認められている。それは他者と婚姻関係を結んでいても変わらず認められ、何ら問題のないことらしい、と聡司はこのとき初めて知ったのだった。
認められているからこそ当然の権利であり、罪悪感を持つことなど無い。上流になればなるほど家同士の繋がりが重要となるため、αはα同士で結婚し、互いにΩの番を持つことも珍しくはないのだと、屋敷は聡司を抱きながら言った。番のαに精液を注がれながら、フワフワと浮わついた思考でそれを聞く。普段ならば、「でも」と控えめながら言葉を返しそうな内容だったが、熱くなった体を屋敷に愛されているいま、聡司にとってそれはさほど重要なことではない。それどころか、このセックスに水を差したくないとまで感じて肯定の言葉を返した。
「今度、婚約者に会わせてやるよ」
「ん、んっ、ん、あ、あっ」
「向こうも一度見ておきたいって言ってるしな」
「あ、んぁっ、きもち、いっ」
番のαのフェロモンに溺れて甘い声をあげ続ける聡司を組み敷いたまま、屋敷は勝手なことを決定事項として告げた。しかし快楽に翻弄されている聡司には、その内容など断片的にしか理解できない。ただ、婚約者という明らかに自分とは異なる存在の単語が心を痛くした。
番の口から他の相手のことなど聞きたくない。
「キス、キスしたい、昴くん……」
聡司はそう言って番の唇を塞いだ。こうすれば要らぬ言葉を聞くことはないし、番を独り占めできる。
自分から舌を絡めて唾液を飲みながら、聡司は己の中に再び芽生えた寂しさの芽を無理矢理摘み取ろうとした。
◆
数週間後の土曜日、高級ホテルのティーラウンジで聡司は初めて屋敷の婚約者と顔を合わせた。
「初めまして。鎧塚です」
長い黒髪が似合う凛としたαの美少女が、Ωの聡司に頭を下げて挨拶をする。αなのにΩに頭を下げるなんてと、この数ヶ月屋敷と過ごしたことで歪められた聡司の認知に衝撃が走った。
先に店へ入り、彼女の到着を屋敷と共に待っていた聡司は慌てて椅子から立ち上がり、頭を下げる。
「は、初めまして、中野ですっ」
「短い間ですけど、よろしくお願いします」
上品な笑顔を見せた鎧塚の隣には、派手な格好をした女性が立っていた。髪色はアッシュグレーで短くまとめられており、耳にはピアスが幾つか付けられている。服装は流石に場に合わせて落ち着いた色合いのパンツスーツだが、物怖じしない両の瞳が屋敷を見つめていた。Ωなのにαが怖くないのだろうか。聡司はその眼差しに興味を惹かれ、思わず彼女をじっと見つめてしまった。
「聡司」
席に着いたままの屋敷が聡司を咎める。それは、番が自分以外に対して興味を持っていることを咎める声だった。
「あ、ご、ごめんなさい……」
鎧塚ともう一人の女性が席に着いたので、聡司も屋敷の隣へと腰を下ろす。
町屋風のカフェはテーブルごとに格子で区切られ、周囲からは少し見づらくなっている。窓にも同様の格子がはめられていて、日差しは遮らないが人目は遮るという配慮がなされていた。
二人は紅茶を頼み、それが届いたころ、屋敷がおもむろに口を開く。
「こいつが俺の番。かわいいだろ」
鎧塚はそれを聞いて微笑み、頷いた。
「まさか屋敷くんを夢中にさせる相手が出来るだなんて思わなかった」
「鎧塚だってそうだろ」
「まあね」
砕けた様子の会話で、鎧塚の隣にいる女性が彼女のΩであることを何となく察する。番っているかどうかまでは分からないが、屋敷の婚約者にも既に相手がいるのだ。見合い相手の中から選んだ、と言っていたが、こういう意味だったのかと聡司は思う。
互いに番や番候補がいるから、結婚はするけれども実態は仮面夫婦ということか。
立場の弱いΩからしてみれば、それは十分に配慮された最高に近い待遇なのだろう。表向きは昔で言う妾のような隠れた立場だが、実際には番に愛され生活を共にするのは自分なのだから。
「こちらは明石さん。まだ番っていないけれど、私の交際相手です」
「よろしく」
短く発した声は外見からのイメージ通り、ハスキーなものだった。しかし彼女はそれきり黙ってしまう。それどころかテーブルの上でスマホを弄り始めてしまった。
その様子に聡司はハラハラしてしまったが、αである二人はまるで気にしていないかのように話を続ける。
「この通り、私は屋敷くんとは結婚するつもりはないので安心してください」
相変わらずΩに対するものではない丁寧な言葉遣いで鎧塚は聡司へそう告げた。
「え……?」
「……? まさか何も言っていないってこと……? 呆れた」
「婚約相手で結婚相手だってことは言ってある」
「それは全てが上手くいかなかったときの最終手段でしょうが……」
屋敷の言葉に心底呆れたとでも言うように、鎧塚は深いため息をつく。そして聡司へと向き直り、ひとつひとつ説明をしてくれた。
いわく、鎧塚と屋敷は家の思惑もあって婚約はするけれど結婚をするつもりはないこと。二人は大学生の間に共同して起業し、その会社で一定の成果をあげることをもって家同士の繋がりとすること。それを親や親族に認めさせ、それぞれ自分の番と結婚すること。
聡司には初めて聞くことばかりで、鎧塚に対してまともな返事も出来なかった。彼女はそんな聡司を見て屋敷を軽く睨みつけながら言う。
「番をこんなに不安にさせるなんて、神経を疑う」
「コイツは想定外のことに弱いから一番悪いパターンを話しておくのが良いんだよ」
「相変わらず最低……」
軽口はそこで終わり、そのあと二人は今後の予定や現在の状況について話し始めた。二人の家のことなど分からない聡司は、テーブルに目を落として先ほどの鎧塚の言葉を反芻する。
屋敷は聡司と結婚をするつもりがある。それだけで聡司の胸はじんわりと暖かくなった。番が自分以外の相手と結ばれると聞いてポッカリと空いてしまった心の穴は、嘘のようにあっさりと埋まってしまう。Ωである自分の体も心も、全てはαの彼次第なのだと聡司は実感した。
◆
話が終わり、二人と別れたあと、屋敷はホテルのフロントで受け取ったカードキーを手に、聡司を連れて上階へと移動した。このまま自宅へ戻るものだと思っていた聡司は戸惑ったが、無言で手首を掴み、有無を言わせない態度でエレベーターへと乗り込んだ屋敷に何も言うことができなかった。
エレベーターの扉が開いた先には扉がひとつしかない。カードキーでロックを外し、扉を開けた屋敷に促され、聡司は部屋へと入った。背後で扉が閉まるとすぐに抱きしめられる。後ろから強引に顎を掴まれて上向かされた。唇が重なり、嗅ぎ慣れたはずの番のフェロモンが一気に広がったことで聡司は体に変調をきたす。
「んんっ、んん」
口には唾液が溢れ、尻からは早くも愛液が垂れ落ちる。体温が急激に上がり、息が荒くなった。それは全て屋敷が仕掛けたことだった。聡司に対してΩを強制的に発情させるフェロモンを発したのだ。
何度も嗅ぎ、いつもなら安心を覚える屋敷のフェロモンが聡司の体を襲う。得体の知れない性的な感覚に恐ろしさを感じて聡司は涙を流した。
「い、いやだ、こわ…い……っ」
「鎧塚に色目つかってんじゃねーよ」
威圧を感じさせる声で屋敷が言った。言いながら聡司のシャツの前ボタンを引きちぎる勢いで外していく。前をはだけられ乳首を強くひねられた聡司は自分の行動を思い返し、別れ際に彼女たちと挨拶をしたときのことか、と思い当たった。
「違う、僕は色目なんて」
鎧塚から握手を求められたから応じただけだ。その際、屋敷への誤解を解いてくれたことに対する礼を言った。すると彼女がフワリと微笑んだから、思わずその笑みに見惚れてしまっただけなのだ。惹かれる、とかそういう類のものではない。容姿の整った人を思わず二度見してしまうような、そんな感覚だった。
「お前はもう俺に噛まれてるから、他の奴に色目使おうが何しようが無駄だけどな」
ベッドルームまで引き摺られ、上体だけベッドへ押し倒される。うつ伏せの格好でスラックスと下着を脱がされ、陰茎を無理矢理ねじ込まれた。
「あああっ」
乱暴な行為に聡司は悲鳴を上げたが、その声はひどく甘い。フェロモンのせいで発情した尻の内部は愛液に濡れ、柔らかくなっていたからだ。直腸は陰茎を誘うようにうねり、早速精液を搾り取ろうと蠢いている。そんな聡司の体内を楽しむかのように、屋敷はズポズポと抜き差しを繰り返しつつ最奥まで入り込んできた。
奥まで突かれ、聡司の目の前は白と黒に明滅する。挿入されてからさほど時間は経っていないというのに、頭から足の先まで痺れるような感覚が駆け抜けた。
「ん……ッ」
ベッドにしがみつき、腹を丸めて必死に耐える。声も出せないほどの快感に、ただ歯を食いしばって涙を流した。
「す…っげ、締め付けっ」
屋敷の手に力が入る。
「……ハハ、早速メスイキかよ」
荒く息をつきながら彼はそう言った。言ったあとも容赦なく聡司の体を蹂躙する。奥まで犯し、番の不実を責めるように何度も突いた。
フェロモンで無理矢理発情させるなど、酷い暴力でしかないのに、聡司は嫌悪と同時に不思議な嬉しさを感じていた。Ωにとってただ一人しか番えないαの男が自分に嫉妬している。Ωはαに支配されるしか生きる術が無いと思っていた聡司にとって、それは意外とも言える発見だった。発情させられ意思を無視されて犯されているのに、屋敷の独占欲は自分だけに向いている。そのことが聡司に昏い喜びを感じさせた。
「あ、あっ、ごめんなさい、ごめんなさいっ、昴くんっ」
「お前は俺のモンだろッ」
「ん、あ、あ、ああっ」
「突っ込んでくれんなら誰でも良いのかよっ」
自分を責める数々の言葉が告白のことばに聞こえる。正常ではない思考だからそう感じてしまうのだろうか。
「いやだ、昴くん以外はいや……ぼく、僕は、す、昴くんのモノ、です……っ」
奥を突かれるたびに甘イキを繰り返し、喘いで番に許しを請う。
屋敷は陰茎をギリギリまで引き抜くと、一気に奥まで貫いた。何度も突かれて柔らかくなったその場所は屋敷の亀頭を受け入れ、ツプリと飲み込む。αででもなければ入り込めないその場所を犯したことで更に昂ったのか、屋敷は聡司の体へ覆いかぶさると、首筋に歯を立てた。
「うぁっ、あああっ」
ブルブルと震える体を押さえつけられ、それでも本能的に逃げようとする聡司は、屋敷の腕に掻き抱かれる。
「そうだ、お前は俺のだッ」
頸に唇をつけたまま呟いた番の声を聞くと、それまで必死にもがいていた聡司の体は急速に弛緩した。それでも震えは止まらない。俯いたままの顎を掴まれ、強引に横を向けさせられて、聡司は屋敷の口付けを受けた。
陰茎は結腸へ挿入されたままグリグリと押しつけられている。その状態で口内を舌で愛撫され、聡司はΩとしての幸福を感じた。
その日は強制的に発情させられたせいか、体内に射精されても体の熱は収まらず、聡司からもセックスをねだった。中に何度も精を放たれ、身体中に痕を残され、それでも足りなかった。そのあと頸を噛まれながら長い射精を受けたことでようやく互いに満足し、抱き合いながら眠りについた。
◆
その日から聡司は、かつて自分がβだった頃に持っていた意識を捨てた。
屋敷昴という番のαを愛おしく思うようにと、Ωらしく認識を改めた。
別だった寝室をひとつにし、毎晩抱き合って眠る。そうすることで、翌朝、番の腕の中で目覚める喜びを知った。
求められれば何処ででも体を開き、番を受け入れる。リビングや廊下、玄関は言わずもがな、時には学校や出先のトイレなどでも事に及んだ。そうしたことを繰り返すうち、聡司は自分が、少々乱暴な扱いをされることを好む性質だということを知った。
しかしそれは番である屋敷の加虐的な性質と相性の良いものだったので、特に問題にはならなかった。
「聡司。自分で穴、広げろよ」
昼休み、学校の空き教室で全裸になった聡司は番の命令に従う。
教卓の上へうつ伏せとなり、上体を乗せた姿勢で尻たぶを左右に広げた。首を捻って屋敷を見上げるその顔は羞恥に染まっている。番の命令に逆らおうとは思わないが、やはり恥ずかしい。
しかし自分を見下ろす屋敷の嬉しそうな表情を見れば耐えようと思える。聡司が彼を受け入れる限り、彼は自分をを見、自分だけを愛してくれると、聡司は既に理解していた。彼が愛してくれれば胸の中に寂しさは生まれない。常に彼の愛で満たされ、聡司は幸福に生きられるのだ。
体内に陰茎を挿入された途端イッてしまったが、屋敷は聡司を抱きしめ、好きだと囁いてくれた。聡司も同じ言葉を返し、口付けを交わす。そのまま腰を揺さぶられ、聡司は控え目な喘ぎ声をあげた。
聡司が掴めるのは、最早屋敷の手しかなかった。それは二人が番になった瞬間から決められていたことだったが、聡司はようやくそれを本当の意味で受け入れた。聡司が愛せるのは彼だけで、心を満たしてくれるのも彼だけなのだ。
「昴くん……好き、愛してる」
快楽に頬を赤く染めながら告げた言葉に番が傲慢な笑みを浮かべるのを、聡司はうっとりとした表情で見上げた。
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