βからΩになったばかりの高校生が無理矢理番にされる話

煉瓦

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βからΩになって三ヶ月経った高校生が番を受け入れるまでの話

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 高校二年生である中野聡司がΩとして生きることになってから三ヶ月が過ぎた。
 二週間に一度の割合で病院にかかっているが、後天的Ωにしては体調が落ち着いているらしい。これは恐らく早々にαと番ったせいだろうと医者から言われたが、聡司には全く嬉しくない情報だった。
 医者の話を聞いている間も同級生である番、屋敷昴は隣に座って聡司の手を握っている。Ωに変異してから痩せて更に華奢になった聡司の手は、大きく肉厚な屋敷の手にすっぽりと覆われていた。

「子宮の発達も順調で……これなら来年か再来年あたり、妊娠可能になりそうですね」
「……は、はい……」
「良かったな、聡司」

 俯いて答えた聡司の肩を屋敷が抱きよせた。自分の親族の経営する病院だからなのか、それともα特有の傲慢さがそうさせるのか、屋敷は医者や看護師の前でも聡司が己のΩであると誇示する行動を慎まない。つい三ヶ月前までれっきとしたβだった聡司には、それがたまらなく不快だった。男である自分が同じ男である屋敷の所有物のように扱われている。Ωとしてαと番ったのが事実とは言え、それはどうしても耐えられないことだった。

「発情期は……前回のヒートからそろそろ三ヶ月ですが、まだ訪れていないんですね?」
「は、はい」
「そうですか。血液検査の結果を見るとそれに関した値が上昇しているので、そろそろ来るかと思いますよ。しかし、変異したてでこれほど安定しているのは珍しい」

 聡司の返事に医者はニコリと笑って告げた。

「では二回目の発情期に向けて準備しておいてください」

 医者はそう言って話を切り上げようとする。だから聡司は慌てて口を開いた。

「あ、あのっ、薬は……?」
「薬、ですか?」
「はい、えっと……抑制剤、みたいな……」

 もそもそと口籠もりながら答える聡司の小さな声に、屋敷が被せるように言葉を発する。

「ハハ、何言ってるんだよ? 俺がいるだろ?」
「……え?」
「そうですよ、中野くん。薬を飲まなくても君には頼れる番がいるんですから。君は抑制剤なんか飲む必要は無いですよ」
「で、でもっ」
「変異したばかりの体に抑制剤は負担になります。だからしばらく発情期は彼と過ごしてください」

 医者からハッキリそう言われるともう、聡司は何も言えなかった。



 病院からタクシーを使って帰宅する。行きも、公共交通機関で移動しようと聡司を、屋敷は強引にタクシーに乗せた。帰りもだ。
 後部座席に二人並んで座っている間も屋敷は聡司の膝に手を置いて撫でている。聡司はそれがたまらなく嫌だった。

(僕は女の子じゃない)

 いや、仮に自分が女の子だったとしても、こんな行為は嫌だった。けれど拒否できない自分が情けない。手を払いのけたくとも、そうしようとするたび、両親の顔が脳裏に浮かぶのだ。彼らは屋敷の親が経営する会社のグループ会社に勤めていた。聡司が屋敷と番ったおかげで父親は役職がつき、母親もパートから正社員に格上げされ、給料も上がったと言っていた。

(だから僕さえ我慢すれば)

 自分以外の皆が幸せになれる。

「……聡司? 何考えてる?」

 屋敷が聡司の手を握り込んでくる。体温の熱さが気持ち悪いが、やはり振り払うことなど出来なかった。指を一本一本なぞられて寒気が走ったが、聡司は屋敷の顔を見上げると、少し微笑んで言った。

「す、昴くんのこと、考えてた」
「ハハッ。……俺も、聡司のことばかり考えてるよ」

 運転手がいるためか、屋敷の物言いは乱暴ではない。聡司以外の人間がいる場所では、初めてセックスをして番になったときのような粗野な言葉遣いをしないのだ。激しく荒々しい屋敷の姿は聡司しか知らない。だから聡司の両親も、聡司が屋敷に番ってもらえたと喜んでいる。
 今から発情期のことを考えているのか、屋敷の手は熱い。聡司の手は彼の汗で湿り、聡司はそれを心底気持ちが悪いと思った。



 発情期が来たのはそれから数日後のことだった。
 まだ窓の外が明るくなっていない早朝に、ふと喉の渇きを覚えて聡司は目を覚ました。水を飲みに行こうと思い、ベッドから抜け出すために体を動かしただけで軽い眩暈を覚える。

「……、まさか」

 呟いた声は掠れ、息は熱かった。
 部屋のドアの隙間から抗い難い香りが流れてくる。よく知っている、爽やかで甘い香りだ。それは聡司の唯一の番の香りだった。それを嗅いだ途端、急な発情に戸惑いを覚えていた聡司の頭が一気にΩの本能に支配される。

「あ、あっ……!」

 番の精液が欲しい。犯して欲しい。自分なんてめちゃくちゃにしてしまっても良いから、その代わり、番を自分だけのものにしたい。
 尻から粘液が流れ、穴がクパクパと開閉する。寂しくて、埋めたくて、切なくて仕方がなかった。
 腹の奥が疼き、目からは何故か涙が流れた。寂しい、早く来て、とそれだけを思う。
 どうしても、と頼み込んで別にしてもらった寝室なのに、今となれば、何故そんなことを言ってしまったのか、どうして部屋を一緒にしなかったのだ、と過去の自分を責めた。手を伸ばしても、そこに番はおらず、ただ冷たいシーツが手のひらに触れるのみだ。それが孤独を感じさせて、ますます聡司の目からは涙が溢れた。

「昴くん……はぁっ、どこ、昴くん……っ」

 フラつきながら体を起こす。
 愛しい番の香りは部屋の外からだ。聡司はベッドを抜け出すと、寝着の上に何も羽織らず、裸足のまま何も履かず、後ろをとめどなく濡らしながら自室のドアを開けて廊下へと出た。

「昴く……あッ!」

 少し大きめの寝着の裾がつま先に引っかかり、聡司は廊下に出た途端、転んでしまった。

「……はぁ、はぁ、……」

 肘を打った痛みで理性を取り戻す。廊下に出たことで香りは強くなったが、痛む肘を強く握り、聡司は何とか自我を保とうとした。

「僕は……」

 後ろからは絶え間なく愛液がトロトロと分泌されている。下着を濡らすそれを不快に感じつつも、止める術を聡司は知らない。αに犯してもらう為だけにあるΩの浅ましい機能に、聡司は気分が悪くなった。
 グッと肘を強く握り、もっと痛みを感じるために爪を立てる。訳の分からない衝動に思考が染まってしまうよりも、こうして痛みを感じつつ自我を保っているほうが遥かに良いと聡司は思った。
 少しでも気を抜けばΩの本能が襲ってくる。それに耐えながら、聡司は何とか自室へと戻り、扉に鍵をかけてベッドに戻った。そのまま這うようにしてベッドへ這いあがり、横になる。吐く息は熱く、既に前は勃っていた。自分の意思ではどうにもならない本能の欲求に、聡司は目眩を覚えた。
 したくなどないのに、手が勝手に寝着の下にかかり、それをずり下ろす。下着の中に利き手を突っ込んで、濡れそぼった自身の陰茎を擦らずにはいられなかった。
 性的なことには疎かったはずの自分が、こんな風に自慰をしてしまうなんて。

「……う、ぁ、う……う……っ」

 気持ちいい。気持ちいい。だけど、足りない。もっと気持ちよくなりたい。
 それだけを考え、手の動きだけでは物足りなかった聡司は、自ら腰を振り出した。シーツの擦れる音と、耳を塞ぎたくなるような自分の喘ぎ声を聞きながら、情けなさに涙を流す。
 開けたままの口から涎を垂らし、体をくねらせながら聡司は、まだβだったころに見た、Ωの自己肯定感の低さについてのニュースの特集を思い出した。

 男女限らずΩは社会的地位が低く、奇異の目で見られることが多い。理性を持った人間であるはずなのに、Ωだけは動物的な本能を伴った発情期をもつからだ。それも、三ヶ月に一度という割合で。αもラットという発情状態になることはあるが、それはΩのフェロモンによって引き起こされるものであって、Ωの発情期とは根本的に異なる。発情したΩさえいなければαは本能に狂わされることはないのだ。
 そしてΩは生殖能力に優れている代わりに、様々な能力がαやβよりも著しく劣る。その事実をもって、Ωは性と生殖に特化した種だと蔑まれていた。
 そんな種の自己肯定感が高いはずもない。
 学力も体力も低く、発情期という特性のため、まともな職業に就くこともできない。αと番えば経済的には安定できるが、αは複数の番を持てるのに対し、Ωが番えるのは一生に一人だけだ。αに縋らなければ生きていけないのに、番うにしても捨てるにしても、決定権はαにしかない。事実、聡司も自分の意思とは関係なく屋敷と番わされてしまった。

「あ、あっ、ああ……っ」

 自慰をしつつ、本能に飲み込まれそうになるたび、聡司は打ちつけた肘を強く掴む。体の疼きを抑えるために仕方なく自身でこんなことをしているが、それはごく最近までβだった聡司には耐えられない行為だった。
 性的な衝動を理性で抑えられないなど、どうかしている。
 βとして十七年間育ってきた聡司にとって、Ωの生態は知る必要もなく、興味もなかったものだった。βはβ同士で結婚し、暮らしていくものだからだ。αやΩと深く関わることなどない。だからある日突然Ωへと変異してしまった聡司の心は、急速に変化していく体から置き去りにされていた。

「んっ、気持ちいい、いいっ……あ、んぁっ」

 亀頭を指でいじるのがこんなに気持ちいいなんて知らなかった。ビリビリと痺れるような快感が全身に走る。体全体が性感帯になったかのように、聡司はピクピクと体を震わせながら喘いでいた。
 尻からはトロトロと分泌液が溢れ出すが、しかし、快感よりも怖さが勝ってそこには触れられない。陰茎を擦るだけでもたまらなく気持ちがよかったが、中を触ればもっと気持ちが良いことを聡司は知っている。いや、知らされたのだ。あの、番に。

「す……昴くん、昴、く……っ」

 自分を無理矢理犯した男の名前を呼ぶ。番だからなのか、それだけで快感が増した。

 あの日、保健室で犯されたのは聡司のほうなのに、周囲の認識は真逆のものだった。
 聡司はΩである事を隠していた。しかしあの日、発情期を迎えた聡司はわざと抑制剤を飲まず、屋敷を保健室に誘い込んでラットを起こさせた。我を忘れた屋敷は聡司の目論み通り頸を噛み、番が成立した、というのがクラスメイトたちの認識だ。あの日、聡司は急にΩへと変異したのだということなど誰も信じてはくれなかった。
 自分がΩに変異したと知っていたならば、αである屋敷になど付き添いを頼まなかった。頸を噛まれて人生が台無しになることを知っていたならば、もっと必死に抵抗しただろう。

 しかし番となってしまった今、聡司を発情の苦しみから救ってくれるのは屋敷だけだ。頸を噛まれたΩは、頸を噛んだαにしか反応しなくなる。それは番を解消されても変わることはない。聡司はこれから先もずっと、屋敷のフェロモンしか感じることができないのだ。

「はやく、昴くん……抱いて、い、挿れて、ほしいっ」

 とうとう聡司は自らの指を尻の間へと滑らせた。慎ましく閉じた穴の縁を指でなぞるだけでも気持ちが良い。息をするために薄く開いた口から漏れる声を抑えることができなかった。
 Ωになったあの日から聡司は何度も屋敷に抱かれたが、最後に病院を訪れてから今日までの数日間はセックスをしていない。もうすぐ発情期来るから、と屋敷は性器に触れることさえしてくれなくなった。
 保健室でラット状態にさせてしまったから避けられているのだろうか。
 ふとそう思い、寂しい気分になる。
 しかし、能力にも容姿にも優れた屋敷のようなαが、平凡で勉強しか取り柄のない聡司のようなΩなどに狂わされてしまうことは耐え難い屈辱なのかもしれない、とも思う。芸能界で活躍しているような可憐なΩや、凛として目を引くようなΩだったのなら、たとえラットを誘発させるとしても求められただろうか。
 発情が進み、普段ならそうは考えない思考に聡司は陥っていた。
 尻の中に指を挿れてかき混ぜると、理性はより一層混沌へと沈んでいく。痛みで自我を保とうと掴んでいた肘は既に離され、聡司は両手で尻を慰めていた。

「昴くん、あ、ああっ、そこ、そこ、好き……っ」

 自分の指では良いところまでは届かない。しかし聡司は身をくゆらせ、甘い声をあげた。閉じた瞼の裏には優れた体躯の番が現れ、聡司の中を優しく嬲ってくれる。実際の感覚よりも、妄想とは言え、番にそうされているという認識が聡司を快楽の海へと誘った。

「ここか?」
「ん……そこ、気持ち良い」

 指が少し奥まったところまで届き、腹側のしこりを緩く撫でてくれる。初めて犯された日も聡司はそこを擦られて感じ、達した。ペニスでそこを擦られ、亀頭で奥を突かれながら頸を噛まれたことを思い出す。それは聡司がこれまで生きてきた中で一番の幸せな記憶だった。

「ハハ、すっげぇニコニコして。……俺にされるの、好きなんだな?」
「ん……好き。一番好き、昴くんに、さ、されるの……」

 妄想の相手に恥じらいながらも聡司は告げた。現実の屋敷には到底望めない優しい愛撫に、聡司の心はトロトロと蜜を垂らしたように解けていた。実物の屋敷は聡司をこんな風には扱わない。この三ヶ月間、彼としたのは荒々しいセックスだけだった。
 だから聡司は目を閉じたままシーツに頭を擦り付け、甘く喘ぐ。妄想相手に大きく足を開き、もっと、とねだってみせた。

「俺とセックスしなくなって、どうだった?」

 指は前立腺をゆっくりと撫で、揉んでくれる。甘やかな快楽が続き、激しさしかなかった最初のセックスとは異なるそれは、聡司を更に安心させた。

「寂し、かった……、ぼ、僕、昴くんと、もっと……あ、あっ」

 言葉を続けようとしたが、急に荒々しく動き始めた指の動きに中断される。

「あっ、ど、して……っ?」
「くそ、煽りすぎだろ、オマエっ」

 体内に走った鋭い痛みに目を開ける。
 ベッドの上、聡司に覆いかぶさるようにいたのは、番である屋敷そのひとだった。

「……っ!」
「すぐに挿れてやるからな」
「や、やめてっ」

 驚いた聡司は屋敷を突き飛ばそうとした。が、出来たのは彼の胸に手を当てて突っ張ろうと試みることだけだった。たった三ヶ月で以前とは見違えるほど非力になってしまった聡司を屋敷は鼻で笑う。

「なんだよこれ。ハハ、抵抗のつもりかよ」
「い、いや、いやだっ」

 知らず涙が流れ、鼻声で聡司は拒絶の言葉を吐いた。

「はぁ? 寂しかったんだろ? 俺にこうされたかったんだろうが、オマエ」

 必死に突っ張った聡司の腕は邪険に払われ、あっさりと屋敷に両手首をまとめられた。それも片手でだ。
 そのまま頭上で両手首を押さえつけられた聡司は、何をしても叶わないであろう己の番に対し、絶望の目を向ける。しかし、その視線に反して聡司の体はフェロモンに反応し、前を勃たせていた。

「ケツももうビショビショじゃん」

 手首を拘束している手とは逆の手で屋敷は聡司の濡れた寝着と下着を乱暴に脱がせた。膝の間に体を割り込ませ、亀頭を尻へと擦り付ける。聡司は涙を流して嫌がったが、そこは愛液に濡れ、物欲しそうにヒクヒクと収縮を繰り返していた。

「オラ、オマエの欲しがってたチンポだぞ♡」
「ああっ、やめて、いやだぁっ」

 屋敷がそのまま体を進めると、既に固く反り返っていた陰茎は、ヌチュリと音を立てて聡司の体内へと飲み込まれた。手首をまとめて押さえつけられたせいで身動きのできない聡司だったが、それでも何とか逃れようと腰を左右に振る。しかしそれは屋敷に快感を与える効果しかなかった。

「なぁ、それ、わざとか? 俺が無理矢理ヤるの好きだって知ってんだろ」
「い、いやだ、いや、ぁ、……あ、あっ」

 まだ狭い体の中を、メリメリと太い陰茎が開いていく。

「んー? 演技して俺のこと喜ばせようとしてる? ……かーわいい♡」

 屋敷は聡司の手首を離すと代わりに腰を掴み、ズプッと一気に奥まで貫いた。内臓を押し込まれた感覚に、聡司の口からは短い息が漏れる。もう抵抗は出来なかった。ようやく両手が自由になったものの、こうなってしまえば最早聡司に出来ることは何も無い。

「音がして、オマエの部屋見に来たら一人でエロいしててさ、すげぇ驚いたぜ? 普段真面目な顔してるくせに、チンポ擦らずにケツの穴に両手の指突っ込んでんだから。しかも甘えた声出してさ。ハハッ」
「あっ、あ、あ……」
「キツめの抑制剤、飲んでんだけど、はぁ、やっべ、飛びそうだわ」

 屋敷はそう言うと口を閉じ、腰を激しく振り始めた。そうすると、抑制剤を飲んでいるはずの屋敷の体から、濃いαのフェロモンが放出される。それを嗅ぎとってしまった聡司はもう、正気を保つことができなかった。発情期に加え、番のフェロモンに包まれたうえに、その番とセックスをしているのだ。Ωである聡司など、もうひとたまりもない。体を揺すられ、屋敷の陰茎を受け入れているうちに、目の前のαを受け入れることと、中に射精してもらうことしか考えることが出来なくなった。

「ああっ、あぁ、きもち、いっ、あ、おくっ、奥、もっと、んんっ」
「はぁっ、すげ、かわいい……俺だけのΩ、俺の……」

 正常位のまま突かれ、しかしもっと奥に射精して欲しいのだと示すために、聡司は屋敷の腰へ足を回してしがみついた。腕は首へ回してキスをねだる。開いた唇から誘うように舌を出すと、屋敷はそれに応えてくれた。
 嬉しい。
 そう思うと腹の奥が絞られるようにキュンキュンと感じてしまう。そのまま奥を突かれ、腹を震わせながら聡司は屋敷の唾液を飲み込んだ。その全てが性的な快楽へと繋がり、自分でも気が付かないうちに聡司は射精していた。

「あー……、あぁーー……」

 だらしなく口を開けたまま、快楽に身を任せる。精液は勢いなく、陰茎を伝うようにドロドロと垂れ落ちるのみだった。陰茎を刺激しての射精ではなく、腹を中から擦られてするそれは絶頂の時間も長い。
 唇を離し、体を起こした屋敷が体勢を整えるのを見た聡司は彼へ懇願した。

「ま、まって、まだ、んんっ」
「イッてる?」
「ぁ、ん……ん……っ」
「じゃあイキまくれよ」

 収まるまで少しだけ待って欲しいと言いたかったが言えなかった。Ωはαに逆らえないのだ。
 屋敷は聡司の腰を掴み、容赦なく動きを再開する。バチュ、バチュ、と音を立てて肌を打ち付けるほど荒々しく、己の快楽しか追い求めないセックスを始めた。

「あぅっ、あっ、あっ、あっ」
「ハハ、突くたび出てる。なぁ、気持ち良い?」
「ん、んぅ、ぁ、あ、あ」
「気持ち良いよな♡」

 返事など出来るはずがない。
 番の体にしがみついて大きく口を開け、ただ涎と喘ぎ声を垂れ流す聡司を見下ろしながら、屋敷は頬を歪めて嬉しそうに笑った。



 発情期を迎えた番に求められるセックスが、こんなに満たされるものだとは知らなかった。
 地方とは言え、代々優れたαを当主として栄えてきた一族の本家の三男である屋敷昴は、これまで相手に困ることのない人生を送ってきた。高校二年生にしては異性との経験も多いほうだと自負している。それはαの中でも容姿と体格に優れた屋敷にしてみれば何の不思議もないことだ。こちらから求めなくとも、相手は向こうから付き合いたいとやって来た。特段断る理由も無いときは相手を見定めてから受け入れ、そして飽きた頃合いに知り合いのαやβを紹介して穏便に別れることを繰り返していた。
 屋敷が付き合う相手はβが多かった。それは単に、付き合いの中で主導権を握りやすく、変なプライドが無いため、別れる際にも揉めにくいことが理由だった。だからなのか、遊びで付き合った人数が多い割に、屋敷に対する周囲の評価の中に女好きだというものは無い。長く続いて三ヶ月ほどしか交際の経験が無い自分に対する周囲の見る目の無さは、屋敷の嘲笑の対象だった。

「ん……」

 窓から差し込む朝日が眩しかったのか、腕の中で微睡む番が微かに身じろぐ。屋敷はそんな聡司を愛おしそうに見つめると、乱れた前髪の隙間からのぞく額にキスを落とした。
 昨晩、何度もセックスをしたあと、屋敷はそのまま聡司の部屋のベッドで朝を迎えた。一人用のベッドだから二人で眠るには狭かったが、そのぶん密着できて、これはこれ良いと思い、ふと笑みが漏れる。

 番になってから初めての発情期を迎えるにあたり、屋敷は万全の準備を整えていた。効果と持続性の高い抑制剤を予定日の数日前から服用し、それまで毎日いたぶっていた聡司の体を休ませるため、数日間もセックスを我慢したのだ。
 最初のヒートの際、屋敷は聡司のフェロモンに狂わされ、その体を犯し尽くした。そしてその熱量のまま頸を噛み、番にした。そのこと自体は後悔などしていないが、反省はしている。屋敷にとって初めてだった番を得る行為を、ラット状態のまま行ってしまったからだ。
 正直なところ、あのときの記憶はあまり残っていない。熱に浮かされ、衝動に突き動かされるままに犯してしまった。しかし、強烈な快感は覚えている。それはこれまで体験したことのない、激しく貪らずにいられないような、しかしそれでいて胸を締め付ける切なさと甘さを伴う快感だった。
 ラット状態などではなければ、しっかりと記憶を保てていただろうか。自分と聡司の記念すべき第一歩を。
 しかし、聡司のフェロモンに惑わされてでもいなければ、このかわいい番を自分のものにしたいなどとは思わなかっただろう。何故なら今でも聡司の外見は平凡なβのままで、αの屋敷からしてみれば全く魅力を感じないからだ。
 聡司の魅力はそこには無いと屋敷は既に知っている。抱かなければ分からない。だからこそ、ラット状態へ陥らされたとは言え、聡司を犯して良かったと屋敷は考えていた。

「聡司……かわいいな、オマエ」

 唇を離してそっと背中に片腕を回す。起こさないようにゆっくりと抱き寄せようとすると、寒かったのか、聡司は自分からモゾモゾと屋敷の胸にしがみつくように寄ってきた。

「……っ!」

 屋敷の胸に顔を擦り付け、安心した表情で眠る聡司の様子に、屋敷の心臓は高鳴りを覚える。かわいい。かわいくてたまらない。グチャグチャに犯してしまいたい。
 強めの抑制剤を飲んでいなければ、眠る聡司の体を無理矢理開き、そうしていただろう。屋敷は深呼吸をひとつすると、勃起してしまった己の陰茎を聡司の腿に擦り付けた。

「………、ふぅ」

 数度擦り付けただけで、屋敷はあっさりと手の中へ達してしまった。
 体を起こし、ベッドサイドの箱からティッシュを数枚取って手のひらを拭く。それから横に置いてあった消毒用のアルコールタオルを取り、指の間まで念入りに拭った。そうして再び番の隣へと潜り込む。

「…………?」

 毛布を掛けながら、休日である今日は聡司を抱きしめ、微睡んで過ごそうと思った屋敷だったが、そっと触れた番の首筋が妙に熱いことに気づいた。仰向けにしてやると、少し息が荒くなっていることや、肌が汗ばんでいることにも気付く。

「聡司?」

 生唾を飲み込みながら、屋敷は試しに脇腹を人差し指で下から上になぞってみた。

「ん、ぁ……」

 聡司の唇が開き、艶かしい吐息が漏れる。と同時に甘い香りが屋敷の鼻口をくすぐった。発情しているのだ。屋敷の精子の匂いを嗅ぎ取ったせいだろうか。
 それにしても眠りながらかよ、と笑いながら屋敷は、かけたばかりの毛布を剥ぐ。α用の強力な抑制剤を飲んでいても、この番の香りには抗えそうにない。いや、抗うつもりもなかった。
 裸のままの足を左右に広げ、折り曲げる。最早排泄器官ではなく性器となってしまったそこは、既に濡れていた。昨晩の性交で赤く染まった口はパクパクとヒクつき、屋敷を誘っている。だから屋敷は下着を腿まで下ろすと、固く反り返った陰茎を聡司の体内へとめり込ませた。

「ひっ、あっ、あぁっ」
「ハハッ、さすがに目が覚めたか」

 挿入してすぐに目を覚ました聡司は、状況が飲み込めないのか、何度も瞬きを繰り返す。その様子は屋敷にとって愛らしく感じられた。
 屋敷に気付き、自分がいま何をされているのか、ようやく理解に至った聡司は腕を突っぱねて逃げようとする。しかし屋敷はその両腕を纏めて掴むと、腰をゆっくりと動かしてやった。自分の形を分からせるように、じっくりと中を擦ってやる。腹側に亀頭を押しつけるようにして前立腺を刺激することも忘れない。

「あっ、あぁ、あ……」

 すると聡司の抵抗は呆気なく収まった。目は快楽に溶け、頬は蒸気して赤い舌が屋敷の唇を誘う。腰の動きをわざと止めると、聡司は自分から腰を動かしてイイところを探り始めた。

「くそ、それヤバいって」

 屋敷の陰茎を目当ての場所に当てた聡司が感じて腹をうねらせる。すると直腸がキュウキュウと屋敷を締めつけた。それはこれまで抱いた何人もの女性とは全く異なる快感だった。自分と同じ性別の男の体を組み伏せ、尻に己のモノを咥え込ませた上、性的に感じさせている。しかもこの男はΩで番だ。一生自分から逃れられない、屋敷だけの番なのだ。
 生来強めだった支配欲や征服欲を満たしてくれる存在を組み敷き、屋敷は夢中で腰を動かした。腰骨が尻にゴツゴツと当たるほど深く抉り、亀頭が抜けそうになるまで腰を引く。カリが直腸に引っ掛かるのが良いのか、聡司は押し込むよりも引いたときの反応が良かった。
 抑制剤を飲んでおいたせいか、前回のように理性を失くすようなことはない。記憶もしっかりしている。けれど性的な快感は、これまでの人生の中で体験したことのないほど激しいものだった。聡司の中はフワフワと柔らかいくせにキツく締めつけてくる。それも、屋敷の形に合わせてだ。

「う、ん……あっ、あっ」

 腰を引ききったあと、一気に奥を突いてやれば、聡司はその度に吐精する。ポタポタと垂れ落ちるそれは薄い腹のうえに集まり、溜まっていた。屋敷が腰を揺らすたび、それは腹からネットリと垂れ落ちる。

「気持ち良い?」
「ん……きも、ち、い……っ」

 聞いてやれば素直な答えが返る。

「俺のこと、好き?」
「あっ、あ、ん……」
「好きかって聞いてんだろ」

 それには答えずに喘ぐ聡司の体を乱暴に揺さぶった。すると聡司は涙に濡れた目で屋敷を見上げ、必死に口を開く。

「好き、だ、大好きっ、あっ、んぁっ」
「お前の好きなのは俺のチンポだろ」

 陰茎を奥に押しつけ、結腸の入り口をグリグリと押してやる。すると聡司は目を見開いて体を痙攣させた。

「だめっ、だめ……!」
「駄目じゃねーよ♡」

 腰を掴み、抵抗を物ともせず押し込んだ。

「嫌だっ、あ、ああっ」

 口ではそう言いながら、聡司は屋敷の背中にしがみつく。予想外の行為に、屋敷は戸惑ったが、すぐに聡司の体を抱きしめてやり、動きを再開した。

「あっ、あっ、あっ」
「……はぁっ、かわいい。かわいい、聡司、聡司っ」

 動きに合わせてしがみつかれる腕に力が入るのが分かる。嫌なのに喘ぎ、感じてしまい、それに耐えるために聡司は、その行為を強要している自分にしがみつくしかないのだ。それは彼にとって、世界で自分しか縋れる存在がいないことを示していた。かわいい。愛おしい。屋敷は腕の中の番を強く強く抱きしめた。
 結腸へ亀頭を挿入し、そして抜き出す。それを何度も繰り返して聡司を喘がせた。Ωのフェロモンはますます強くなり、抑制剤の効果を凌駕しようとする。しかしそれらよりも、聡司を愛しているという屋敷の気持ちのほうが強かった。

「ん……」

 苦しそうに喘ぎ続ける聡司の唇を自分のそれで塞いでやる。舌で口腔内を優しくねぶり、唾液を飲ませてやった。精液ほどではないが、αの、番の体液を摂取することでヒートは少し収まるはずだ。

「はぁっ」

 唇を離し、聡司の両手を恋人繋ぎにした屋敷は、再び腰を動かし始める。幾分かフェロモンが収まった聡司を見下ろす姿勢で、なるべく優しく、しかし再び結腸まで陰茎を差し込んだ。

「んぁっ、あっ、あっ」

 そして結腸に挿入したままグチグチと小刻みに腰を動かす。そうすると聡司の小振りな陰茎は腹の上で力なく揺れ、透明な液体をタラタラと垂れ流した。潮だ。潮を吹いている。
 気持ち良さそうな声を上げながら潮を吹く番に、嗜虐性を持つ屋敷の心は満たされた。Ωとは言え、れっきとした男であるのに男に犯され、女のように潮を吹いているのだ。最早抵抗もせず、拒絶の言葉も吐かない。足を広げて繋いだ両手をギュッと握りしめ、屋敷に全てを明け渡して喘ぎ続ける聡司に対し、これまで感じたことのない感情が屋敷の中に生まれた。



 目が覚めると朝になっていた。体は気怠く腰が重いが、頭は妙にスッキリとしている。
 聡司が体を起こすと、上に掛けられていた毛布がハラリと滑り落ちた。

「っ!」

 ギョッとして腰から下にかかったままのそれをめくる。
 聡司は裸だった。下着さえ着けていない。昨晩は確かに寝着を着ていたはずだ。なのに、なぜ?

「昨日は確か、夜中に……」

 妙な渇きを感じて目が覚め、それが強烈なものに変わって、それがヒートだと理解したところまでは覚えている。それから屋敷の部屋へ行こうとして転び、衝動を痛みと理性で何とか抑えて自室に戻ったはずだった。

「それから、……っ」

 自分で行った拙い自慰を思い出して顔を赤らめる。目を閉じ、妄想相手にあんなことをしたのは初めてだった。この自分が指で後ろを弄り、快楽を追うなんて。聡司は首を振り、記憶を先に進めようとする。しかし彼の記憶はそこから混沌としていた。ただ、強烈な快感だけは覚えている。中を擦られて、何度も吐精した妄想をしたような気もする。自分の指だけでそんな風になってしまったなんて恥ずかしい、と思った。
 しかし、それなばら何故自分は裸なのだろうか。

「……取り敢えず、服を着よう」

 考えるのはあとだ、と聡司はベッドから降り、クローゼットへと向かった。しかし取手に手をかけたところで部屋の扉が開く。鍵を掛けたはずなのにどうして、とギョッとした表情で聡司はそちらのほうを見た。

「起きたのか」
「す、昴、くん……!」

 半袖のシャツと下着だけという格好で、聡司の番である屋敷昴はズカズカと部屋の中へ入ってきた。ここは聡司にと当てがわれた部屋だが、マンション自体が屋敷家の所有なのだから、その行為に対して聡司は何も言えなかった。
 緊張して固くなる聡司の体を、屋敷は乱暴に抱き寄せる。それは、聡司の意思など関係ない、所有物であるものに対するような態度だった。
 そのまま屋敷は聡司に口付け、舌を吸いながらまだ柔いままの尻に手を伸ばす。奥の窄まりに指を挿れられ、流石に聡司は抵抗を試みた。だがΩの抵抗などαには通用しない。大人に対する子供の抵抗のようなものだった。唯一できた抵抗は、顔を背けて屋敷の口付けから逃れたことだけだ。しかしそれさえも当の屋敷は楽しんでいるようだった。キスは拒否できても、これは抵抗出来ないだろうとでもいうように、指が無遠慮に奥を探る。

「あっ、や、やめてっ」
「うるせーよ♡」

 番の指に反応したのか、体の奥から粘液が分泌される。嫌なのに、まるでもっと奥まで挿れてほしいとねだるような体の機能に、聡司は目眩を覚えた。Ωとはこんなに浅ましい生き物なのか。それが己の性なのだと、三ヶ月が過ぎた今でも聡司は受け入れられていない。
 断りもなく三本に増やされた指はバラバラに動き、前立腺に触れてくる。指の腹でそこを優しく押され、聡司の陰茎はゆるゆると勃ちあがった。

「んー……やっぱ、そうか」

 何かを思案するように呟いたあと、屋敷は聡司の中から指を引き抜いた。そして聡司の体をアッサリと離し、ベッドの脇に置いてあったアルコールタオルを取り出すと、念入りに指を拭く。聡司は床へとへたり込み、尻から愛液を滴らせながらそんな番を呆然と見上げていた。

「ヒート、終わったな」
「……え?」
「まあ、三日間ずっとヤリまくったし、当然か」
「……あの……?」
「ん? 記憶飛んでんのか。俺とお前、お前がヒートに入ってから三日間、セックスしまくったんだよ」

 屋敷は聡司の傍へとしゃがみ込み、裸の腹を指でなぞる。

「お前のココ。俺の精子が一杯入ってんだぜ。やっぱΩはすげぇな。もっと尻から垂れてくるかと思ったけど、ちゃんと飲み込むんだからさ」

 手のひらで腹を押され、聡司はウッと呻いた。しかしそんなことをされても陰茎は勃ったままだ。微かに屋敷から香るフェロモンのせいだろうか。そろそろと吐いた息が熱い。αの精液を摂取したことで発情期は終わったのかもしれないが、番に性的な行為をされたことで熱はぶり返していた。

「……シたい?」

 鼻で笑うように言われる。俯いていた顔を上げ、番の男を見上げると、傲慢な顔つきで見下ろしていた。聡司はそれを見て、自分を矮小なものだと感じた。自分がどう感じ、何を思うかなど意味がない。いくら嫌だと思い、拒絶したとしても、全てはこのαの思うがままなのだ、と。
 そんな風に思うのに、しかし聡司の体は異なる反応を示す。セックスを示唆されて、陰茎はトロトロと蜜を零した。明るい色をしたフローリングの床が汚れてしまうのも気にならない。それよりも目の前のα、極上のαが己の番であることに聡司の体は浅ましくも喜びを感じていた。

「し、したくない……!」
「嘘つけ」

 逃げようとして立ち上がるが、足腰はまるで立たなかった。すぐに転び、床の上にうつ伏せで這いつくばる格好となる。屋敷は笑いながら聡司の上へと覆いかぶさった。

「バックからがいいのか」
「やめて、嫌だ、昴くんっ」
「ハハッ。説得力ねぇよ♡」

 濡れた尻に手を這わせ、屋敷は興奮した声でそう言った。腿に体重をかけられ、動けなくされたと同時に陰茎が尻に当たる。指で尻の肉を左右に割られ、そして聡司は屋敷の陰茎をその身に受け入れさせられた。

「あっ、ああっ」
「すげぇ、ナカ、トロトロ。気持ち良い」

 奥までズブズブと入ってくる熱に、聡司の思考は融けてゆく。ヒートの名残なのか、単にセックスの余韻が残っているのか、聡司の体は簡単に快楽に負けてしまう。理性など最初から無かったとでもいうように、屋敷の動きに合わせて腰を振る始末だった。

「奥、欲しいか?」
「ん、うんっ、ほしっ、欲しいっ」

 鼻にかかった甘えた声を上げながら、聡司は快楽に飲み込まれる。もっと気持ち良くなりたい。番の精子が欲しい。それしか考えることができなかった。床に擦りつける形となった陰茎はしとどに先走りに濡れ、フローリングを汚している。その罪悪感でさえも、快楽のスパイスとしか感じられなかった。
 番のαは聡司の願望を叶えてくれる。太い陰茎を奥まで突き入れ、聡司のイイところを擦り、体を開いてくれた。柔くなった奥をトントンと突かれ、聡司の体は腹を震わせながら喜ぶ。そうすると勝手に直腸が締まり、番の陰茎をキュウキュウと締め付けた。

「っ、くそ、んな締めんなって」

 それは言葉とは裏腹に、嬉しそうな声だった。その証拠に屋敷の動きが激しくなる。バチュッ、バチュッ、と肉の打ちつけ合う音を響かせ、屋敷は聡司の中を犯し続けた。
 屋敷のセックスが上手いのか、それとも単に番だからなのか、聡司は何度もナカイキをする。腹をうねらせ、喘ぎ、震えながら涙を流して喜んだ。

「出して、精液、僕の中っ、あっ、欲しい……っ」
「心配すんな、出してやるよっ」

 甘い声でねだれば答えてくれる。何度か抽送を繰り返したあと、屋敷はブルッと体を震わせて聡司の中へと射精した。それはαらしく長い射精だった。三日の間、ずっとセックスをしていたとは思えないほど大量の精子が注ぎ込まれる。
 それを感じて幸福に包まれたまま、聡司は屋敷に対してこれまで感じたことのない気持ちを抱き始めていた。

「好きだぜ、聡司」

 陰茎を抜かれ、体を返される。そのままゆっくりと抱きしめられ、寂しさを感じていた腹の中が違うもので満たされたような気がした。Ωになり、訳のわからないまま初めてのセックスを経験し、番にされ、周囲の思惑に流されるがまま屋敷と暮らし始めた聡司の蔑ろにされてきた気持ちが、そこで初めて掬い上げられた気がしたのだ。

 聡司はこの傲慢なαが嫌いだ。しかし、抱きしめられたいま、その腕を突っぱねることができないでいた。

「…………」

 迷い、宙を彷徨った手はやがて番の背に降り、控えめに添える形となる。

「聡司、舌出せよ」

 その感触にニヤリと唇を歪めた屋敷は、やはり尊大な態度を改めなかった。しかし聡司はそれに従い、口を開けて舌を伸ばす。屋敷の舌がそれを絡め取り、そして二人は唇を重ねて貪りあった。濡れた音をさせて求めあい、きつく抱きしめ合う。
 αに支配されるしかないΩにとって、幸福とはこういうものなのかもしれない、と聡司は理解し始めていた。
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