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対ジグニティー編
第9話 ゴリ押しでは確かに、そうなるよね……
しおりを挟むギルド前で待っていると、リアンとクレアの姿が見えた。リアンは背中のロングソードに加え、短刀を手にしており、足を覆うストッキングのようなものを穿いていた。一見すると普通の黒いストッキングなのだが、この世界のことである。防御力が上がるのかもしれない。
(まあ、ある意味防御力は上がってるのかもな)
相変わらず膝上とかいうレベルではない短いスカートに目を向けながら、そんな下らないことをふと思うのだった。
「準備してきたわよ、このストッキングは光属性の攻撃を弱化させるの!」
「ふむ、気休めにはなりそうだが……」
そんなことを言いつつ、俺はクレアの方を見る。こちらは外見からは何の変化も感じられなかった。
「クレアのほうは何も買ってこなかったのか?」
「いえ、私はこの通り準備万端ですよ」
そういって、クレアはローブを開いて、裏地を見せる。そこにはあらゆる色の瓶詰めになった液体が入っていた。
「ポーションってやつか?」
「ええ、何があるか分かりませんから、手あたり次第に使えそうなものを準備してきました」
「タクミは何か買わなくて良かったの?」
リアンが首を傾げながら、訊いてきた。確かに俺はギルドに直行して、何も買い物はしていない。だが、それにも理由があった。
「俺の準備はここで済んでるんだよ」
背後のギルドを親指で指す。
そう、俺が二人と離れたのは情報収集のためだった。デルファイに会い、前回のジグニティー討伐の経緯を訊いていたのだ。
「で、何か分かったわけ?」
「いや、単純に数でゴリ押しただけだった」
どおりで大量の死者が出るわけだと思った。何も考えずに大量突撃を行い、人海戦術で無理やり抑え込もうとした。戦えない村民や町民の死者は減っただろうが、代わりに冒険者が減ってしまっては元も子もない。しかし、当時はそれしか方法は無かったのだ。デルファイたちギルドマスターを責めることは出来ない。
尋ねたリアンは肩を落として、呆れたようにため息を付く。
「本当にアタシ達三人で勝てるわけ?」
「言っただろ、作戦に沿えば勝てるはずだ。ぱっと終わらせて、同情の視線を向けてきたギルドの奴らの鼻を明かしてやろう」
「ええ、それにヘルヴァイエに住む人々の恐怖は計り知れないものでしょう。今すぐにでも倒さなければなりません」
クレアの言葉に頷づく。お互いの意思を確認していると、ギルドの出入り口からデルファイが出てくるのが見えた。俺たちを認めると、生真面目な顔をしてゆっくりと歩いてきた。
「意気込みは十分のようだな。馬車の用意は既に出来ている。儂の命で、行かせるので代金は要らんぞ」
「ありがとうございます」
そう告げて、デルファイの指差した馬車に乗り込む。少々窮屈にも思えたが、美少女二人と密着できると思えば、何でも無いことだった。
見送るデルファイとギルドの連中に手を振り、馬車はギルド・アンヌールを出発したのだった。
***
何もない旅程に退屈したのか、それとも緊張で気疲れしたのか。二人は俺の肩に頭を預けて、小さな寝息を立てていた。
「おい、着いたぞ」
「むにゃむにゃ……はっ! ジグニティーが目の前に!? 何処!?」
「何寝ぼけてるんだ、全く」
「ふあぁ……すみません、私としたことが気が抜けてますね」
クレアはあくびをして、そう呟いた。
なにはともあれ、俺たちは今ヘルヴァイエ公領の辺境手前に到着していた。これ以上近づくとジグニティーに認識され、攻撃されるため馬車は下がらせ、ここからは俺たちのみで近づいていくことになる。リアンは剣を抜き、クレアは投擲用ポーションを取り出して平原を歩いていく。
「あれが、ジグニティか……」
少し視線を上げると数十メートルは下らない巨体が、視界に入ってくる。ゴーレムを想起させるような姿は、その巨大さも相まって威圧感を感じさせる。
「後どれくらい近づけば、攻撃が始まるんだ」
「相当近づかなければ、始まらないはずですが……」
「じゃあ、あんなところで馬車が去ってったのは何でだ?」
「光の束による攻撃はあれくらいまで届くんですよ。戦闘が始まって、光の束が放たれたとき、私達が無事でも巻き添えになる可能性がありますから」
なるほど、と独り言ちた。レーザーにも減衰する距離というのがあるわけで、ジグニティーのそれも届かなくなる距離というものがあるのだろう。
そんなことを考えていると、クレアはいきなり立ち止まった。リアンともども彼女の後ろを歩いていたのでつんのめりそうになってしまう。
「いきなりどうした?」
「いえ、この際、転移魔法で足元まで行っても良いのかなと思いまして」
「ああ、だが、一人しか転移させられないんじゃなかったか?」
「距離的に行使範囲内ですから、私が先に行って二人を呼び寄せます。MPについても、今回はMP回復のためのポーションがあるので問題ありませんよ」
そういって、クレアはリアンと俺に手を差し伸べた。
「転移したらすぐに戦闘が始まると思います。どうか気を抜かないように」
彼女の警告に俺とリアンは首肯する。
こうして、遂に仇敵ジグニティーとの戦いが本格的に始まったのであった。
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