異世界転移したら、どうやら高位魔術の素質があるようなのでどうせなら世界最強の魔術師を目指してみる。

使役的月光

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対ジグニティー編

第8話 討伐は計画的に!

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 宿屋で一夜を過ごし、疲れを取った……はずだったのだが、今の状況は疲れを二倍三倍にも増幅させていた。

(どうしてこうなった……)

 ベッドに仰向けに寝る俺の両脇にそれぞれ一人ずつ美少女が眠っていた。右手にはショートの赤毛の少女――リアンが、左手には金髪ロングの少女――クレアがすやすやと気持ちよさそうに眠っている。
 自問する俺は、昨夜のことを思い出していた。

 経緯は簡単だ。俺がクレアを追って外に出ていた間に、この部屋に備え付けられていたワインを一口飲んだリアンが完全に酔っ払ってしまい、三人で川の字になって寝ようと言い出したのだ。クレアも「一人は寂しいから」ということで、俺の同意なく両脇は占拠されたのだった。
 二人を起こさないように慎重に身体を起こそうとする。しかし、振動で目が覚めたのか、リアンが寝返りを打ってこちらを見上げた。

「お、おはよう、リアン」
「あ……え……」

 状況をすぐには飲み込めなかったようで、リアンはそう呻くと段々と顔を赤面させ、震え始めた。まるでゴゴゴという効果音でも付きそうな雰囲気で拳を握り、そして……

「きゃあああああああああっ!!」

 悲鳴とともに飛んできた剣士少女のパンチは、顔面にクリーンヒットしたのであった。

「ぐえっ」
「この変態! ケダモノ!! 人でなし!!! 変態!!」
「二回も言うな! 一緒に寝ようと言いだしたのはお前だろうが!!」
「そ、そんなこと私が言うわけないでしょ!」
「はあ……」

 盛大に溜息を付く。どうも発動しなかったところをみると、オートガードは今のを攻撃と認識しなかったらしい。美少女に殴られるのはご褒美ですってか、余計なお世話だ。

「ふあぁ……お二人とも、おはようございます。昨日あれだけはしゃいでいたのに、今朝も元気ですね」
「は、はしゃいで……」
「ええ、『皆で一緒に寝るのー!』ってタクミさんの腕を掴んで離さなかったんですよ」

 俺は思わず額に手を打ち付けた。リアンはまたぷるぷると震えながら、拳を準備していた。

「きゃあああああああああっ!!」
「ぐえっ」

 こうして、俺はリアンの拳を二度受けて、気を失って倒れたのだった。

***

「ぷはっ」

 電気ショックを受けたような感覚の後、意識が戻った。クレアが両手をこちらに向けていたので、恐らく魔法で意識を呼び覚ましたのだろうと気づいた。一方のリアンはバツが悪そうな顔をしながら、俺の横で正座をしていた。彼女なりに自責の念を示しているらしい。

「どうやら、誤解は解けたようだな」
「早とちりしちゃって、ごめんなさい……」
「別に良い。それよりも今はジグニティー対策を考ないと」

 起き上がって、窓外から街を見下ろす。冒険者や商人がごった返す活気ある街だ。ジグニティーを止められなければ、こんな日常は血と涙に塗りつぶされて悲劇に変わるだろう。
 クレアの意思を達成させるためにも抜かり無く戦わねばならない。
 当のクレアは腕を組んで、考えるような顔になっていた。

「一晩考えたんですが、ジグニティーを仕留めるには巨体全体に攻撃を当てる必要があると思うんです。だからやはり、他のパーティーの人に協力を願ったほうが良いと思いますよ」
「いや、俺達だけで十分だ」

 きっぱりと言い切ると、リアンが怪訝そうな表情で俺の顔を見上げた。

「何か策があるってわけ?」
「単純なことだ。奴が出す光の束を収納魔法で収納して、お見舞いしてやればいい」
「なんだか簡単な風に言ってるけど、そんなこと本当に出来るわけ? 失敗して、直撃を受けたら、私達皆灰も残らないのよ?」
「火が収納できて、光の束を収納できない道理はねえだろ」

 リアンはそれを聞いて、すんと納得した様子になる。

「それよりも、クレアに訊きたいことがあるんだが」
「な、なんでしょう?」
「スキル『ガンスミス』って何なんだ? 銃関連っぽいが」
「ええっと……」

 クレアは人差し指を頬に当てながら、何かを思い出そうとしていた。

「詳しいことは分からないんですけど、銃の生成と取り回しが上手くなるスキルだったはずです」
「生成? 銃が作れるのか?」
「ええ、中級魔法にもスキル『銃製作』というのがあるんですが、そっちは素材が必要ですね。高位魔法版の『ガンスミス』はそれの上位互換版で素材無しでの銃の製作が可能です。しかも、最初から弾が装填されているのですぐ使えるんですよ」
「なるほどな」

 試しにテーブルに近づいて、手をかざしてみる。

「ガンスミス」

 その瞬間、テーブルの上にフリントロック式のマスケット銃が一丁落ちてきた。
 リアンはそれを持ち上げ、興味深そうに眺めながら首を傾げた。

「銃の種類って変えられないの?」
「どうなんだ、クレア?」

 クレアはこくりと頷いた。

「MPの消費は多分大きさに比例しますけど、術者の考える銃が出てくると思います。それにスキルのおかげでどんな銃でも取り回しが効くと思いますよ」
「分かった」

 そう短く答えて、俺はリアンとクレアのほうを向いた。

「早速だが、出発する。二人とも必要そうな装備なりを街で準備してこい。ギルド前で合流しよう」
「は、はい」
「分かったわ」

 二人の返事を確認すると俺は宿の部屋を出ていったのだった。
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