異世界転移したら、どうやら高位魔術の素質があるようなのでどうせなら世界最強の魔術師を目指してみる。

使役的月光

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対ジグニティー編

第6話 面白い、受けて立とうじゃねえか

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――ギルド・アンヌール 二階大広間

 ギルドマスターの命令により集められた冒険者と思しき人間がこの大広間にごった返していた。ギルマスが到着するまで、ここで待っていろとのことらしい。手持ち無沙汰の冒険者たちは、この大集会の原因となったらしい「SSSクラス・クエスト」の発行について噂話をし続けていた。しかし、どの話に耳を立てても正確な情報は得られそうになかった。
 ソワソワしているクレア、一方で酒が抜けた様子でぽかんと天上を見つめているリアン。どっちにしても普通の様子じゃない。

 そんなとき、冒険者たちの前に一人の老獪そうな人物が現れた。高級そうな毛皮を羽織り、黒光りする杖を付きながらゆっくりと彼らの前に出てくる。目元にある深い切り傷が彼の威厳を印象づけていた。

「ギルドマスターのデルファイだ。今回発行されたSSSクラス・クエストについて、お嬢に任せるより儂から説明したほうが良いと思ったためここに立っている」

 俺はその話を聞きながら、首を傾げる。

「お嬢ってのは誰だ?」
「ギルド受付嬢のタリンのことよ。ギルマスはいつもああ呼んでるのよ」
「はあ」

 ステータスを確認したときの受付嬢の顔を脳裏に思い出す。奇妙な呼び方だな、と思っているとデルファイは続きを話し始めた。

「今回のSSS発行の具体的な内容は、ヘルヴァイエ公領辺境における魔駒ポーンジグニティーの出現だ」
「じ、ジグニティーだって!?」

 俺の目の前に立っていた龍頭の男――龍人ドラゴニュートというらしい――が衝撃を受けた様相で叫ぶ。その反応を見るに相当ヤバそうな魔駒ポーンらしい。

「どういう魔駒だ?」

 クレアの耳元でささやくと、彼女はびくっと身体を震わせてから赤面して、顔を振ってからしゃきっとした顔に戻る。

「ジグニティーは魔駒が出現した初期において猛威を奮った種です。一体で大国を滅ぼして、アンヌール含め七つのギルドの合同討伐作戦によってやっと仕留められた魔駒中でも一二を争う脅威なんですよ」
「一応、数でゴリ押せば倒せる存在なんだな」
「バカ言わないでよ。討伐作戦の結果、数千は下らない冒険者が死んだのよ? あんなの災害以外の何でも無いわ……」

 リアンは前方から視線を反らさずにいう。背後から冒険者に焦るような声が聞こえてきた。

「だ、だが、幾らジグニティーでも一体なら勝てない相手じゃねえぜ! 皆が力を合わせれば――」

 声の方に振り返ると無精髭を生やした弓兵アーチャー職の冒険者が居た。その明るい顔は冒険者たちの緊張をほぐしたようだった。しかし、希望に満ちたその顔はデルファイの次の言葉で完全に硬直した。

「誰が1体と言った」

 それまでざわついていた周囲が一挙に静寂に包まれる。デルファイは悩ましげにため息を付いて、先を続けた。

「確認されたジグニティーは3体だ。ヘルヴァイエ公領辺境に確認されてから移動等はしていないらしいが、飛行船で近づいたところ不思議な光で撃墜されたと報告されている」

 デルファイが言い終えると冒険者たちは恐慌状態になって、またざわつき始める。

「なんじゃそりゃ……」
「1体でもあれだけの死者を出したってのに……」
「俺たちは蹂躙されるだけかよ……」

 そんなざわつきの中、デルファイは瞑目しながら頷き、そして顎を撫でた。

「皆の心配も分かる。ジグニティーが三体出てくるなど前代未聞の状況だ。だが、儂らには一枚の切り札が残っている」

 そういって、彼はまっすぐに俺のことを指差して言い放った。

「タクミ、リアン、クレア――お前らパーティ「ローズヴィル」にこのSSSクラス・クエストの受託を命じる」
「は、はあっ!?」

 いきなりのことにリアンは目を剥いて驚く。クレアはといえば、顔からさーっと血の気が引いて言葉が出ないようだった。

「タクミ・カネザキ、君は失われた古代の高位魔法を継承する者だ。先の巨大シルヴァドラゴンの討伐も話に聞いている。君ならこの危機的状況を打破できるはずだ」

 デルファイの言葉を聞いて、群衆を掻き分け前に出る。

「切り札ってのは俺のことなんすか」
「そうとも。もちろん、向かうにあたっての支援は十分にするつもりだ」

 周りの冒険者達から憐れみの籠もった視線が向けられている。ジグニティー三体の討伐を命じられるというのは、死ねと言われているようなものなのだろう。しかし、ギルドマスターの命令は絶対で逆らうことも出来ない。そんなことが空気感から伝わってくる。

(……面白い)

 鼻で笑う。
 異世界転移など、元の世界から見れば一度死んだようなものだ。死ぬかもしれないなんていって躊躇するのは馬鹿馬鹿しい。しかも、与えられた力をどこまで利用できるかを試す格好の機会だ。目の前にあるチャンスをみすみす取り逃すわけにはいかなかった。

「分かりました。そのクエスト、俺が受けましょう。ただし、用意してもらいたいものがあります」

 デルファイは瞑目しながら、頷く。

「なんでも言いたまえ、全てこちら持ちで用意させよう」
「住むところが無いんです。宿屋なり何なりの宿泊費を持ってくれませんか」

 そう、こちらの世界に来たばかりで、落ち着ける場所も見繕っていなかった。取り敢えず今日は休憩して、明日またこの件について考えようと思っていた。
 デルファイはなんだか拍子抜けした様子で目を迷わせて、言う。

「わ、分かった。それならすぐに用意できる」

 こうして、俺たちパーティー「ローズヴィル」はSSSクエストを受けることになったのであった。
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