異世界転移したら、どうやら高位魔術の素質があるようなのでどうせなら世界最強の魔術師を目指してみる。

使役的月光

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対シルヴァドラゴン編

第5話 ドラゴンが自分の吐いた炎で死ぬか?

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「リアン、おい、リアン!」

 意識を取り戻したリアンが俺の膝の上で目を覚ます。

「ここは……」
「地上だ。着地するときに足を捻って、頭から突っ込んで気絶したんだぞ。覚えてないか?」
「ううん……」

 リアンは頭を擦りながら、よく分かっていない様子だった。地面に衝突した衝撃でその瞬間のことは忘れてしまっているらしい。
 だが、現在の状況は良く理解していたらしく。

「ぎゃぁっ!」

 俺の膝から起き上がって、俺から飛び退く。
 そして、俺のことを指して、腕を振り回した。

「あ、アンタ! アタシが意識を失ってる間、変なことしてないわよね!?」
「変なことって……」
「こ、この変態! ケダモノ!! 人でなし!!!」
「助けてやったっていうのに酷い言われようだ……」

 呆れていると、リアンはふと頭の上のに気づいたのか。頭をもたげた。

「あれって……さっきのシルヴァドラゴンよね……?」

 俺の背後には巨大なドラゴンが鎮座して、完全に沈黙してしまっていた。その頭は丸焦げになっていて、おそらくそれが致命傷になったのだろう。

「あなたが……やったってわけ?」

 リアンは恐る恐る視線を俺の方に戻して、訊いてきた。

「どうやらそうらしい」
「で、でもなんで! 収納魔法に入れたのはドラゴン自身の炎だったのに……!」

 確かに、と俺は首肯する。
 自分の炎で丸焼きにされるドラゴンが居てたまるか、と俺も思っていた。だからこそ、収納魔法のトリックはドラゴンを倒すために行ったのではなく、緊急離脱のために行ったことだった。

「これは俺の憶測に過ぎないんだが、収納魔法で収納した火炎を開放してドラゴンに当てようとした時点で、それが近接攻撃判定になってパッシブスキルの『近接攻撃+』が働いてバフが掛かったんだろう」
「信じられない……SSクラスの魔物をそんなやり方で討伐するだなんて……」

 リアンは驚きでそれ以上何も言えなくなってしまったようだった。その瞬間、背後の茂みのほうでがさりと音がした。
 他の敵が現れたのか、と警戒して振り向くが茂みから現れたのは金髪碧眼の少女だった。

「お二人共、無事だったんですね!」

 俺たち二人を認めたクレアが駆け寄って、ニコッと微笑む。背後からは甲冑を被った連中がぞろぞろと続いていた。

「クレア……この人達は?」
「ギルドに近いヘルヴァイエ公領の騎士団の方々です。SSクラス相当で、冒険者の命も掛かっているということで、ギルドが手配してくれたんです」
「御足労様だが、無駄足だったようだな」

 騎士団達は、俺の背後に居る巨大なシルヴァドラゴンを見上げて唖然としていた。
 一方、クレアは腰に手を当てて、真面目な顔になった。

「リアン、これで分かりましたか? 彼がこのパーティーに居ることは私達にとって有益なんです」
「……分かってるわよ。強いし、機転も利くしね」
「それなら、もう彼をパーティーに入れるのに文句は無いでしょう」

 俺の意見は聞かずにどんどん話が進んでしまっていたが、俺としてはどっちでも良かった。無理してパーティーから抜けても恨みを買いかねないし、独り立ちするのはもう少しこの世界のことを知ってからでも良いと思ったからだ。
 リアンはクレアの言葉にこくこくと頷き、そして小声で何やらぼそぼそと呟いた。

「それに、カッコよかったし……」
「え?」
「な、なんでもないわよ!」
「俺もよく聞こえなかったな。なんて言ったんだ?」
「だーかーらー、なんでもないっていってるでしょーが!!」

 森の中に熟れたトマトのように赤面したリアンの叫び声が響き渡る。俺とクレアはそんな彼女を前に首を傾げるのであった。

***

 ところ変わって、三人はギルドの酒場に居た。酒場、といってもアルコール度数の高いお酒を出すのではなく、中世らしく安全な水を確保できないがためにアルコール発酵したものを出しているだけのようだ。しかし、冒険者の腹はちょっとやそっとでは膨れないようで飲みまくったと思わしき冒険者が店の角で不貞寝してる始末だった。
 一方、同じテーブルについているリアンは一杯のエールを飲んだだけで突っ伏して寝てしまっていた。

「それで、これからタクミさんはどうするんですか?」
「これから……かあ」

 怒涛の一日だったからこそ、そんなことを考える暇はなかった。取り敢えずパーティーに付いていくとは言ったものの、やりたいことも何もかも定まっていない。
 そんな心配とは裏腹に突っ伏していたリアンはすくっと起き上がって、意気揚々に拳を突き上げた。

「あぁ~そんなのぉ、決まってるじゃない! 世界最強の魔術師よ!」
「は、はあ?」

 クレアは耳を疑うような発言にそう反応せざるを得ないようだった。しかし、俺にしてみれば適当な提案にも思えた。
 常軌を逸したステータスの高さに殆どの人間が使えないスキルを使えるというこの世界の人間にしてみればイレギュラーな状況。俺がこの世界に召喚されたのにもなにか理由があるはずだ。目指せるものなら上を目指し続けるのも良いだろう。

「よし、まずはSSSクラスのクエストをクリアするところからだな」
「た、タクミさん……簡単に言いますけど、SSSクラスは世界災害レベルの出来事なんですよ。そんな簡単には――」

 リアンがそこまで言ったところで、誰かが酒場に走り込んできたのが視界の端に捉えられた。視線を向けると、そこにはギルドの受付嬢が居た。一枚の羊皮紙を手に、肩で息をするその姿は健気で麗しく、酒場の男たちの視線を集めた。
 息を整えた彼女は、顔を上げ、声を張った。

「……皆さん、SSSクラスのクエストが発行されました!!」

 陽気な喧騒に包まれていた酒場は一瞬にして走った緊張に飲み込ませるように静寂と化す。
 俺とクレアはお互いに顔を合わせて、運命の偶然に驚いていた。
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