異世界転移したら、どうやら高位魔術の素質があるようなのでどうせなら世界最強の魔術師を目指してみる。

使役的月光

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対シルヴァドラゴン編

第4話 アイデアに勝るスキルはなしっ!

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「――ッ、切り込むわ!」

 顔面蒼白状態だったリアンは、その一瞬で顔色を仕事モードへと変える。彼女も自分から煽った手前、引くことが出来ないのだろう。空を飛んでいる地面とは思えないバランス力、身のこなしで首元まで駆け上がる。そして、体を捻り、飛び上がってドラゴンの顔面に躍り出る。

「相手の目を潰せば、多少はこっちも優位になるわ!」

 リアンが回転を生かして奮ったロングソードの刃はじきにこめかみから両目を切り裂くはずだった。
 しかし。

「いや、ダメだ!」

 俺は足元の鱗を蹴り、リアンとドラゴンの間に跳び出す。現実世界ではありえない跳躍力は恐らくスキル「近接攻撃+」のおかげなのだろう。受動効果パッシブスキルというやつだ。
 俺はリアンを空中で抱いて、ドラゴンに背を見せる。次の瞬間、強い熱が背中に感じられた。ドラゴンの火炎の咆哮がオートガードの半透明の壁に阻まれ、俺とリアンの脇を通り過ぎていった。ダメージは受けていないが、相当な距離飛ばされていた。
 地上に降り立って、リアンの体を確認する。怪我は……ないようだが、ひどく赤面していた。

「大丈夫か」
「べ、別に何ともないわよ……てか、離しなさいよ!!」

 そういってリアンは俺を突き飛ばした。やれやれ、素直じゃないのも考えものだ。

「そ、それにしても、なんで火を吹くって分かったのよ?」
「スキャンだよ、最初に発動したときに情報が分かっていたんだ」

 リアンは驚いたのか目を見開く。
 スキル「スキャン」は敵の位置を認識するだけではなく、ある程度敵の情報を読み込むことが出来た。最初に放ったスキャンで、俺はシルヴァドラゴンがスキル「火炎の咆哮」に要する時間を知ることが出来たのだ。

「こんなに素早く炎を吐けるなんて、普通のシルヴァドラゴンじゃないわ」
「強いのか」
「ええ、SSクラスは下らない依頼よ、こんなの」

 SSクラス――クレアの説明に基づくなら、対象は2000~2500経験値を持つ冒険者向けの任務ということになる。確か、クレアは1800ちょいだったはずだから、適正からは大きく外れていることになる。
 と、そんなことを考えたところで、クレアが背後にいきなり現れた。どうやら魔法を使って降りてきたらしい。

「大丈夫ですか、二人とも」
「無事だ。それよりもあいつどうするんだ」
「適性外の敵とは戦うべきではないでしょう。今すぐここから脱出すべきですが……」

 周りを見る。周囲の森林は、先程ドラゴンが吐いた炎に引火して森林火災を起こしていた。抜け道を見つけ出すことも出来ないくらいに轟々と燃えている。

「クレア、魔法で転移することは出来ないか?」
「転移魔法は対象が一人なんです。ギリギリ行使範囲内に捉えて、少しずつ移動することは出来そうですけど、周囲の火がどれくらい広がっているのか分からない今、転移した先が安全かは分からないのでやるべきでは無いと思います。あと、あの体躯のシルヴァドラゴンであれば――」
「時間がない、一言で言え!」
「……無理そうです」
「攻撃スキルは」
「それが、先程の転移魔法でMPが無くなってしまって……」

 しゅんとするクレアを前に俺は「クソッ」と毒づいた。このままではドラゴンに火を吹かれシュラスコになるか、火事に巻き込まれてドネル・ケバブになるか、いずれにせよ良い未来は見えなかった。戦う以外に手段は無い。しかし、近づけばドラゴンの火炎に焼かれてしまう。

(考えろ、スキルの中に答えがあるはずだ……!)

 ギルドで確認した自分のスキルを思い出す。自動翻訳、収納魔法、オートガード、スキャン、近接攻撃+、ガンスミス。どれも戦闘に直接利用できるものではない。
 だが……。

「リアン! もう一度ドラゴンの口の前に出ることは出来るか!?」
「で、出来るけど……さっきみたいに炎を吹かれたら終わりじゃない!」
「大丈夫、俺に任せろ」

 リアンは俺の真剣な瞳を理解したのか、それ以上反論せず無言で頷いた。

「クレア、お前は先に脱出しろ」
「し、しかし、私だけ逃げるわけには――」
「勘違いするな、すぐにギルドから援軍を呼ぶんだ。分かったな?」
「は、はい……」

 クレアも納得したのか、こくりと頷く。これで準備は整った。
 俺は地面を蹴って、ドラゴンに向けて加速を始める。

「行くぞ、リアン!」
「言われなくてもっ!!」

 ドラゴンに向けて駆けていく背後、苦しそうな顔のクレアの姿が消えたのを確認してから、ドラゴンの鱗を踏みつけ駆け上がっていく。リアンもそんな俺の後をついて駆け上がる。
 そしてさっきと同じように首元から飛び上がって、ドラゴンの目の前に出る。同じように飛び出したリアンの腕を俺は捕まえる。同時にドラゴンは口を開けて火炎を放とうとしていた。

「だ、ダメじゃない! これじゃ、さっきの二の舞に――」
「大丈夫だ!!」

 俺は空中で腕を薙いで、詠唱のあの感覚を想起する。そして、ドラゴンが火を放つ瞬間を見計らって、叫んだ。

「収納っていうんだったらこれくらい収納やがれ!」

 目の前全体が火炎で満たされる。しかし、その火炎は俺のによって、別空間へと吸収されていく。
 ドラゴンが火を吐ききったその瞬間、俺は待ったとばかりに再び腕を薙いだ。

「収納を開放する――吹き飛べぇえええええええええ!!」

 収納魔法によって収納された火炎が、ドラゴンに向かって噴射される。それと同時に俺とリアンは反作用で遠くへと飛ばされていく。

「こんなことが出来るなんて……!」

 吹き飛ばされている間、リアンは驚愕の顔で俺のことを見つめていた。それはもう惚れたんじゃないかと思うくらいにはずっと見つめていたのだった。
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