そして彼は魔王となった

葉月

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六、龍の祝福

20.

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 あたしは両腕を空に掲げ、身体を伸ばしながら澄んだ空気をお腹いっぱい吸い込むと、不意に欠伸が出て、更に空気を吸い込むのは無理ってくらい、吸い込む羽目になった。

「ふぁー……」

 澄み渡った青い空だったはずが、欠伸で涙がにじんで何度か瞬きをするうちに、どんどん曇り始めた。
 曇ったかと思ったら、雲に大きな渦が巻き始めて、あたしは欠伸で開いた口がそのままぽっかり開いたままになってしまった。
 
「おい! レム、屋根からすぐ降りろ」
「う、うん!」

 下からかかったレレの声に家の屋根の上だったことを思い出して、あたしは急いで梯子を降りた。

 ごごごごご……。

 びゅーびゅー唸るような音と共に、地響きのような振動も伝わってくる。
 何事かと家の中から出てくる者、畑仕事の手を止めて空を見上げる者たちもいた。
 腰を抜かして座り込む者もいて、突然の空の異変に誰もが逃げ場はないことを悟る。
 雲の大渦は、口を開くように徐々に丸く大穴を開け始めたかと思うと、そこから放たれた金色の光が辺りを包みこんでいった。

 それを動じず睨みつけるレレ。

「―――――」

 不快じゃない程度に金属を引っ掻くような音と、低い振動のような音。でも何かの言葉のようにも聞こえるものが響いた。

「俺を呼ぶのは誰だ?」

 レレがそれに答えるように口を開いた。
 私はレレにくっついて、後ろに隠れるようにして空を見上げる。
 気付くとその後ろにリトも涙目でブルブル震えながらくっついていた。

「珍しく同じ地に留まっているようだが、土地神めぐりはどうした?」

 今度はハッキリと低い声が聴こえた。
 頭に響くような声だ。
 もう金属音のような音はしない。

「何のことだ? そしてお前は誰だ?」

 レレが問い返している。

 すると空からにじみ出るように翼を広げた大きな金色の生き物が姿を見せ始めた。
 巨大なドラゴンだ。

「うへー! なんだありゃ!」

 リトが震える声を上げてへたり込んだ。

「何の冗談だ。ダンケル。片割れを忘れたとは」
「片割れだと?」
「ふむ……。やはり先日のあの波動が原因か。エルフが我らの息吹を受けた鉱石を利用していることは知っていた。その1つを何がしかが破壊したことも」

「……」

 レレが難しい表情をしているのが分かる。何か考え込んでいる様子だ。

「我らは万物を創生し、破壊してきた。こね回して作った人形どもが好きに動く様を眺める我に対し、一緒に行動してみたいと言ったのはお前ではないか。時には予想もせぬことが起こる事さえも、面白いとは思うが、自らが我を忘れては元も子もない」

 難しい話すぎてさっぱりわからない。人形遊びの話?

 不意に光がレレの元に集まって、弾けた。
 何かが割れるような軽い衝撃が走った気もしたけれど、うまく表現できない。
 ちょっと目眩がして、ふと見ると、レレが倒れている。
 見上げると空は真っ青に晴れ上がり、大きな金色のドラゴンの姿は跡形も無くなっていた。
 それと同時にリトも何処に行ったのか、姿が見えなくなっていた。

 気を失わなかったのは私だけ?
 どうやらこの日は、村中の人達が、一種の記憶喪失になっていたみたいだった。
 誰も金のドラゴンのことは知らなかった。
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