そして彼は魔王となった

葉月

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五、パルマの孫

17.

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 扉を開けると日差しで目が一瞬眩んだ。
 いつも家を出る時間と違うから油断してた。
 南東の方角に玄関が向いているから、この角度で日が当たるのは寝坊した時くらい。
 
「うぅ」
「大丈夫か?」
 
 あたしが呻いているとレレが後ろから声をかけてくれた。
 レレは眩しくないのかな?
 
「大丈夫。もう慣れた」
「そうか。ならいい」
 
 後ろをチラッと見ると涼しそうな顔であたしを見ているレレがいた。
 
「レ…ダンさーん。早くー」
 
 レレは返事代わりに片手を挙げてみせた。
 
 リトがぴょんぴょん跳ねながら駆けてくる。
 動きがいつもコミカルで面白い。
 リトはいつも身軽な格好だ。
 茶色の七分丈のパンツにベージュのシャツ、焦げ茶のケープポンチョに緑のスカーフを巻いて、緑の布が後ろに垂れた帽子を被ってる。
 
 帽子を脱いだら栗色のマッシュルームヘアだけど、帽子がお気に入りなのか滅多に脱がないから、それを知ってるのはあたしとレレくらいかも。
 他の服を見たこと無いけれど、このまま結婚式参加するのかな。
 
「パルマたちはもう出てきてる?」
「まだだよ。コルトはもう家の前で待ってて、ちょっと早すぎたって、複雑な顔してた」
「そうだな。出てきた以上引っ込みづらいよな」
 
 家を出ると、あたしとレレは村の広場へと急いだ。広場ではコレット神父とミズーリ司祭が、フラワーガール役のあたしを待っていてくれた。
 ミズーリ司祭はコレット神父のお姉さんらしい。
 二人ともエルフで、実はもう2000歳超えてるとか。パルマのお祖父じいちゃんのタルカじいはハーフエルフで2300歳超えらしくて、ここでは最長老だ。
 前の王様と幼馴染みだとか言ってたから、「血の濃さと寿命は必ずしも比例しないのかもな」って、レレが呟いてたっけ。
 
 あたしは他の地方の結婚式には詳しくないけど、この村の伝統的な結婚式はこんな感じ。
 
 花嫁は自宅から、ヴェールで頭からすっぽり隠れたまま父親に手を引かれてきて、花婿が待つ広場まで来る。そこからは手を引く役を花婿と交代。
 あたしは花嫁が来るまで花婿とそこで待つことになる。
 父親は広場から家までの孤独を乗り越えるのが辛いらしい。

 パルマの場合、お父さんがいないからタルカ爺が代わりをやることになるそうだ。

「じゃあ、最初のザドさんの家まではこれで大丈夫だな」

 レレは花籠いっぱいのテフの花をあたしに見せながらそう言った。

「十分だよ。あたしが撒き過ぎなければ」

 テフの花の花言葉は、『幸せのお裾分け』で、花撒きはその花言葉通りの意味を持つ。

「前回は二人で撒き過ぎて足りなくなったんだろ?」

 花婿姿のコルトがニヤニヤしながら言った。

「8年も前の話です!」

 前回の結婚式は8年前。ザドさんの娘さんとセナさんの息子さんが結婚したときだ。
 あたしとパルマが二人でフラワーガールを務めたんだけど、加減がわからなくて途中で花が無くなって追加してもらったのだ。
 あたしは二回もやるなんて思ってもみなかった。

 そんな話をしている間に、既にパルマとタルカ爺はもう、この広場に向かい始めていたらしい。
 遠くからキャーキャー楽しそうな声が聞こえ始めていた。

 各家からお祝いとして花を受け取りつつ、家から家までの道中その花を撒いて、最後に花婿の家の前で誓いの口付けを交わし、そこで二人で家に入る。

 今回はパルマとコルトの家が隣だから、ぐるっと単純に村を一周することになる。

 コルトとくだらないやりとりをしながらそんなことを考えていたら、もうパルマとタルカ爺がすぐ近くまで来ていた。

「うわぁ! パルマ綺麗!」
「い、言うな。き、緊張するだろ!」

 さっきまでの軽口はどこへやら。急にコルトの表情が固くなってきた。
 レレとリトは、別のところで見守っているみたい。

 パルマは薄い若葉色のふんわりしたドレスを身に纏い、若葉色の刺繍が施された白地のヴェールを顔の前に垂らしていた。
 白地なので前は見えているようで、手を引くのがタルカ爺だから、敢えて前が透けて見える仕様に仕立てたんだね。

 前回のザドさんの娘さんの時は、焦げ茶だったから、ザドさんが緊張してよろけると、花嫁さんも一緒に転びかけてた。

 タルカ爺からコルトへ、ついにパルマが広場のあたしたちのところへやってきた。

「パルマ、おめでとう」
「有難う」

 お互い囁くように言い合い、コルトがパルマの手を取る。

 さぁ、ここからがあたしの本番だ。

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