そして彼は魔王となった

葉月

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四、クーファ=ジーン

15.

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 大木の外周を巡る葉の階段を登ると、途中でつり橋のように別の方へ蔦を編んだようなの道が延びていたり、木の枝に手すりを渡され、通路となっていたりした。

 案内板が随所に設置され、それを頼りに他にも観光客らしきエルフやホビットなどの姿が見渡す範囲にちらほら見られた。

「狭いな。こんなところで生活する者の気が知れん」
「ここの住民は飛べますからな。浮遊魔法は研究段階でございます」

「羽虫か」
「まぁ、我々エルフとフェアリーでは役割が全く違うということです」

 つり橋を渡りながら、ヘイゼル公は肩を竦めた。

「この先にエルフの大使館がございます。そこで私は大使の者と交代致します。その者と護衛兵に案内を引き継ぎます」

「あいわかった」

 吊り橋を渡った先には木をくり貫いたトンネルがあり、抜けた先は巨大な大木の切り株の上だった。
 小さな建物や、切り株の各所から生えた太い木の幹や、平坦ではない段差のある切り株の幹の一部をくり貫いた住居が点在していた。

 その太い幹をくり貫いたものに後付けで木の柱や板などを組み合わせた建物が大使館として使われているということだった。

「お待ちしておりました。私、ミトン国親善大使のティカンと申します」

 にこやかな笑顔の、少し大きなフェアリーの男だった。
 葉と布を合わせたような不思議な礼服に身を包んでいた。
 頭には尖った葉っぱの帽子を被っていて、挨拶の際には帽子を取ってペコリと平伏した。

 大使館の建物の端のあたりから、白地に水色の帯を付けたローブを着た浅黒い肌の、長い黒髪の少女が出てきた。
 真珠のような乳白色の珠を連ねた髪飾りが黒髪に映える。
 不意に視界の端に現れた見慣れない肌色の少女の姿に、クーファは目を奪われた。
 つい目で追っていた。
 尖った耳はエルフの血をひいていることを示している。
 年の頃はクーファよりも少し下といったところか。
 誰かに向けて、弾けるような笑顔を向け、歩きながら楽しげに喋っている様子だった。


「どうかされましたか?」

 大使のティカンと何やら話していたヘイゼル公が、振り返って声をかけてきた。

「いや。何でもない」

 平静を装ったクーファは、不機嫌そうにヘイゼル公の方に向き直った。

 大使館の方へ案内されながら、もう一度少女がいたあたりを見たが、すでに少女の姿はなかった。

「それでは私はそろそろ本土に戻らねばなりません。ティカン殿、案内を頼みます」
「承知つかまつりました」

 ティカンはそう言って羽をはためかせて宙返りをした。

「2体ほど護衛もつけることに致しましょう」

 ヘイゼル公はそう言うが早いか、再びタクトを振るった。
 杖が出現し、その先端で円陣を描いた。

「森羅万象に宿りし偉大なる大精霊にお願い申し上げる。世界樹の枝葉より生を受けし
血脈の末端たる我を助け、仮初めの命を此に現し給へ。ーービルド。アクトゥース」

 つむじ風と共に円陣の上に現れたのは、硬そうな木製の鎧武者と、葉の翼を持った美しい蝶のような鳥のような、不思議な生き物の2体だった。
 クーファは目を丸くしている。

「召還致したるはゴーレムの近縁のもので、木人もくじん葉龍ようりゅうでございます」
「某の名はソウジュにございます。以後お見知りおきを」

 鎧武者はひざまづいた。

「きぇー!」

「こちらは言葉は成さぬか。ならばラビナと呼ばせてもらおう」

「きぇー!」

 言葉こそないものの、その目には知性があり、ヘイゼル公の言葉に答えるかのようにじっと見たあと、再度一声啼いた。

「ふむ。あまり強そうではないが、大丈夫なのか?」
「こう見えて、一体で、我が軍の一個師団ほどの戦闘能力は有してごさいます」

 クーファの問いかけに、ヘイゼル公は愚問とばかりにさらりと答えた。

「では後程」

 そう言い残すと、ヘイゼル公は身を翻してそのまま来た方とは別の道へと去っていった。
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