そして彼は魔王となった

葉月

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三、ダンケル=ハイト

10.

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 二人の兵隊さんたちは取り敢えず寝かせておいて、おじいちゃんを助け出したダンさん。

「お兄さんありがとう!」
「あいたたた……お若いのすまんのう。ついカッとなって文句言ったらこのざまじゃ」

 小さな女の子とおじいちゃんはお礼を言ってきた。
 おじいちゃんは、あちこち擦り傷があったよ。

「いや、大したことはしていない」
「それよりこの兵隊さんたちどうすんの?」

 多分このままだと大事おおごとになるってことはオイラにでもわかったから、オイラはダンさんに訊いてみた。

 ダンさんは眉をひそめてちょっと考えていた。するとさっきのおばちゃんが声をかけてきた。

「あらら。タルカじいさんとパルマちゃんじゃないか。ってあんた、兵隊さんたちどうしたの?」

「あー…、大変だ! 兵隊さんたち働き過ぎで倒れちゃったみたいだよ! 誰かんちで介抱してあげよう!」

 オイラはその場でぴょんぴょん跳ねながら叫んだ。
 何となくの思いつきだったんだけど、ダンさんは「ふむ。いい考えだ」と呟いた。

 他にもその騒ぎを聞き付けて、集落の人たちが集まってきた。

 その間に集まった大人たちが協力して、兵隊さんは近くの日陰に敷いた敷き藁の上に寝かせた。
 額に濡らした布を、横に水差しを置いて、介抱してる風にしておいた。

「それにしても、今ヘイゼル公に逆らうのは得策じゃねぇな」
 おでこにタオルを巻いたおじちゃんが言ったら、他の人たちもうなずき合ってた。

 看板を皆それぞれ読んで、出た言葉は色々だったけど、大体そんな感じの話にまとまってきた。

 この集落には小さな教会もあって、そこの教会の神父さんが少し遅れてやってきた。

「大体の状況は把握できました。この集落の住民はぼぼ全員純血エルフではありません。それがわかっていて、このようなお触れを出したのでしょう」

「コレット神父、それでは我々はどうしたら……」

 昼に差し掛かる頃、100人前後の人びとが集まっていた。
 コレット神父は白いふさふさした髭の小さなおじいさんだった。

「では一度、この地から離れましょう。敢えて危険な王都の近くにいる必要もありません。遥か西の盆地に私の姉がおります。そこを皆で頼ることにしましょう」

 コレット神父の話を聞いた集落の人たちは、急いで旅支度を始めた。
 オイラたちはすることがなかったから、あちこちの大荷物を荷車に載せるのを手伝ったりした。

「兵隊さんたち大丈夫? 急に倒れたんだよ? 働き過ぎなんじゃない?」

 オイラはちょうど兵隊さんたちが体を起こすのが見えたから駆け寄って、声をかけてみた。

「うわっ! あー、ノームか。珍しいな。俺たちは倒れてしまったのか」
「ああ、そうだ。二人して急に倒れたところを若い連中が担いでここまで運んだのだ」

 ダンさんも兵隊さんにそう教えたから、もう疑われることはなかった。
 兵隊さんたちは誰とはなしにお礼を言うと、二人とも帰っていった。

「あ、あの綺麗な人!」

 高めの声が聞こえた。
 パルマの横にもう一人女の子がいて、その子がこっちを見て言ったらしい。

「ん? ダンさんのこと?」
「ダンさん?」

 女の子が首を傾げた。

「くっ…。君は…」

 ダンさんが急に頭を押さえて唸り始めた。

「ああ、そうか。君はレム」
「レム? あー! そうだ。前に草の玉転がして遊んでた子ね」

 今まで出てこなかった記憶の一部がまた少し出てきたのは嬉しかった。

 まだ肝心なレシェス様って名前とかは出てこなかったんだよねー。
 レムに前会ったときにレシェス様が名乗ってれば、この時にレムから教えてもらえたんだろうけど、仕方ないね。

「お母さん……死んじゃった」

 実はこの時にはいまいちわかってなかったんだけど、戦災孤児になってしまって周りは知らない人だらけで、少しでも知ってる人に再会したから嬉しかったんだろうね。
 ダンさんのローブにすがり付いて静かに泣いてた。

 それをコレット神父やタルカじいさんが悲しげに見守ってた。
 ダンさんはまだ状況は把握してなかったみたいだけど、レムが落ち着くまで頭を撫でてたよ。
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