そして彼は魔王となった

葉月

文字の大きさ
上 下
7 / 22
二、ヘイゼルの乱

6.

しおりを挟む
なげかわしきことに、我ら純血なるエルフとの混血、ハーフエルフ等という者達も生まれているときく! ホビット族、ドワーフ族、そしてすべての能力を奪われ神々にも見放された最も無能なる人間! 世界樹を焼いた悪鬼どもの同族を招き入れるは大罪と進言するも聞き入れる気配なく、ついには手当たり次第に外部の者にまで領地を明け渡す法まで作る乱心ぶり!」

「大義は我らにあり! 世界樹の加護かごのもと、愚鈍くどんなる逆賊ぎゃくぞくエルスザックⅠ世をはいすべく、これよりジーン皇国王都、エルザへと進軍を開始する!!」

 それに応じる軍勢の声は、さながらごう音。大地を揺るがし、大気を震わせた。




―――

 気づけば炎の中だった。
 あたり一面赤い炎。
 あたしはママの隣で泣いていた。
 倒れてきた柱にはさまって動かなくなったママの隣で。

「レム! 危ない!!」

 そう叫んだママは、あたしを突き飛ばして柱の下じききになってしまった。
 それっきりママは動かない。

 あたしのお家は、トーラスとヴェネスの間あたりのトライン外居住区にある。

 この日は朝から、お向かいのミンディと、その弟のカロンと3人で遊ぶ約束だったんだけど、パパから駄目だって言われて家で大人しくしていた。
 いつもならそんなことは言わないんだけど、今日はパパの様子がいつもと違ってた。
 少し緊張してるような、そわそわしてるような、とにかく変だった。
 それから少しして遠くで小刻みな鐘が鳴って、それを聞いたパパは急いでお仕事へ出かけていった。
 パパの仕事は兵隊さんだ。
 そしてそのパパが絶対に外に出ちゃいけないって言ってた。

 仕方ない。
 遊びに行くわけにはいかない。

 ママは人間で、パパはエルフ。
 あたしはそのハーフだ。
 ミンディとカロンはハーフエルフって言われてるあたしと違って、パパもママも人間だって言ってた。
 ミンディはあたしと同じで7歳。
 カロンは5歳。
 あたしはパパの血をひいてるからか、同い年のミンディよりも、カロンと同じくらいに見えるらしい。
 あたしは、ひたすらパパの帰りを待っていた。

 お外が真っ暗になってもパパは帰って来なかった。
 ママが詰め所にお泊りだと言っていた。
 あたしとママはもうベッドの中だったけれど、あたしはなかなか寝付けなかった。
 トイレに行きたくなって寝室から抜け出したあたしは、遠くでダダダダッと音がしていているのに気が付いた。
 それはだんだん大きくなって、大きくなって…怖くなってきたからすぐにトイレを済ませて寝室に戻ろうとした時、急に外で何かが割れる大きな音がして、その音に驚いたママが起きて、次の瞬間ベッドが燃え上がって、ママがあたしの手を引っ張って玄関から出ようとしたら、もう廊下も燃えてて、台所の方にもうひとつある出口に向かおうとしたところで柱が倒れてきた。

 何処の柱だったかまではわからない。

 気づけばあたり一面燃えていて、真っ赤だった。
 ママは動かない。
 動かないママの横であたしは泣いた。
 もう何が何だかわからない。
 何もかもおしまいなんだと思った。



―――
 地響きとともに、騎馬きば隊がけ抜ける。
 軽鎧を身に付け、足首には小さな翼形の装飾を付けた馬達。
 軽装備に見えるが強力な魔法装備に身を包んだ兵達が突き進む。
 ヴェネス、トーラス、ヴィラは瞬く間に陥落かんらく
 3区画を陥落したヘイゼル軍は、一気に中枢ちゅうすう区画へと進軍。
 いかなる手段を用いたかは不明だが、アルヴィン=ジオ=ヘイゼルは一夜にしてエルスザックⅠ世に王手をかけた。
 ヘイゼル公のあまりに早い進軍に、エルスザックⅠ世の軍は後手に回らざるを得なかった。
 もともと軍政にうとかったことも災いした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

処理中です...