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二、ヘイゼルの乱
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「嘆かわしきことに、我ら純血なるエルフとの混血、ハーフエルフ等という者達も生まれているときく! ホビット族、ドワーフ族、そしてすべての能力を奪われ神々にも見放された最も無能なる人間! 世界樹を焼いた悪鬼どもの同族を招き入れるは大罪と進言するも聞き入れる気配なく、ついには手当たり次第に外部の者にまで領地を明け渡す法まで作る乱心ぶり!」
「大義は我らにあり! 世界樹の加護のもと、愚鈍なる逆賊エルスザックⅠ世を廃すべく、これよりジーン皇国王都、エルザへと進軍を開始する!!」
それに応じる軍勢の声は、さながら轟音。大地を揺るがし、大気を震わせた。
―――
気づけば炎の中だった。
あたり一面赤い炎。
あたしはママの隣で泣いていた。
倒れてきた柱に挟まって動かなくなったママの隣で。
「レム! 危ない!!」
そう叫んだママは、あたしを突き飛ばして柱の下敷きになってしまった。
それっきりママは動かない。
あたしのお家は、トーラスとヴェネスの間あたりのトライン外居住区にある。
この日は朝から、お向かいのミンディと、その弟のカロンと3人で遊ぶ約束だったんだけど、パパから駄目だって言われて家で大人しくしていた。
いつもならそんなことは言わないんだけど、今日はパパの様子がいつもと違ってた。
少し緊張してるような、そわそわしてるような、とにかく変だった。
それから少しして遠くで小刻みな鐘が鳴って、それを聞いたパパは急いでお仕事へ出かけていった。
パパの仕事は兵隊さんだ。
そしてそのパパが絶対に外に出ちゃいけないって言ってた。
仕方ない。
遊びに行くわけにはいかない。
ママは人間で、パパはエルフ。
あたしはそのハーフだ。
ミンディとカロンはハーフエルフって言われてるあたしと違って、パパもママも人間だって言ってた。
ミンディはあたしと同じで7歳。
カロンは5歳。
あたしはパパの血をひいてるからか、同い年のミンディよりも、カロンと同じくらいに見えるらしい。
あたしは、ひたすらパパの帰りを待っていた。
お外が真っ暗になってもパパは帰って来なかった。
ママが詰め所にお泊りだと言っていた。
あたしとママはもうベッドの中だったけれど、あたしはなかなか寝付けなかった。
トイレに行きたくなって寝室から抜け出したあたしは、遠くでダダダダッと音がしていているのに気が付いた。
それはだんだん大きくなって、大きくなって…怖くなってきたからすぐにトイレを済ませて寝室に戻ろうとした時、急に外で何かが割れる大きな音がして、その音に驚いたママが起きて、次の瞬間ベッドが燃え上がって、ママがあたしの手を引っ張って玄関から出ようとしたら、もう廊下も燃えてて、台所の方にもうひとつある出口に向かおうとしたところで柱が倒れてきた。
何処の柱だったかまではわからない。
気づけばあたり一面燃えていて、真っ赤だった。
ママは動かない。
動かないママの横であたしは泣いた。
もう何が何だかわからない。
何もかもおしまいなんだと思った。
―――
地響きとともに、騎馬隊が駆け抜ける。
軽鎧を身に付け、足首には小さな翼形の装飾を付けた馬達。
軽装備に見えるが強力な魔法装備に身を包んだ兵達が突き進む。
ヴェネス、トーラス、ヴィラは瞬く間に陥落。
3区画を陥落したヘイゼル軍は、一気に中枢区画へと進軍。
いかなる手段を用いたかは不明だが、アルヴィン=ジオ=ヘイゼルは一夜にしてエルスザックⅠ世に王手をかけた。
ヘイゼル公のあまりに早い進軍に、エルスザックⅠ世の軍は後手に回らざるを得なかった。
もともと軍政に疎かったことも災いした。
「大義は我らにあり! 世界樹の加護のもと、愚鈍なる逆賊エルスザックⅠ世を廃すべく、これよりジーン皇国王都、エルザへと進軍を開始する!!」
それに応じる軍勢の声は、さながら轟音。大地を揺るがし、大気を震わせた。
―――
気づけば炎の中だった。
あたり一面赤い炎。
あたしはママの隣で泣いていた。
倒れてきた柱に挟まって動かなくなったママの隣で。
「レム! 危ない!!」
そう叫んだママは、あたしを突き飛ばして柱の下敷きになってしまった。
それっきりママは動かない。
あたしのお家は、トーラスとヴェネスの間あたりのトライン外居住区にある。
この日は朝から、お向かいのミンディと、その弟のカロンと3人で遊ぶ約束だったんだけど、パパから駄目だって言われて家で大人しくしていた。
いつもならそんなことは言わないんだけど、今日はパパの様子がいつもと違ってた。
少し緊張してるような、そわそわしてるような、とにかく変だった。
それから少しして遠くで小刻みな鐘が鳴って、それを聞いたパパは急いでお仕事へ出かけていった。
パパの仕事は兵隊さんだ。
そしてそのパパが絶対に外に出ちゃいけないって言ってた。
仕方ない。
遊びに行くわけにはいかない。
ママは人間で、パパはエルフ。
あたしはそのハーフだ。
ミンディとカロンはハーフエルフって言われてるあたしと違って、パパもママも人間だって言ってた。
ミンディはあたしと同じで7歳。
カロンは5歳。
あたしはパパの血をひいてるからか、同い年のミンディよりも、カロンと同じくらいに見えるらしい。
あたしは、ひたすらパパの帰りを待っていた。
お外が真っ暗になってもパパは帰って来なかった。
ママが詰め所にお泊りだと言っていた。
あたしとママはもうベッドの中だったけれど、あたしはなかなか寝付けなかった。
トイレに行きたくなって寝室から抜け出したあたしは、遠くでダダダダッと音がしていているのに気が付いた。
それはだんだん大きくなって、大きくなって…怖くなってきたからすぐにトイレを済ませて寝室に戻ろうとした時、急に外で何かが割れる大きな音がして、その音に驚いたママが起きて、次の瞬間ベッドが燃え上がって、ママがあたしの手を引っ張って玄関から出ようとしたら、もう廊下も燃えてて、台所の方にもうひとつある出口に向かおうとしたところで柱が倒れてきた。
何処の柱だったかまではわからない。
気づけばあたり一面燃えていて、真っ赤だった。
ママは動かない。
動かないママの横であたしは泣いた。
もう何が何だかわからない。
何もかもおしまいなんだと思った。
―――
地響きとともに、騎馬隊が駆け抜ける。
軽鎧を身に付け、足首には小さな翼形の装飾を付けた馬達。
軽装備に見えるが強力な魔法装備に身を包んだ兵達が突き進む。
ヴェネス、トーラス、ヴィラは瞬く間に陥落。
3区画を陥落したヘイゼル軍は、一気に中枢区画へと進軍。
いかなる手段を用いたかは不明だが、アルヴィン=ジオ=ヘイゼルは一夜にしてエルスザックⅠ世に王手をかけた。
ヘイゼル公のあまりに早い進軍に、エルスザックⅠ世の軍は後手に回らざるを得なかった。
もともと軍政に疎かったことも災いした。
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