上 下
27 / 43
7

変わらない気持ち

しおりを挟む
人…人…人ッ!!

すぐさま混雑から離脱すると、パンフレットを広げた。

「弥人はどこ行きたい?」
「お、俺?」

夢花が視界の隅から覗き込んできた。希海と来たことのあるようで逞しく感じる。

「これは船に乗ってジャングル廻るので、こっちは車に乗って映像を楽しむ感じで」
「……」
「弥人はジェットコースター系は苦手?」
「いや、そんなことないよ。むしろ一番好きまであるね!」

気分が高揚しているせいか、ちょっと得意げに言ってみた。

自慢じゃないが、俺は学生時代に独りテーマパークに挑戦して、ひたすらジェットコースターに乗った経験がある。憂さ晴らしに10回ほど連続で乗り続けていたら、係員のお兄さんに憐みの目で見られたのは今でもはっきり覚えている。

「じゃ、まずは雷神山にいこっか」
「オッケー」

ネズミーランドはカップルにとって試練である。

と事前に読んだ記事にあった。待ち時間が試されるらしい。確かに周りを見渡すと様々だった。

いつまでも話の尽きないペアもいれば、スマホをいじっているだけのペアもいたりする。

「夢花?」
「うん?」
「こういう時って何話せばいい?」
「え?」

前方にいる高校生らしき男子三人組は『呪術大全』の話題で盛り上がっている。今流行りの映画らしい。

夢花も少し困ったのか、地図を広げると次に行きたい場所などを話してくれた。

ただそれでも、待機列で進んだのは数列分で、2時間以上あったあまりにも長い待ち時間は埋められない。

「夢花?」
「うん?」
「手、つないでもいい?」
「うん」

ポケットの中で温めていた俺の手は、満を持して夢花の手に触れる。

指と指を探り合わせて、互いにクロス。

顔を上げた夢花に視線を合わせたいのだが、恥ずかしすぎて難しい。

それでも、交換される互いの熱に後を押された俺は、待ち続けていた夢花の瞳を覗いた。

ふっ――。

夢花の鼻息が漏れた。

無言の時間は続いたが、二人が良ければ、それで良いのかもしれない。

「今日の夜ごはん何も決めてないけど何がいい?」
「夜ごはん?まだ朝だよw」
「あ、そうか」
「昼どうしようね、お店凄い混むし高いからやめとく?」

夢花の提案に俺は動揺した。

俺は、昼は食べても食べなくてもタイプの人間だ。それを知っている夢花が無理に合わせようとしているのは分かった。

「いや、何事も経験だから。店行こうか店」
「お昼時とパレード中は待ち時間減るからチャンスだよ?」
「そうなの?」
「その分を夜にまわそうよ」
「夢花がそれでいいならいいけど」

パレードよりアトラクション派なんだろうか。俺は夢花に手を引かれて一歩前に進む。

「お得なプランでしょ?」
「おっ、そうだ」
「なに?」
「お得で思い出したけど、全然関係ない話していい?」

俺は、今朝のニュースサイトで得た知識の断片を引っ張り出した。

確か『残酷な親ガチャの真実~幼児期のある習慣が子の人生を左右する~』といった題名がついていたような気がする。

結論だけ言ってしまえば、幼少期に生身の人間が発する言葉の数(言葉のシャワー)を浴びる機会が多いほど、子どもの成長に良い影響を与えるという話だ。

海外の対人研究は、例えばスタンフォード監獄実験のようにかなり迫るものがある。だから面白いといえば面白いのだが、よろしくない条件を与えられた側のことを思うと少し苦い部分もある。

とりわけ子どもへの影響は大きいはずで、その研究が孤児に対して行われていることからみるに、残酷な世界の一部が垣間見える。

「言葉のシャワーかぁ」
「大事なのは生身の人間の言葉らしくて、テレビや録音された音声ではダメらしい」
「へぇー」
「子どもに本を読み聞かせるのって昔からあると思うけど、とても合理的な事なんだってさ」
「なるほど…」

俺のまとまりのない話が、どこまで夢花の中に響いたのかは分からない。この程度の事ならいずれ学校で習うことかもしれない(俺の時は教えてくれなかったけどな!)。それでも待ち時間には役立ってくれたようだ。

「あと、英語は本場の発音とかを3歳までに聞かせたほうがいいらしいよ」
「あー私、英語ぜんぜん」

見上げてくる夢花。残念ながら俺も英語はさっぱりだ。

「将来結婚するなら、ネイティブな人のほうがいいかもよ?」
「どういうこと?w」
「人生何が起きるか分からないってこと」
「ちょっと深すぎて意味わかんないw」

俺は夢花の頭を優しく撫でた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

処理中です...