とろけてなくなる

瀬楽英津子

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4、少年は陵辱に苦い蜜を滴らせる

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「痛がるわりにはずいぶん旨そうに飲み込んだじゃねぇか……」

 両脚を目一杯開かされ、後孔に太い張り型を根元まで押し込まれて身体を引き攣らせるみやびを、たった今張り型を最後まで押し込んだ男が薄ら笑いを浮かべて眺める。
 雅は、男たちに抱えられた両足を天井に突き上げ、白い指を不自然に開きながらびくびくと身体を震わせている。
 逢坂おうさかに見せ付けるためだろう。自分の背中が逢坂の視界を遮らないよう座る位置をわざと横にズラし、男は、雅の恥部が逢坂の目の前に曝け出されるようにして張り型を埋め込む。
 雅のピンク色の窄まりが張り型の形に押し広げられていくさまを間近で見せ付けられ、逢坂の全身が火を噴いたように熱くなり、噛み締めた奥歯が砕けそうにギリギリと音をたてた。

「それにしても、綺麗なケツしてやがるぜ」

 全てを飲み込み広がった雅のムダ毛の無い後孔を満足気に眺めると、男は、ふいに張り型の取手を持ち直し、今度はそれをそろそろと引き戻した。

「んはあああぁぁぁっ!」

 狭い後孔にみっちり嵌ったモノを突然引き抜かれ、雅が、背中を跳ね上げながら声を上げる。
 入れられたものが大きいだけに、密着した肉壁が一緒に引きずり出される感覚も半端ない。
 入れられる時よりも長く息を吐き、ともすれば喘いでいるようにも聞こえる悲痛な声を上げながら、雅は、張り型が抜かれていく感触にただ耐えていた。
 男根をおぞましく誇張した張り型が、黒光りした胴体をぬめらせながら雅の後孔からズルズルと引き出される。
 予め中にローションを注入されていたのだろう。ゴツゴツと嵩張った先端部分が引き抜かれると、雅の赤く膨れた入り口から白濁したローションが、とぷん、と溢れ出た。

「マジでエロいな。若いだけあってさすが締まりがいいぜ。見ろ、中がヒクヒクいってすぐに閉じやがる」

 男は、雅の後孔を指で開きながら言うと、抜いたばかりの張り型の先端を再び入り口に押し当てた。

「そんじゃぁ、もう一回いってみよっか!」

 男の言葉に、雅が閉じていた瞳をカッと開く。

「い、いあぁぁっ!」

 後孔に割り入ろうとする張り型から逃げようと足をバタつかせるものの、両脚を脇の下にがっつりと抱えられて開かされているせいで、雅の足はびくとも動かず、指先が虚しく宙をもがくだけ。
 男は、泣き腫らした目を見開いてイヤイヤと首を振る雅を面白がるように、太ももの内側をいやらしくなぞり、尻肉を開いて先端を埋め込んだ。

「やあああッ! やめてええぇッ! やあああぁぁぁっ!」

「泣いても無駄だ。次は奥まで入れて突いてやるから待ってろよ」

「ひいッ! ひいぃッ! ひぃぃ……ッ!」

 叫びも虚しく、異様に膨れた先端部分が雅の幼い後孔にズブズブと埋め込まれていく。
 段差のキツいカリ首をすっぽり押し込むと、更にゆるゆると半分ぐらいまで埋め、そこから一気に奥まで突き入れた。

「んぐぅッ!」

 最奥までねじ込まれた衝撃に、雅が、俯いた顔をガバッと上げて白い喉を引き攣らせる。
 しかし、雅の試練はこれからだった。
 男が張り型をズズッと引き戻し、再び、ズンッ、と奥へ突き入れる。

「ああああいいぃぃぃぃィィッ!」

 無理やり開かされた痛みと肉壁を襲う強烈な摩擦に、雅が、後頭部を床に擦り付けながら肩が浮くほど背中を仰け反らせる。
 反射的な反応だったが、抵抗とみなされたのか、両腕を押さえ付けている男たちにすぐさま捻じ伏せられ、その衝撃に、雅の顔が更に苦痛に歪んだ。

「大人しくしてねぇと怪我すんぜ?」

 泣き叫ぶ雅をものともせず、男は張り型を抜き差しするスピードを容赦なく早めて行く。
 グロテスクな黒い塊が雅の白いお尻を出たり入ったり何度も繰り返し犯し、赤く腫れた入り口が、ゴプッ、ゴプッ、とローションを溢れさせながら捲れ上がる。
 肉壁を削り取られるかのような激痛に、雅は、男たちに両手両足を抱えられたまま、張り裂けんばかりの悲鳴をあげた。

「ひいッ! 痛いぃッ! いッ……いひいいいぃぃッ! いい痛あぁぁっ、いっ、いいッ!」

「裂けてねぇから大丈夫だ。お前が痛がるほどダメージ受けて無ぇんだよ、ここは……」

 言いながら、抜き差しする距離を少しずつ伸ばして行く。
 先端の部分で小刻みに突かれただけで泣き叫んでいた雅は、突然始まった大きな動きに、狂ったように首を振った。

「やあああああ、やだっ! やめてえぇぇッ! 」

 聞いたこともない悲痛な叫びに、逢坂の心臓が、刃物で、ドンッ、と突かれたように飛び上がった。

「やめろ! そいつに乱暴な真似はしないでくれ!」

 身体を動かそうとするものの、両手足の自由を奪われた逢坂の身体は床の上をもぞもぞと転がるだけで雅の元へは辿り着けない。
 大きな身体を縮めてチェーンを軋ませる逢坂を、男たちはニヤ付きながらチラチラと見た。

「あんま動くとマジで首絞まっちまいますよ? てか、仕込みのことなら俺たちのが詳しいんで口出さないでもらえます?」

「そいつは俺が……」

「だからー、それが出来ないから俺らが駆り出されてるんでしょうが。素人が下手に手ぇ出して何とかなるもんじゃないんすよ。とにかく逢坂さんはそこで大人しくしといて下さい」

 男の手が再び張り型をズボズボと雅の中に抜き差しする。
 繰り返される衝撃に、雅の口は閉じる暇もなく悲鳴を上げ続け、時折り嘔吐えずくように喉を詰まらせた。

「ひっ……いっ、いい、痛いッ……も……やめてぇ! いッ……ぐふっ……も……許してぇッ! ぐほっ……」

「ケツのことばっか考えてっからだろ」

 おい、と、男の合図とともに腕を押さえていた男が、それぞれ、雅の薄桃色の乳首に空いた方の手を伸ばす。
 前触れもなく乳首を摘み上げられ、雅が、「ひぃぃッ!」と白い胸を突き出して悶えた。

「そうそう。乳首のこと考えるとケツの痛みが和らぐだろう? 気持ち良くなるまでたっぷり弄ってもらえ」

 男たちの手が、両側から一斉に乳首を捉え、小さな粒を指の先でグリグリと捏ね回す。
 ただでさえ敏感な乳首を左右それぞれ好きなようにいじくられ、摩擦と痛みで、雅の薄桃色の乳首がみるみる赤く充血して盛り上がる。
 決して快感を感じて反応したわけではない。けれども、ほんの少し触れただけで瞬く間に硬く尖ってしまった乳首に男たちは色めき立ち、雅の乳首をここぞとばかりに、なぶり、責め立てた。

「ちょっといじっただけでもうこんなかよ。乳首の開発は上手く行ってたみてぇだな」

「違う! そいつは敏感なんだ。そんなに強くしたら……」

 逢坂は反論したが、男たちが聞き入れる筈もない。

「へぇ~、敏感なんかぁ。強くしたらどうなるって? 試しにやってみっか!」

「やめろッ!」

 突然乳首を強く捻り上げられ、雅が、「ひぎッ」と声にならない叫びを上げて背中を弓なりに仰け反らせる。
 不可抗力ともいえる反応だが、それによって雅は自然と胸を突き出す格好になり、卑猥に尖った乳首をさぁ見て下さいと言わんばかりに小刻みに震わせて身悶えるさまは、本人の意思に反して男たちの欲情をそそった。
 
「こいつぁ良いや。こんなに乳首腫らして、厭らしいったらありゃしない」

「違っ……あひッ!」

 雅の反応に味をしめたのか、男たちがここぞとばかりに乳首を捻り上げる。
 しかし突然、手前の男が、抜き差ししていた張り型の角度を変え、その衝撃に、雅は、太ももを痙攣させながら身体を硬直させた。

「ひぁああああぁぁぁっ!」

 それまで前後に動いていた張り型が、一転、後孔の奥を回し広げるような円運動へと動きを変える。
 もともと圧倒的な質量で雅の性感帯を擦り上げていた張り型が、広げ回されることによって更に性感帯をゴリゴリと押し削り、その強烈な刺激と圧迫に、雅が悲鳴を上げながらビクンビクンと身体を跳ね上げる。
 叫んだのは逢坂だった。

「やめろぉぉッ! それ以上するなッ! そいつから手を離せッ!」

「冗談もたいがいにしてくださいよ。ウリセンにケツ受け覚えさせなくてどうするんすか」

「そいつにウリはさせない!」

 一瞬、間が空き、男の頬に歪んだ笑いが浮かんだ。

「こりゃ、組長オヤジの言う通り、そうとうヤキが回ってるな……」

「違うッ! そいつはビデオモデルになるって話しがついてンだ! だから……」

「だから、なんすか? ビデオだろうが何だろうが、ケツを使うことに変わりないっしょ。てか、まさかビデオだけで済むってマジで思ってます? やれるモンは何でもやらせて骨の髄までしゃぶり尽くすのがのがN企画うちのやり方っしょ……」

 蔑むように言うと、男は張り型を動かす手を止め、逢坂の方へ向き直った。
 
「逢坂さん、やっぱあんたこの世界に向いてないわ……」

 鋭い視線。
 言うなり、身に付けたTシャツを捲り上げて頭から抜き取り、床の上で身体を丸めて寝転がる逢坂に近付いて顔の前にしゃがみ込む。
 何をされるのかは聞くまでもない。
 脱いだばかりのTシャツを猿ぐつわ代わりに二重に噛まされ、逢坂は声を封じられた。

「気が散るんで静かにしててください」
 
 男は言うと、雅の足元へ戻り、再び、張り型を大きく回転させた。
「やめろぉぉぉ!」と叫んだ逢坂の声は、けれども言葉にならず、たちまち雅の絶叫に掻き消された。

「ひいいッぃぃぃいあぁぁぁッ!」

 今まで以上に激しい動きに、雅が、足の先をピンと跳ね上げ、身体を後ろへ大きく仰け反らせる。
 白い喉が青い血管を浮き上がらせながら反り返り赤く色付いた唇が、悲鳴を上げた時の形のまま引き攣った。

「だんだん気持ち良くなってきただろう? これと同じことをあと五回ぐらい繰り返すかんな。したら、俺らのを順番に嵌めてやる……」

 執拗に奥を掻き回すと、男は、一旦、張り型を引き抜き、最初にした時と同じように、巨大なシリンジで雅の後孔に大量のローションを流し込み、奥に馴染ませてから再び挿入した。

「んはああぁぁっ! も……やだッ……いやぁあッ!」

 カリ首まで入れて一気に奥まで沈め、前後に突いた後、根元から大きく円を描くように回す。
 言葉の通り、男は同じ動作を何度も繰り返し、雅のお尻の奥の性感帯という性感帯をくまなく押し上げ、擦り上げる。
 最奥を突かれたショックで意識が朦朧としているのだろう。四度目の挿入を迎える頃には、雅の悲鳴はか弱い啜り泣きに変わり、焦点の合わない目で喉をヒィヒィ鳴らしながら「やめて、やめて」と哀願するさまは、獰猛な男たちの性的欲望を掻き立てた。

「そーら、いいとこグリグリ突かれて気持ち良いだろう? そろそろ来る頃だと思うがまだ来ねぇかなぁ?」

 後ろに突っ込まれた張り型が引き戻されるたび、限界まで開かされた入り口が緩んで中に溜まったローションがポタボタと床に落ちる。
 男が手首をグリッと捻った時だった。
 雅が突然、ウッ、と呻き、萎えたままのペニス の先から白濁した精液をトロリとこぼした。

「きたきた。ほーら、白いの出てきた。トコロテンだ。ほら、見てみろ」

「あっ……やぁッ……」

 両脇の男たちに上体を起こされた雅が、だらんと下を向いたまま精液を垂れ流す自分のペニスを見て泣き出しそうに顔を歪める。
 それは、性的快感によるものではなく、巨大なモノで奥を突かれたことによる物理的な押し出し現象に過ぎなかったが、“トコロテン”という状態に付加価値をつける男たちとっては結果が全てであり、原因などはどうでもよかった。

「ちゃんと見ろよ。お前の先っぽからトロトロ垂れてくンぜ?」

「ふぁあぁ……ぁ……やぁッ……いやぁッ……」

 言葉とはうはらはに、雅のペニスは、男が張り型を突き入れるたび、ピンク色の先端を揺らしながら白い精液を滴らせる。
 羞恥に顔を顰めながら、赤みの増した縦溝をヒクつかせて何度も吐精する雅の姿は、ただでさえ性欲を持て余した男たちの興奮を最大限まで引き出した。

「マジで、すんげぇエロい。ふにゃチンでこんなに漏らすとかヤラシすぎんだろ。チンコ勃ったら一体どうなっちまうんだ、コイツ……」

 男の言葉に、「勃たせてやれば?」と別の男が言う。
 一瞬の目配せの後、足を抱えていた男の一人が前屈みに身を乗り出して雅のペニスにむしゃぶりついた。

「あひぃぃ! あぁッ! ひぃ! いぁあぁぁッ!」
 
 突然襲った粘膜の熱さに、雅が細い腰をくねらせて身悶える。
 これまでさんざんお預けを喰らっていた男が、雅の痛々しいほどに淫らなペニスを前に冷静でいられる筈が無かった。
 口を付けるが早いか、男の舌が、竿から裏筋から先端の溝から何から何までを忙しなく舐め上げ、根元まで咥え込んで、ジュルジュルと卑猥な音を立てながら吸い上げる。
 その間も、張り型は休むことなく奥を突き続け、雅のペニスはみるみる硬く勃ち上がり、真っ直ぐに上を向いた先端からタラタラと精液を垂れ流した。

「うっわ。こいつぁマジでヤバい。たまンねぇ……」

 男たちの目の色が変わったのが、離れた場所にいる逢坂にもはっきりと見て取れた。嫌な予感が頭を掠める。
 すると、案の定、張り型を持っていた男がそのグロテスクな塊を雅の後孔からひっこ抜き、雅の真正面に座り直して自分のズボンを下着ごと引き下ろした。

「俺、もう我慢できねぇ……」

 股間から勢いよく跳ね上がったモノは、張り型よりは小さいものの、竿の上部にはシリコンリングがぐるりと埋められ第二のカリ首を形成し、表皮には小豆大のシリコンボールがイボ状に散らばっている。
 あからさまに人工的な、もはや異形としか言いようのないイチモツを片手に握ると、男は、雅の髪を掴んで顔を引き寄せ、その凶悪な先端を強制的に口の中に突っ込んだ。

「舐めて湿らせろ……」

 いきなり喉奥を突かれ、雅が、ゲホッ、ゲホッ、と顎を突き出し喉を波立たせる。
 しかし男は全く手加減せず、むしろ、吐き戻す舌の動きすらもたまらないというように、雅の喉奥に向かって、グッ、グッ、と腰を振り、いきなり雅の頭を引き離して口の中から抜き取った。

「気持ち良いの嵌めてやるから待ってろよ」

 男が脚の間に膝を付けて座ると、両サイドの男が示し合わせたように雅の脚を左右に大きく開いてお尻を上向きに持ち上げる。
 雅は、強制的なイラマチオによって酸欠になっていたところをいきなり解放され、唇の端から涎を垂らしながら咳き込んでいる。
 とても抵抗できる状態ではない。
 それでも、男が尻の肉を開き後孔に硬く張り詰めた先端を押し付けると、身の危険を感じたのか、下を向いていた顔をビクッと上げた。

「いやッ! もう、いやッ!」

「ホンモノのほうが断然気持ち良いから心配すんな」

「いやぁッ! やだッ! やだあぁぁッ!」

 叫びも虚しく、男の異様に盛り上がった先端が、雅の後孔の入り口にめり込み奥へと呑み込まれていく。
 カリ首まで埋めたと思ったら、またすぐにシリコンリングの出っ張りが狭い肉壁を擦り上げ、そこからイボ状のシリコンボールの刺激が始まる。
 男は自分の男根の感触を刻み付けるようにわざとゆっくり挿入すると、今度は一転、雅の身体の奥に杭を打ち込むように、傲慢にカスタマイズされた男根を激しく築き上げた。

「ひぃやあああああ! ぅあああッ! ひいいいやああぁぁッ!」

 突然暴れ出した男根に、雅が髪を振り乱して狂ったように首を振る。

「どうだ。オレ様のデカマラを突っ込まれた感想は……」

「ひぃぃッあぁッ! ひぃ! ひっ! ぃいいぁあぁ!」

「やめろぉぉッ、やめてくれええぇぇッ!」

 逢坂の叫びは何一つ声にはならない。
 大声を上げて呻くことしか出来ない逢坂の目の前で、男は、雅の小さなお尻を鷲掴み、自分の股間に叩き付けるようにガンガンと腰を振る。
 その間も、押し上げによる射精は止まらず、ペニスを直立させたまま精液を滴らせる雅に、男たちの目が獲物を追い詰める野獣の目に変わる。

「コイツ、潮も吹けンじゃねぇの?」

 一人が言い出したのがきっかけだった。
 男が唇の端に下卑た笑いを浮かべ、腰の動きを更に早める。

「んああああああぁぁぁっっッ!」

 お尻をガッツリと掴まれてるいるせいで腰を引くことも出来ず、雅はただ、高速で肉壁を突き上げられながら、喉が裂けるような悲鳴を上げて白い喉を仰け反らせる。
 男たちが、「おら、おら」と囃し立てる声、肉と肉とがぶつかり合う音が忙しなく響き渡る。
 顔を真っ赤にしながら衝撃に耐える雅とはうらはらに、男たちはゲームでも楽しむかのように、雅の身体を弄ぶ。

「おっかしーな。絶対ぇ届いてるはずなんだけど……」

「おら、なんとか言えよ! 言わなきゃこのまま小突き回すぞ!」

「ああぁあッ! そんなにしたら、ダメッ! ダメダメッ! いや、いやあぁッ!」

 突き入れられたまま揺さぶられ、雅が、ガクガクと身体を揺らす。

「おら、届いてンだろ? どんな感じだ!」

「あ……熱い……ジンジンしま……はあぁぁっ! だめ、だめッ! そこはッ……も……だめッ! 許してぇ……はあッ!」

 子供のように泣きながら訴える姿が、穢れを知らない処女を思わせ男の陵辱願望に火をつけた。 

「おらおら、どうだ!」

「やああああッ! やあああッ! ダメっ! やだやだ! そんな……したらッ! 出ちゃ……ひああぁぁぁッ!」

 男が、更に狭い部分をガツンとこじ開ける。
 瞬間、雅の身体が硬直し、ペニスの先から透明な汁が勢い良く噴き出した。
 
「あああああッ! いやッ! いやッ!」

 噴出は一度にとどまらず、ガクンガクンと腰を突き出して痙攣する雅の腰の動きに合わせてペニスの先から高らかな飛沫を上げる。
 撒き上げられた飛沫が男の胸に当たってピシャピシャと腹の上に落ちる。
 雅が飛沫を上げるたび、男たちが狂気を孕んだ歓声を上げ、雅の悲鳴を掻き消した。

「おおーッ! すんげぇ! なに、コイツ。マジですげぇくる!」
「自分ばっか楽しんでないで早く終わらせろ」
「後がつかえてんだからな」

 獲物をいたぶる野獣の目が、飢えた捕食獣の目に変わる。
 逢坂の叫びはことごとく無視され、男たちの手を止めるキッカケにもならない。
 一方的になぶられ、弄ばれる雅を目の前にしながら、逢坂は、何も出来ない悔しさに、口に巻かれたTシャツをギリギリと噛み締めた。
 男たちへの怒りと自分自身への怒りで身体が震える。全身の血が煮えたぎったように熱くなり、狂気めいた殺意が止めようもなく湧き上がった。


 男たちは、一人づつ代わる代わる雅を組み敷き、雅の細い身体をいたぶり、仰け反らせ、気を失えば殴って起こし、ピンク色のペニスから何度も透明な液体を吐き出させた。
 行為は深夜にまで及び、解放される頃には、雅は、叫びすぎて声も出ず、自分の放った体液と男たちの精液でベトベトに汚れた床の上で芯を抜かれた人形のようにぐったりと動かなくなっていた。
 最後の男が身支度を整えて部屋を出て行くと、一人残っていたリーダー格の男が、気絶寸前の雅の頬を平手打ちして起こし、手のひらに小さな金具を握らせた。
 手錠と足枷の鍵だ。

「いきなり襲い掛かられたんじゃ堪んねーから、俺らが完全にここを離れてからお前が外してやんな」

 男は言うと、そのままくるりと逢坂を振り返り、逢坂の顔の前に腰を据えた。

「どんな使えねぇガキかと思ってたけど、なかなかどうしてたいした掘り出しモンじゃないっすか。コイツならすぐに太客が付きますよ。逢坂さんも一体なにをそんなに手こずってたんだか……」

「このクソ野郎!」

 言葉にはならなくとも、逢坂の表情を見れば何が言いたいかは一目瞭然だ。
 もごもごと呻く逢坂に、男は顔色をスッと変えた。

「なんすか? 文句があるならハッキリ言って下さいな!」

 言いながら、ズボンの後ろポケットに手を伸ばす。
 取り出したのはナイフだった。逢坂の態度に逆上したのか、男は、ポケットから取り出したナイフで猿ぐつわにしたTシャツの結び目を切ると、再びナイフをポケットに戻して逢坂の口に巻いたTシャツを外した。

「ほら、外してやったぜ。さぁ、どうぞ!」

「この腐った人でなしどもがッ!」

 堪えていた怒りが爆発し、逢坂は、感情のまま吐き捨てた。

「人でなし? はははッ。なーにをトチ狂ったこと言ってんです! 俺らは極道ですよ? あんたの基準でモノを言わんでください。俺からしたらあんたの方がよっぽど、人でなし……いや、極道でなし、か……」

 人を小馬鹿にしたような冷笑に怒りが突き上げる。
 その、我を忘れるような怒りのせいで、逢坂は、雅が床を這って男に近付いていることに気付かなかった。

「とにかくこれは組長オヤジの指示なんで、あんたにとやかく言われる筋合いは無ぇんですよ!」

 気付いた時には、雅は男のすぐ背後に迫っていた。
 片手を床について身体を支え、もう片方の手を男に向かって大きく振り上げる。
 キラリと光るモノが見えた。ナイフの刃先だ。男の後ろポケットから引き抜いたのだろう。ナイフを握り締めた雅の拳が、今まさに男に振り下ろされようとしていた。

「やめろ! 雅!」

 逢坂は叫んだが一足遅かった。
 殆ど同時に雅のナイフは振り下ろされ、男の顔が苦痛に歪む。
 しかし次の瞬間、男の拳が雅の腹部を直撃し、雅は吐瀉物を撒き散らしながら床の上に倒れた。
 ふいを突いたところで、喧嘩慣れした男の瞬発力に雅が敵う筈が無い。雅が振り下ろしたナイフは、寸前のところで交わされ男の肩を僅かにかすめただけだった。

「このクソガキがぁぁッ!」

 雅は、一転、男の反撃の的となった。
 男は、床の上でお腹を押さえる雅を蹴り飛ばし、髪を掴んで頬を殴った。
 長時間に渡る陵辱でただでさえ弱っている。このままでは雅が死んでしまう。
 思った途端、激しい思いが喉を突き上げた。

「やめろぉッ! そんなにしたら死んじまうッ! 頼む! 勘弁してやってくれ! 頼むからやめてくれぇぇッ!」

 意地もプライドも、恥さえもなく、なりふり構わず逢坂は叫んだ。

「頼むッ! そいつを死なせたらお前だってただでは済まないはずだ! そいつはN企画うちの商品だ! 組長オヤジだって黙って無ぇ! 頼むッ! この通りだッ! そいつを許してやってくれッ!」

 N企画という言葉に、男の手がようやく止まる。
 しかし、安心するのはまだ早かった。
 雅は、顔を血で真っ赤に染めたままぐったりと動かない。
 さすがにやりすぎたと思ったのか、男が雅の頬をペチペチと叩いて意識の有無を確認する。攻撃的な荒々しさはすっかり影を顰め、代わりに不安げな焦りが浮かんでいる。
 逢坂は、後は自分がなんとかするからと男を説き伏せ、男に手錠と足枷を外させた後、すぐに救急車を呼んだ。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 逢坂が一息つけたのは、処置後、回復室のベッドの上で雅が目を覚ました時だった。
 雅の容体は、外傷については、見た目の悲惨さから推測されるほど酷いものでは無く、打撲による内出血や擦り傷が殆どだった。
 念のため診てもらった後孔も、シリンジで直接ローションを流し込んで滑りを良くしていたせいか目立った裂傷は無し。
 ただ、腹を殴られた時に出来た血腫が破裂する危険性が無きにしも非ずといった状況で、経過観察のため一週間程度の入院を余儀なくされた。
 入院と聞いて肝を冷やしたが、幸い命に別状は無く、血腫が順調に体内に吸収されればすぐにでも退院できるとのことだった。
 一時は最悪な事態も頭をかすめた。カッとなると手が付けられなくなる輩はごまんと見てきた。脅すだけのつもりが、いつまのにか熱くなって気付けば死なせていたというケースにも嫌というほど遭遇している。それだけに、雅がこうして生きていることに逢坂は心から安堵した。

「あの……俺……」

 雅は目覚めると、腫れ上がった目蓋を重そうに開き、ぼんやりとした目で辺りをキョロキョロ見渡した。

「ここは病院だ……」

「病院……?」

 しばらく黙り込み、ふいに、思い出したように、「ヒッ」と喉を引き攣らせる。
 事態を理解したのだ。 
 落ち着かせなければ、と、逢坂は、雅が病室に運ばれてからずっと自分の手の中に祈るように握り締めていた雅の手を強く握り直した。

「大丈夫だ」

「大丈夫……? てか、あんたは? あんたは大丈夫なのか?」

「俺……?」

 何を言っているのだろうと逢坂は返事に詰まった。
 雅は、困惑する逢坂を、むしろ、どうして何も言わないのかと言いたげに不思議そうに見上げた。

「あいつに……刺された……だろ……?」

「刺された? ……俺が……?」 

 紫色の痣を作った口元がコクリと頷く。

「あいつ……あんたをナイフで……だから俺……」

 瞬間、男がポケットからナイフを取り出し、猿ぐつわにしたTシャツの結び目を切る場面が脳裏に甦った。
 まさか、あれを勘違いして。

「お前、俺が刺されたと思ったのか……?」

 腫れ上がった目蓋が驚いたように見開いた。

「違う……の……?」

 心臓が、ドクン、と飛び跳ねる。

「まさか、俺を助けるために、あんなことを……」

 雅が返事をするよりも先に、逢坂は、衝動的に雅を抱き締めていた。

「えっ……なっ、なに!」

「なに、じゃねぇよ、バカ野郎! 弱っちいくせにあんな無茶しやがって!」

「だって、あいつまだナイフ持ってたし……取り上げないとまたあんたが……」

「うるせぇ!」

 怒りでも悲しみでも悔しさでもない。心臓を鷲掴みにされて揺さぶらているような息苦しさと、容赦なく胸を突き上げる狂おしいほどの切なさ、自分でも説明のつかない強烈な感情の昂りに、逢坂は身体をカッカと燃え上がらせながら、雅を胸に搔き抱いた。

「俺なんかのためにこんな怪我しやがって! てめぇの顔、鏡で見てみろ、綺麗な顔が台無しじゃねーか!」

 片手で背中を抱きながら、空いた方の手で、額にかかった髪を指先ですいて目蓋の傷をそっと撫でた。
 雅が、一瞬固まったように目を丸め、フッ、と小さく鼻息で笑う。

「なにが可笑しい!」

「だって、綺麗、とか真顔で言うから……」

「不細工って言やぁ怒るくせに、なにが不満なんだ!」

「不満なんか無いけど……いきなり、綺麗、とか言われるのもなんか……」

「だったらどう言やいいんだよッ!」

 怒鳴るつもりはないが、気付くといつも怒鳴ってしまっている。性分だから仕方ないと開き直っている逢坂だったが、今回ばかりは、病人相手に酷いことをしたとさすがに後悔した。
「すまん」と、腕の中で見上げる雅を見ながら呟いた。雅は、キョトンとした顔で逢坂を見詰め、今度は、クククッ、と唇を尖らせて笑った。

「なんでまた笑うんだ!」

「だって、あんたが、しおらしく、『ごめん』なんて言うんだもん」

「謝ってるんだから仕方ねぇだろう。それともなにか? てめぇに謝る時は、怒りながら謝れ、ってか?」

「なにそれウケる。面白そうだからやってみせてよ」

「てめぇ、俺をおちょくってンのか!」

 無邪気に笑う雅の笑顔に胸が締め付けられる。
 ふいに、泣きたいような衝動に駆られ、逢坂は、雅に気付かれないよう、抱き上げた背中をベッドに下ろした。

「どうしたの?」

「帰る……」

 今回の一件を丸山に報告しなければならない。すぐに報告する筈が、雅の容体が気になりつい後回しになってしまった。
 というのは表向きの理由で、本当は、これ以上雅の側にいたら自分がどうにかなってしまいそうでこの場にいるのが怖くなった。
 こんなにも理不尽な目に遭いながら、恨みごとの一つも言わない雅が腹が立つほどいじらしい。
 同情だろう、と自分に言い聞かせる。
 同情と、雅に怪我を負わせてしまった自責の念。自分を庇って怪我まで負いながら、それでも自分を気遣う雅の優しさが必要以上に逢坂の胸に迫り、雅をどうしようもなく愛おしい存在に仕立て上げる。
 冷静な判断ではない。感情の昂りによる一時的な気の迷い。
 しかし、そう言い聞かせれば言い聞かせるほど、雅に対する切ない想いが狂おしいまでに胸を揺さぶり、ますます逢坂を混乱させた。
 このままでは何をしでかすか解らない。
 傷付いた雅を己の衝動のままに抱き竦めてしまいそうで、逢坂は逃げるように席を立った。
 
「また来るから……」

 踵を返すと、Tシャツの裾を掴まれ、引き止められた。

「行かないでよ……」

 腫れた目蓋の隙間から覗く雅の瞳が、逢坂を真っ直ぐに捉えている。
 決意した気持ちがぐらりと揺れる。
「夜には来るから」と、逢坂は、Tシャツを掴む雅の細い手首を握り、優しく振りほどきながら雅を振り返った。

「お前は病人なんだから安静にしてろ」

「病人じゃない。どこも痛くないし、全然平気だよ」

「痛み止めが効いてるだけだ。切れたらションベンちびるぐれぇ痛み出すさ……」

「ちびるかよ」

 引き剥がした手を手首ごとシーツの中に戻したのも束の間、すぐにまた裾を掴まれる。

「離せ……」

 再び引き剥がしても結果は同じ。
 引き剥がしては掴まれ、引き剥がしては掴まれ、同じ動作を四、五回繰り返した後、逢坂は、ついに根負けして、雅に向き直った。

「まったくお前は何だって言うんだ……」

 雅は、呆れ顔で見詰める逢坂を、拗ねた子供のように恨めしげに見上げている。
 逢坂が見つめ返すと、目蓋で塞がれているせいで黒目だけになった瞳がみるみる潤み、唇の端が泣き出すようにへの字に曲がった。

「一人は怖いよ……」

 語尾が震え、白い喉がゴクリと涙を飲み込む。

「お願い。少しだけでいいから……あと少しだけここにいて……」

 あんな目に遭ったのだから不安になって当然だ。
 逢坂は、生地が伸びるほどキツく掴んだ雅の手をTシャツからそっと引き剥がし、脇に置かれた椅子に再び腰を下ろした。
 気持ちを落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。青痣になった目元、血の滲んだ唇、雅の痛々しい傷を改めて眺めるうちに、雅に対して抱いた邪な衝動がするすると和らいだ。
 怪我人を相手に、どうかしている。
 眠りにつくまで側についていてやろうと、引き剥がした雅の手をシーツの胸元に置き、上から自分の手を重ねた。そっと握ると、泣き出しそうに歪んだ雅の顔がパッと晴れ、はにかむような笑顔を浮かべた。

「ありがとう……」  

「なんで、てめぇが礼を言うんだ……。元はと言えば俺のせいじゃねーか……」

 雅は、「ううん」と首を振った。

「あんたのせいじゃないよ……。仮にそうだとしても、今こうして一緒にいてくれるからこれでチャラ……」

「こんなもんでチャラになるか、バカ!」

「だって俺、こんなふうに看病してもらったことねぇもん。てか、しんどい時に誰かが側にいてくれる、っていいね。……なんか凄く安心する……」

 しんどい、という言葉が逢坂の耳に貼り付く。雅があまりにも普通にしているので、あれは自分だけが見た幻だったのではという錯覚さえ起こさせる。
 しかし、逢坂の目の前で、雅は、男たちに四肢を押さえられ、無理やり身体を開かされた。
 逢坂の脳裏には、苦痛に泣き叫びながら蹂躙される雅の一部始終が事細かに記憶されている。
 にも関わらず、雅は、今、笑っている。
 自分を見上げる、雅の何の含みも持たない屈託のない笑顔を見ているうちに、逢坂は、この雅の笑顔が自分の心の深い部分を突き刺すのだと理解した。
 
「どうしてそんなふうに笑えるんだ……」

 思いが口をついて出る。
 振り返ってみれば、逢坂が雅をマンションへ連れ帰ってこのかた、雅は、セックスが痛いと泣き喚きはしたものの、それ以外のことで泣いたりはしなかった。
 雅はいつも、小憎らしい軽口を叩き、笑っていた。
 借金のカタに身売りを仕込まれるモデルは、暴れたり脱走を企てたりといった問題行動を起こすことが多く、必然的に暴力で抑えつけることになる。
 雅も例外ではなく、逢坂も最初は暴力的に振る舞った。しかし結論から言えばすぐにやめてしまった。逢坂自身、無駄な暴力を好まない性質であったせいもあるが、肝心の雅が反抗らしい反抗をせず、暴力を振るう必要が無かったのだ。
 雅は、自分の置かれた状況を嘆くわけでもなく、むしろ、淡々と受け入れ、順応しようと努めているように逢坂には見えた。
 諦めているわけでも、開き直っているわけでもない。その顔は、絶望にありながらも希望を失わない、明るく前向きな意思を感じさせた。
 それは、逢坂が、大人になるのと引き換えに捨ててしまった過去の自分を思い起こさせた。
 出会ってからこれまでの記憶が事細かに頭を巡り、逢坂の胸をどうしようもなく締め付けた。

「どうして何も言わない……」   

「どうして、って言われても……」

 雅は、愛想笑いにも似た困惑した笑みを浮かべた。

「こんな酷い目に遭って、なんでそんなふうに平気な顔して笑っていられるんだ」

「別に平気じゃないけど……今はもう痛く無いし……」 

「痛い、痛くない、の問題じゃねぇだろう!」

「それはそうだけど……」

「ガキが強がりやがって……。あんなことされて平気なわけがねぇ! つらいなら、つらい、ってちゃんと言えよ!」

「だから……」

「るっせえ! いいから、俺には嘘つくな! 俺の前では素直になれよ!」

 自分で言いながら、俺は何を言っているのだろうと自分自身に問い掛ける。
 つらいのは雅の方なのに、自分の方が何倍も悲痛な顔をして声を張り上げる。これじゃあ俺の方がつらいみたいじゃないか。思いながら、逢坂は、吐き出しようのない気持ちを喉元で噛み潰した。
 雅は、思い詰めた顔で項垂れる逢坂をしばらく無言で眺め、やがて、泣いているような笑っているような曖昧な笑みを浮かべた。
 
「わかった。じゃあ、今度からあんたに言うよ」

「今じゃねーのかよ……」

「今はいい。今は、こうしてあんたが手を握っててくれてるからそれで充分……」

「なんだそりゃ……」
 
 目が合ったのは偶然では無かったが、お互いがお互いの口元に同時に視線を落としたのは偶然だった。
 雅の唇が、これから訪れる唇や舌での愛撫に打ち震えていたかどうかは解らない。しかし、触れた唇は逢坂の唇を柔らかく押し包み、熱い舌を口の中の奥深くへと招き入れた。

「血の味がする……」

「てめぇンだろ……」

 互いに食べ合うように舌を動かし、時折、ふざけ合うように、チュッ、チュッ、と小さく唇を吸い合う。
 角度を変えて唇を重ね合い、口を開けて舌を突き出し、お互いの舌だけを絡ませてキスをした。

「唇、痛くねぇのか?」

「痛くない。てか、今更、それ聞く?」

 悪戯な笑み。
 雅の唇の端がキュッと上がり、再び、吸い寄せられるように逢坂の唇に重なる。
 唇の隙間から漏れる吐息に甘やかな熱がこもり始める。

「もっと舌をよこせ……」

「あんんッ……」

 敢えて口にしなくても、これがただのキスでないことはお互い解っていた。
 この、唇の熱さと荒い息づかい。触れ合ったそばから絡み合いとろけ合う舌の感触。確かめるまでもない。これは恋人同士の甘いキスだ。

「俺をおちょくりやがって……」

 耳まで火照るようなくすぐったい感覚に、逢坂は、思わず雅の頬を両手で包んで引き寄せ、おでこを擦り付けた。
 それからまた深く舌を絡めて口の中をすみずみまで舐め回す。
 唇を強く吸ってゆっくりと顔を離すと、雅が、唾液の糸を引きながら名残惜しそうに離れていく唇を目で追った。

「もう止めるの?」

 答える代わりに、雅の頭を枕に置き直してシーツを喉元まで引っ張り上げると、すかさず雅の手が逢坂の手を上から握り締めた。

「俺なら大丈夫だよ?」

 痛々しいほど真っ直ぐな瞳だ。

「その……俺、どこも痛くないから、最後まで出来る……」

 あのなぁ、と、逢坂は、半分戒めながら雅の手を振り払った。
 
「てめぇはバカか。痛み止めが切れたらションベンちびるって言っただろう」

「ちびらないよ!」

 すがるような目が逢坂の股間をダイレクトに疼かせる。
 これほど我慢しているのがどうして解らないのか。
 思いながらも、それを口にするのも癪な気がして、逢坂はわざと何でもない素振りで椅子から立ち上がった。

「夕方には来るから大人しく寝てろ……」

 寝付くまで側にいてやろうと思ったが、理性を保つ自信がなかった。

「冷てぇのッ!」

 雅は不服そうに唇を尖らせたが、逢坂が身を屈めて、チュッ、とおやすみのキスをすると、しぶしぶ了承した。

「夕方には絶対来てくれるんだね……?」

 逢坂は、自分を見詰める真っ直ぐな瞳に、「ああ」と答えた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 結局、丸山に連絡する頃には、すっかり夜も明け、爽やかな秋の朝日が救急外来のロビーを白く染め上げていた。
 待合室の長椅子に腰を下ろし、セカンドバックに入れっぱなしになっていたスマホの電源を入れると、丸山と弟分からの大量の着信履歴が画面に表示され、逢坂は慌てて丸山に連絡した。

「てめぇ! 今までなにしてやがった!」

 開口一番、丸山は逢坂をドヤしつけ、「兎に角すぐに来い!」と、逢坂を石破組の組事務へ呼び付けた。

 グレーの三階建ての古ぼけたビル。昔と変わららぬ組事務所の外観に逢坂の胸に熱いものがこみ上げる。
 先代の菊地が組を仕切っていた頃は毎日のように訪れていたが、内藤が組長代行を務めるようになってからすっかり足が遠退き、丸山に拾われてからも殆ど顔を出すことは無くなっていた。
 もっとも、事務所に出入りする組員の中には出戻りの逢坂をよく思わない連中も多く、下手に顔を合わせてトラブルになるのを防ぐため、丸山が、逢坂が事務所へ顔を出さなくて済むよう裏で手を回していたせいもあるが、そもそも逢坂が内藤に呼び付けられるほどの大役を任されることは皆無と言ってよく、必然的に事務所へ顔を出す機会も無くなった。
 それが、突然の呼び出しである。
 心当たりは雅以外に思い浮かばない。
 男たちを送り込んで雅を襲わせた昨日の今日で、早くも雅に客を取らせる気でいるのだろうか。
 だとしたら、雅の今の状態を知らしめてやらねばならない。
 自分自身に喝を入れ、逢坂は、監視カメラが鋭く光るドアのインターフォンを押した。
 ガチャリとロックが外れ、中から住み込みの若衆が出迎える。
 奥の応接室に向かうと、見覚えのある面子が部屋中に所狭しと並べられたパイプ椅子にずらりと腰掛け、その異様な光景に、逢坂は、この呼び出しが只事ではないことを悟った。
 自分が一番最後かと肝を冷やしたが、その後もぞくぞくと構成員がなだれ込み、応接室はみるみる人で埋まった。
 部屋が満席になってしばらくすると、丸山が現れ、一番奥に正面を向いて置かれた椅子に、皆を見渡すように座った。
 丸山は、開口一番、「由々しき事態が起こった」と、厳しい顔付きで言った。

「今日未明、山崎のオヤジさんが襲撃された」

 続いて発せられた丸山の言葉に、その場にいた誰もが息を飲んだ。
 丸山は、険しいながらも淡々とした口調で、神戸に拠点を置く石破組の親団体、七代目山崎組の組長が襲撃された事実と、今週から神戸入りしている内藤が、その犯人追及に乗り出すことを告げた。
 組の威信をかけた一大任務に、部屋中の空気がピリリと緊張し、集まった面々の顔に畏れと興奮の入り混じった複雑な表情が浮かんだ。
 しかし、一種異様な雰囲気の中、逢坂だけは安堵の表情を浮かべていた。
 組の一大事にも関わらず、逢坂は、呼び出された理由が雅で無かったことに胸を撫で下ろしていた。
 襲撃事件も犯人追及も、逢坂にはどうでもいいことだ。
 幸い、自分は内藤に嫌われている。嫌われ者の自分に、手柄に結び付くような大役が回ってくるとは思えない。
 組の動向を気にする面々とはうらはらに、逢坂は、この分なら夕方と言わずお昼過ぎには雅のところへ行ってやれると胸を弾ませた。
 
 丸山の話は、七代目山崎組組長襲撃と内藤が犯人追及に動く、という二点の報告に絞られ、今後の組の動きや具体的な指示は、今晩、内藤が神戸から戻ってから改めて通達するという形で締め括られた。
 話が済むと、集まっていた面々はそれぞれ近しい仲間とひそひそ話しをしながら連れ立って部屋を出て行った。
 逢坂は、人目に付かないよう、部屋の隅で大きな身体を丸めながら、部屋の騒めきが小さくなって行くのを聞いていた。
 最後の一人になり席を立つと、皆が出て行くのを上座から見ていた丸山が、「ちょっと待て」と逢坂に声をかけた。

「お前、組長ンとこの若いモンと揉めたらしいな」

 丸山の言葉に、逢坂は、そう言えば雅のことを話すのを忘れていたと慌てて丸山に向き直った。
 呼び出しの理由が雅と無関係だったことに安心して気が抜けたからといって、肝心な報告を忘れてしまうなんてどうかしている。
 逢坂は、緊張感の無い自分を自戒しながら丸山に事の次第を説明した。

「それで、わざわざガキを病院へ? そんなモン、放っておきゃそのうち治るだろうに……」

 冷たい言葉は自分への当て付け。解っていながらも、信頼している丸山に言われるのはショックだった。

「無理やり犯されて殴られたんです。意識も無くて、血もたくさん出ました」

「そんなもん日常茶飯事だろう? 何を今更言ってやがる……」

「しかし、現に、入院しろと言われました」

「医者はそう言うさ」

「しかし!」
 
 言い返すと同時に、「逢坂!」と丸山の叱咤が飛んだ。

「イカれるのも大概にしろ! あんなガキに惑わされてどうする!」

「惑わされてなど……」

 逢坂の声はみっともないほど裏返り、少しも言い訳の意味を為さなかった。
 丸山は、逢坂らしからぬ、としか言いようのない、厳つい顔を無様に歪めて狼狽える逢坂を、咎めるような視線で睨み付けた。

「いい加減冷静になれ。お前のやってることは立派な戒律違反だ。それに、あのガキを好きになったところでどうしようもねぇ。なにも戒律のことだけを言ってるんじゃないぜ? 例えあのガキもお前に気があったとしても、そんなもんはただのまやかしだ……」

「まやかし……」

 丸山は大きく頷いた。

「レイプされて、売り飛ばされて、ケツを無理やり広げさせられて、あのガキの精神は崩壊寸前だ。そんな時、ちょっと優しい人間が現れる」

「俺は別に優しくなんか」

「まぁ、最後まで聞け! 優しい、ってのはなにも思いやるばかりじゃねぇんだよ。例えば、ある奴はあいつに棘付きの鞭を使う。お前の鞭には棘がない。鞭で叩かれるのは痛いが、棘付きの鞭より普通の鞭の方が痛みは少ない。あいつは、痛みの少ない鞭を振るうお前を“優しい人”だと思う。側から見たらどちらも奴を痛め付けてるのに、奴は、痛みの少ないお前の鞭を、“優しい鞭”だと思い、その“優しい鞭”を使うお前を、“痛みを与えない人”だと勘違いする。お前だって充分奴を痛め付けてるのに、いつしかお前は、“痛みを与えない優しい人”になるんだ。そんな精神状態で好きになったからといって何の説得力がある? 解放されて元気になれば、はい、サヨナラ、さ」

「そんなことは……」

 絶対に無い、とは言い切れない。
 しかし、こうしている間も病院のベッドの上で一人、傷付いた身体を震わせながら自分の帰りを待っている雅を思うと、丸山の言う小難しい話は、逢坂の胸に半分も響かなかった。
 丸山は、逢坂の胸の内などお見通しとばかり、険しい顔をして黙りこむ逢坂を、畳みかけるように言葉を続けた。

「悪いことは言わねぇから、あのガキからはもう手を引け」

 え? と、逢坂は咄嗟に声を上げた。

「どういうことです……」

「仕込み役の交代だ。代わりの人間の目星はつけてある」

「待ってください!」

 考えるよりも先に反射的に叫んでいた。

「あいつは俺のせいで怪我をしたんです。あいつの面倒は俺がキッチリみます」

「それがマズイと言ってるんだ! 組長ンとこの若衆とトラブルになった以上、組長の耳に入れないわけにはいかねぇ。これ以上あのガキに肩入れしてみろ。お前もあのガキもただじゃ済まねぇぞ!」

 確かに、昨夜の件では何かしらの落とし前を付けなければ向こうのメンツが立たない。自分のせいで雅にまで身の危険が及ぶのも避けたかった。

「なら……せめて、怪我の具合が良くなるまでは俺に面倒をみさせて下さい。あの怪我じゃどうせ仕込みは無理です」

 低く、押し潰したような声で懇願する逢坂を、丸山は厳しいながらも物憂げな表情で見据えた。

「退院するまでだ……わかったな!」

 逢坂は、不本意ながらも丸山に頭を下げた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 子供の拳骨くらいありそうな唐揚げをひと口頬張ると、雅は、くっーッと目を閉じて口を尖らせた。

「これこれ。この味が食べたかったの! 病院の飯は味が無くて食べた気しなかったんだもん」

 救急搬送された後、入院を余儀なくされた雅であったが、心配した血腫も順調に小さくなり、予定通り一週間で退院することが出来た。
 親団体の組長襲撃事件の犯人追及は、逢坂の睨み通り、内藤が将来の幹部候補として可愛がっている積川良二せきかわりょうじとその私兵に一任し、逢坂に声が掛かることは無かった。
 闇社会だけでなく世間をも騒がせているこの事件は、同じ組の出来事とは思えないほど、逢坂とはまるで関係のないところで進行していた。
 内藤が犯人追及に駆けずり回っている間、逢坂はずっと雅に付き添っていた。
 雅の容体が気になったというのももちろんあるが、退院後、雅の仕込み役が変わることを雅に言い出せず、タイミングを伺ううちに、気付けば一日中病室にいた、というのが真相だった。
 結局その後もタイミングが掴めず、逢坂は未だに雅に言えずにいる。
 とはいえ、丸山との約束は雅が退院するまでだ。
 明日になれば、雅にはまた後ろを開かされて性技を叩き込まれる日々が待っている。
 しかも、自分ではない、丸山が用意した別の人間に。
 そいつは、雅が、敏感な体質であることをちゃんと理解してくれるだろうか。
 乳首は乳輪の外側から徐々に攻めていかねばならない。
 ペニスも同様。いきなり先端を咥えると痛がる。後ろも、調子に乗って前立腺を刺激し続けるとすぐにイッてしまい、その後の痛がり具合も尋常ではない。
 雅に伝えるのはもちろん、仕込み役への引継ぎ事項もきちんとまとめておかねばならない。
 弁当は、マンション近くのスーパーに入っている惣菜屋の弁当。惣菜コーナーに並べられているものではなく、奥の調理場で直接作っている手作りのものが良い。
 あとは、着替え。シャンプー。コンディショナー。
 雅が不自由な思いをしないようノートにまとめて。それから。それから。
 雅の今後に頭を悩ます逢坂とはうらはらに、雅は、逢坂の気鬱を推し量ることもなく、相変わらずの無邪気さと小生意気さで笑いかける。
 
「ほら、あんたも食べなよ。脂っこくて美味しいよ?」

 口角の上がった悪戯そうな口元。
 箸で掴んだ唐揚げを目の前に突き出され、逢坂が止むを得ずひと口で箸から咥え取ると、腫れの引いたぱっちりとした目を綺麗な三日月形にして笑う。
 この笑顔を歪ませたくはない。
 そのためにも、雅にきちんと話さなければならない。
 思っていると、思わぬところからそのタイミングはやってきた。
 
「な? 美味しいだろ? やっぱ、これぐらい味がなきゃ食べた気しないよ! 俺、明日もまたこの弁当食べたい!」

 言うなら今だ。逢坂は勇気を振り絞った。

「その件なんだが……」

 話を切り出すと、雅は、唐揚げを頬張ったまま、まだ内出血の残る目蓋を瞬かせながら、「え?」と目を丸めた。
 逢坂は、雅の目から目を逸らさずに言葉を続けた。

「実は、俺はもうすぐここを出ていかなきゃならん」

 雅の目が更に大きく見開かれる。

「出て行く、って……どういう……」

「もうお前のそばにはいられないってことだ」

 雅が、目を見開いたままゴクリと喉を波立たせる。
 その、白くて細い喉に落ちた視線を再び雅の目に戻し、逢坂は、自分が雅の仕込み役を降りること、自分がいなくなった後は、別の人間が仕込み役としてここに来ることを、一言一言、噛み締めるように雅に言い聞かせた。
 途端、雅の眉間が泣き出しそうに歪み、黒い瞳がみるみる涙に埋もれた。

「ツラい時は俺に言え、って言ったくせに……」
 
 雅の笑顔を歪ませたくないと思いながら、その自分が雅にこんなにも悲痛な顔をさせている。
 しかし、言う通りにしなければ雅にも危害が及ぶことを考えると、逢坂は、雅を説得せざるを得なかった。
 
「お前がツラい思いをしないようちゃんと引き継ぐ。お前が嫌がることはさせない!」

「でもあんたはいないんだろ?」

「それは……」

「……いつまで?」

「え……」

「だから……いつまで一緒にいてくれンの?」

 言われ、返事に詰まる。

「……明日」

 正確には明日の朝。逢坂が、N企画に出社するためにここを出る八時ちょっと過ぎまでの間。
 おずおずと伝えると、雅がふいに、食べかけの弁当を腕で振り払って床に落とし、力任せにテーブルをドンと叩いた。

「なんだよそれッ!」

 勢いのままテーブルの上に膝を乗り上げ、真向かいに座る逢坂の胸ぐらを掴み上げる。本気を出せば雅の手など軽く振り払えたが、逢坂は抵抗せず、されるがままに雅に身体を揺さぶられた。

「どうして、今、言うんだよ! あんなに時間があったのに、こんなギリギリんなってから……。俺がどう思うかなんて関係無しかよ! あんたにとって俺はその程度の人間かよッ!」

「それは違うッ!」

 反論したところを、「違わない!」と激しく返される。

「こんな大事なこと黙ってるなんて……。代わりの奴が来る、だって? そんなのクソ喰らえだ!」

「わがままを言うな! 言わなかったのは悪かった。だが、こればっかりは仕方ない。お前のためだ。頼むから大人しく言うことを聞いてくれ」

「俺のため? 代わりの奴にられることが? 冗談じゃない! 誰があんなこと好きでやるもんか! あんただから出来るんだ! この前みたいのも、もう、嫌だ! 俺は、あんたじゃなきゃ嫌だ! あんたがいい! あんた以外の人間にあんなことされるなんて絶対に嫌だッ!」

 折れそうな手首で必死に胸ぐらを捻り上げる雅がいじらしい。
 雅の言葉が、丸山の言う“まやかし”であったとしても、逢坂は、今、こうして自分の胸に縋りついて泣く雅を愛おしく思わずにはいられなかった。
「チクショウ!」と、叫びながら立ち上がると、逢坂は、胸ぐらにすがりつく雅の脇の下を掴んで子供を抱き上げるように持ち上げ、そのままテーブルの上に仰向けに寝かせた。

「なにすんだ! 離せッ!」

 暴れる手を、手首を掴んで頭の横で押さえ付ける。

「お前ってやつは、ガキのくせにどうしてそう俺を振り回す……」

「あんただって、優しくしたり冷たくしたりワケわかんねーよ!」

「それはこっちの台詞だ! 俺をたぶらかしやがって、このクソガキが…………」

「そっちこそ!」

 一時的な気の迷いでも構わない。
 この気持ちが幻で、明日になれば何事も無かったように綺麗さっぱり消えてしまったとしても、たとえ雅の今のこの気持ちが、目覚めた瞬間、夢から覚めたように離れて行ってしまったとしても、逢坂は、捨てられる覚悟も後悔しない覚悟も出来ていた。 

「お前は俺をどう思ってる」

「そう言うあんたはどうなんだよ」

 言われ、逢坂は、

「好きだ……」

 はっきりと言葉に出し、雅のほんのりと上気したおでこに自分のおでこを擦り寄せた。

「お前が好きだ……雅……」

 目蓋、頬骨、唇の端、と、顔の傷に順番に口付ける。
 雅は、一瞬驚いたように身体を硬直させたが、すぐに力を抜いて身を任せた。
 唇を軽く重ねて離すと、桜色の薄い唇が、小さく、「俺も」と動いた気がして逢坂の心臓がトクンと波を打った。

「抵抗しないとこのままヤッちまうぞ?」

 答える代わりに雅が小さく微笑む。

「優しくしてやれねぇかもしんねぇからな……」
 
 同意するように瞬く雅の睫毛に口付けし、Tシャツの裾を鎖骨の上まで捲り上げて胸元にそっと舌を這わした。
 柔らかい乳輪の外側を唇で優しく摘み、舌の先を尖らせて円を描くように徐々に内側へと舌を進める。
 敏感な乳首を舐め上げると、雅が、「あんッ」と喘いで逢坂の腕を掴む。
 恥じらうように肩を竦める仕草が逢坂の理性を吹き飛ばした。

「雅……」

 熱に浮かされたように、逢坂は、雅の滑らかな胸に顔を埋め、すっかり勃ちきった乳首にむしゃぶりついた。  

「ぁあっ、そんな吸っちゃ……やだッ……」

「俺はいいんだろ?」

 硬くなった小さな粒を舌の先でコロコロと転がし、乳輪ごと口に含んで吸い上げる。
 最初は優しく咥えるようにして、次第に吸う力を強めていく。

「んっあッ……」

 腕を掴む雅の手にだんだん力がこもる。

「俺がいいんだろ? 雅……」

「ん……いい。あんたが……」

「あんた、じゃなくて名前を呼んでくれよ……」

「な…まえ……?」

英二えいじだ」と、逢坂は雅の耳たぶに唇を押し付けながら囁いた。

逢坂英二おうさかえいじだ。最初に言ったろ? 忘れたか?」

「英二……」

 雅が、逢坂の名前を愚図り泣くような鼻声で繰り返す。
 少し前まで怒りに震えていた瞳が、今は、酒に酔ったようにトロンと潤みながら逢坂を見詰めている。
 それだけで、逢坂のお腹の底から甘い感覚が湧き上がる。

「英二……英二がいい……英二が……」

 雅の、もつれるような喘ぎ声を聞きながら、逢坂は、雅の白い肌に舌を這わせ、頬ずりをした。
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