光の屈折

瀬楽英津子

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〜欲情という激情

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入口のタッチパネルを操作すると、新太は、フロントで鍵を受け取りエレベーターに向かって歩き出した。
「グズグズするな」と言われ、侑斗も慌てて後に続く。
 緊張で身体がガチガチに固まり上手く歩けない。
 そうでなくとも、不良たちに犯された内部がキリキリと鋭利な痛みを上げていた。
 一方、新太は、へっぴり腰で足をもつれさせながら不恰好に歩く侑斗とは対照的に、背中をいからせながら真っ直ぐ前を見て悠々と歩いて行く。
 ずいぶんと慣れた様子だ。
 まるで、コンビニにでも立ち寄るかのように平然とした顔で、足取りも、通い慣れた道を行くように軽やかで迷いがない。
 誰かと来たことがあるのだろうか。
 だとすれば、入店から今までの新太の流れるような動きにも納得がいく。単に器用なだけとは考えにくい、タッチパネルの操作から鍵の受け取りまで、新太の動きには無駄な動きが一切なかった。
 つまり場慣れしている。
 侑斗にとっては馴染みのない場所でも、今どきの高校生にはラブホテルなどさほど珍しい場所ではないのだろう。
 ましてや新太は、誰が見てもカッコ良い凛々しく整った顔立ちのイケメンで、他校の女子はもちろん校内の男子生徒からの人気も高かった。
 新太ならば、一緒に行く相手などいくらでも見つかる。おそらく周りの方が放っておかない。
 侑斗の知らないところで、新太が他の誰かとこうしてラブホテルに来ていたとしても全く不思議はなく、状況的にもその可能性が高かった。
 心が現実を認めた途端、侑斗の胸に、なんともいえない気持ち悪さが広がった。
「はあーーー」と、ひとりでに深い溜め息が漏れる。
 認める一方で、「なぁんだ」という、腹立たしいようなガッカリしたような気持ちが込み上げる。
 新太が自分の時間をどう使おうと、侑斗がとやかく言える問題ではない
 身体の関係といっても、所詮は虐めの延長。ただの性欲処理であることは充分理解しているし、新太が自分とのセックスだけで満足しているとも思っていない。
 それでも、胸の内側から染み出すザラザラとした違和感を侑斗は受け流すことが出来なかった。
 
 ーーーこんなの不公平だ。

 どうにもならないと知りながら、それでも納得のいかない気持ちが胸に渦巻く。
 新太がどこで何をしようと責めるつもりは毛頭ない。
 ただ、自分の知らないところで新太が充実した時間を過ごしているのは納得がいかなかった。
 自分の意識はほぼ丸一日新太に囚われているというのに、新太がそうでないのは不公平だ。
 自分ばかりが奪われている気がする。
 時間も、身体も、気持ちの余裕も。
 新太には、別の誰かのことを考え、その誰と一緒に過ごすだけの余裕がある。かたや自分は、新太とのたった数十分の行為を四六時中引き引きずり、ほかごとを考える気力もない。
 時間は誰に対しても平等に与えられると言うが、侑斗の時間は圧倒的に新太に奪われていた。
 
 ーーー俺ばっかり……不公平だ。

 やり切れない気持ちを噛み締めながら新太の背中を睨み付ける。
 殆ど同時に、前を歩いていた新太が立ち止まり、慣れた手付きでドアを開けた。

「さっさと入れ!」

 言われ、不貞腐れた顔を上げる。
 中に入ると、乱暴に腕を掴まれ入り口すぐのバスルームに押し込まれた。

「取り敢えずその汚ねぇツラをなんとかしろ」

 確かに汚い、砂埃にまみた薄汚れた顔が脱衣室の鏡に映っている。
 制服を脱ぎ捨て、シャワーのコックを捻って頭からお湯を被り、備え付けのボディソープを泡立て、砂埃や乾いた精液で汚れた身体を丹念に洗い流した。
 コンドームを使ってもらえたお陰で中出しは免れたが、気持ち悪さは拭えず、指先に泡を乗せてお尻の中も綺麗に洗った。

 シャワーを終えると、いつもの癖で、腰にタオルを巻いただけの格好でベッドへ向かう。
 新太は、ベッドの端に座り、両手を股の間にだらりと下げて項垂れている。
 らしくない。
 いつもは、ベッドの上で胡座をかいて侑斗を待ち構え、侑斗が来ると、白と黒のコントラストのハッキリした目を鋭く光らせながら、「こっちへ来い」と無言の圧力をかけるものを、今は、侑斗が来たことにも気付かず、背中を丸めて自分の足元だけを見詰めている。
 憔悴している様子が傍目にもよく解る。
 明らかにおかしい。

「あッ、あの……なにか……あったの?」

 いつもとは別人のような新太を目の当たりにして、侑斗は無意識に声を掛けていた。
 新太は一瞬ビクッとしたものの、すぐに、「ああっ?」と下からしゃくり上げるように侑斗を睨み見た。

「なんかあったのはテメェだろ。あんな奴らに襲われやがって」

 怖い顔。憔悴しているように感じたのは気のせいか。目の前にいる新太は、いつもと同じ野蛮で乱暴な新太だった。

「どうせ、なんも考えずに付いて行ったんだろ」

「違うよ。俺は新太がいると思って……」

「うるせぇ!」

 反論したところを、いきなり胸ぐらを掴まれベッドの上に叩きつけられた。

「やっ、新太ァッ!」

 跳ね返った身体を押し戻され、馬乗りに跨がられて両手を押さえ付けられる。
 抵抗する間もなく、新太の身体が覆い被さり、熱い唇が丸裸の侑斗の乳首をヒステリックに摘み上げた。

「はッ、やめっ……あっ……はぁッ……」 

 乳輪ごと引きちぎるように吸い上げ、口の中で転がす。
 吸い付いては舌の先で転がす動作を二、三度繰り返し、固くなり始めた乳首を舌先を尖らせて弾き、ゴリゴリと押し潰す。
 乳輪が赤く腫れ上がる。
 乳首の奥がジクンと疼き、小さな乳首がピンと立つ。
 再び吸い付かれて口の中で転がされると、乳首の先がジンジン痺れ、下腹部が火照り始めた。

「ちょっと乳首舐められただけでこんなにしやがって……どうせ、アイツらの前でもこうやってイヤラしく乱れてたんだろう」

「ちがッ……んあァッ……」

 新太の手が太ももを開きながら、見なくても硬く勃ち上がっているとハッキリ解るペニスを握り締める。
 不良たちに触られた時は全く反応しなかったにもかかわらず、新太には、ほんの少し乳首を舐められただけで勝手に勃ち上がる。
 まだ触れもしないうちからはしたなく反り返るそれを、新太の大きな手がすっぽりと包みジワジワと握り締める。

「あああ……だめ……」

 カリ首を指で挟んで強く締め上げながら上下に扱き上げ、時折、揉みしだくように指先をうねうねと動かす。
 小刻みにテンポ良く扱く振動が、すっかり皮が剥けて露出したピンク色の先端をビクビク震えさせる。
 
「も……だめッ……そこ……すぐイッちゃうからッ……」

「まだ早ぇよ」

 制止しようと腰を捩るもたちまち振り払われ、逆に膝の間に足を捻じ込まれてさらに股を開かれた。
 ペニスがジクジク熱く疼き、睾丸がパンパンに腫れ上がる。

「ホント……ダメだってば……」

 追い詰められた侑斗を愉しむように、新太は、ヒクつくペニスを手のひらにずっぽりと握り込み、時に速く、時にゆっくり、メリハリをつけながら扱き上げていく。
 ピンク色の先端がみるみる赤みを増す。
 その間も、唇は硬く尖った乳首に吸い付き舌先で舐め回す。

「んぁあぁッ……乳首ッ……ん、ダメッ!」
 
 乳輪の皮膚が引っ張られて変形するほどこすり舐め、同時に、カリ首に這わせた親指の指先を立てて裏筋を擦り上げる。
 強すぎる快楽に腰が浮き上がる。身体の中心が火を噴いたように熱い。甘い痺れがじわじわと内部を侵食する。
 鈴口から透明な先走りが滴り落ちる頃には、侑斗は、自分から大きく足を開いていた。

「ホント、好きモンだな、テメェは」

 瞼に涙を滲ませながら悶える侑斗を咎めるように一瞥すると、新太は、乳首をついばんでいた唇をスッと離し、背中を丸めて、鈴口に雫となって溜まった先走りをぺろりと舐め上げた。
 途端に、「あひぃぃッ!」と、侑斗が奇声を上げて腰を跳ね上げる。
 裏筋を擦り上げられてただでさえ高まった性感がいよいよ本格的な射精感を揺さぶり起こす。
 これ以上刺激されたらもう堪えられない。
 しかし新太は構わず、舐め取ったそばから溢れてくる先走りを何度も舐め上げ、真上から咥え込んで鈴口から直に吸い上げた。

「やぁッ! やだやだッ! それ、ダメだってばぁッ!」

 今にもイッてしまいそうなほど熱を持ったペニスを舌と口の粘膜で蹂躙され、侑斗の腰と言わず全身がゾワゾワと震え出す。
 睾丸にジクリと鈍い痛みが走り、ペニスが痙攣し始めた次の瞬間だった。

「んぁあんんッ!」

 突然お腹の内側から強烈な快感が突き上げ、侑斗は新太の口の中に射精した。
 新太は侑斗の精液にひとしきりむせ返った後、顔を上げて口の周りを手の甲で拭った。

「ごめッ……なさい……俺……」

 不可抗力とはいえ、とんでもないことをしてしまったという気持ちは拭えない。
 新太は何も言わない。それがかえって侑斗の不安を煽る。
 嫌な予感は的中し、侑斗が慌てて起き上がると、殆ど同時に新太が侑斗の両肩をドンと押してベッドの上に突き飛ばし、仰向けに寝転がった侑斗の胸元にガバッとまたがった。

「咥えろ」

 侑斗を見下ろしながら、ズボンと下着を膝に落とし、ボロンと飛び出たペニスを唇に突き付ける。
 突然の出来事に、侑斗の身体が引き攣ったように硬直する。
 しかし新太は、

「俺もしてやったんだからお前もしろよ」

 オロオロと見上げる侑斗の視線を冷たく突き放し、侑斗の頭を掴んで、硬くなり始めたペニスを震える口に強引にねじ込んだ。

「んぐぅーーーふッーー」

 普通の状態でもすでにじゅうぶんな質量を持つ新太のペニスが侑斗の口一杯に押し入り喉を塞ぐ。
 苦しくて息が出来ない。
 嘔吐えずきそうになるのを堪えながら舌を這わせると、新太のペニスが舌の上でビクンと跳ねてさらに質量を増す。

「んッ……んんッ……」

 塞がれた口の代わりに鼻で大きく息を吸いながら舌を絡める。
 グッ、グッ、グッ、と、新太の腰の動きに合わせて喉を締める。
 新太の昂ぶりがもう一段階グンッと奮い立ち、しょっぱい先走りが舌の付け根に絡みつく。
 それをゴクリと飲み込むと、喉と舌に挟まれた先端がビンと弾け、ペニス全体がビキビキと膨れて最大限に反り返った。

「いつもみたいにしっかり咥えな」

 これ以上開けられないほど大口を開けてペニスを咥えながら涙目で見上げる侑斗の頭を、新太が、両手で抱えながら力任せに腰を打ち付ける。
 顔が熱い。頭がぼぉーっとする。
 それでも身体は無意識に新太の昂ぶりを喉の奥深くまで咥え込み、歯を立てないよう、頬の内側と舌で挟むように締め上げながら溢れる先走りを何度も飲み込む。

「んんんッ……ぅうん、んッ……んはッ……」

 頬を限界まですぼめて唇で扱くように顔を突き出すと、それまで一定のリズムで突き入れていた新太の腰の動きがぎこちなく乱れ始めた。

「くっそ……。マジ、バカみてぇに吸い付きやがって……このドスケベ野郎がぁッ……」

 先走りが徐々に粘りを増していく。それを、出し入れされる動きに合わせてジュルジュルと音を立てて吸い上げると、新太の顔が切なく歪み、口一杯に頬張ったペニスがピクピクと痙攣し始めた。

「も……我慢出来ねぇ……このまま出すからちゃんと飲めよッ!」

 頭を押さえられたまま腰を振りたくられ、鼻がお腹に付くほどズドンと突き入れられたところで、喉の奥に熱い精液が問答無用で流れ込んだ。

「んぐぅッ!」

 粘膜を叩く勢いに反射的に顔を引くと、たちまち頭を掴まれて引き戻される。
 息苦しさに、太ももを何度もやタップして助けを求めるが全く聞き入れられない。
 顔を真っ赤にしてもがく侑斗を見下ろしながら、新太は、腰を二度三度大きく突き入れて最後の一滴までをも侑斗の喉に流し込む。
 侑斗がむせ返りながらやっとの思いでそれを飲み込むと、

「次はこっちだ」

 侑斗をベッドの上に押し倒し、足首を掴んで大きく左右に開いた。

「なッ、なにッ……?」

 訳がわからず呆然とする侑斗をよそに、侑斗に覆い被さるように身を乗り出し、枕元に置かれたローションを乱暴に引っ掴んで苛立たしげにパッケージを外す。再び足の間に戻って両足を持ち上げてお尻を浮かすと、ローションのボトルを逆さまにしてお尻の谷間に垂らし、いきなり指をねじ込んだ。

「やっ! あっ! そんな急にッ……」

「あいつらに突っ込まれて柔らかくなってんだろ?」

「あ……いやッ……」

 人差し指を指の付け根まで押し込み、後孔の奥深くを角度を変えて突き回し、指を二本に増やして捩るように回転させながら中を探る。その指が感じるところを見付けてグイと刺激すると、侑斗のお腹にピリッと電気が走った。

「あっんッ!」

 ひっくり返ったような甲高い声を上げる侑斗に新太が視線を尖らせる。

「こんなトロットロにしやがって……一人か、二人か……それとも外にいた奴にもられたのか……」

「ちがっ……」

「は? 聞こえねぇなぁ。もっとハッキリ言えよッ!」

「……てないッ……ふ、二人だけッ……」

「ふたりぃぃッ?」

 新太が声を荒げ、咎めるように、後孔に埋めた指を激しく抜き差しする。
 感じる部分を小刻みに突かれ、侑斗の腰が跳ね上がる。

「二人にられたのか! まさか、中出しされたとか言うんじゃねぇだろうな!」

「さ、されてないッ!」

「どうだか」

 ブンブンと首を振って否定するものの、新太は気にも留めず、さらにもう一本指を増やして三本の指でズブズブと後孔を突く。
 火照った孔内をこれでもかと掻き回し、肉壁が痙攣するギリギリのところでスッと指を引き抜きくと、侑斗の両脚を限界まで開き、さんざんほぐされふっくらと赤く盛り上がった窄まりにいきり立った先端を突き付けた。

「やっ……ま、まって、まだ……」

「うるせぇ。そんなことが言えた立場か? あんなクソみてぇな奴らにられやがって……」

 グチュ、と入り口を開いてカリ首までねじ込み、侑斗の両脚を持ち上げながら覆い被さるように腰を沈める。
 ゆっくりとその先を埋め込むと、持ち上げた両脚を肩の上に乗せ、侑斗の身体を二つ折りにしてさらに深い位置まで突き入れた。
 
「ああぁッ!」

 新太の怒張したペニスが粘膜を割り裂き、狭い腸壁を押し広げる。
 射精しても一向に衰えない昂ぶりに侑斗の肉壁が騒めき立つ。
 ミシミシと身体にめり込んでくるような圧迫感。不良たちにされた時とは全く違う、身の竦むような威圧感に息が止まりそうになる。
 一方、新太は、

「力んでないで少しは協力しろ」

 無遠慮に押し入る欲望に身体を引き攣らせる侑斗には目もくれず、侑斗の身体を押し潰すように前のめりに体重を掛けながらぐぅーっと腰を沈め、根元まで入れたところで動きを止めた。
 侑斗の身体は完全に二つ折りにされ、自分の足を自分の胸に押し付ける格好になりますます身動きが取れない。
 窮屈に身体を押し潰されて喘ぐ侑斗を見下ろしながら、新太が、突き入れた腰を小さく引いてさらに奥へズンと突き入れる。

「はあうぅぅぅんッ!」

 少し戻して奥を突き、また戻して奥を突く。少しづつ戻す距離を伸ばして動きに勢いをつけ、ついには、抜けてしまいそうなほど腰を引き、感じる部分を抉りながら再び根元まで突き入れる。

「あはぁ……あ、やっ……あひッ……ぐッ……」

 ただでさえ長大な新太のペニスが、後孔の入り口から奥までを余すことなく擦り上げ、内臓が口から飛び出しそうなほどの勢いで突き上げる。
 お腹の中をめちゃめちゃに掻き回されている感覚。
 突かれるたびに強烈な圧迫感が胸を押し上げ、引かれるたびに、膨張したペニスが肉壁を捲り上げながらズルリと引き戻る。
 切ないような排泄感が湧き上がる。両脚を担がれて押し潰されるという身動きの取れない状況が、侑斗の意識を嫌でも行為に集中にさせ、感覚を倍増させていた。

「たすけ……て。怖いよ……あらたぁ……」

 このままでは身体が壊れてしまう。
 両手をバタつかせて訴えると、新太がふいに腰の動きを止めて侑斗を睨み付けた。

「誰にでも簡単にらせる淫乱野郎が何言ってやがる」

 言うなり、上半身を起こして肩に担いだ足を両側からむんずと掴んで脇に下ろし、そのまま膝の裏側を押さえ付けて侑斗のお尻の上に乗り上げるように覆い被さった。

「やッ! やめてッ! やだぁッ!」

 狼狽える侑斗をものともせず、侑斗の身体の奥深くに嵌まったペニスを再び抜けてしまいそうなほど引き戻すと、それまでの深く長く往復させていた動きから一転、浅い入口部分をカリ首で小刻みに突き始めた。

「ぃッ、いい……いあぁぁぁッ」

 新太の太いカリ首が、後孔の入り口の、ちょうどカリ首の段差が引っ掛かる位置で留まり、そこから敏感な入り口の周りとその先の感じる膨らみを執拗に擦り上げる。
 トントントンとリズミカルに突きながら、時折り角度を変えて掻き出すように腰を引かれると、侑斗の背中が弓形に反って甘い悲鳴が漏れた。

「怖い、なんつって、全然ノリノリじゃん。乳首も硬くなってきたんじゃねか?」

「ちが……ッあぁッ、はぁッ!」

 否定したところを、いきなり乳首をグリッと捻られ侑斗の背中が跳ね上がる。
 半泣きになって喘ぐ侑斗を見下ろしながら、新太は、両方の乳首を捻り上げたまま、腰を小さく前後させて感じる部分を狙って先端を滑らせる。
 そのうち乳首がピンと立ち上がり、恐怖に縮こまっていたペニスが熱く疼き始めた。

「チンポも勃ってきた……」

 そうなるように仕向けてられているとは言え、この状況で快楽を見出す自分に侑斗は戸惑いを覚えずにはいられない。
 不良たちにされていた時は、身体の中に鉄の棒を突っ込まれているような感覚に襲われ、苦痛以外の何も感じなかった。
 それが今は、不良たちよりも何倍も激しい、熱量も質量も比べものにならないぐらい強大な新太のペニスに貫かれながら、痛み以外の快感に身体の芯を熱く震わせている。
 不良たちには拒絶反応を起こして硬直していた身体が、新太にはひとりでに反応してしまう。
 その理由が何なのか、今まで認めるのが怖くて直視するのを避けていた答えが、ついに侑斗の目の前にハッキリと現れてしまった。
 本当を言うと、新太に『親友』と言われた瞬間から気付いていた。
 新太にそう言われた時、侑斗は、信じられないと思う反面、頭の奥がジンと痺れるような、甘く、くすぐったい感情が胸の内側から込み上げてくるのを感じていた。
 自分がただの性欲処理の道具ではなく、親友という特別な存在に位置付けられていることが嬉しかった。
 たとえそれが新太の一時的な気紛れであったとしても、新太に親友だと言われた事実が侑斗の胸を甘くときめかせ、新太への気持ちを自覚させた。
 新太が好き。
 答えを確信した途端、容赦なく身体を貫く凶暴な昂ぶりはたちまち官能を満たす熱い情熱へと変わり、悲鳴は、滲み出るような快感と、新太に対する縋り付くような嬌声に変わる。
 それだけに、今、新太が怒りを露わにしていることが侑斗には何より悲しく恐ろしかった。
 これ以上新太を怒らせたくはない。せっかく芽吹いた新太への思いを、こんなことで萎れさせたくはなかった。
 
「これ、見てみろよ。握っただけでどんどん硬くなる」

 侑斗の気持ちなどつゆ知らず、新太は、侑斗の中に腰を突き入れながら、侑斗のペニスを片手でギュッギュと握り締める。
 握り締める圧力に抜き差しする振動が加わり、侑斗のペニスが次第に硬く勃起していく。そのうち、ピンク色の先端が皮を破って飛び出し、プクッと一粒の先走りを膨らませて、つーッと滴らせる。

「マジでエロいな……。アイツらのこともこんなふうにイヤらしく誘ったのか?」

 侑斗は咄嗟に首を振った。

「ちがうッ!」

「なにがちがうんだ! 二人にられたくせに。俺が行かなきゃ三人にられてたッ!」

「かっ……からだ押さえられて、逃げられなかった……んだ……。す、すごく嫌だった……だから……」

「お前の、イヤ、は、イイって意味だろ? こんなにギンギンにおっ勃てやがって」

「ちがッ……ホントにッ、誘って……ないッ! だから……も……許して……も……怒らないでぇッ……」

 絞り出すように訴えると、侑斗を睨み下ろす新太の目がふいにカッと見開いた。

「怒る? 俺が何に怒るって言うんだ!」

 叫び、突然、膝立ちになって侑斗の足を引っ張り上げる。
 訳も解らないうちに逆さ吊りにされ、侑斗は声を上げられないまま硬直した。

「言ってみろ! どうして俺が怒る必要がある! お前が誰に何をされようと俺には関係ねぇ! なんで俺が怒るんだ!」

 新太は、蒼ざめ引き攣る侑斗を苛立たしげに睨み付けながら、背中が浮き上がるほど引っ張り上げた侑斗の足を自分の腰にグイと引き付け、後孔に入れたペニスを根元まで一気に突き入れた。

「あああぁぁッ!」

 衝撃で、侑斗の、上を向いた足がピンと引き攣る。
 しかし新太は容赦しない。
 侑斗の太ももを両側から腕を回してがっちり抱えながら、膝立ちになった腰を大きく前後に揺らして何度も突き入れる。

「こんな……誰に突っ込まれてもヒィヒィ言ってるようなヤツを……なんで俺が……」

「ち、ちがうッ! ……ってない……信じて……あら、たッ…………」

「うるせぇ、黙れッ!」
 
 突き当たりまで身体を貫かれ、深い位置で先端を肉壁にグリグリ押し付けられるように揺さぶられる。
 一糸纏わぬ姿で、白い肌を上気させながら喘ぐ侑斗とはうはらはらに、新太は、制服のシャツも脱がず、ズボンと下着を下ろしただけの格好で欲望のまま侑斗の身体を貫く。
 愛の行為とは程遠い一方的な辱めに、新太への思いを自覚したばかりの侑斗の胸が切なく痛む。
 そうでなくとも、新太を怒らせてしまったことが鉛のように重くのしかかっていた。
 昔から、新太が不機嫌そうにしているだけで胸が騒ついた。
 自他共に認める親友とは言うものの、人見知りで引っ込み思案な侑斗に比べ、新太は、明るく社交的な性格でいつもたくさんの仲間に囲まれてた。
 新太以外に心を許せる友達のいない侑斗と違い、新太には侑斗の他にもたくさん友達がいる。新太を取り巻くその他大勢の中に埋もれてしまわないよう、侑斗は必死で背伸びした。
 新太との友情を信じて疑わなかった子供の頃から、新太はいつも侑斗の前を行き、侑斗は新太の後を追い掛けた。新太はいつも輪の中心。追いかけるのはいつも侑斗。
 中一の夏、新太の母親の再婚が決まり隣町へ引っ越して行った時も、新太は、泣き濡れる侑斗に、さよなら、とひと言声を掛けただけで、引っ越してからも手紙の一つもよこさなかった。
 新太にとって侑斗は、自分を慕い追い掛けてくる無垢な仔犬と同じ。自分から追う必要はない。
 その頃の関係性が、侑斗を臆病にさせていた。

「も……許して……新太ぁ……」

 ただでさえ新太次第でどうにでも転がる関係性に、今回の不良たちとの一件。新太の怒りがたとえ誤解によるものだとしても、今、新太を怒らせることは侑斗にとってはダメージ以外のなにものでもなかった。
 
「信じるも信じねぇも関係ねぇ! お前がどうなろうが知ったこっちゃねぇ!」

 侑斗の不安を現実たらしめるように、新太は、侑斗の太ももを両腕に抱え込み、浮き上がったお尻にいきり立った昂ぶりを何度も突き入れる。

「あぁっ……はっ、はげしッ……ぁうッ……」

 身体が揺さぶられるたび、侑斗の後孔からローションと先走りの混じった白い泡がぐしゅぐしゅと音を立てて尻の溝に伝い流れる。

「エッロ! マジでどうなってんだよお前の尻はッ!」

「あ、いやあぁぁッ」

 尻たぶを叩かれ、ひどい言葉で罵られ、それでも新太の昂ぶりに後孔をミチミチに広げられて奥を擦られると、切ないような痺れるような快感が湧き上がり、ひとりでに甘い嬌声が漏れる。
 淫乱と罵られても仕方のない乱れように、侑斗の胸に自己嫌悪にも似た悲しみが広がっていく。
 誰にでも、ではなく、新太だからこうなる。その事実を上手く伝えられないもどかしさが、切ない涙となって侑斗の喉元に迫り上がる。
「ヒッ」と、ひと声漏れたらもう止められなかった。たちまち顔の奥がカッと熱くなり、両眼から涙がブワッと噴き出す。
 一方、新太は、堰を切ったように泣き出す侑斗に一瞬動きを止め、しかしすぐに、気を取り直すように、さらに足を高く持ち上げ限界まで腰を突き入れた。

「はあッ! んふぅッ!」

 パンッ! と肌と肌がぶつかる音が高らかに響き、侑斗の身体がエビ反りにしなる。

「そうやって泣けば俺が絆されるとでも思ってんのか? ちっせぇ頃から、何かあるとすぐ涙目んなって俺のこと見たもんなぁ。そうすりゃ俺がなんとかしてくれると思って………」

 侑斗を見下ろし、何度も何度も腰をしゃくり上げながら、新太は、独り言のように呟く。

「いっつも俺にくっついて……ッ……俺のこと、ヒーロー見るみたいに見てさぁ……。俺が、他の奴といるとすぐムクれてどっか行っちまって……そのくせ、今みたいに涙目んなって訴えるんだよな……」

「あらたぁッ……はぅうッ……」

「テメェが先にムクれたくせに、俺が悪いみてぇな顔してさぁ。……結局、いつも俺が先に折れるんだ……お前がこんなふうに泣くからッ……」

「だがーーー」と、言葉を切ってズルズル腰を引き、

「俺はもうあの頃の俺じゃねぇ!」

 叫びながら、新太は、再び一気に侑斗の身体を貫いた。

「んああぁぁぁッ!」

 激しい振動が内臓を押し上げ、鋭い快感が、突き入れられた先から身体を真っ二つに割り裂くように脳天へと突き抜ける。
 新太の熱い昂ぶりが後孔の一番奥の狭い粘膜をこじ開ける。
 反動で、痛いくらいに勃起したペニスが先走りを撒き散らす。
 辛いのに気持ち良い。気持ち良いのに涙が止まらない。
 子供のように泣きじゃくる侑斗を、新太は、眉間に深いシワを寄せた苦しげな表情で睨み付け、その細い身体を揺さぶり続ける。

「今の俺は、あの頃みてぇに優しくねぇ。お前が泣こうが喚こうが何とも思わねぇし、お前がどうろうと知ったこっちゃねぇ。もうあの頃の優しい俺はいないんだ! これが今の俺だ! もう昔みたいに俺を見るのは止めろ!」

「はぁッ……やめ……もッ、もうッ!」

 打ちひしがれる心とはうらはらに、身体は、迫り来る絶頂感に高揚する。
 先走りがお腹に向かって長い糸を引き、赤らんだ先端がビクビク痙攣し始める。
「イクッ!」と、侑斗が全身をブルッと震わせて絶頂を迎えると、殆ど同時に、新太が、背中を仰け反らせて何度も痙攣し、侑斗の中に欲望を吐き出した。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 現実なのか、それとも、気をやった後のまどろみの夢か。口付けをされていたような気がして、侑斗は、遠くなりかけた意識を戻した。

「あら……た?」

 気配のする方へ目を向け、強烈な既視感にハッとする。
 新太は、侑斗の足元で壁の方を向いて座っている。
 シャワーを浴びて戻ってきた時と同じだ。
 睫毛の影の濃い目を物憂げに伏せ、薄い唇を引き結んで自分の足元をじっと見る。
 怒っているような泣いているような、なんとも言えない悩ましく気難しい表情。
 いつもは、ベッドの上で伸びる侑斗を置き去りにさっさと帰り支度を始める新太が、俯いたまま身じろぎもせず、時折込み上げてくる思いを飲み込むかのようにゴクリと喉を鳴らす。
 やはり、おかしい。
 最初に感じた違和感は気のせいではなかった。

「新太……あの……やっぱ、なんかあったんじゃ……」

 咄嗟に口走ると、新太がぎくりと肩を竦めて侑斗を振り返った。

「は? いきなり何言ってんだ」

 怖い顔。
 しかし、声を掛けた時に新太が一瞬見せた狼狽える表情を侑斗は見逃さなかった。

「だってなんか今日変だし……し、心配で……」

「心配? 俺が?」

 新太は途端に目を丸め、冗談だろ? と言いたげな呆れた笑みを片頬に浮かべた。

「あんなことされた後でよくそんなことが言えるな。やっぱお前、バカだろ」

 キツい口調が胸に刺さる。それでも侑斗は気持ちを奮い立たせた。

「かも……しんないけど……。でも、学校もずっと休んでたし……」

「そりゃ、辞めるからな」

 瞬間、「え?」と、侑斗の口が開いたまま固まった。

 ーーー辞める? 新太が? 学校を?

「な、なな、なんでッ……」
 
 動揺する侑斗をよそに、新太は何でもない風にサラリと答えた。

義父オッサンの仕事の都合だと。なんだか知んねぇが、一方的に決まってた」

「そんなッ……どっ、どこに!」

「どこだって良いだろう? てか、お前にとっちゃ朗報だろ? これでもう俺に酷い目に遭わされずに済むんだから……」

「そそそ、そんなことッ!」

 反論する言葉が出てこない。
 慌てふためく侑斗を、新太は、小馬鹿にしたような冷ややかな笑みを浮かべながら見る。

「気ィ使わなくても、この後に及んで酷ぇことはしねぇから安心しな……。てか、もっと素直に喜べよ。本当のところ、俺がいなくなってせいせいすんだろ?」

「そ……な、ことはッ……」

 何か言わなければと思うのに、頭の中がごちゃごちゃして思いが纏まらない。
 突然すぎて気持ちが追いつかない。
 また新太がいなくなってしまう。そう思うだけで、心臓がバタバタと騒ぎ出し、焦りが吐き気のように喉を押し上げる。
 ようやく好きだと気付いた。もっともっと新太のことが知りたい
 にもかかわず、このタイミングで、こんなにも突然に。
 新太に対する思いに気付いた今の侑斗にとって、その衝撃は、中学一年の頃の比ではなかった。
 当惑する侑斗をよそに、新太は、ベッドからそろりと立ち上がり、薄情そうな笑みを浮かべて侑斗を振り返った。

「そういうわけだから、お前とも今日でおさらばだ」 

 言うなり、踵を返して出口へと歩き出す。
 瞬間、侑斗の手が追い縋るように新太のシャツを掴んだ。

「待ってーーー」
 
 言葉よりも先に身体が動いていた。
 後ろから掴まれた衝撃で、新太の身体がつんのめり、ブチっという音とともにシャツのボタンが弾け飛ぶ。バランスを崩してよろける新太を目で追いながら、侑斗は、ふいに視界に飛び込んできたモノに「えッ?」と目を止めた。
 はだけたシャツの隙間から見える無数の赤い痣。打撲痕にしては赤すぎる痣が、露わになった新太の胸元に点々と広がっている。
 侑斗がいくら性方面に疎いからといって、それがキスマークであることぐらいは容易に想像出来た。

「それって……」

 新太は、侑斗の視線に気付くと、慌ててシャツを引っ掴んで胸元を隠した。

「見んなッ!」

「でもそれ……」

「うるせぇッ!」

 問い掛けたところを、猛烈な勢いで身体を振り払われ、侑斗は、ベッドの上に投げ捨てられるように叩きつけられた。

「俺に構うなッ!」

 物凄い剣幕だ。
 あまりの迫力に、侑斗の息が一瞬止まる。
 新太に怒鳴られること自体は珍しくない。しかしこんなふうに感情的になる新太を見るのは初めてだった。
 引き攣り固まる侑斗を、新太は、獰猛な犬のように、鼻にシワを寄せて噛み付くように睨み付けている。
 詮索するなと言わんばかりの厳しい表情に、「どうして」と呟いた言葉が声にならずに喉に貼り付いた。

「痛い目に遭いたくなかったら、これ以上俺に構うなッ! 解ったかッ!」

 絶句したまま見上げる侑斗に、再び新太の怒号が襲い掛かる。
 今度は身体が凍り付いたように動かなかった。
 侑斗はただ、新太のゾッとするような凄みのある目を見上げながら、その目がくるりと背中をむけて遠ざかっていくのを呆然と見送った。
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