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第五話〜甘い愛の呪縛
しおりを挟む『嫌だ……竜馬! 竜馬ぁッ!!』
深雪の、竜馬を呼ぶ声が、耳の奥で涙にうわずった。
語尾が震えているのがイヤホン越しの不明瞭な音の中でもはっきりと聞き取れる。
いつになく悲壮な声に、竜馬の心臓が早鐘を鳴らすように激しく鼓動した。
『竜馬? 竜馬って誰? 郷田の名前?』
『いや違う。郷田はそんな名前じゃ無ぇ』
『だったら誰? まさか浮気相手? こんな時にいい度胸してんねぇ~』
深雪が泣いている。
泣いている深雪を宥めるのは自分の役目だった。
涙に喉を詰まらせながらしゃくり上げる深雪を見ていると、竜馬は、深雪が辛そうで可哀想で、一刻も早く止めてやらねば、深雪がずっと辛いままなような気がして慌てて宥めたのだった。
深雪が悲しい気持ちでいると、自分まで悲しい気持ちになった。深雪が泣いていると自分まで泣きたくなった。
今も、張り裂けそうなほど胸が苦しくて辛い。
それなのにどうして自分は深雪の傍にいないのだろうと、竜馬は自分を責めた。
物心ついた頃から、いつもお互いの手が触れ合うほど近い場所で、一日の殆どをお互いの顔を見て過ごした。
振り向けばいつも目の前に深雪がいて、耳を済ませば何処にいても深雪の声がした。
喜びも悲しみも苦しみも、深雪のことならどんな些細なことでも竜馬はすぐに気が付いた。
それなのに、肝心な時に傍にいない。
自分への不甲斐なさが無数のナイフとなって胸に突き刺さる。頭を掻き毟るような後悔とこれから起こることへの不安で身体がバカのように震え、脳の伝達回路が壊れてしまったかのように頭が混乱した。
『あっ、いっ、やぁっ!』
『いい加減、大人しくしやがれってんだ!』
『嫌だ! 離……やっ、あ……』
『ほら、動くなって! おい、コバ、早くアレ飲ませちまおうぜ』
『やっ、なに……やだっ、んんっ、うぁぅっ』
頭の中は使いものにならないほど雑然としているにもかかわらず、耳だけは異様に冴え渡り、深雪の声を一語一句聞き漏らすことなく意識下に植え付ける。
しかし、身体はピクリとも動かなかった。竜馬はただ、深雪の悲痛な訴えを頭の奥に響かせながら、身体中の血が沸騰したかのような熱さに筋肉を硬直させていた。
『うわっ、コイツ、吐き出しやがった!』
『しゃあねぇ。俺らが押さえてるから、コバからヤレよ』
『なんだよ。ムードもへったくれも無ぇな……』
ヒィィッ、と深雪が言葉にならない悲鳴を上げ、同時にシャツが裂ける音が響いた。
『うーわっ、乳首、ピンク。エロっ!』
『……クショウ、離せッ……やめっ……んぐぅっ!』
『うるせぇから口にシャツ突っ込んどいたわ』
『んっ、んんっ、っ、ん、ん』
『可愛いー、乳首勃ってる。めちゃ敏感』
『んー、んんん、んんぅ、ぅむ』
『いいからお前らちょっと静かにしろ』
『んぁっ! んんんー!』
深雪の悲鳴がひときわ大きくなった時だった。
突然、けたたましいブレーキの音が鳴り、車体が大きく揺れた。
咄嗟に目を閉じ、身体がシートに激しくバウンドするのに耐えて再び目を開くと、運転手の青年が鬼気迫る表情で竜馬を睨み付けていた。
「着いたぞ! 何してるんだ、早くっ!」
言われ、竜馬はようやく我に返った。
「深雪さんを頼む! あんただけが頼りなんだ!」
車は、クラブ、エンプレスの正面に横付けされている。突然の騒音に立ち止まる通行人の視線を浴びながら、竜馬は、タブレットとイヤホンを紙袋に詰めて脇に抱え、青年とともに転がるように車を降りてエンプレスの入り口をくぐった。
受け付けカウンターに進むと、想像通り、運転手の青年を黒服が止める。こうなるだろうと、車に乗る前、予め竜馬と青年の衣服を交換しておいた。青年は案の定高校生と間違えられて黒服に捕まり、竜馬は打ち合わせ通り、黒服が青年を止めている隙に受け付けを通り抜けてビップルームを目指した。
黒服は慌てて追いかけようとしたが、普段、野菜の詰まった重い箱を積み下ろししている青年の腕力には敵わず、羽交締めにされて足止めされた。
開店間もない時間帯という理由もあり、フロアにはまだ殆ど客はおらず、竜馬は、どぎつい電子音が鳴り響くフロアの真ん中を通り抜け、比留間に教えられた、一番奥にあるビップルームを目指した。
“ビップ”という名に相応しいひときわ高級感の漂うその部屋は、突き当たりの階段を上がった中二階に作られており、フロア全体が見渡せるようになっていた。個室をイメージしていたが、人の背丈ほどの高さの鏡張りの壁で仕切られているだけで入り口もオープンで天井も空いている。中を覗くと、人がすっぽりと隠れてしまうほど背丈の高いソファーが並び、その奥に見覚えのあるスニーカーが転がっていた。
ーーー深雪!
叫び出しそうになるのを堪え、恐る恐る脚を踏み入れた。
部屋の中には誰もいない。
しかし、スニーカーを拾い上げた時、部屋の端の床の一部、大きさ的には畳一畳分の床だけが不自然に浮き上がっているのに気が付いた。
慎重に近付き、浮いた部分を脚の先で踏んでみる。バネのようなもので跳ね返る感触があり、試しに両端を力一杯押すと、カチッと音がして床板が内側から三十センチほど開いた。
階段だ。
見た瞬間、竜馬は深雪はここにいることを確信した。
隙間から身体を滑り込ませ、下へ続く階段を尻餅をついた状態で身体を滑らせながら慎重に降りた。
部屋は、階段をおりてすぐ右側に広がっている。
一階と中二階の空間に当たるスペースに作られた部屋は、フロアの喧騒が嘘のように静まり返っている。
柱の陰に隠れて様子を伺うと、先ほどの部屋同様、背もたれの高いソファーがいくつも並び、一番奥で、白くて長い脚が、制服の紺色のチェックのズボンを脱がされまいとジタバタと宙を蹴っていた。
「ンッ! っ……んっ……んんっ!」
「じっとしてろ、って! あんま暴れっと恥ずかしい格好させんぞ!」
「いいね、それ」
嘲笑まじりの会話が男たちの好色そうな表情を想像させる。
深雪の身体が男たちのいやらしい視線に晒されているのかと思うと、竜馬の心臓は更に激しくバタついた。
「しかしまぁ、ずいぶん綺麗になったもんだよなぁ。一年でここまで艶っぽくなるとはホント驚きだ」
「なんだよコバ。ひょっとしてまだ未練があんのか?」
「まさか。こいつは、郷田と一緒ンなって俺をコケにしやがったんだ。ナメられたぶん、たっぷり可愛がってから地獄に突き落としてやるよ。……まずは俺らで輪姦して……輪姦してる真っ最中に郷田を呼び出す、ってのもいいかもな……」
「ヒッ! ヒヤやッ、んっ! んぁっ!」
入り口からは死角になっていて全貌は見えないが、深雪が小林たちに身体を押さえ付けられているのだろうという想像はついた。
比留間には、効果的なタイミングを狙えと言われている。
こういう場合の“効果的なタイミング”が、“行為の真っ最中”を指すのは想像に容易い。しかし、今の竜馬に、悠長にイヤホンで中の様子を探る余裕は無かった。
爆発しそうな怒りを抑えながら、気付かれないようソファーの背もたれに隠れながらゆっくりと近付いた。
姿の見える位置まで近付き、背もたれの隙間から様子を伺う。
深雪は、ズボンと下着を剥ぎ取られ、部屋の一番奥に置かれたソファーセットのローテーブルの上に、両脚を開かされた状態で押さえ付けられていた。
竜馬に脚を向ける格好で、白い脚の間に、小林の大きな身体が膝立ちで割り込み、その両側で男が深雪の脚を膝を抱えるようにしてしっかりと持っている。
両手は両脇の男たちにそれぞれ腕を掴まれ押さえ付けられているようだ。小林の背中で隠れて顔は見えないが、小林の左右の脇腹から不自然に突き出た白い脚が、深雪の表情を代弁するかのように激しく抵抗していた。
「往生際の悪い奴だな。いい加減、大人しくしろっ、たら!」
「なぁに、ちょっと触ってやりゃぁすぐ可愛い声で泣くから心配いらねぇって……」
言い終わるが早いか、小林が、「口の中のモノを外してやれ」と指示を出す。
途端に、深雪の悲痛な叫び声がフロアに響き、竜馬は、ビクッ、と肩を強張らせた。
「ーーーックショウ! 離せよ、バカッ! 早くッ、離せったらぁッ!」
「威勢がいいのも今のうちだ」
小林は、深雪の悲鳴など気にも止めず、前屈みに背中を丸め、深雪の胸元に顔を埋めた。
「あっ、やぁっ、ンやめっ……はな……ッせっ……」
手前から奥へすくい上げるように進み、前後左右に揺れながらゆっくりと上下する。小刻みに動く後頭部が、小林が、深雪の硬くなった乳首を舌の先で舐め上げ、表面をさすったり弾いたりしながら、口に含んで吸い上げる様子を鮮明に想像させる。
動きだけでもじゅうぶん卑猥だというのに、唇が乳首に吸いつく時のチュッチュッという音が、愛撫の様子をよりリアルに想像させた。
「弱いとこ、変わってねぇんだなぁ。乳首、強く吸われるとすぐトロットロになっちまってたもんなぁ」
「ちがっ……あっ……ひッ……」
小林はしかし、首を横に振る深雪を鼻で笑った。
「強がらなくてもいいぜ。お前の身体なら何だってしってる。何てったって、この俺さまが仕込んだんだからな……」
「やッ! ヤメ……触んなッ!」
小林がふいに上体を浮かせ、深雪が、「ひっ!」と引き攣ったような声を上げて背中を弓なりに仰け反らせる。
小林の手が、深雪の、下着を剥ぎ取られた剥き出しの下腹部を握ったのが、ソファーの背もたれに隠れた竜馬の位置からもギリギリ見えた。
「ほら、ここの先っぽ。ここ、グリグリされるの良いだろう?」
「やっ! やめ……あぅっ!」
必死で抗う深雪を見ながら、竜馬は、ひたすらタイミングを伺っていた。
内心は、怒りで腹わたが煮えくり返り、頭に血が昇って、こめかみがズキズキ痛んだ。
しかし一方で、深雪の置かれた状況を驚くほど冷静に観察している自分もいた。
感情的になってはいけないと比留間にも言われている。
相手は三人。小林を引き剥がしたところで、両脇の二人が深雪をガッチリと押さえ込んでいる以上、深雪を取り戻すことは簡単では無い。
隙を狙って確実に仕留める必要があった。
しかしその間にも、小林は深雪を執拗に弄び、両側の男たちは、深雪の嫌がる様子に興奮気味に目をギラつかせた。
「ヤバイ、この顔、めっちゃクる!」「なぁ、コバ、俺、こいつにフェラしてもらって良い?」「てか、さっさとヤッて、俺らに代われって!」
「やぁァッ!!」
怒りで身体が震え、食いしばった奥歯が嫌な音を立てて軋む。
感情的になってはいけないと自分に言い聞かせ、竜馬は、深呼吸をして早まる鼓動を落ち着つかせた。
本当は今すぐにでも飛び出し、深雪に触れる小林の汚い手を叩き潰し、深雪を押さえ付ける下衆な奴らを口が聞けなくなるまで殴り付けてやりたかった。しかし今は深雪を助け出すことが先決だ。激しい怒りが込み上げるからこそ、感情に流されて全てを台無しにするわけにはいかなかった。
気を引き締め、背けた視線をもう一度深雪の方へ戻す。
とにかく今は冷瀬にタイミングを伺う。
そう言い聞かせた矢先だった。
「やだっ! 竜馬ッ! 竜馬ぁぁッ!!」
突然、深雪の絶叫が耳をつん裂き、竜馬は反射的に飛び出した。
竜馬の予想外の出現に、小林は、深雪のお尻を上向きに返そうとした姿勢のまま呆気に取られたように竜馬を振り返った。
その隙に、小林の首根っこを掴んで力任せに引き剥がし、床に倒れたところをみぞおちに蹴りを入れて転がした。
床の上でのたうち回る小林を見て両側の男たちが怯んでいる隙に、片方の男の顔面を殴りつけ、もう片方の男に頭突きをかまして深雪から引き離した。
「竜馬ッ! 竜馬ぁッ!」
深雪は、竜馬を見るなり、竜馬の首に両腕を巻き付けてしがみ付いた。
「おっせーよ、馬鹿ッ! 俺、マジで……俺……」
押し倒されそうになるのを、なんとか尻餅で持ちこたえる。
極度緊張のせいだろう。深雪の身体は、高熱に襲われたように熱く、ぐっしょりと汗ばんでいた。
竜馬は、子供のように捨て身でしがみ付く深雪の背中に腕を回して抱き寄せ、肩越しに、「ごめん」と呟いた。
「遅くなってごめん。でももう大丈夫だから」
深雪が頷く振動が何度も肩に伝わった。
しかし安心するのはまだ早かった。
「貴様、なにもんだ!」
背後から聞こえた声に、竜馬は、咄嗟に、深雪を自分の背後に移動させ、背中に隠すようにして振り返った。
見上げた先にいたのは、顔面を殴られた男だった。
その横で、頭突きを喰らった男が鼻血を手の甲で拭いながら竜馬を見下ろし、後ろで小林がよろよろと起き上がった。
「お前が郷田か……」
「違う。そいつは郷田じゃねぇ」
「なら誰だよ」
男の問い掛けに、小林はふらつく膝を手で支えて踏ん張りながら、竜馬の顔を睨み付けた。
「名前は知らねぇが見覚えはある。いつも深雪にくっついてた奴だ」
「くっついてた? ストーカーかよ!」
「つーか、下僕だな……」
小林は完全に調子を取り戻し、他の二人も、いつ殴りかかってきてもおかしくないほど怒りを剥き出しにしている。
三対一で武器らしい武器もない、ただでさえ不利な状況の中、深雪を守りながら戦うのは殆ど無謀と言える。
それを解っているのか、小林たちは既に勝負はついたと言わんばかりに余裕たっぷりに竜馬ににじり寄った。
「ストーカー風情がいっぱしにヒーロー気取りか」
「やめとけ。どうせコイツに勝ち目はないんだ」
それより、と、小林は、口角に下品な笑いを浮かべて竜馬の前にしゃがみこんだ。
「お前、俺らが輪姦してるとこビデオ通話で実況してくんね? 上手く郷田をおびき寄せられたら褒美にお前にも抱かせてやっからさ。どうだ。お前も深雪とヤッてみたいだろ?」
竜馬は、自分がどんな顔をしたのか解らなかった。
ただ、言い終わるが早いか、小林が、「何だそのツラは!」と凄み、顔面に衝撃が走った。
「竜馬ッ!!」
殴られたのだと理解した時には、既に身体が大きく横に振られ、焼けるような熱さと血の味が口一杯に広がっていた。しかし、事態を確認している暇は無かった。竜馬は素早く姿勢を戻し、うろたえる深雪に、「しっかり捕まっていろ」と肩越しに耳打ちした。
「てめー、ヒーローの次はナイト気取りかよ。人がおとなしくしてりゃつけ上がりやがって!」
正面を向いたところでもう一発拳が飛んでくる。それを顔面すれすれのところで手のひらで受け止めると、小林の顔色がフッと変わり、それが合図のように、二人の男が深雪に手を伸ばした。
「あっ! やっ!」
反撃をしている暇は無かった。竜馬は、男たちの手を払い除けると、背後にいる深雪を振り返って抱き締め、そのまま胸の中に抱え込むようにして床の上にうつ伏せになった。
「竜馬……」
「いいからそのままじっとしてろ」
まともに戦って勝てる状況ではない。ならば、深雪に危害を加えられないよう深雪を守ることだけを考えた。
竜馬は、深雪を自分の身体の下に敷き、深雪に体重が掛からないよう床に両肘を突いてガードした。
「舐めた真似しやがって……」
小林の攻撃は竜馬が想像していたよりずっと早かった。言うなり、脚を振り上げ竜馬の背中に勢いよく振り落とす。痛みと襲撃で竜馬が、「うっ!」と呻くと、もっと痛め付けてやると言わんばかりに立て続けに脚を振り下ろした。
「おら! 痛ぇだろ! カッコつけてないでさっさとどけよ!」
竜馬は、深雪に衝撃が行かないよう、床に突いた肘に力を込めて踏ん張った。その行動が更に小林の神経を逆撫でしたようだった。
「クソッ! 早くどかねぇと蹴り殺すぞ!」
「やめろよ! それ以上やったら竜馬が死んじゃうッ!」
涙声になる深雪を、「いいから黙ってろ」と宥め歯を食いしばる。
竜馬のすぐ下で、深雪が涙に睫毛を濡らしながら悔しそうに下唇を噛み締めた。
「ほら、お前たちもボサッとしてないで深雪を引っ張り出せよ!」
「やだっ! 離せっ!」
抗う深雪に、自分の首にしがみ付くよう言いつけ、床に突いた手を背中に回して深雪が離れないようしっかりと抱き締めた。
「つくづくムカつく野郎だな! いい加減にしねぇとマジでぶっ殺すぞ!」
「うっせぇ! 深雪に触んなっ!!」
「なんだ、深雪を助けて彼氏にでもなろうってか? 下僕野郎が勘違いしてんじゃねーよ! お前ごときが助けたところで深雪が本気で相手にするわけねぇだろう!」
「そんなの関係ねぇ!!」
自分でも驚くほど大きな声で竜馬は叫んでいた。
「相手にするとか、そんなんどうでもいい! 俺は深雪を助けたいだけだ! 深雪を辛い目に遭わせたくないだけだっ!」
「ーーーのやろッ」
ドスッ、ドスッ、という鈍い音に、深雪の悲痛な叫び声が混じった。
「やめろッ! 竜馬が死んじゃう! 竜馬が死んじゃうよぉぉッ!」
子供のように泣き喚く深雪の声を聞きながら、竜馬は自分の意識が遠退いて行くのを感じていた。
小林の声も聞こえない。痛みの感覚ももはや無く、ただ、焼けるような熱さの中で、深雪の声だけが鮮明に響いていた。
「竜馬! もういいよ! もういいから、もうやめろって、竜馬ぁッ!」
良いわけないだろ。言おうとしたが唇が動かない。だんだんと身体の力が抜け、意識が朦朧とし始めたその時だった。
突然、ドタドタと床が鳴り、誰かの手が竜馬の肩に触れた。
「竜馬くん!」
手の主は比留間だった。
ぼんやりとした視界の先で比留間が心配そうな顔で竜馬を見詰めている。
「深雪は……」
「生活隊の皆んなが助け出したよ」
「生活隊……?」
言われて辺りを見渡す。
室内は、白菊学園の生徒をはじめ、大学生風の若者、サラリーマンなど、どこかで見たことのある顔で沸き返り、小林たちを一斉に追い詰め押さえ込んでいた。
「凄いだろ? 一人一人にチカラは無くともこれだけ寄ればさすがにあちらさんも多勢に無勢。深雪シンパを舐めんな、って感じ」
竜馬を学校から送り出した後、比留間は、深雪のサポートコミュニティーである生活隊のメンバーに応援を募り、深雪を救出に来たのだと説明した。
比留間たちが到着するまでの間、八百屋の青年は身体を張ってずっと黒服を足止めし、竜馬が捕まるのを阻止していたという。
状況説明をする比留間の得意げな顔を見ながら、竜馬は、一声掛けるだけでこれだけのことをやってのける比留間の統率力に感心するとともに、深雪を助け出してくれたことに感謝した。
「良かった……」
安心したら痛みの感覚が戻ってきた。
起き上がろうとして思わず顔を顰めると、察したように比留間が肩を貸し、竜馬は、比留間に支えられて店を出た。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
二人きりになると、深雪は、目蓋に溜まった涙を片腕で拭い、怒っているような落ち込んでいるような顔で竜馬を見上げた。
「ごめんな深雪……」
「なんで竜馬が謝んだよ。カッコつけんな、この野郎……」
深雪を助け出した後、竜馬は、八百屋の青年の車にかくまわれていた深雪とともに自宅へ送り届けられた。
クラブは、生活隊と小林たちの小競り合いで騒然としていたが、比留間に、「あとは任せろ」と言われ、終息を見届けることなくその場を後にした。
深雪は、車に乗っている間中ずっとしゃくり上げていた。
一言も話さず、竜馬を避けるように顔を背け、それでも、竜馬が、落ち着かせようと背中に回した手を振り払うこともなく、竜馬が、車の揺れに、「痛ッ」と顔を顰めるたびにチラリと目線を送る気遣いは見せていた。
とはいえ、自分からは何もせず、気持ちを落ち着かせるように深い呼吸を繰り返し、竜馬の家に着くと、ようやく竜馬の顔を見た。
「本当にごめん。悪かった……」
「だからなんで竜馬が謝るんだよ」
「深雪が怒ってっから……」
竜馬の返答に、深雪がキッと瞳を尖らせる。責めるようでいて宥めるような視線に、竜馬は瞳を貼り付けられてしまったように目を離せずにいた。
「そりゃあ怒ってるよ。あんな無茶して、本当に死んだらどうするつもりだったんだ!」
「深雪が呼んだんだろ?」
「あれは癖みたいなもんで……。てか、呼んだからってあそこまでしなくても……」
「するだろ。お前が、助けてくれ、って言ってんだから……」
一瞬、深雪の黒目がぶわっと輝いた。
「だ、だとしても、あんな危険な真似しなくたって……」
「危険だって、それしか助ける方法がなきゃそうするさ……」
「は? バカじゃないの? だから俺の下僕なんて言われるの、わかんネェの?」
「それならそれで良いよ。お前の傍にいられるなら……」
深雪の黒く大きな瞳が、竜馬の目の前でみるみる涙に沈んで行く。
唇が動いたのは気のせいでは無かった。おそらく誰も気付かない、しかし、殆ど吐息のような声にならないその呟きを、竜馬は心で聞いていた。
「どうして……」
「どうしてそこまでするのかって? それは、俺が深雪を好きだからさ」
竜馬は自分の気持ちを正直に答えた。竜馬にはもう後が無かった。深雪に自分の欲望を知られてしまった以上、深雪への想いの行方は深雪の手に委ねられている。泣こうが喚こうが竜馬にはもう選択権は無く、深雪の出した結論に従うしかなかった。
だからこそ竜馬は自分の気持ちを伝えたかった。
自分の気持ちをうやむやにすることは、これまでの深雪への気持ちを無かったことにするのと同じだった。
このまま深雪と離れることになったとしても、誤解されたまま、共に過ごした日々さえ思い出したく無い過去として葬り去られるのは耐えられなかった。
積み重なった想いを浄化させるように竜馬は言葉を続けた。
「あんなことしといて今更言えた義理じゃねぇけど、俺はお前が好きなんだ。幼馴染みとしてだけじゃなく、ただの一人の男としてお前に触りたいし抱き締めたい。お前はそういうの嫌かもしんねぇけど、お前とキスしたいし匂いも嗅ぎたいしセックスもしたい。俺も他の奴らと同じ目でお前を見てるんだ。でも俺は他の奴らとは違うっ、つーか、他の奴らがどんなか知らねぇけど、俺は、興味本意とかヤリたいだけとかでは絶対に無い。俺は本当にお前のことが好きだから……だから、お前に触れたいし、お前を抱き締めたいし……」
再び、深雪の唇が動いたような気がして竜馬は言葉を止めた。
「……くせに」
今度はハッキリと聞き取れた。
竜馬は、白目を赤くしながら睨む深雪の、咎めるように尖った唇を見た。
「……って言ったくせに」
「え?」
「だから……あの時……冗談だって言ったくせに」
シャワールームでの深雪とのやり取りが竜馬の脳裏に蘇った。
「あれはお前に嫌われたくなくて、誤魔化そうとしただけで……」
「嫌われたくなくて? 俺がどんだけ傷付いたか解ってんの?」
「え……っと。だって、お前、嫌がってたし、そういうことにしといた方がお互いのためにも良いかと思って……」
「お互いのために良いと思って?」
「だから、冗談にして、何も無かったことにした方がお互い気まずくならなくて良いかと……」
言い終わらないうちに、突然、ドンっ、と胸を突かれ、竜馬はベッドに仰向けにひっくり返った。
「ーーーいってぇッ!」
痛めた背中を打ちつけ起き上がれないでいるところを、深雪に、腰の上に馬乗りに乗られ、両手を頭の横で押さえ付けられてしまった。
「冗談の次は何も無かったことする? バカにすんな! 冗談って言われただけでもすげぇ傷付いたのに、何も無かった、とかマジ有り得ねぇ」
「だからそれは……」
竜馬は言いかけ、しかし、深雪の怒りの矛先が自分の思うところとは違うところを向いているような気がしてふと黙り込んだ。
深雪は、怒りに眉間を顰め、駄々をこねる子供のように口をへの字に曲げて竜馬を睨み付けている。
ふと、竜馬の脳裏に、自分本位な仮説が浮かんだ。
「まさか……もしかして、嫌じゃなかった……とか?」
途端に、「バカっ!」と深雪が胸を叩いた。
「え? だって、お前、凄く嫌がってたじゃねーか。それに、俺のこと、『変な目で見ないから嬉しい』って……」
「それは、いきなりだったからびっくりして……。それに、変な目で見られるのは嫌だよ。だって、お前とは小さい頃からずっと一緒だったんだ。お前は他の奴とは違う、俺にとっては特別だ。それが身体目当てとか冗談じゃねぇ……」
「え……」
他の奴らがどんなに変な目で見ても竜馬だけは俺を俺として見てくれる。俺はそれがスゲェ嬉しいの。
かつて深雪に言われた言葉が竜馬の頭を巡る。深雪のたった一つの安息の地、竜馬を深雪のヘイブンたらしめる所以。その呪縛が、わずかに綻び始めていた。
「ちょっと待ってくれ。……ってことは、まさか、お前も俺が好きってこと?」
深雪は、竜馬のシャツの襟を握り締めて竜馬を真っ直ぐに見下ろしながら、不機嫌に尖らせた唇の先を困ったようにもじもじと擦り合わせた。
「あんなに傍にいたんだから好きになるに決まってんだろ……。てか、あんなカッコ良く助けといて、好きになるな、って方が無理だろ……」
言うなり、恥ずかしそうにプイと視線を逸らす。
見たこともない恥じらいの表情に、竜馬は、無意識にその頬を両手で包んで正面を向かせていた。
視線を合わせ、瞳を見詰めながら両手をゆっくりと引き下げる。目を閉じたのはどちらが先だったか、竜馬が唇を重ねて舌を差し入れると、深雪はシャツを掴んだまま竜馬の熱い舌を口に含んだ。
「んんっ……うん、ンフッ……」
驚くほど柔らかい唇が唇を押し返し、生温かい舌が舌の表面をぬるりと滑る。
従順に寄り添う舌がひたすら愛おしく、竜馬は、舌を絡ませながら深雪の両腕を掴み、キツく吸いながら深雪の身体を、自分の身体と入れ替えるようにベッドの反対側へ押し倒した。
「ごめん、ちょっとがっついちまう……」
馬乗りから一転、竜馬に組み敷かれる格好になった深雪が、小さく、「あっ」と叫んで視線を泳がす。
なんてことのない反応が竜馬の気持ちを早らせる。
開いたままの唇に忙しなくむしゃぶりつき、口の中の奥深くまで舌を差し込み、深雪の舌を絡めて吸い上げた。
「んっ、ちょっ……まって……んだめ……」
抵抗する手を取り、頭の横で指を絡めて押さえ付け、耳の後ろ、うなじ、肩と順番に舌を這わせ、鎖骨をなぞって胸の合わせ目へと滑り下りた。
「あっ……りょう……まッ……ダメっ、けっ、怪我が……」
「こんなの平気だ……」
シャツは、小林たちによってボタンの殆どを毟り取られ、かろうじて留まっているボタンを二、三個外すだけで簡単にはだけてしまった。
竜馬は、露わになった胸元に鼻先をこすり付け、深雪の肌の匂いを嗅ぎながら白い胸の両側に佇む小さな乳首を唇で軽く吸った。
「あっ、やっ、やだっ!」
「嘘だ。もうこんなになってる……」
「あぁん、あぅっ、やっ、んんっ」
執拗に吸われた深雪の乳首は、あっという間に充血して硬く尖り、卑猥な性感帯となっていく。
それを裏付けるように、舌の先を弾く粒を淫らに膨らんだ乳輪と一緒にキュッと吸うと、深雪の皮膚がブルッと波立ち、薄く開いた唇が甘く湿った吐息を漏らす。眉間に切なそうなシワを作って快感に堪える表情が何とも艶っぽく、思う存分泣かせてやろうと、乳首を小刻みに舌で転がし、反対側の乳首を指先で摘んで引っ張った。
「あっ……んぅ、やめっ、も、もうっ、あっ」
反応の一つ一つが新鮮で、喘ぎ声や表情の全てにお腹の底から甘い感覚が湧き上がる。
ゆっくりと時間をかけている余裕は無かった。
乳首から唇を離し、みぞおちからお臍にかけてのうっすらとピンク色に染まる皮膚に舌を這わせ、舌の先を尖らせてお臍の内側を舐めた。
「やぁ……はッ……あ、ダメッ!」
舌で押さえながら揺らすように舐め、穴に唇を付けて内側を吸い出すように吸うと、深雪の呼吸がどんどん荒くなり、喘ぎ声に甘い鼻声が混ざり始める。
しかし、順調だったのはそこまでだった。
竜馬がズボンに手を掛けると、たちまち深雪が腰をくねらせ激しく抵抗した。
「やッ、ダメッ! これ以上はダメッ!」
「優しくするから、大丈夫だから……」
「そういう意味じゃなくて、ここは……あっ、馬鹿ッ、ちょっ、待て!」
ズボンを脱がせようとする竜馬の手を上から両手で掴み、脱がせまいと必死で抵抗する。
深雪の力など振り払おうと思えばいくらでも振り払えたが、あまりに必死な形相に、竜馬の中の深雪に嫌われたくない気持ちが過剰に反応した。
「ごめん……」
ズボンから手を離し、竜馬は、泣き出しそうに震える深雪を優しく見詰めた。
深雪は、ホッとしたような、バツが悪いような何とも言えない顔で竜馬を見返した。
「あの……別に、お前とするのが嫌とかじゃなくて……。お前、男、初めてじゃん? だからその、いきなり見たら、ゲェ~ッて思うかも……」
「なにがだ……」
「だから、俺のアソコ。近くで見たことないだろ? 俺、男だし……。それに、前に、お前、見たくない、って言ってただろ?」
「は? 別にそんなことないし。てか、もう何度も見てるし……」
「は?」
深雪のきょとんとした顔に、竜馬は自分がうっかり口を滑らせたことに気付いた。
「あ、だからその、つまり……」
取り繕おうにも上手い言葉が出てこない。冷静さを装うのも限界だった。
止むを得ず、竜馬は、再びズボンのウエストに手を掛けた。
「やッ! ばかっ、やめろって!」
「いいから。俺、そんなん全然気にしねぇし……」
「違くて……。これ以上は、ちょっと……はっ、恥ずかし……」
思いがけない深雪の言葉に竜馬は再び手を止めた。
深雪は、手の甲を額に当てて顔を隠しながら恥ずかしそうに下唇を噛んでいる。
見た途端、竜馬の身体に熱い疼きが走り抜けた。
「お前……」
「んだよ。ビッチのくせに何言ってんだ、って思ってんだろ? しゃぁないじゃん! お前に見られるの、恥ずかしいんだから……」
竜馬は、自分が何をしたのかよく覚えていなかった。
ただ、耳の後ろを真っ赤にしながら不貞腐れたように呟く深雪を見た瞬間、身体がブワッと熱くなり理性が吹き飛んだ。
気付くと竜馬は、深雪のズボンを下着もろとも足首から引っこ抜き、膝を開かせて股間に顔を埋めていた。
「やっ! バカバカッ、離せッ!」
根元を指先で摘み、舌先を尖らせて、真っ直ぐに伸びた茎を下から上へと舐め上げる。
カリ首の溝を一周し、唇の先で細かく吸いながら、唇だけの愛撫でじれったく竿の部分を往復し、完全に硬くなったところで、真上からすっぽりと口に含んだ。
「や、ダメ、それマジ、ヤバいからっ……」
根元まで咥えて口をすぼめながら吸い上げると、深雪の昂りが竜馬の口の中で反りを増す。
深雪が自分の愛撫に反応するのが堪らない快感だった。
咥えられるのを恥ずかしがり、必死で脚を閉じようとする仕草にも興奮する。泣きそうな声で懇願されたり、顔を隠されたりすると逆にもっと脚を広げて音を立てて啜り上げてやりたくなる。
竜馬の思惑を知ってか知らずか、深雪は、竜馬の頭を鷲掴みにしながら、必死で腰をくねらせた。
「ああっ……んはあぁぁっ……も、やめ……やっ……」
「なんで? 先っぽ、もうこんなトロトロにして……」
「やぁっ! バカ、舐めんな! ちょ……マジでダメッ! あひっ……」
「ほら、根元まで垂れてる。お前、感じてくると先っぽが赤くなんだよな。こっちも、ヒクヒクしてる……」
先端から伝い下りる蜜を舐め取り、根元まで舐めたところで上に戻らず陰嚢を伝い後孔に舌を這わせた。
「あっ、だっ、だめっ、そこは……」
初めて触れる秘部に、竜馬の欲望が唸りを上げる。
深雪の制止を振り切り、両脚を持ち上げて頭の方へ返してお尻を上に向け、後孔がよく見えるよう、お尻の割れ目を左右に開いた。
欲望を止められなくなることを恐れ、今まで敢えて見ないよう自分自身にブレーキを掛けてきた。それが今、竜馬の目の前で恥じらいながら震えている。
その魅惑の蕾をじっくりと見詰め、ヒクヒクと蠢く入り口に舌の先を当て、ゆっくりと揉み解すように舐めた。
「ハァァっ、あッ、だからそれ……ダメッ、ダメって、言ってるのにィィッ!」
じわじわと表面を押し舐め、深雪が切なく喘ぎ始めたところで口を離し、ベッドの下の収納引き出しからローションを取り出して指先に垂らす。こぼれないよう素早く後孔に塗り付けると、深雪が、「ひゃっ!」と叫んで脚をピンと跳ね上げた。
「なに! ウソだろ! なんでそんなもんがある……んっ……ひぁっ、あぁぁっ」
深雪の問いを無言でやり過ごし、後孔に塗り付けたローションを指先で中に沈めていく。
想像より遥かに狭くて熱い内側の感触に驚きながらも、竜馬は、差し込んだ指をネット情報の見よう見真似で動かし、深雪の感じるポイントを探った。
ここだという確信は無かったが、暫くすると深雪の喘ぎ声が裏返り、その場所を重点的に責めた。
「あっ、あっ、だめっ、そこ、いやっ」
「気持ち良い、の間違いだろ?」
「バカッ……んあんっ、んあっアァっ、ダメッ……」
受け入れることを知っている肉壁は、竜馬の指先を従順に受け入れ柔らかく変容する。
一本二本と指を増やし、三本目を入れて馴染ませたところで指を引き抜き、自身のペニスにローションを塗り付けた。
募る想いのせいだろう、竜馬のペニスは自分でも驚くほどガチガチに硬くなり、これ以上ないほど雄々しくいきり勃っている。
その熱くたぎった先端を深雪の後孔に当てると、観念したのか、深雪が身を任せるように自分から脚を開き、はぁぁっ、と深い息を吐いた。
「キツかったら言えよ……」
「ん……」
先の部分を挿入し、そこから、肉壁に押し付けながら奥へと進んで行く。
経験したことの無い熱さと締め付けに、竜馬の中の快楽の種が一斉に芽吹き始める。
深雪もまた、全てを受け入れ委ねるように竜馬の熱を包み締め付けた。
「ああ、あああっ、ああっ、ーーっぁ」
「深雪……ッ……」
「あっ、そこっ、ダメッ……」
深雪の喘ぎ声を聞きながら、感じるポイントを意識して埋め込むと、声がワンオクターブ上がって裏返って肉壁がキュッと締まった。
「あ、だめだめっ、そんなとこまで……」
「まだ半分だ……って……」
「あああっ、はっ、入るっ、入って……るっ……んあっ」
根元まで埋め込み、ぴったりと吸い付いた肉ヒダが程よく緩む頃合いを見計らい、ゆっくりと引き抜き、再び押し入れた。
「ああああん、あっ、あっ、も、やぁっ、やダァ」
深雪の腰幅の狭い腰を掴んで軽く持ち上げ、肉壁を押し分けながら奥へ奥へと突き入れる。
最初は小さく小刻みに、次第にゆったり大きく抜き差しし、緩急を付けながら深雪の中へ思う存分押し入り、深雪の身体が上下に大きく揺さぶられるほど力強く腰を突き入れた。
「ひっ……やだァもう、そんなしたら、ゃ……あ、も、出ちゃぅ……」
「気持ち良い?」
「ダメぇ、だめっ、も、イクゥ……イッちゃう……」
首に手を回してしがみく深雪の背中に腕を回し、そのまま強く抱き締めながら奥深くへと腰を沈める。
「竜馬ッ……あっ、だめっ、やだやだっ、も、イクぅ! イッちゃうからっ!」
「もう少し我慢して……」
イヤイヤと首を振る深雪の髪の香りを肩越しに嗅ぎながら、ラストスパートとばかり腰を突き上げた。
「ハッ、やぁっ、や、ダメぇッ、も、ダメッ、イクッ、イク……」
叫ぶなり、深雪の肉壁が竜馬をキュッと締め付けビクビクと痙攣しながら吸い付く。
瞬間、焼け付くような熱さとともに鋭い快感が竜馬の全身を駆け巡った。
「深雪……俺も…もうッ……」
「イッて……竜馬も……イッて……」
キスをねだったのはどちらが先だったのだろう。
目が合った瞬間、どちらかともなく顔を近づけ、お互い貪るように唇を啜り合っていた。
「深雪ッ……深雪ッ……うぅっ」
深く長い絶頂を迎えながら、竜馬は、身も心も深雪と溶けてしまったような、今再び、深雪と一つになれたような感覚に浸っていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
後日。
下校時刻の雑踏にまみれながら、竜馬は学生寮までの道のりを歩いていた。
小林から受けた傷は派手な打撲痕となって背中に残り、一週間以上経った今でもふとした拍子にズキリと痛む。
クラブでの一件は、あれだけの騒ぎを起こしたにも関わらず、竜馬はもとより突入した生活隊にもこれといったお咎めは無く、気味が悪いほどあっさりと終息した。生徒の間では、比留間が裏で手を回したともっぱらの噂であったが真相を知る者は誰もいない。
それよりも皆の関心は、深雪が郷田と別れて竜馬と付き合い始めたことの方にあった。
不良グループのトップ、泣く子も黙る学園の大ボス郷田邦彦と、本校のみならず他校にもその名を轟かす学園きってのセックスシンボル、佐川深雪の破局は学園内をいまだかつてないほど騒つかせた。
深雪と付き合うということは、イコール、竜馬が郷田を倒してボスになったということを意味する。
しかしそれはあくまで郷田が竜馬との一対一のサシの勝負で敗北した場合であって、今回のような特例には適用されなかった。
比留間の策略により、深雪は、郷田の浮気が原因で別れ、傷心のところを竜馬に慰められ絆されて付き合い始めたことになっていた。
深雪は、自分が浮気されたことになっていることに腹を立てていたようだったが、竜馬は学園のおかしなシステムに囚われることなく深雪と付き合えることを素直に喜んだ。
一方、郷田は、父親のゴタゴタの影響で母親の実家に行き、もう学園には戻らないと聞かされていたが、母親の実家に行ったのは身内の不幸が理由で、三日と経たず学園に戻ってきた。
比留間にそのことを尋ねると、そんなことを言った覚えはない、と悪びれもせず答えた。
郷田が戻ったことにより、竜馬は、深雪を奪ったことに対する報復を恐れたが、郷田は何も言わないどころか、自分が浮気をしてしまったのだと仲間に説明した。
まるで狐につままれたような展開に竜馬は面食らったが、一番驚いたのは、郷田の浮気相手が比留間で、今現在、比留間が郷田の恋人になっているということだ。
この時になって初めて、竜馬は、この一連の深雪奪還劇が、比留間の策略であったことに気が付いた。
今にして思えば、全ては比留間の言葉から始まったのだ。
「しかしまぁ、ずいぶんと手の込んだことをしてくれたもんじゃないか……」
「そお? 君、素直に動いてくれたから案外簡単だったよ?」
「お前って奴はっ!」
相変わらず足の踏み場もない雑然を絵に描いたような比留間のアジトで、竜馬は、パソコン画面からゆっくり振り返る比留間の少しも悪びれない顔に溜め息をついた。
「なにその顔。君の望み通り全て丸く収まったんだからいいじゃない。まぁ、だからといって深雪ちゃんに悪い虫が付かないわけじゃないけど、その時は君が彼氏として毅然と追い払いなよ」
「そういう問題じゃないだろ。こんなに周りを巻き込んどいて」
「周り、って、郷田くん? 郷田くんに文句は言わせないよ。深雪ちゃんが大変な時に助けてやらなかったんだもの。あんな奴、彼氏失格だ。しっかりお灸据えてやったから君らに手出しはしないよ」
「しっかり恋人の座に収まっておいてよく言うぜ。どうせ最初からそれが狙いだったんだろ?」
「狙いだなんて人聞き悪いな。純愛、って言ってくれよ」
「なにが純愛だ」
「なんとでも。そんなことより、邪魔者はいなくなったんだし、お互い、相手にとって最高の恋人になれるよう頑張ろうよ」
片方の頬に意味深な笑いを浮かべて言うと、比留間は、やんわりと細めた目をふいに見開き、挑むような目付きで竜馬を見上げた。
「そうそう、郷田くんに変な告げ口したらこっちも深雪ちゃんにあの映像見せるからそのつもりで……」
「貴様……」
竜馬は、言いかけた言葉を敢えて飲み込んだ。
どうあがいても比留間には敵わない。それに、比留間の口から出た、“告げ口”という言葉が妙に可愛らしく、その言葉に、郷田への純愛の一端を垣間見たような気がした。
竜馬は、憮然とした顔で睨み付ける比留間を溜め息でやり過ごすと、手にした紙袋を比留間の目の前に突き付けた。
「なにこれ?」
「深雪のスマホ。それとお前の仲間が深雪の家につけたカメラ。もう必要ねぇだろう」
「えー。スマホはいいけどカメラはダメだよぉ。これは生活隊へのエサなんだからぁ」
「エサだと?」
「うん、エサ。勘違いしてもらっちゃ困るけど、深雪ちゃんが郷田くんと別れたからといって、深雪ちゃんのコミュニティが解散するわけじゃないんだよ? 君だって、何かの時にはまた助けてもらいたいだろ?」
だから、元の位置に戻せ、と言わんばかりに、差し出した紙袋をそのまま突き返される。
再び差し出すものの、比留間は、元へ戻せの一点張りで一歩も引かない。そうこうしているうちに、学生寮の入り口で待たせておいた深雪が、竜馬の戻りが遅いのを気にして比留間のアジトを訪れ、比留間と竜馬の押し問答は不完全燃焼のまま終息した。
仕方なく、竜馬は深雪と学生寮を後にした。
「比留間くんに何の用だったん?」
竜馬は、「なんでもない」と言いながら、並んで歩く深雪の手を取り、指の間に指を絡めて固く繋いだ。
「え……人前……」
「恋人同士なんだからいいだろ?」
深雪は少し呆れたような、それでいて嬉しそうに笑った。
「お前、意外と独占欲強いのな……」
竜馬は、答える代わりに繋いだ手をギュッと握りしめた。
『お互い、相手にとって最高の恋人になれるよう頑張ろうよ』
比留間の言葉が呪文のように頭の奥で鳴り響く。
それが、もう二度と離したくない深雪の手の感触と絶妙に混ざり合い、しびれるような呪縛となって竜馬を取り込もうとしていた。
それは、かつての苦しい呪縛とは違う、竜馬の心の中心を疼かせる、とろけるように甘い呪縛だった。
おわり
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