セラフィムの羽

瀬楽英津子

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〜変わっていくもの、変わらないもの

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「早く……も……待てな……いッ……」

 亜也人あやとの熱っぽい声に急き立てられ、松岡は、慌ただしくシャツのボタンを外し、両手を後ろに回して袖を手首から引き抜いた。
 鍛えられた胸板が露わになると、亜也人が待ちきれないとばかり首に抱きついて激しくキスを迫る。
 目の前に突き出された唇に唇を重ね、黙ったまま噛むようなキスをしながらズボンのファスナーを下ろすと、亜也人の手が伸びてズボンと下着を脱がせ、剥き出しになった松岡の男根を握った。

「吉祥……はやく、これ欲し……」

 ホテルの駐車場で中途半端に終わらせた反動からか、松岡の生煮えになった男根は、亜也人に握られただけでたちまち硬く太く膨れ上がる。
 亜也人も松岡とのキスだけで身体の芯に火が点いてしまったようだ。
 焦らされた身体は空気の動きにさえ敏感になり、まだ何も触れないうちから、亜也人のペニスは薄っすらと赤みを帯びながら完全に勃ち上がり、お腹の上に伝い流れるほど蜜を滴らせている。
 後孔は松岡が表面に触れただけで指先にヒクヒクと吸い付き、中へと引き込むように蠢いた。

「やらしい……。待ちきれなくて俺の指先に吸い付いてくる……」

「やぁっ……焦らさないで……」

 喘ぐように収縮する入り口を指先で左右に広げ、中から覗く、うっすらと赤味を帯びたピンク色の粘膜を舌の先で突くように舐めた。

「ダメっ! そこ汚いから……ぁッ!」

「汚くねぇよ。こんな処女みたいな色して何が汚いもんか」

「ばかぁッ! あぁぁ……っ、んはぁっ」

 松岡が舌を差し込むたびに、亜也人が背中を仰け反らせてシーツを掴む。
 既に準備は整っている。
 念の為、ローションを垂らして指先を入れて中を広げるように回すと、肉壁が待ち兼ねたように松岡の指に絡み付き、緩く締め付けるように吸い付いた。

「すげぇな。俺のを扱きながら興奮したのか?」

「ンなこと……言うな……バカッ……ぁっ……」

 亜也人は、松岡の男根を扱きながら、もうどうにも我慢できないというような、それでいて、自ら快楽を求める自分を責めるように、申し訳なさそうな泣き出しそうな顔をして松岡を見上げている。
 恥ずかしくて死んでしまいたいと言っているような表情が堪らなくいじらしく、松岡は、一刻も早く亜也人を楽にしてやろうと、亜也人の膝を開いて脚の間に腰を据えた。
 
「ごめん……俺……中、汚な……」

「汚くねぇって。何度も言わせんな」

「でもまだ中にアイツらのが……」

「いいから黙って気持ち良くなってろ……」

 赤黒く反り勃つ男根にローションをたっぷり塗り付け、ぬらぬらと光る先っぽを入り口にピタリと付けた。
 途端に内側のヒダが鈴口から滴る蜜を啜るように吸い付き、収縮する。
 卑猥な動きに誘われるように、亜也人のお尻の肉を両側から掴んで開きながらズブズブと中に埋め込むと、亜也人が、はあッ、と叫んで眉間にシワを寄せる。
 もう何度もこうしているというのに、挿入が始まると、いつも決まって、怖がるような恥ずかしがるような不安気な顔をする亜也人が愛おしく、松岡は、亜也人の表情を見ながらわざとじらすように根元まで埋め込んだ。

「きっ、吉祥、うっ、動いてッ…」

 肉壁が、隙間なくみっちりと嵌った肉棒を押し返す力を弱め、柔らかく締め付けるように馴染むのを待ってからじっくりゆっくり腰を動かす。
 最初は浅い部分を出し入れし、だんだんと深くしていって、突き当たりまで来たらグイッと腰を突き上げて奥を揺さぶる。
 亜也人が、むうッ、と呻くのを見下ろしながら、今度はそれを根元ギリギリまで引き抜き、一気に奥まで突き入れた。

「あああッ! はぁあっああんっ!」

 仰け反り気味にして腰を振ると、カリの部分が亜也人の敏感な場所に当たり、亜也人が悩ましげな喘ぎ声を上げる。
 重点的に攻めてやろうと、挿入したまま亜也人の腰を膝の上に引っ張り上げ、太ももを掴んで股間に引き付けるようにして突き上げた。

「ダメッ! そんなしたら……すぐ……んぁっ!」

「一回イッたぐらいじゃ収まらないだろ? 遠慮しないでどんどんイケっ!」

「やだぁッ……」

 今度は、両脚を真っ直ぐに伸ばした状態で胸の前で抱き抱え、ぴったりと脚を閉じさせる。こうすると自然と中が締まり、肉壁がキュウキュウと絡み付く。
 とろけるような熱さとヌメッた粘膜の感触、松岡を締め付け纏わりついて離れない肉壁に松岡の男根がズキズキと脈を打った。

「クッソ! あんま、締めんな。そんな締めたら持たねぇ……」

「しらな……いッ……吉祥のが、おっきぃ……からぁ……ッ……」

「ああクソっ!」

 焦らしている余裕は無かった。欲望がプライドを上回り、松岡は本能のまま腰を突き上げた。
 
「やっ、あ、深いッ! いきなり、そんな、しな……っでぇ!」

 再び脚を開かせ、亜也人を背中が浮き上がるほど担ぎ上げ、腰を大きく動かして根元から奥までを激しく突きまくる。
 猛り勃った男根が感じる部分を擦りながら奥を突くたびに、亜也人が松岡の腕をギュッと掴んで甘えた声を漏らし、それが可愛くて同じ動きを何度も繰り返した。

「気持ちいいか? 亜也人……」

「ん……気持ち、いいッ……んぅ……」

「こっちも凄いことになってるぞ……」

 言いながら、滴る蜜でビショビショになったペニスを扱き上げる。
 手の中に握り込んで親指で先っぽをグリグリすると、亜也人が肩を竦めて足の指をギュウッと曲げた。

「はひッ……あっ……やぁッ……」

「玉が身体にめり込んでるぜ。早く出したい、ってうずうずしてる。苦しいだろ? 我慢せずにたっぷり出せよ」

「あああああ、あっ、やっ、やぁ、だぁっ!」

「嫌じゃないだろ? こんなトロけた顔してるくせに……」

「嫌っ! ダメダメッ! も、ダメッ……イッちゃうっ、イッちゃうからッ!」

「イケよ……」

「馬鹿ぁッ! んあッ、ア……ぁあ、イクッ! イッちゃ……ぅんっ!」

 叫ぶが早いか、亜也人が身体を硬直させ、白いお腹をビクビクと波立たせながら精液を吐き出した。

「俺もイッていいか……?」

 答えを待たずにグイッと腰を突き入れると、亜也人が泣き出しそうに顔を歪めながら、「待って!」と懇願する。

「ダメッ……今……イッたばっか……だからあっ……」

 痙攣の収まらない肉壁が男根に絡み付いてキュンキュンと締め上げる。
 亜也人は切なそうに眉を顰め、熱く湿った吐息を吐きながら啜り泣くような喘ぎ声を上げている。
 亜也人が自分の下で快感に震える姿を見るのが松岡に取っては一番の快感だ。
 他の誰がどんなふうに亜也人を抱こうが、亜也人が本当に感じている時にどんな顔をするのかを知っているのは松岡だけだ。
 駿は、亜也人を「よがっている」と言ったが、そうでないことは松岡が一番良く知っている。
 身も心も快感にとろけると、亜也人は、今のような、恥ずかしそうな、怯えたような、泣き出しそうな、それでいて小さく微笑んでいるような、無垢な幼女のような顔をするのだ。
 その顔を目の前に、松岡は、高まる射精感に身体を火照らせながら、絶頂に向けてラストスパートをかけた。

「あああぁぁっ……だめっ……また、イキそ……」

「あっ、亜也人……俺も、イクぞ……イッていいか……」

「イッて! このまま出して! このまま俺の中に……」

「亜也人ッ……」

「お願いッ! 俺の中に出して……吉祥ので俺の中……綺麗にしてッ!」

「くぅッ……亜也人ッ!」

 ズキン、と、お腹の奥が疼いた途端、鳥肌が立つような快感が背筋を駆け上がり、松岡は亜也人の中に熱い想いを吐き出した。
 亜也人も殆ど同時に果て、ペニスの先から白い粘液を漏らしている。
 男根を挿入したまま、亜也人の身体の上に覆い被さるように倒れ込み、亜也人の額に小さくキスをして頬を撫でた。
 紅潮しているせいか、頬に走る傷が最初に見た時より赤く痛々しく見える。
 自分が付いていながらまた亜也人を傷付けてしまった。
「ごめんな」と呟きながら、白い肌に走る赤い筋を唇でなぞり、小さく開いた口に唇を重ねて吐息ごと舌を絡め取った。
 亜也人が応えるように舌を絡めると、そこから深く長いキスが始まる。
 寄り添うような舌触りを味わいながら、松岡は、絶頂の余韻に酔いしれた。
 
 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 火の点いた身体は一度の射精ではおさまらず、結局、その後、亜也人を膝の上に乗せて腰を振り、たっぷりと射精してから身体を離した。
 男たちに犯されてからずいぶん時間が経っている。
 顔にこそ出さないものの、亜也人の身体が限界を超えていることは、松岡でなくとも察しはついた。
 松岡は、余韻もそこそこに、亜也人を抱き上げバスルームに向かった。
 自分ですると言ってきかない亜也人を宥めすかし、壁に両手をついて立たせ、脚を開いてお尻を突き出すよう耳元で囁いた。
 シャワーは程よい温度に調節されている。ヘッドを後孔の入り口に当てながら指で優しく広げ、中に溜まった精液を綺麗に洗い流した。
 亜也人は、悔しそうに目を堅く閉じて、「ごめん」と呟いた。

「なんでお前が謝るんだ……」

「だって……俺がちゃんとしないからまたこんな事ンなって……」

「お前のせいじゃない。お前は被害者だって言ったろ? 余計なこと考えてないで、今日はゆっくり休みな……」

 言ったものの、ついさっきまでの自分の行動を思い出し、「なぁんて、俺が言えた立場じゃねぇな……」と付け足した。
 しんみりさせる意図はなかったが、亜也人は項垂れたまま黙り込み、やがて、瞳一杯に不安を貼り付かせ、捨てられた猫のような顔で松岡を振り返った。
 
「軽蔑しないの……?」 

 松岡は、ためらいがちに振り向いた亜也人の鼻先を指でピンと弾き、わざと何でもないふうに答えた。

「誰が軽蔑なんかするもんか。第一、何でお前が軽蔑される? 軽蔑されるのは、お前があんな目に遭ってるのに助けてやれなかった俺の方だ。逆に、俺の方がお前に聞きたいよ。お前は、自分の恋人もろくに守れない俺を軽蔑しないのか?」

「するわけないよ! 吉祥はなんにも悪くないのに!」

「俺も同じさ。お前は何も悪くない。百歩譲って、お前も悪かったとしてもこれでおあいこだ。だからもう何も言うな」

 涙目になるが早いか、亜也人は、たちまち唇をへの字に曲げ、顔をくしゃくしゃにして子供のような泣きべそ顔で松岡を見上げた。
 
「ありがとう吉祥……。大好き……」

 切長の大きな目からぽろぽろと溢れる亜也人の涙を見ながら、松岡は、俯き加減に「ああ」とだけ答えた。
 口を開けば、亜也人の泣き顔に釣られて泣いてしまいそうで、つい素っ気ない返事になってしまった。
 松岡は、気持ちを悟られないよう、黙々と亜也人の身体を洗い流し、髪を洗った。

 亜也人をベッドに寝かせてリビングに戻りスマホを見ると、紀伊田きいだから何度も留守電が入っていた。
 紀伊田には、散らかしっ放しで出てきてしまったホテルの後始末と、置き去りにした駿の保護を頼んでいた。何か問題が起きたのかと慌てて掛け直すと、紀伊田は、「何してたんすか!」と電話口で息巻いた。

「よくもまぁあんな滅茶苦茶にしてくれましたねぇ。臭いわ、汚いわ、散らかってるわ。あれからシーツのクリーニングやら床の掃除やらで大変だったんですからね! 代金きっちり請求しますからそのつもりで!」

 あまりの剣幕に、松岡は、思わずスマホを耳から遠ざけた。

「悪い、悪い。たっぷり請求してくれ」

「では、遠慮なく。それと、亜也ちゃんの服も回収してきたから明日にでも届けます」

「ああ、済まない。それと、駿しゅんはどうした?」

 松岡が切り出すと、紀伊田は、「そうそう」と、それが本題だと言わんばかりに声のボリュームを上げた。

「その、駿、ってヤツですが、どっか行っちまったんですよ」

「どこかへ行った?」

「松岡さんに言われた通り加山さんとこでかくまってもらうつもりで部屋で待たせてたんですが、俺らが部屋を片付けてる隙にいつの間にか居なくなっちゃったんです。あの脚だからそう遠くへは行ってないと思うんですけど、いつ居なくなったのかも解らないし、探そうにも、こんな時間じゃ顔も良く見えないし、松岡さんに電話して行きそうな場所聞こうかと思ったんすけど全然繋がらないし……。だから、明日また探してみようと思って引き返してきたんすけど……」

 明日ではおそらく間に合わない。
 しかし、今、松岡が動けば、かえって内藤の目を引くことになる。
 そうでなくとも、駿の泊まっていたホテル一帯は石破組のシマで、もう既に漫画喫茶やナイトクラブ、サウナあたりの情報網に引っ掛かっている可能性もあった。
 出来るなら助けてやりたいが、こればっかりはどうしようもない。
 松岡は、電話口の紀伊田にこれ以上の詮索を断り電話を切った。
 紀伊田とのやり取りを聞いていたらしく、ベッドルームへ戻ると、亜也人が寝返りを打って松岡の方へ顔を向けた。

「あいつ、いなくなったの?」

 松岡は頷き、亜也人の枕元にそっと腰を下ろした。

「近くの漫喫にでも行ったんだろう。奴のことが気になるのか?」

 亜也人は肯定も否定もせず、ただ悲しそうに俯いた。

「あいつ、良二の恋人なんだって。俺に、『良二の中から出て行け』って言ってた。良二のことが凄く好きなんだ。だから、俺のことが邪魔だったんだ……」

「勝手な奴だ。お門違いにもほどがある」

「そうだけど、でも、それだけ良二のことが好きなんだよ」

「だからって、何をしても良いわけじゃない」

「解ってる。でもあいつ、凄く辛そうだった。もしも……もしもだけど、良二が、あいつのことをちゃんと好きでいたら、多分こんなことにはならなかったと思う。あいつはあんなに良二のことが好きなんだ。良二だって、自分のことあそこまで想ってくれる相手と一緒にいた方が絶対幸せなのに……ひとの気持ちは上手く行かないね……」

 何処を見るわけでもなく遠い目をしながら亜也人は言った。

「お前はそれでいいのか?」

 松岡は咄嗟に口走っていた。
 亜也人は、松岡の声に身体が自然に反応したかのように、反射的に、「え?」と松岡に視線を向けた。

「それでいい、って、何が……?」

「だから……積川があいつとそういう関係になっても、お前は何ともないのか?」

 亜也人は一瞬驚いたように目を丸め、その後、笑っているような泣いているような何とも言えない表情を浮かべて松岡を見た。

「良いよ。良いに決まってる……。何でそんなこと聞くの?」

 咎めるような、それでいてひどく悲しそうな顔だった。
 見た途端、松岡は、亜也人にそんな質問をしてしまったことを後悔した。
 敢えて問い正さなくとも、答えは亜也人の嘘偽りの無い言葉と澄んだ瞳の中にちゃんとあった。
 亜也人は、嘘や誤魔化しで他人を欺けるほど器用な人間ではない。
 亜也人の言葉には、駿と積川良二の幸せをただ純粋に願う以外、何の含みも無かった。
 それでも問い正したのは、亜也人の口からハッキリと聞きたいという松岡のエゴだった。
 亜也人の中では、おそらく既に積川に対する気持ちの整理はついている。自分だけがいつまでも亜也人の過去にこだわり積川を意識している。その事実を、松岡は今頃になってようやく理解した。

「大の大人がカッコ悪りィ……」

 聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟き、松岡は、しょんぼりと目を伏せる亜也人の頬を両手で包み、唇に触れるだけの軽いキスをした。
 そのままおでこに顔を付けて鼻先を擦り合わせると、亜也人が戸惑うように長い睫毛を瞬かせる。
 濁りの無い、黒く澄んだ大きな瞳を見詰めながら、松岡は、亜也人に聞こえるように、「すまない」と呟いた。

「お前の気持ちを疑うようなことを言ってしまって悪かった。……不安だったんだ」

 思いがけず漏れた本音に、松岡は自分自身で驚いた。
 胸に引っ掛かっていた思いが、自分でも気付かないうちにスルッと漏れていた。
 自分で言っておきながら気恥ずかしさが込み上げ、松岡は、動揺を隠すように亜也人から目を逸らした。
 亜也人は、頬を包む松岡の手を、逃がさないとばかり強く握り締めた。

「吉祥……ごめん。俺、吉祥を不安にさせてたんだね。でもこれだけは信じて。俺は本当に本当に吉祥のことが大好きだから……」

 その先は聞くまでも無い。亜也人が最後まで言い終わらないうちに、松岡は、亜也人の唇に唇を寄せていた。

「吉祥……?」

 薄っすらと開いた唇を割り、舌を差し入れて、唾液を啜りながら絡ませ合う。
 後頭部を掻き抱いて夢中で唇を吸い、キスの合間に、「好きだ」と何度も囁いた。

「ガキ臭ぇこと言ってすまない。俺も……お前が好きだ」

「吉祥……あっ……俺も……んんッ……」

「あ、亜也人……絶対に離さねぇ。……俺の側にいたいか? なぁ、亜也人……」

「いたい……んぁッ…い、一緒にいたい。ずっと一緒にッ……いたいよ……吉祥……んふッ」

 食べ合うように舌を絡ませ、おでこ、目蓋、頬、鼻の頭、唇にとどまらず、お互いがお互いの肌に肌を擦り付け、息を弾ませながら、そこかしこに狂おしいキスの雨を降らす。
 全てを包み溶かしていくような蕩けそうな幸福感の中で、松岡は、頭の片隅にこびりついた積川良二の亡霊がバラバラに砕けて消えて行くのを見た。
 恐れるものは何も無い。
 キスをねだる亜也人に、「俺のことが好きか」と尋ねると、亜也人が甘えるような上目使いでコクンと頷く。
 緩んだ唇から覗く赤い舌を突き出させて自分の舌で丸めて口に含み、松岡は、込み上げる愛おしさを口移しで伝えるように丁寧に舐め溶かした。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 ふくらはぎを襲っていたキリキリとした痛みは、いつの間にか脚全体をズキズキと疼かせながら駿の歩行を妨げていた。

『どのみち消される』
『成功しようがしまいが結局最後は殺される。お前は所詮“捨て駒”だ」

 松岡に言われた言葉が頭の中をぐるぐる回る。
 どうしてこんなことになってしまったのだろう。
 死にたくない、という思いが、激しい動悸と焼けつくような熱さとなって駿の胸の内側を暴れ回る。
 松岡は、ここにいれば仲間が助けに来ると言った。
 しかし、初対面の、しかも、亜也人をあんな目に遭わせた人間を松岡がわざわざ助けるとは思えなかった。
 迂闊に信用してはいけない。信用すればまた痛い目に遭う。
 事実、内藤にも騙されていた。

『理由が解っているからまだましだ』

 理由が解っているから解決策が解る。周りの奴らは、理由が解らないから解決策が解らず延々と悩み続ける。理由が解っているお前は運が良い、と内藤は言った。
 その“理由”である、寺田亜也人を良二の前から消してしまえば全て上手く行く。
 しかし結果はこのザマだ。
 内藤の言う通りにしなかった自分が悪いのか。考えたところで、失敗してしまった今となってはもはや後の祭りだ。
 内藤がどれほど冷酷な男であるかは三宮界隈でもチラホラと耳にした。
 何より、内藤本人を目の前にすれば嫌でも思い知らされる。
 松岡の言う通り、自分は消されるのだと駿は思った。
 成功しようがしまいがどのみち消される。失敗したのなら尚更無事では済まされないことぐらい子供でも解る。
 しかし、だからといって諦めることなど出来る筈が無かった。

 死にたくない。死にたくない。死にたくない。

 死への恐怖で頭を一杯にしながら、駿は助けを求めて夜の街を彷徨っていた。
 頼るものは良二以外何もない。
 追い詰められた精神状態の中、駿は、良二を求めてうろ覚えの路地を歩いていた。

「助けて良二……」

 脚を引き摺りながらふらふらと歩き続け、もう一歩も歩けないというところで見覚えのある看板が目に飛び込んだ。

 ーーーClub Empress(クラブ エンプレス)

 ようやく辿り着いた、良二のいる場所。 
 スポット照明に照らし出された無機質なロゴを目で追いながら、駿は、往来する人の肩に転々と掴まりながら入り口を目指した。
 すると、両開きの重厚なドアが開き、奥からジーパンに長袖Tシャツを着た良二が現れ、駿は思わず声を上げた。

「良二!」

 良二は、駿に気付くと、「しッ!」と唇の前に人差し指を立てて駆け寄り、駿の腕を掴んで隣の路地へ連れ込んだ。

「お前、なんでこんなとこにいるんだよ。てか、怪我してんのか。ったく、大人しくしとけって言ったのに……。うちのシマで変なトラブル起こすなよな」

「良二、俺……俺……」

「なんだよ。言っとくが、今、立て込んでっから店ン中には入れねぇぞ。怪我の手当てなら明日、組長オヤジに頼んでやっから、今日のところは大人しくホテルへ帰りな」

「良二……あの……」

「あ? ああ金か。ほら、二万やるから好きに使え。そうそう、俺と会ったこと、誰にも言うんじゃねぇぞ」

「待って!」

 話を終わらせ走り去ろうとする良二を、駿は咄嗟に引き止めた。

「良二は何処へ行くの?」

 ん? と振り向きざま、良二は、眉間にシワを寄せる癖のついた睨み付けるような目を瞬く間に柔らかく緩め、駿が今までに見たこともないような、はにかむような笑顔を浮かべた。

「ちょっと人に会いにな」

「人って、誰? まさか……亜也人?」

 駿の言葉に、良二は再び目元を尖らせた。

「なんでお前がその名前を知ってる……」

「良二がいつも言うから……。アレ、してる時……」

 良二は、「そうか」と、バツが悪そうに苦笑した。

組長オヤジには明日って言われてたんだが待ち切れなくてな。早く悪い奴から取り戻してやんねぇと……」

 トゲトゲしさも威圧感もない、牙を抜かれて手懐けられた獣のような穏やかな表情だ。
 見た瞬間、駿の頭の中で何かが壊れた。
 こんなのは俺の知ってる良二じゃない。
 
「行かせない!」

 込み上げる衝動を、駿は抑えることが出来なかった。

 
 
 
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 翌朝。
 眠れない夜を過ごした松岡は、リビングのソファーで紀伊田からの電話を受けた。
 亜也人を取り戻したものの、積川良二の問題が解決されたわけではなく、行方不明になっている駿のその後も気になっていた。
 積川良二はおそらく亜也人との接触をまだ諦めてはいない。駿については、既に内藤の手下に取り押さえられ、最悪、漁船で沖へ運ばれている可能性もあった。
 七代目山崎組組長襲撃事件の犯人探しの真っ只中という緊迫した状況下だけに、紀伊田にはくれぐれも無茶な聞き込みはしないよう言いつけておいたが、もともと警戒心の薄い男だけに一抹の不安は拭えない。
 亜也人の身体と心の傷の心配はもちろん、いくつもの不安が重なり、松岡は殆ど一睡も出来ずに朝を迎えた。
 それだけに、紀伊田の報告は松岡に予想外の衝撃を与えた。

「積川良二が襲われましたッ!」

 開口一番、天地がひっくり返ったような慌てぶりでそう告げる紀伊田の声を、松岡は頭の中で呆然と繰り返していた。
 積川が襲われた。一体誰に。
 絶句していると、松岡の気持ちを察したように紀伊田が声を荒げた。

「あの、駿、って野郎ですよ! 昨夜、そいつに襲われて病院に搬送されたらしいんです」

「駿に?!」

 積川良二が襲われたのはもちろんのこと、襲ったのが駿であることも松岡を驚愕させた。

「濃硫酸をぶっ掛けたんですよ。少量だったらしいですが、顔にモロに喰らったらしく、失明の恐れもあるとかで救急搬送されました」

「濃硫酸?」

「そうです。ポケットの中に隠し持ってたみたいです」

「どうしてそんなものを……」

酸攻撃アシッドアタックに使うためでしょ? 亜也ちゃんに使おうと思って持ってたんじゃないですか? どうして積川に使ったのかは解らないけど、亜也ちゃんが被害に遭わなくて本当に良かった」

 亜也人が襲われている場面を想像し、松岡はゾクリと背筋を震わせた。

「それで駿は……」

「留置場で勾留中です」

 紀伊田の話しによると、事件は、昨晩、クラブ〈エンプレス〉近くの路地裏で起こり、たまたま通りがかった通行人が積川の悲鳴に気付いて駆け付けたところ、積川が顔を押さえながら地べたを転げ回り、その傍らで、手に茶色い小瓶を握った駿が呆然と立ち尽くしていた。
 その後、発見者の通報によって積川は救急車で病院に搬送され、駿は警官に取り押さえられ、パトカーで警察署へ連行された。
 奇しくも、昨晩、クラブ〈エンプレス〉では、店のオーナーである内藤が親団体である山崎組の幹部の接待中に竜星会の若衆に殴り込みを掛けられるという騒動が起きており、積川が襲われた時も、店の中はまだその後始末でゴタつき、そのせいで、積川が店を抜け出したことに気付く者は誰もおらず、気付いた時には、積川は既に救急車で病院へ運ばれた後で、顔面蒼白の駿が手錠を掛けられてパトカーに乗せられるところだった、とのことだった。
 騒動自体は、殴り込みを掛けた竜星会が護衛のために待機していたスティンガーの武闘派メンバーに返り討ちにされるというお粗末な結果に終わり、内藤側にも表立った被害は出なかったが、そのせいで積川の発見が遅れ、詳しい容体も解らないまま病院へ送る羽目になったばかりか、犯人である駿の身柄をみすみす警察に引き渡してしまったことは内藤にとっては大きな損害だった。
 身内に仇なす者は、自らの手で「返し」をするのが闇の世界の暗黙のルールだ。
 内藤は間違いなく駿を生かしてはおかない。
 そういう意味では、駿が警察に現行犯逮捕されたことは駿にとっては不幸中の幸いとも言えた。

「松岡さんに保護するよう言われたんで、一応、加山さんに弁護士付けてもらうよう頼んどきました。松岡さんがよければ、弁護士が見つかり次第すぐに接見してきますけど、どうします?」

 松岡は返事に迷った。
 一度は助けると決めたものの、亜也人に酸攻撃アシッドアタックをしていたかも知れない相手を果たして助けて良いものか。
 とはいえ、何もしなければ、内藤が警察に手を回して駿を取り戻し、制裁を加えることは目に見えていた。

「お前はどう思う……」

 考えでもラチが開かず、松岡は、駿に何の怨恨も無い紀伊田に尋ねた。
 紀伊田は一瞬黙り込み、やがて、様子を窺うように遠慮がちに言った。

「俺は、松岡さんに保護するよう頼まれてたのに昨夜あいつを逃しちまったから……。今更だけど俺がちゃんと捕まえとけばこんなことにはならなかっただろうし、そういう意味じゃ、俺にも責任は有るっつーか、正直このまま放っておくのはやっぱり後味悪い……かな」

「つまり、助けろ、ってことか」

「松岡さんが嫌でなければ」

 紀伊田がそう答えることは何となく予測はついていた。
 松岡は覚悟を決め、駿が内藤の手に渡らないよう手を尽くすよう紀伊田に頼んだ。
 紀伊田は、ホッとしたように、「了解」と明るく答え、しかしすぐにまた声を顰めた。

「ところで、このこと亜也ちゃんには何て説明します?」

 松岡は返答に詰まった。
 松岡も考えなかった訳ではない。
 しかし、ただでさえ自分を責める傾向の強い亜也人のことだ。駿が積川を傷付けたことを知れば自分のせいだと思うに違いなく、ましてや硫酸を掛けられたとなれば、積川が自分の身代わりに被害に遭ったとも考えかねない。
 駿に拘束され、男たちに理不尽な陵辱を受けて身も心も傷付いた亜也人をこれ以上傷付けることはさすがに胸が痛んだ。
 何も答えないでいると、紀伊田が痺れを切らしたように口を開いた。

「まさか、言わないつもりですか?」

 松岡は、咄嗟に声を荒げた。

「お前には関係ない」

「そんなこと言って……。さすがに今回はバレますって。第一、こんな重要なこと亜也ちゃんに隠すなんてどうかしてる」

「何とでも言え」

「松岡さんっ!」

 松岡の態度に苛ついたのか、今度は紀伊田が声を荒げた。

「いい加減、亜也ちゃんを信用してあげて下さいよ! 亜也ちゃんはもう子供じゃない。亜也ちゃんならきっと大丈夫……」

 紀伊田の言葉が引き金を引いた。
 胸の底から突き上げる激しい衝動に突き動かされるように、松岡は感情のまま叫んだ。

「大丈夫だと? あんなことがあったばっかりなのに、どうしてそんなことが言える! あいつが大丈夫だという証拠がどこにある!」

 空気がピリリと張り詰めるのが電話越しにもはっきりと感じ取れる。松岡もまた、胸の内側から湧き上がる震えを止めることは出来なかった。

「あいつが平気でいられる証拠がどこにある? あいつが傷付かないという保証がどこにある?」

「松岡さん……」

「あるなら見せてくれ。でなきゃ俺は何も言わない……」

 子供じみた言い分であることは解っている。
 紀伊田の言うように平気なのかも知れない。それでも、亜也人が傷付く姿や悲しむ姿を見るのは、松岡自身が耐えられなかった。

「あいつは、傷付いてもどうせ平気なフリをして俺を誤魔化すんだよ。悲しそうな顔をすると俺が悲しむから、わざと平気な顔して笑うんだ。俺がしっかりしなきゃならねぇのに、あいつにそんな気ィ使わせて……。そんなのはもうたくさんだ! あいつが良くてもこの俺が嫌なんだよ!」

 焼けつくような激しさと、寒空にしとしとと降る雨の中に立たされているような、吹きっさらしのホームに一人取り残されているような物悲しさが同時に押し寄せる。
 真ん中にあるのは、亜也人への狂おしい想いと自分自身への不甲斐なさだった。
 思うようにならない苛立ちが、悲痛な叫びとなって喉を突き破った。
 叫びは、電話口にまとわりついていた緊張感を、瞬く間に、やりきれない気まずさへと変えた。
 紀伊田は、それ以上、何も問い詰めなかった。

「それだけ解ってるなら、ちゃんと本人に伝えてあげればいいのに……」

 冷静になった頭に、紀伊田の声が優しく響く。
 松岡は、怒鳴られたことに気を損ねるわけでもなく、気持ちを察して引いてくれる紀伊田に、「すまない」と小声で詫びた。
 紀伊田は無言で了解し、「湿っぽいのはヤメ!」と言わんばかりに明るい口調で場の空気を切り替えた。
 
「じゃあ、駿とかいう小僧の件は俺に任せといて下さい。……それと、積川の容体も分かり次第すぐに連絡します」

 松岡は、「ああ」と短く答えた。

「あまり無茶するなよ」

「大丈夫ですよ。俺だって、自分の身が危うくなるような真似はしません。それより松岡さんも少し身体休めて下さい。どうせ昨夜も寝てないんでしょ? 後は俺に任せといて!」

 それだけ言うと、紀伊田は、松岡の心配をよそに一方的に電話を切った。
 松岡は、話しを途中で切られた収まりの悪さと紀伊田への申し訳なさを胸に残したまま亜也人の眠るベッドルームへ戻った。
 亜也人は、シーツを頭まで引っ被り、身体を丸めて小さな寝息を立てている。
 一人で眠る時、亜也人は、全身をシーツにすっぽりと包み、両手で自分の腕を掴みながら胎児のように身体を小さく丸めて眠る。
 まるで自分で自分を抱き締めるようにして眠る亜也人を見るたびに、松岡は、亜也人が抱えた孤独や不安、亜也人が胸の奥に隠した甘えたい気持ちや守られたい気持ち、愛されたい気持ちを見せつけられているような、なんとも言えない切ない気持ちに襲われる。
 自ら望んだわけでも無い、一人の人間が背負うには重すぎるほどの宿命の元に生まれ、過酷な運命の中を、ただ、自分の居場所を求めて懸命に生きてきた亜也人。この小さな身体を、理不尽な悪意にこれ以上晒したくは無かった。
 だからこそ、積川との縁を断ち切らせなければならない。
 松岡は、ベッドの上に静かに身体を滑らせ、亜也人を労るように、亜也人の身体をシーツごと背後から抱き締めた。

「大丈夫だから……。今はゆっくりお休み……」 

 俯いたうなじにシーツ越しに口付けおでこを擦り寄せると、松岡の気配を感じたのか、亜也人がモゾモゾと身体を動かし松岡の方へ寝返りを打つ。
 無意識の中でも、自分を探して身体を擦り寄せてくる姿がいじらしく、松岡は、振り向いた亜也人を腕の中にすっぽりと収めて胸元に引き寄せた。

「ん……吉祥……?」

 力を入れたつもりは無かったが、亜也人はすぐに薄っすらと目を開いた。

「もう……朝……?」

 まだ完全に目覚めていない眠そうな目が、松岡を見上げて睫毛を瞬かせる。
 見た瞬間、狂おしい庇護欲が胸を突き上げ、松岡は、衝動的に亜也人を抱き締めた。

「んんッ……なに、苦しいよ……」

「悪りィ。もう少しだけこうさせてくれ……」

 シャンプーの残り香と、亜也人の、ほんのりと甘く芳ばしい汗の匂いが鼻先をくすぐる。
 泣きたくなるような優しい匂いを胸一杯に吸い込んで味わうと、亜也人が松岡の背中に回した手をギュッと丸めてシャツを掴んだ。

「何かあった?」
 
 松岡は、「何も……」と言い掛けて口を継ぐんだ。
 周りの空気に敏感な亜也人だけに、下手にシラを切れば、かえって不安を煽ることにもなりかねない。
 なにより、今はゆっくり寝かせてやりたかった。
 答える代わりに、松岡は、亜也人の頭を自分の肩の上に手繰り寄せ、赤ん坊を寝かしつけるようにポンポンと叩いた。
 松岡の意図を察したのか、亜也人は何も言わずに松岡の肩に顔を埋めた。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 
 傷害事件で現行犯逮捕された駿は、十九歳という年齢から少年法の適用となり、警察署に勾留された後、少年鑑別所に送致された。
 加山の計らいで勾留された翌日のうちには弁護士と接見出来たものの、家族と疎遠であることと、不良青少年集団スティンガーとの関わりを懸念され一時帰宅は叶わず、少年鑑別所送りは免れなかった。
 加山にとっては不本意な結果だが、鑑別所にいる間はさすがの内藤も手出しは出来ず、駿にとってはむしろ最善の措置とも言えた。
 弁護士の話しでは、初犯であることと、駿本人が素直に罪を認め反省していることから再犯の可能性は低く、少年院送りにはならずに済みそうとのことだった。
 もっとも、鑑別所を出れば命の保証は無い。その先は駿の運に頼る部分が大きく、松岡としては、加山が何か良い解決策を見付け、駿がそれに従ってその後の人生を無事に生きていけるよう願うばかりだった。
 一方、積川良二の容体は、内藤サイドから徹底的な緘口令が敷かれているらしく、紀伊田の情報網を持ってしても確実な情報は得られなかった。
 それだけに、内藤の突然の待ち伏せは、松岡を震え上らせた。

 張り込み調査に向かうためマンションを出て駐車場へ向かうと、見覚えのある黒の高級ワゴン車が松岡を待ち構え、ゆっくりと後部座席のドアをスライドさせた。

「お久しぶりです。松岡さん」

 感情の読めない単調な口調で言うと、内藤は、細いフレームの眼鏡を指で押し上げながら、端の切れ上がった鋭い目を松岡に向けた。

「一体なんの用だ」

「なんの用とはずいぶんですね。昇進祝いがなかなか届かないんでわざわざ貰いに来たんですが……」

「何が昇進祝いだ」

 七代目山崎組組長襲撃事件は、竜星会若頭、木野修平きのしゅうへいが首謀者として山崎組の報復を受け、その後、竜星会は解散。加藤高嗣かとうたかつぐ亡き後空席になっていた若頭のポストには、襲撃事件解明に貢献した内藤が、解明からわずか二週間足らずで後釜に収まるという異例の大昇進を遂げて幕を閉じた。
 この昇進で、内藤は親団体である七代目山崎組の若頭として晴れて念願の執行部入りを果たした。
 対抗勢力との抗争と見られた襲撃事件も、蓋を開ければ、嫉妬と妬みの果てのただの人情劇。金にモノを言わせて直参となった内藤を良く思わない竜星会若頭の木野が、それを良しとする竜星会会長の加藤までもを疎ましく思うようになり、内藤に罪を被せて二人もろとも葬り去ろうという無謀な計画のもとで実行された愚行とも言えた。
 七代目山崎組の最有力二次団体としてその名を轟かせた竜星会が、たかが嫉妬で一瞬にして崩れ去る。
 一寸先は闇、というのがこの世界の通例だが、七代目山崎組の後継者の座にまで上り詰めながら、部下の嫉妬で命を奪われ、代々受け継がれてきた竜星会という一大組織を自分の代で潰してしまった加藤高嗣かとうたかつぐの気持ちを思うとあまりに忍びない。
 しかしこれもまた運命なのだ。

 内藤は、押し黙る松岡を見てニヤリと笑い、足組みをした膝の上に置いた手をひらりと返して、ここに座れ、とジェスチャーした。
 長年の夢を果たしたわりに、内藤の表情に浮かれた部分はまるで無かった。

「それで、俺になんの用だ」

 促されるまま隣に座ると、内藤は、細く尖った神経質そうな眉を吊り上げて薄く笑った。

「だから、昇進祝いですよ」

「何をよこせってんだ……」

「目玉ーーー」

 と、言いたいところだが、と、内藤は、わざと勿体をつけるように言った。

「良二が失明することにでもなったらあのガキの目ん玉をくり抜いて良二にやろうと思ってたが、なんとか失明は免れましたからね。全く、つくづく運が良い野郎ですよ、あのガキは」

 内藤の言う“ガキ”が亜也人を指していることは聞かなくとも解った。
 松岡は、太ももの上で握り拳を作って身構えた。

「何が望みだ」

「あのガキを一晩貸していただきたい」

 獲物を追い詰め舌舐めずりするように、内藤は、動揺する松岡を愉しむように目を細めた。

「そんな怖い顔しないで下さい。なにも一生返さないと言ってるわけじゃない。ほんの一晩、貸してくれればいいんです」

「バカを言うな。亜也人がどんな目に遭ったか知ってるのか!」

 内藤は、「だいたいは」と、悪びれもせず答えた。

「知っていながらどうしてそんな酷なことが言える! あいつをどうするつもりだ!」

「どうもしませんよ。いつものように一晩男の相手をするだけです。それに、寺田が襲われたのは私のせいじゃありません。あの男……駿とか言いましたっけ。あいつが私に逆らって妙な欲を出すからだ。私の言う通りにしてればあっさりカタがついたものを……。木野といい、駿といい、どうして人間は分不相応な欲で己の身を滅ぼすのか……」

酸攻撃アシッドアタックをけしかておいてよく言うぜ! 積川が掛けられた硫酸はお前が駿に渡したんだろう! あんなものが亜也人に使われてたら……」

「あのガキに使われるのはダメで良二はいいとでも? これはまたずいぶんと勝手な言い分だ」

「お前がやらせたようなもんだろう!」

 声を荒げると、三列シートの最後尾で息を潜めていた内藤の部下が、瞬時に松岡の首に腕をかませてを後ろから締め上げ、松岡はグッと呻いて背中を仰け反らせた。
 内藤は、部下に、松岡を離すよう言い付けると、ゴホゴホと咳き込む松岡を親しみの無い冷酷な目で見据えた。
  
「確かに、間接的にはそうなりますね。しかし、積川が襲われたのは全く想定外ですよ。正直とても憤慨してます。同じ被害に遭うにしても、積川と寺田じゃ全く重みが違う」

「重みが違う……?」

 内藤は、松岡を見据えたままゆっくり頷いた。

「積川と寺田とじゃ、そもそも存在価値がまるで違うんですよ。積川はこの世界の頂点に立てる逸材だ。しかし寺田は、男を滅ぼす魔の凶器。早い話しが、積川は“無くてはならない人間”、寺田は“在ってはならない人間”というわけです」

「貴様、何、ふざけたこと……」

 松岡は反論したが、内藤には届いていなかった。

「奴と関わった人間がどうなったかはあなたもその目で見てきたでしょう? 奴は、男の寿命を縮め、身を滅ぼす凶器なんですよ。本人もそれを自覚して、自分のせいで他人が不幸になると嘆いている。だから私があいつを楽にしてやろうと思ったんです」

「楽にしてやる? 亜也人を傷付けたかっただけだろう! 積川が亜也人に入れ込んでるのが気に入らないだけだ!」

 内藤は、「まぁ、それもありますが」と、相変わらず、他人を小馬鹿にしたような、冷淡な口調で話しを続けた。

「私はむしろ寺田を助けてやりたいんです。諸悪の根源は寺田のあの類い稀な美貌です。あれのせいで皆が狂わされる。あいつだって、そのせいで昔から性的欲望の対象にされてきた。あんな顔に生まれなければ、今頃、普通の若者として普通の暮らしていたでしょう。だから、その美しさを壊してやろうと思ったんですよ。そうすればあいつは救われる。積川だって、寺田が醜くなれば今のように執着はしないでしょう。松岡さんにとってもその方が好都合なんじゃないですか?」

 カッ、と全身の血が沸き立つような熱さに襲われ、松岡は、振り上げそうになった拳を反対側の手で押さえた。

「好都合だって? 愛する人を傷付けられてそんなふうに思う奴がどこにいる!」

「またそんな強がりを……。それより、さっきの話し、受けて下さいますよね」

「誰が受けるか!」

 松岡は咄嗟に叫んでいた。

「どうせ相手は積川なんだろう! あいつには絶対に会わせない!」

 抑えきれない憎悪が頭の中をギシギシと軋み回る。今にも爆発しそうな怒りに身体を震わせる松岡とはうらはらに、内藤は、声色一つ変えずに言った。

「だったら何だと言うんです。相手が誰でもあなたは断れない。寺田の進退の半分は私が握っていることをお忘れですか?」

 もはや我慢も限界だった。
 出来るならこんなことは言いたくない。しかし、内藤の身勝手な言い分に、怒りのリミッターが限界を超えた。

 松岡は、

「それがどうした……」

 内藤の暗く澱んだ瞳を睨み付けながら、胸に渦巻く怒りを絞り出すように言った。

「こっちには紀伊田がいるのを忘れたか……」

 紀伊田の名前を出した途端、表情の無い内藤の目が初めて表情を浮かべた。

「脅しのつもりか?」

 いつも余裕たっぷりの切れ長の険のある目が、珍しく焦りと苛立ちに揺れている。 
 内藤の動揺を目の当たりにしながら、松岡は、内藤から視線を逸らさず、畳みかけるように言った。

「お前が俺の大事なものを傷付けるなら、俺もお前の大事なものを傷付ける。お前が亜也人にしたように、紀伊田を大勢に輪姦まわさせてビデオ撮影してやろうか。もちろんクスリを使って一晩中だ」

「そんなことして只で済むと思ってるのか」

「済まなくても構わない。あいつのためなら、俺は、自分の人生などどうなっても構わないのさ……」

 内藤は何も言わなかった。
 松岡は内藤と視線を合わせたまま、内藤に背中を見せないよう後ろ向きに車を降りた。
 内藤は何か言いたそうに見ていたが、松岡が視線を逸らさず睨み続けると、やがて後部座席のドアを閉めるよう合図した。

「あいつのためなら俺はどうなったって……」

 走り去る車の背中を睨みながら、松岡は言い聞かせるように繰り返した。
 
 内藤の車が完全に見えなくなったところで、再びエレベーターホールへ引き返し部屋へ戻った。

「あれ。忘れ物?」

 張り込み調査へ行くつもりでいたが、そんな気分では無くなった。
 松岡は、キッチンに立つ亜也人に、「予定変更だ」と伝え、カフェオレを注ぐ亜也人を背後から抱き締めた。

「っぶねー! なに、いきなり」

 起きて間もない亜也人の身体は、昨夜の情事の残り香を微かに漂わせながら、松岡の腕の中でじんわりと熱を帯びて行く。
 さっきまでの緊張が嘘のような心地良さに、松岡の胸に熱いものが迫る。
 この、泣きたくなるような幸せを失くすことなど考えられる筈も無かった。
 想いの丈を伝えるように、松岡は、亜也人の背中にぴったりと貼り付き、肩の上に顎を乗せて頬や首筋に小刻みにキスをした。

「ちょっ、危ないってば! ふざけんな、って……」

「ふざけてないさ……」

 亜也人の身体を腕の中で反転させ、キスをしながら、両手首を捕まえて後ろに置かれたダイニングテーブルに仰向けに押さえ付けた。

「吉祥……こんな、朝っぱらから、ダメだって……」

 逃げられないよう膝を割り、パジャマの上着をまくりあげて白く滑らかな胸を唇で撫で、ピンク色の小さな乳首を口に含んで舌の上で舐め転がす。
 唇でつまんで小刻みにキスするように吸い上げると、そういう愛撫に慣れた乳首が硬さを増して松岡の舌を押し返す。
 ぷっくりと起き上がった乳首を舐め回して強く吸い上げながら、もう片方の乳首を親指と人差し指で摘んで揉み潰すと、亜也人が背中を仰け反らせてぶるぶると身体を震わせた。

「ダメ……もうやだ、って……そんな、吸わないで……」

「こんなに硬く尖ってるのに? もうビンビンじゃん……」

「アッ、ばかッ……ァッ……」

 恥じらう亜也人を宥めるように、乳輪の周りを舌の先でなぞり、尖った乳首を吸ったり噛んだりしながら、頭を下げて、みぞおちから下腹部へと舌を這わせた。
 
「こっちは? どうなってんだ?」

 スウェットズボンの股間に手を伸ばし、硬くなり始めたペニスを手のひらに握り込んだ。
 生地の上から先端をグリグリと親指の爪で引っ掻くと、半勃ちだったペニスがみるみる硬さを増し、松岡の指先の周りの生地に濃いシミを作る。
 それを耳元で指摘すると、亜也人が、「馬鹿ッ」と拗ねたように口をへの字に曲げ、松岡の肩を叩いた。

「この、変態! エロ親父! 昨夜あんだけやったのにまだ足りないのかよ!」

「足りないね……。全然足りない。俺はお前のことが食べてしまいたいくらい好きなんだ……」

 ズボンと下着をまとめて足首から抜き取り、しなやかな脚を持ち上げて開かせた。
 太ももの内側に舌を這わせ、陰嚢や会陰をじれったく舐めたあと、ペニスを半分だけ舐め上げてまた陰嚢に引き返し、再びじれったく舐めてペニスの半分まで舐め上げた。

「も……意地悪すんな……バカっ!」

 一番の性感帯である裏スジへの愛撫を何度も寸止めされ、亜也人が焦れたように腰を浮かす。
 素直におねだり出来ない意地っ張りな態度が返って愛おしさを誘う。
 お望み通り舌の先を裏スジに押し付けて舐め上げると、亜也人が声にならない悲鳴を上げて前のめりに身体を浮かせた。

「あぁッ、ダメっ、そんな早くしちゃ……あっ」

「これを待ってたんだろ?」

「あん、んッ、嫌っ! そんなしたらすぐにイッちゃう!」

 ドクドクと脈を打つペニスの熱さと溢れる蜜を舌先で味わい、一旦頭を起こして亜也人の潤んだ瞳を見た。

「ベッドに行くか?」

 亜也人が松岡を見つめ返してコクリと頷く。
 背中に腕を回して抱き起すと、亜也人が両腕を松岡の首に回してしがみつき、松岡は、小さな子供を抱っこするように、亜也人のお尻を持ち上げて抱き上げた。
 この狂おしいほど愛おしい存在を手放すことなど、どうして出来ようか。迫り来る不安を掻き消すように、松岡は、手足を巻き付けて甘えるようにしがみつく亜也人の華奢な身体を抱き締めながら、離さないと心に誓った。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



後日。
人気の無い駐車場に、二つのシルエットが揺れていた。

「ボディガードも付けずに来るなんて、もし俺が拳銃チャカ持ってたらどうすんの?」

 紀伊田の陰りの無い真っ直ぐな目が、内藤の暗く陰った瞳を見据えていた。

「お前は拳銃チャカなんか持ってない。持ってたとしても打てないさ」

「わかんねぇよ? 俺だっていつまでもあんたを想ってるわけじゃないんだ」

「それは願ってもないことだ……」

 言い負かすつもりが逆に言い返され、紀伊田は悔しさに唇を噛み締めた。
 こんな男どうにでもなってしまえ、と思いながら、顔を見れば視線が貼り付き、話しかけられれば胸が騒ぐ。
 愛するべきなのか憎むべきなのか解らない。そんな自分が腹立たしい。
 悟られまいと毅然と振る舞うものの、内藤の突然の訪問はやはり紀伊田の心を乱した。

「こんなとこまで来て、一体何の用だよ」

 内藤は、紀伊田の心を見透かしたように、いつもと変わらない口調で言った。

「悪いことは言わない。松岡吉祥から離れろ」

「なんだよ、いきなり」

 思いもよらない言葉に戸惑う紀伊田をものともせず、内藤は、それすらも想定内というような口ぶりで先を続けた。

「あいつの側にいるのは危険だ。仕事が無いなら俺が安全な仕事を回してやる」

「誰があんたの仕事なんか受けるかよ。それに、俺は松岡さんに頼まれてやってるんじゃない、俺がしたくてしてるんだ」

「なら、なおさら離れた方がいい」

「どういう意味だ」

「意味なんて知らなくて良い。そうでなくても、今回の件で厄介なことになってるんだろう? 竜星会から情報を引っ張ってたことは知ってるんだ」

「そんなのあんたに関係ない!」

あつし!」

 普段滅多に感情を崩さない内藤が珍しく声を荒げた。
 この場に組の若衆がいたらおそらく瞬時に震え上がるだろう。しかし紀伊田は、「うるせぇ!」と、怯むことなく噛み付いた。

「あんたに命令される覚えはねぇよ。いつまでも周りが自分の思い通りになると思ったら大間違いだ。現に駿はあんたの言い付けを守らなかった。積川が襲われたのはあんたの計算ミスだ」

 腹立たしいのか泣きたいのか、自分自身をここまで追い詰める感情が一体何なのか、紀伊田自身にもよく解らなかった。
 紀伊田はただ、破裂しそうに鳴り響く心臓の鼓動を聴きながら内藤を睨み付けた。

「俺もあんたの言う通りにはならない。もう一度言ってやる。いつまでも周りが自分の思い通りになると思うな!」

 吐き捨て、踵を返し、マンションの入り口へと向かう。
 内藤の視線を受けた背中が焼けるように熱く、踏み出す足がもつれて上手く歩けない。
 いつもはあっさりと引き返す内藤が、珍しくいつまでもその場に踏み止まっていることも紀伊田を戸惑わせていた。
 内藤の統制力が崩れ始めている。
 何かが少しづつ変わろうとしている。
 目に見えない、おそらくまだ誰も気付いていない微かな異変を、紀伊田だけが些細な違和感として感じ取っていた。
 その違和感がこの先どう姿を変えるのか。それは、紀伊田にも松岡にも亜也人にも、彼らを取り巻く周りの誰にも解らなかった。
 
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