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〜この世で一番怖いもの
しおりを挟む「今回の件は、もともと竜星会がスティンガーの下っ端をそそのかして建仁会に喧嘩を売らせ、内藤と建仁会をドンパチさせて共倒れを狙う、って算段だったのが、思うように行かず、焦った木野が自ら自作自演の大勝負に出た、ってとこでしょう。てめぇんとこの組長が撃たれりゃ疑いの眼は自然と他所の組に行くし、弔い報復のドサクサに紛れて内藤を殺して全ての罪を着せてしまえば、石破組は解散。真相を究明しようにも“死人に口なし”で結局は闇の中……」
「真相なんてどうでもいいさ。俺が知りたいのは積川良二の動きだ」
「そんなこと言って。大枠を見なきゃ真相は見えない、っていつも言ってるのは松岡さんの方でしょ? 気になるのは解るけど、嫉妬もほどほどしとかないと目先が曇りますよ?」
嫉妬、という言葉に、松岡は、見開いた目をパチパチと瞬かせた。
「嫉妬? 俺が? 誰に?」
「決まってんでしょ? わざわざ言う必要あります?」
言いながら、紀伊田は、両手に持ったカフェオレ入りのマグカップの一つを松岡の前に置き、もう一つを自分の口に付けて軽く啜りながら向かい側に座った。
気を揉んでも仕方ないとは思いつつも、積川良二の動きが気になり、居ても立っても居られず紀伊田のところへ来てしまった。
本音を言えば、一刻も早く亜也人を迎えに行きたい。
しかし、いくら亜也人が気になるからと言って、本業である調査会社の仕事を疎かにするわけにはいかなかった。
特に今日は、今回の騒動が起こる前から依頼を受けていた素行調査のための張り込みに加え、来週報告書を渡すことになっていたクライアントから急遽予定を今日に変更して欲しいとの連絡が入り、それを片付けるまでは身動きが取れない状況になっていた。
もっとも、現実的には、松岡のマンションは既に積川良二に場所を特定されており、迂闊に連れ帰れば返って亜也人を危険に晒すことになる。
積川良二の親分である内藤が亜也人と積川を引き離したがっているという事情もあり、今回も二人が接触しないよう目を光らせているに違いなく、積川がそう易々と内藤の監視の目を掻い潜って亜也人を奪いに来るとは思えなかったが、それでも積川の過去の凶行を考えるととても楽観視は出来なかった。
だから慌てて連れ帰る必要は無いのだ、と、松岡は、すぐに迎えに行けない状況を自分にそう言い聞かせて受け入れた。
それでも、早る気持ちからか、夕方まで掛かると踏んでいた調査報告書の作成がことのほか早く片付いてしまい、先方へ届けるまでに時間が空いたとわかるや否や自然と紀伊田のマンションへ車を走らせていた。
自分と亜也人を一番近くで見守り理解してくれているという安心感からか、何かあるとすぐに紀伊田を頼ってしまう。
紀伊田といると、それだけで昂っていた気持ちが和らいで行くから不思議だ。一見いい加減に見えるのらりくらりとした物腰が、逆に、するすると緊張を解き気持ちを落ち着かせる。
癒し系という言葉だけでは収まりきらない、柔らかな真綿に包まれているような何とも言えない居心地の良さが紀伊田の周りにはいつも漂っている。
深く知る前は、ずば抜けて容姿が良いわけでも無い、ただ人懐こいというだけでやたらとモテる紀伊田を、こんな軽薄な男のどこにそんな魅力があるのかと眉を顰めて眺めていたが、今となっては、どうして男たちが紀伊田を欲しがり離さないのか、その理由が十分すぎるほど良く解る。
紀伊田の魅力は柔軟性だ。
紀伊田には、相手をどこまでも優しく受け止める柔軟性がある。
柔らかなクッションが衝撃を吸収するように、人間の尖った部分を柔軟に吸収し、傷付けることなく穏やかに力を解放させる。
紀伊田は、亜也人のことを、どんな罪人にも天国の扉を開けてやるマリア様だと言ったが、他人を受け止める懐の広さで言えば、紀伊田の方が亜也人の上を行くのではないかと松岡は思う。
だからこそ紀伊田の周りには人が溢れ、誰もが紀伊田に心を開く。だからあの内藤までもが紀伊田にだけは別の顔を見せるのだ。
紀伊田は、勢いのまま尋ねた松岡を、呆れながらも、拒むことなく家の中へ招き入れた。
「積川良二が絡むと途端に堪え性が無くなるの、自分でも自覚してるんでしょ? 嫉妬もほどほどにしとかないと、コントロール出来なくなってからでは遅いですよ?」
「冗談じゃない! 誰があんなヤツに嫉妬するもんか。俺はただアイツが亜也人に変な真似しないか心配なだけだ!」
「ならいいけど。……松岡さん、亜也ちゃんがまだ積川を想ってんじゃないかって心配してたみたいだし……」
それに、と、紀伊田は、含みを持たせた視線を松岡に向けた。
「嫉妬、ってある意味この世で一番怖いでしょ? 『愛は消えても嫉妬は消えない』なんて言うし、俺、松岡さんが嫉妬に狂ってバカやるとか絶対嫌っすから……」
「誰がするか」
冷静を装いながらも、答えるまでの微妙な間は誤魔化しきれなかった。
鋭いところを突かれ、松岡は、言い逃れるように紀伊田の背景に視線を泳がせた。
我を忘れる、というほど深刻ではないにしろ、積川良二に対する憎しみが日増しに強くなっているのは事実だった。
積川と亜也人との間にあった過去を思うたび、胸を掻き毟られるような疎外感と嫉妬が同時に沸き起こる。
済んでしまったこととはいえ、二人が恋人同士であったという過去が存在する限り、その苦しみが松岡の中から消えて無くなることは無い。
たとえ積川が亜也人と遠く離れていたとしても、共に過ごした記憶が二人の心をいつまでも繋ぎ続ける。
いっそ、この世から消えて居なくなってしまえばいい。
幾度となく頭を掠める積川への思いに、松岡は、自分自身で戸惑いを覚えていた。
それは愚痴などではないハッキリとした殺意だった。
「松岡さんに限ってそんなことは無いだろうけど、男の嫉妬はタチが悪いって言うし、なにより亜也ちゃんをこれ以上悲しませたくない……」
松岡の動揺を感じ取ったのか、紀伊田は、ふいに声のトーンを落とし、松岡にクギを刺すように言った。
亜也人を悲しませたくないのは松岡も同じ。
松岡は、無言のまま松岡の瞳をじっと見詰めて返事を催促する紀伊田に、「わかってる」と呟いた。
「俺があいつを悲しませるわけが無いだろ?」
松岡の返事に、紀伊田は安心したように口元を綻ばせた。
「だよね。……うん。解ってたけど改めて聞いて安心した……」
「なんだそりゃ。他人の心配してる暇があったらちったぁ自分の心配しろよ。最近、佐伯と一緒にいるとこを見ないが、お前らはちゃんとやってるのか?」
佐伯は、紀伊田の歳下の恋人で、高校教師として働く傍ら、週二回、ボランティアで亜也人の家庭教師をしている。
特定の恋人を持たない主義の紀伊田が珍しく半同棲を許すほどの相手だけに、そう簡単には離れないだろうが、思い返せば、今回の山崎組襲撃事件以降、いつも鬱陶しいぐらい紀伊田に貼り付いている佐伯の姿がどこにも見当たらない。現にこうして紀伊田の部屋を訪ねても、佐伯の存在を示す物はそこかしこに溢れているものの肝心の佐伯本人の姿は無かった。
タイミングの問題なのだろうが、いつもの夫婦漫才が見れないのは少し寂しかった。
「佐伯はどうしてるんだ? 学校の方が忙しいのが?」
佐伯の話題を振ると、紀伊田は、一瞬眉をピクリと緊張させ、それから、観念したというように、はぁーっと大きな溜め息をついた。
「実は、ちょっと距離を置かれてるんです……」
「なんだ、喧嘩か? まさか性懲りも無くまた浮気したとかじゃ……」
言い掛けたところで、はた、と気が付いた。
まさかお前、と目で訴えると、紀伊田はバツが悪そうにヘヘッと笑った。
やはりそうだ。
紀伊田が竜星会の動きを知らせて来た時に気付くべきだった。
紀伊田が情報筋から情報を引き出す見返りに与えるのは金ではなくその身体だ。
竜星会内部の人間しか知り得ない情報を松岡に話した時点で、紀伊田が竜星会の誰かと関係を持ち、情報を引き出していると考えるのは当然だった。
少し考えれば解りそうなものを、自分のことで精一杯で深く考えなかったことを松岡は今になって後悔した。
事件の裏情報など、そもそも紀伊田には何の得にもならない話だ。紀伊田が自分と亜也人のために身体を張ったのは確かめるまでも無かった。
「上手くやれてたつもりだったんすけど、あいつの行動力を舐めてたっていうか、俺の勘が鈍ったっていうか……」
「なんでそんな真似を……。佐伯にはちゃんと俺から説明するから! そうだ。俺が無理やりさせたことにしろよ。そうすれば佐伯だってきっと……」
「松岡さんのせいじゃないから!」
言い終わらないうちに言葉を遮られ、松岡はその先の言葉を飲み込んだ。
紀伊田は、黙り込む松岡を真剣な眼差しで見詰め、諭すように言った。
「別に松岡さんのためじゃない。こんなことダメだって自分でも解ってるんだけど、内藤が絡むと、どうしてもじっとしていられなくて、考えるよりも先に身体が動いちまうんですよ。内藤のことでは、これまでにも散々嫌な思いをさせてきたし、こんなことが続けばいつか佐伯が爆発することも解ってた。でも、どうしようもなくて……だからこれは俺が自分で招いた結果だから、松岡さんとは全然関係無い」
「だが、このまま佐伯と別れることにでもなったら……」
「それならそれで仕方ないって言うか。そうでなくてもチンピラまがいの俺と付き合ってるってだけで教師としての立場も危ういのに、不義理をしてるのは俺の方なんだから。それに……」
ハッキリとした口調から一転、ふいに、震えるような声で紀伊田は言った。
「それに、佐伯をダメにしたくないんです……」
「ダメに……?」
紀伊田は、ゆっくりと頷いた。
「コントロール出来なくなってからでは遅い、って最初に言ったでしょ? 実はあれ、佐伯に言われたんすよ。『内藤に嫉妬してる』って大真面目に打ち明けられちゃって。内藤のことが嫌いで、内藤なんていなくなればいいと思ってる、内藤を忘れられない俺のことも嫌いなんだそうです。このままだと何をしでかすか解んないから、自分の気持ちがコントロール出来なくなる前に俺と距離を置いて頭を冷やしたいんだとか……」
佐伯の思いが身につまされる。
問い掛けたのは咄嗟の衝動だった。
「お前はそれでいいのか?」
紀伊田は、ムキになる松岡を、意外といった顔付きで見た。
「いいもなにも、俺が内藤のことを忘れられないのは事実だし、そういう俺が嫌い、っていうなら俺にはなんも言えない。てか、松岡さんの方が佐伯の気持ちは解るんじゃない?」
「そうじゃなくて、お前は何も言わなくていいのか? 何も言わないまま、このまま佐伯に任せていいのか?」
「そりゃあ言いたいことはあるけど、言ったところで言葉じゃ伝わんない。いつも側にいて、笑い合って、抱き合って、あげられるものは全てあげてるつもりだけど、それでも足りないと言われたら、俺にはもうお手上げ……」
「離れて行っても構わないってことか……」
「構わない、って言うか、仕方無いと思ってます。まぁ良い機会だし、俺も自分の気持ちとゆっくり向き合ってみますよ」
遠い目をして言うと、紀伊田は、何かを吹っ切ったように表情を緩め、この話しは終わりだとばかり、丸めていた背筋をピンと伸ばして松岡を見た。
「そんなことより、内藤が竜星会に接触したってことは、今夜あたりカタをつける可能性が高いと見て間違いないっすよ。スティンガーが竜星会にDVDを投げ込んだのが二日前。内藤の執行猶予は大抵の場合48時間って決まってますから」
「それも密通者から引き出した情報か?」
「意地悪言わないで下さいよ。これは俺の経験からくる情報です。……あと、余計なお世話ですけど、加山さんとこに持ってく手土産、用意したんですか? 無理言ってお世話になったんだからそれくらい用意してくださいよ?」
正直、全く考えていなかった。
クライアントとの約束までまだ時間はたっぷりある。その間に買いに行くことに決め、加山の好みを聞こうと亜也人に電話を掛けた。
すると、いつもは三回コールぐらいで出る筈が今日はなかなか出ない。
続けて繰り返し数コール。
やはり出ない。
もう十回以上コールしている。
「亜也ちゃん、出ないの?」
松岡の様子が気になったのか、紀伊田が身を乗り出して松岡を覗き込んだ。
松岡は、規則的に鳴り続けるコール音を聞きながら、「ああ」と返事をした。
「ひょっとしたら寝てるのかも知れん」
「こんな時間に?」
「退屈だからベッドでだらだらしてるんだろ。まあいい。後でまた掛けてみる」
取り敢えず先に手土産を買いに行くことに決め、松岡は電話を切った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
熱く張り詰めた男根が、身体の奥でピクンと跳ねて精を放つ。そのまま射精の余韻を楽しむようにじっとした後、男が後ろを責めていた男根をズルリと引き抜くと、体内に直に吐き出された精液が後孔の入り口からドロッと溢れてお尻の割れ目をタラリと伝い流れた。
ーーーこれで三人目。
正確は二巡目の三人目だから六回射精されたことになる。
しかし、これで終わったわけでは無い。
「はい、じゃあ三巡目行こうか」
宇治原駿の号令とともに一番目の男が再び亜也人の股の間に立ち、カサ高く直立した男根をこれみよがしに入り口に押し付ける。
最初はおっかなびっくり亜也人に触れていた男たちも、一回目の射精を終えて二回目に入る頃にはすっかり欲望の虜となっていた。
もともとセックスに自信があるのだろう。とくにこの男は、肉体的な快楽を得る肉欲だけでは飽き足らず、自分の性技で亜也人を狂い泣かせたいという精神的な欲望に走り出していた。
口では、「スミマセン」と言いながら、男は、亀頭の先をお尻の割れ目にじらすように何度も擦り付け、既に充分開かれた脚を、太ももを掴んで更に大きく広げると、ようやく後孔へズブズブと男根をねじ込んだ。
「あああぁぁぁっ、あああ……っ、あああ……」
「スミマセンっ……亜也人さんッ……でも、ッ……すげぇイイッ……」
「はぁっ、あっ、あぁあぅっ」
芋茎の痒みが後孔の入り口から奥深くまでを容赦なく襲い、硬く反り勃つ男根が肉壁を削ぎ落とすように何度も行き来する。
痒みが激しいぶん、痒い部分をこすられる気持ち良さが何倍にも膨れ上がる。犯されているのに、欲求を満たしてもらっているような奇妙な感覚だ。
繰り返し、休むことなく後孔を貫く男根は、敏感な部分を、ご自慢の、亀頭と竿に段差のあるカリ高のカリ首でガリガリとこすりながら奥へ進み、更に奥のお腹に響く部分を揺さぶりながらその奥の内臓を突き上げる。
男が腰を突き上げるたび直腸の奥にビリビリとした衝撃が走り、腰を引くたび、カリ高の亀頭が肉壁を掻き出すようにズリ下がる。
痒いところを掻き毟る快楽と奥を突かれる快楽に、何度も意識を持っていかれ、そのたびに亜也人は下唇を強く噛み締めて耐えた。
ーーー吉祥。
崩壊寸前の亜也人の理性をギリギリのところで繋ぎ止めていたのは松岡への想いだった。
欲望だけのセックスなど、誰とやっても変わらない。
相手が誰だろうが、何回やろうが、やること自体は大差ない。痛くて、苦しくて、あさましい、満たされるものなど何もない、ただ、肉体を喜ばせるだけの快楽が通り過ぎて行くだけの単純な行為だ。
だからこれはセックスでは無い。
亜也人は本物のセックスを知っている。それまでは、男でありながら何人もの男に股を開かされ、後ろを貫かれる自分自身を激しく嫌悪したが、松岡と出会い、愛情のあるセックスを知った今、亜也人の中で、己の欲望を貪るだけのセックスはただの暴力に変わった。
自分は暴力を受けているのだから自己嫌悪する必要は無い。
どんなに身体が反応しようと、どんなに声を上げようと、心を奪われない限り自分の全てを征服されたことにはならない。自分を卑下する必要も無い。
身体の傷はいつか癒える。松岡が癒やしてくれる。
だから耐えれる。
男が絶頂に昇り詰めるのを待ちながら、亜也人は執拗に出入りする肉棒の感触に耐えた。
「んっ、アッ、亜也人さんッ! も、イキそッ! イクッ!」
ふいに男の動きが止まり、お腹の奥で男根がビクビク痙攣する。
直後、男がぶるっと身体を震わせて射精し、はぁーっ、という長い溜め息を吐いた。
三回目の射精だというのに、男の射精はすぐには終わらず、何度も腰をヒクつかせて亜也人の中に精を放った。
「めちゃめちゃ良い……。亜也人さんの身体ン中、どうなってんの?」
亜也人の身体の中に男根を埋め込んだまま言うと、男は、両サイドの男たちに膝を抱えられて浮かされている亜也人を男たちからもぎ取るように肘で持ち上げ、駅弁スタイルで下から揺さぶり始めた。
「あっ、ひィッ!」
男の行動に、右側の男が、「ズルいぞッ!」と怒りを露わにする。
亜也人が犯される姿を見ながら、次は自分の番だと股間を奮い勃たせていたところに突然“待った”をかけられたのだから当然だ。
しかし男は構わず亜也人を揺さぶり続けた。
「しょうがねーじゃん、チンポが全然おさまんねぇんだからッ……」
「あっ、やぁっ、あっ……」
押し込まれた男根が体重を受けて根元までズップリと埋まり、粘膜を裂いて突き上がった先端が内臓の奥を叩き続ける。
このままではいけない。
しかし、思った時には時既に遅く、お腹の底からじわじわと沸き上がる尿意に、亜也人は堪らず首を振った。
「いやぁぁッ! これ嫌ッ! やめッ!」
「そんな顔されて止めれるわけないっしょ? ……ホント、マジでヤバいよ亜也人さん……」
「やっ、あ! んっ、あっ、あ、ダメッ! やだッ!」
宇治原駿は、後方のベッドに膝組みをして座り、亜也人が突き上げられるさまを薄ら笑いを浮かべながら見ていたが、両サイドの男たちが、亜也人を見ながら昂ぶりきったイチモツを自らの手で扱き始めると、表情を一転、忌々しいものでも見るように「チッ!」と舌打ちした。
「あああ……亜也人さん……マジ、気持ち良いッ……すっげぇエロい」
駿の機嫌に気付く筈もなく、男は、亜也人の抵抗をものともせず、亜也人の膝裏に自分の肘を差し入れて担ぎ上げだまま、一心不乱に奥を突き続ける。
男が、フンフン、と鼻を鳴らしながら腰を突き上げるたび、ジリジリとした熱さが下腹に広がる。
ズイッと腰を入れられた時だった。
途端にペニスがピクンと脈を打ち、熱いものが勢い良く尿道を駆け抜けた。
「ああぁッ、やぁッ、はぁッ」
迸ったものが精液では無かったことは、男たちの歓喜の声を聞けば解る。
放出は一度では終わらず、男が腰をズンと突くたびに先端から透明な液体が噴水のように高く迸る。
尿道と射精感が同時に襲い掛かり、亜也人は、自分でも何を吐き出しているのか解らないまま、止まらない放出に顔を歪めた。
亜也人の反応はもちろん、嬉々とした男たちの声も興奮に拍車を掛けたのか、男は、絶頂感の続く亜也人を欲望のままに突きまくり、再び亜也人の中に精液を吐き出した。
男の射精は長く、しばらくして男根を引き抜ぬと、ぷっくりと膨れてヒクついた後孔から二回ぶんの精液が溢れ出た。
「潮吹きと同時にトコロテンとか、どんだけ淫乱なんだお前」
ベッドに座って一部始終を見ていた駿は、面倒臭そうにベッドから立ち上がり、自分の吐き出した透明な体液と精液を身体に貼り付け、股の間から他人の精液を滴らせながらぶら下がる亜也人を侮蔑混じりに見た。
「こんな恥ずかしい姿晒してまだ睨み付ける気力が残ってるんだ」
ムカつく、と吐き捨て、亜也人の前髪を掴み上げて噛み付くように睨み付ける。
怒りに震えながらもどこか苦しそうな駿の表情に亜也人がハッと目を止めると、駿は、前よりも更に顔を苦々しく顰め、鷲掴みにした前髪ごと亜也人の頭を乱暴に払った。
「いいさ。お前がその気ならもっともっと汚してやる」
呻くように言いい、男たちに、亜也人の手首に繋がれたベルトを外すよう目配せし、男たちがベルトを外して亜也人を床に降ろすと、四つん這いにして、「三人で犯せ」と命令した。
駿の言葉に、男たちの一人が亜也人の腰を掴んで背後に膝立ちなり、もう一人が顔の前に立って男根を頬に擦り付ける。残りの一人は、亜也人の身体の下に仰向けに潜り込み、亜也人の薄桃色の乳首を両方同時につまみあげた。
「ヤッ、いやッ、アッ……」
後ろでは、お預けを食らっていた男が後孔にローションを垂らし、男根の先端をグリグリと擦り付けている。
前方の男は、先走りでぬらついた肉棒を咥えさせようと亜也人の唇に押し込んでいた。
「どうした。コールボーイなんだから、目の前にチンコ出されたら大人しく咥えなきゃダメだろ?」
「ど……して……」
当然と言えば当然の疑問だった。
亜也人は、突き付けられた肉棒から顔を逸らして駿を見上げた。
駿は、恨みのこもった、しかしやはりどこか苦しそうな陰の浮かんだ瞳を亜也人を向けた。
「どうして? 言っただろお前が邪魔だって。お前がいつまでも良二の周りをチョロチョロしてんのが悪いんだよ」
「俺は……良二とはもう会ってない……」
「会う会わないの問題じゃないんだよ。これ以上お前に邪魔されたくないんだ!」
「邪魔なんかしない。良二の今の恋人はお前なんだろ? 良二には幸せになってもらいたいと思ってるんだ。だから俺は二人のこと応援して……」
「黙れ!」
ふいに言葉を遮られ、亜也人はビクッと肩を竦めた。
駿のただならぬ雰囲気に、男たちも咄嗟に動きを止めた。
駿は、「黙れ! 黙れ!」と癇癪を起こしたように叫ぶと、ズカズカと亜也人の側に近付き亜也人の頭を力任せに引っ叩いた。
「応援だと? そんなことお前にだけは絶対に言われたくない! 俺は応援してくれなんて頼んでない! いい加減、良二の前から消えろっつってんだよ!」
怒鳴りながら何度も亜也人の頭を殴り、それが済むと、今度はふいに亜也人の顎を掴んで口を開かせ、亜也人の前で股間を剥き出しにしている男の肉棒を掴んで口の中にねじ込んだ。
いきなり喉の奥を突かれ、亜也人がウゲッ、ウゲッ、と嘔吐いて唇の端から唾液を垂れ流す。
しかしそれも束の間、駿に後頭部を掴まれ強制的に頭を前後に動かされ、亜也人は、なす術もなく男の肉棒を喉の奥深くに飲み込んだ。
「あっああ、亜也人さんのイラマチオ、最高ーッ!」
息苦しさを鎮める暇も与えられず、今度は、ガッシリと掴まれたお尻からメリメリと男根が侵入する。
痒みの強いローションで無いのは幸いだったが、痙攣の収まらない肉壁をいきなり奥深くまで突かれ、身悶えるような身体の疼きに膝がガクガクと震えた。
「んはっ、キツい……けど、中、スゲェやわらけぇ……」
「んんんんっ、んぐぅっ、んっ、やはっ、やめれッ」
口とお尻を同時に責められ、その間も、下に入り込んだ男が両方の乳首を摘んだり引っ掻いたりしながら弄び、時折、強く捻り上げてはパチンと離す。
性感帯という性感帯を責められる快感と、喉を突かれる息苦しさ、肉棒を口一杯に咥えさせられる顎の痛みが混ざり合い、うわ言のような悲鳴が漏れる。
一方、駿は、涙とよだれで顔をぐしゃぐしゃにしながら喘ぐ亜也人を蔑むように眺めクスリと笑った。
「きったねぇなぁ。顔が綺麗でもやってることはビッチだぜ。こんなとこ良二が見たら一発で幻滅だ……。……てか、今は良二じゃなくて、松岡って奴だったか……」
松岡の名前に、亜也人の意識が敏感に反応する。
悶え泣きながらも、松岡の名前を出した瞬間の亜也人の表情の些細な変化を駿は見逃さなかった。
「へぇ。やっぱ、そういうの気になるんだ。そうだよな。いくら惚れてるからって自分の恋人がこんな淫乱ビッチじゃ百年の恋もいっぺんに冷めるってもんだ。……コールボーイだって知ってて付き合ってるとかいう話だけど、実際、こんな姿目の前にしたら完全にアウトだろ……」
いっそのこと、見せてやろうか。
そう言わんばかりの駿の挑発的な目に、亜也人の背筋に悪寒が走った。
加山の家のベランダから押し入って来た駿の瞳を見た時から、亜也人は、どうして自分が初対面の駿にここまで憎まれ、こんな目に遭わされなければならないのか理解に苦しんだが、今のこの駿のあからさまな悪意を目の前に、その理由が自分に対する激しい嫉妬であることにようやく気が付いた。
嫉妬が動機ならば、この理不尽な行動も納得出来る。
しかし、嫉妬には解決できる糸口が何も無いことを亜也人は知っている。
怒りと違い、嫉妬には原因となる経緯も誤解も無い。あるのはただ、相手に対する強烈な排除意識だけだ。
現に、駿は、『邪魔』だと言った。自分は、罪を犯した代償でこんな目に遭わされているのではない。自分は駿に排除されようとしてるのだ。おそらく身も心もボロボロにされて。
理解した途端、背筋の悪寒が戰慄に変わった。
「どおした、そんな怖い顔して。ごちゃごちゃ喋られると気が散るってか?」
動揺する亜也人を嘲笑うように目を細めると、駿は、唇の先を憎悪に震わせ、「ぶっ壊してやれ」と吐き捨てた。
「んあぁんんッ!」
駿の声とともに、後ろの男がズンッと奥を突き、前の男が、亜也人の後頭部を両手で抱えて自分の腰に押し付ける。
身体が前後に振られるほど激しく突かれ、そのたびに口の中の肉棒が窒息しそうなほど喉の奥を突く。
乳首は赤く腫れ上がるほど強くいじられ、苦しいのか気持ち良いのかも解らない無いまま、ウッ、ウッ、と喘ぐと、後ろの男が、「締まる、締まる」と呻いて更に腰の動きを早めた。
「あああ、マジでイイ。イキそ! あああーッ、イクッ、出る、出る、イクッ、ぬあッ、はッ!」
「んっ、んんっ、んんぅ、んっ」
「俺もッ! イク! あっ、イクッ! イクッ!」
「んふぅ、んっ、んぁッ」
もはや苦痛すら感じない。
上下の口に同時に吐き出され、飲み込めなかった精液が唇の端からゴホッと吐き出される。
後孔からは、たった今吐き出された精液がお尻の割れ目を伝い、赤く色付く肉壁が、抜かれてもなお物欲しそうにヒクついた。
行為はそれでは終わらず、前にいる男が亜也人の口から肉棒を抜き取ると、下で乳首をいじっていた男が、「俺の番だ」とすかさず亜也人を仰向けに寝かせ、両脚を担ぎ上げて深々と挿入した。
「あああぁぁぁっ、あっ、ひっ、ひあぁっ、あっ、やッ、も、許し……てぇっ」
イッたばかりの後ろを力任せに犯され、亜也人の口から、助けを求める切ない悲鳴が漏れる。
しかし、返ってきたのは駿の冷ややかな言葉だった。
「突かれながら精液垂らしといてよく言うよ。お前を女神みたいに崇め奉ってる奴らに見せてやりたいよ」
そうそう、と、ふいに声をワントーン上げ、わざと明るく駿は言った。
「お前の大好きな松岡にも見せてやらなきゃな。あ、でもさすがにこんな姿は見られたくないか……」
亜也人の背筋が再びゾクゾクと震えだす。
朦朧とした意識の中を声のする方へ視線を泳がすと、ぼんやりとした視界の中に駿のシルエットが浮かび上がった。
「なんだよ、そんな泣きそうな顔して。そんなに松岡に見られるのが嫌か? でも、残念だけどもう遅い。早かれ遅かれ松岡はここへ来ることになってるからね」
瞬間、全身が総毛立つような衝撃が亜也人を襲った。
ぼんやりとした意識が一変に覚醒し、奥歯がガチガチと震えて噛み合わない。
駿は、驚き慄く亜也人をせせら嗤うように見据えると、ふいに、亜也人の方へぬうっと顔を近付け、囁いた。
「それまで、たっぷり汚してやるから……」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
絶対に普通じゃない、と、松岡は、繋がらない電話を耳元で握り締めながら、恐怖にも似た胸騒ぎに神経を尖らせていた。
亜也人と連絡が取れなくなって既にニ時間以上経っている。
紀伊田の部屋で電話を掛けたが繋がらず、加山への手土産を買いに行った洋菓子店のショーケースの前で掛けた時も繋がらなかった。
タイミングのせいだとも思ったが、その後も一向に繋がらないまま今に至る。
電話に出ないことはこれまでにも何度かあったが、いつもなら遅くとも三十分以内には必ず折り返し連絡がある筈が、今日に限って何の音沙汰も無いのはどう考えても不自然だった。
もはや、気のせいでは済まされないレベルに来ていることは、松岡のこれまでの経験がハッキリと物語っている。
松岡は、顧客とのアポイントを三十分以上も早く切り上げ加山の家に向かった。
加山が帰宅する七時まではまだ間がある。念のため加山に電話しようとカーナビと連動させたハンズフリーのスマホを呼び出すと、同時に、液晶画面が加山の着信を知らせながら点滅し、松岡は慌て通話ボタンを押した。
「松岡さんっ! 大変です! 亜也人くんがッ!」
電話に出るなり、加山は、予定よりも早く仕事から戻ると家の鍵が開いていて、廊下に小さな血痕が点々と落ちていたこと、気になって慌てて二階へ上がると、ベランダの窓ガラスが破られて部屋はメチャメチャ、亜也人の姿はどこにも無く、床の上に走り書きしたメモが落ちていたことを息継ぎもせすに捲し立てた。
「私が用心しなかったばっかりに、こんなことになって本当に申し訳ない」
一瞬、頭が真っ白になった。
悪い予感が的中した。
積川良二の捜査網を舐めていたわけではなかったが、まさか、加山の家まで突き止められるとは思っていなかった。
加山の家に来れば、日中は亜也人一人きりになることは免れない。それでも自分と一緒にいるより安全だと思い避難させたのが仇となった。
こんなことなら一緒にいれば良かった。しかし今となっては後の祭りだ。
とにかく、一刻も早く頭を切り替えなければならない。
松岡は、電話口で平謝りする加山を宥め、メモの内容を聞き出した。
「駅前のシティホテルの名前と部屋番号が書いてあります」
「そこへ来いっていう意味か……」
加山の家に向かう予定を変更し、シティホテルへと行き先を切り替えた。
いつ連れ去られたのかは解らないが、連絡が取れなくなってから既に二時間以上経過した今、亜也人が何事もなく無事でいる可能性はきわめて低い。
亜也人が今どんな状況に置かれているかを想像しただけで、業火に焼かれるような怒りが身体中を渦巻く。
冷静になれ、と自分に言い聞かせ、深呼吸をしてハンドルを握り直した。
しばらくすると再び着信音が鳴った。
紀伊田からだ。
「松岡さんッ! 加山さんから聞きましたッ! メモにあったシティホテルですけど、積川が宿泊してるホテルに間違いありませんッ!」
「やはりそうか……」
冷静に答えたつもりだが、声の震えは誤魔化せなかった。
大丈夫かと尋ねる紀伊田に、大丈夫だと答えて電話を切る。紀伊田の声が消えると無理に鎮めた怒りが再び暴れ出し、身体中がわなわなと震え出した。
怒号が胸を突き上げ、気付くと松岡は、叫びながら内藤に電話を掛けていた。
「内藤! 貴様ッ! 亜也人を拐わせたのはお前の仕業かッ! 亜也人にもしものことがあったらお前も積川もまとめて殺してやるッ!」
内藤は、開口一番罵声を浴びせる松岡に動じることなく、いつものように抑揚の無い冷たい声で言った。
「なんですかいきなり」
「しらばっくれるな! 積川が亜也人を拐いやがった! お前も絡んでるんだろう。知らないとは言わせないぜ!」
「言い掛かりはよして下さい。どうして私がそんなこと知ってるんです。そもそも私は積川と寺田の交際には反対なんです。今だって寺田に積川の周りをうろついて欲しくは無い。なのに、どうして私が関係するんです」
「だが、現に亜也人は拐われた!」
「別の人間の仕業じゃ無いんですか? ストーカーか、或いは怨恨か。松岡さんが知らないだけで、他の誰かが寺田のことを狙ってる可能性は十分にあります」
「だがしかし……」「とにかく」
松岡は咄嗟に反論したが、同時に内藤に押し切られ、その先の言葉を詰まらせた。
「とにかく、私はその件には一切関係ありません。それに、積川は今、重要な任務で現場待機中です。それなのにどうして寺田を拐えるんですか? 私もこれから大事な来客を控えて忙しいんです。話がそれだけなら……」
「待てッ!」
電話を切ろうとする内藤を松岡は慌てて呼び止めた。
「なら、どうして亜也人はシティホテルに連れ去られたんだ! そこは積川が泊まってるホテルだろう?」
一瞬、変な間があった。
「ホテル……?」
「ああそうだ。わざわざ置き手紙を残したってことは俺とケリをつけるつもりでいる、ってことだろ!」
チッ、と舌打ちのような音が聞こえたのは松岡の気のせいだったのだろうか。
内藤は、少しの沈黙の後、今までと何も変わらない、落ち着き払った口調で、「では」と言って電話を切った。
「おい、待てッ!」
ーーーックショウ!
一方的に途切れた声に、松岡は、精一杯の罵声を浴びせ、アクセルを踏み込んだ。
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