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✯第一章 西の国〜前編〜✯
19話✯咲き誇れ……私と共に……✯
しおりを挟む翌日、ロアはシャーゼンの周りにある畑に三人で行った。
そして植えられてる作物に蕾があるのを見つける。
「アイリちゃん、私の弟子になりたくない?ちょっとテストするけど、どお?」
「え?いいんですか?魔鏡様に教えてもらえるのですか?」
「えぇ、でもいいかな?
大好きなお花を見たくても、軽く咲かせるのはいいわ、でも咲かせるだけにしてあげないといけないの、時期も大切ね……
でも貴女だけのお花畑を作るなら好きにしていいわ……
これは大切なことだからね。」
そう言いながらロアは二人を連れて、シャーゼンに帰りその畑の持ち主の家を訪ねた。
そして……ロアは何かを話して結構な金額のお金を渡している。
話は済んだようで次は花屋を何軒も周り、今の時期にあった花の種を大量に買い漁る。
「何をしてるのですか?」
「あなたの魔法の練習を見てあげるの、それで弟子にするかを決めるわ」
(ほよ~私はお家で本読んでていい?)
セリアが心で言う。
「セリアも手伝ってね。アイリちゃんの練習だから」
ロアは微笑んで言う。
セリアは思った……
(嫌な予感しかしないよ、その笑顔……)
(セリア、三年前からあなたに絡まれてその度に付き合ってあげてるのよ……
上手く帰れる様にしてあげるから、ちょっと手伝ってちょうだい)
ロアも面倒くさそうな顔をして心で話しかける。
セリアもロアを見かける旅に、戯れる様に絡んで行ったのを思い出して、肯いた。
アイリはメーンスの魔法を知らない様で、二人の会話は聞こえてない様である。
それだけ魔女としてはまだまだなのである。
そしてさっきの畑に着いた。
「さぁ、アイリちゃんこの畑の花を全部咲かせて見て、ただし咲かせるだけでお願いね。
ちゃんと実をつけれる様にしてあげてね」
「えっ……解りました。」
アイリは畑の前に立って、呪文を唱える。
「季節を司りし神々よ、季節を伝えしその花に恵みを……」
優しく可愛らしいその声が、畑一面に広がっていく……だが、それを聞いてロアは声に仮初の命が宿っている事に気づく。
「美しき美の女神よ、我にその美を与え……言葉話さぬ美の語り手に分け与えよ……
我、大地を彩りし
愛らしく美しき、語らぬ語り手と共にありし者……
咲き誇れ……私と共に!」
アイリ自ら編み出した詠唱なのだろう、ロアも知らない詠唱であり、花への想いが良く伝わって来くる……が……要らない物が普通に混じっていた。
だが、畑が七色に輝き、精霊達の力が溢れ出し次々と花が咲き始める。
アイリの魔法は生命の息吹を最大限に活性化させ、力強くそれでいて優しく無邪気で元気な魔力を持っていた。
その美しい光景をロアは見て……
(この子……なんで花に興味持ったの?
勿体なくない?
プリーストや、神官になるべきよね!
間違いなく神聖魔法使えるはずなのに……なんで魔女になったの⁈)
ロアは焦りながら見ていた。
(神聖魔法?ってホーリーエンジェルとかの?)
セリアは私使えるよと言う様に、白い翼をだしながら聞く。
(えぇ、それ……あの後調べたけど、ホーリーエンジェルだけは罪の昇華も要らない魔法なの……つまり、この子は天使になれる子だったのよ……
本当に変な魔女ね)
ロアがそう言うとセリアは思い出した。
ウィンが変な魔女が西の国に来ると言っていた事を……
セリアはふっと小さく笑い、スゥと息を吸い深く吐き出し風にその息を乗せた。
そして美しく花が咲き乱れた畑が広がる。
「魔鏡様、どうですか?」
アイリは笑顔でロアに言い、ロアが花を一つ一つ見ると……
「アイリちゃん、これだと冬まで咲き続けるわ、呪いを解いてあげて」
ロアは優しく言う。
「えっと……」
「私が言ったのは咲かせるだけよ、呪いとセットにしてとは言ってないわ、さぁ解いてあげて」
「……」
「どうしたの?解けないの?……」
「はい……ごめんなさい……」
「セリア、やってちょうだい」
(はーい!)
「え?」
アイリは何を?と言う様にセリアを見た瞬間!
(ファイアーウェイブ‼︎)
セリアは炎の翼を出して心で叫んだ。
いきなり畑の端から炎の壁が現れ、津波の様に花に襲いかかる。
「えっえぇぇぇぇぇぇぇ!」
アイリは驚きの悲鳴をあげる。
アイリが咲かせた花達は、なす術なく焼き尽くされて行く。
「待って、お花さんがお花さんが!」
アイリは泣きながらロアに言うが……
「いい?アイリちゃん、この花は散ることが出来ないと実をつけられないのよ。
種を残せない花は無意味な存在なのよ……
そして苦しいだけなの、私達長く生きた魔女と同じ苦しみを、花に味合わせるの?その方が酷くない?」
「えぇ……じゃあ畑は!
燃やしちゃったら農家さんが困るんじゃないですか⁈」
アイリは必死に焼かれて行く花を守ろうとする。
「大丈夫よ、私がお金を払って来年まで借りたから、なんならこの土地を買う?
私はどっちでもいいわよーー‼︎」
ロアは威勢よく言う。
「えぇ‼︎」
アイリはシャーゼンの街でのロアの行動を全て思い出した。
土地を借りて種を買い……全て練習が必要だと思っていたのだ。
「酷い……お花さん達が……」
アイリは燃やされて行く花達を見て泣いているが……
ロアは黒いローブを纏い優雅に仮面を身につけ、魔鏡の魔女の姿になる。
「酷い?私を誰だと思ってるの?
伝説にもなった魔鏡の魔女ロアよ……
魔女が酷い事を平気でするのは当たり前じゃない?
アイリがちゃんと魔法を使い分けれる様になるまで何度でもやるわよ!」
アイリは泣いている、畑は焼き尽くされ煙があがる。
「セリア!水‼︎」
(はーい!)
セリアが返事をして、水の翼をだしてその畑だけに、雨が降る。
「ほら、花達が燃えていい肥料になってるわね。
種を撒くのが面倒ね……」
ロアは楽しみながら言っていると。
「手伝おうか?」
風の魔女ウィンが来た、さっきセリアが呼んだのだ。
ロアは仮面の下でニヤけた笑みを浮かべながら種をウィンに渡す。
ウィンは手の平に乗せてふっと息を吹きかけると、風が吹き種が運ばれ撒かれて行く。
「さぁ、アイリちゃん咲かせてちょうだい……
また呪いもセットにしたら、どうなるか……」
「ひぃぃぃ」
アイリは怯える。
「今度は私も居るから……もっと豪華に燃やしてあげれるよ」
ウィンが楽しそうな笑顔で言い、セリアもにまにまする。
アイリはおどおどしながら、祈りを込めて花を咲かせる。
畑が素晴らしい輝きを放ち、種から芽を出してスクスク育ち、花が咲いて行く……
そしてウィンが確かめ、顔を横に振り焼かれて行く……
その行為は夜遅くまで続き、魔鏡の魔女ロアと風の魔女ウィン、そして魔女二人に紛れてセリアも楽しんでいる。
もはや魔女三人と言っても過言ではない。
花の魔女アイリの心の中にはマリーゴールドの花が咲き乱れ、時折絶望に満ちた哀しい悲鳴が聞こえて来る、暫くして……
「真面目にやりなさい、これはアイリとお花の為なのよ……」
ロアが疲れた様で楽しむのも飽きたのだろうか……セリアはまだまだ楽しんでいる。
アイリは焼かれて行く花を見続けて、自分に魔法の才能が無いのか落ち込み始めていた。
「お花のため?」
アイリが聞いた。
「えぇあなたの魔法は、今のままだとお花を滅ぼしちゃうわ……
自然に咲くお花が無くなったら悲しくない?」
「そんな……」
「それが治せないなら、セリアに浄化してもらって死になさい……
その方がお花の為よ……」
アイリは強烈なショックを受ける、花を愛し続けて魔法を覚えたが、花がなぜ咲くのかなんて考えていなかった。
そして弟子になるテストで消されてしまうかと思うと涙が溢れて来た。
「いや……そんなの……
私のお花畑作りたい……
珍しいお花も咲かせてみたいよ」
アイリはしおらしく、アイリ自身が花の様に悲しんでいる。
「なら……お花の為に優しくやりなさい」
ロアが優しく言う。
アイリはふと思い、自分の鞄から何かを取り出した。
何種類かの花の種だった……
「それは?」
ウィンが聞く。
「これが夜光草の花の種です。」
一つの種を手に取りアイリが言う。
「ちょっと夜光草って……そんな珍しい花の種……」
ロアが驚く、余りにも珍しい花でその花びらはアーティファクトの材料にもなる、それ以外に根も茎も葉も全て薬になる高価な花である。
夜光草は多くの意味で珍しい、時期が来れば、羽の様に軽い種を葉の先に実らせるのだ。
そして風に乗せて種を飛ばす、その美しい姿を見て優しい人は、天使の花とも呼んでいる。
だが高価過ぎて時期を待たずにそうでない人々が摘んでしまうので、本当に人里離れた山奥でも見かけ無くなってしまった。
「これ……どこで手に入れたの?
高くて買えないと思うんだけど……」
ロアが聞く。
「拾ったのです。」
「拾った?どこで?」
ロアが聞く……
「道端で……」
「……落ちてる物なの?」
「はい、たまに珍しい種落ちてますよ、鳥さんが運んで来たり、風に乗って来たり、夜光草はとても遠くまで種が飛ぶのですが……
私みたいにか弱い種なので……この辺りでは、ちゃんとしてあげないと育たないのです」
(………)
アイリ以外の全員が思った、自分で言うのかと。
アイリは夜光草の種を一つ優しく植える。
そして丁寧に詠唱を始めた、今までとは違い光の性質を強く感じる。
「季節を司りし神々よ、季節を伝えしその花に恵みを……
美しき美の女神よ、我にその美を与え……言葉話さぬ美の語り手に分け与えよ……
我、大地を彩りし
愛らしく美しき、語らぬ語り手と共にありし者……」
アイリは大切な夜光草の花を思い一生懸命に唱えていた。
「咲き誇れ……私と共に……」
その瞬間、静かに美しい青い光が夜光草の種を植えた場所から溢れ出し、美しい芽が現れスクスクと育ち、葉を広げ始めた。
その光からは先程まで感じていた、仮初の命は感じられない、自然な美しい命が溢れていた。
そして蕾が育ち、ゆっくりと白く美しい花びらが開いて行く。
夜光草の花が咲き光が収まる。
風の魔女ウィンが花を確かめる、アイリは唾を飲み様子を伺う。
ウィンが振り返り、最高の笑顔で言った。
「やれば出来るじゃん。
いいお花だよ、限られた命の輝きが本当に綺麗に咲かせてるよ」
ウィンがそう言った。
「本当に綺麗ね、月の光を浴びて輝いてるみたい……
私も久しぶりに見たわ」
ロアが仮面を外しながら言う。
「ロアさん、咲いてるの見たことあるの?」
セリアが聞いた。
「えぇ、八千年前までは、たまに見かけだけど、この二千年は全く見なかったわね。
懐かしいなぁ夜光草の花畑……
夜に輝く銀色の大地……」
ロアは懐かしむ様に言い寂しげな瞳を見せている。
「私……
その花畑を作りたいです!」
アイリが言った。
アイリは強く言ったが、その瞳は優しくそれでいて何かを見ていた。
夜光草の花畑、それはこの世の物とは思えない程美しいだろう……
だが、ロアの懐かしむ瞳が寂しげに語っていた。
ロアはさっきまで厳しかった、アイリが失敗すると、本当に魔女の様な殺気も時折り放っていた。
そんなロアが魔女っぽくない、一人の女性らしい瞳を見せたのだ。
花の魔女アイリは人の心を動かせるくらい素晴らしい花畑なんだとそう思い、そしてロアにまた見せてあげたいと、そう思ったのだ。
セリアはその花を、月よりも美しく思い、静かに微笑み見惚れていた……
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