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〜第十二章 メモリア・時の女神

218話❅狂神❅

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 ユリナは時を止めるのがオディウムに対して全く意味が無いと解っていた為に、意識を集中しオディウムから目を離さなかった。

 ムエルテがオディウムに斬りかかり、オディウムはギリギリの一線で躱したが、ムエルテはその勢いでユリナに斬りかかった。

 その剣はあの優しさも持ち合わせるムエルテを、一切感じさせないまさに死の女神を、思わせる冷酷な殺気を帯びていた。

「⁈ムエルテ!私よ‼︎」

ユリナは叫び躱すが、躱しきれずに少しずつ傷を負いはじめる。


(なんでムエルテがこんな……
この殺気はいったい……)


 ユリナが時を止め、距離を取ろうとした時にオディウムがユリナに斬りかかる。

「なんだお前知らないのか?」

 オディウムがそう言いながら斬りかかって来るがユリナは躱すしかない、オディウムと斬り合う事は可能だが、ムエルテの斬撃が速過ぎるのだ。

 オディウムはムエルテを利用してユリナを倒そうとしていた。


 そしてオディウムが時を動かす、ムエルテはまたユリナに斬りかかったが、その場が白い霧で覆われ、ムエルテの刃を闇の剣が防いだ、だがそれを持っているのはオプスではなくパリィだった。

「お姉ちゃん!」

 ユリナは驚いた、だが嬉しくなったまた守ってくれたと、甘えてばかりではいけない守られ続けてはいけないと、その昔心から感じたが、姉妹と言う絆が時を超え強く現れ始めていた。


「話は聞いたよ!まだ思い出せないけど
今度はユリナから話してね!」


 パリィはそう言いながら、ムエルテを瞬時に蹴り飛ばした、カナはあの戦いでニヒルに抵抗するが、やはりエルフとして呆気なく敗れた、だがパリィとしては唯一ニヒルに無に返せない傷を負わせていた。

 それを思わせるように剣を振り、ムエルテの大鎌を受け止めていた。

「馬鹿な……狂神についていけるのか⁈」

 オディウムがパリィに驚きを隠せず隙を見せた瞬間、ユリナが下から上に斬り上げオディウムが防ごうとしたが刃が揺らめいた、そしてオディウムの右肩目掛けて素早い突きが放たれるが、オディウムは凄まじい速さで大剣を使い受け止める。

「クッ……」

 ユリナの偽りの剣が防がれる、オディウムの身体能力が正に太古の英雄トールを思わせる動きを見せる、だがトールでは無い、そうユリナは心に言い聞かせ、更に斬りかかる。

 オディウムが素早くそれを躱し、拳に憎しみの力を込めてユリナを殴り飛ばした、その瞬間ユリナの頭から何かが吹っ切れたように消えた。

 ユリナは飛ばされたが、暗黒を重くし直ぐに着地して凄まじい斬撃をオディウムに放った。

 オディウムは簡単にそれを受け止めるが、ユリナの目つきが変わったのに気づいた。


「どうした
今の一撃はそんなに効いたか?」

オディウムが言った。

「えぇ……
よく解ったわ……

あなたがトールじゃないってことが
わたしのウィンダムは……
トールは……

わたしにそんな事はしないっ!」

 ユリナはそう叫び、トールが教えてくれたように前に一歩力強く踏み込み、オディウムの剣を押し始めた。

 ユリナの頭にあのトールに教わっていた時の記憶が鮮やかに蘇る。



(魔力を全て力にせず
太刀の重さにも変えろ!)

 ユリナはそれに従い集中し使う魔力の僅かを重さに変えてみる。
 すると不思議と先程より楽になった、トールはあえて、僅かに不利な踏み込みをしている。

(そうだ……
そして魔力を一瞬で
出せるだけ出して弾いて見ろ!)

 ユリナはそれに従い瞬間的に魔力を爆発させ踏み込み弾くには至らないが、押し返した。



 ユリナはそのままに瞬間的に、力を爆発させオディウムの大剣を押し返した、オディウムは素早く体勢を立て直そうとしている。

 だがユリナにはそれがゆっくりと見えた。

 ユリナの頭にはあの時の記憶が鮮明に流れるように、映し出されていた。


(覚えとけよ
力比べじゃ女のお前は大抵不利になる

俺だってダンガードと力比べをすれば
負けるかも知れない
そうなったら勝負は一瞬で決めろ!
いいな‼︎)

 トールは女性が大剣を扱うには相当な技量が必要なのを知っていた。そして瞬発力が生死を分けることも、それを必死に教えてくれていた、ユリナが生き抜く為に教えてくれていた。

 ユリナはその瞬間を逃そうとしなかった。


「ウァァァァァァァァァァァッ‼︎」


 ユリナは叫びより大きく目を見開き、全ての力を集め横から薙ぎ払う様に、暗黒を振り抜いた。

 その斬撃は誰もが見ることが出来なかった、オディウムは焦ることも出来ずにただ素早く後ろに飛び躱そうとした。


 だがオディウムは躱しきれなかった。


 僅かに深く僅かに深く、致命傷には至らなかったがオディウムの腹部に暗黒が届いたのだ。

 オディウムは腹部を押さえ、流れる自らの赤黒い血に触れた。

 ユリナはそのまま斬りかかるが、オディウムが鼻で笑い大剣から赤い霧を発生させ姿を眩まし去ろうとしたが、ユリナは逃さず素早く暗黒を背負い、輝く弓を手のひらに出して走りながら放つが、その矢は弾かれ霧の奥でオディウムが鼻で笑いながら言う。


「ふっ……
ムエルテの相手をしなくていいのか?」


 ユリナはオディウムの気配を探るが、既に居ない様だった。

「……」

 ユリナは何も言わず、パリィの方を見るがこの赤い霧は神の瞳を欺くのか、見通そうとしたが力を使っても見えなかった、ユリナは直ぐに走りパリィの気配を探りながら走った。


「お姉ちゃん……」


 だいぶ離れた場所で斬り合っているのが解る、ムエルテの冷たい殺気を感じ、ようやく
赤い霧を抜けその戦いに驚いてしまう、ムエルテの冷たい斬撃は今まで見た事が無い速さであった、そしてその殺気は全てに向けられている。

 まるで全ての命を奪う様な殺気が放たれていた。


 パリィはエルフでありながら、その刃を全て剣で凌いでいる。

(速い……
でも負けられ無い!)

 パリィの動きに無駄は無いが、それだけでは無いオプスから借りた闇の剣があるからこそ、ムエルテの刃を受け切れるのだ。


「ムエルテ様!
どうしたのですか⁈
なんでお姉ちゃんを!」

 ユリナがムエルテに叫ぶが全く聞こえて無いようだ。


「ユリナさん……」


 オプスが恐怖の女神メトゥスを天界から連れてきていた、ムエルテの異変に気付いてまさかと思い、それを知るメトゥスを連れてきてくれたのだ。

 メトゥスはユリナに頭を一度下げて姿を消し、ムエルテの背後に回って赤い大剣を出してムエルテに斬りかかる。

 無論かすりもしないが、ムエルテの周囲の大地を切る様に斬りかか始めていた。

それと同時に、メトゥスが何かを唱えているムエルテは何故かメトゥスを避け始めているのにユリナとパリィは気付いた。

「オプス様……あれは?……」

ユリナが聞いた。

「ムエルテが
狂神となってしまった様です……」

オプスが静かに言った。

「狂神?」

ユリナはそれを知らなかった、初めてその言葉を聞いていったい何か考え始めた。


「怒りに我を失ってしまった神です

かつてムエルテは
冥界に受け入れられたのですが
冥界の神々が死を恐れ
ムエルテを追放しようとしたのです
それに怒り狂ったムエルテが一度
冥界を滅ぼそうとしたのです

死を司るムエルテの前に
多くの冥界の神が
命を奪われそうになった時

メトゥスが怒りを鎮める術を
何処からか知り
ムエルテの怒りを鎮めた様です」

 オプスがそう教えてくれたが、かつての世界でそれに思い当たることをユリナは思い出した、死を恐れたのはオディウムであり、オディウムがムエルテを追放しようとしたのだ。

 それに従った冥界の神々がムエルテを襲い、ムエルテの僅かに残る生きようとする意思が静かに死霊を放ち呟いた。


「妾のいばしょは
どこにも無いと言うことか……

いや……ちがう……

妾は生まれた時より
自ら勝ち取るしか無いと
言うことか……」

 そう呟いたムエルテは、その理不尽な定めに怒りを覚え大釜を振った。



 ユリナがそれを思い出し、ムエルテを止めようとした。


(時を止めないで下さい!)

メトゥスの声が聞こえて来た。



(時を止めてはパリィさんが
無防備になります!
もしオディウムがまだ近くに居れば
狙われてもおかしくはありません‼︎)

 メトゥスは結界を張ろうとしていた、呪文を唱え魔法陣を描きながら、そう伝えて来た。

「もう少し!
パリィさん頑張って下さい‼︎」
メトゥスが叫ぶ。


「でも
私一人じゃ……」

 パリィが必死にムエルテの大釜を防ぎ、耐えながら呟いた。

「ユリナさんも
オプス様も
迂闊に入ってこれないのです!」

メトゥスが叫ぶ。

 それはパリィも気付いていた、メトゥスが斬りかかる素振りを見せながら魔法陣を描いていた、そして魔力の香りからこの女性がサルバに関わりがある事を察してパリィは、舞う様に速く動き魔法陣を気にしながらムエルテを相手にしていた。

 その様な繊細な動きは、ガサツな一面もあるユリナには不可能であり、時も止められ無いのであれば見守るしか無かった。


「ムエルテ様に
正気に戻って欲しかったら
頑張って下さい‼︎」

 メトゥスが叫ぶがムエルテの刃がついにメトゥスを狙うが、サクヤが割って入りムエルテの大鎌を弾いた、サクヤは霊体として足を消していた。

 そして同じようにして、オプスに守られた死霊達がムエルテを止めようとしたが、オプスが手だけでそれを止めた。

「待ちなさい……
貴方達はここで消えてはなりません」

 オプスは静かにそう言ったが、その目は厳しい目つきに変わっていた。


「サクヤ!
退きなさい貴方の剣は……」

サクヤを心配しパリィが言った。

「私はパリィ様に剣を教わり……」

 サクヤが言いかけた時、ムエルテの剣がサクヤの首に届くが、斬り落とされる事は無かった、霊体として剣を振っていたので、その為に足元の魔法陣を荒らさずに立ち回り、反撃にまわる。


 明らかにサクヤの剣はパリィに劣るが、何とか追いつこうとしている、次第にムエルテが魔力を込め不気味な笑みを溢した。
 パリィはムエルテの剣が赤黒くなったのを見て素早く斬り込むが躱され、ムエルテはサクヤに斬り込みサクヤが傷を負い、強烈な脱力感を感じた瞬間、既にムエルテの刃をはサクヤの首に向かい振られていた、その剣にパリィは間に合わないと判断しムエルテを背後から斬りつけた。

 その刃はムエルテの背中を大きく深く切り、ムエルテは姿勢を崩し狙いがそれサクヤは躱しその間にサクヤは距離を取った。
 ムエルテの傷は素早く回復していくのを見てパリィは汗を流す。

「今のムエルテは
死だけでは無く命も司っています
傷の治りもかつてより速く
狂神となれば力も……!」

オプスはそう言い何かを思い出した。

「じゃあどうすれば……」

 ユリナがそう聞いた時、ムエルテが心で呟いた。

(生まることさえ
許されなかった女王よ
その瞳をひらきなさい……)

 ムエルテが姿を消しパリィに襲い掛かる、不意に真横からムエルテが斬りかかった、霊体として姿を消したのだ。

 だがパリィはそれに見事に反応して躱し、その次は真上からムエルテが現れて襲うがそれも綺麗に受け止める。

「お姉ちゃん……
どうやって……そんな……」

 ユリナが呟いたがすぐにそれが見えた。

(エミリィ!)

 エミリィ・メモリアが力を解き放ち始めたのだ、それはダークエルフとエルフの間に生まれた者、イレケイと言う古の大陸でも幻の亜種族の力であった。

 エミリィはパリィの中で、パリィの記憶の中から剣舞の記憶に触れた。
 パリィはあの壁画にあった舞を、闇の剣だけで舞始めた。


 ユリナはそれが双剣の舞だと感じ、オプスが闇の剣をパリィに貸していたので、光の劔を投げ渡した。
 パリィはムエルテが姿を消した瞬間に、その光の劔を手にし剣舞を舞ってムエルテの大鎌を躱し、素早いムエルテの蹴りも躱した、そしてパリィの美しく流れる様な斬撃は、怪しい剣線をしムエルテを斬り始める。

(この舞……
戦いの舞なの?)

 パリィがそう思った時ユリナが叫んだ。


「お姉ちゃん!
舞に心を込めてっ‼︎」

 ユリナはパリィの舞に、以前の様な美しさが無いことに気づいたのだ、心がこもらないその舞いに力を感じなかったのだ、そして神の力を持たないその舞にユリナは不安を覚えていた。

 
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