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〜第十一章 メモリア・黒い天使〜
198話❅二つの知らせ❅
しおりを挟むセクトリアに着くと、パリィが不在の間にコルクスの村のガイべが北方の村に使いを出しているらしい、マルティア国の再興を少しでも早くと願い、多くの村に参加する様に促してくれている。
そして交易の品も格村から少しづつ集められている。
パリィはバイドが政務に向いていることは気づいて居たが、これ程とは思っていなかった。
バイトの父シャルク・フォルケンは剣士として優秀だったが政務には向いて居なかったのだ、ただバイドはフォルケンの家を継ぐに、剣に向かない自分がどうすれば、マルティア国の役に立てるのかを考え、魔導と政治の道を選んだのだ。
パリィは少し予定を手直して、政務をバイトに任せることにした。
マルトの街からの使いも滞在していて、挨拶をする事も出来た、そしてクイスがパリィの帰還を聞いて、慌ててやって来た。
「パリィ様
ガドルフ地域で
オルトロスの旗を掲げた盗賊共が
再び現れ小国に攻め込んだ様です……」
「えっ……再び?
前にもあったのですか?」
クイスが慌ててたせいか口を滑らせてしまった。
クイスは細かく隠していた事と、事実を話してくれた、パリィはクイスが慌ててた訳を知った。
何故かと言えば、デライトと言う小国が敗れその盗賊達はベルス国を名乗ったのだ、パリィは予感した。
これは始まりにしか過ぎないと。
直ぐに各村の長老を集める様に指示を出した、そして極北地域に来る途中で見かけた、北方地域の小さな村カイナクルスにも使いを出した。
そしてパリィの元に集まった村を地図で確認して、把握してる領土を確認して呟いた。
「大丈夫……出来る……」
そしてバイトを呼んで、直ぐに動き出した、それから十日程、セクトリアとカルベラの村は慌ただしくなる、パリィは部屋に篭り政策を練りメーテリアが手伝う。
過去のマルティア国の法を、メーテリアが多くを覚えていた為に悩む事なく進む。
かつての国土から見れば、五分の一程でありその法やシステムが機能するかは解らなかった、国力あってこその豊かさであったのは考えなくても解る。
それがあっての法でもあった。
パリィは建国を決意した、ベルスを名乗る国が現れしかも、千年前と同じベルス帝国の旗を掲げているのだ。
パリィはオルトロスと白獅子の夢を思い出した、セルテアが負けるはず無いと信じたが胸騒ぎが強くなって行く。
そしてベルスが再び帝国主義をとる事が目に見えていた、クイスの知らせはパリィに時間という名の制限がついた瞬間であった。
セディナの王宮の地下を探索したい気持ちもあったのだが、そこに何があるか解らない上にベルス帝国の再来が目に見えた。
何よりもかつてのマルティアの力を取り戻さないといけない、どれだけの力を取り戻せるか解らない、かつて繁栄したマルティア国の首都セディナは極北地域とは思えない程に栄え活気に溢れていた。
それは人口も多く、それを支えるだけの生産力と交易の充実があった、それをどれだけ取り戻せるか、パリィには予想出来なかった。
「パリィ様
大丈夫ですよマルティア国の話は
人間達にも伝説となっています
それに『白き風の女王』
パリィ様の事を知らない者は
極北地域には居ません
信じましょう
千年前の私達が作ったマルティア国が
人々の心に残ってる事を……」
メーテリアがそう言ってはくれるが、パリィには不安もあった、千年前にマルティア国はベルス帝国に大敗した、それが原因とも言える暗黒時代がその後に続いた。
それが人々の心にどう思われているのか解らなかった。
「パリィ……」
天界でメトゥスが呟いた。
「どうしたのじゃ?」
死の女神の姿に戻ったムエルテが聞くと、メトゥスが心配そうに言う。
「暗黒時代がまた来るのか
少し心配で……
パリィは今度こそ止めてくれるのかしら?」
メトゥスが言う。
「解らぬの
だがあの暗黒時代は
そちとオディウムの戦いでもあったの」
ムエルテがそう言った。
マルティア国が滅び、訪れた暗黒時代は世界が恐怖に溢れた、天界にいる恐怖の女神メトゥスは暴走し始めた恐怖を抑える為に、サルバに勇気を与えたのだ。
メトゥスは今、恐怖と言う感情を司り世界が恐怖に支配されない様にバランスを取ろうとしているのだ。
かつて冥界の神であった時は世界を恐怖で満たして、滅ぼす事しか考えてなかった。
だが今は、昔のムエルテの様に程よい恐怖を楽しむ方が永遠に恐怖を楽しめると知り、それを管理しているのだ。
その為に恐怖が暴走しだす程に世界が恐怖に溢れた時は、勇気を与えそれを押さえようとしている。
つまり、かつて起きた暗黒時代は憎悪の神オディウムと、恐怖の女神メトゥスの争いでもあったのだ、地上は神と神の争いの代理戦争をした様な形になっていたのは天界の神々しか知らないのである。
「??……」
メトゥスが何かを考えていた。
「どうしたのじゃ?」
ムエルテが聞いた。
「また暗黒時代が来たら……
オディウムを見つけられるかも知れない」
メトゥスが言う。
「何故じゃ?」
ムエルテが聞いた。
「あの時代は魔物の気配も
地上に漂い続けてました……
それに紛れて
オディウムの気配も色濃く感じました
地上に溢れた憎しみを
楽しむ為に現れるかも知れません」
メトゥスが自分が考えた事を話した。
「何を言っておる!
その為に何万何十万の命が
奪われる事が解らぬのか?
仮にそれで奴が現れても
地上の者では奴は倒せぬ
憎しみを力とするオディウムが
どれだけの力を手にするか
考えてもみよ!
それが天界にいる神の言葉か‼︎」
ムエルテはメトゥスに感情をあらわにして怒鳴りつけた。
直接天界の神が降りて相手にするしかないが、ムエルテしか地上に降りる事は許されていないのだ。
それは今の天界で創造と破壊の二つを司る女神、エレナが決めた事なのだ。
ムエルテは死の女神であり、死の管理もしている、秘術や魔術で不死を手に入れようとする者を罰し、死者が蘇ろうとするのを止めて黄泉に導いたり、様々な事を地上でしているのだ。
だがアンデットは魂でなく魔物が乗り移っている場合は、ムエルテの管理外なのである。
更に黄泉の世界も司り、その上にユリナ・テンプスに命の管理も任され、実は凄まじく忙しい、恐怖の女神メトゥスの方がムエルテから見れば暇に見える程だ。
それ以上にムエルテが神話となった世界から、大切に預かり、守り抜いた星の数程ある命を軽く見た言葉に怒りを覚え、それをぶつける様に叫んで地上に降りて行った。
その頃セルテアはベルス国の情報を集めていた、なんとしてもベルスに侵略行為をさせてはならない、周辺国は大盗賊の討伐を大義名分としてベルス国に侵攻するが、他の地域から盗賊や山賊が集まり、これを妨害するのであった。
戦とは言えない戦い方に各国は悩まされ敗走し自国の守りを固める結果になり、国力の疲弊が見られる様になっていた。
その時セルテアに知らせが入り、セルテアは微笑み希望を見出す。
「流石だな
これ程早いとは……」
それはクイスからの知らせで、パリィが建国に対して動き出し、三十日以内に宣言するとの知らせであった。
何故三十日かと言えば、クイスは詳しい情報をまだ伝えてもらって無いのだ。
だがクイスはそれを微笑みながら待っていた、国の秘密を簡単には漏らさない、そのパリィの姿勢を頼もしく思っていた。
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