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〜第十一章 メモリア・黒い天使〜

193話❅三人の女神❅

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「…………」

 ムエルテの声が聞こえてないように、ユリナは光を放ち何かに集中している。


「やはり
そうなのかも知れぬな」


 ムエルテの声はユリナに届いてはいない、だがムエルテは時の力を調べ続けいる、それはフローディアに頼み、絶対神の一人、無の神ニヒルから時の神を記した、巻物と書物を一つづつ借りてきてもらったのだ。


 あの戦いのことがあり、ムエルテからニヒルの元に行く気は無かった、ニヒルを考えるとどうしても、あのオプスがニヒルに殺されてしまったあの一瞬を思い出してしまうのだ。

 そして調べ続け疑問を感じていたのだ、その疑問がまだ朧げにしか見えていない、だが少しづつ輪郭が見えそうであった。


「ユリナ……
そちは……なぜそこまでして……
いや気付かなかったのだろう」

 ムエルテは呟き、美しく光り輝き力を放ち続けるユリナを見つめ、もしそうであったらと様々なことを考えていた。


 暫くしてユリナがムエルテに気付いたが、集中し続け力を放ち続ける……。


「おぬし……
時折り居なくなるが……

こうしておったのか?」

 ムエルテはユリナが気付いたのに気付いて、静かに聞いた。

 ユリナは静かに頷いた……。

 ムエルテはそれを見て、静かに座り美しいユリナを見つめていた。


 ムエルテは思い出していた、ユリナからオディウムが生まれ、オディウムがユリナを襲っていた時のことを……。



 過去の世界で……。


 ユリナがオディウムに蹴り飛ばされ、オディウムがユリナにとどめを刺そうと、更に襲い掛かった時、ムエルテがオディウムに襲い掛かった。

 ムエルテの鎌はオディウムに僅かに届いた……。
「妾が相手ならどうじゃ?
オディウムよ……」

「ムエルテか……
お前相手にするのは面倒だな」


 オディウムが退いた。

「オディウム!
生まれ変わったのなら
我らと共にニヒルと戦いなさい‼︎」
 メトゥスがユリナに駆け寄りオディウムに叫ぶ。

「メトゥスかどうした?
女らしく可愛くなったじゃないか
だが悪いが俺にその気は無い……

お前ら全員を相手にするのは
少し分が悪いな……

だが昔のよしみだ一つだけ教えてやるぜ

ユリナ!
お前が今見たのは紛れも無い未来だ!
お前が守った未来だ……

だが守れるのか?今のお前に?」

 オディウムはそう言いながら赤黒い霧になって消えて行ってしまった。



 ムエルテはその過去の世界での、オディウムの言葉を思い出しながら、顔をしかめながらユリナを見つめていた。


(なぜ……
オディウムは知っていたのじゃ
紛れもない未来だと
なぜ……
解ったのじゃ……)

 ムエルテはそこに疑問を持った、そして深く考える。


(待て……あの時……
オディウムにとっても
ニヒルは敵であったはず……

なぜユリナを襲った

ユリナはあの時
我らの希望であった
それをなぜ……)


 ムエルテは深く深く考えて行く、そしてムエルテは知らなかった、その答えの鍵に闇の女神オプスが気付きかけたことを、ムエルテが知るはずは無かった。

(解らぬ……
オディウムはニヒルとの戦いを避けた

それはオディウムが
ニヒルに敵わないから


やつがそれを知っていても当然じゃ
一度食われておるからな

いや……
あの時に戦えば再び殺されると
知っていたとしたらどうじゃ

それなら話が早い

もしそうだとしたら……
オディウムが
我らに手を貸さなくても)


 ムエルテがそこまで考え、謎がだいぶ見えて来た、気づかないうちにムエルテはぶつぶつと言いながら考えていた。


 ムエルテは今までエレナに言われ、時の力を使うための代価が必要なのかを、調べていた、だがニヒルからフローディアが借りて来てくれた、巻物と書物を読みあさってもそれらしい記述は見当たらない。

 幾ら読んでもニヒルと同等に、ありとあらゆることが可能で、代価的なものが必要なことは書かれていないのだ。


「ムエルテ様
どうされました?」

 カイナが姿を表しムエルテに声をかけて来た、ユリナを見つめながら深く悩んでいる事が気になったようだ。

(カイナさん
元気そうで良かったです)

 闇の女神オプスが、闇の神剣暗黒の中からカイナを見つめて微笑んでいると……。


「そう言えばカイナ……
そちはオプスの天使になって
オプスからユリナのことを
何か聞いておらぬか?」

ムエルテがカイナに聞いた。

 オプスは、ムエルテが頭の中で考えていることを知らなかった。

「私はなにも……」

 カイナがそう言い、暗黒を背負いながら、美しく輝きを放つユリナを見つめそう答えた。

「いやの……
ちと気になっての……」

 ムエルテがそう言い、カイナと共にユリナを見つめていた。


(ムエルテ……
あなたは……

何を考えているのです
何を悩んでいるのですか……)


 闇の女神オプスが、その悩みを解こうとするムエルテの瞳に気付いた、そして姿を現しムエルテに聞こうと思ったが、それをする訳にはいかなかった。


 それは闇の神剣暗黒が、オプスの半身であることを知っているのは、この世界でユリナだけである。
 その秘密はオディウムを倒す術の一つとして、オプスが考え二人で隠し通していた。


 ユリナよりも弱いが僅かにでも時を操るオディウム、そのオディウムをユリナは見つけることも出来ないでいた。

 そしてオディウムの剣は、ユリナの師であるトールの剣そのものであった、ユリナの剣はオディウムに届かないのをオプスは感じていた。

 闇の女神オプスは無をニヒル程ではないが操る、そのオプスと共に、二神一体としている事をオディウムは知らない。


 オプスはその瞳に宿る無の力が、オディウムを追い詰めると考えていたのだ。
 

(ダメ
いま姿を現したら

オディウムに気付かれたら

ムエルテ
ごめんなさい)


 オプスはとても辛く感じていた、本当はムエルテと話したかったのだ、誰よりもオプスはムエルテを大切な友達だと思っていた。

 それはオプスの孤独を、秘密を死の女神ムエルテが初めて受け止めてくれたのだ。



 古の大陸でのことを、オプスが思い出し始めていた。



「ムエルテ……
私の瞳はニヒルの瞳なんです……」


 闇の女神オプスがムエルテに秘密を伝えた時を思い出していた。


(こわかった
わたしはこわかった……)


 オプスは思い出して心で呟いている、あの時の気持ちを、あの日までの自分自身を、そしてムエルテのあの時の言葉が頭に鮮明に浮かんでくる。


「オプス……
何を震えている……

妾は其方が好きじゃ
妾は死から生まれた……

誰もが恐れる死から生まれたのじゃ……
天界から追い出されたら……

妾と共に生きれば良い……

あんな世界は天界とは呼べぬがな……」



 オプスはその言葉を思い出し、あの時と同じように瞳から涙を溢れさせていた。


(あなたは……
わたしの手をにぎってくれました

弱いわたしを
ひっぱってくれました)


 オプスが闇の神剣暗黒の中でそう感じ、また呟いたとき、更に強い、ムエルテの言葉が頭の中を走り抜けるように、響いて行く。



「オプスよ!

その瞳を見開け!

それは其方の瞳じゃ!
誰のものでも無い!

奴を倒した後でっ!
其方が愛した地上の美しさを
その瞳で存分に楽しむが良い‼︎


お前が愛したトールが幾度も守った!
地上世界を‼︎
存分にその瞳に焼き付けるが良い‼︎」

 ムエルテの叫びがオプスの心に染み渡る……。

 そしてまるで、その時に戻った様に鮮明に、その時に見たもの、感じたこと、そしてその時の二人の動きが頭の中に、瞳の中に映し出された様に全てが甦る。


 オプスの孤独や寂しさ、それは自らが招いたことであると、オプスは、いま、初めて感じた。


 だがそれにムエルテは気付いてくれた。

世界で初めて気付いてくれた。

兄弟の六大神ではなく。

母でも父でも無い。

一番親しい弟の光神ルーメンでもなく……。

最も愛してくれた、闇のレジェンド・トールでもない……。


 誰もが忌み嫌う。死を司る女神ムエルテが気付いてくれたのだ。
 


(ムエルテ……
あなたならきっと……)



 オプスがそう心で呟き、古の戦いの記憶は鮮明にオプスの頭に、そして瞳の中で流れて行く。


 そしてムエルテの寛容さが気に入らなかったのであろう、ニヒルが現れムエルテを襲い始める。
 素早くオプスがニヒルの背後に周り斬りかかる、再びニヒルが消え、オプスの剣をムエルテの鎌が抑え二人は瞳と瞳が合った。


 一瞬、時が止まったように二人は感じた、ムエルテとオプスは互いの瞳の奥を見ていた……。


「やはり……
そちの瞳は美しい……」

 ムエルテが微笑みながら呟き、オプスは確かにその言葉を聞いて微笑んで応える。

「貴方こそ……」

 ムエルテも微笑み、再び現れたニヒルに二人は襲い掛かかった。


 二人の絆が確かに結ばれた一瞬であった。


 闇の女神オプスは、ムエルテと話したい気持ちで溢れていた、それはただ仲良く話すことも、ユリナの大切なことも話したかったが、今は耐えるしかなく全ての想いを込めて囁くように言った。


(ムエルテ……
あなたならきっと……
わたしが気付いた

ユリナさんの……
取り戻さなければならないことに
気付いてくれるはず……

わたしの……
わたしに気付いてくれたように……)


 オプスは気付いていた、ユリナが女神として欠けていることに、そしてなぜ欠けているのかも知っていた……。

 オプスはユリナに悟られないように心を閉じ、それでいても強く強く、死と命の女神ムエルテに祈りを捧げた。


 それはこの新世界で初めてのことだと言うことに、オプスは気付かなかった、神が神に心から祈る……。

 それが初めてのことだとユリナは知っていたが、オプスが心を閉じているので、そっと見守ることにし、更に意識を集中しそして唱え始めた。


「うつろいし森よ……
悠久の時を経て時の流れに帰らん……

うつろいし時よ
悠久の時を経て時の流れに帰らん……」

 ユリナの輝きが黄金色の風を巻き起こし始めている。


(ムエルテ……お願いします……)

 オプスがそう祈っていると、その祈りはユリナが放つ時の風に気付かないうちに乗り、その思いのはムエルテの耳に入った……。


「今のは……
いや、そんなはずはない……」

ムエルテが呟いた。

「ムエルテさま?」
カイナが不思議そうに聞いた。


 ムエルテは困惑し目を見開き頭を押さえる、確かにオプスの願いが聞こえたのだ。

 ムエルテはオプスが生きていることを知らない、だがその声が聞こえたのだ。


「ふっ……
ふははははっ!
ははははははははははははっ」


 ムエルテがふいに高い声で笑い始めた、その様子にオプスが少し驚いたが、ユリナは同じ詠唱を唱え続けている。


「オプスよ
闇の女神オプスよ……
そちの声……
そなたの声を妾は
妾は忘れはせぬ……」


 ムエルテが頭を抑えながら、目を見開いてオプスと接した全ての記憶を思い出し、そして静かに言い始めた。


「妾はそちの願い
必ず叶えてやる……

オプスよ……

また会えたなら
妾の話を
嫌と言うほどに聞いて貰うかの……」


 オプスの祈りは全てムエルテに届いていたようであった、それはユリナが内容は解らなくても、そっとオプスの祈りを時の風に乗せムエルテに送ってあげたのだ。

 そのムエルテの声を聞いて、ユリナは詠唱を続けながら微笑んでいた。


(はい……
その時が来たら
いくらでもお聞きします……)

 オプスは優しくそう呟いていた。
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