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〜第十一章 メモリア・黒い天使〜
188話❅カロル川❅
しおりを挟むそれから三日経ち、暑くなって来た。
夏だ、この時期は北風がとても心地良くて涼しい。
パリィの胸元で光るピルピーが住んでいる宝石が、時よりひんやりとする、ピルピーが川に遊びに行こうよと、おねだりしているのだ。
パリィはピルピーの宝石を触り、微笑んでから地図を眺めるのをやめ、支度を始め、メーテリアとテミア姉妹に声をかけ、飲み物とお弁当を作り始める。
川の中に入れる水着も用意する、仕立て屋に四人で行き作って貰っていたのだ。
支度をが出来ると、四人はピルピーの川に馬車で向かった、川に着くと四人は手際よく天幕を張り、中で着替えてる最中も、パリィの宝石がキラキラとキラキラと輝いている。
ピルピーが早く川に入りたくて喜んでいるのだ。
「パリィ様
昔と変わらない水着ですね」
メーテリアがパリィに言う。
「メーテリアは肌を出しすぎですよ」
パリィがメーテリアに言い、天幕の中は賑やかである。
パリィが先に天幕から出ると、いきなり宝石から水が吹き出しピルピーが飛び出し、水飛沫を上げてピルピーが川に入って行く。
パリィは川に入る前に一瞬でびしょ濡れになった。
「こらー!ピルピー待ちなさーい‼︎」
パリィは叫びながらながらピルピーを追いかけて川に入り、メーテリアも続きテミア姉妹は水着のまま砂の河原に座り、のんびりとしている。
川の手前はそれ程深くは無いが、ピルピーは体の一部を水に変えてスィーと泳ぎ、パリィが追いかける。
テミア姉妹はパリィが思ったより、子供っぽい一面を持っていることに気づいた、メーテリアも一緒に遊んでいる姿に違和感を感じなかったのだ。
「パリィさんって
昔からこうなんだね」
テミアが飲み物を飲みながらテリアに言うと。
「そう見たいですね。
でも……わかる気がするな……」
テリアが言う。
「うん何が?」
テミアには解らないようだ。
「パリィさんも
メーテリアさんも本当に楽しそう
ピルピーだってさ
きっと無邪気なパリィさんに
惹きつけられたんじゃないかな?
魔物や精霊も引きつける
そんな魅力もパリィさんにはあるんだね」
テリアは笑顔でそう言ってると。
パシャ!
ピルピーに水をかけられた。
「ピルピー!」
テリアもピルピーを追いかる。
「きゃはっテミアもおいでっ」
パリィが誘うと、川が波立ちテミアもずぶ濡れにした、ピルピーだ。
四人はピルピーを捕まえようと、はしゃぎながら、追いかけるがピルピーは優雅にスィーッと泳いでいる。
この川は幅も広く、中心に行けば馬が立てない程深い。
そして過去のマルティア国にとっても大切な川だ、この川を下流に下ると極北地域の東側の海に出る、その海の幸が川からやって来るのだ。
そして極北地域の東側の物流も担うのだ、なぜかと言えば冬でもこの川は凍らないのである。
その為に、この川はカロル川と呼ばれている。
パリィは千年前にこの川を使い、極北地域の東側まで物流を整備し行き渡らせ、広大な領地を維持する基盤を作り上げたのだ。
ただ、それにはケルピーを始めとする水の精霊との交流は不可欠であった。
冬の水の精霊と魔物は穏やかでは無い、それらを信仰してようやく、なし得る事ができた、ピルピーはそんなパリィと本当に仲良くなってくれた大切な愛馬であった。
そんな楽しんでる所に。
「パリィ!探したぞ!」
セドが何も知らずにやって来た。
パリィは川の中でピルピーを追いかけていたが、メーテリアは丁度水から上がって所で、露出の高い、いや高過ぎるメーテリアの姿をセドは目の前にして、顔を赤くして固まる。
メーテリアは大人で慣れているが、まだ若いセドは慣れて無いようで、セドは後ろを振り向き叫んだ。
「コルクスのガイべが!
周辺の村の長を連れて来たぞ!」
そう叫んで走り去っていった。
「へ~セド君って可愛い所あるじゃん」
メーテリアが久しぶりにパリィ以外の人にそう言った。
「ピルピー!
ごめんね
帰らないと行けなくなっちゃったの
おいでっ」
パリィがピルピーを呼ぶと大人しくピルピーは岸に上がってきた、パリィは急いで身体を拭いて着替える。
「メーテリア後はお願いね」
そう、メーテリアに頼んでピルピーに乗りセクトリアに帰って行った。
「ピルピー
夏のうちにまた来ようね」
パリィはピルピーに優しく囁いた。
パリィは屋敷に帰ると、ガイべ達がバイトと待っていた。
「パリィ様どちらに?」
バイトが聞く。
「カロル川にピルピーと行っていました」
パリィは笑顔で答え静かに席に座る。
パリィの髪はまだ少し濡れている、川で泳いでいたのは、直ぐに皆が理解した。
「ピルピーとは
あの白馬ですかな?」
ガイべが穏やかに聞いて来たのでパリィは微笑みながら答える。
「えぇ
あの子はカロル川に住んでいた
ケルピーなのです
私に懐いてくれたので
暖かいうちは良く川に連れて行きます」
パリィが微笑みながら言う。
「なんとケルピーを……」
ガイべが連れてきた他の長達が驚きざわつく、ケルピーは水に精霊でもあるが、魔物でもある、気性はそこまで荒くは無いが人に姿を見せることは滅多に無いのだ。
「確かにマルティアの女王は
ケルピーを愛馬になさっていたと聞く……」
一人がそう言うとパリィは優しく微笑んだ。
「皆良いかな?」
ガイべがそう村の長達に聞くと、皆静かに頷くとガイべが立ち丁寧に言った。
「我らコルクスを含む五つの村と街は
パリィ・メモリア様に従い
マルティアの再興を目指し共に歩む事を
ここに誓います。
どうか末席にお加え下さいますよう
お願い申し上げます」
パリィはガイべの意図をすぐに理解した、そして静かに立ち、静かに言った。
「これから我らは一つに力を合わせ……
共に生き、共に笑い、共に歌い、
全ての民と共に、春を迎えよう」
そして手を前にかざした。
「マルティアの為に共に
マルティアの民と
自然と共に春を迎えよう」
パリィが続いてそう言うと、長達にも声を合わせ、
「マルティアの民と
自然と共に春を迎えよう」
こうしてコルクス周辺の五つ村と街は、パリィの元に集まった。
数日の間、長達はセクトリアに滞在する事になり、パリィは全ての村と街を繋ぐ街道の整備を話し合った。
村の位置が地図に記され、グラキエス山脈の麓の猟師小屋から新しく加わった地域を含めれば、本当に小さな小国と言える範囲になった。
話し合いは穏やかに進み街道の整備は、全ての村が人を出し合い共同で行う事になった。
昔のマルティア国は、一部地域では街道は全て石畳を敷き詰めていた。
それは物流に気を使ったからだ、セディナの周辺は本当に広大な平原が広がるが、そこから外れれば山脈や広大な森になり、平原が少なく農地に適さない地域も広く存在する。
その為に食料の輸送を中心として、物流に気を使う必要がある、パリィは昔と変わらず街道の整備を優先し始めていた。
その長達が滞在している間に、テリングからの食料が輸送されて来た、二三日してガイべ達が帰る日に、今度はパリィからテリングが買い取った交易の品を運んで行った。
ガイべはただ驚いていた。
南方地域と交易を始めている、更にテリング国の後ろ盾もあり、既に国と言っても問題ない程であった。
だが、パリィはまだ国とは呼べないと感じていたが、ガイべ達一行はマルティアの再興に、将来性を確信して各々の村に帰って行った。
パリィは翌日、グラムには知らせずにメーテリアとカルベラの村に向かった。
カルベラの村が出来てから初めての訪問と言う事になる、時々様子を見に来ては居たが短時間で毎回帰っていたので今回はゆっくり見るつもりなのだ。
グラムがどう村を治めてるのか気にしていたのだ、カルベラ隊と言えマルティア国滅亡後、盗賊に成り下がってしまった、つまり今あるカルベラの村は、盗賊の村が引っ越して来たようなものだ、そのため村の様子が気になっていた。
グラムは突然のパリィの訪問に驚いたが、色々と案内してくれた。
村の人々もパリィに明るく元気に挨拶してくれた、元盗賊の村だけあって村は活気に溢れている。
小さくも村の北に畑が出来ていて作物も作られていた、パリィは微笑みながら眺め安心していた。
どちらかと言えば猟師街の様な感覚だが、お店も出来始めている。
国として豊かにして行かないと、そう想いを強くした。
パリィとメーテリアは一晩グラムの村に泊まる事にした、セクトリアにとってグラムが治めるカルベラの村は、重要である。
それは単純にセクトリアから一番近い村で尚且つ、兵と言えるカルベラ隊の村だからだ、ただの兵では無い、マルティア時代にマルティア国で一二を争った勇猛な部隊である、戦争と言う実戦経験などを考えれば、セクトリアの護衛団の比ではない実力を持っている、それはセクトリアの安全に繋がる。
その為にグラムとカルベラ隊には問題ないが、村の人々とも交流を持ちたかったのだ。
その夜、グラムが小さな宴を村の広場で開いてくれた。
その宴でパリィは実感した。
まだまだ国には程遠いと、そこでパリィは宴の中でグラムも村の人々も交えて、二年後の夏までにはカルベラ隊とその家族を、十分養える様に今後の事を話した。
「二年後と言う事はグラキアか?」
グラムが聞いて来た。
「えぇ、ピルトの香油は
いま苗木を育ててますが
実が取れる様になるまでは
まだ時間がかかります
ですがグラキアの角は二年で
また伸びてくれます
ですから冬になるまでに
グラキアの牧場を広くして
数を増やし交易を安定させるのに
二年はかかります」
パリィが説明していく。
「なる程な
じゃあまた狩りに行くかお前らっ!」
グラムが勢いよく言う。
「グラムさん
その前に牧場を広くするのに
人手をお願いします
いまは街や農場の建設をしていて
人手が足りません」
グラムとパリィはその後、暫くやり取りをしていた、その様子を村の女達は微笑んで見ている、グラムがパリィにしっかりと仕えている様子が伺えたからだ。
盗賊行為は奪う側も命の危険がある上に罪深い、極北地域は自治自衛の村や街しかない、小さな村でも手練れの剣士を雇い、盗賊も命を落とす事も珍しくない。
カルベラの女達はまっとうに男達が国の為に働き、いつ大切な人を失うかと言う心配も薄くなり、穏やかな気持ちになってくれていた、国となり戦が起きればそうも言えないが、平和な時を作り出せる。
そんな彼女達を見て、パリィは早くマルティアとして彼らを養える様にしてあげたいと感じていると、近くの建物の屋根から吊るされている魚の干物が目に入った。
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