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〜第十章 メモリア・セディナ〜
177話❅セディナの木❅
しおりを挟むメーテリアもその行動に昔のパリィそのままだと感じていた。
「沢山来ましたね」
メーテリアがピルピーから降りて言う。
セディナから少し離れたが、その数をパリィは確認出来る。
アンデット千体とツリーフォーク十程はいる、やはりセディナの木のツリーフォークがひときわ大きく、その異形が離れていても確認出来る。
メーテリアは人相手には、殺傷的な魔法は中々使わないが、魔物相手には容赦ない、奥に見えるセディナの木のツリーフォークの太い幹を一本失った姿がそれを語るには十分である。
「行きますよ
メーテリア……」
パリィが言う。
「はい
私はツリーフォークを……」
メーテリアもかつてのマルティアの民を流石にアンデットとは言えなかった、二人にとっては苦しい戦いである。
パリィはピルピーを蹴り走らせ、弓を構え矢を放つその矢は無数に拡散して、アンデット達を射抜いていく、メーテリアは大地に手をつき何かを唱え、巨大な氷の槍でツリーフォークを貫いて行くが、ツリーフォークを貫く時に、屍が吹き飛ばされ、落下し立ち上がり襲ってくる。
メーテリアも、かつて家臣に押されてマルティアがグラキエスで敗北した後に北に逃げた、セディナを守る為に戦わなかった事を後悔し始めていた。
パリィはピルピーから飛び降り自らの足で走り斬り込み、持ち前の速い剣技でアンデットを斬り裂いていく。
ピルピーはその勢いでアンデット達を踏み潰し、まさに暴れ馬の様に突っ込んでいく。
ピルピーがいななけば、凄まじい勢いで水の刃がアンデットを切り裂いて行く。
その様子を見てメーテリアは空に向かいワンドを突き上げ叫んだ!
「サンクトゥスリオミア!」
(その魔法は……)
パリィが気づき、メーテリアの近くに走り寄り戦い始める。
その声と共に巨大な氷炎の氷柱が、五本空に形成されて行く。
アンデット達がメーテリアに襲い掛かる、それをパリィが全力で斬り倒し、メーテリアを援護する、だが数が多い、伝説になった『白き風』と謳われた英雄パリィの剣技ですらミスが許されない程囲まれて行く、ピルピーが戻って来てパリィを手伝い始めた時。
メーテリアがワンドを振り下ろした。
それと同時に、巨大な氷炎の氷柱が五本全て降り注いだが、その氷柱はアンデット、ツリーフォークを一体も倒さず大地に突き刺さった。
メーテリアはワンドを大地に突き刺し、唱える。
「偉大なる大地の女神テララよ
この地に荒ぶる負の御霊を
全てを慈しむ慈愛と慈悲にて
天に返し新しき輪廻に導きたまえ……」
アンデット達が異変に気付いたのだろうか、メーテリアに襲い掛かろうとしたが、それと同時に五本の氷炎の氷柱を緑色の光線が結んでいき、五芒星が形成されると同時にアンデットから光り輝く光球が飛び出して、無数の光が空高く飛んで行く魂達だ。
メーテリアは時間が多少かかるが、浄化の範囲魔法を使ったのだ。
その光景をグラム達、セクトリアに居た多くの者達が見ていた、ひざまづき祈りを捧げる者までいる。
魂が解放され、アンデット達は力なく倒れ骸になり神の定めの元に風化して行く。
ツリーフォークも力を失い、禍々しい姿のまま動きを止めて行く。
後は焼き払えば灰は消えるだろうだが、セディナの木であった巨大なツリーフォークは衰える事もなく向かって来た。
「なっ……そんな……」
メーテリアが驚いている、まさか効かないはずはないと思っていたのだ。
「大丈夫……
メーテリア……
私達は過去に負けない……」
パリィが呟いた時、パリィは一歩も歩かず日陰に入った、太陽はパリィの後ろにある、ここに木は生えていないが、パリィは木の日陰に入った。
そしてパリィは知っていたかの様に何かを言う。
「自然の豊かさよ
時の流れと共に
命を育みし大地の使者よ
我らの未来に恵みを
我らの未来に恩恵を
我らの未来を妨げる絶望に一筋の光を……
我らの未来に希望を……」
それは大地の女神テララの力を借りる詠唱であった……。
「訪れよ豊穣の時よっ!
溢れる大地の力を我らに
大地の女神テララよ
そのみてをガイアに触れ
力を与えよっ‼︎
ガイアシンフォニー‼︎‼︎」
パリィはその魔法を真後ろまで来てくれていた、ピルトのお爺さんに放った。
メーテリアもピルトお爺さんを見たのは初めてで驚いていた。
「パリィよ済まないの……」
ピルトのお爺さんの声がいつもと違い怒りがこもっている。
「森よ……
我らに未来をっ‼︎‼︎」
パリィはマルティアの女王の様に力強く言った、マルティア時代に魔物との戦いの時に、自然に助けを求めたことがあった、それは自然と共存し続けたマルティア国であるから出来たことだった。
パリィはその時の様に、威厳を持ち言ったのだ。
そしてピルトのお爺さんが咆哮を上げ、シャナの森に住むトレント達が目を覚まし、ツリーフォークと化してしまったセディナの木を睨み叫んだ。
「セディナの巨木よ
憎しみに負けたのか!」
ピルトのお爺さんが怒りに震えて、凄まじい勢いでツリーフォークに襲い掛かった。
「グオォ!」
ツリーフォークが叫び、ピルトのお爺さんと殴り合いはじめ、セディナから他にもツリーフォークが現れ始める。
その攻防は激しく凄まじい、木の精霊と木の魔物の戦いで、一撃一撃で木屑が飛び散り小さな枝や木の破片までもが、飛散して行く。
そしてシャナの森からもトレントが集まり、他のツリーフォークと戦い始めた。
そして二体の巨木はとっくみ合い、セディナの城壁にツリーフォークが叩きつけられ、城壁が半壊する。
パリィの使った大地の加護の魔法の効果により、ピルトのお爺さんは同じ程の大きさのあるセディナの木のツリーフォークを押している。
その周りでもトレントとツリーフォークの凄まじい戦いが繰り広げられ、あたりには柱程ある木片までもが飛び散り、メーテリアは少し離れようとしたが、パリィは走り出しツリーフォークから振り落とされたアンデットに斬りかかった。
木片が飛び散る中、それを躱し一体でも多くのアンデットに、来世を願い祈りを込めて切り倒して行く。
その祈りのこもった剣は、上空から見つめるムエルテとユリナに届いていた。
「お姉ちゃん……」
ユリナは呟き悲しくなる。
何故、時の川から早く帰って来なかったのか、オディウムを探し時の川の流れを追ったが見つけられなかった。
そして戻った時にはパリィは罪を犯し、ムエルテによって罰せられていた、ユリナは時を戻すことを考えるが、それをすれば時の流れに抵抗するオディウムが、どこに居るのかまた解らなくなってしまう。
ユリナはこの世界に、オディウムがいる確信を掴みやっと戻って来たのだ、過去の世界には居なかったのだ。
ユリナは拳を力強く握りしめ、耐えていた女神として姉であるカナの為に、時を戻すことはしてはならない、世界の為に見える行為ではあるが、子殺しの罪が最大の罪とされているこの世界では、カナの為になってしまうのだ。
記憶を失ってしまった母エレナが定めたこと、ユリナは葛藤していた。
「ユリナよ
そちが選んだ道じゃ
耐えるが良い……
必ず報われる時が来よう……」
ムエルテがユリナに気づき、そう言ってくれた。
ムエルテはユリナより、神としての格は劣るが、神としてユリナを導き続けていた。
ユリナは悔しさと悲しさに押し潰されそうになった、あれだけユリナを守ってくれ支えてくれたカナを救えない、絶対神と言う立場にありながらも、神々との事もあり個人にかたよることが出来ない、それも全てオディウムが姿を現さないからである。
憎悪の神オディウムが現れれば、神として関与出来るのだが、オディウムは嘲笑う様に、楽しんでいるかの様に現れないのだ。
ユリナは力一杯拳を握り、爪により手ひらが切れ血が僅かに流れた時、パチンッとユリナの頬が叩かれた。
ムエルテが力強くユリナを叩いたのだ。
「解らぬのかっ!
カナは戦っておるのだ!
パリィ・メモリアとして
過去と向き合い
剣を振っておるのだっ!
それをそなたが見守らずして
誰が見守るのじゃっ‼︎」
ユリナは叩かれた頬から、懐かしい熱い痛みを感じていた。
「その痛みを思い出せっ
姉であるあやつに
叩いて貰える様にあの時に頑張ると
言ったではないかっ!」
ムエルテが、過ちの時にユリナが言ったことを思い出させようとして言っていた。
ユリナは鮮明に思い出して行く、あの時の気持ちを、自ら辛い道であると知り、それでも未来へ、今と言うこの時へ繋いだあの時の気持ちを思い出し涙を拭った。
神となったユリナの手は、傷もすぐに戻り血も滴るほどではなかった。
(ムエルテ……
ありがとう)
闇の女神オプスはユリナを支えようとしているムエルテに向け、微笑んで礼を言っていた。
(いま……
オプスの気配が……)
ムエルテは大切な親友オプスの気配を感じていた。
「むぅ、こやつ……」
ピルトのお爺さんはツリーフォークに綺麗な実が一つなっているのを見つけて、パリィが先程、女王として力強く言った時に、寂しげな瞳をしていたのにピルトのお爺さんは気付いていた。
ピルトのお爺さんは、力強くセディナの木のツリーフォークを城壁に再び叩きつけ、城壁ごと押し倒した。
かつてのマルティアの首都セディナの、分厚い城壁が崩れ凄まじい埃が舞い、城壁の先にある廃墟まで轟音を立てて破壊され、ツリーフォークは石材の下敷きになり、潰され力を失いそのまま動かなくなるが、風化されない。
だが他のツリーフォーク達は、トレントに倒されれば風化して行く。
セディナの木のツリーフォークは何かが違うようだった。
ピルトのお爺さんは、手を伸ばしてツリーフォークが唯一実らせていた実を、もぎ取りパリィ達の所に持って来て言った。
「あやつはどんな木だったのだ?
パリィよ記憶の実がなっておったぞ」
ピルトのお爺さんがそう言いパリィに実を差し出した。
「記憶の実?」
「我らは忘れたく無い思い出があれば
枯れる前にその思い出が
実になる時があるのだ……
いい思い出は美しく綺麗な実になる
悪い思い出なら黒く臭い実になるのだ」
その実は日に当てれば、キラキラと金色の輝きを放つ美しい実であった。
「それだけ美しい実はなかなか実らない……息をかけて擦ってみい」
パリィはピルトのお爺さんが言う通り、優しく息をかけて手で擦ってみると、小さい手のひら位の大きさの実の表面に、セディナの木の思い出が映し出された。
千年前のマルティア時代のお祭りの風景が綺麗に映された、パリィが歌を歌っている。
民衆が手を叩き、パリィにもっと歌う様に言っている様だ、パリィはキリングと二人で次の歌を歌っている。
幸せを絵に描いた様な光景だ、そして次はメーテリアがパリィを追いかけていた、二人の仲良しはセディナで評判だった。
そして街の人々が楽しんでいる記憶や、雪景色の中で、誰かが恋人を待っている記憶も、そこにパリィが来た、待ってたのはキリングだった。
パリィがキリングに謝りながら、街の人混みに消えて行く姿もあった。
千年前、マルティア時代の他愛もない日常の記憶が次々と映し出されて行く。
パリィは懐かしさのあまりに、涙を流していた、メーテリアも思い出に浸る様に静かに、涙目になっていた。
「セディナの巨木も
幸せな時が沢山あったのだのぉ……
それを人の欲の卑しさが
全てを壊してしまった可哀想にのぉ
パリィよ
その実を植えてやると良い
セディナの巨木が生まれ変われる。
千年、千五百年いや
これだけ美しい実だ大切にしてやれば
六百年もすればトレントになるかも知れんぞ」
ピルトのお爺さんがそう言った時、セディナの巨木がなってしまったツリーフォークを押し潰していた瓦礫が、音を立てて崩れた。
パリィはセディナの巨木が倒れた場所に向かって走った、メーテリアも続いて走りそこに向かった。
セディナの巨木が風化し始めていた、まるで何かを伝えたかった様に、そして伝え終えたかの様に、瓦礫の隙間から、僅かに穏やかになったツリーフォークの顔が見えていた。
「セディナの木!
必ず大切にするからね!
貴方がトレントになれる様に
いっぱいいっぱい大切にするからね
綺麗な思い出を残してくれて
本当にありがとう!
絶対に忘れないからね!」
パリィは風化していくセディナの木に向かって精一杯叫んだ、涙を流しながら精一杯叫んでいた。
心なしか巨木のツリーフォークの顔が微笑んだように見えた、風化して最後には塵となり風に運ばれて跡形もなくなっていった。
パリィはセディナの木が残してくれた記憶の実を、大切に無くさない様に丁寧に魔法の指輪にしまった。
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