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〜第十章 メモリア・セディナ〜
170話❅ピルピー❅
しおりを挟む「ぐあ!」
メーテリアの腕を掴んだ盗賊の腕が射抜かれた。
(え……この霧ってまさかほんとに?)
音を立て二本の矢が放たれその盗賊の胸が射抜かれその者は倒れ、もう一本はその後ろにいた者の眉間を射抜いた。
「ピルピー!
メーテリアを乗せて走りなさい!」
パリィが叫んだ。
「パリィ様?
え!そんな!」
メーテリアは驚きを隠せないその時、メーテリアの首飾りから水が噴き出し、一頭の白馬がその水から現れた。
水馬ケルピーが現れた、パリィはその水馬をピルピーと名付けていた。
盗賊は驚きながらもパリィに矢を放つ。
「ブルル!」
ピルピーが声をあげ水の壁が噴き出し矢を防いだ。
ケルピーは水の魔物でもあるが、川や湖を守る精霊の類でもある。
そして次に一瞬で消え今度はメーテリアの下から湧き出す様に現れ、メーテリアを背中に乗せた。
メーテリアはずぶ濡れになったが、そのままピルピーは走り出した。
「逃すな追え!」
盗賊が叫びピルピーを追おうとしたが、パリィの放つ矢が飛んで、次々と射抜かれて行く。
まだ五十名はいる。
ピルピーがパリィの所まで来てパリィもメーテリアの後ろに飛び乗り素早くそのまま走り去るが、盗賊達は追って来ている。
「パリィ様!
パリィ様なんですね⁈
本当に本当にパリィ様なんですね⁈」
メーテリアは何度も何度も聞いて来た。
「えぇ
この子が言うこと聞いてるでしょ」
パリィはそう言いメーテリアの頭を優しく撫でた。
「本当に本当に
幽霊じゃ無いですよね⁈
私も死んじゃって
黄泉で再開してるんじゃ無いですよね⁈」
メーテリアの性格は千年前と変わらない様だ、聞きたくなったり疑ったりしたら多方向からひつこい位に聞いてくる。
そして安心すると凄まじい想像力で質問してくる、ある意味可愛い性格をしている。
「痛っ……」
メーテリアの足の矢が痛む様だ。
「痛いってことは夢じゃ無いんですね!
死んで黄泉って事じゃ無いんですね!」
メーテリアの目が輝きだした。
「黄泉の世界でも痛いのは痛いよ」
パリィは笑いながら言った。
実際に死の渇きは、痛いどころでは無かったパリィは経験も踏まえて教えてあげた。
一瞬でメーテリアは涙を流してぶつぶつ言い出した。
「いいよいいよ……
黄泉でも何でもパリィ様に会えたんだから」
変わってないなとパリィが感じ微笑んだ時に林を抜けた。
盗賊は引き離したがまだ追って来てる様だ、メーテリアは林を抜けて驚いていた。
護衛団とテリングの兵が林に向かって来ていた併せて三百名程、マルティアの旗とテリングの旗がはためいている。
「マルティア……」
メーテリアが呟いた。
パリィはふっと息を吹き霧を濃くし静かに手で合図を送り、兵達に弓を構えさせ待ち構えさせた。
暫くしてガサガサと盗賊達が林から出てきた、十分林から盗賊達が離れて来た頃にパリィは風の劔を持ち囁く。
「風よ……霧を払え……」
すると僅かに風の劔から爽やかな風か吹き、南から風が吹き霧を北へ運んでいき盗賊達は霧が晴れ驚愕する。
兵が弓を構え待ち構えている。
盗賊達は林から離れてしまった為に逃げる事も出来ない。
「どう言うことだ……
あの旗は南方の国の旗……
あとあれは……
マルティアか?そんなはずは無い」
盗賊達はセクトリアの村の存在を知らない様だった。
「これ以上の争いは意味が有りません
退きなさい
退いていただけるなら
命を助けます。」
パリィがピルピーに乗りながらそう伝える、メーテリアは護衛団に守られている、盗賊達はどうしようも無いが。
「お前は誰だ!
マルティアの旗を掲げ
南方の国と手を結ぶのか!
我ら北の者は千年前に
南に食われ苦しんだ事を忘れたか!」
盗賊の頭が叫び返して来た。
テリングの兵達がパリィを注目した。
パリィは解っている、それが全て自分の罪だと言う事も、極北に来る際に多くの記憶に触れて来た。
「貴方達が……
マルティア民ならば……
『白き風の女王』
パリィ・メモリアとして言います
憎しみを捨てなさい
千年経ち多くの悲しみと苦しみに耐え
生き延びた者の子らよ……」
パリィはピルピーから降りて、まだ残る雪をそっと手に取り。
「憎しみを捨てなさい
この雪の様に白い心を持ちなさい……」
その姿は美しく盗賊達にも伝えられた、女王の姿であった。
「北の者達同士が奪い合い殺し合えば
自然が冬が
冬の女神ヒエムスが
我らを許してくれません……
私はいづれマルティアを再興します。
あなた方も村を作り
田畑を耕し罪を重ねないと誓うなら
手を差し伸べることを約束します」
パリィは威厳を持ち優しく話しかけると盗賊達は動揺したが。
「お前は馬鹿か信じられるか!
パリィ・メモリアは千年前に死んだ!
俺の仲間もグラキエス山脈で戦い
殆ど死んだ!
それを忘れろと言うのか!
その後の二百年の暗黒時代を
忘れろと言うのか!」
盗賊の頭はそう叫び、剣を抜いてパリィに斬りかかって来た。
(暗黒時代……)
パリィはその時代があった事は知っていたが、なぜそう呼ばれたのかを知らなかった。
パリィは素早くその剣を風の劔で受け止めたが男の剣を凄まじく重く感じた。
(これが……罪の重さ……)
パリィはその剣で弾かれ、素早く距離を取るが男は更に斬り込んで来る、男の一太刀一太刀から憎しみと悲しみが伝わって来る。
バイドがその様子を見て矢を放つ合図を送ろうとした。
「やめなさい!手を出さないで!」
パリィが叫んだ。
バイドは合図の手を上げたまま止める。
「バイド!五十人
殺すのですか⁈」
パリィは更に叫んだ。
(パリィ様はお優しすぎる……)
バイドがそう心で呟いた。
パリィもバイドの心配を解っているが、大した剣技もない盗賊の剣が、鋭く迷い無く、剣に憎しみと悲しみを乗せ、パリィに向けて来ている。
(あの人……
悲しい剣だけど……
想いが剣に乗っている……
なんて悲しい剣なの……)
ユリナが空から見下ろし二人の戦いを見守り、神の瞳でグラムの想いを見ていた。
パリィが相当速い一撃を放つがそれさえも受け止めている。
人の想いがこれ程の力を生み出すのか、パリィはそれをひしひしと実感していた。
盗賊の放つ激しい斬撃をパリィはやっとのおもいで凌いでいた。
盗賊が上から振り下ろす様に斬りかかって来た時に、瞬時にいなし、素早く体をひねり相手の頭を蹴った。
その一撃がやっと入り相手の兜を飛ばしやっとその者の素顔がみれた。
その者はオークだった、オークは千五百年から三千年生きる。
グラキエス山脈の戦いを知っていてもおかしくは無い。
パリィはそれを必死に受け止めた、この者の悲しみも苦しみも受け止めようとした、パリィが勝利に導かなければならなかった戦いに、パリィは居なかったのだ。
「あなた名前は何というのですか?」
「グラムだ……他に名は無い」
家名が無い、パリィならパリィ・メモリア、メーテリアには、メーテリア・パラドールと家名がある、無いと言う事は純粋な民だ。
パリィはグラムに聞いた。
「もう一度考えてくれませんか……
貴方達が今のまま……
盗賊として過ごすのでしたら
私は貴方達の命を奪わなければなりません……
村を作りマルティアの民らしく
生きてくれませんか?……」
パリィはグラムの剣を凌ぎながら聞く。
「悪いが俺らは
畑仕事なんて性に合わねぇ
みんな兵士だったからな……
あんたが本物のパリィ様なら解るだろ
仕事なんて出来ねぇ
ならず者や鼻つまみ者達を集めてくれた
カルベラ……
俺達の殆どはカルベラ隊だったのさ」
グラムは昔を思い出すように剣を振り、その剣に失われた幸せや思い出を乗せ始め、悲しみがより強くパリィに伝わる。
「カルベラ……パリィ様!」
バイドが思わず声をだした。
カルベラ隊、それはグラムが言った通り社会から孤立してしまった者達を、軍隊として雇い訓練した部隊であった。
南方の国々ではその者達は、盗みをしたり野盗になるか、乞食になるしか生きて行けなかった。
マルティア国はそう言った者達にまで手を差し伸べた。
軍隊として鍛え、規律を教え何も無い時は砦を作ったり水路を直したり、荒れた土地の整備など、冬には除雪など人々の役に立つ仕事を与えた。
彼らは生活を再び得た、中には家庭も作り幸せを手にした者までいた。
彼らは訓練も仕事も、不器用でも苦手でも汗を流して真面目にこなした。
生活を失い孤立してこそ知り、その辛さが彼らを強くしたのだ。
そんなカルベラ隊は戦になれば何時も必死に戦ってくれていた。
他国には無い、優しいマルティアを守ろうと必死で戦い、マルティアで一二を争う勇敢な部隊であった。
パリィが守らなくてはならないものの一つであった。
パリィは一筋の汗を流していた。
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