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〜第十章 メモリア・セディナ〜
168話❅来訪者❅
しおりを挟むそれから暫く経ち、雪溶けも進み始め走る練習もできなくなった頃、村には三階建て程の高さの見張り台が出来ていた。
周辺を調べさせた者達は、何も発見出来なかったが、地形を古い地図に書き記してくれていた。
そんな頃だ、見張り台にいた者が鐘を鳴らし始めた。
何かが向かって来る鳴らし方だった。
パリィは急いで見張り台に登り、護衛団が指差す方を目を凝らしてみる。
結構な数だ、数人ではない五百名ほどの兵だ……だが後ろに幌馬車を数多く引き連れている。
「護衛団を集めますか?」
見張りが言うが……
「まって、あれを」
パリィが指差した、五人程が旗を二つ掲げ先行して此方に来る。
一つは白旗で戦う意思はない事を伝えている。
一つは赤い下地に、中央に白く力強い獅子が描かれた旗だった。
パリィは見覚えがあった、そして思い出した、セルテアの国、テリング国の旗だ。
パリィは意識を集中して、セルテアの香りがするかを確認する、セルテアに渡した地図に、セルテアの血でこの辺りを説明しながら書いた時に、セルテアの香りをパリィは強く覚えたのだ。
残念ながら来てない様だ。
そう易々と来れる筈がない、ここは極北地域でセルテアは王子だ、だがパリィはほのかに喜んだ、セルテアが気にしてくれていると感じたからだ。
程なくして、先行して来た者達がセクトリアの村に着きパリィが出迎える。
「パリィ様、お久しぶりです。
お元気ですか?」
「クイスさんもお元気そうで
何よりです」
パリィは笑顔で出迎える。
パリィはクイスを覚えていた、あの時の使者の一人で、セルテア王子の求婚を熱心に伝えながらも、遠慮はしながらも一生懸命にパリィに願って来ていた者だ。
パリィもその時のやり取りで、クイスが悪い人では無いことは十分解った、ただセルテア王子の為に一生懸命であったのも理解していた。
パリィは、クイスとその従者を屋敷に案内して応接室に快く招いた、村の人々が言うように、予想外にパリィの屋敷が役に立った。
「実は来月、我が主人セルテア王子がテリング国王に即位する事になりまして、そのご挨拶の品を届けに来たのです。」
クイスは事実を交え上手い事を言った。
あの時マルティア国が再興したらと言う話であった。
だが、まだマルティア国は再興していない
、でもセルテア王子は卑しい思いなどなく、人の好意として贈りたいが、パリィがまだ国が再興していない為に受け取らない可能性もある、そう考えて挨拶の品とクイスは言ったのだ。
これを断るのは失礼である、付き合いなのだから、パリィはそれを直ぐに読み解き、笑顔で答えた。
「セルテア王子の国王即位
おめでとうございます。
心からお祝いとお礼を申し上げます。」
「つきましては、此方がその品々です。
お確かめ下さい」
クイスが笑顔で、巻物をパリィに差し出して来た。
パリィはそれを受け取り、巻物のを確認して驚いた……
そこには二千名半年分の穀物と干し肉、保存の効く食料と、農具、金品が記されていた、セクトリアは約千名の人口がある、つまりパリィの村の一年分の食料だ。
新しく村を作り、これから必要になる物、不足する物が記されていた。
「こんなに沢山……」
パリィが困った顔をする。
「テリング国の顔を立てさせて下さい
テリング国からすれば
僅かな品ですお納め下さい」
クイスが丁寧に言う、確かにテリング国から見れば大した量では無いが、セクトリアの村にしては相当な品だ。
パリィは考えて思いついた。
「では、クイス様こちらに来て下さい」
パリィはクイスを案内して村の倉庫に行く。
そして、護衛団に倉庫をあけさせて沢山の樽をクイスに見せて言う。
「こちらを十樽
セクトリアからセルテア国王
即位のお祝いとしてお贈り致します。」
パリィが静かに言う。
「これは……」
クイスが何か解らぬ顔をしながら聞くと、パリィは微笑みながら言う。
「これはピルトの香油です」
「ピルトの香油!こんなに大量の!」
ピルトの香油は作り方を知っている者が、今は殆ど居ない。
パリィは自分で作ることが出来て、価値が有るのは知っているので、セクトリアに着いてから作り続けていた。
南方では小瓶で5000クルトはする高価な物で、まがい物も出回っている。
挨拶とは言え、ただで受け取る訳にはいかない量であった為に、お祝いとしてお返しに贈る事にしたのだ。
パリィは蓋をあけスプーンで香油をすくい取り、クイスに確かめて貰う。
「確かにこれは質の良い
ピルトの香油……一体誰が……」
クイスが確かめて聞く。
「私が作っているのです」
パリィは微笑み答える。
(王子
パリィ様が国を作られれば
我が国も繁栄するのは間違いありません
いや……大陸が変わるかも知れませぬ……
何と言うお方……)
クイスはこのピルトの香油で感じ取った。
それには訳がある。
南方ではこの香油は作る者の心を表しているとも言われている。
作るのが難しく、時間も手間もかかる、それ以上にピルトの実は取り過ぎれば、取りに行けなくなる、森の獣に襲われる様になると言われているのだ。
その為に作り手が減り作り方も忘れられてしまったのだ、パリィはそれを量産している。
森に愛され自然と調和している、その証にするには十分過ぎる程であった。
クイスは喜んでピルトの香油を受け取り、パリィに話を持ち掛けた。
「パリィ様
村が整いましたら。
我が国と交易をされては?
我が国がピルトの香油を買いその金品で
食料や必要な物をマルティアが買う。
如何でしょう?」
パリィ考える。
「そのお話は考えて見ます。
ピルトの実は森の動物達の食べ物でもあります。
全て取る訳にはいきませんので……
その為にはピルトの森を作らないといけません、とても時間がかかりますし」
やる価値はあると思いその準備をする事を考えながら話した。
「はい是非考えて頂ければ
私も嬉しく思います」
クイスはそう笑顔で答えた。
テリングの一行は隊を休める為に、七日程滞在する事になり、セクトリアの脇に夜営が出来た。
テリングの兵達は優しく、セクトリアの人々と馴染み農地作りや、森からの材木運びを手伝ってくれ村が賑わっていた。
そのテリングの兵達が来てから三日後の北風が吹いている日のことだった。
「パリィ様!
北から三十名程が此方に向かって来ます。
何やら逃げ来た様子です」
見張り台から護衛団が知らせて来た。
パリィは直ぐに村の北側に行き、様子を見に行く、ぼろぼろの衣服を纏い、子供もいる。
馬に乗った兵が二人程いて、兵が五人程で約三十名程の者達が向かってくる。
「あれは……」
クイスも話を聞きつけ見に来た。
少しして、馬に乗った兵が白い布を手で振りながらやって来たパリィも下に降りて、その者を迎えようとした時。
その者はセクトリアの前で、素早く馬から降り、叫ぶように聞いて来た。
「我らを助けて貰いたい!
我らは此れより北に四日程にある
パラドールの村の者だが
三日前に盗賊に襲われ村が焼かれてしまった!
どうか我らを助けて貰いたい!
他に逃げた者も探しに行かねばならぬ!
慈悲を!」
その者は必死になっていた。
「どうぞお入り下さい!
話を詳しくお聞かせ下さい!」
パリィが叫びかえすと、
「済まない!皆に知らせてくる!」
男はそう言い、歩いて来る者達の方に馬を走らせて行った
「バイトさん直ぐに
四十名分の食事の用意と
休めるように天幕を張ってあげて下さい
あとお医者さんも集めて下さい」
パリィはバイトに受け入れ準備のを指示した。
「かしこまりました」
バイトは急いで護衛団に指示を出して、準備に取り掛かる。
パリィはパラドールと言う名に聞き覚えがあったが思い出せないでいた。
暫くして、パラドールの人々が村の入り口まで来て、急に驚いた様にひざまづいた。
そして不思議なことにマルティアの旗に礼を取り始める、その様子を見てバイトが声を漏らした。
「まさかパラドール……
メーテリア・パラドール様の……」
パリィはそれを聞いて思い出した、メーテリア・パラドールは美しいエルフの女性で、千年前マルティア国で、パリィに魔法を教えてくれた魔導師であった。
(やっと来たわね
メーテリアが居ないわね……)
ユリナがローブを着て深いフードを被り、様子を伺っていた。
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