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〜第九章 メモリア・白き風〜

152話❅ビルドの遺作❅

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 パリィは風の劔の刻印を二人に見せた。
「これっ!
ひい爺様の剣‼︎
なんでパリィさんが⁈」
二人は驚いていた。
そしてパリィは柄の皮を静かにとり、劔の名と裏に掘られた自分の名を見せる。

「そん……な!
パリィさんって」
テリアが驚いて言う。


そしてパリィは知っていた、ビルドの剣の秘密を、パリィは刀身の刃を左手で強く握る。

熱い痛みが走る。

「何をするんですか⁈」

「静かに見てて
貴方達のひい爺様
ビルドの技を……」

パリィの血が刀身をつたって、刻印に達した時それは起こった。
 パリィの血が刻印に吸い込まれて行く、そしてパリィは左手だけで剣を持ち、柄の劔の名とパリィの名を二人に見せた。

二人は驚きを隠せない。

 パリィの血が染み渡ったかの様に、赤い文字に変色し艶を帯びている。
 そしてパリィは再び柄で剣を持ち、左手を刀身に添え力強く言った。


「風の劔よ汝の主
パリィ・メモリアが命ずるっ!
我が命尽きるまで
我を守り我に仇なす者を滅せよ!」

 そう言った瞬間、風の劔から凄まじい勢いでエメラルドの光と風が吹き出した。
パリィの白い髪が靡き、パリィは風に包まれる。



「風の力……
ウィンディアよりは弱いけど
私と同じくらいは使えそうね
流石お姉ちゃん」
 ユリナはパリィの小屋から少し離れた場所からその様子を感じていた。

(ユリナさん
そろそろ離れた方がいいと思いますよ)
オプスがユリナに言う。

「そうね……」
 ユリナがそう呟いた時、パリィの風がユリナがいる所まで届いた。

「もう気付いたかな
じゃまたねお姉ちゃん」
ユリナはそう言い一瞬で姿を消した。




(いま誰か近くにっ!)

 パリィは気付いたがその気配は、一瞬で遠くに離れた、まるで時の流れを無視したような速さでありパリィは驚いた。


 その間に風の劔の刀身からパリィ・メモリアの名が浮かびあがり、それが形を変え模様に変わって行く。
 この劔を鍛える時に、ビルドはパリィだけの劔にする為に、パリィの血と爪と髪を劔に与えたのだ……それはパリィの魂を劔に伝える秘術……。

『風の劔』は魔剣や神剣の類の劔で、何方にも成長する秘剣であった。


 パリィが武器屋に置かれていたこの劔を持った時、手にシックリ来たのは本当の持ち主に出会えた為だ、他の者が持っても手に馴染まないのは、本当の持ち主でない為に、剣が嫌がっていたのだ。

 劔から放たれる風と光が収まり、パリィは話し出した。


「二人ともゴメンネ
気を使わせたく無くてさ
私はパリィ・メモリア……

千年前のマルティア国は私が作った国なの
テミア、テリア……。
貴方達のひいお爺さんビルドには本当にお世話になったわ……
運命なのかな
ビルドの血を引く貴方達に出会えたのは……」

「マルティアの女王様って
死んだ筈じゃ」
テリアが驚きながら聞く。


「そうよ
でもここに私はいるの
私はまた国を作ろうと思ったんだけどね
昨日の夢で……
私が死んでからのマルティア国を見て
知らないといけないって思えたの

だから冬を越したらだけど
マルティア国があった極北地域行こうって決めたの
生まれ変わってから目を背けていたのかな
解らないけど
二人に出会って夢を見て気付いたの……

あの後なにがあったのか知らなきゃいけないって……
二人は一緒に来てくれる?」

 テミアとテリアは驚きを隠せない、その様子を見て二人に重そうな袋を渡した。


「怖いならいいよ
このお金で当分は暮らして行けるから
アイファスに行くといいよ
雪国も慣れれば
いい暮らしが出来るから」

 そうパリィは一筋の涙を流しながら笑顔で言う。


「これはパリィさんのお金です!
私達はパリィさんに鍛冶屋を作って貰うんですから一緒に行きます!」
 テミアが元気にそう言い、お金を突き返して来た。

「うん
女王様なら付き人も必要じゃないですか
それと私達ドワーフは恩を倍にして必ず返します。
私も一緒に行きますよ」
テリアも元気にそう言ってくれた。


 まるでパリィに元気を分けてくれる様でもあった、パリィは生まれ変わってから初めて、人に生まれ変わりである事を伝えた。

 やっと生まれてから初めて一歩を踏み出せた気がした。


ありがとう、そう心で呟き二人を抱きしめる。パリィの溢れる涙をテミアもテリアも優しく受け止めてくれていた。


(あの気配……
私の大切な人の様な気がする
お母さんなの?
妹なのかな……)
 パリィはもし二人が断っても誰かが近くで見守ってくれる気がしていた、だが二人が来てくれると言うことが何よりも嬉しかった。


 次の日は三人とも朝から木を探しに行った、ベッドを広げるのに薪様に斬った木では出来ない為だ、部屋は十分な広さがある為に、少し棚の位置をずらせば簡単に場所は確保出来るので特に考えずに森に行く。

 暫く森を歩くと、まだ新しい倒木があった。太さも十分ある、パリィはその木が傷んでないかを確認すると、早速テミアとテリアが馬で引きずりながら運べる様に切り始める。

 流石ドワーフと言ったところだ、木を切るのに慣れているのか、ノコギリを使って素早く切って行く、パリィはそれを手伝うが、少し邪魔になりそうな気がして、周りの薬草を探すと、意外にも何種類か直ぐに見つかる。


 木を切り終えて二頭の馬に繋ぎ運んでいく、馬は三頭連れて来ていて、テミアが小さめに切った木も、もう一頭に繋いで運んでいく、こちらは薪用にと気を利かせてくれたのだ。

 小屋に着くと一旦休憩してからテミアとテリアは作業に取り掛かる。
「二人とも凄い慣れてるけど
家具って作った事あるの?」
パリィが聞く。


「初めてですよ。
でも頭の中で図面が書けるので
その通りに作ってます」

 テミアが手を動かしながら言い、切り出した木材をテリアが加工して行く。

「小屋とかも作れそう?」
パリィがまた聞く。

「多分……
木材が有れば出来ると思います。
私達のお父さんが家を作るのを手伝ってましたから……」
テリアがそう言うと。

「うーん
ここは薪にしかならいないなぁ……
あっちはどうだろう……」
 テミアが切っている所に、傷んでいる場所があったようで、薪用に運んで来た木材を見て切り始めた。

「大丈夫だね、ちゃんと足に使える」
テミアはそう言い切り出し始める。

 やっぱりドワーフって凄いなぁとパリィは感心して、パリィは二人の為にご飯の用意と、お風呂の用意を始めた。

 テミア達はベッドを広げ初め木槌を叩く音がこだまする、日が傾き暗くなり出した頃。

「パリィさん出来たよ~」

 テリアが教えに来た、ちょうどパリィはその時、余った木材を使いお風呂を沸かしていた。

 小屋に入り寝室を見ると、三人が寝れる程にベッドは広くなっていた。

「ありがとう
後でお布団出せばいいから
お風呂入ってご飯にしようか」
パリィが笑顔で言い三人はお風呂に入り、食事を取る。三人は既にとても仲良くなっていた。
 テミアとテリアがビルドのひ孫だからだろうか?不思議と三人とも親近感を感じていた。


 そして十日程経ち。また三人はアイファスに向かっていた、薬草摘みで貯まったキノコや薬草を売りに行く。今回は星見草は無いが沢山の薬草とキノコを積んで行った。

 全部売って4万クルトになるが、やっぱり星見草は大きい、二つだけで5万クルトそうパリィは実感していた。

 この何日かで、テミアとテリアは小屋の地下を掘っている食料や薪を小屋の地下に貯めれるように、しっかりと補強しながら掘り進めている。その二人を見て鍛冶屋より大工?とパリィは思い微笑みながら見ていた。


 でもそれは必要な事でもあった、四ヶ月の冬を越すのに、外の薪置き場はよく雪に埋もれる、パリィも何度か苦労した事がある。
 更に、テミアとテリアは薪小屋も作っていた、二人は冬の間でも、お風呂は毎日入りたいらしく、薪を沢山貯めれる様に頑張って作っていたのだ。

 パリィもそう思っていたが、エルフのパリィには直ぐには作れないことだった。
 後十日もしたら雪が降り出す、吹雪の日が続けば外に出られない、冬支度を急いで保存出来る食料をアイファスで買い漁っていく。


「ふべんよのぉ……
冬支度とは妾には解らぬな」

 空ではムエルテが姿を消し、パリィたちの様子を見ていた。

「ムエルテ様
人にとって一冬を越すのは
大変なんですよ」
カイナがムエルテに言う。

「そう言えば
そちの村はどうなのじゃ?」
ムエルテが聞いた。

「はい
ムエルテ様のおかげで
何事もなく
今年の冬も越せますね」
カイナが微笑んで言う。

「そうか……
それは良いの」

 ムエルテが優しい顔で言い、二人は暫くパリィ達の様子を見ていた。
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