163 / 234
〜第九章 メモリア・白き風〜
152話❅ビルドの遺作❅
しおりを挟むパリィは風の劔の刻印を二人に見せた。
「これっ!
ひい爺様の剣‼︎
なんでパリィさんが⁈」
二人は驚いていた。
そしてパリィは柄の皮を静かにとり、劔の名と裏に掘られた自分の名を見せる。
「そん……な!
パリィさんって」
テリアが驚いて言う。
そしてパリィは知っていた、ビルドの剣の秘密を、パリィは刀身の刃を左手で強く握る。
熱い痛みが走る。
「何をするんですか⁈」
「静かに見てて
貴方達のひい爺様
ビルドの技を……」
パリィの血が刀身をつたって、刻印に達した時それは起こった。
パリィの血が刻印に吸い込まれて行く、そしてパリィは左手だけで剣を持ち、柄の劔の名とパリィの名を二人に見せた。
二人は驚きを隠せない。
パリィの血が染み渡ったかの様に、赤い文字に変色し艶を帯びている。
そしてパリィは再び柄で剣を持ち、左手を刀身に添え力強く言った。
「風の劔よ汝の主
パリィ・メモリアが命ずるっ!
我が命尽きるまで
我を守り我に仇なす者を滅せよ!」
そう言った瞬間、風の劔から凄まじい勢いでエメラルドの光と風が吹き出した。
パリィの白い髪が靡き、パリィは風に包まれる。
「風の力……
ウィンディアよりは弱いけど
私と同じくらいは使えそうね
流石お姉ちゃん」
ユリナはパリィの小屋から少し離れた場所からその様子を感じていた。
(ユリナさん
そろそろ離れた方がいいと思いますよ)
オプスがユリナに言う。
「そうね……」
ユリナがそう呟いた時、パリィの風がユリナがいる所まで届いた。
「もう気付いたかな
じゃまたねお姉ちゃん」
ユリナはそう言い一瞬で姿を消した。
(いま誰か近くにっ!)
パリィは気付いたがその気配は、一瞬で遠くに離れた、まるで時の流れを無視したような速さでありパリィは驚いた。
その間に風の劔の刀身からパリィ・メモリアの名が浮かびあがり、それが形を変え模様に変わって行く。
この劔を鍛える時に、ビルドはパリィだけの劔にする為に、パリィの血と爪と髪を劔に与えたのだ……それはパリィの魂を劔に伝える秘術……。
『風の劔』は魔剣や神剣の類の劔で、何方にも成長する秘剣であった。
パリィが武器屋に置かれていたこの劔を持った時、手にシックリ来たのは本当の持ち主に出会えた為だ、他の者が持っても手に馴染まないのは、本当の持ち主でない為に、剣が嫌がっていたのだ。
劔から放たれる風と光が収まり、パリィは話し出した。
「二人ともゴメンネ
気を使わせたく無くてさ
私はパリィ・メモリア……
千年前のマルティア国は私が作った国なの
テミア、テリア……。
貴方達のひいお爺さんビルドには本当にお世話になったわ……
運命なのかな
ビルドの血を引く貴方達に出会えたのは……」
「マルティアの女王様って
死んだ筈じゃ」
テリアが驚きながら聞く。
「そうよ
でもここに私はいるの
私はまた国を作ろうと思ったんだけどね
昨日の夢で……
私が死んでからのマルティア国を見て
知らないといけないって思えたの
だから冬を越したらだけど
マルティア国があった極北地域行こうって決めたの
生まれ変わってから目を背けていたのかな
解らないけど
二人に出会って夢を見て気付いたの……
あの後なにがあったのか知らなきゃいけないって……
二人は一緒に来てくれる?」
テミアとテリアは驚きを隠せない、その様子を見て二人に重そうな袋を渡した。
「怖いならいいよ
このお金で当分は暮らして行けるから
アイファスに行くといいよ
雪国も慣れれば
いい暮らしが出来るから」
そうパリィは一筋の涙を流しながら笑顔で言う。
「これはパリィさんのお金です!
私達はパリィさんに鍛冶屋を作って貰うんですから一緒に行きます!」
テミアが元気にそう言い、お金を突き返して来た。
「うん
女王様なら付き人も必要じゃないですか
それと私達ドワーフは恩を倍にして必ず返します。
私も一緒に行きますよ」
テリアも元気にそう言ってくれた。
まるでパリィに元気を分けてくれる様でもあった、パリィは生まれ変わってから初めて、人に生まれ変わりである事を伝えた。
やっと生まれてから初めて一歩を踏み出せた気がした。
ありがとう、そう心で呟き二人を抱きしめる。パリィの溢れる涙をテミアもテリアも優しく受け止めてくれていた。
(あの気配……
私の大切な人の様な気がする
お母さんなの?
妹なのかな……)
パリィはもし二人が断っても誰かが近くで見守ってくれる気がしていた、だが二人が来てくれると言うことが何よりも嬉しかった。
次の日は三人とも朝から木を探しに行った、ベッドを広げるのに薪様に斬った木では出来ない為だ、部屋は十分な広さがある為に、少し棚の位置をずらせば簡単に場所は確保出来るので特に考えずに森に行く。
暫く森を歩くと、まだ新しい倒木があった。太さも十分ある、パリィはその木が傷んでないかを確認すると、早速テミアとテリアが馬で引きずりながら運べる様に切り始める。
流石ドワーフと言ったところだ、木を切るのに慣れているのか、ノコギリを使って素早く切って行く、パリィはそれを手伝うが、少し邪魔になりそうな気がして、周りの薬草を探すと、意外にも何種類か直ぐに見つかる。
木を切り終えて二頭の馬に繋ぎ運んでいく、馬は三頭連れて来ていて、テミアが小さめに切った木も、もう一頭に繋いで運んでいく、こちらは薪用にと気を利かせてくれたのだ。
小屋に着くと一旦休憩してからテミアとテリアは作業に取り掛かる。
「二人とも凄い慣れてるけど
家具って作った事あるの?」
パリィが聞く。
「初めてですよ。
でも頭の中で図面が書けるので
その通りに作ってます」
テミアが手を動かしながら言い、切り出した木材をテリアが加工して行く。
「小屋とかも作れそう?」
パリィがまた聞く。
「多分……
木材が有れば出来ると思います。
私達のお父さんが家を作るのを手伝ってましたから……」
テリアがそう言うと。
「うーん
ここは薪にしかならいないなぁ……
あっちはどうだろう……」
テミアが切っている所に、傷んでいる場所があったようで、薪用に運んで来た木材を見て切り始めた。
「大丈夫だね、ちゃんと足に使える」
テミアはそう言い切り出し始める。
やっぱりドワーフって凄いなぁとパリィは感心して、パリィは二人の為にご飯の用意と、お風呂の用意を始めた。
テミア達はベッドを広げ初め木槌を叩く音がこだまする、日が傾き暗くなり出した頃。
「パリィさん出来たよ~」
テリアが教えに来た、ちょうどパリィはその時、余った木材を使いお風呂を沸かしていた。
小屋に入り寝室を見ると、三人が寝れる程にベッドは広くなっていた。
「ありがとう
後でお布団出せばいいから
お風呂入ってご飯にしようか」
パリィが笑顔で言い三人はお風呂に入り、食事を取る。三人は既にとても仲良くなっていた。
テミアとテリアがビルドのひ孫だからだろうか?不思議と三人とも親近感を感じていた。
そして十日程経ち。また三人はアイファスに向かっていた、薬草摘みで貯まったキノコや薬草を売りに行く。今回は星見草は無いが沢山の薬草とキノコを積んで行った。
全部売って4万クルトになるが、やっぱり星見草は大きい、二つだけで5万クルトそうパリィは実感していた。
この何日かで、テミアとテリアは小屋の地下を掘っている食料や薪を小屋の地下に貯めれるように、しっかりと補強しながら掘り進めている。その二人を見て鍛冶屋より大工?とパリィは思い微笑みながら見ていた。
でもそれは必要な事でもあった、四ヶ月の冬を越すのに、外の薪置き場はよく雪に埋もれる、パリィも何度か苦労した事がある。
更に、テミアとテリアは薪小屋も作っていた、二人は冬の間でも、お風呂は毎日入りたいらしく、薪を沢山貯めれる様に頑張って作っていたのだ。
パリィもそう思っていたが、エルフのパリィには直ぐには作れないことだった。
後十日もしたら雪が降り出す、吹雪の日が続けば外に出られない、冬支度を急いで保存出来る食料をアイファスで買い漁っていく。
「ふべんよのぉ……
冬支度とは妾には解らぬな」
空ではムエルテが姿を消し、パリィたちの様子を見ていた。
「ムエルテ様
人にとって一冬を越すのは
大変なんですよ」
カイナがムエルテに言う。
「そう言えば
そちの村はどうなのじゃ?」
ムエルテが聞いた。
「はい
ムエルテ様のおかげで
何事もなく
今年の冬も越せますね」
カイナが微笑んで言う。
「そうか……
それは良いの」
ムエルテが優しい顔で言い、二人は暫くパリィ達の様子を見ていた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
死んだ日の朝に巻き戻りしました ら、溺愛生活がリスタート?
ピコっぴ
ファンタジー
婚約者に裏切られ、家族に見限られ、絶望の中、飛び込みをした⋯⋯
ら、泳げる者は入水自殺は無理なのだと判る
まして、我が血族は精霊術で名を上げた名家
水霊が私を死なせなかったし、あまりの苦しさに藻搔いて、岸に辿り着いてしまった
結局、本当のところ、死にたい訳ではなかったのだ
それがわかったので、なんとか生き直そうと思った矢先、事故で死んでしまった
愚かな自分に泣けてくるけど、その涙を流す身体ももう動かない
精霊の導きであの世へ⋯⋯ と、思っていたのに、目が覚めたら、投身自殺した当日の朝に戻っていた?
没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生した元日本人ノエルは、父の急死によりエトワール伯爵家を継承することになった。
亡くなった父はギャンブルに熱中し莫大な借金をしていた。
さらに借金を国王に咎められ、『王国貴族の恥!』と南方の辺境へ追放されてしまう。
南方は魔物も多く、非常に住みにくい土地だった。
ある日、猫獣人の騎士現れる。ノエルが女神様から与えられた生産スキル『マルチクラフト』が覚醒し、ノエルは次々と異世界にない商品を生産し、領地経営が軌道に乗る。
いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!
町島航太
ファンタジー
ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。
ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。
【序章完】ヒノモトバトルロワイアル~列島十二分戦記~
阿弥陀乃トンマージ
キャラ文芸
――これはあり得るかもしれない未来の日本の話――
日本は十の道州と二つの特別区に別れたのち、混乱を極め、戦国の世以来となる内戦状態に陥ってしまった。
荒廃する土地、疲弊する民衆……そしてそれぞれの思惑を秘めた強者たちが各地で立ち上がる。巫女、女帝、将軍、さらに……。
日本列島を巻き込む激しい戦いが今まさに始まる。
最後に笑うのは誰だ。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる