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〜第八章 ファーブラ最終章 ゲネシス〜

142話✡︎✡︎オプスの秘密✡︎✡︎

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「あなた……神様だったのね……」
 エレナはルーメンの真の姿が遠く離れた場所に居ながらも、脳裏に鮮明に浮かび上がった。

「エレナさん!」
 ウィンディアの声に我に帰り、素早くニヒルの爪を躱す。
 そのニヒルの胴をユリナが暗黒でなぎ払うが、ニヒルは姿を消して躱した。
 ウィンディアとエレナの攻撃は、その体で躱さずに受ける時があるが、ユリナの斬撃、暗黒での斬撃は必ず躱すことにユリナが気づき始める。


(なんで暗黒を……
無の力を恐れている?
いや!そんなはずは無い!
だって……コイツは‼︎)
 そう思いユリナは素早くニヒルの先を読み次に弓を出して矢を放つ!


 暫く距離を意識しながら、矢でエレナを援護する……
(やっぱり、私の攻撃を意識してる……
まずい……)
ユリナは先を見始めていた。

 自分に集まって来る神々からの希望をひしひしと感じていた。
 ニヒルが様子を伺う様にユリナに近づこうとしている。
 ユリナは距離を保ちながら、弓を使っていたがニヒルが姿を消して目の前に現れた。
 ユリナは一瞬時を止めて斬りかかるが……
時を止めたにもかかわらず、ニヒルは動きそれを爪で止めた!


時が動き出し、ニヒルが笑いながら言う。
「やはり貴様は

時を操るか!

クロノスが持つべき力を貴様が手にしたか‼︎‼︎」


「クロノス……

時……

まさか!」
 ユリナは気付いた、テンプスの他に時を意味する言葉がある、それはクロノス、だが破壊神クロノスはその様な力は持っていない。


 ユリナは距離を取り、ニヒルをその瞳で睨む様に見る、ニヒルの過去……ニヒルはクロノスが時の力を持つ事に気づき、その力を奪い自らの力を剣に変え、変わりにそれを授けたのだ。
 だが時の力をニヒルは操る事が出来ずに時の風にのりニヒルの手元から離れて行ってしまった。

 ニヒルがユリナだけを襲い始める、ユリナは感じた……ニヒルは時の力を恐れている。

 一瞬でも時を止めながら、先を読みながら躱して行くが、まだ神では無いユリナは少しづつ追い詰められて行く、ユリナはまだ時の力を操りきれていない、その為に巨大な無の力、ニヒルを抑えきれないのだ。
 ウィンディアが巨大な竜巻を生み出し、ニヒルは竜巻に飲まれる、その一瞬ニヒルの視界が遮られた時に時を止めてユリナは走り出しその場から離れた。


(ニヒルは必ず追って来る
あのまま私がそこに居たら
みんな殺されてしまう……)
 ユリナの読み通り、ニヒルはエレナ達を相手にせずにユリナを追い始める。


 エレナとウィンディアはニヒルを追う。
「ユリナ……」
エレナが呟く、ユリナが守ろうとしてる事がエレナに伝わって来る。

 ユリナは凄まじい速さで走って行く。
 北へ北へ向かって行った、その速さはエレナでもウィンディアでも追いつけない程であった、ユリナは一対一に持ち込もうとしていた……何処までも何処までも北へ向かった。


 その頃、オプスとムエルテは最初に現れたニヒルとの死闘を繰り広げていた。

 ニヒルが遊びを終わらせようとしたのか、先程よりも正確に早く攻撃を繰り出して来る。
 ニヒルが姿を消し少しの間、現れなかった……オプスとムエルテは背中をピッタリと合わせて互いに背後を警戒する。

「オプス
そろそろ妾に話してくれても良く無いか?

そちの力はなんだ……

なにゆえ無の力を使えるのだ?
暗黒世界はどうやって作った……

このままじゃ、二人共殺されるのは解ってるだろ?
冥土の土産に聞かせてくれぬか……」

 ムエルテが僅かに息を切らしている、それを感じても、オプスは暗い表情で沈黙する。

話したく無い様だ。

「何だ?
オプスよまだ誰にも話しておらぬのか……」
ニヒルが姿を消したまま嘲笑う様に言う。

「?」
ムエルテが疑問に思い考える……

(ニヒルは神の瞳を持ちながら
心が見えぬ……

何故じゃ……

見ようと思えば見透かせるはず……
神の瞳!……
無の力を持つ瞳‼︎
……まさか!)
「オプス……其方……」
ムエルテが気付いてオプスに聞く。


「ムエルテ……
私の瞳はニヒルの瞳なんです……」

 ムエルテはオプスから背中を通して感じた、震えている……

 オプスは嫌われてしまうのでは無いか、それを恐れていたのだ……

 オプスが産まれてから、誰にも話した事の無い秘密だった、全てから闇に葬る様に隠して来た秘密であった。
 それは何かあれば忌み嫌われてしまう世界……アインが行った過ちから生み出されたその現象をオプスは心から恐れていた。

 その為にオプスは力を使う時以外はずっと瞳を閉じていたのだ……
 そしてかつての戦いでニヒルがディアボルスとして、全ての世界を恐怖に陥れた時に、アインがディアボルスを恐れ嫌い、無に返す様にオプスに命じた時、その秘密が知られてしまえば、自分もそうなると心から感じ恐れた。

 だからこそ、オプスは神々の中で誰よりも慈悲深い神へとなっていったのだ。
 いつ自分がそうなってもおかしく無い、自分がされて嫌な事を極力しない様になり、そして優しさと慈愛に満ち溢れた女神へと成長したのだ……

「オプス……
何を震えている……
妾は其方が好きじゃ
妾は死から生まれた……

誰もが恐れる死から生まれたのじゃ……
天界から追い出されたら……

妾と共に生きれば良い……

あんな世界は天界とは呼べぬがな……」
 オプスは瞳から涙を溢れさせていた、震えも止まっている。

「オプスよ!

その瞳を見開け!

それは其方の瞳じゃ!
誰のものでも無い!

奴を倒した後で
其方が愛した地上の美しさを
その瞳で存分に楽しむが良い‼︎


お前が愛したトールが幾度も守った!
地上世界を‼︎
存分にその瞳に焼き付けるが良い‼︎」

 ムエルテの叫びがオプスの心に染み渡る……
 オプスは初めて全てを受け入れられた気がした、トールにすら話して無かった秘密をムエルテが気付いて受け止めてくれたのだ。

 オプスは初めてその瞳を受け入れた。


 そして再び閉じていた瞳を見開いた時、自らの瞳が変わった気がした。
 無に返さなくなっていた、今まで見た物全てを無に返しそうになっていた、だが意識しなければ普通に見れる様になっていた。


 そしてムエルテの寛容さが気に入らなかったのであろう、ニヒルが現れムエルテを襲い始める。
 素早くオプスがニヒルの背後に周り斬りかかる、再びニヒルが消え、オプスの剣をムエルテの鎌が抑え二人は瞳と瞳が合った。。


「やはり……
そちの瞳は美しい……」

ムエルテが微笑みながら呟き、オプスは確かにその言葉を聞いて微笑んで応える。

「貴方こそ……」

 ムエルテも微笑み、再び現れたニヒルに二人は襲い掛かかった。

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