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〜第七章 ファーブラ・神々の参戦〜

133話話✡︎✡︎冥界の想い✡︎✡︎

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「水の巫女、デスナイトで私が手を貸して差し上げます……
久しぶりに巨人族のフェルムナイトを鉄屑にしてみたくたりましたわ」
 メトゥスが笑いながらそう言う、ユリナは楽しんでいる様なメトゥスの態度に僅かに怒りを覚えるが、揉める事を避けて押さえていた……

「援軍としてならお願いしますが……
この戦い……」
エレナが静かにそう言い始めたが。

「負ける事が出来ない戦いと思って頂きたい!
我ら地上が滅びた後、攻撃を受けるのは何処か⁈⁈

フローディア様が辺境地域で敵と戦っている事を考えれば!
次に狙われるのは冥界‼︎‼︎
それを考えれば貴方は冥界の神の一人として笑っては居られないはず!
其れを考えて頂きたい‼︎‼︎」
エレナは感情をあらわにしてメトゥスに訴えた。


だがメトゥスは退かずに言い返した。
「我ら冥界が滅びようとも其れは其れで構わないのです!
我らは天界より忌み嫌われた者達!

神々が我らを手に取らなかった……
アインが愛と希望を手にして微笑み、我らを払い除けた‼︎‼︎

求めた者が!求めた者が‼︎

全ての源を無視したのだ‼︎

憎悪!

怒り!

恐怖!

悲嘆!

我らがあってこそ!
全ては本当の姿になる‼︎

今の地上世界はアインが作り出した!
偽物の世界だ‼︎‼︎」
ユリナはそれを聞いて全てを悟った。


(まさか……ニヒルが全てを滅ぼそうとしているのは……
その過ちを罰する為?……

えっ!でもそれは地上と冥界の長い争いは無関係……
ならやっぱり、天界が冥界の神々を迎え入れれば全ては収まる?
違う……そんな生優しい物じゃない……

死の女神ムエルテは、地上は関係ないって気付いている!

じゃその過ちを正せれば……
でも……どうやって……)


「ただ変わってるのはムエルテだ……
ムエルテは我らと違う、ムエルテはニヒルから産まれた神では無い……
クロノスもアインもニヒルが生み出し、我ら冥界の神々もニヒルから生まれた……

ムエルテは純粋に死から生まれた……
だから、ムエルテは地上も冥界も大切に思っているのです……

我ら冥界の神々は、忌み嫌う感情が生み出した世界なんてどうでもいいと思っているのに……」
メトゥスがつまらなそうに言っている。

 エレナは気付いた、メトゥスが持つ不満に、それはアインが負の感情を差別したことから始まっていた。

 その差別され、見放された感情も神々になり冥界を作り上げた、自分達で自分達の居場所を作ったのだ……
 そして天界から生み出された地上を滅ぼして、天界の過ちを訴え続けているとしたら……だが今、それを詮索している時間は無い……。

「メトゥス、貴方の伝えたいことは解りました。扉を開けて下さい」
 エレナが静かに言うとメトゥスはユリナを見て言った。
「ユリナさん手伝って下さい……」

「えっ?なんで私が」
ユリナが戸惑う。
「私の力を少し貸しますので、手をこの石に乗せて下さい。」
メトゥスはユリナの前に冥界の石を差し出す、それを聞いてエレナが問いかける。
「まって、なぜユリナが神の力が欲しいなら私の水の力で」
エレナが急いで言う、ユリナに何かあったらと焦っていた。

「エレナさん、少し私達は時間を無駄にしました。静かにして下さい。」
メトゥスがそう言い、手の平程の石を持ちユリナに差し出した。

 ユリナはその石に手を乗せて、何か自分の中から何かが湧き上がるのを感じた。
「これは……」
ユリナが小さく呟く。

「そう……あなたは神の血を色濃く引いています。
貴方の血が輝く時、貴方は女神になられるでしょう……

その力が何を司るのか解りません……
ですが忘れないで下さい……

貴方のその……

まだ誰も知らぬ力に我ら冥界は希望を託し、立ち上がりました。
決してニヒルに屈しないで下さいね」
メトゥスが始めて女神らしく神聖さを放ち語った。
 冥界の神もこの世界の住人であったのだ。
 メトゥスもニヒルとの戦いに地上の手を借りる事に反対したが、ムエルテにユリナの事を聞いて、まだ見ぬ力に女神として賭ける事にしたのだ……。

 それ以降メトゥスはユリナをムエルテ以上に観察していた、それはユリナの守護神ウィンディアよりも注意深く見ていたのだ……

 そしてユリナの秘めた能力に、メトゥスだけが気付き始めていた。

「あなたなら……奇跡を生み出せるかも知れません……
どの様な形であっても、貴方の信じる道をお行きなさい……」


 それを聞いてエレナもカナも……ピリアも多くの意味で驚きを隠せなかった。
 冥界の女神である恐怖の女神メトゥスがユリナを最初に公に認めたのだ……

ユリナは小さな笑顔を見せて頷いた。

その顔を見てメトゥスは微笑み叫ぶ!
「我ら恐怖の軍団よ‼︎
これより地上に撃って出る‼︎

デスナイトはフェルムナイトを鉄屑せよ!
ブラットナイトはシャッフェンを駆逐し!
辺境地域へ押し返しなさい‼︎

デスロード!

ブラッドロード!

お前達は地に潜み!
ユリナを護りなさい‼︎‼︎」

 メトゥスがそう叫ぶと、エレナ達の部隊の後方から重い鎧の音が鳴り響き、赤黒い鎧を着たデスナイトとブラットナイトが無数に集まって来た。

「デスロード⁈ブラッドロード⁈」
エレナ達が驚く、王立図書館でブラッドロードはエレナに倒され、デスロードはアグドでユリナとカイナに倒された。

「驚くことはありませんわ……
冥界の者は、死が集い苦しみの元で血が集えば、幾らでも蘇りますから……

彼らも私の恐怖の軍団の王……
そう容易く負けはしませんわよ」
 メトゥスはそう笑いながら言うが、本気でユリナの覚醒を待っている様だった。


「ご武運を……」
 そしてメトゥスがエレナ達にそう言い、力を石に込めた。

 ユリナは石に何かをとてつもない勢いで吸われる気がしたが、それを遥かに凌ぐ勢いでユリナの体から力が溢れ出すのを感じた。

「この力は……何⁈⁈⁈」
ユリナが驚き戸惑う。

「大丈夫……あなたの血……
神の血と竜の血をあわせ持つ奇跡の力……
あなたの力ですよ……」
 メトゥスが優しく天界の女神の様に、ユリナに囁く。


そしてゆっくりと冥界の門が開きだした。

「行きなさい‼︎
地上に希望を‼︎」
メトゥスが叫んだ‼︎


 地上ではトール率いる軍に、殆どのクリタス軍が合流し何とか持ち堪えていたが……
 いつ押し切るられてもおかしくない状況であった。

「クソッ!フェルミンに使いを出せ!
首都クリタスに撤退せよと!」
トールは戦いを首都防衛戦に切り替え、エレナ達の到着まで耐える事を決断した時、敵軍の中央に赤黒い空間の歪みが生じた、そしてそれは飛び出す様に現れた!


「全軍蜂矢陣にて突撃せよ‼︎‼︎
クリタス軍までの敵を斬り裂き敵を分断せよ‼︎‼︎」
エレナが飛び出し、シャッフェンをクリスタルの小太刀で斬り裂きながら叫ぶ‼︎

「オォォォオォォォ‼︎‼︎‼︎」
 エレナの精鋭部隊が死力を尽くした様な叫びを上げエレナに続いた。
 ユニオンレグヌスエルフの旗印と、フロースデア家の旗を掲げて凄まじい勢いで戦場にその旗がはためく。

 エレナは祝福の力を解放し神聖な水色の輝きを放ち、斬撃を放つ度に水飛沫を上げて爽快にシャッフェンを倒して突き進んで行く。

 その次にデスナイト達が現れ、次々にフェルムナイトに襲いかかる、急に現れたデスナイトの大軍にフェルムナイトはなす術なく駆逐されて行く。

 そして赤黒い鎧を着たアンデットのブラットナイトが一軍となり後方から来るシャッフェンの群れを抑え押しとどめ、押し返そうとしている。

「本当に冥界の軍が味方になるとはな……
だが来るのが少し遅いぜ」
トールが鼻で笑い僅かにグチを溢す。

 その光景を見た連合軍は急に足並みをそろえようとし始めた、敵に恐れ尻込みしていた者達が、強大な力を持つ冥界の軍が加わった事に勇気を得たのだ。
 だがエレナには僅かな不安があった、この戦いは初戦に過ぎない、ニヒルが現れていないのだ。
 それなのにかなり被害が出てしまっている、例えこの場に勝っても負けに等しい勝利である事をエレナは認識していた……
 其れを思わせてはならない、それを兵達が察してしまったら士気は著しく下がり、戦の継続が難しくなってしまう。

「怯むな!我らは負けない‼︎
突き進め‼︎‼︎」

 エレナは気丈に振る舞い、凄まじい数の敵を斬り裂いていった。
 ユリナの頭にメトゥスが言った言葉が過ぎる。

(時間を無駄にしました。)

 クリタス軍に近づくにつれてちらほらと食い散らかされた、クリタス兵の遺体を目にする。
 その時何故かカイナを思い出した、まだ戦いたかった、そんな屍と化した兵達の思いがユリナに伝わって来たのだ。

(ネクロマンサーのカイナなら彼らの想いを聞けるはず……でも……)
 ユリナの手には、まだカイナを切った感覚が僅かに残っていった。
 ユリナはカイナの分まで劔を振ろうとした、星屑の劔に風を乗せ凄まじく速く振り続けていた。
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