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〜第六章 ファーブラ・巨人族〜
120話✡︎✡︎フェルミンの決意✡︎✡︎
しおりを挟む数時間後……ユリナとピリア、フェルミンの三人は闇の街道を通っていた。
百名の護衛を連れている、護衛達を連れて行く気はなかったが、兵達がどうしてもと言い聞かなかったので手練れ百名を選び連れてきたのだ……
トールはフェルミンの事があった為に、トルミアの護衛の為にクリタス王国に残った。
クリタス王国にはユリナ達の様に力のある者が誰一人居ないのだ。
フィリアがいた時は、二人でもこの闇の街道を使いセレスに遊びに行っていた。
その思い出がフェルミンの頭に映し出されて行く。
「フィリア?」
不意にフェルミンがピリアをフィリアと呼んでしまった。
ピリアとフィリアは双子の様にそっくりで、本当に並ぶと背丈でしか見分けが付かなくなってしまう。
「あっ……ごめんなさいピリアさん、本当に私なんかの為に、フィリアさんが犠牲になってしまって……なんてお詫びして良いのか……」
「フィリアは多分幸せだったと思います……」
ピリアは困る事なくそう言った、フェルミンは不思議そうな顔をしたが、ピリアは話し出した……
「私もフィリアも昔、誰も守れなかったんです……
大切な友達も誰一人も守れなくて、知らない間に私達二人になってしまったのです。」
ユリナはクリタス王国の滅亡の時の話だと理解した。
「フィリアの魂に最後少しだけ触れましたが……とても静かで暖かく悲しみや恐れもなくて後悔も無かった様でした」
ピリアもフィリアを思い出しながら話している、大切な妹を失ってしまった……
だがピリアは聞いていたのだ。
「お姉ちゃん、もういいの……
大好きな人を守れたから、やっと守りたい人を守れたから……
お姉ちゃん来てくれてありがとう
本当に嬉しかったよ」
「え?」
それを聞いてフェルミンが驚いた。
「これがフィリアの最後の言葉でした。
だから……
フィリアに笑顔を見せてあげて下さい。
フィリアが守ったフェルミン様の可愛い笑顔を見せてあげて下さい」
ピリアはフェルミンを責める気はなかった……むしろ妹が本当に守りたいと思った人を、ピリアも守りたいと思い始めていた。
そして暫く歩いていると、急にユリナが立ち止まった。
ピリアも解っていた床に紫の血の跡がある……
フィリアが命を落とした場所だ。
フェルミンはすぐに、膝をついて血の跡を触る……涙は流さない、いや、耐えているのだ。
目に沢山の涙を溜めてもう溢れてしまいそうな程に、それでも涙を流さなかった。
そして気付いた、傷ついた床にまだ乾いてないフィリアの血が残っていた。
直ぐに真っ白なハンカチに、その血を染み込ませる……
紫に染まって行くハンカチ、不思議なことに残っていた血の量では染まり切らないはずが、ハンカチに染み渡り真っ白なハンカチが紫のハンカチに染まり切った。
ユリナとピリアはそれに驚かなかった……
闇の街道それはとてつも無い長距離でさえ、歩いて数時間で繋いでしまう不思議な街道である。
何が起こってもおかしくは無い、そう言った場所であった。
フェルミンは大切にそのハンカチをしまい、立ち上がって涙を見せない様にしている。
ユリナはその姿が、アグドへの旅立ちの時のフェルミンそのままに見えた、そして静かにその場を後にし、セレスに着いた。
空は澄み渡り、鳥の声が美しく聞こえる。
ユリナ達は王宮に向かうと、エレナが入り口でフェルミンを待っていた。
フェルミンはエレナに飛びついて抱きしめた、二人の女王は女王である前に親友と言える間柄である、互いに祝福し合い女王となった……
フェルミンの心の痛みをエレナは分かち合う、フェルミンも同じ様に心の悲しみを分かち合っていた。
翌日朝早くからフィリアの葬儀が行われた……
「ありがとう、フィリアは私のお姫様だったよ……」
フェルミンがフィリアの顔を優しく触りそう呟いた。
「エレナさん、あの影達は……」
フェルミンが聞く。
「巨人族……神々に裁かれた種族……
ニヒルの手先になったのも頷ける。
でもなぜフェルミンを狙って……」
エレナが応えようとする、フェルミンは知るべきであると思ったのだ。
だがいつものエレナならこの場でその様な話はしない、カナが母の焦りを感じた。
「お母様、その話は後にしましょう。
今はフィリアとのお別れを……」
カナがそう言い葬儀は進んでいく。
その日の昼には葬儀が終わり、フェルミンからエレナに話し出した。
「エレナさん、パルセスは既に攻撃を受けています。
ユニオン賛成派の有力者が何名か命を奪われました……
このままでは、セレスとの同盟がエレナさんの新しい世界が難しくなってしまいます!
攻撃を止める方法は無いのですか?」
フェルミンは女王としてエレナに話していた。
その瞳に悲しみは無く、既にフェルミンは立ち直っていた、フィリアの死を無駄にしない為に力強い意志を瞳に宿していた。
エレナは微笑みフェルミンを執務室に案内した、そして其処には六枚の旗が掲げられていた……。
エレナはその中から緑の旗を手に取り、フェルミンに渡した、ユニオンレグヌス・ドワーフの旗印。
「フェルミン女王、この旗を掲げて頂けますか?
ダークエルフもユニオンの旗を掲げて下さいます。
私達は近い未来に、大いなる敵と戦います。
その為にこの大陸の全ての種族が力を合わせなければなりません……
出来る出来ないでは無い
勝てる勝てないでは無く……
戦わなければ滅びる道しか無いのです。
種族を滅ぼす戦いになるかも知れません……
ですがこの大陸全ての命がかかった戦いになります。
己が種族のためでは無く
この地上世界の未来の為に
戦って頂けますか⁈」
エレナの言葉にフェルミンは理解した、それが絶望的な戦いであることを……
「解りました……
我が種族の全てをかけてその戦いに参戦しましょう」
商人気質なドワーフとは思わせない程フェルミンは勇ましく答えた。
全てフィリアの死を無駄にしない為に、フェルミンは戦うことを決意していた。
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