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〜第六章 ファーブラ・巨人族〜

116話✡︎✡︎英雄と英霊✡︎✡︎

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 その二日後、ユリナ達はエルドに着くと直ぐに王宮に向かった。
 フェルトは護衛達を王宮の外に待機させた、エルフの兵達はダークエルフの部隊に驚いたが、王宮前で待機した為に騒ぎにはならなかった。

 ユリナとカナ、フェルト、ピリアはエレナの執務室に急いだ。
 ユリナが執務室の扉をノックしながら声もかけずに入ると、そこには四人分の紅茶とお菓子が用意されていた。

「お帰り、ユリナ、カナ、ピリアもお疲れ様……なる程、あなたがダークエルフの族長様ですね。

セレス国女王……いえこの場合、エルフ族長フロースデア・エレナです。
お見知り置きを」

「お母さんなんで?」
「なんで?じゃないでしょユリナ、ダークエルフはダークエルフとは言わないのよ、同じエルフ族で褐色のエルフと言うのが正しいの……」

(その呼び名……俺の世界と同じ……だが俺の世界もこの世界の様にいつ頃からか……

何故……と言う事はダークエルフと言う種族はそもそも存在しないと言う事か?)

フェルトは考えている。

「お名前をお伺いして宜しいかしら?」
エレナが聞く。

「フェルト卿」
カナがフェルトを突っついて言い、フェルトはカナを見てハッとした。
「お目にかかれて光栄です。
私はキリング・フェルトお見知り置きを……」

「キリング家、聞いた事無いですね。
過去の記録にもありませんが……」
ピリアが考えながら呟くが、エレナは手を差し伸べて座る様に促しながら言う。

「ピリアちゃん、今はそれを気にする暇は無いの、もう解ってるでしょ」
「はい、エレナ様……」
「フェルト卿、時間は有りませんので説明しませんが、我らセレス国と同盟を結んで頂きたいのです。
ただの同盟ではありません、この旗を掲げて頂きたいのです。」

パチンッ!

エレナが指を鳴らし、その音と共にエレナの背後の窓に旗が下がって来て窓を覆った。


 紺の下地に金の六芒星……ユニオンレグヌスダークエルフの旗印だ。


「この旗は……」
 フェルトは聞いていた、この世界に来る前にこの世界は六芒星が輝く世界だと。


「この旗は、かつて巨人族が地上を統治した時代に、各種族が掲げた旗……
そのダークエルフの旗印です。

褐色のエルフがこの旗を掲げて頂ければこの世界は纏まります。

セレスとの最大……いえ最も因縁深い、ダークエルフ達が共に歩んで下されば、この世界で我々と交流を持とうとしない、バディ族を始めとする。
辺境地域の獣人族ですら考え無ければならなくなります。

私はこの僅か二年間で、この大陸の大国と言える種族国と友好同盟を結んできましたが、それでも遅過ぎた様です……」

そう言いエレナはチラッとカナを見た。
(カナ……ごめんね……)

カナはエレナが心でそう囁いた気がした。


「数年以内に、この大陸の外より敵が攻めて来ます。
恐らく間違い無いでしょう、敵の攻撃は既に始まっています。」

 エレナがそう言った時に、火の鳥がカナに飛んで来た。

「カナその子は?」
ユリナが聞く。
「あの人の鳥です。
炎の一族だからかな、水の鳥を出しても歩くのが大変そうな子になっちゃうので、火の魔力で出したらこんなに凛々しい鳥になったのです。」
カナがそう言う……

 二人の幸せぶりを簡単に想像出来る……
エレナは涙が溢れそうになってしまったが、それはユリナも同じであった。

 カナが指を出して、火の鳥が羊皮紙に変わり手紙を読んだ。

「やっぱり、あの人のはとても強いです……
無の敵をベルダ砦玉座の間で焼き払ったそうです……」

 それを聞いて、ユリナとエレナはホッとした……だがカナが止まっている。

「カナ様?」
ピリアが言う。
「お、お母様……」
「どうしたのカナ?」
「敵は巨人族だそうです!」

「なっ!」

 エレナは衝撃を受け直ぐにその羊皮紙を受け取り目を通す。
 巨人族……クリアスを生み出し魂無き科学と言う魔法を生み出した種族。
 神々が地上世界を統治する為に最初に送り出した種族。

 そもそもユニオンレグヌスも巨人族が生み出した地上を統治する為のもの、だがその前に、クリアスを使われてしまえば戦にならない。
 神々の救い無しでその様な敵と戦わなければならない、絶望的でしか無かった。


フェルトが鼻で笑ってから話はじめる。
「ふっ、何を怖気付いてるのですか?
我らはその旗を掲げる事を約束します。

そもそも無理な戦いなのは解っていたのでは?
でなければ先程の様に急いだ答えを求めはしないでしょう。
我らが手を貸しても最初から無理を感じていた……

ならば無理な話が一つ増えただけで、戦うと言う答えは変わらない……


自ら生み出すものだから……」


フェルトはそこまで言い立ち上がり……


「奇跡を信じるのではなく

目の前の真実を見つめよ

奇跡は求めるものではなく

信じるものでもない

自ら生み出すものだから


これが巨人族の教えなら、それを我々が巨人族に叩きつけてやれば良い事……それだけの話では?」

「貴方……それだけの覚悟は?」
ユリナが聞いた。
「あぁ、あるさ……
全てを犠牲にしてでも守りたい……
そんな未来がな……」


「未来……」
エレナが呟いた時、ピリアが立ち上がり叫んで走り出した!


「フィリア!」
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