上 下
125 / 234
〜第六章 ファーブラ・巨人族〜

114話✡︎✡︎軍の傲り✡︎✡︎

しおりを挟む





 ユリナ達は後二日でセレスの首都エルドにつくあたりで一日休息を取る。
 カルデアからエルドまでは、通常は馬で二十日かかる所を、十日足らずでここまで来た……相当なペースで来ている。

 フェルトの護衛も流石に疲労を見せている、ユリナは護衛の中からまだ元気な者を選び、その者達だけで翌朝出発する事にした……
 天幕でユリナが一人で悩んでいると、カナがそっと入って来て優しく聞く。


「ユリナちょっといい?」
「お姉ちゃん……」
「こんなに急いで、何かあるの?」

「……」

「お母様に私達の結婚を催促してくれた見たいだけど……其れも関係あるの?」

「……」
ユリナは答えない。

「ユリナ変わらないね、隠すの下手すぎるよ」
カナがそう言い、少しの間を置いて言う。


「災いの日が近いの?」


 カナはまだ状況を何も知らない……ニヒルとの戦いが近づいている事も、ガーラが命を落とした事も、まだ何も知らないのだ……

「お姉ちゃん……」

「あぁ、いっぱいあるぜ……」
フェルトが話に入って来て、ピリアも天幕の入り口に居るのが解る。

「俺から話そうか?
でもユリナから聞きたいんだと思うぜ……
俺だったら大切な人から聞きたいがな……
こんな話……」

 フェルトはそう言って天幕から出て行った……


「優しいんですね、やり方は変ですけど」
天幕から出て少し離れた場所でピリアがフェルトに言った。

「一人で考えてもいい事ないんだよ……
こんな絶望的な話は特にな……」
フェルトが静かに言う。
「解るんですか?そんなことが」
ピリアが聞いた。

「俺がそうだったからさ」

 フェルトはそう言って、部下達の元に歩いて行った……ピリアがそっとフェルトの魂に触れようとした時。


「可愛いお嬢ちゃん、やめときな!
見てもろくなことないぜ」
 フェルトは振り向きもせずに、そう言ったがピリアは見られている気がして僅かに後退りしていた。


 天幕では意を決してユリナが話そうとした時……

「ユリナ様!
エルド方面から軍がこちらに向かって来ます!
我らセレス軍!三万は超えます‼︎」

「なっ!」
「えっ!」
二人は驚いて天幕から飛び出した。
 間違いなくセレス軍である、軽歩兵、重歩兵、騎馬隊、弓兵隊など含めて実戦を想定した編成での行軍である。

 そして女王直属の証、フロースデア家の旗を掲げていた。

その部隊から使いがユリナ達の元に来た……

「貴軍は何処の所属か!
あの旗が見えぬのか‼︎

我らは女王様の命でベルリスに向かう!
道を開けよ!」

 ユリナとカナはそれを聞いて道を開けなかった。


ユリナは怒りを覚えた。


「まず、馬から降りなさい……」

ユリナが静かに言った。

「何を無礼な‼︎我らは女王の……」

 そう言った瞬間、使いはユリナの首飾りを見た、神の涙……今は女王の実の娘の証となって知れ渡っている。


「まっまさか!」
使いは慌てる……

「馬から降りなさい!」
 ユリナが叫んだのと同時に使いは落馬した、ユリナの護衛達が慌てて前に出るが、ユリナは護衛を下げて前に出てた。


 エレナが送った軍が近づき、行軍を止めた……

ユリナは軍全体に向かって叫んだ!


「私はフロースデア・ユリナです!

貴方達は!

女王の命で力を誇示するですか!
その様な気持ちでこの国に何かあった時!
命をかけて戦えるのですか⁈⁈

王立図書館で命を投げ出し、血の王に立ち向かった者達の様に戦えるのですか‼︎⁈
恥を知りなさい‼︎‼︎

その様に今後も驕り高ぶるなら!
全ての軍の規律を正し!
貴方達の様な者達を全て!

最前線に送ります‼︎
死して名誉を守りなさい‼︎‼︎」

 ユリナは許せなかった、同じ軍にすらあの様な態度を取ると言う事は、民や力の無いものにはもっと酷いはずだと感じた、そしてそれをフロースデア家の旗を掲げてその態度を取った事が更に怒りを膨らませた。


 その声はユリナの怒りを乗せ気迫に満ちていた……


 二年前のユリナでは無い、カナはユリナの成長を目の当たりした。
 王立図書館の一件、ユリナの最大の汚点である……だがそれは全て母エレナの器量で、必要最低限の犠牲と言う形になっている。

 だが事実を知っているユリナとカナはその話題は口にする事が無かった……
 ユリナは彼らの犠牲を受け止め、そしてそれを無駄にしない、してはならないと……
そう言える心の強さを身につけていた。


 ユリナの怒りをその場の軍全体が把握した……

 セレスは各国の中でも中心的な存在になっている、その為に一部の部隊では傲っていると言う報告を聞く様になっていた。
 それを目の当たりにしユリナは一括する様に怒りをぶつけた。

 直ぐに全軍がユリナとカナにひざまづいた、その隊にはユリナが指揮する弓兵師団が居ない事に、カナは僅かにホッとしていた。


 ユリナは直ぐにユリナが指揮する弓兵師団の二個中隊にベルリス駐留軍に合流する様に指示を出した。

 彼らの見張り役として送り込んだのだ。



「お母様に似てきましたね。」
カナが微笑みながら言う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

リフォーム分譲ダンジョン~庭にダンジョンができたので、スキルを使い改装して、分譲販売することにした。あらぬ罪を着せてた奴らにざまぁしてやる~

喰寝丸太
ファンタジー
俺はソフトウェア開発会社の社員だった。 外注費を架空計上して横領した罪に問われ会社を追われた。 不幸は続く。 仲の良かった伯父さんが亡くなった。 遺産が転がり込むかと思われたら、貰った家の庭にダンジョンができて不良物件に。 この世界は10年前からダンジョンに悩まされていた。 ダンジョンができるのは良く聞く話。 ダンジョンは放っておくとスタンピードを起こし、大量のモンスターを吐き出す。 防ぐ手段は間引きすることだけ。 ダンジョンの所有者にはダンジョンを管理する義務が発生しますとのこと。 そして、スタンピードが起きた時の損害賠償は所有者である俺にくるらしい。 ダンジョンの権利は放棄できないようになっているらしい。 泣く泣く自腹で冒険者を雇い、討伐する事にした。 俺が持っているスキルのリフォームはダンジョンにも有効らしい。 俺はダンジョンをリフォーム、分譲して売り出すことにした。

騎士と魔王とetc...

アヤネ
ファンタジー
勇者は魔王を討伐する…、 はずだった!? 「旅の仲間が魔王か…。」 「やかましい仕方なくだ。」

デジタル・リボルト~ディストピアからへの英雄譚~

あかつきp dash
ファンタジー
西暦何年ともおぼつかない未来、AIの進化により大半の仕事が代行され、人類は大いなる余暇を手にすることになった。一方で東京から子供たちによって大人たちは追い出される。 それから10年。片岡里奈は、12歳になるとプレイ資格が与えられるARゲーム「東京迷宮」に参加する。しかし、18歳の誕生日と同時にプレイ資格を剥奪されるという制約があった。東京23区がダンジョンに変貌し、子供たちは魔物と戦いながら生きていく。 失意の中にあった里奈はひょんなことから古輪久遠と出会う。それは新たな世界の開花であった。彼女は仲間たちと東方旅団というクランを立ちあげて大きく変貌した東京の街を生き抜くために模索をはじめた。 ※あらすじはチャットGPTで作ったものを変更しています。 ※更新日について 月~金曜日の朝6:00に更新します。土日の更新はお休みとします。 ※いまのところ無期限で連日投稿とします。 ※更新日について 月~金曜日の朝6:00に更新します。土日の更新はお休みとします。 ※いまのところ無期限で連日投稿とします。 ※小説家になろうにても連載中です。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

VRMMOで神様の使徒、始めました。

一 八重
SF
 真崎宵が高校に進学して3ヶ月が経過した頃、彼は自分がクラスメイトから避けられている事に気がついた。その原因に全く心当たりのなかった彼は幼馴染である夏間藍香に恥を忍んで相談する。 「週末に発売される"Continued in Legend"を買うのはどうかしら」  これは幼馴染からクラスメイトとの共通の話題を作るために新作ゲームを勧められたことで、再びゲームの世界へと戻ることになった元動画配信者の青年のお話。 「人間にはクリア不可能になってるって話じゃなかった?」 「彼、クリアしちゃったんですよね……」  あるいは彼に振り回される運営やプレイヤーのお話。

処理中です...