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第三章〜戦士の国アグド〜
45話✡︎エレナと兵達✡︎
しおりを挟むセレス国とアグド国の国境は長く三分の一が平原でそこを超えると、アグド国の首都バータリスまで馬で十五日程平原を走らせれば、容易に着くが平原の見晴らしの良さが仇となり直ぐに見つかってしまう。
残りの三分の二は山脈があり、そこの山道なら見つからずに進む事が出来る様に思えるが、必ず一つだけ超えなくてはならないヴァラディア山がある。
そこにはオークの一軍が常に山道を守っていて、荷馬車を使うならそこを通らなくてはならない。
翌早朝、弓兵隊百名がエレナの屋敷に集まり準備している。
エレナ達も荷馬車にそれぞれの荷物を載せている、予定ではエレナの屋敷から馬で二十日程でアグド国との国境に近い街カルデアに着く、カルデアから外交使節をセレスがアグドに送ることを伝える為に使者を送る。
その返答次第で、次の行動を決める事にした。
アグドへの旅にはエレナはもちろん、ユリナ、カナ、ピリアそしてカイナとアヤが行く事になり、ガーラとフィリアはセレスに残り留守を守る事になった。
出発の支度が整い、ガーラとカイナそして全ての召使いが見送りに出てきた。
「アルベルト居るんだろ?お前の大切なものしっかり守れよ」
ガーラがアルベルトの気配に向かって言う、カナの持つ羊皮紙が温もりを帯びて、アルベルトが出てきた。
その瞬間、ガーラがニヤリと笑いアルベルトに殴りかかり見事に、頰から重い一撃が入る。
一同がえ?と驚く。
「なんだよ!ガーラ‼︎」
アルベルトが怒るが、ガーラは平然と言う。
「なぜ、お前は自分の女を紹介してくれなかったんだ?」
エレナがえ?っと言う顔をしてガーラと出会ってから今までの事を思い出す。
(私なんかしたっけ?)
何も思い当たらない……
「貴様との約束を守る為に!俺は闇を利用し、闇を追い出す度に地獄の様な苦痛を何度も味わったんだぞ‼︎
それが……なんだ?
エレナ殿と知り合っていれば……
命の魔法でそんな事をする必要が無かったんだ!お前はそれを知っていただろ⁈」
そうアルベルトに本気で文句を言う。
「あぁ……いやエレナはいい女だからさ、お前がそんな気になっても困るなぁと思って……」
アルベルトらしく無い言い訳をする。
シンプルにアルベルトが忘れていただけであるが、エレナはそれを聞いて少し嬉しくなる、でもガーラが受けた苦痛を考えると、悩みどころである。
ガーラはアルベルトの胸ぐらを掴み片腕で持ち上げる。
それは魔術師とは思えない腕力で気づいてはいたが、ガーラは全身が鍛えられていてまるで戦士の様な体つきをしている。
本物のドルイドは術だけでなく、過酷な自然と一体となる為に、体力も求められるのだ……
アルベルトは胸ぐらを掴まれ、持ち上げられ、その状態のまま背筋ピンと伸ばして。
「すまん!ほんっとに忘れてた‼︎」
そう言いながら挙手敬礼をする、二人のやりとりを見て誰もがその仲の良さを感じていた。
親友でも男同士なら怒れば殴るんだ、とユリナはそう思いながら見ていた。
ガーラは気が済んだ様でアルベルトを降ろすが、アルベルトは少し咳き込みながら。
「悪かった……本当に……」
謝っている。
「あなた、帰って来たら二人で少し飲んで募る話を聞いてあげたら?」
エレナがそう進めて、二人は帰って来てからと言う約束をした。
「ピリア、帰って来たら沢山お話し聞かせてね。」
フィリアが言う、二人にとって初めて長い間離れる事になり互いに心配している。
「うん、フィリアも体に気をつけてね」
「お母様、そろそろ……」
カナが出発を促し、エレナとユリナとカナは馬に乗り、アヤとピリアとフィリアは馬車に乗っていた。
「ガーラさん、留守の間セレスに何かあったらお願いしますね。」
エレナがそう言うと、
「あぁ、何も心配しなくていいエレナ殿も気をつけてな、私はセレスの自然を見て回るとしよう」
ガーラは穏やかな顔をして空を見上げる。
「では参りますね。出発!」
エレナが掛け声をかけて、一行は屋敷をでて出発した、最初に向かうのは国境に一番近い街カルデア。
だが二十日も掛かる為に途中にある小都市フィリプと小さい村に寄る。
小都市フィリプはカナの故郷から一番近くの都市であり、五日ほどで着く。
旅の間、夜の野営は意外と盛り上がっていた。
カナが舞い、アヤが演奏してその場を賑わせる、兵達も昔の戦場でカナの舞を見たくても、別の部隊で見れなかった者も多く野営に華が咲く。
そのうち戦場の思い出話しをする様になり、楽しげだったり悲しげだったり。
騒いだりしだす。
夜も更けて、兵達も休みまた翌日馬を走らせる、五日後フィリプに着くと。
そこでフィリプの領主に挨拶すると、フィリプの城に泊まるように親切に進められるが、それを断り兵達と共に都市の外れで野営を楽しむ。
ユリナは泊めさせてもらえば良いのにと思っていたが、これがエレナのやり方だ。
幾ら階級が高くても、エレナは兵と行動を共にする時、何かあれば国の為にいつも最初に前に出る兵達と出来るだけ共に過ごそうとする。
みんなの笑顔を、出来るだけ見ておきたい戦場に出て彼らは……明日の夜はここに居ないかも知れない、そんな最後になるかも知れない夜を暗い夜にしたくない。
みんながまたここに戻って来たくなり全力で戦えるように。
夜は出来るだけ楽しく騒ぐ。様々な想いがそうさせていた。
その夜、皆が寝静まったあとカイナは一人月を見ていた。
「寝れないの?」
エレナがカイナに気付いて声をかける。
「う……うん……」
カイナが変な返事をしたが、エレナは気付いて声をかけてその場を離れた。
「早く休みなさいね、じゃお休みなさい」
カイナは泣いていたのだ、エレナは泣いてるカイナに気付かないふりをしていた。
涙を流す事、それもまた心が洗われる時がある、カイナには必要かな?とエレナは思っていた。
翌日は少しゆっくり時間を置いて、補給や変えた方がいい馬が居ないかを確かめ、万全にして昼頃に出発した。
フィリプを出て少ししてカイナが馬を寄せて声をかけて来た。
「エレナ様、昨日はありがとう。
あの後良く寝れました。」
「良かった、何か気になった事があれば言ってね」
エレナは微笑みながら言い、ユリナと先に行ってしまった。
「あの、夜営っていつもあんな感じなのですか?」
カイナは近くにいたカナに聞いた、以前とは違い、カイナは気を使いながら話している。
「あんな感じですね。戦場での夜営は流石に静かにしてますが……時々戦場でもお母様の陣は賑やかですね。」
カナが微笑みなが応える。
「エレナ様はいつも兵達と一緒なのですか?」
「えぇ……お母様は兵一人一人の顔を覚えようとされます……
戦場で誰が命を落とされたか、一目で解るように……顔だけでも覚えようとされてるのです。
戦争になれば一番最初に、命を投げ出していくのは兵士だと、いつも私に言われてました。
私の命令一つで彼らは命を捨ててくれる……
だから、せめて顔だけでも覚えてあげたい……出来れば名前も覚えてあげたい……
そう言われてました。」
カナが隊からだいぶ先行し、セレス領内の地形をユリナに教えながら行くエレナを見つめカイナに話した。
「セレス……に生まれたかったな……」
カイナが呟いた、カナは優しい顔をした。
「今いるじゃないですか?」
カナが言う。
「えっ……」
「お母様はカイナさんが望めば、いつでも暖かく迎えて下さります。
それはカイナさんだけでなく、誰でも……
例えこれから行くアグドのオーク達でも、共に生きようと思って下さるなら、どなたでもセレスに暖かく迎えて下さります。
きっとお母様は種族と言う考えに疑問を持たれています。
それが有るから争いが起きる。
それが有るから差別が生まれると……
私も差別は嫌いです、それが無くなれば傲慢で税を不正に搾り取る領主も居なくなるはずです。
自分は偉い、民は民だと言う考え方も差別ですから……」
カナはセレス領内で、僅かに残る問題をカイナに零した。
「エレナ様はそういった領主をしってるのですか?」
カイナは聞く。
「えぇ、弓兵師団に調べさせてます。
余りにも酷い領主は近衛師団を率いて捕らえに行きますね。
そのほかに高利貸しや、悪徳商人も調べ上げてリストを作られてますが……
私達フロースデア家は王権から退いてますので、法の整備に手を回せないので……
根本的に取り締まれないのです。
彼らは国民なので、法から作らないといけないとお母様は言っておりました。」
カナが言うそれを聞いて、カイナはつくづくセレスに生まれたかったと思った。
生まれた場所が違うだけで、これ程までに違うのかと、そしてエレナが女王になるべきだと心からそう思い始めた。
エレナの一行は急がずに馬を走らせ進む、十日後には予定通り小さな村に着く。
そこで一夜を明かし、翌日にはまた補給を確かめて出発する。
何事も無く屋敷を出てから二十日後にカルデアに着いた。
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