✡︎ユニオンレグヌス✡︎

第二章〜記憶の石板〜

３６話✡︎ピリアとフィリア✡︎

「うん、二人の気持ちは良く解ったよ。
じゃあ二人ともここから外の世界に出るべきだよ、ここに居ても何も変わらない永遠の時をその気持ちを抱いて過ごすのかい？

大切な巨人族の教えがあるでしょ？


奇跡を信じるのではなく、目の前の真実を見つめよ、
奇跡は求めるものではなく、信じるものでもない
自ら生み出すものだから


これは今の君たちにも言えることだよ、君たち二人は何年ここに居たんだい？

二人の願いは、正に奇跡が起きない限りあり得ない。

それは解るね？神剣暗黒は地上に無い。
創生神の一人クロノスが持ってる、そしてそれはクロノスも扱えない。

唯一許されたトールは既に居ない……

魂すら天界にも冥界にも居ない見たいだし。
どれだけの奇跡が積み重なっても叶うとは思えない……

だけど……叶わない奇跡は無い。
じゃあどうする？」

　ウィンダムは優しく話すが最後の、じゃあどうする？から急に、ウィンダムの雰囲気が変わる。
　二人の番人はウィンダムの言葉がしだいに力強くなる様に感じ、ウィンダムの瞳を見つめ真剣に話を聞く。

ウィンダムは力強く叱る様に言った！


「奇跡を信じるのでは無く、目の前の真実を見つめよ！

お前達二人は！願うだけで何をしたんだ⁈
何かをしたのか‼︎

そうやって何年過ごしたんだ！
何千何万年過ごしたんだ‼︎
そうやって何もしなかったのが真実‼︎

奇跡を信じ願うだけで何も変わらなかったのが目の前の真実‼︎

そうじゃないのか⁈」


　ウィンダムらしく無いまるで古代の戦士の様だ……その口調とその勢いに全員が驚く、二人の番人はその言葉がまさに胸につき刺さる思いがした。


「奇跡は求めるものではなく！信じるものでもない‼︎

お前達二人はこの先も繰り返すのか？
何千何万年と変わらなかった真実を……

この先も！

この先も‼︎

何もしないで願うのか⁉︎

その程度なら奇跡を望むな‼︎‼︎
奇跡を望み求め！命を散らしたクリタスの戦士達を何だと思っているんだ‼︎」

　ウィンダムはトールの様な声であの戦いに参加していた様な口ぶりで、怒りを込めている。

「自ら生み出すものだから‼︎

本当にそれを望むなら！

願うんじゃない！

祈るんじゃない！

解るか？今日目の前で、一つの奇跡が起きたことを覚えてるか⁈」

　その場に居た全員が記憶の棚であった事を考える、アルベルトだけは気付いていた。
「知識の間……
あの血の王にユリナとカナが立ち向かった時。

ユリナが命をかけて俺の力を使った！

それは本当に自殺行為だ‼︎
ユリナはそれだけ本気でカナを守りたかったんだ！

その思いが君たち二人を動かして、守護陣を解いた‼︎‼︎
その結果、アルベルトが戦える様になった。
解るかい？」
そうウィンダムが説明した。


「一つの本当に強い想いで……

命も未来も！

全て捨てる覚悟で掴み取ろうとした時‼︎
その想いを受け止め誰かが動いてくれた時！

初めて奇跡は生まれるんだ！
ただ祈るだけ！
ただ願うだけで！

叶う様なあまいものじゃ無い‼︎」
　精一杯力を込めて言い放つ！そして今度は優しく悟す様に言う。

「さぁどうする？
本当にクリアスの石版を無に帰したかったら。
やるべき事はもう解るだろ？」


「でも私達は……ドッペル……」
カナの番人が寂しそうに言うと
「そんな小さなこと気にしなくていいよ、エレナに名前を貰えばいい。
君達ドッペルが名前を受け取るのは心を尽くす証……

そして名前を受け取ったときに初めて本当の姿が決まる。

エレナもクリアスを無に帰すことを考えてる、そして今二千年続いた平和を本物にしたいって考えてる。
これ程君達が心を尽くすに相応しい相手が他にいるかい？」
ウィンダムは、この二人が先々でエレナに本当に必要になることを予想していた。


　ユリナはイタズラする時、二分の一が四分の一になるのかとワクワクした。
　別のことも考えながら……エレナはウィンダムがなぜ闇の眷属にこれ程詳しいのか、そしてさっきの口調が繋がりがある様に感じた。


　二人の番人は少し悩んだが、すぐにその答えは出て、丁寧なお辞儀をし声を揃えてエレナに願った。

「エレナ様、私達二人を受け入れて頂けますか？」
　二人はウィンダムが言った通りだと心から感じていた。

　何万年祈り願い続けて変わらなかった真実、それは変えようの無い事実、受け止めるしか無い。
　世界を守ったクリタスの戦士達とあの時奪われた一族と友達の為にも、クリアスが再び使われることがあってはならない……


　そして何よりもクリアスの無慈悲な力と恐怖、そして残された者達が抱くその悲しみを伝えなければ、あの時散った多くの命に申し訳ないと……そして繰り返してしまったら。
　本当の意味で無駄にしてしまうと今までより深く心に刻んだ。


そんな二人にユリナは言う。
「うーん……
二人とも女の子だよね？服も気合い入ってるし」
「女の子にして下さい、私達はまだ性別は決まってません、ちょっとした楽しみで可愛い服集めてたんです。
送って下さる名前に想いを乗せて頂ければ、その想いで性別が決まるのです。」
カナの番人が言う。

「エレナ別にいいよね？二人とも悪い子じゃないし、エレナの家広いし」
　ウィンダムが今更聞いて来た、勝手に話を進めて、ユリナもその気になってから聞いて来た。

　最初からエレナは断る気は無かった、名前をつけてあげることから、女の子希望でと……ユリナの時以来で考えてたが、エレナはウィンダムを少しいじめる。

「うちの庭の芝生、リヴァイアサンと明日中に綺麗にすることいい？
手伝ってくれるならルクスちゃんとアンサラにお願いしてもいいから、出来ないなら断ります！」


　ウィンダムはエェーと言う顔で顎を外した。
　エレナからすれば当たり前だ、ウィンダムが屋敷に来てから、リヴァイアサンと暇があれば芝生を荒らす勢いで喧嘩するし、仲良く遊んでると思えば、加減しないで追いかけっこして芝生が荒れていく……
　その場その場で二匹は芝生をなおすが、ポツポツと穴が空いている……
　ウィンダムはまさかここで言われるとは思っていなかった。

　二人の番人がウィンダムを目に涙をためてじっと見つめる……
　ウィンダムは自分からあそこまで言った手前やるしかない！
　エレナは自分の竜魔石を手に取り何かを考えてる、ウィンダムはやると決めたらしく。

「やります！でも……なおせない所は仕方ないよね？」
　汗を流しながら聞く、エレナは口元をニヤッと笑い。
「大丈夫よ！
まだ夜明け前だから、朝一注文すれば新しい芝生三百枚、昼には着くからアンサラの力を借りれば明日で全部綺麗に出来る！」

　流石王族……芝生ぐらいなら速攻で取り寄せる！ウィンダムは顎を外し諦めた。その様子をユリナ達は暖かい目で見守っていた。

　エレナは番人に歩みより、優しく手を取り、ユリナを呼ぶように耳元で優しく囁く。

「ピリア……」

そしてカナの番人にも同じように

「フィリア……」と囁いた。

　二人の番人はスッと涙を流し眩しく輝き始める、そして輝きが収まる。

　透き通る様な白い肌に何処と無くエルフっぽい顔立ちだが耳は普通でヒューマンと変わらなく、あどけない十四、五くらいの美人と言うより可愛い顔をしている、そっくりな女の子が二人そこにいた。
　そして紫の瞳と紫の長い髪が闇の眷属を強く印象づける。

　ただ二人ともそっくりだがフィリアの方が僅かに背が低い。
「よかった、ちゃんと女の子になれたね」
エレナが笑顔で言う。


「本当にこの名前頂いていいのですか？
こんな大切な名前？
ピリアとフィリアって……」
そうピリアが嬉しいが少し困った様なそぶりで聞く。
　それはピリアはエレナと魂が繋がっていた為に、エレナにとって大切な名前なのを知っていたから余計である。

「なるほど、だからエルフっぽい可愛い顔立ちになれたのか……
二人とも良かったじゃないか」
アルベルトがそう言う。
　カナは優しく微笑んでいる、ユリナだけがなんで？って思っている。

「ピリアとフィリア……
お母様がユリナの名前を考えて最後に二つ悩んだ名前なのよ……

結局決まらなくて、お父様が考えたユリナになったの……
だからお母様にとって思い出の名前なのよ」
　そうカナが笑顔でユリナに教えてくれた。
　ピリアとフィリアにはきっと可愛い意味があるんだろうな？とユリナ勘を働かせていた。