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第二章〜記憶の石板〜

19話 ✡︎再会✡︎

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 エレナはその内容を読み嬉しそうに一筋の涙を流し羊皮紙に一粒の涙が落ちる、すると羊皮紙が光り出し、その光りの中から。
 茶色の髪、優しい瞳、スッとした輪郭の爽やかな顔立ちをしている白い鎧を来た騎士が現れる。

 アルベルトの魂が姿を現したのだ。

 その瞬間カナの思いが叶った……エレナとアルベルトの再開、ユリナと父の再開。カナは自然と涙溢れ出していた。


 カイナは羊皮紙をカナに渡した時に、既にカナの願いを何も言わず聞き入れていたのだ。
 エレナも静かに涙を流して、静かに右手をあげ……アルベルトの頰を叩いた。


パシッ!


 いい音がして、アルベルトは仕方ないと言う表情で黙って受け止めるが……ユリナにとっては衝撃だった。

 初めて、生まれて初めて父アルベルトと会えたのに、いきなりお母さんにビンタされる、六百年前のヒューマンの第二王子。
 カナも焦ったが次の瞬間。


「あなた本当にバカなんだから……
あなたのおかげで、カナが……カナがずっと苦しんでたのを知ってる?

ユリナだって今まであなたの顔も知らないで育ったんだよ……

なんであの時ルクスの力を解放しなかったの?
なんで?なんで生きることを選ばなかったの?

あの時、ユリナがお腹に居なかったら、私だって闇に落ちちゃってたかも知れないんだよ……
みんなを守れなかったかも知れないんだよ!」
 エレナが本当に泣いた、本当に本当に心から泣いた。



いくら水の巫女と言っても
いくらエルフ族のエヴァスと言っても
いくらエルフ族の英雄と言っても
一人の女性であり
一人の母である



本当は、頼れる人に守ってもらいたい
本当は、時には寄りかかりたい
本当は、甘えたい
時には、優しい声をかけてもらいたい
時には、怒ってもらいたい
時には、教えてもらいたい

たった一言の……

「ありがとう」

その一言を愛する人に
言われるだけで頑張れる

天気の良い日には
可愛い娘とお散歩や街を歩いたり
沢山の沢山の普通の幸せを



例え二人の生きる時間が異なろうとも
エレナにとって……

生きていく中で
僅かな一ページに過ぎないかも知れないが
その一ページは……


無限にあるページの中でも
最高に光り輝き


しおりや目印をつけなくても
一目で輝くページを開けば
そのページが開く……

それだけ美しい
かけがえの無い一ページにしたかった



 その全てをあの日エレナは失ったのだ。
エレナは精一杯の気持ちをアルベルトにぶつける。


「何が守る為に命を捧げたって言うの?

何を守ったの?私達エルフ族がどれだけ長い時を生きるか本当に知ってるの?
私達は一度しか本当に愛せないの知ってる?
私はもう他の誰も愛せないのよ!

あなたしか……あなたしか愛せないの……
それなのに……
あんな終わり方して何を守ったの?本当に何を……」
 エレナは声を出せなくなり、ただ涙を流している。


 六百年だ……長い時をエレナは一人でカナを支え、解らない子育てもユリナの為に召使いにも手伝わせる事なく、カナと二人で精一杯やって来た。
 アルベルトが居ない分、カナにもユリナにもその全ての愛情を注いで来た。


 エヴァスとして、巫女としても、弓兵隊の訓練や、王族としても、エレナは多忙を極めていた。
 そんなエレナに、ユリナもカナもアヤも何も言えない、言う言葉も見つからない。
いや……言える筈がない。


 そんな中でアルベルトは静かにエレナを抱きしめた、静かに静かにギュッと抱きしめた。
 アルベルトは詫びの言葉も言わない、ただ静かに抱きしめる……
 言葉なんて物じゃエレナの心を抱きしめられないと解っていた。

 優しげにただ一筋の涙をアルベルトが流し、その涙がエレナの頭に落ちた時、エレナはアルベルトの胸を叩きながら言った。


「バカバカバカ!本当に本当にアルベルトのバカ!」
そう叫ぶ様にアルベルトにぶつけた。

 アルベルトは静かにそして強引に……
エレナにキスをした。


エレナは沢山の涙を流した瞳を見開き心の中で呟く。
(ばか……)
アルベルトの深いキスを受け入れる。


 二人の姿は愛に満ち溢れ、生者と死者を感じさせない、絶対的とも言える愛がその部屋を満たしていた。


 アヤは静かに、部屋をあとにする。
部屋の外にガーラが壁に寄りかかり立っていた。
「アヤは大人だな、今は家族だけにしてやってくれ、また旅にでるのか?」
ガーラがそう聞くとアヤは……


「ううん、行かないよエレナ様の役に立てるなら、それでいいかな?って、せっかくカナちゃんとも仲良くなれたし、勿体ないじゃん」
アヤは精一杯明るく答える。


 キスが落ち着いてアルベルトが口を開く。

「エレナ、私のエレナへの愛は変わらない、
エレナが深く深く私を愛し続けてくれてるのも解っている……
約束の場所も忘れてはいない。
愛してるよ心から……」

 アルベルトも精一杯の気持ちを伝えると、ユリナもカナもアルベルトに抱きついた、アルベルトは三人を優しく抱きしめる。


しばらくして落ち着きアルベルトは、
「私はその羊皮紙に宿っているが、訳あってまだいつでも会える訳ではない。
まだ少し寂しい想いをさせてしまう、すまない」
「ううん、来てくれてありがとう……
私こそごめんね、言いすぎたね、また来てくれる?」エレナがそう聞くと
「あぁ必ず会いに来る、エレナもユリナとカナを頼む」

「おとう……さん?ユリナももう子供じゃないよ」
そうユリナが言う。
「はい、アルベルト様、ユリナ様は立派になられましたよ」
カナが涙を拭きながら言う。


「カナも私の娘だ、その呼び方はやめてくれないか?」
「私は召使いに成り切るのが、とても好きなんです。お父様解ってくれませんか?」
 それを聞き皆小さく笑い、初めての家族の談話をしばらく楽しむ。

 アルベルトが一時の別れを告げ、羊皮紙に戻って行った後も、和やかな空気が変わることは無かった。
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