上 下
14 / 234
第一章〜ユニオンレグヌス〜

7話✡︎カナ✡︎

しおりを挟む



 ユリナはだいぶ寝ていた様で既に暗くなり始めていた。荷馬車は止まっていて弓兵隊も野営の支度をしている様である。

 ユリナは横になったまま両手の手のひらを開いて閉じてを数回繰り返し、手の感覚を確かめる。

(そう言えばお母さん、二日でサイスまで走って行ったんだ…早いなぁ休んだ時間も考えると。ずっと風の魔法を使ってたはず。
呼吸法練習しないと……)
そう思いながらゆっくりと起き上がり、目をこすっている。

「ユリナ様、大丈夫ですか?」
カナが荷馬車に上がって来てユリナに水筒を手渡す。

「カナさんありがとう、今どの辺?」
そうユリナが聞くと、今セレティア高地の入り口辺りです。
「カナさん、十名づつ三交代で見張りを出して下さいそのうち三名は周辺警戒で指示を出して下さい。」
ユリナは母を襲った何者かを警戒している。

「かしこまりました。」
カナはすぐに弓兵隊に指示を出して、小さな野営の警戒体制を整える。
(まだ魔力が戻りきらないか……全部使っちゃたからな……
もしお母さんを襲った敵が来たらカナさんしか頼れないなぁ)
そう考えていると……


(え?ボクのこと忘れてない?)
ウィンダムの声が頭の中に聞こえてくる。
(ウィンダムどこにいるの?)
ユリナは心で聞く。

(ユリナの心の中だよ、ユリナはまだ竜魔石を持ってないからユリナの心にお邪魔してるんだ、だからエレナを襲った奴が来てもボクが何とかしてあげるよ。

ただユリナの身体を借りるけどそれで良ければだけどね、ユリナを守るのがボクの役目だからね。)
そうウィンダムがユリナを安心させる様に言って来た。

(竜魔石?身体を借りる?)

(そう、エレナのネックレスあれも竜魔石だよ、竜魔石に竜が住むと竜魔石が竜の魔力を蓄えてくれるんだ。

その竜魔石に住んでる竜を扱う時はその竜魔石に蓄えられてる魔力を使って竜を操るんだよ。

ただ竜魔石は、血の契約を結んだ人しか扱えない、しかも竜魔石が契約を結ぶのは一度だけ、もし契約者が命を落としたら砕けて消えてしまう、そんな不思議な石なんだ。)

(身体を借りるって?)

(ユリナはまだ竜魔石を持ってないから、ボクを操るにはユリナの魔力を使わないといけないんだ、まだユリナは魔力が戻って無いから、今ボクを操ったら多分五分で死んじゃうよ。
 だからボクがユリナの身体を借りてボクの魔力を使って戦えば、一瞬ユリナがドラゴンナイトになるだけで大丈夫。
戦い終わって元に戻ったら、反動で二週間くらい、動けないくらいの地獄の全身筋肉痛になるくらいで済むよ)


(……)


可愛い声でサラリと凄いことを言うユリナはそう思った瞬間、エッと驚いた。

「ドラゴンナイト!」

大きな声を出してしまい、慌てて心で聞き直す。
(ドラゴンナイトって神々の騎士で天使すら敵わないドラゴンナイト?)

(そうだよ、エレナも六百年くらい前に一度ドラゴンナイトになってるよ、その時エレナは三日間動けなかったかな。

エレナは本当に凄いよ、元々きゃしゃな身体つきをしてるエルフが、ドラゴンナイトになって、たった三日で回復しちゃうんだもん。
ユリナもエレナの娘だから、きっとエレナに匹敵するくらい。
凄い巫女になれるよ、血は争えないからね)


「ユリナ様誰とお話してるんですか?」
丁度そこに、二人分のパンとスープを持って来たカナが不思議そうに聞いてくる。
どうやらさっきユリナが声を出したのを聞いていた様だ。

 ユリナは今日寝ていた時に見た夢とウィンダムと心で話していた事をカナに説明した。
カナはニコニコして話を聞きながらユリナに食事を促し、ユリナがスープを口にすると、カナも食事に手をつけ始めた。

「おめでとうございます。
ユリナ様は風の女神ウィンディア様に気に入られたのですね。」

(ボクはカナさんのこと、いい子だと思うよ信頼に足りる子だね)

ウィンダムがふいに囁く、ユリナはエレナが言ってた意味を理解した。

「カナさん今ウィンダムが、カナさんのこと、信頼に足りる子だねって言ってましたよ」

カナは嬉しそうに言う。
「ウィンダムさん、ありがとうございます。以前、エレナ様が教えてくれましたが、守護竜は人の心の色が見えるって本当なのですか?」

(ユリナ、出ていい?)
ウィンダムが聞いてくる。
「いいけどなんで、聞いてくるの」
(それは、ボクの今の主人はユリナだからだよ、あと守護竜は信頼出来る人だけに、見せた方がよいよ、ボクは回りの風で全部わかる、近くに悪い奴は今居ないし大丈夫かな?って)

「わかったから、出て来なさい」
そう言うと、ユリナの首に爽やかな優しい風が吹き、ユリナの髪からウィンダムが現れ幼竜の姿でユリナの肩に乗った。


「こんばんはカナさん、ボクにはカナさんの心が淡い水色だったり、優しいピンク色になったりして見えるよ」
得意げに言うウィンダムが言う。

「私の色は?」
ユリナが聞いたウィンダムは……

「優しいそよ風の色!」


一瞬その場の時がとまり、ユリナがゆっくりと時を動かし始める。
「カナさん、そよ風って何色?」
「そよ風の色は、きっとそよ風色です。」
カナも知らない。

「こんな色だよ~」
とウィンダムが、優しくふーっと息を吐き二人に向けてそよ風を送る。
二人はまさに涼を感じ心地よさを感じるが、色は無い。

「カナさん、何色だった?」
「ユリナ様すみません、解りませんでした。」
ユリナはウィンダムに言う。
「ウィンダムもう一度お願い」
ウィンダムはまた優しく、ふーっとそよ風を送る。
 二人はまた心地よくくつろぐ……

「もうちょっと長くしてくれると、解るかも知れません。」

カナが言う、ウィンダムは長めに優しくふーってそよ風を送る。
「もうちょっと長く」
ユリナが言う、ウィンダムは息を全て吐き出すくらい長さで、優しくそよ風を送るが、やはり色は無い。

「もう一度、」
「もう一回お願いします。」

一回の風で大体五分くらい、ウィンダムはそよ風を送っている幼竜は頑張っている。
 しだいに声ではなくて手で合図している、ユリナとカナは翌日の予定を話し出している。

 ユリナを荷馬車で休ませる為に、隊は急がず普通に馬を走らせる程度の速度で移動したため、少し遅れはしたものの、何も無ければ明日の夕方くらいにはサイスに着く予定である。

 しばらくして、ウィンダムは使われていたことにやっと気づく。ウィンダムはそよ風を送るのやめて、足を崩して座っているユリナの足の上に乗り丸くなってまるでネコの様に休む。

「ありがとう、そよ風気持ちよかったよ」

 ユリナはそう言いながらウィンダムの頭を優しく撫でる。

「カナさん、六百年くらい前に何かあったの?お母さんがドラゴンナイトになったって」
 ユリナがカナに聞くと、笑顔を絶やさないカナが表情を一瞬曇らせた。

「ユリナ様も立派な巫女様になれば、いつかエレナ様からお話があると思います。
六百年前の出来事はセレス国の歴史にも、同盟国サランの歴史にも記されていません。
私もその場に居ましたが、私からは言えない事なのです。」
そう普段と変わらない様に話すが、ユリナは違和感を感じた。


「カナさんは、あのことをカナさんなりに考えてるんだね。
でもカナさんが責任を感じることは無いよ、カナさんは十分頑張ってたよ。
それに一つの奇跡が起きるきっかけにもなったんだ。

その奇跡を考えれば、天界からみれば犠牲は大きいけど、必要なことだったかも知れないんだ。
その奇跡をエレナはしっかり受け止めて。何よりも大切にしてるよ」
ウィンダムがそう言うとカナが

「奇跡?」

カナは、ウィンダムに聞く。
「うん奇跡が起きたよ。
神々ですら想像してなかった、その奇跡は全ての神の母、創造神アインと神々の父、破壊神クロノスしか、その奇跡が起きる事を知らなかった、それ程の奇跡がね」
「その奇跡って何が起きたの?」
ユリナが聞く。


「それは言えないよ、でもユリナもカナさんもいつか時期が来たら、エレナが話してくれると思うよ。」
ウィンダムがそう答える。

「ユリナ様、そろそろお休み下さい。
私は何人か連れて、少し見回りしてから休みますね。」
そうカナは笑顔で言うと荷馬車から出て行った。


「カナさんは本当に強い子だね」
ウィンダムがそう呟いた……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...