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第15話 傭兵団「ヴンターデルフの猟犬団」

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「やつらは犬型の獣人兵でした。弟子の匂いを追ってきたんだと思われます。痛えっ!」

 後ろに縛りつけているエラに思いきり背中を叩かれた。

「あたしは臭くありません!」
「おまえ、話のポイントがズレてる――イテッ、イテッ、イテッ!」

「うぎゃあ、師匠があたしのこと臭いって言ったあー! うわーん!」

 エラは足をジタバタさせて、泣きわめきながら、おれの後頭部をゲンコツでガンガン殴ってきた。
 意識が遠のきそうだ。

 二人を結びつけているヒモをほどこうとしたが、修道女ヘルガのやつ、これでもかというほど固く結んでいた。

「ううぅ、あたし、臭くないのにー!」

 前へ逃げても後ろへ下がっても、エラのパンチからは逃げられない。
 とうとうエラがジタバタさせている足がからんで、おれは前のめりに床へ倒れてしまった。

 つまり、うつ伏せでマウントをとられた状態である。
 後頭部へ容赦なく拳が打ち下ろされる。
 そのたびに顔面が石の床に叩きつけられるのだ。
 鼻の奥から生温かいものが流れ出てくるのがわかった。
 血管もないのに、鼻血は出る。この基体ボディの機能ってどうなんだろう?

 ギブです! もうギブアップだって!

 おれは床を何度もタップしたが、エラは攻撃を止めようとしなかった。

 ようやくレフェリー――じゃない、修道院長が止めに入った。
「大丈夫。エラちゃんは臭くありませんよ。師匠はね、エラちゃんのいい匂いを追いかけて悪者が来たって言ってるのよ」

「うぐぐっ、ほ、本当ですかあ? グブッ、グブッ、あたしはいい匂いですかあ?」
 エラの手がやっと止まった。

 おれはエラを背負ったまま四つん這いになり、ヘルガらに支えられて立ち上がった。

「師匠、本当にあたしはいい匂いですかー? グスッ」
「うん……いい匂いだよ」

 おれとしては、エラの体臭なんかより、目の前でチラチラしている☆の方が問題だったが、また怒らせるわけにはいかない。

「じゃあ、あたしが気づかないときに、クンカクンカしたりしてるんですかあ?」

 こいつは何を言っているんだ?
 この世界の管理人たるおれ様をなめているのか?
 おれは怒鳴りつけてやりたかったが、目の前にいる院長やヘルガたちが「うなずけ」と目配せしてくるので、しかたなく「そうだ」と答えた。

「やだー、師匠ったら―」
 パチン、と平手がおれの後頭部をはたいた。本人は照れ隠しのつもりかもしれないが、脳震盪寸前の身にはビンビン応えた。

「匂いを嗅ぎたかったら、いつでも言ってくださいね。師匠は師匠で、あたしは弟子なんですから。いつでも嗅いでいいんですよ。師匠は照れ屋さんだからー、言うのが恥ずかしいかもしれませんけどー、ガマンするのは身体に悪いですからねー」

 おまえと一緒にいること自体、かなり身体に悪い。

 気の効く修道女がハサミを持ってきて、二人を結び付けているヒモを切ってくれた。
 おれはよろよろとよろめいて、そこにあった椅子へしがみついた。
 いったい、おれは何と戦っているんだろう?

「身体は離れても、あたしたちは一心同体ですからね、師匠」
「そ、そうだな、弟子」

 おれは濃いワインを持ってきてもらった。少し時間をもらわないと立ち直れそうになかった。

 その間も、追手の傭兵団は修道院に迫ってきていた。
 本体へ連絡に走った人イヌの光点が、今はまた進路を逆転させて、こちらに近づいてきていた。
 その速度からして、本隊と一緒に行動しているのは間違いなかった。

 鐘楼へ上がれば見えるかもしれない。
 おれはワインを飲み干すと、まだ少しふらつく足で鐘楼へ向かった。

 鐘楼の上へは、院長もついてきた。
 彼女の総白の髪が風になびいている。さっき上がったときよりも、だいぶ風が強くなっているようだった。

「大丈夫ですか、天使様?」
 他に誰もいないので、院長はおれを天使と呼んだ。

「心配はいりません。あなた方にケガをさせるようなことにはなりませんから」

「いえ、心配なのは天使様です。もちろん、天使様ご自身が無限の力をお持ちのことは存じております。しかし、その身体、鋳掛屋ヨーゼフの身体はどうでしょうか? 私どものために、その身体の持ち主に危害が及ぶのは望みません。くれぐれもムリはなさらないようお願いいたします」

 そうか。この基体ボディの心配をしてくれているのか。
 大丈夫です。わたしにとっても買い替えたばかりのこの基体ボディ。まだローンが丸々残っておりますので、決して無茶な使い方はいたしません。

「あ、あそこに――」

 院長の指差した方に、畑の中の細い道をやってくる黒い集団が見えた。
 おれは視力を増幅した。

 そろいの革鎧の兵士たち。騎馬に乗った一人を、十数人の犬狼型獣人が囲んでいる。
 小走りに修道院に向かってきていた。

「全員、人イヌワンコロですね。どこかの傭兵団のようです」

 騎馬の脇を走っている一人が傭兵団の旗を掲げていた。
 白と黒のブチの猟犬が三匹走っている図柄だった。

 おれはその図柄で、この大陸の全傭兵団を検索した。

 わかった。
 やつらは「ヴンターデルフの猟犬団」というのだ。
 まだ新興の傭兵団でここ五、六年の記録しかないが、いくつもの戦場を渡り歩いて、それなりの戦功を上げている。
 人イヌだけで構成されており、偵察や追跡任務を得意としているようだ。

 そんな傭兵団がどうやら、たまたまあの町に通りかかったらしい。
 行き掛けの駄賃で、「八月軒」の依頼を引き受けたということだろう。
 たしかに、「旅回りの鋳掛屋に連れ去られたハーフエルフの娘を探して連れ戻してくれ」というだけの仕事なら、連中には朝飯前と思えただろう。

 運のない連中だ。


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 すみません。リアルライフでゴブリン大隊の襲撃を受けておりますので、しばらく1話ごとの長さが短くなるかと思います。
 あしからず、ご了承ください。
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