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第14話 せまる「八月軒」の追手
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目が覚めたとき、一瞬自分がどこにいるのかわからなかった。窓から差し込む光の中に、若い修道女がいるのを見て、ギョッとした。
「な、何? どうしてそこにいるんです?」
「はい、あなた様がお目覚めになられたとき、すぐにご用が果たせるようにと待機しておりました。もうお起きになりますか?」
「うん」
「何かお要りようの物はございますか?」
「いや、特にありません」
おれはのびをした。修道院の固いベッドで寝たせいで、背中が痛い。血の巡りが悪くなっているのだろう。腕をグルグル回してみた。そして、この基体に血管なんてないことを思い出した。
「お背中をマッサージいたしましょうか?」
「いや、いいです」
ベッドを降りようとすると、足元にサンダルがさっと出された。ベッドわきにひざまずいた修道女は、おれを見上げてニコッと笑った。
部屋を出ようとすると、修道女は戸口へ飛んで行って、おれが手を伸ばす前に扉を開いた。
「キミ、名前は?」
「マルゲリータと申します」
「そうですか。キミの働きぶりは上に報告しておきますから」
「それでは私、天国に――」
「うん、天国の門はキミに開いています」
修道女マルゲリータは喜びのあまり失神した。
この世界の「死後の世界」設定はどうなっていたかな、とおれは設定書を確認してみた。
天国も地獄も「死後の世界」はオプション設定なので、オーナー様の趣味や予算によってはついていない場合がある。
最近は現世に金をかけるのが流行りだから、昔ながらの伝統的な世界観にこだわるオーナー以外はあまりつけないとも聞いていた。
中には「地獄だけつけてください」とか言う、偏った趣味のオーナー様もいるらしいが、そこでどうしたいとか、そんな深いことまで尋ねるのはマナー違反というものだ。
ちなみにこの世界には小規模ながら天国も地獄もついていた。
あまりにも小規模なので、どっちへ行っても大した違いはないようだった。
おれにあてがわれた部屋は副修道院長用の個室だった。建物の三階にあった。一階の食堂へ行こうと階段まで行くと、そこにいた体格のいい修道女がおれを見るなり、こちらに背を向けてしゃがみこんだ。
「何?」
「あなた様を背負わせていただきます。この階段をそのお御足で降りていただくなんて、畏れ多いことでございます」
「いりませんよ、階段ぐらい自分で降りられますから」
「ダメです。私が院長に怒られます」
体格のいい修道女はそう言っておれの前をふさいだ。おれが右へ行くと、彼女もしゃがんだまま右へ動く。左へ行くと左へ動く。右へ行くと見せかけて左へ出ようとフェイントをかけると、彼女はバランスを崩して階段を転げ落ちて行った。
「大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫でございます」
踊り場にひっくり返っている修道女が答えた。
「キミ、名前は?」
「ヘルガと申します」
このまま意地を張っていると、しまいには本当に修道女ヘルガがケガをしそうだった。
おれはあきらめてヘルガにおぶわれることにした。
広い背中につかまると、彼女はたしかな足取りで階段を下りて行った。
途中から奇妙な振動が入ってきたので、何だろうと様子をうかがうと、彼女がすすり泣いているのだった。
どうやらおれを背負ったことに感動しているらしい。気恥ずかしいというより、むしろ気持ちが悪い。
階段を降り切ると、おれはさっさとヘルガの背中から降りた。
「いかがでしたでしょうか?」
「何が?」
「私の背中でございます。乗り心地はどうでしたでしょう? じつは私、この背中には少々自信がございまして」
「はあ、そうなの?」
「ここに入る以前、生まれ故郷におります頃は、村一番の背中と言われておりました。村中の者が、老いも若きも、男女を問わず、私の背中におぶわれたがったものでございます。水車番のゲオルグも――ゲオルグはご存知でございますか――あのゲオルグもですね、私の背中に乗るたびに『おまえの背中はすばらしい。おまえの背中が一番だ。おまえの背中に乗ったらもう、他の背中には乗れないよ』なんて申しましてですね――」
「わかりましたから――。ヘルガの背中については神様にも必ず伝えますから――」
「ありがとうございます。そうしましたら、何でしょう……神様もヘルガにおんぶしてほしいなんておっしゃいますかしら?」
修道女ヘルガには勝手に妄想を続けさせて、おれは食堂へ入って行った。
もう昼に近い時間だったが、エラが食事をしていた。どうしてこの弟子は師匠を待つという気づかいを見せられないのだろう?
「師匠、おはようございます!」
「おはよう。しびれの方はどうだ?」
「しびれって何の話です?」
ウチの弟子は、寝れば忘れる、という体質のようだ。
おれはエラが食べているのと同じ物を頼んだ。パンと厚切りチーズと小タマネギのピクルス。それに新鮮なミルクだった。
素朴だがていねいに作られている食べ物。芳醇な味わいと鮮烈な香りが、エラの特殊能力〈生ける調味料〉のおかげで何十倍、何百倍にも増幅されている。
おれは修道女たちに囲まれていることも忘れて夢中で食べた。
「師匠、一晩たったらここの人たち、ぜんっぜん扱いが違うんですけど?」
「良かったじゃないか」
「まさか、師匠、エロに飢えた女たちを一人で満足させたなんてことはないですよね?」
「まさか! おまえ、いいかげんその認識を改めなさいよ」
おれが食後のコーヒーを飲んでいると、院長が現れた。
昨夜、土下座し過ぎたせいで、彼女の額は赤く擦り剥けていた。
それを見て、エラがクスクス笑った。院長はハラワタが煮えくりかえる思いだったろうが、おれの手前、笑顔をくずさなかった。
「弟子の具合も良いようなので、この者の支度ができ次第、出発しようと思います」
「もうしばらくゆっくりなさってはいかがでしょうか?」
エラがおれの脇腹をつついて言った。
「これ、絶対下心ありますよ。このおバアちゃんは信用できないですからね」
本人は囁いているつもりらしいが、まったく小声になっていない。まわりに丸聞こえである。院長のこめかみがピクピクひきつっているのがわかる。修道女たちもどう対応していいか困っている様子だった。
「お言葉はありがたいのですが、先を急ぐ旅ですので」
おれは弟子の声など何も聞こえなかったふりで、院長の申し出を断った。
院長室を一晩使わせてもらったエラに、とっとと支度をすませて降りてくるように命じ、おれは礼拝堂へ行った。
「♪ラララー 神なき夜の~ 終わりを告げる~ ♪ラララー 教えの家の~ きざはしに立ち~」
昼間の石板は真面目に聖歌を歌っていた。おれはまだこの石板のことが気にかかっていた。
管制は「現地の魔法が偶然に設定レベルを超えるのはないことではない」と言って、さほど気にしていない様子だったが、おれはその認識はちょっと甘いと見ていた。
ただ、「歌う石板」が作られたのは五百年前のことだから、今回のオーパーツのスマホの件とは別だと考えるべきかもしれない。
「お待たせしましたー」
エラは元気な声を礼拝堂にひびかせた。
おれたちの出発には修道院総出で見送りである。
そりゃそうだろう。何といっても天使様がお発ちになられると言っているのだから。
「すごいですねえ、師匠。来たときとは大違いです。拝んでる人がいますよ」
何も知らないエラはのんきなものである。
おれたちが玄関の扉を開けようとしたそのときだった。
扉が勢いよく開いて、茶色い塊がとび込んできた。
な、何だ?
「大変ですよ、皆様!」
茶色い塊がしゃべった。魔物か、と思ったら、土ぼこりにまみれた農婦だった。大急ぎで転がるようにやってきたのだった。
「ここは神の家です。お静かに願います。どうぞ落ち着いてください。何が大変なのですか?」
院長が農婦の前へ進み出た。
「あれ、院長様? そのおでこ、どうされました?」
農婦は自分の「大変」を忘れて、赤く擦りむけた院長の額を見つめていた。
エラが、プッ、と笑った。
「いいんです、おでこのことは。それよりもあなたの言った大変とは何なのです?」
「あ、そうでした。院長様、それが本当にもう大変なんですよ――あ、男がいる!」
農婦は驚愕の表情でおれを見つめた。どうにも注意力の散漫な農婦である。
「こ、この人は旅の鋳掛屋さんです。底の抜けた鍋があったので直してもらったのですよ」
院長は擦りむけた部分が目立たなくなるほど真っ赤になって言い訳した。そんな赤面するようなことではないはずだが。
「そ、そんなことよりですね、あなた、あなたの大変の方を早く教えてくださいな」
「そうそう、そうなんです。うちの亭主が畑から飛んで帰ってきてですね、大変だから早く修道院の方々に教えて差し上げろと申すもので、こうしてとんできたんでございますよ。その大変というのはですね――あ、歌ってる!」
「♪聖なる光ー 世に満ちてー ♪われらが糧を~ オーオー 産み出さん~」
たしかに石板が歌っている。というか、ずっと歌いっ放しである。
「ええ、ええ、歌ってますね、石板。そうなんですよ! 戻ってきたんです! 昨日! 戻って来やがったんで、歌はもういくらでも聞けますから。ね? だから、早くそっちの大変を教えてください」
院長の顔が赤いのはもう恥ずかしさのためではなかった。
「戻ってきたんですかあ、ようございましたねえ。……いえいえ、院長様、それどころではないんでございますよ。大変なんですからもう、聞いてくださいませよ――あら、いい匂い!」
厨房ではちょうど昼餉の支度の最中だった。野菜を炒めているらしい香りが礼拝度にまで流れてきていた。
院長の顔が赤を通り越して白くなっていった。穏やかだった目つきが別人になっていた。
おれは心配になった。いいかげん、このオバサン、話を先へ進めないと、修道院長に殺人の大罪を犯させることになりそうだ。
「ゴ、ゴ、ゴ、ご主人は何が、タ、タ、大変だとおっしゃったのですか?」
さすがに院長ともなると自分を抑える術を心得ているようだ。とはいえ、噴火しそうなのは変わりなかった。
「はい、亭主の言うことにゃ獣人の兵隊がこの辺りをうろつき回っているそうなんです。それで、その一人が野良仕事をしていた亭主に聞いたそうなんですよ。最近ハーフエルフの娘を見かけなかったかって――あ、ハーフエルフ!」
農婦の目がエラの上で止まった。全員が凍りついた。ただ、エラだけが、えへへへ、と照れ笑いしていた。
いや、違うから。そこは照れ笑いするところじゃないから。
農婦を帰した後、おれは鐘楼に登った。すぐさま出発することも考えたが、どこで追手と鉢合わせすることになるかわからず、今はまず状況を把握しようと判断した。
鐘楼に登り、聴覚と視力を増幅した。獣人特有の息遣いに耳を澄ましつつ、四方を見回した。
すると、いた、いた。
ぱっと見渡しただけでも三人見つけた。どれも犬狼型の獣人で、農婦の伝えてくれたとおり、兵装を整えていた。三人とも鎧が揃っているところを見ると、町の南城門にいたようなゴロツキの傭兵ではないようだ。
「八月軒」がどこかの傭兵団を雇ったのだとすれば、追手は見えている三人だけということはない。最低でも一〇人はいるはずだ。
どこかに傭兵団の旗印が見えないかと探したが、見当たらなかった。
旗に描かれたマークから検索すれば、傭兵団の特徴やここに送られている人数が掴めるのに。
犬狼型の獣人が雇われたということは、エラの匂いで追跡してきたのだ。
このキャンペ女子修道院まで、連中がやってくるのも時間の問題だった。
しかし、今ここを出発しても、国境へたどり着く前に追いつかれるのは間違いない。
とすれば、ここでケリをつけてしまう方がいい。
院長たちには申し訳ないが、それがベストの選択だった。
さしあたって、敵の人数と位置が知りたい。
それなら、どうするか?
敵がどこにいるかわからないから、面倒なのだ。いっそまとめてしまう方が対応はしやすい。
じゃあ、どうやってまとめるかだが……。
おれは見えている三人を、頭の中の地図にマークした。
こうしておけば、いつどこにいても三人の位置は把握できる。
おれは礼拝堂へ降りると、院長に馬を一頭欲しいと言った。天使様のお願いを彼女が断るはずもなかったが、本気で心配している顔で出発を引き留められた。
「今は出て行かない方が良いのではありませんか? あなた様は心配ないとしても、その子が一緒ではそんなに速くは動けませんよ」
「ここにいたら、逆に出発できる機会を失ってしまうかもしれません。行けるところまで行ってみようと思います」
おれはウソをついた。本当のことを言うのはさすがにためらわれた。
修道院の馬はどう見ても駄馬だった。普段は畑で働かせている馬だ。人を乗せて競走させるようには作られてもいないし、訓練されてもいない。もっとも、そんなことは承知していた。
おれは馬に跨ると、後ろにエラを乗せた。
「もっとしっかりしがみつけよ」
「わかりました。もっとおっぱいをくっつけろと」
馬鹿なことを言っている娘が落馬しないよう、あの体格のいい修道女ヘルガに頼んで、彼女をおれの身体にヒモで縛りつけてもらった。
「ううっ、緊縛プレイですか?」
「だまれ! 口を閉じてろ。舌噛むぞ!」
おれは馬の腹を蹴った。馬は全速力で――とぼとぼと歩き出した。
「師匠ー、ヤル気ないですよ、こいつ。こんな馬ならヘルガに背負ってもらった方がマシですよ」
エラの言葉を聞いて、俄然ヤル気になっているヘルガが視界の端に見えた。
おれはあわてて馬の視神経をいじって――馬の目の前にニンジンを一本浮かばせた。馬は実在しないニンジンめがけて走り出した。
頭の中へ地図を展開させる。いちばん近い獣人を表す光点は、今走っている道をまっすぐ行った先だ。
じきに見えてくるだろう。
道はジャガイモの畑に挟まれた緩やかな上り坂になっていた。
馬はありもしないニンジンの幻影を追いかけて駆け続けていた。
「ふんげ、ほんが、ふんにゃ――痛ーい!」
エラが何かしゃべろうとして舌を噛んだ。「痛い」しかわからない。
「だから、話すんじゃないって!」
坂を登りきると、獣人の姿が見えた。ハウンド系犬人間だった。
よく手入れされた革鎧を身につけていた。手には使い込まれた槍を携えている。
訓練された兵隊だと一目でわかった。
風向きが違うのだろう。そいつはまだおれたちに気づいていなかった。
やがて、馬の足音を聞いた人イヌはこちらに顔を向けた。
おれは槍の届かない距離を測って、その脇を走り抜けた。
人イヌ兵が追いかけてくる。
常人とは比べ物にならない速さだ。だが、それでも馬ほどではない。
頭の地図ではもう一つの光点も近い。
おれは道を外れてジャガイモ畑に入り、その方向へ馬の鼻を向けた。
人イヌは「しめた」と思ったのだろう。
追いかけてくる速度が落ちた。
仲間と挟み撃ちにできると考えたに違いない。
もともとイヌは群れて生きる獣だから、こういうときは一人よりも集団で動く方を選ぶ。
人イヌが遠吠えした。仲間への合図だ。
二人目の人イヌが見えてきた。そいつはおれたちを待ち構えていた。
ゆっくり距離を詰めてくる。
おれは三つ目の光点の位置を確認していた。
遠吠えを聞いて、そいつもおれたちの方へ向かっていた。
かなりの速度で接近しつつある。
おれはまた進路を変更した。
最初の一人と三つ目の光点の間へ向かった。
地図上では敵を示す三つの光点が、おれを囲む形になっていた。
徐々に光点が作る三角形が小さくなっていった。
エラはギュッとおれに抱きついていた。
もう何もしゃべらない。いや、しゃべれないのだろう。
おれはまっすぐ馬を走らせた。
このまま進めば、三人目の人イヌの前へ飛び出すことになる。
三人目の人イヌが槍を構えた。馬を刺すつもりなのはわかっている。
おれは速度を緩めず、そいつに向かって行った。
そいつの槍が突き出されるだろうタイミングをはかる。
鼻面を燃やしてやろうとして、直前に大事なことに気づいた。
後ろにはエラがいるのだ。
また呪文を唱えずに人イヌの鼻なんか燃やしたら、後で追究されてうるさい。
「¥”+#*$%&@!」
おれは実家の住所を叫んだ。エラにわからなければ何でもいいんだ。
そして、人イヌの鼻を燃やしてやった。
突然目の前に炎が現れたそいつは、驚いて槍を突き出すどころではなかった。
おれはすぐそばを通り過ぎながら、そいつのうなじにチョップを入れた。
運が悪ければ頸椎破損で死亡だろう。
運良く生き延びられても、鼻を焼かれたイヌにどんな生き方があるのだろう?
おれは幻のニンジンを二本に増やした。
馬が、グンッ、と加速する。
地図で残りの光点を確認した。
一人は必死についてきている。
もう一人はおれたちから離れて街道の方へ向かっていた。
遠吠えしながらだ。
本隊へ連絡に向かったのだろう。狙い通りだった。
おれは馬に泡を吹くほど駆けさせて、修道院へ戻った。
馬を降りると身体に縛りつけたエラを引きずって、修道院の石造りの建物に転がり込んだ。
修道女たちはおれたちが駆け抜けるや否や、玄関の分厚い扉を閉めてカンヌキをかけた。
「おケガはありませんでしたか?」
院長が駆け寄ってきた。
「こちらは大丈夫ですが……申し訳ありません。敵をここへ引き寄せることになってしまったようです」
すぐに敵本隊が修道院へやってくることだろう。
ただ、初めからそのつもりで出て行ったことは黙っていた。
「な、何? どうしてそこにいるんです?」
「はい、あなた様がお目覚めになられたとき、すぐにご用が果たせるようにと待機しておりました。もうお起きになりますか?」
「うん」
「何かお要りようの物はございますか?」
「いや、特にありません」
おれはのびをした。修道院の固いベッドで寝たせいで、背中が痛い。血の巡りが悪くなっているのだろう。腕をグルグル回してみた。そして、この基体に血管なんてないことを思い出した。
「お背中をマッサージいたしましょうか?」
「いや、いいです」
ベッドを降りようとすると、足元にサンダルがさっと出された。ベッドわきにひざまずいた修道女は、おれを見上げてニコッと笑った。
部屋を出ようとすると、修道女は戸口へ飛んで行って、おれが手を伸ばす前に扉を開いた。
「キミ、名前は?」
「マルゲリータと申します」
「そうですか。キミの働きぶりは上に報告しておきますから」
「それでは私、天国に――」
「うん、天国の門はキミに開いています」
修道女マルゲリータは喜びのあまり失神した。
この世界の「死後の世界」設定はどうなっていたかな、とおれは設定書を確認してみた。
天国も地獄も「死後の世界」はオプション設定なので、オーナー様の趣味や予算によってはついていない場合がある。
最近は現世に金をかけるのが流行りだから、昔ながらの伝統的な世界観にこだわるオーナー以外はあまりつけないとも聞いていた。
中には「地獄だけつけてください」とか言う、偏った趣味のオーナー様もいるらしいが、そこでどうしたいとか、そんな深いことまで尋ねるのはマナー違反というものだ。
ちなみにこの世界には小規模ながら天国も地獄もついていた。
あまりにも小規模なので、どっちへ行っても大した違いはないようだった。
おれにあてがわれた部屋は副修道院長用の個室だった。建物の三階にあった。一階の食堂へ行こうと階段まで行くと、そこにいた体格のいい修道女がおれを見るなり、こちらに背を向けてしゃがみこんだ。
「何?」
「あなた様を背負わせていただきます。この階段をそのお御足で降りていただくなんて、畏れ多いことでございます」
「いりませんよ、階段ぐらい自分で降りられますから」
「ダメです。私が院長に怒られます」
体格のいい修道女はそう言っておれの前をふさいだ。おれが右へ行くと、彼女もしゃがんだまま右へ動く。左へ行くと左へ動く。右へ行くと見せかけて左へ出ようとフェイントをかけると、彼女はバランスを崩して階段を転げ落ちて行った。
「大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫でございます」
踊り場にひっくり返っている修道女が答えた。
「キミ、名前は?」
「ヘルガと申します」
このまま意地を張っていると、しまいには本当に修道女ヘルガがケガをしそうだった。
おれはあきらめてヘルガにおぶわれることにした。
広い背中につかまると、彼女はたしかな足取りで階段を下りて行った。
途中から奇妙な振動が入ってきたので、何だろうと様子をうかがうと、彼女がすすり泣いているのだった。
どうやらおれを背負ったことに感動しているらしい。気恥ずかしいというより、むしろ気持ちが悪い。
階段を降り切ると、おれはさっさとヘルガの背中から降りた。
「いかがでしたでしょうか?」
「何が?」
「私の背中でございます。乗り心地はどうでしたでしょう? じつは私、この背中には少々自信がございまして」
「はあ、そうなの?」
「ここに入る以前、生まれ故郷におります頃は、村一番の背中と言われておりました。村中の者が、老いも若きも、男女を問わず、私の背中におぶわれたがったものでございます。水車番のゲオルグも――ゲオルグはご存知でございますか――あのゲオルグもですね、私の背中に乗るたびに『おまえの背中はすばらしい。おまえの背中が一番だ。おまえの背中に乗ったらもう、他の背中には乗れないよ』なんて申しましてですね――」
「わかりましたから――。ヘルガの背中については神様にも必ず伝えますから――」
「ありがとうございます。そうしましたら、何でしょう……神様もヘルガにおんぶしてほしいなんておっしゃいますかしら?」
修道女ヘルガには勝手に妄想を続けさせて、おれは食堂へ入って行った。
もう昼に近い時間だったが、エラが食事をしていた。どうしてこの弟子は師匠を待つという気づかいを見せられないのだろう?
「師匠、おはようございます!」
「おはよう。しびれの方はどうだ?」
「しびれって何の話です?」
ウチの弟子は、寝れば忘れる、という体質のようだ。
おれはエラが食べているのと同じ物を頼んだ。パンと厚切りチーズと小タマネギのピクルス。それに新鮮なミルクだった。
素朴だがていねいに作られている食べ物。芳醇な味わいと鮮烈な香りが、エラの特殊能力〈生ける調味料〉のおかげで何十倍、何百倍にも増幅されている。
おれは修道女たちに囲まれていることも忘れて夢中で食べた。
「師匠、一晩たったらここの人たち、ぜんっぜん扱いが違うんですけど?」
「良かったじゃないか」
「まさか、師匠、エロに飢えた女たちを一人で満足させたなんてことはないですよね?」
「まさか! おまえ、いいかげんその認識を改めなさいよ」
おれが食後のコーヒーを飲んでいると、院長が現れた。
昨夜、土下座し過ぎたせいで、彼女の額は赤く擦り剥けていた。
それを見て、エラがクスクス笑った。院長はハラワタが煮えくりかえる思いだったろうが、おれの手前、笑顔をくずさなかった。
「弟子の具合も良いようなので、この者の支度ができ次第、出発しようと思います」
「もうしばらくゆっくりなさってはいかがでしょうか?」
エラがおれの脇腹をつついて言った。
「これ、絶対下心ありますよ。このおバアちゃんは信用できないですからね」
本人は囁いているつもりらしいが、まったく小声になっていない。まわりに丸聞こえである。院長のこめかみがピクピクひきつっているのがわかる。修道女たちもどう対応していいか困っている様子だった。
「お言葉はありがたいのですが、先を急ぐ旅ですので」
おれは弟子の声など何も聞こえなかったふりで、院長の申し出を断った。
院長室を一晩使わせてもらったエラに、とっとと支度をすませて降りてくるように命じ、おれは礼拝堂へ行った。
「♪ラララー 神なき夜の~ 終わりを告げる~ ♪ラララー 教えの家の~ きざはしに立ち~」
昼間の石板は真面目に聖歌を歌っていた。おれはまだこの石板のことが気にかかっていた。
管制は「現地の魔法が偶然に設定レベルを超えるのはないことではない」と言って、さほど気にしていない様子だったが、おれはその認識はちょっと甘いと見ていた。
ただ、「歌う石板」が作られたのは五百年前のことだから、今回のオーパーツのスマホの件とは別だと考えるべきかもしれない。
「お待たせしましたー」
エラは元気な声を礼拝堂にひびかせた。
おれたちの出発には修道院総出で見送りである。
そりゃそうだろう。何といっても天使様がお発ちになられると言っているのだから。
「すごいですねえ、師匠。来たときとは大違いです。拝んでる人がいますよ」
何も知らないエラはのんきなものである。
おれたちが玄関の扉を開けようとしたそのときだった。
扉が勢いよく開いて、茶色い塊がとび込んできた。
な、何だ?
「大変ですよ、皆様!」
茶色い塊がしゃべった。魔物か、と思ったら、土ぼこりにまみれた農婦だった。大急ぎで転がるようにやってきたのだった。
「ここは神の家です。お静かに願います。どうぞ落ち着いてください。何が大変なのですか?」
院長が農婦の前へ進み出た。
「あれ、院長様? そのおでこ、どうされました?」
農婦は自分の「大変」を忘れて、赤く擦りむけた院長の額を見つめていた。
エラが、プッ、と笑った。
「いいんです、おでこのことは。それよりもあなたの言った大変とは何なのです?」
「あ、そうでした。院長様、それが本当にもう大変なんですよ――あ、男がいる!」
農婦は驚愕の表情でおれを見つめた。どうにも注意力の散漫な農婦である。
「こ、この人は旅の鋳掛屋さんです。底の抜けた鍋があったので直してもらったのですよ」
院長は擦りむけた部分が目立たなくなるほど真っ赤になって言い訳した。そんな赤面するようなことではないはずだが。
「そ、そんなことよりですね、あなた、あなたの大変の方を早く教えてくださいな」
「そうそう、そうなんです。うちの亭主が畑から飛んで帰ってきてですね、大変だから早く修道院の方々に教えて差し上げろと申すもので、こうしてとんできたんでございますよ。その大変というのはですね――あ、歌ってる!」
「♪聖なる光ー 世に満ちてー ♪われらが糧を~ オーオー 産み出さん~」
たしかに石板が歌っている。というか、ずっと歌いっ放しである。
「ええ、ええ、歌ってますね、石板。そうなんですよ! 戻ってきたんです! 昨日! 戻って来やがったんで、歌はもういくらでも聞けますから。ね? だから、早くそっちの大変を教えてください」
院長の顔が赤いのはもう恥ずかしさのためではなかった。
「戻ってきたんですかあ、ようございましたねえ。……いえいえ、院長様、それどころではないんでございますよ。大変なんですからもう、聞いてくださいませよ――あら、いい匂い!」
厨房ではちょうど昼餉の支度の最中だった。野菜を炒めているらしい香りが礼拝度にまで流れてきていた。
院長の顔が赤を通り越して白くなっていった。穏やかだった目つきが別人になっていた。
おれは心配になった。いいかげん、このオバサン、話を先へ進めないと、修道院長に殺人の大罪を犯させることになりそうだ。
「ゴ、ゴ、ゴ、ご主人は何が、タ、タ、大変だとおっしゃったのですか?」
さすがに院長ともなると自分を抑える術を心得ているようだ。とはいえ、噴火しそうなのは変わりなかった。
「はい、亭主の言うことにゃ獣人の兵隊がこの辺りをうろつき回っているそうなんです。それで、その一人が野良仕事をしていた亭主に聞いたそうなんですよ。最近ハーフエルフの娘を見かけなかったかって――あ、ハーフエルフ!」
農婦の目がエラの上で止まった。全員が凍りついた。ただ、エラだけが、えへへへ、と照れ笑いしていた。
いや、違うから。そこは照れ笑いするところじゃないから。
農婦を帰した後、おれは鐘楼に登った。すぐさま出発することも考えたが、どこで追手と鉢合わせすることになるかわからず、今はまず状況を把握しようと判断した。
鐘楼に登り、聴覚と視力を増幅した。獣人特有の息遣いに耳を澄ましつつ、四方を見回した。
すると、いた、いた。
ぱっと見渡しただけでも三人見つけた。どれも犬狼型の獣人で、農婦の伝えてくれたとおり、兵装を整えていた。三人とも鎧が揃っているところを見ると、町の南城門にいたようなゴロツキの傭兵ではないようだ。
「八月軒」がどこかの傭兵団を雇ったのだとすれば、追手は見えている三人だけということはない。最低でも一〇人はいるはずだ。
どこかに傭兵団の旗印が見えないかと探したが、見当たらなかった。
旗に描かれたマークから検索すれば、傭兵団の特徴やここに送られている人数が掴めるのに。
犬狼型の獣人が雇われたということは、エラの匂いで追跡してきたのだ。
このキャンペ女子修道院まで、連中がやってくるのも時間の問題だった。
しかし、今ここを出発しても、国境へたどり着く前に追いつかれるのは間違いない。
とすれば、ここでケリをつけてしまう方がいい。
院長たちには申し訳ないが、それがベストの選択だった。
さしあたって、敵の人数と位置が知りたい。
それなら、どうするか?
敵がどこにいるかわからないから、面倒なのだ。いっそまとめてしまう方が対応はしやすい。
じゃあ、どうやってまとめるかだが……。
おれは見えている三人を、頭の中の地図にマークした。
こうしておけば、いつどこにいても三人の位置は把握できる。
おれは礼拝堂へ降りると、院長に馬を一頭欲しいと言った。天使様のお願いを彼女が断るはずもなかったが、本気で心配している顔で出発を引き留められた。
「今は出て行かない方が良いのではありませんか? あなた様は心配ないとしても、その子が一緒ではそんなに速くは動けませんよ」
「ここにいたら、逆に出発できる機会を失ってしまうかもしれません。行けるところまで行ってみようと思います」
おれはウソをついた。本当のことを言うのはさすがにためらわれた。
修道院の馬はどう見ても駄馬だった。普段は畑で働かせている馬だ。人を乗せて競走させるようには作られてもいないし、訓練されてもいない。もっとも、そんなことは承知していた。
おれは馬に跨ると、後ろにエラを乗せた。
「もっとしっかりしがみつけよ」
「わかりました。もっとおっぱいをくっつけろと」
馬鹿なことを言っている娘が落馬しないよう、あの体格のいい修道女ヘルガに頼んで、彼女をおれの身体にヒモで縛りつけてもらった。
「ううっ、緊縛プレイですか?」
「だまれ! 口を閉じてろ。舌噛むぞ!」
おれは馬の腹を蹴った。馬は全速力で――とぼとぼと歩き出した。
「師匠ー、ヤル気ないですよ、こいつ。こんな馬ならヘルガに背負ってもらった方がマシですよ」
エラの言葉を聞いて、俄然ヤル気になっているヘルガが視界の端に見えた。
おれはあわてて馬の視神経をいじって――馬の目の前にニンジンを一本浮かばせた。馬は実在しないニンジンめがけて走り出した。
頭の中へ地図を展開させる。いちばん近い獣人を表す光点は、今走っている道をまっすぐ行った先だ。
じきに見えてくるだろう。
道はジャガイモの畑に挟まれた緩やかな上り坂になっていた。
馬はありもしないニンジンの幻影を追いかけて駆け続けていた。
「ふんげ、ほんが、ふんにゃ――痛ーい!」
エラが何かしゃべろうとして舌を噛んだ。「痛い」しかわからない。
「だから、話すんじゃないって!」
坂を登りきると、獣人の姿が見えた。ハウンド系犬人間だった。
よく手入れされた革鎧を身につけていた。手には使い込まれた槍を携えている。
訓練された兵隊だと一目でわかった。
風向きが違うのだろう。そいつはまだおれたちに気づいていなかった。
やがて、馬の足音を聞いた人イヌはこちらに顔を向けた。
おれは槍の届かない距離を測って、その脇を走り抜けた。
人イヌ兵が追いかけてくる。
常人とは比べ物にならない速さだ。だが、それでも馬ほどではない。
頭の地図ではもう一つの光点も近い。
おれは道を外れてジャガイモ畑に入り、その方向へ馬の鼻を向けた。
人イヌは「しめた」と思ったのだろう。
追いかけてくる速度が落ちた。
仲間と挟み撃ちにできると考えたに違いない。
もともとイヌは群れて生きる獣だから、こういうときは一人よりも集団で動く方を選ぶ。
人イヌが遠吠えした。仲間への合図だ。
二人目の人イヌが見えてきた。そいつはおれたちを待ち構えていた。
ゆっくり距離を詰めてくる。
おれは三つ目の光点の位置を確認していた。
遠吠えを聞いて、そいつもおれたちの方へ向かっていた。
かなりの速度で接近しつつある。
おれはまた進路を変更した。
最初の一人と三つ目の光点の間へ向かった。
地図上では敵を示す三つの光点が、おれを囲む形になっていた。
徐々に光点が作る三角形が小さくなっていった。
エラはギュッとおれに抱きついていた。
もう何もしゃべらない。いや、しゃべれないのだろう。
おれはまっすぐ馬を走らせた。
このまま進めば、三人目の人イヌの前へ飛び出すことになる。
三人目の人イヌが槍を構えた。馬を刺すつもりなのはわかっている。
おれは速度を緩めず、そいつに向かって行った。
そいつの槍が突き出されるだろうタイミングをはかる。
鼻面を燃やしてやろうとして、直前に大事なことに気づいた。
後ろにはエラがいるのだ。
また呪文を唱えずに人イヌの鼻なんか燃やしたら、後で追究されてうるさい。
「¥”+#*$%&@!」
おれは実家の住所を叫んだ。エラにわからなければ何でもいいんだ。
そして、人イヌの鼻を燃やしてやった。
突然目の前に炎が現れたそいつは、驚いて槍を突き出すどころではなかった。
おれはすぐそばを通り過ぎながら、そいつのうなじにチョップを入れた。
運が悪ければ頸椎破損で死亡だろう。
運良く生き延びられても、鼻を焼かれたイヌにどんな生き方があるのだろう?
おれは幻のニンジンを二本に増やした。
馬が、グンッ、と加速する。
地図で残りの光点を確認した。
一人は必死についてきている。
もう一人はおれたちから離れて街道の方へ向かっていた。
遠吠えしながらだ。
本隊へ連絡に向かったのだろう。狙い通りだった。
おれは馬に泡を吹くほど駆けさせて、修道院へ戻った。
馬を降りると身体に縛りつけたエラを引きずって、修道院の石造りの建物に転がり込んだ。
修道女たちはおれたちが駆け抜けるや否や、玄関の分厚い扉を閉めてカンヌキをかけた。
「おケガはありませんでしたか?」
院長が駆け寄ってきた。
「こちらは大丈夫ですが……申し訳ありません。敵をここへ引き寄せることになってしまったようです」
すぐに敵本隊が修道院へやってくることだろう。
ただ、初めからそのつもりで出て行ったことは黙っていた。
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