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第2部 青春の続き篇
第5話 七夕の日【8】
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それからしばらくして、泣き止んだ天地は、泣いて、疲れて、お腹が減ったのだろう、リュックサックに入れていた二つの弁当箱を取り出し、そこで俺と二人、星空の元、夕食という事になった。
勿論中身は全て、天地の手作り。そうか、これを作る為に帰りのホームルームを抜け出し、早く家に帰ったっていうのもあったのかと、俺はここでようやく、今更ながらにして気づいた。
人工の光と言えば、俺と天地の間に置かれているランタンだけで、あとは全て自然の光のみ。当然薄暗くはあったが、それはそれでムードがあってなかなか良いものだった。
「そういえば岡崎君、わたしからの課題、ちゃんとしてきたかしら?」
突然、天地が俺の方に振り向く。
「課題……ああ、星とか星座を覚えて来いっていうあれか」
「そうよ、なんだちゃんとやって来たのね」
「ああ、その為に図書館まで行ったんだぜ?初めて入ったよ図書館なんて」
「図書館に……岡崎君って前々から思っていたんだけど、気にはなっていたんだけど、あなた最近の若者にしてはアナログ人間よね?」
「アナログ?俺が?」
「ええ、だって別に今の世の中、あなたが持ってるスマートフォンさえあれば、夏の星や星座なんて検索出来るじゃない?それなのにわざわざ、図書館まで行くなんて」
「ああ……このスマートフォンはあくまで連絡用であって、これで物事を調べたりはあんまりしないかな。情報過多と言うか、これで調べただけの事なのに、頭にも入って無いことを、まるで自分の知識のように話すのがなんか嫌でさ」
「へえ……そういう考え方もあるのね」
「そんなに珍しいか?」
「さあ?他を知らないから一概には言えないけど、でも、岡崎君らしい、捻くれたというか、へそ曲がりだというか、あまのじゃくな考え方ではあるわね」
「それ、総じてほとんど同じ意味だからな」
「ブーメランじじい」
「それは曲がっているけど、思想じゃなくて体の方だっ!」
正確に言えば、腰。
だけど最近、そんな腰が曲がっている老人を見なくなったな。俺の田舎に暮らしているおじいちゃんとおばあちゃんも、腰は真っ直ぐだし、毎日農作業してるみたいだし、健康的だよなぁ今の老人って。
「そういうお前だって、それガラケーだろ?お前だって十分、アナログ人間の片鱗はあるだろうに」
「フッ……これだから本当のアナログ人間は困るわね岡崎君。まずガラケーじゃなくてフューチャーフォンと呼びなさい」
「フューチャーフォン?なんだそれ?」
「本当に知らないのねあなた。フューチャーフォンは最近、新たな価値を見出されて、国内だけじゃなく、海外にまで再評価されつつある携帯電話なのよ。折り畳み式のケータイだけど、わたしが持っているのは中古じゃなく、去年販売されたばかりの新品よ」
「えええええっ!そうなのか!」
「しかも高速通信も使えるし、WiFiも使えるし、カメラの画素数だってすごく高いし、スマートフォンに負けないくらいの機能を装備していて、尚且つ、スマートフォンよりも単純明快な操作が出来る、まさに優れものなのよ!」
「おおおおおおっ!」
熱い……ガラ……じゃなくて、フューチャーフォンへの愛が熱すぎるっ!
しかもフューチャーって、未来って意味だよな?なんかカッコイイな……俺も今度、そっちに乗り換えようかな。
「それにわたしも、携帯電話なんて連絡用でしか使わないし、ゴチャゴチャしたアプリなんていらないのよね」
「ああ……結局そこに落ち着くのか……」
結局スマートフォンにする理由って、アプリやらゲームをやりたいからっていう感じで、そっちにするのがほとんどの理由だろうからな。
俺や天地みたいな、携帯電話を連絡用にしか使わない人間には、むしろフューチャーフォンくらいが丁度良いのかもしれん。
いやむしろPHSでも……それはさすがに古すぎるか。
「それで岡崎君、話は戻すけど、調べてきたと言うのなら、どの星が何なのか分かるんじゃないかしら?」
「ああ……えっと……」
俺は夜空を見上げる。記憶にはしっかり留めてきたのだが、図鑑はあくまで分かりやすく、星座の線引きなんかがされていたのだが、実際の夜空にはそれが無い。
それどころか、その星がピックアップされているのではなく、バラバラに散在しているので、その星を探すところから、俺は戸惑っていた。
「なによ、調べてきたわりには全然分からないじゃない」
「いや……差されれば多分、分かるんだが。これほどまでに本と実際の夜空が違うとは思って無かったから……」
「どうせ本って言っても、図鑑か何かを読んできただけでしょ」
何故分かったんだコイツ……もしや読心術の使い手か!?
読心術を使わなくても、読みやすいと評判の俺の心を、余すことなく理解されている!
「わたしの思考能力がマイクロプロセッサなら、あなたはAC-DCコンバータレベルまでしかないのだから、その程度の思考、読むにも値しないわ」
「もはや手に取るってレベルじゃねえ!」
手に取るというか、飲み込まれるというか、進化の過程にされてる。
というかAC-DCコンバータって……せめてトランジスタくらいにはしてくれよ。
「それに実際の夜空の星や星座の事を知りたいんだったら、今後はプラネタリウムに行く事をおすすめするわ。そっちの方が疑似的であれ、実際の夜空に忠実だから」
「あっ……」
そういえばそんな所もありましたね……その考えについては、もはや思考の範囲内にも入ってなかった。
「というか、オススメがあるなら最初から言えよっ!」
「嫌よ、それじゃああなたを甘やかす事になるわ。それに課題っていうのは、調べる行程を自分で考えるのも、課題の一つなんだから、今回の岡崎君の評価はゼロ点ね。よって罰ゲーム決定」
「おい待て!罰ゲームなんて聞いてないぞっ!」
「だって言ってないもの」
「だから言ってないことを思い付きで、その場で実行しようとするんじゃねぇっ!!」
まあどうせ、こうやって怒鳴ったって、罰金の時みたいに執行回避は、むしろ不可避なので、天地の気の向くままにやらせるしかあるまい。
流石に今から沖縄に連れて行けとか言われたら、この場から全力疾走して逃げ去るが。
勿論中身は全て、天地の手作り。そうか、これを作る為に帰りのホームルームを抜け出し、早く家に帰ったっていうのもあったのかと、俺はここでようやく、今更ながらにして気づいた。
人工の光と言えば、俺と天地の間に置かれているランタンだけで、あとは全て自然の光のみ。当然薄暗くはあったが、それはそれでムードがあってなかなか良いものだった。
「そういえば岡崎君、わたしからの課題、ちゃんとしてきたかしら?」
突然、天地が俺の方に振り向く。
「課題……ああ、星とか星座を覚えて来いっていうあれか」
「そうよ、なんだちゃんとやって来たのね」
「ああ、その為に図書館まで行ったんだぜ?初めて入ったよ図書館なんて」
「図書館に……岡崎君って前々から思っていたんだけど、気にはなっていたんだけど、あなた最近の若者にしてはアナログ人間よね?」
「アナログ?俺が?」
「ええ、だって別に今の世の中、あなたが持ってるスマートフォンさえあれば、夏の星や星座なんて検索出来るじゃない?それなのにわざわざ、図書館まで行くなんて」
「ああ……このスマートフォンはあくまで連絡用であって、これで物事を調べたりはあんまりしないかな。情報過多と言うか、これで調べただけの事なのに、頭にも入って無いことを、まるで自分の知識のように話すのがなんか嫌でさ」
「へえ……そういう考え方もあるのね」
「そんなに珍しいか?」
「さあ?他を知らないから一概には言えないけど、でも、岡崎君らしい、捻くれたというか、へそ曲がりだというか、あまのじゃくな考え方ではあるわね」
「それ、総じてほとんど同じ意味だからな」
「ブーメランじじい」
「それは曲がっているけど、思想じゃなくて体の方だっ!」
正確に言えば、腰。
だけど最近、そんな腰が曲がっている老人を見なくなったな。俺の田舎に暮らしているおじいちゃんとおばあちゃんも、腰は真っ直ぐだし、毎日農作業してるみたいだし、健康的だよなぁ今の老人って。
「そういうお前だって、それガラケーだろ?お前だって十分、アナログ人間の片鱗はあるだろうに」
「フッ……これだから本当のアナログ人間は困るわね岡崎君。まずガラケーじゃなくてフューチャーフォンと呼びなさい」
「フューチャーフォン?なんだそれ?」
「本当に知らないのねあなた。フューチャーフォンは最近、新たな価値を見出されて、国内だけじゃなく、海外にまで再評価されつつある携帯電話なのよ。折り畳み式のケータイだけど、わたしが持っているのは中古じゃなく、去年販売されたばかりの新品よ」
「えええええっ!そうなのか!」
「しかも高速通信も使えるし、WiFiも使えるし、カメラの画素数だってすごく高いし、スマートフォンに負けないくらいの機能を装備していて、尚且つ、スマートフォンよりも単純明快な操作が出来る、まさに優れものなのよ!」
「おおおおおおっ!」
熱い……ガラ……じゃなくて、フューチャーフォンへの愛が熱すぎるっ!
しかもフューチャーって、未来って意味だよな?なんかカッコイイな……俺も今度、そっちに乗り換えようかな。
「それにわたしも、携帯電話なんて連絡用でしか使わないし、ゴチャゴチャしたアプリなんていらないのよね」
「ああ……結局そこに落ち着くのか……」
結局スマートフォンにする理由って、アプリやらゲームをやりたいからっていう感じで、そっちにするのがほとんどの理由だろうからな。
俺や天地みたいな、携帯電話を連絡用にしか使わない人間には、むしろフューチャーフォンくらいが丁度良いのかもしれん。
いやむしろPHSでも……それはさすがに古すぎるか。
「それで岡崎君、話は戻すけど、調べてきたと言うのなら、どの星が何なのか分かるんじゃないかしら?」
「ああ……えっと……」
俺は夜空を見上げる。記憶にはしっかり留めてきたのだが、図鑑はあくまで分かりやすく、星座の線引きなんかがされていたのだが、実際の夜空にはそれが無い。
それどころか、その星がピックアップされているのではなく、バラバラに散在しているので、その星を探すところから、俺は戸惑っていた。
「なによ、調べてきたわりには全然分からないじゃない」
「いや……差されれば多分、分かるんだが。これほどまでに本と実際の夜空が違うとは思って無かったから……」
「どうせ本って言っても、図鑑か何かを読んできただけでしょ」
何故分かったんだコイツ……もしや読心術の使い手か!?
読心術を使わなくても、読みやすいと評判の俺の心を、余すことなく理解されている!
「わたしの思考能力がマイクロプロセッサなら、あなたはAC-DCコンバータレベルまでしかないのだから、その程度の思考、読むにも値しないわ」
「もはや手に取るってレベルじゃねえ!」
手に取るというか、飲み込まれるというか、進化の過程にされてる。
というかAC-DCコンバータって……せめてトランジスタくらいにはしてくれよ。
「それに実際の夜空の星や星座の事を知りたいんだったら、今後はプラネタリウムに行く事をおすすめするわ。そっちの方が疑似的であれ、実際の夜空に忠実だから」
「あっ……」
そういえばそんな所もありましたね……その考えについては、もはや思考の範囲内にも入ってなかった。
「というか、オススメがあるなら最初から言えよっ!」
「嫌よ、それじゃああなたを甘やかす事になるわ。それに課題っていうのは、調べる行程を自分で考えるのも、課題の一つなんだから、今回の岡崎君の評価はゼロ点ね。よって罰ゲーム決定」
「おい待て!罰ゲームなんて聞いてないぞっ!」
「だって言ってないもの」
「だから言ってないことを思い付きで、その場で実行しようとするんじゃねぇっ!!」
まあどうせ、こうやって怒鳴ったって、罰金の時みたいに執行回避は、むしろ不可避なので、天地の気の向くままにやらせるしかあるまい。
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