英雄のいない世界で

赤坂皐月

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BACK TO THE OCEAN Chapter1

第14章 新たなる地を目指して【1】

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 荒野の地を、僕はバイクに乗って走っていた。

 時間としては昼下がりといったところか、太陽が頭上でさんさんと輝いており、空は青々として雲も少なく、まさにツーリングにはうってつけの気候であった。

 ついこの前までの僕は、バイクに乗る際、ルーナの腰にしがみ付いているのがやっとで、運転なんてとてもできるような状態では無かったのだけど、しかしルーナからの、射撃の時と同じように、鬼のようなバイク教習を受けたことにより、一週間後にはこうして、ツーリングに出れるほどのものになったのだ。

 そう……あれから一週間以上が経った。

 国を捨てたものの、しかし僕達には、次に向かうべき場所というところがどこにも無かった。

 何の当ても無く、世界を彷徨うという方法もあったにはあったのだが、しかし僕達の活動というのは、今の人々にとってはあまり好まれるようなものでは無いため、もし世界を歩いたとしても、日陰をコソコソと歩くような、そんなストレスマッハな旅路を辿ることになるため、それは断念した。(特にルーナが嫌がっていた)

 だから今僕達は、僕達が次へ向かうべき場所を見つけるための、情報を集めている。

 情報を収集するなら、大都市であるマグナブラは欠かせないのだが、しかし僕はあの国で今、やってもいない王殺しの罪で、絶賛指名手配を受けている最中だ。

 そのため、あっちにはマジスターとルーナが行っており、僕は荒野に点々と僅かに存在する休憩所やバイクや車の燃料を補給する、エネルギースタンドを回って、情報を細々と集めていた。

「キッキッ! 良い天気だなぁ~」

 そんな呑気なことを言って、のんびり悠長に後部座席に座っているのは、かつての魔王ライフ・ゼロだった。

 サイドミラーからちらっと見ると、ライフ・ゼロはぶかぶかのヘルメットの後頭部に両手を組んで、メットからはみ出た、限りなく白に近い紫色の髪は、風に靡いていた。

「お気楽なこと言ってんな……はぁ……また何も収穫無しだよ。またルーナに何してたんだって、チクチク文句言われちゃうよ……」

「キッキッ、うぬは相変わらず、ルーナの尻に敷かれとるな」

「尻にってどういうことだよ……マジスターもだいぶ前に、そんなこと僕に言ってきたけど」

「ようは言われるがままにされておる、ということだ。うぬはルーナの理不尽な言い分にも、黙って頭を縦に振っておるからな」

「ああ、そういうことか……いや、僕だって反抗したい時はあるんだよ? だけどさぁ、抗っても抗っても、あっちが折れないんだよ。だから先に僕が疲れちゃって……それが分かってるから、最近はもう最初からイエスマンになってるんだよ」

「キッキッキッ、奴隷根性丸出しだのう!」

「うるさいなぁ……」

 キッキキッキと爽快に笑うライフ・ゼロ。

 まったく……せっかく気持ちよく風を切ってバイクで走っていたというのに、台無しだよ……。

 しばらく気を落としながら走っていると、荒野の真ん中にひっそりと建っている、ゾフィさんの経営する宿が見えてきて、僕の両肩は更に重くなってしまう。

 これで何かしらの収穫があれば、意気揚々、鼻高々と二人の前に姿を現せれるものの、毎回のように僕は一文無しで戻ってしまうので、もう帰るのも気まずいんだよなぁ……。

 家出する子供の気持ちが分かるよ。

「あっ……!」

 宿の端にある、いつもバイクを駐車しておく場所。そこにルーナが立っているのを、僕は目視で確認した。

 しかも両腕を組んで、見事な仁王立ちで、僕のバイクのエンジン音を聞きつけたのか、ずっとこっちの方を向いてくる。

 完全にターゲットは、僕だった。

「最悪だ……」

「キッキッ……これはもう、腹をくくるしかないな」

「……僕の灰は、埋めずに海に撒いてくれ」

「そんな面倒なことは、我はせん」

「チェッ……冷たいやつ」

 そんな冗談を言いつつ、それでもルーナのお小言を聞く覚悟をキッチリとつけ、僕はバイクの停車位置にしっかりと停車させた。

 すると先程から僕の動向を窺っていたルーナが、バイクが停車するのを確認すると、ずかずかとこちらに向かって歩み寄ってきた。

 ああ……今回は一体、どんなお小言を言われ続けるのか……。

「あ……あはは……ルーナただいま」

 僕はヘルメットを脱ぎ、目一杯の苦笑いでルーナに挨拶する。

「……アンタ、上手くなったわね」

「へっ?」

 ルーナは無愛想な表情でありながら、第一声がそれだったので、僕は呆気にとられてしまった。

「だから、バイクの運転が上手くなったわねって言ってるのよ」

「あ……ああっ! まっ、まあね! あれだけ特訓したんだし、これもルーナのお蔭だよ! あっはっはっ!」

「……わざとらしいわね」

 ルーナは眉をしかめて、それから溜息を一つ吐いた。

「まあいいわ。それより早く部屋に行くわよ。重要な話があるわ」

「重要な話?」

「ええ、わたし達の次に向かう場所が見つかったかもしれないわ」

「そうか……よし! 分かった!」

 どうやら僕は坊主だったが、ルーナ達の方はとんでもない大物を釣り上げたようだな。

 この一週間、まともに活動という活動を起こすことはできなかったが、ついに解禁される時が来たのか。

「そういえば、そっちはどうだった?」

「へっ?」

「情報。そっちはどうだった?」

「えっ……あ~……」

 クソッ! このまま僕の報告はしれっとやり過ごそうと、そんな完璧な流れを作ろうとしたのに……。

 ルーナはいつも僕の悪巧みに自然と気づくから、騙すことはおろか、誤魔化すこともまともにできない。

「ゴメン……僕の方は特に何も無かった」

 だから僕は下手な嘘を吐くという選択肢を取らずに、素直にルーナに打ち明けた。

 どうせ嘘を吐いたところで、すぐばれちゃうのが落ちだし、そうなると無駄にルーナの怒りを買うことなるということは、いくら僕でも学習済みだ。

「また坊主だったってわけね、まったく……でもまあ、今回はこっちが大漁だから、無駄な情報が入らなくて良かったかもしれないわね」

「そ……そうかもしれないな! 不純物が入り混じらなくてよかったよかった!」

「だ・け・ど! たった一つたりとも情報を持ち帰れないようじゃ、諜報能力があるとは到底言えないわね! 確かにわたしより、アンタの方が条件が不利なのは分かってるけど、でもわたしだってレジスタンスにいた頃、マグナブラに行かずとも他の場所から、情報の一つや二つ持ち帰ってたわよ?」

 あーあ始まっちゃったよ……ルーナのお小言が。

 僕は教えられるのはいいんだけど、こういう説教染みたのは嫌いなんだよなぁ、昔から。

 射撃訓練といい、バイクの乗車訓練といい、ルーナはすっかり僕の教官だからな。そういう訓練が始まって以来、ルーナは僕に説教をすることが、日に日に増してきたような気がする。

 あっでも、僕のことを叱るのは、その前から変わっちゃいないような気もするけど……。
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