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THE GROUND ZERO Chapter1
第4章 忍び寄る魔の手【6】
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マジスターは更に鞄からテープを取り出し、発火装置を取り付けた粘土、もといコンポジション爆薬を扉に固定する。
「よし! コヨミ、目一杯距離を取れ。コイツは本当に見た目によらず、凄まじい威力を持っているからな」
「……オッケー」
僕はまだこの時、あの粘土がそれほど破壊力のある爆弾だと半信半疑の状態だったので、あれのことを心の奥底では見くびっていた。
しかしその見くびりは、次の瞬間改められることとなる。
「よし、これだけ離れれば大丈夫だろう! それじゃあ起爆するぞ……スリー、ツー、ワン!」
合図と共に、マジスターは起爆装置を作動させる。
すると発火した粘土状のあの爆弾は、扉を吹き飛ばし、その場の地面、周囲の壁と、辺り一帯の物という物を全て一瞬で吹き飛ばしてしまった。
「す……すごい……」
僕はその破壊力に、目の前で起こった光景に、呆然としていた。
「おいコヨミ、なにボケっとしとる! 今が攻め時だ行くぞ!」
「えっ! あっ、うん」
目の前がまだ、黒煙に包まれ、所々燃えている中、マジスターは先程兵士から奪ったライフルを構え、前へと進んでいく。
僕も我に返り、相手からの攻撃に備えて、ガントレットの中の魔石の欠片を土属性から水属性の欠片へと変更し、黒煙の中へと踏み込んでいく。
「ふむ……撃ってこないな……」
兵士棟の外に出た僕達は、周囲を見回す。
人がいる気配が全くしない……どこかに潜んでいるのか、それとも、そもそも伏兵などいなかったのだろうか。
「どうやらわしの思い違いだったか……しかし敵がいないのはこちらとて好都合。コヨミ、城の外まで急ぐぞ!」
「ああ、言われなくても分かってるよ」
とはいってもやはり、どこに敵が潜伏しているか分からない状況。
僕達は警戒を怠ること無く、城門を越え、どうにか無事、城の外へと出ることができた。
しかしここまで無事だったというのが、むしろ僕には引っかかり、まだ何かあるのではないのかと、つい疑ってしまうのだが、しかし追手のようなものはまったく来ず、罠のようなものも無く、無事脱出用のバギーの元へと辿り着いた。
「ふむ……どうやら逃げ切れたようだが、相手はセブルスだからな……まだ油断はできんか」
「…………」
「どうしたコヨミ? そんなしかめっ面をして?」
「いや……こんなに少ない人数でクーデターを成功させたのかって思うと、この国ももう、終わるべくして終わってしまったのかなって思って……」
「むう……ギルワード王の権威はもはや失墜し、この国を裏から動かしていたのは、練魔大臣のグリードだったからな。セブルスは早くからグリード側に身を寄せていたし、増税に次ぐ増税で王は国民からの支持も、もはや皆無となっていたからな」
「つまりギルワード王は、裸の王様だったってわけか……」
「うむ……こう言うのもなんだが、いつクーデターが起きても仕方が無かったという状況ではあったわけだな」
そう言ってマジスターはバギーに乗り込み、持っていたキーを差し込んでからエンジンを起動させる。
「乗れコヨミ、お前とてもう、この国に、兵団に未練はないだろう」
「無い……わけじゃない」
「わけじゃない? ……もしかして朝の訓練の時、お前の隣にいた眼鏡の青年が気になるのか?」
「……まあ、まったく気にならないわけではないけれど」
僕が落ちぶれてから、唯一ずっと一緒に居た後輩だから、気には掛けているけれど……それに僕よりもしっかりしているとはいえ、あいつはまだまだ新米同様。
そんなあいつが、今後訪れるであろう混沌としている世界で、一体絶望せずに生きていけるのか……その心配こそが、僕にとってたった一つの、この兵団に残した未練ではあった。
「カッカッ……心配いらんよコヨミ。あの少年の訓練を見ていたが、基本はしっかりしておったし、なによりも他の兵士達とは訓練への取り組む姿勢が違った。じきに強い兵士になって、もしかしたらわしらの前に立ちはだかるやもしれん」
「……僕は別に、まだレジスタンスに加入するなんて一言も言ってないけど?」
「う……むむむ……」
「でもまあ……色んな兵士を見てきたあんたが言うんだったら、そうなのかもしれないな」
そうだな……僕が考えていても仕方がない。
この先はもう、僕が決めることじゃない。あいつがひとりでに自分の進むべき道を見つけて、それを信じて進むしかないのだから。
だから僕も進むしかない……今は生き延びるために。
「さあコヨミ行くぞ! 乗れっ!」
「……ああ」
僕はバギーに乗り込み、城を脱出した。
勇者になる希望を失った時から、いつかはこうやって兵団を追放される日が来るんじゃないかとは思っていたのだが、随分と先延ばしになったものだ。
これでもっと勇者になる希望は薄まったわけだが、もう既に絶望状態にあったその望みは、これ以上薄まることはない。
いや、むしろここまできたらもう、レジスタンスのトップを目指して、世界をぶっ壊してやろうかな!……なんて、そんなことまで思ってしまう始末だ。
レジスタンスの本拠地にこのバギーは向かっているのだろうけれど、そこが一体どこなのか僕には分からない。
一体この先、僕は何をしたらいいのか、それが分からない。
分からない、知らない、どうしようもない……そんなことだらけのまま、僕はバギーに揺られて、暗黒の闇夜に覆われたマグナブラを去って行ったのだった。
「よし! コヨミ、目一杯距離を取れ。コイツは本当に見た目によらず、凄まじい威力を持っているからな」
「……オッケー」
僕はまだこの時、あの粘土がそれほど破壊力のある爆弾だと半信半疑の状態だったので、あれのことを心の奥底では見くびっていた。
しかしその見くびりは、次の瞬間改められることとなる。
「よし、これだけ離れれば大丈夫だろう! それじゃあ起爆するぞ……スリー、ツー、ワン!」
合図と共に、マジスターは起爆装置を作動させる。
すると発火した粘土状のあの爆弾は、扉を吹き飛ばし、その場の地面、周囲の壁と、辺り一帯の物という物を全て一瞬で吹き飛ばしてしまった。
「す……すごい……」
僕はその破壊力に、目の前で起こった光景に、呆然としていた。
「おいコヨミ、なにボケっとしとる! 今が攻め時だ行くぞ!」
「えっ! あっ、うん」
目の前がまだ、黒煙に包まれ、所々燃えている中、マジスターは先程兵士から奪ったライフルを構え、前へと進んでいく。
僕も我に返り、相手からの攻撃に備えて、ガントレットの中の魔石の欠片を土属性から水属性の欠片へと変更し、黒煙の中へと踏み込んでいく。
「ふむ……撃ってこないな……」
兵士棟の外に出た僕達は、周囲を見回す。
人がいる気配が全くしない……どこかに潜んでいるのか、それとも、そもそも伏兵などいなかったのだろうか。
「どうやらわしの思い違いだったか……しかし敵がいないのはこちらとて好都合。コヨミ、城の外まで急ぐぞ!」
「ああ、言われなくても分かってるよ」
とはいってもやはり、どこに敵が潜伏しているか分からない状況。
僕達は警戒を怠ること無く、城門を越え、どうにか無事、城の外へと出ることができた。
しかしここまで無事だったというのが、むしろ僕には引っかかり、まだ何かあるのではないのかと、つい疑ってしまうのだが、しかし追手のようなものはまったく来ず、罠のようなものも無く、無事脱出用のバギーの元へと辿り着いた。
「ふむ……どうやら逃げ切れたようだが、相手はセブルスだからな……まだ油断はできんか」
「…………」
「どうしたコヨミ? そんなしかめっ面をして?」
「いや……こんなに少ない人数でクーデターを成功させたのかって思うと、この国ももう、終わるべくして終わってしまったのかなって思って……」
「むう……ギルワード王の権威はもはや失墜し、この国を裏から動かしていたのは、練魔大臣のグリードだったからな。セブルスは早くからグリード側に身を寄せていたし、増税に次ぐ増税で王は国民からの支持も、もはや皆無となっていたからな」
「つまりギルワード王は、裸の王様だったってわけか……」
「うむ……こう言うのもなんだが、いつクーデターが起きても仕方が無かったという状況ではあったわけだな」
そう言ってマジスターはバギーに乗り込み、持っていたキーを差し込んでからエンジンを起動させる。
「乗れコヨミ、お前とてもう、この国に、兵団に未練はないだろう」
「無い……わけじゃない」
「わけじゃない? ……もしかして朝の訓練の時、お前の隣にいた眼鏡の青年が気になるのか?」
「……まあ、まったく気にならないわけではないけれど」
僕が落ちぶれてから、唯一ずっと一緒に居た後輩だから、気には掛けているけれど……それに僕よりもしっかりしているとはいえ、あいつはまだまだ新米同様。
そんなあいつが、今後訪れるであろう混沌としている世界で、一体絶望せずに生きていけるのか……その心配こそが、僕にとってたった一つの、この兵団に残した未練ではあった。
「カッカッ……心配いらんよコヨミ。あの少年の訓練を見ていたが、基本はしっかりしておったし、なによりも他の兵士達とは訓練への取り組む姿勢が違った。じきに強い兵士になって、もしかしたらわしらの前に立ちはだかるやもしれん」
「……僕は別に、まだレジスタンスに加入するなんて一言も言ってないけど?」
「う……むむむ……」
「でもまあ……色んな兵士を見てきたあんたが言うんだったら、そうなのかもしれないな」
そうだな……僕が考えていても仕方がない。
この先はもう、僕が決めることじゃない。あいつがひとりでに自分の進むべき道を見つけて、それを信じて進むしかないのだから。
だから僕も進むしかない……今は生き延びるために。
「さあコヨミ行くぞ! 乗れっ!」
「……ああ」
僕はバギーに乗り込み、城を脱出した。
勇者になる希望を失った時から、いつかはこうやって兵団を追放される日が来るんじゃないかとは思っていたのだが、随分と先延ばしになったものだ。
これでもっと勇者になる希望は薄まったわけだが、もう既に絶望状態にあったその望みは、これ以上薄まることはない。
いや、むしろここまできたらもう、レジスタンスのトップを目指して、世界をぶっ壊してやろうかな!……なんて、そんなことまで思ってしまう始末だ。
レジスタンスの本拠地にこのバギーは向かっているのだろうけれど、そこが一体どこなのか僕には分からない。
一体この先、僕は何をしたらいいのか、それが分からない。
分からない、知らない、どうしようもない……そんなことだらけのまま、僕はバギーに揺られて、暗黒の闇夜に覆われたマグナブラを去って行ったのだった。
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