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BACK TO THE OCEAN Chapter3
第21章 大海賊の娘【2】
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「それでロベルトさん、どの葉巻タバコが彼女は好みなんですか?」
ひとまとめにシガーと言っても、さすがは煙草の専門店だけあって、シガーだけでも数多の種類が揃っている。
それにこういう嗜好品は人によって好みやこだわりがあるため、慎重に選ばねば返ってプレゼントをしても、嫌がられるだけだからな。
プレゼント選びはセンスうんぬんよりも、情報戦だと僕は思っている。
だからこの中で唯一、テティ・ロジャースと面識があるロベルトに、ここは頼るのが得策だと僕は踏んだのだ。
「ふむ……確かテティさんは、クバナ産のシガーを好んで吸っていたと聞いたことがありますね」
「クバナ……ああ! マグナブラに居た頃、僕そこで作られたラム酒をよく飲んでたよ! 確かカリオプソ海に浮かぶ島国じゃなかったっけ?」
「よくご存じで。あの海に居た海賊はカリオプソの海賊と呼ばれ、その名を聞いただけで周りからは恐れられるほどの、そんな強者が多く居たものです。わたし達もあそこの海賊を丸め込むのには時間が掛かりましたね……とは言っても、今となってはもう、あの騒がしい日々が嘘であるかのように、とても穏やかな海になったと聞きますけどね……」
ロベルトは昔の日々を思い出し、懐かしみながらそんなことを言ってみせる。
まあ今の御時世、海賊なんていうものが居ること自体、珍しいことだからな。
それに今の海賊は、団体を結成して暴れ回るような輩ではなく、自分達が生きるために貿易船なんかを襲う、ただの盗人のような連中らしいからな。
もう彼の知っている海賊は、この世には居ないのだろう。
海賊の時代は、海賊狩りを境にもう、終わったのだから。
「おっ、これじゃないか? クバナのシガーは」
僕がロベルトの話を聞いている間に、マジスターは店にある無数の棚から、クバナ産のシガーを探してくれていたようで、彼が今、それを見つけ出してくれたようだ。
マジスターが手に取っていたのは、見ただけで高級そうだと分かる箱に入っているシガーであり、産地を確認してみると、確かにクバナ産と表記してあった。
「これはどうなんだロベルトさん?」
マジスターがその箱をロベルトに見せると、しかし彼は首を横に振った。
「いえそれではなく、そうですね……こっちの方がいいかと」
そう言って、ロベルトがマジスターの前にある棚から手にしたのは、マジスターの持っているものとは対照的な、普通の安い箱に入ったシガーだった。
「む? 贈り物なのにプレミアムシガーではなく、ドライシガーでいいのか?」
「ええ、大丈夫です」
ロベルトは表情には表さないが、自信満々にそう答える。
単に値段を見てみると、マジスターの持っているプレミアムシガーという物の方が、ロベルトの勧めるドライシガーより二倍近く高く、それだけで考えればプレミアムシガーの方が僕も良いと思うのだが、しかしそもそも……。
「あのさマジスター……そのプレミアムシガーとドライシガーってどんな違いがあるんだ?」
そう、もとより僕は喫煙をしないので、その二種類の違いについてよく知らなかった。
まあ、マジスターもタバコは吸っていないのだが、しかし知識はあるようなので、僕はいつも通り、彼に問い掛けた。
「うむ……ショートフィラーかロングフィラーかの違いとか、そういう様々な違いが細々とあるのだが、やはり一番分かりやすいところで言うと、ハンドメイドかマシンメイドかの違いだろうな。プレミアムは完全ハンドメイドでならなければいけないのに対して、ドライは機械で大量生産することができるんだ」
「なるほど」
「あとはやはり中身も違ってな。プレミアムは百パーセント純粋なタバコ葉でなければならないのに対して、ドライにはタバコ葉の他に、人口のシート葉が混ざっている物もあったりする」
「つまり製法と中身が違うから、これだけの値段の差が出るってことだな?」
「まあ、そういうことだな」
「でもそれだったら、マジスターの言う通りプレミアムの方が贈り物としては良さそうな気がするけど……」
しかしロベルトが勧めるのは、ドライシガー。
そのわけとは一体……。
「ええ、お二人がおっしゃるように、確かにプレミアムの方が贈り物としては通常、適切なのでしょう。しかしプレミアムは保管をする際、湿度や温度を十分に配慮しなければすぐに品質が低下してしまうんです。その点ドライは、多少の環境変化では劣化することはありません。ですので、環境変化の激しい船の上でシガーを吸う際は、よくこっちを重宝するんです。彼女もそれに則って、よく船上ではドライを吸っていました」
「ほほう」
「このドライシガーを吸えば、きっと彼女は船上に居た時の記憶を思い返すでしょう。だからこそここはあえて、ドライを贈るべきなんです」
「なるほど……そういうことか」
ただの贈り物というわけではなく、彼女の中にある、海の上に居た頃の記憶を呼び起こすための、そんな贈り物ということか。
そうと分かれば僕達も他に意見すること無く、ロベルトの選んだクバナ産のドライシガーを購入し、そして店を出た。
「あっ、戻って来た!」
店から出てきた僕達の姿を確認すると、すぐさまルーナは目を輝かせながら、僕の元へと走ってやって来た。
「ねえねえどんな感じだったお店の中?」
「えっ? ああ……」
どんな感じだったって言われてもなぁ……。
「まあ……煙草がいっぱいあった」
「そんなの入らなくても分かるわよ! そうじゃなくてこう、店の雰囲気とかさ」
「う~ん……レトロチックって言えばいいのかな……でも大人な空間って感じはしたよ」
「ふうん……あーあ、やっぱりわたしも入ってみたかったなぁ~」
「来年までの我慢だ」
「ちぇっ……子供扱いして……」
そう言ってルーナはちょっとだけふて腐れてみせる。
でもまあ、ルーナは好きかもしれないな。ああいう雰囲気のあるお店。
僕もああいうレトロな雰囲気のある場所は好きなので、また来れる機会があれば、彼女の成人を祝って来てみたいものだな。
まあその時僕が、この大陸に居るかどうかは分からないけれど……今回の交渉次第ってところにはなるのかな。
そんなわけで、交渉材料となる手土産も確保したところで、僕達は再びバイクに乗車し、そして目的地であるイニツィア岬の灯台に向けて、一斉に走り出した。
イニツィア岬までの距離は百七十八キロメートル。バイクで飛ばしても、約三時間はかかる距離だ。
まあとはいっても、僕達は既にマグナブラ大陸横断という苦行を乗り越えて来ているので、三時間の距離でさえも『たった』と思えてしまうのは、果たして感覚がずれてしまっているのか……。
まあ……その良し悪しに関してはとりあえずいいとして、風景に関してだが、最初はアクトポートの都市を走っていたのだが、このアクトポートの創設者、ネプクルス・ロジャースの名が着いた橋、ロジャースブリッジを超えた先にはのどかな田舎町が広がっており、更に距離を進めていく内に、周囲の建物の数は段々減っていき、いつの間にか道路は、舗装された黒いアスファルトから、茶色い地面が剥き出しになっている道になっていた。
イニツィア岬へ辿り着く頃には、日はすっかり沈んでしまっており、真っ暗な闇の中をライトを点灯しながら走って行くと、今まで建物が皆無だった岬の最先端に、一つだけポツンと残されたように建っている大きな灯台が見えてきた。
あれがロベルトの言っていたイニツィア灯台。アクトポートを出入りする、全ての船達の水先案内を行う、無くてはならない灯台。
そしてそこは今、大海賊の一人娘テティ・ロジャースの灯台守としての職場であり、そして住処にもなっているとか。
まあだから、あの灯台は今や女の子の家ということでもあり、これから僕達は女の子の部屋を訪問することになるのだが……なんだろう……ドキドキ感が全く無い。
女の子の家っていっても、所詮は灯台だからな。こういうのはやっぱり、形が大事なんだなぁ……と、そんなくだらないことを考えながら、僕は建物の近くにバイクを停車させた。
ひとまとめにシガーと言っても、さすがは煙草の専門店だけあって、シガーだけでも数多の種類が揃っている。
それにこういう嗜好品は人によって好みやこだわりがあるため、慎重に選ばねば返ってプレゼントをしても、嫌がられるだけだからな。
プレゼント選びはセンスうんぬんよりも、情報戦だと僕は思っている。
だからこの中で唯一、テティ・ロジャースと面識があるロベルトに、ここは頼るのが得策だと僕は踏んだのだ。
「ふむ……確かテティさんは、クバナ産のシガーを好んで吸っていたと聞いたことがありますね」
「クバナ……ああ! マグナブラに居た頃、僕そこで作られたラム酒をよく飲んでたよ! 確かカリオプソ海に浮かぶ島国じゃなかったっけ?」
「よくご存じで。あの海に居た海賊はカリオプソの海賊と呼ばれ、その名を聞いただけで周りからは恐れられるほどの、そんな強者が多く居たものです。わたし達もあそこの海賊を丸め込むのには時間が掛かりましたね……とは言っても、今となってはもう、あの騒がしい日々が嘘であるかのように、とても穏やかな海になったと聞きますけどね……」
ロベルトは昔の日々を思い出し、懐かしみながらそんなことを言ってみせる。
まあ今の御時世、海賊なんていうものが居ること自体、珍しいことだからな。
それに今の海賊は、団体を結成して暴れ回るような輩ではなく、自分達が生きるために貿易船なんかを襲う、ただの盗人のような連中らしいからな。
もう彼の知っている海賊は、この世には居ないのだろう。
海賊の時代は、海賊狩りを境にもう、終わったのだから。
「おっ、これじゃないか? クバナのシガーは」
僕がロベルトの話を聞いている間に、マジスターは店にある無数の棚から、クバナ産のシガーを探してくれていたようで、彼が今、それを見つけ出してくれたようだ。
マジスターが手に取っていたのは、見ただけで高級そうだと分かる箱に入っているシガーであり、産地を確認してみると、確かにクバナ産と表記してあった。
「これはどうなんだロベルトさん?」
マジスターがその箱をロベルトに見せると、しかし彼は首を横に振った。
「いえそれではなく、そうですね……こっちの方がいいかと」
そう言って、ロベルトがマジスターの前にある棚から手にしたのは、マジスターの持っているものとは対照的な、普通の安い箱に入ったシガーだった。
「む? 贈り物なのにプレミアムシガーではなく、ドライシガーでいいのか?」
「ええ、大丈夫です」
ロベルトは表情には表さないが、自信満々にそう答える。
単に値段を見てみると、マジスターの持っているプレミアムシガーという物の方が、ロベルトの勧めるドライシガーより二倍近く高く、それだけで考えればプレミアムシガーの方が僕も良いと思うのだが、しかしそもそも……。
「あのさマジスター……そのプレミアムシガーとドライシガーってどんな違いがあるんだ?」
そう、もとより僕は喫煙をしないので、その二種類の違いについてよく知らなかった。
まあ、マジスターもタバコは吸っていないのだが、しかし知識はあるようなので、僕はいつも通り、彼に問い掛けた。
「うむ……ショートフィラーかロングフィラーかの違いとか、そういう様々な違いが細々とあるのだが、やはり一番分かりやすいところで言うと、ハンドメイドかマシンメイドかの違いだろうな。プレミアムは完全ハンドメイドでならなければいけないのに対して、ドライは機械で大量生産することができるんだ」
「なるほど」
「あとはやはり中身も違ってな。プレミアムは百パーセント純粋なタバコ葉でなければならないのに対して、ドライにはタバコ葉の他に、人口のシート葉が混ざっている物もあったりする」
「つまり製法と中身が違うから、これだけの値段の差が出るってことだな?」
「まあ、そういうことだな」
「でもそれだったら、マジスターの言う通りプレミアムの方が贈り物としては良さそうな気がするけど……」
しかしロベルトが勧めるのは、ドライシガー。
そのわけとは一体……。
「ええ、お二人がおっしゃるように、確かにプレミアムの方が贈り物としては通常、適切なのでしょう。しかしプレミアムは保管をする際、湿度や温度を十分に配慮しなければすぐに品質が低下してしまうんです。その点ドライは、多少の環境変化では劣化することはありません。ですので、環境変化の激しい船の上でシガーを吸う際は、よくこっちを重宝するんです。彼女もそれに則って、よく船上ではドライを吸っていました」
「ほほう」
「このドライシガーを吸えば、きっと彼女は船上に居た時の記憶を思い返すでしょう。だからこそここはあえて、ドライを贈るべきなんです」
「なるほど……そういうことか」
ただの贈り物というわけではなく、彼女の中にある、海の上に居た頃の記憶を呼び起こすための、そんな贈り物ということか。
そうと分かれば僕達も他に意見すること無く、ロベルトの選んだクバナ産のドライシガーを購入し、そして店を出た。
「あっ、戻って来た!」
店から出てきた僕達の姿を確認すると、すぐさまルーナは目を輝かせながら、僕の元へと走ってやって来た。
「ねえねえどんな感じだったお店の中?」
「えっ? ああ……」
どんな感じだったって言われてもなぁ……。
「まあ……煙草がいっぱいあった」
「そんなの入らなくても分かるわよ! そうじゃなくてこう、店の雰囲気とかさ」
「う~ん……レトロチックって言えばいいのかな……でも大人な空間って感じはしたよ」
「ふうん……あーあ、やっぱりわたしも入ってみたかったなぁ~」
「来年までの我慢だ」
「ちぇっ……子供扱いして……」
そう言ってルーナはちょっとだけふて腐れてみせる。
でもまあ、ルーナは好きかもしれないな。ああいう雰囲気のあるお店。
僕もああいうレトロな雰囲気のある場所は好きなので、また来れる機会があれば、彼女の成人を祝って来てみたいものだな。
まあその時僕が、この大陸に居るかどうかは分からないけれど……今回の交渉次第ってところにはなるのかな。
そんなわけで、交渉材料となる手土産も確保したところで、僕達は再びバイクに乗車し、そして目的地であるイニツィア岬の灯台に向けて、一斉に走り出した。
イニツィア岬までの距離は百七十八キロメートル。バイクで飛ばしても、約三時間はかかる距離だ。
まあとはいっても、僕達は既にマグナブラ大陸横断という苦行を乗り越えて来ているので、三時間の距離でさえも『たった』と思えてしまうのは、果たして感覚がずれてしまっているのか……。
まあ……その良し悪しに関してはとりあえずいいとして、風景に関してだが、最初はアクトポートの都市を走っていたのだが、このアクトポートの創設者、ネプクルス・ロジャースの名が着いた橋、ロジャースブリッジを超えた先にはのどかな田舎町が広がっており、更に距離を進めていく内に、周囲の建物の数は段々減っていき、いつの間にか道路は、舗装された黒いアスファルトから、茶色い地面が剥き出しになっている道になっていた。
イニツィア岬へ辿り着く頃には、日はすっかり沈んでしまっており、真っ暗な闇の中をライトを点灯しながら走って行くと、今まで建物が皆無だった岬の最先端に、一つだけポツンと残されたように建っている大きな灯台が見えてきた。
あれがロベルトの言っていたイニツィア灯台。アクトポートを出入りする、全ての船達の水先案内を行う、無くてはならない灯台。
そしてそこは今、大海賊の一人娘テティ・ロジャースの灯台守としての職場であり、そして住処にもなっているとか。
まあだから、あの灯台は今や女の子の家ということでもあり、これから僕達は女の子の部屋を訪問することになるのだが……なんだろう……ドキドキ感が全く無い。
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