これを恋とは呼ばないで

フニ

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7月は気まぐれ

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高校3年の夏。
部活も引退し、大学受験のシーズン。
教師や生徒たちが忙しそうに騒ぐ学校の教室に、私はいた。
蝉の声と唸るような暑さの中、行き交う言葉はどこの教室も卒業した後の話でもちきりだった。
私は、高校を卒業したら、地元の小さな企業にでも就職するのだろうな。
隣で面接練習をする友人の舞(まい)を横目に、私は、4時限目のプールですっかり眠くなった身体をゆっくりと起こしながら、そんなことを考えていた。

明日から高校最後の夏休みが始まる。
一年前までは、この蒸し暑い中、テニスボールを追いかけながら身体を動かしていたことが嘘のようだ。
あの頃はコンプレックスだったこんがりと焼けた肌は、今はもうすっかり真っ白くなっている。
外から聞こえてくるボールの音に、時がたつのは早いものだなと少し笑えてきた。

「誉(ほまれ)?どうしたの?」

さっきまで呪文を唱えるかのごとく面接練習をしていた舞が、驚いたようにこちらを見る。

「いきなり笑い出すって割とこわいよ?」

「ごめん、なんかわたし年寄りみたいだなあと思って。」

ふふふっと笑う私に、怪訝な表情を見せる舞は、頭の上にクエスチョンマークを出しながら、よくわからないと呟いた。


「舞は夏休み、何をするの?」

「私?うーん、私はおばあちゃん家行くくらいしか予定ないかも。」

「だよね、私も。」

学生最後の夏休みだからといってハメを外して何処かに遠出したり、ましてや遊ぶ予定をたてたりも全くない。
お盆には祖母の家行って少しのお小遣いを貰う。それくらい。
特別なことなど何もない。

私の周りには暇な友人もいなければ、一緒に時間を共有するような恋人もいない。
皆、夏は忙しいのだ。
舞だって、昔から夢だった”両親のような自衛官になる”という夢を叶えるため、毎日のように勉強や面接練習、筋トレを頑張っている。

私としても、夏だからといって特別に何かをしたいわけではない。
ーーー”日々に何も求めない”。
これが私の長年のポリシーなのだ。

「はあ、夏だねえ。」

「暑いね。」

日常は平和だ。
高校生の私にとっては、それが気楽だ。
私の中の物語は何も”始まらない”。
”始める”ことは億劫だ。
成すようになれ。
成らぬなら放っておけ。

「折角の夏なんだから、恋愛の一つでもしたいところだねえ。」

「はははっ。」

まさか、私が恋愛?それは面白い冗談ね。
そんなことを考えながら、心地良い風とさらに重くなる瞼に負けて、昼休み終了のチャイムの音を聞きながら、私は冷たい机に頬を寄せた。

暗闇に包まれる私の耳には、生徒たちが立ち上がる椅子の音も、授業始めの号令係の声も、もう聞こえはしなかった。


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