スーサイドアップガール

釧路太郎

文字の大きさ
上 下
42 / 53
葵咲良編

金髪と会長と美少女 第7話(全7話)

しおりを挟む
「そう言えば、会長さんは美波ちゃんとどうなりたいんですか?」

「バカ、この金髪。齋藤の前でそんなこと言ったらまずいっしょ」

「あ、葵先輩が美波の事好きだろうってみんな知ってますよ」

「そうね、それを気付いていないのって咲良と鈴木さんくらいだと思うわよ」

葵さんは頬を膨らませて怒っているようだった。

西野さんと齋藤さんを睨んだ後に、僕もなぜか睨まれていたが、ソフィアさんの方に怒っている顔を向けることはなかった。

「葵先輩って美波の事を中学んの時から知ってましたよね?でも、なんで私達が高校に入るまでそんなそぶり見せなかったんですか?」

「いやいや、そんなの言うわけないっしょや」

怒っていた葵さんは照れてしまっているようで、今は俯いてしまっている。

「そうね、私も咲良が鈴木さんの事が好きだって知ってはいたけれど、そのきっかけが何なのかは知らないわね」

「えっと、本当に些細なことで気になっちゃったんだよね。中学の時からちょくちょく陸上の応援に来ていたのは知っていたんだけど、その時と高校に入ってからの鈴木さんは別人かと思うくらい綺麗になってたべさ」

「美波ちゃんってスタイル良いし、高校に入ってから髪型変えて大人っぽくなったもんね。会長さんもそんなところに惚れたんですか?」

「ばか、そんなこと言うなって。確かに、中学の時と髪型が変わって大人っぽくなってたけれど、それだけじゃないっしょ。新入生代表と在校生代表で一緒に並んだ時に、今まで嗅いだことのない良い匂いがしたんだべさ」

「良い匂いってそれだけで惚れちゃうのわかるかも。それに、美波って見た目も性格も良いから葵先輩の隣にいても違和感ないですよね。葵先輩と西野先輩と美波が並んで歩いていても、違和感とかなさそう」

「齋藤も金髪ちゃんがいても違和感はないと思うっしょ。でも、そこに先生がいたら違和感ありありだべさ」

「マサ君先生と一緒にみんなで遊んだら結構ヤバめかもね」

僕はおそらくこの子達とどこかに遊びに行ったりはしないと思うけれど、アリスとは最近でも何度か遊んだりしているので、もしかしたらその可能性があるのかもしれない。

「でも、金髪ちゃんも甘くて良い匂いしてるっしょや。普段から甘いものばっかり食べてたりして」

葵さんがそう言いながら笑っていると、ソフィアさんは褒められているのか貶されているのかわからなくて困っている表情だった。

外を見るとまだまだ雨は弱くなる気配を見せてはいなかった。

いつの間にか風が出てきたのか、窓に当たる雨粒の数が増えていた。

「ところで、私は鈴木さんに何て言えばいいとおもうかな?仲の良い二人なら何とかわかるんでないべか?」

「そうですね、美波ちゃんにはハッキリと伝えるのは良くないかもしれないです。友達としての好きなら大丈夫だと思いますよ」

「それはどうしてそう思うのかな?」

「前に美波ちゃんが言っていたんですけど、大学を卒業して生活に慣れてくるまでは恋人とか必要ないって言ってたよね?」

「うん、私もソフィーと同じことを聞いているので、恋人同士ってのは難しすぎると思いますよ」

「それなら今まで通りか少しだけ距離を詰めてみるか悩むね」

どうにかして僕の関わる人たちが幸せになってほしいのだけれど、物理的にも精神的にもそれは難しそうだった。

葵さんと鈴木さんが並んで歩いている場面を想像してみると、なかなか絵になっているカップルにも見えていた。

葵さんが幸せになったからと言って鈴木さんは幸せになれるかわからない。

それでも、鈴木さんは葵さんと仲良くなっても二人だけでどこかに出かけたりはしなさそうだった。

「じゃあ、鈴木さんに告白はしないんだけれど、今よりも仲良くなるためには何かした方がいいべか?」

「美波ちゃんのタイミングもあるだろうし、会長さんの気持ちもありますもんね」

「そうだ、ハッキリとではなくそれとなく伝えるって言うのはどうでしょう?」

「そんなことは毎日してるのよ。咲良って恥ずかしがり屋なところもあるんだけれど、恥ずかしがり屋が嘘だろうって勢いで、鈴木さんの事を褒めちぎっているわ」

そう言えば、生徒会役員のあいさつ回りの時にも、葵さんは鈴木さんのどこかを必ず褒めていたような気がしていた。

他にも新しく生徒会に入った生徒もいたのだけれど、鈴木さんの近くにいつも葵さんがいたような気がする。

鈴木さんは見た目だけではなく雑務なども見事にこなしていて、今のように会長と副会長が生徒会室に居なくても仕事が滞る事はないようだ。

「今は生徒会室に葵先輩も西野先輩もいないけど、他の人達に任せっきりで大丈夫なんですか?」

「それは大丈夫でしょ。私が色々やった事を纏めてもらうだけだからね」

「それが一番大変なんじゃないのよ。咲良って何でも出来る方だけど、何でも出来すぎちゃうから、どこから手を出せばいいか迷っちゃうわよ」

「そんなこと言われたって、目の前で問題が起きていたらどうにかしたくなるっしょや。そりゃ、みんなが楽出来たらいいとは思うけれど、私達は他のみんなのために何かできるんだから、何かしなくちゃいけないっしょや」

「そうなんだけれど、咲良は出来ることをやるだけで、報告書にまとめたりするのは苦手なのよね。そんなので大学受験は大丈夫なの?」

「うう、そこを出されると何も言い返せないけど、何とかなるっしょや。ダメでもなんとかするって」

「もう、そろそろ次の生徒会長を決める時期なのに、このままじゃ引き継ぎも出来ないじゃない」

「次の生徒会長って今の生徒会役員の中から決めるんですか?」

「そんなことは無いわよ。生徒会長選挙はこの学校の生徒なら誰でも立候補できるんだし、金髪ちゃんだって候補の一人よ」

ソフィアさんが生徒会長になったらと考えてみると、きっと今みたいな時間は無くなって僕が自由に出来る時間が増えるんじゃないだろうか。

もしかしたら、今みたいにソフィアさんをサポートする役目が新たに与えられて忙しくなるかもしれないな。

「でも、私の中では葵先輩以外が生徒会長って違和感しかないですけどね。中学の時も高校の時も、葵先輩ってずっと会長でしたもん」

「まあ、そうなんだけど、私だって普通に会長じゃない時期もあったっしょや。齋藤が生徒会長に立候補すればいいっしょや」

「私は陸上で一杯一杯なんで葵先輩みたいにはなれないと思いますよ。勉強だってそんなにできているわけじゃないですからね。美波じゃダメなんですか?」

「鈴木さんは何の問題もなく出来ると思うんだけど、鈴木さんの魅力が今以上に発揮されたらみんな好きになっちゃうべさ。そうなったらライバル増えちゃうっしょや」

鈴木さんならライバルが増えたとしても葵さんとの仲を優先させそうだとは思うんだけど、恋愛よりも友情優先な感じなので、葵さんの熱い思いは届かなそうではある。

その時、勢いよくドアが開かれると、鈴木さんが視聴覚準備室内に入ってきて、葵さんと西野さんの前に仁王立ちしていた。

「会長!!会長がいないと仕事が終わらないんですよ!!副会長もです!!早く戻って仕事を終わらせて帰らせてください」

そう言って鈴木さんは葵さんと西野さんの腕を引っ張っていた。

「ごめんなさいね。ちょっとだけ咲良がみんなに相談あるみたいだから、もう少しだけ許してちょうだい。私は先に戻るからさ、鈴木さんも行きましょう」

怒っている鈴木さんを見るのはずいぶんと久しぶりな気がしていた。

鈴木さんに手を引かれながら生徒会室に向かう西野さんはこちらに向けて軽く手を振っていた。

それを見ていた葵さんは少しだけ嬉しそうな表情をしていたような気がする。

ソフィアさんも齋藤さんも鈴木さんが怒っている姿を見るのは久しぶりだったのだろう、少しだけ驚いているように見えた。

そんな中、葵さんは誰に話すでもなく言葉を発していた。

「あぁ、鈴木さんが困っている姿を見られるのもあと少しだけなのか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...